白玉あんみつと扉間と・・・♪
共に罪を抱える芙蓉と扉間。
ついに二人は・・・
私塾で教師として働く芙蓉は、うちはカガミの語る夢に喜び、扉間もまた里の子供たちの成長に感慨深さを感じます。
そして、ただでは死なない、いや、この物語からは居なくならないマダラ・・・
計画は成功したものの、芙蓉を失いこれからどうするのか?
※ほんのわずかですが、扉間と芙蓉の性描写があります。
「いやぁ~シュールですねぇ。扉間様と白玉あんみつ。ていうか店内、ここだけ空気が違うんですけど?」
「うるさい。お前の分は自分で払わせるぞ!」
「でもまさか予約して下さるなんて・・・ありがとうございます。」
「昨日お前がああ言っていたから、並ぶのは面倒だと思ってな。」
「扉間さまが甘味処の行列に並ぶ・・・プフーッ!めっちゃ面白いんですけどぉ!!ていうかぁ、あれぇ?ここ予約不可な気がしたんだけどなぁー?フフッ。そこまで白玉あんみつ食べたかったんですかぁ?」
「お前、査定下げられたいのか・・・?」
「あーそれ職権乱用っ!!!」
「フフフフ・・・あははははっ!」
二人のやり取りに、芙蓉が声を上げて大笑いした。
それを見て扉間と樹も、思わず互いに顔を見合わせて笑った。
ようやく芙蓉の笑い声が聞けたと、二人は心から安堵した。
マダラが死んでからこの半年余り、芙蓉の笑顔は、やはりどこかいつもぎこちないものだった。
しかし時の流れと穏やかな生活、うちは私塾での教師の仕事が、芙蓉の心の傷をずいぶんと癒しているようだ。
「ごめんなさい・・・二人とも面白くって・・・ウフフッ・・・」
芙蓉は涙が出るほど面白かったようで、指で目を抑える。
「俺は…別に笑わせるつもりなんてない。」
「いやいや、扉間様は素で面白いんですよ。アハハ!」
「コラ!匙を人に向けるな!下品な奴だな。本当にお前、俺のことナメてるだろ⁉」
「樹ちゃん!流石にそれ以上言ったら怒られるよ?ウフフ…」
「もうとっくに怒っとるわっ!」
蝶屋は以前から人気の和菓子舗・甘味処でこの日も賑わっていたが、流石に昨日の今日ではまだ引出物の話題は広がっていないのか、想像よりは混んでいなかった。
蝶屋側は夜遅くに扉間が直々に予約して来たとあり、予約を断るわけにいかず一番奥の目隠しの有る席を用意していた。
それでも店内に扉間が入ってきた時は店中が随分ざわついた。
甘味処とあって女子が多く、黄色い悲鳴も聞こえたほどだった。
今も店中の客が、目隠しから僅かに見える三人の姿に注目している。
「ねぇねぇ、芙蓉。いつものしてよ。」
「え?でも・・・」
芙蓉は扉間の方をちらっと見て戸惑っている。
「いいじゃん別に!誰も、見てないし。ほら扉間さまは、ただの、監視役さんなんだしさっ。気にしない、気にしな~い。」
「?」
「でも・・・うん。じゃあ一回だけだよ。はい・・・あーん・・・」
扉間の隣りに座る芙蓉が、向かいの席に座って口を開けている樹にあんみつを運んだ。
「・・・⁉」
「ふふ~ん。いいでひょぉ?」
芙蓉の手から口に運ばれたあんみつを満足そうに頬張りながら、樹は扉間を見て自慢した。
「お前たち・・・いつもこんなことをしているのか。」
「ほらほら、次は芙蓉の番だよ。あ~んして♪」
「え?あ、はい・・・うん。あ、あーん」
樹は扉間を無視して今度は芙蓉の口にあんみつを運ぶ。
大きく開いた芙蓉の口元があまりにもいやらしく、扉間は目が離せなくなる。
「あ、扉間様にもしてあげましょうか?わ・た・し・が!」
「てめぇ・・・」
「あ、と、扉間さま?えっと、けっこう女の子同士とか、恋人同士でこうやってる人多いんですよ?・・・えっとでも樹ちゃんはいい加減にしてね・・・」
芙蓉が明らかに怒っている扉間をなんとか宥めようとする。
樹は反省する様子などなく、チャクラを荒立ててまで怒る扉間を見てニヤニヤしている。芙蓉の前では扉間が本気で怒れないことを知っている。
それに樹としては、仕方が無い事だとはいえ、扉間が芙蓉と暮らしていることがどうしても許せず、事あるごとに扉間へ嫌がらせをしては発散していた。
・・・樹がライバル…なるほどな・・・
扉間は柱間が以前言っていたことを思い出し、なんとか怒りを鎮める。
ライバルの挑発に乗ってどうする。
「はい。私のサクランボあげますから、機嫌直してください。扉間さま。」
芙蓉が扉間のあんみつの上に自分のあんみつのサクランボを摘んでちょんと置いた。
「あ!ずっるーい!!」
樹は身を乗り出いして反発した。
「樹ちゃんは扉間さまに失礼過ぎ!仲良くして!いい?」
・・・俺は子ども扱いか?・・・
そう思いながらも、嬉しくてつい、あんみつの上に二つ並んだサクランボを見つめた。
・・・あははは・・・うふふふ・・・
この日、ずいぶんと芙蓉は笑っていた。
なんだかんだと楽しい時間が過ぎてゆく。
店を出ようとした時、入り口で扉間が出てくるのを待っていた数人の女子に囲まれた。
「扉間様!ファンなんです!握手して下さい!」「私も!」「私もお願いします!」
キャーキャーと十人ほどの女子たちに囲まれ揉まれて、扉間は握手されたり触られたり、無表情でされるがままだった。
樹と芙蓉はその女子たちをかき分け、店から離れてその様子を見ていた。
「扉間様ってすっごい人気あるんだよねー。信じらんない。どこがいいんだか。しかもさ、柱間様が結婚しちゃったもんだから扉間様に人気が集中してるんだろうね。」
「そうだね…前、女学校の生徒たちはクールなところが良いって言ってたけど…」
「クール?うーんまぁ確かに。でもツッコミ好きの面白系だよね。アハハ!」
◆
夕暮れの柔らかい光に照らされ新緑が輝く木々の下、扉間と芙蓉は家に続く坂道を歩いている。
少し後ろを歩いていた芙蓉が、そっと扉間の隣りに歩み寄る。
「扉間さま、今日はとっても楽しかったです。ご馳走様でした。樹ちゃんが失礼な事ばかり…ごめんなさい。でも査定は下げないであげてくださいね。お願いします。」
「あれは、冗談だ。」
「良かった・・・」
二人はお互いの影を見つめながら黙って歩き続けた。
すると芙蓉が突然口を開いた。
「あの・・・扉間さまは、ご結婚は考えていらっしゃらないんですか?」
扉間は思わず足が止まり、大きく目を見開いて芙蓉の顔を見た。
・・・これは、もしかして、求婚されているのか⁉・・・
ゴクリと唾を飲み込み、返す言葉を探すが、なかなか見つからない。
「扉間さまは以前から女性に大人気ですよね…それなのに、私なんかと一緒に暮らしていたら女性とお付き合いも、結婚も出来ないんじゃないかって…私、申し訳なくて…」
扉間はハァーと大きく息を吐いて、掌で何度も額を拭った。
・・・勘違いだった。良かった、変に返事しなくて・・・
「別に、俺はあいつらに興味ない。結婚も考えてない。お前が申し訳なく思う必要もない。それに、俺が自ら望んでお前の監視役になったんだ…」
「・・・好きな女性は・・・いらっしゃらないんですか?」
「・・・・・・」
扉間は無言で芙蓉に背を向けた。
「ごめんなさい。失礼な事を訊いてしまって!でも、過去に私に対してした事に責任を感じて、義務感で私と一緒に居てくれているのなら、それは貴方の自由を奪っているようで、本当に悲しいから・・・」
「・・・俺のことを、支えるって言ったよな・・・?」
「はい。これからもお支えして行くつもりです。」
「・・・なら、俺がお前に付いてるんじゃなく、ずっとお前が俺の傍に居ろよ・・・」
「私なんかで・・・大丈夫なんですか?」
「お前じゃないと…ダメだ。」
芙蓉は俯いて自分の影を見つめる。
自分にはもう柱間にも扉間にも、それ以外の男には誰からも愛される資格など無いと思っている。
そして何より、マダラ以外を愛する自信も無い。
・・・私はいつの間にか、こんなにも弱くなってる。
ううん。
マダラさまと出逢って強くなった気がしていただけで、
罪を犯した今、元の自分に戻っただけなのかもしれない・・・
そんな自分が扉間の求めに応じて、傍に居てもいいのだろうか。
芙蓉は言葉に詰まり黙り込む。
「やはり、嫌か。」
「・・・自信が、無いのです。」
「解っている。俺のことを愛してくれとは言わない。ただ傍に居てくれるだけで良い。」
そう言って扉間は芙蓉の右手をそっと握った。
芙蓉は一つに繋がった影を見た後、扉間の顔を見上げる。
扉間は真剣な顔で芙蓉の顔を真っすぐ見つめている。
「・・・解りました・・・」
芙蓉は少し悲しそうな顔で微笑んだ。
それを見て扉間は反射的に芙蓉を抱き寄せてしまった。
これ以上望んではならないと解っていても、もう愛する気持ちは止められない。
愛されなくてもいい。
だが、全身全霊で愛させてほしい。
「・・・ありがとう。芙蓉。」
芙蓉の心はマダラへの罪悪感で痛んだが、反面、久しぶりの男からの抱擁に心がほどける感覚になる。
このまま甘えてしまいたい気持になり、戸惑う。
しかしもう、今の芙蓉に自らの強い意志を突き通す強さは無かった。
子供の頃の様に、誰かに求められるがまま動くしかない自分がそこに在るだけだった。
気付けば夕陽の差し込む家の中に居た。扉間の部屋だった。
いつかの記憶と重なる。
これから起こることも、同じだろう。
傍に居るということはどこまでの行為をいうのかを考えるが、今それを考えたところで何になるだろう。
どうしたいかも、どうしたく無いかも分からない。
すべてに自信が無い。
それなら求められるまま、捧げればよいのではないか。
何より、埋まらないの心の穴を、せめて一時的でも構わない…埋めたい。
そんな事を考えているうちに、気づけば扉間の唇が芙蓉の唇を覆っていた。
扉間の唇は芙蓉の唇を確かめるように上唇、下唇と何度も優しく吸い付いてくる。そして芙蓉の腕を掴んでいた手を下ろして芙蓉の腰に回す。
「・・・嫌じゃないか?」
扉間は女にそんなことを確認するのは情けないと思いつつ、自分の願望と芙蓉の心、両方を天秤にかけて量っていた。
「私は・・・更に罪を犯すことになるのでしょうか・・・」
「俺の傍に居ることが罪だっていうなら、それは俺にだって罪があることだ。お前だけが背負う罪じゃない。これからは、お前の罪は俺が背負う。」
そう言って芙蓉を抱きしめた。
「だから・・・お前の暗い眼差しも、苦しい胸の内も、全部俺に見せてくれ・・・」
扉間を見上げる芙蓉の大きな琥珀色の瞳からは、今にも涙が溢れそうである。
黙って瞬きをすると、両目かついに大粒の涙が流れ頬を伝い、芙蓉は静かに扉間から体を離した。
悲しみを湛え、迷いで泳ぐ目は、必死に扉間の瞳を追っている。
何か言いたげに、僅かに唇が震えている。
扉間はその唇に口づけをし、ゆっくりと芙蓉を床に座らせ再び抱き締める。
「お前に出会った時から、ずっとお前のことを愛していた・・・これまで傷つけてばかりで本当に悪かった・・・俺を許してくれ・・・」
その声は僅かに震えていた。
芙蓉はその言葉を聞くと、不意に扉間の背中に手を回して抱きしめた。
扉間の涙は、芙蓉の心の傷口に落ち、沁みて痛んだ。
その痛みは、まるで扉間の痛みが自分の痛みであるかのように錯覚させた。
・・・せめて扉間さまの傷は、癒してあげたい・・・
芙蓉は恐る恐る、扉間の頬を両手で包んだ。
傾いた夕陽が扉間の顔を明るく照らし、普段から赤目がちの瞳が真っ赤に輝いている。
「・・・!」
芙蓉は目を見開き思わず声が出てしまいそうになる。
その扉間の赤い瞳が、マダラの赤い写輪眼と重なり、マダラを見た気がした。
芙蓉は急に眩暈がして、同時に心に迷いが生じる。
焦って扉間の頬から手を離した瞬間、抱きかかえられた。声が出ない。
いま自分を抱きかかえているのは誰なのか。
マダラ?それとも…柱間?誰だか分らなくなる。
寝台に仰向けに横たえられ、自分の身体の上に扉間が現れる。
「・・・扉間・・・さま・・・?」
「・・・なんだ、芙蓉?」
扉間は優しい声で芙蓉に問い返す。
目の前に居るのは間違いなく、扉間だった。
「扉間さま・・・」
「芙蓉・・・」
二人の言葉が重なると同時に唇も重なる。
・・・もう私に失うものなど何も無いじゃないの。
なら、求められるものは全て差し出せばいいだけよ・・・
芙蓉は目を閉じて扉間に身を委ねた。
二人で居たあの海は、今も青く輝いてるのかしら・・・
貴方と二人で見るあの景色があれば、他には何もいらなかったのに・・・
貴方が居ないこの里は、賑やかで、活き活きしてて人々の笑顔が溢れてる。
平和よ。
なのに、私には、まるで止まった世界に見えるの。
・・・どうして?
あの頃、貴方の隣りにしか私の幸せは無いって思っていた。
なのに・・・
いま、止まった世界のこの里で暮らしていることを幸せだって、感じる自分が居るの。
こうやってまた、私は最後の何かを差し出して、新しい何かを、新しい未来を得なければ生きていけないの?
失うものなんて無い。空っぽなの。だから・・・
また誰かの愛をで心を満たし、貴方を忘れる日がくるっていうの?
ねぇ?・・・
芙蓉は訊ねた相手から返ってくるはずもない答えを求めるように、自分の唇を夢中でむさぼっている裸の扉間の背中をぎゅっと抱き締めた。
◆
部屋には本が散らばっている。
食器もそのまま、裁縫道具も出しっぱなしだ。
外には洗濯物が干されたままになっている。
散らばった本の中に、マダラが芙蓉に贈ったべっ甲のカンザシが落ちていた。
そっと、それを拾いあげる。
「・・・あいつ、本当に扉間に攫われたんだな。」
柱間にマダラが殺された日から一週間後。
マダラは、アジトから家に戻っていた。
そう、マダラは生きていたのだ。
あの日、あの時、マダラは息絶える寸前に、瞳術・イザナギにより僅かに時間を巻き戻し、自分の死を無かったことにした。死体を影分身にすり替え、時空間忍術でアジトまで飛んだ。
そして戦闘中に喰いちぎった柱間の左肩の肉を吐き戻し、自分の左胸に移植した。
死んだとみせかけ、マダラは柱間の肉体の一部を奪う、すなわち千手の力を手に入れるという目的を見事に成功させていたのだった。
移植直後は身体の拒否反応でまともに動くことが出来ず、一週間アジトで過ごした。
無事に柱間の細胞はマダラの身体に融合し、こうして家に戻ってきた。
そして今、芙蓉が突然居なくなった時のまま、時が止まっている部屋を見渡している。
散らばった本を拾い集め、机の上に置くと椅子に座り、再び机の上のカンザシを見つめる。両手で折ろうとしたが、ためらわれ、出来なかった。
・・・芙蓉はあの時、死んだのだろうか・・・
『 お前の大切な荷物は無くなったぞ 』
柱間の言葉が浮かぶ。
急に胸が苦しくなり、熱いものが喉元まで込み上げてくる。
「いや、あの程度の術と傷なら二人によって助かっているはずだ。」
マダラは芙蓉がまだ生きているという可能性を信じ、喉に詰まったものを飲み下した。
あの日から数日間は芙蓉に裏切られたという怒りに満ちていたが、時間が経って冷静になると、あの状況を作り出したのは芙蓉のせいではないと気が付いた。
・・・そうだ、芙蓉を攫った扉間がすべて悪いのだ。扉間が攫ったと判った時、真っ先に扉間を殺しておくべきだった・・・
そう思うと、芙蓉への怒りよりも、以前からの扉間への憎しみの炎が更に燃え上がった。
・・・俺が直接手を下さぬとも、あいつだけは必ず殺してやる。絶対にな・・・
マダラは芙蓉のカンザシを握りしめた。
◆
「先生!どうしたんだよ?なんかすっげー悲しいそうな顔してさ。」
夕暮れに染まる里を見ていた芙蓉は、ハっと我に返ってその言葉の方向を見た。
先ほどまで塾の教室で一緒だった、うちはカガミだった。
夏至が近くなり、陽が長くなってきたとはいえもう十九時を過ぎている。道を歩く人はまばらになっており、周りの家々には灯りがともっている。
「・・・カガミ君こそ、どうしたの?帰りは反対方向じゃない。」
「今日扉間さまは迎えに来ないんだろ?俺が送ってってやるよ。」
「ありがとう。でもお家の人が心配するし、先生の家は近いから大丈夫よ。」
「ガキ扱いすんなよな!俺もう中忍だぜ?要人の警護だってしてんだからな。ていうか、先生なんかあったのか?大丈夫?俺で良かったら話聞くぜ。」
カガミは芙蓉の心配を打ち消すように、言葉を続けて芙蓉に尋ねる。
「ちょっと色々思い出してただけ。大丈夫よ。ありがとうね…じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな。お願いします。」
芙蓉もそれ以上詮索されまいと、カガミの申し出を受けた。
そしてゆっくりと歩き出す。
カガミは芙蓉の言葉を聞いて、思い出していたのはきっとマダラの事だと思った。
愛する男に殺されそうになったのはどんなに辛かっただろうか。
十五歳のカガミにもそれは容易に想像できる。そして、もうこの世にいないマダラに怒りを感じる。
・・・俺は必ずマダラを超える忍になってこの里を守る。そして先生のことも・・・
「カガミ君はやっぱり塾でも優秀ね。他の先生も感心していらっしゃるわよ。」
「へへっ…先生の教え方がいいんだよ。」
「あら、上手なことを言うのね。フフフ。」
カガミの目線は、微妙にカガミのほうが上だった。大人びた発言と相まってカガミの成長を感じ、芙蓉は嬉しい気持になる。
「なぁ先生。俺の夢、聞いてくれる?」
「ええもちろん!ぜひ教えて欲しいわ!!」
芙蓉が前屈みになって鏡の顔を覗き込む。その瞳は子供のようにキラキラと輝いている。
その様子にカガミはときめいた。
カガミは芙蓉の、この大人なのにどこか子供っぽい所が大好きで庇護欲をそそられるのだ。
「・・・俺の夢は・・・火影になって里を守る事だ!」
「カガミ君・・・うん、凄く素敵な夢だね!カガミ君なら、なれると思うよ。」
カガミは走って芙蓉の前に立った。
「俺、まだ写輪眼は開眼してないけど、開眼したらあのマダラを超える自信がある!そしたら先生・・・俺と・・・俺と結婚して!」
薄暗い中でもカガミの顔が赤くなっているのが分る気がした。とても真剣な目をしている。
「・・・ごめんね。先生はもう誰とも結婚する気は無いの・・・。そっ、それに!その頃私はオバサンだと思うし、カガミ君にはもっと素敵な女の子が現れてると思うよ?」
真剣なカガミに対して自分もつい本心を晒してしまい、焦って誤魔化すように付け加える。
「オバサンって…俺が開眼して最強の忍になるまでどんだけかかると思ってんの?俺が十八になるまでにはぜってーなってやるよ!そしたら先生だって気が変わるさ。」
カガミは腕を頭の後ろで組み、くるっと芙蓉に背を向けて歩き出した。
そのカガミの頭上には、青紫に染まる空に、僅かに欠けた月が浮かんでいる。
芙蓉はその後ろ姿を見てマダラを思い出し、思わず涙が込み上げてきた。
俯いて目を閉じ、その涙をぐっと胸にしまい込む。そしてカガミの後ろを歩き出した。
「カガミ君・・・ありがとう。嬉しかったよ。楽しみにしてるね。」
カガミの背中に向かって言った。するとカガミが満面の笑顔で振り返る。
「おう!楽しみにしといてくれよな!そしたら、俺のこと男として見てくれよな。約束だぜ!」
二つ返事で芙蓉が自分と結婚してくれるとは思わなかったが、カガミはどこかそれを期待していた。期待が外れて恥ずかしいやら悲しいやら、色んな気持ちが入り混じるが、芙蓉が自分に期待していてくれることがカガミの新たな希望となった。
「・・・芙蓉。ご苦労。」
すると突然、後ろから男の声がした。
見るとそこには、扉間が芙蓉に向かって片手を軽く上げて立っていた。
「扉間さま!今日は夜まで会議なんじゃ・・・」
「兄者の馬鹿が優柔不断なせいで明日に延期になった。塾に行ったら帰ったというから飛雷神で来たんだ。」
「・・・こんばんは。」
「ん?お前は確か・・・」
「うちはカガミと申します。扉間様。」
「カガミ君はうちの塾生で、アカデミーを主席で卒業した優等生なんですよ。今家まで送ってもらっていたんです。」
「ああ…貴様がカガミか…確か最速で中忍に上がり、今は上忍の候補にも挙がっているな。確かになかなか優秀だな。」
「いえ、まだ実力不足です…なので塾で勉強しています。…私はこれで失礼します。」
カガミはそう言うと扉間と芙蓉に頭を下げ、あっという間に姿を消してしまった。
「…ん?なんだ、ニヤニヤして。」
「え?あ、はい…カガミ君はうちはの学校での私の教え子なんですけど、その夢が…火影になって里を守る事なんですって!それを聞いて私、凄く嬉しくって…」
芙蓉はそう言って目を細めて微笑んだ。
「そうか・・・。子の世代が火影を夢にするようになったか・・・」
扉間は腕を組み、感慨深そうに坂の下に広がる里の風景を眺めた。
「…しっかり火の意思を受け継いでいってほしいものだ。」
「火の意思…?」
「里を守り人を守るという強い意思だ。そして…いつか全ての忍が一つとなり、平和な世の中を作るという夢のことだな…」
「・・・・。」
芙蓉は少し悲しそうな顔をし、黙って扉間の隣りで一緒に里を見つめた。しかし芙蓉が思い出していたのは、マダラの実現させようとしていた夢の世界のことだった。
「そうだ。今度俺の弟子にも会わせてやろう。お前の自慢の生徒に負けない、優秀な奴らだ。」
「あら!それは楽しみですわぁ!でも扉間さまにもお弟子さんがいたんですね。てっきり弟子は取らない主義でいらっしゃるのかと思いました。」
芙蓉は扉間の突然の提案に焦って大袈裟に反応をしてみせた。
「いや、俺も後進を育てなければな。ちなみに里創立の時からいるだけどな…」
「でも扉間さまが先生って、生徒さん達は大変そうですね…フフフッ。」
「なんだよ、その最後の笑いはっ!」
空には宵の明星が輝き、夜のとばりがすぐそこまで迫っていた。