ヒルゼン、ダンゾウ、コハル、ホムラが扉間の家に招待されやってきます。
そこへ意外な人物が現れ、4人は驚きます。
弟子たちと扉間、芙蓉の温かい風景。
芙蓉と扉間の心の距離も、次第に縮まっているように見えますが・・・
マダラは、そんな芙蓉のいまの生活を知っているのか・・・?
そしてマダラの死後約8ヶ月ぶりに芙蓉に会った柱間は、芙蓉と扉間の同棲を心配していますが・・・
この家が完成した日、扉間が芙蓉の為にと植えたハナミズキが見事に花を咲かせている。
十日ほど前、扉間の想いが芙蓉に届いた頃、ハナミズキが開花した。
新緑の葉と真っ白な花のコントラストが美しい。
家の中では、芙蓉が食卓に料理を並べている。
こんなにも沢山の料理を作ったのは久しぶりだった。
ずらりと机に並ぶ品数を見渡し、芙蓉は心が躍る。
そして、ふと時計を見るとちょうど正午をさしていた。
「おいおい…ちょっと作り過ぎじゃないか?」
扉間が居間に入ってきて食卓の上を見て驚いて目を丸くした。
「そうですかね…実は温かい料理はまた後で出すんですけど…それに忍の男の子が四人も居るので、足りないよりはいいかなぁって…」
芙蓉はそう言いながら少し肩をすくめる。
「ハァ…まぁ余れば持って帰らせればいいだろ。お。あと三分くらいで来るぞ…」
扉間が玄関の方向をちらりと見る。芙蓉は急いで台所に戻り立ち鍋を火にかける。
ガラガラガラ・・・
「御免下さい。扉間様。」
玄関が開く音がした後、良く通る少女の声が聞こえた。扉間が玄関に向かう。
「お招き頂きありがとうございます。」
少女が言うと、後ろに居る少年三人も同時にお辞儀をする。
「うん。貴様ら上がれ。」
『お邪魔いたします』
四人は靴を揃えて上がり、扉間の後ろについて行く。
廊下が短いため直ぐに居間に着いた。
「こんにちは。皆さんいらっしゃい。私、橘芙蓉といいます。よろしくね。」
芙蓉は四人が全員入ってきたことを確認すると、嬉しそうに挨拶をした。
「はじめまして。今日はお招き頂きありがとうございます。私は、うたたねコハルと申します。よろしくお願いします。」
コハルが最初に挨拶すると、隣の少年に目配せした。
「は、はじめまして。水戸門ホムラです…よろしくお願いします。」
「はじめましてこんにちは!猿飛ヒルゼンと申します。よろしくお願いします!」
「…志村ダンゾウといいます。よろしくお願いします…」
四人は実物の芙蓉を目の前にし、それぞれの表情で芙蓉を見つめている。芙蓉は優しい笑顔で一人一人の顔を見た。
「ダンゾウから奥に順番に座れ。」
ガラッ・・・
四人が椅子を引いて腰かけようとした時、玄関が開く音がした。
「あ、カガミ君だわ。私が迎えに出てきますね。」
「・・・カガミって、あの・・・?」
四人は信じられないという表情で、互いに顔を見合わせる。
「遅れて申し訳ありません!今日はお招き頂きありがとうございます。」
カガミは礼儀正しく背筋を伸ばして挨拶をした後、扉間に向かい深く頭を下げた。
「ああ。任務だったんだろう?ご苦労だったな。そこへ座れ。」
扉間はカガミに自分の一つ開けた隣の席を指さした。カガミは一つ空いているとはいえ、扉間と並んで座っていいものかと少し戸惑う。
「カガミ君、私の隣りに座って。ね?」
芙蓉はカガミを見て直ぐに自分が先に扉間の隣りに座り、自分の隣りの椅子を引いた。
「はい・・・ありがとうございます。失礼します。」
少年少女がカガミを見ている。その視線にカガミも「あっ」と何かに気が付いた様子を見せる。
「じゃあ、カガミ君も皆さんに自己紹介してくれる?」
「…はい。うちはカガミと申します。現在中忍として任務の傍ら、うちはの私塾で芙蓉先生の教えのもと勉強しております。」
先に来ている四人は、意外な人物の登場に唖然としていた。
「お前があの、アカデミーをたった半年で首席卒業したっていう・・・」
最初に口を開いたのはヒルゼンだった。
「お前は猿飛ヒルゼンだろ?あの猿飛サスケの息子の。それとお前ら三人も木ノ葉本部でたまに見かけるから顔は知ってるぜ。」
「あなた、アカデミー在籍中に中忍になったのよね。」
コハルも驚いたような笑顔で言った。
「うちはカガミ君と、こんなところで一緒になるなんて、驚きだよ…」
ホムラも小声で言った。
「あら、みんなお互いのこと知っている同士だったのね。」
芙蓉はニコニコしながら席を立ち、台所で七人分の湯呑にお茶を入れ始める。
「それなら話は早いな。今日からカガミは俺の弟子になる。貴様ら四人の仲間だ。」
『え―っ!!!』
扉間の弟子四人は驚いて思わず大声を上げた。
「そんなに驚くことはないだろ。貴様ら顔見知りだったんだろ。」
芙蓉が重そうな盆を持ってこちらに来るのを見て、カガミが立ち上がり芙蓉に近寄る。
「先生。俺、持ちます…」
「・・・しかし、カガミは、うちは一族じゃないですか・・・」
それまで黙っていたダンゾウが怪訝そうな顔で扉間に言った。他の三人も同じ意見なのか、少し俯く。
「カガミ君ありがとう。・・・ダンゾウ君、カガミ君がうちは一族だと何か問題があるのかしら?カガミ君も皆と同じ、火の意思をもった木ノ葉の里の忍ですよ。ね?扉間さま。」
カガミは特に表情を変えることもなく、芙蓉から受け取った盆を無言で食卓に載せる。するとコハルがその盆に載っていたお茶を扉間の方まで持って行く。
「その通りだ。今はこの里に住むどの一族も、皆同じ木ノ葉の忍だ。里を守る、火の意思をもつ者であれば一族を越えて協力してくのは当然のことだ。」
「…さっ、食べましょう!皆さんお腹空いてるでしょ?遠慮しないで沢山食べてね。まだ茶碗蒸しや豚の角煮、シジミのお味噌汁もあるのよ~。」
芙蓉がカガミの肩を後ろから両手でポンと叩いて、その肩越しに四人に向かって言った。
「…見ての通り、この量だ。貴様ら頑張って食えよ。」
『いただきます』
扉間が箸を付けるのを見てから、他の者も箸をつける。
「お、美味しい!芙蓉さん、この菊花株の酢の物、すっごく美味しいです!切り方も凄く綺麗で本当のお花みたい。」
コハルが顔をほころばせて芙蓉に言った。
「ありがとう。お酢は疲労回復にいいのよ。沢山作ったから良かったら持って帰ってね。」
喜ぶ芙蓉の顔を見て扉間も嬉しくなり、そっと微笑むと酒が入った猪口を飲み干す。
ヒルゼンとダンゾウが、初めて見る扉間の表情に釘付けになり、箸が止まる。
「白いご飯も入れましょうね。扉間さまはまだいいですよね?」
「先生、俺も手伝います。」「私も手伝います!」
カガミが立ち上がろうとすると、コハルも立ち上がり声をかける。
「ありがとう。でも大丈夫よ。今日は二人ともお客様なんだから、ゆっくり座っていてね。」
カガミは少し残念そうにして椅子に座り、箸を持つ。
「ねぇ。カガミ君はなんで扉間様の弟子になろうと思ったの?…」
ホムラの思いもよらぬ問いにカガミは少し戸惑う。
「…それは…芙蓉先生に…誘われたから。…それに扉間様は里のナンバー2だし…」
「へぇ…自分の意思じゃねーんだ?」
「おい、ダンゾウ!…でもさ、どんなキッカケであれ、同じ扉間様の弟子になったんだからさ、お互い頑張ろうぜ!カガミ!」
ヒルゼンがカガミに右手の親指を立てて笑って見せた。
「…ああ。お前らと慣れ合うつもりはねーけど、お互い、扉間様の弟子の名に恥じないよう強くなろうな。」
カガミはそう言うと、真顔で出汁巻き卵を口に入れる。するとその味に思わず顔がほころんだが、急いで再び真顔に戻り次の品に箸を付けた。
「フッ。なかなか嬉しいことを言ってくれるな。貴様ら全員、ぜひそうあってくれよ。」
『はいっ』
カガミと他の四人が元気よく返事をする。
それから自然と会話が始まり、食事をする箸も進んでゆく。
台所で料理を盛り付けていた芙蓉は、食卓の様子を見てホッとする。
カガミがうちは一族ということで先輩弟子たちと対立しないか、その不安はまだ払拭は出来ないが、カガミを受け入れようとしている子が居て嬉しかった。
過去のわだかまり、偏見、差別、思い込み…大人のそれらは子供たちにも気づかぬうちに受け継がれてしまうものである。
だが、子供だからこそ、触れ合い、話し合い、ぶつかり合うことで、お互いを理解し合えるはずだと芙蓉は信じている。
「芙蓉。もうその辺にして、お前もこっちに座って食え。」
扉間が芙蓉の背中に向かって言った。
「はい!その前に熱燗を一本持って行きますね。」
そう言って熱湯に漬けられた熱燗を手に取った。
「熱っ!!」
芙蓉の声に扉間が即座に立ち上がり駆け寄る。
「大丈夫か!…馬っ鹿!お前また素手で触ったのかよ!ほら早く手をかせ。」
「急いでいて、つい…でも大丈夫です。沸騰していませんでしたし。」
「火傷を甘く見るな!最初の処置を怠ると重症化することもあるんだぞ。まったく毎回あれだけ素手で触るなと言ってるのに…お前は鶏か!一日経ったら忘れるのか!…なんで…」
扉間は流し台で水遁の術を使って芙蓉の手を冷やしながら延々と説教をしている。
食卓に取り残された弟子たちはその様子を唖然として見ていた。
「ねぇ…なんかさ、芙蓉さんと扉間様って夫婦みたいだよね?」
コハルが隣に座るホムラにそっと小声で話しかける。
「うん…結婚しないのかな?扉間様ってもう三十歳は過ぎてるよね…」
カガミがその会話を聞いて二人を睨んだが、二人はその視線に気づかない。
「芙蓉先生!大丈夫ですか!」
カガミが台所に向かって大声で言い、扉間の説教を遮った。
・・・夫婦なんて‥確かに仕方ないにしても…俺だって先生のことが・・・
「うん。大丈夫!ごめんね心配させて。皆、気にせず食べててね。」
芙蓉は顔だけを食卓に向けて申し訳なさそうな顔で言った。
「カガミ、お前ってさ、さっきから気も遣えるし、優しいし、良い奴だな!」
カガミの気持ちを知る由もないヒルゼンが感心した様子で言った。
「別に・・・俺は当然のことしてるだけだ。」
「あーあ、アンタらにもカガミを見習ってほしいもんよねぇ。」
コハルは隣の男子たちに向かってそう言うと、三人はそれぞれの反応をする。ホムラは俯き頭をかく。ヒルゼンは「おうよ!」と笑顔で返事する。ダンゾウは黙って食事を続けている。
手当てを終えて扉間が料理と熱燗の載った盆を持ち、芙蓉と食卓に戻ってきた。コハルがその盆を急いで受取る。
「お騒がせしてごめんなさいね。私、ドジで…あはは。」
「ホムラ・・・俺はまだ三十前だぞ。」
『えっ!!』
一同が扉間の地獄耳と意外な事実に驚いた。その様子を見て扉間の顔が少し引きつる。
「さすが扉間さま!柱間さまよりも年上に見られてるなんて、すごい貫録ですね。やっぱり昼間から熱燗なんて飲む人は違いますね!」
「芙蓉・・・それ褒めてるのか貶しているのか、どっちなんだ。ていうか嫌味入ってるな・・・」
芙蓉と扉間のやり取りをみて一同が思わず笑いそうになり、手で口を押え顔を背ける。
「俺は笑いなど取ってないっ・・・」
あはははっ。・・・・クククッ・・・フフフフッ!
その言葉に芙蓉が笑うと、一同も堪えきれずに笑い出した。扉間はハァと大きなため息をついてドスンと椅子に座るが、その表情は少し微笑んでいるように見える。
それをきっかけに会話に笑いが混じり、笑顔が溢れて盛り上がった。
そしていつの間にか、大量に作った料理の皿はほぼ空になり、芙蓉も扉間も弟子たちの食欲旺盛さに驚いていた。扉間と芙蓉は顔を合わせて微笑み合う。
薫る六月の風が庭のハナミズキを揺らし、窓の間をすり抜け、食卓を通り過ぎてゆく。
「みんな良い子ですね…扉間さまのことを尊敬して慕っているのが良く伝わってきましたよ。カガミ君もきっとこれから仲良くなってくれると思いますし…」
賑やかな時間が終わり、再び二人きりに戻った家の縁側で、扉間と芙蓉は肩を並べていた。
「ああ。皆、実力と芯のある奴らだ。カガミもな…。まずは俺の弟子たちの間から一族の枠を超えた協力を成功させてほしいものだ…」
感慨深げにハナミズキの木とその向こうの青空を見つめる扉間の横顔を見て、芙蓉は微笑んだ。
いつからだろう。
扉間がこんなに優しい顔をするようになったのは・・・
「絶対。大丈夫・・・」
芙蓉はそう言うと、扉間が膝の上に置いている左手の上に両手を重ね、それをまっすぐ見つめる。
扉間はハっとして、自分の左手に重なる芙蓉の手を見た。
昔、芙蓉が同じことをしてくれたことの意味が、今なら心から解る気がした。
扉間も、そっと芙蓉の両手に右手を重ねる。
「そうだな・・・ありがとう。」
扉間の鼻が芙蓉の鼻に触れ、そのまま唇が重なる。
◆
灯りが壁に反射して揺れ、隣には男の影が映し出されている。
「・・・芙蓉。まさか扉間と暮らしているとはな・・・」
マダラは報告書を手にしている。あれから山岳の墓場を出入りしている能力の高い忍を何人か写輪眼で記憶を書き直し洗脳して、奴隷として使っている。そして芙蓉のこと、木ノ葉の里のことを調べさせていた。
そしてマダラは復活して約二ヶ月後、芙蓉が辿った経緯の全てを知った。
芙蓉はあの日から牢獄に入れられ、裁判にかけられたこと。芙蓉は実刑を主張したが、うちは一族が芙蓉を擁護したこと。その結果、見張り役の扉間と暮らすという条件で無罪になり釈放されたこと。
直ぐにでも芙蓉を取り戻したいが、今はその時ではない。
いま自分が生きているとバレてしまうことだけは、絶対に避けなければならない。
その為には決して自ら動かないこと。
マダラにとってそれは歯がゆく苛つくことだが、仕方ない。焦らず、用意周到に芙蓉奪還の策を考えることにした。
「芙蓉・・・」
マダラの目には写輪眼が浮かぶ。その瞳は静かで冷たい怒りを湛えていた。
◆
青空には入道雲が浮かび、花壇には夏の太陽に向かって向日葵が咲いている。常緑樹の松の葉も、午後の強い日差しを受けてキラキラと光っている。
『うちは私塾』は、今日が夏休み前の最後の授業だった。
皆が忍である塾生たちにとって夏休みはあまり意味の無いものであったが、休暇を取り自分の時間を大切にするというのが塾の方針であり三月、八月、一月に長期休みがあった。
授業前、塾生たちは互いに夏休みの間の予定や任務の予定について話しているが、どこか緊張した空気が漂っている。
「はい。皆さん静かに。もうすぐ火影様がいらっしゃいます。緊張するかもしれませんが、皆さんはいつも通り授業を受るように。」
塾長のドドメが教室に入ってきてニコニコしながら言った。
この日は、初めて火影である柱間が、うちは私塾の授業参観に来る日でもあった。
柱間は忍者アカデミーやその他の教育機関の運営については全て扉間に任せていたが、うちはの私塾が出来、うちはの子供の忍たちの活躍がめざましいことを知り、柱間がぜひ一度授業をその目で見てみたいと言ってきたのだ。
「フゥ――・・・」
芙蓉は教室の扉の前で胸に手を当て、大きく息を吐いた。久しぶりに緊張している。
ゆっくりと扉を開く。
パチパチパチパチ!
「よっ!待ってました!芙蓉先生っ!」
柱間が立ち上がって拍手をする。塾生たちが目を丸くして一斉に後ろを振り返る。
「馬鹿かっ!ここは歌舞伎の舞台じゃねぇんだぞっ!黙れ!」
隣の扉間が小声で柱間を窘めながら、腕を引っ張って椅子に座らせようとする。
芙蓉はその様子を唖然として見ていたが、少し苦笑したあと一度下を向き、再び顔を上げ、気を取り直して教壇に立った。そしていつも通りに授業を始める。
「では先週の宿題の検証から始めましょう。では最初に黒板に回答の数式を書いてくれる人、手を挙げて下さい。」
「「ハイ!」」「「ハイ!」」・・・
塾生の半数ほどが手を挙げる。
「はい。ではサザレ君、前に出て数式を書いて下さい。」
塾生が黒板に歩いて行く様子を見ながら、柱間の隣りに座っているドドメが小声で授業の流れを説明し始める。
「この授業では回答を教師が示すのではなく、生徒それぞれの回答を出し合い皆で検証します。数学は回答は一つですがそれを導き出す方法は様々です。ですからこうやって思考力を鍛えています。」
「ほほう…なるほど。教師が一方的に指南するわけでは無く、皆で回答を検証するのだな。」
柱間は感心して何度も頷きながら、芙蓉の真剣な横顔を見つめている。
その横顔を扉間が横目で見る。兄はいま、本当はどう感じているのだろうか・・・
暫く芙蓉の授業を参観した後、柱間は他の教師の授業を参観するために出て行った。
授業が終わり、芙蓉は柱間の待つ塾長室へ呼ばれた。
そこには柱間と扉間、ドドメと三人の教師が先に席に着いて歓談していた。
芙蓉はその輪の中に入るのが少しためらわれたが、今は勤務中である。私情は捨てなければと自分を律して柱間に挨拶をする。
「失礼します。火影様、今日はご参観頂きありがとうございました。」
そう言って深く頭を下げる芙蓉に柱間が満面の笑顔で言う。
「いやいや、こちらこそ授業の邪魔をして悪かったのう。素晴らしい授業であったぞ!」
芙蓉は席に着き、歓談に加わる。柱間は、うちは私塾の教育方針や授業実態を知り、ますます感心していた。そしてこれからは木ノ葉の里として支援もすると約束してくれた。
その言葉にドドメも他の教師も大喜びしているが、しかし芙蓉はなぜか素直に喜べない。そんな自分に嫌悪を抱きつつも、笑顔で柱間に礼を言った。
「では今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。」
ドドメが話を締めくくると、三人の教師を促して席を立ち部屋を出ようとする。芙蓉も立ち上がったが、扉間が芙蓉を引き留める。
「芙蓉、兄者が少しお前と二人で話したいそうだ。塾長にも言ってある…頼む。」
そう言って芙蓉を座らせると扉間は席を立つ。芙蓉は不安そうな顔で扉間を見つめるが、扉間は振り向かずに出て行ってしまった。
「・・・すまないな。芙蓉。なに、長々と話すつもりはない。少し付き合ってくれ。」
芙蓉は俯き、沈黙が流れる。
柱間と面と向かって二人だけで話をするのは、マダラが死んだあの日以来だった。
「扉間からお前の様子は聞いておったが、今日の授業を見て本当に元気そうで安心したぞ。・・・それで、その・・・どうだ?正直、扉間との生活は・・・?」
柱間は、かつて芙蓉を消そうとした扉間と共に生活することを余儀なくされた事を懸念していた。
自分と婚約している間に二人が和解したことは知っていたが、やはり二人で住むというのは芙蓉にとって辛いことではないかと思っていた。
「・・・もしかして、それを聞くために今日の参観をされたわけではないですよね?」
「まさか!それは違うぞ!確かにこんな形でお前と話をする機会を作ったことはそう誤解されても仕方がない。本当はミトの出産が終わり落着いたらお前と二人で話そうと考えていたのだ…信じてもらえないだろうがな。扉間から聞く話を信用していなわけでは無いが、やはりお前の本心はお前からしか聞けぬと思っていた…扉間がお前にした罪は一生消えぬ。釈放される為には仕方がなかったとはいえ、お前が無理をしておるのではないかと思うと、兄として、やはり申し訳なくてな。あれからもう一年近く経つ。お前がこうして里に貢献しておる実績もある。今ならもう別居することを上役たちに提案することが出来るだろうぞ。どうだ?」
芙蓉は少し俯き気味で柱間の話を聞いていた。
柱間は嘘はついていないだろう。
だが、あの日から素直に柱間を信じられなくなっている自分に少し悲しくなる。柱間に対して償いたい気持ちで扉間の傍に居ることを決めたはずなのに…。そして、柱間の相変わらずの優しさが、ますます芙蓉の胸を苦しくさせた。
「…ご心配ありがとうございます。私はもう扉間さまのことは全く恨んでいません。扉間さまは元々とてもお優しい方です。それは火影様が一番ご存知でしょう?・・・実は、私は最近まで、私と一緒に居ることで扉間さまの人生を犠牲にしているのではないかと思っていました。ですが、扉間さまは私とずっと一緒に居たいと言って下さいました。私も、扉間さまのお傍に居たいと思っています…」
芙蓉は真っ直ぐに柱間の目を見て言った。だが、それはどこか悲しい表情だった。
柱間は芙蓉の話と表情から、裁判で自分の罪を償いたいと主張していた通り、いまでも償いの気持ちで扉間の傍に居ることに気がついた。
「本当にそれが本心か?それはただの償いの気持ちではないのか?」
芙蓉は何も言わず目を伏せる。
「遠慮しなくていい。無理もするな。頼む、お前の本当の気持ちを聞かせてくれ。」
「…甘えているんだと思います…扉間さまの優しさに。マダラさまのことは一生忘れることは出来ません。でも、その心の穴をそのままにしておけるほど、私は強くないんです…」
「・・・芙蓉・・・」
「だから無理はしていません。むしろいまの私には扉間さましか頼れる人は居ないのです。」
二人に再び沈黙が訪れる。
「・・・分った。もし扉間と別居したくなった時は遠慮なく言ってくれ。絶対ぞ?それまでどうか扉間のこと、よろしく頼む!」
柱間は机に頭がぶつかるほど深く頭を下げた。
「や、やめて下さい!早く頭を挙げて下さい…困ります。」
「ハハハハ!すまん!でもお前が扉間を頼ってくれているのは本当に嬉しくてな。扉間も最近すこーしだけ角が取れたというか…きっとお前と一緒に居て幸せなのだろう。」
芙蓉は黙って少し困ったような顔で微笑み、再び目線を落とした。
「おこがましいですが…扉間さまをお支えすることが、火影様を支えることであり、そして里に役立つことだと思っています。私にはもう失うものは何もありません。でも出来る事はまだあるんじゃないかって…それが今の、私の唯一の希望なんです。」
芙蓉は自分のことを支えたいと思ってくれている。
だが、自分のことを敢えて「火影様」と呼ぶ芙蓉に、柱間の存在が芙蓉の中でこれまでとはもう違う存在なのだと悟った。それは里の皆が自分を呼ぶ名と全く同じものなのだと。
・・・もう家族ですら、ない、のか?・・・
そうなったのはマダラの死のせいか、それとも、もっと前から既にそうだったのか。
いまそんな事を考えても、既に二人の関係は、まるで風に晒され風化した砂の城のように、いつの間にか姿を成さなくなっていた。