木ノ葉の里で殺人事件が起こります。芙蓉もその事件に巻き込まれ・・・!
柱間、扉間、カガミが芙蓉の救出に向かいます。
ついにカガミは写輪眼を開眼し、扉間の「穢土転生」も大活躍♪♪♪
そしてマダラの芙蓉を奪還するという目的は成功するのか?
芙蓉の安否は?・・・・
※僅かですが、マダラと芙蓉の濡れ場の描写があります。
「でも…椿さんの所だとはいえ、樹ちゃん以外のお家にお泊りするなんて、緊張します。」
「じゃあやめとくか?」
「え!行きます!行きますよ!」
扉間が玄関の柱に手を着いてハハハと笑う。
それに合わせたかのように、紅葉したハナミズキの葉がそよ風で左右に揺れている。
「では行ってきます。明日の昼前には必ず帰りますので。」
「ああ。ゆっくりして来い。道中気を付けてな。」
一週間前、芙蓉は椿に家に泊りに来るよう誘われ、ようやく今日一泊することになった。
扉間は門の所まで一緒に出て芙蓉を見送った。芙蓉は何度か振り返りながら手を振り、坂を下りるとその姿は見えなくなった。
「・・・遠くの空が怪しいな。降らないと良いが・・・降りだしたら迎えに行くか。」
坂の向こうの空に、暗く分厚い雲の塊が見えていた。
コンコンコン。「椿さんこんにちは!」
芙蓉がいつもの様に椿の家の扉を叩く。
が、返事が無い。
買い物にでも行ってまだ帰っていないのだろうか。家の前で待つことにした。
ポツッ。
三十分ほど経った頃、芙蓉の頭上に冷たいものが落ちてきた。見上げると暗い雲の塊が空を覆っている。
傘を持たずに来てしまった。そして長屋に廂(ひさし)は無い。
ポツポポツポツ…ザ―…
みるみるうちに雨脚が強くなる。目の前の大通りを歩く人たちが荷物を頭に載せたり、着物で頭を覆いながら走って行く。芙蓉は椿も雨に濡れていないかと心配になる。
行き場が無く、思わず後ずさると芙蓉の踵が扉に当たり、ガラッと音がした。見ると扉が少しだけ開いていた。扉には鍵がかかっていないようだ。
芙蓉は後ろめたさを感じながらも、仕方なく椿の家の中で待たせてもらうことにした。
「お邪魔します・・・」
家に入るとまず玄関で鞄からハンカチを取り出し、濡れた服を拭いた。
そして四畳半の部屋へ入ろうと振り返った。
「・・・!!!」
半分開いた障子戸の向こうから、女の足と思われるものが覗いている。
まさか、椿さんに何かあったんじゃ!・・・
芙蓉は障子戸を思いっきり開いた。
そこは、血の海だった。
その血の上には、椿がうつ伏せに横たわっていて、動かない。
芙蓉は言葉が出ない。恐怖とショックで体は動かず、足が震える。そして目の前がぐらぐらとして、涙でぼやけてきて今にも気を失ってしまいそうになる。
ついに立っていられなくなり、その場にへたり込む。
「死体を見るのは初めてですか?芙蓉さん。」
「⁉」
いつの間にか、先ほどまで居なかった男が二人、椿の遺体の隣りに立っていた。
どうやら格好からして忍のようだ。一人は背が高く大柄で、もう一人はそれより背の低い痩せた男だった。二人とも頭と顔を隠していて目しか分からない。
「貴方を迎えに来ました。一緒に来てもらいます。」
「・・・⁉」
「大丈夫です。貴方を待っている方は、貴方が良く知っている方ですよ。」
「・・・だっ、誰⁉そ、それに・・・つ、椿さんは、あなたたちがやったの⁉」
「彼女には貴方をおびき寄せる為にこれまで長い間働いてもらいましたが、もう用が済みましたのでね。」
「な、なぜそんなことをっ・・・!」
「さあそれは知りません。ワダチという方の指示です。貴方のご主人でしょう?」
「ワダチ?…し、知りません!そんな人!」
芙蓉はとにかく逃げなくてはと思い、玄関に向かおうとした。
すると目の前に大柄の男が立ちはだかる。
「自分の主人をしらばくれるとは、確かに不貞をする女だけはある。」
芙蓉には全く何のことか分からない。言葉を発する前にその男は芙蓉を抱きかかえた。
大声で助けを呼びたいが、恐怖で声が出ない。
男が片手で印を結ぶと、芙蓉は即座に意識を失った。
・・・私は死んだの?・・・
しかし、徐々に鮮明になる意識で自分が誰かの腕の中に居ることに気が付き、その体温でまだ自分は生きていると判った。
恐る恐る、ゆっくりと瞼を開いてみる。
「久しぶりだな・・・芙蓉。」
「・・・・」
目の前にあるのは、忘れたくても忘れられない顔だった。
やはり、自分は死んでいるようだった。
「状況が飲み込めないようだな。俺は死んでいない。お前もな。ここは檜枝岐神社だ。」
芙蓉は目線だけを動かして周りの景色を確かめる。確かに見覚えのある内装だった。
だが、神社はあの時に破壊されていたはずだが…。
芙蓉は不審そうな顔を向けて言う。
「・・・本当に、マダラ・・・さま・・?」
「ああそうだ。・・・ここは、柱間が修復したようだがな。」
マダラは天井を見上げながら説明を付け加えた。
そして再び芙蓉の顔を見つめる。しかし、それはどこか冷たい眼差しだった。
芙蓉はおもむろに左手を伸ばし、マダラの頬に触れようとした。
その手が頬に触れそうになった寸でで、マダラがその手首を掴んで制止した。そして芙蓉を床に降ろして座らせると自分は立ち上がり、芙蓉の数歩前に出て胡坐をかいて座った。
マダラはフードの付いた黒く長いマントを身に纏っている。戦闘に行く際の赤い甲冑は身に着けていないようだった。
「随分と楽しくやっているようだな。」
沈黙を破ったのはマダラだった。
「・・・・・。」
どうして生きているのか、生きていたのならなぜ早く現れなかったのか。
どれだけ自分が辛く悲しい思いをしたか、でも会えて嬉しい・・・
訊きたいこと、言いたいことは沢山あるのにまだ動揺が収まらず、芙蓉はそれを言葉に出来ないでいた。
「扉間との生活は、そんなに幸せか?」
「・・・⁉」
芙蓉は心臓が止まりそうになった。マダラは今の自分の生活について知っているのか。
荒くなる呼吸で肩を上下させながら芙蓉は俯いた。
「俺はお前に、必ず戻ると言ったのを覚えているか?俺が例え柱間に敗れても復活するのは予定通りだった。なのにお前は、本当に俺が死んだと思っていたようだな。」
・・・あの遺骸は、何かの忍術だったのね・・・
芙蓉は顔を上げて、マダラを真っすぐ見据えた。冷たい現実が、芙蓉に冷静さを取り戻させていた。
恐ろしいほどに脈がゆっくりになっていく。
「マダラさま、本当にご無事で良かったです。私、貴方を信じられなくて、ごめ・・・」
「おい。お前は誰のものだ?」
マダラが芙蓉の言葉を遮り、問う。
「・・・・」
「答えられないのか?」
芙蓉は眉を寄せ、俯いたまま答えない。
マダラは立ち上がると腰に差していた刀を抜き、芙蓉に歩み寄った。
そして、その刀を芙蓉の咽喉元に静かに、しかし威圧的に突きつけた。
だが芙蓉はそれに動じることなく、強い眼差しでマダラを見上げた。
「貴方が生きていると知らなかったとはいえ、私は夫婦の契りを破りました。もう貴方の妻である資格はありません。」
二人の視線が静かに、しかし激しくぶつかり合う。
「お前が愛しているのは、誰だ?」
「・・・マダラさまです。」
「ならば俺の前に、跪け。」
しかし芙蓉はマダラと視線を合わせたまま、ぴくりとも動こうとしない。
・・・愛の前に跪くのか、契約の前に跪くのか、それとも・・・
すると芙蓉の咽喉元に突きつけられた刀がギラリと光り、刃を返した。
「今お前が選べるのは、跪くか、死か、二つに一つだ。さあ早く選べ。」
「どちらも選べません。」
「は?」
「私は木ノ葉の里に帰ります。」
「お前、今の自分の状況分かってるか?」
相変わらずの天然ぶりに、不覚にもマダラは少し気が抜ける。
「私がここで死んでも、扉間さまが術で私の死体を見つけて里に持ち帰るでしょう。貴方に着いて行ったとしても、私は隙を見て必ず里に帰ります。」
ハァ――・・・
マダラは大きな溜息を吐き、刀を鞘に収めて芙蓉の前にしゃがみ込む。
「扉間のマーキングはとっくの昔に消した。それにお前は俺からは逃げられない。・・・もういい!黙って付いて来い。いや、連れて行く!」
「一緒に行くことは出来ません。私はもう、木ノ葉の里で、木ノ葉の里の為に生きると決めたのです。」
マダラは再び強い怒りが込み上げ、芙蓉の顎を乱暴に掴んで自分の顔に引き寄せた。
「勘違いするな。お前を幸せにできるのはこの世で俺、一人だけだ。そして、お前を不幸にできるのもなぁ!!」
そう言うと芙蓉を乱暴に押し倒し、覆いかぶさる。
「嫌っ!」
芙蓉の合わせ襟の胸元を強引に開くと、白い胸が露になる。
腰ひもを解き、巻きスカートを剥ぎ取る。
「俺以外の男、しかも扉間に抱かれているなんて、正直今すぐ殺してやりたいくらいだぜ。」
怒りに震え写輪眼が浮かぶマダラの瞳を見て、芙蓉は禁固呪の札で殺されそうになったあの瞬間を思い出した。全身の血液が凍っていくようだった。
目の前に居る男は、本当に自分があれほどまでに愛した男なのか。
芙蓉はそれを確かめようと再びマダラの頬に触れようとしたが、その手は直ぐに床に抑えつけられた。
「マダラさま・・・マダラさまは私のことを愛してくれているのですか?」
「そんなことはもう、どうでもいい。お前は俺のもの。ただそれだけだ。」
そう言うと芙蓉の口を塞ぐように強引に口づけをした。長い間、強引に唇をむさぼられ、息つく暇さえなかった。
そしてようやくマダラが唇を離した瞬間、芙蓉の口から言葉が飛び出す。
「私はっ、私は…今でもマダラさまを愛しています。でも、もう貴方と共に同じ道を歩くことは出来ません。」
「・・・なぜだ。」
「私は、マダラさまが創った、マダラさまが名付けた、あの里を守りたいから。・・・だけど、貴方はあの里を否定する・・・そして全てを無にする事を夢と言う・・・」
「それはもう俺を愛していないという意味だな。俺はもう昔の俺じゃない。この先の夢にこそ、真の平和があると信じている。」
そして、二人の間に沈黙が訪れる。
部屋の空気がとても重く、更に冷たくなってゆくように感じる。
真っ直ぐ芙蓉を見つめるマダラの視線と彷徨う芙蓉の視線が再びぶつかると、もう一度見つめ合い、互いの瞳の中にある悲しみを見つけた。
「…その夢が実現したら、本当にマダラさまは独りになってしまいますよ?…」
小さく震える声で芙蓉が言った。
「それはそこに、お前も居ないということか?」
芙蓉は、かつてマダラがたった一人で全ての事を成そうとし、孤立していた姿を見てきた。
しかし、柱間と手を取り合った時、木ノ葉の里が生まれた。
それからマダラは多くの仲間と共に手を取り合った。
マダラが誰かと協力すれば、不可能だと言われていたことでも実現できるのだと、マダラ自身がそれを証明したことを芙蓉は知っている。
芙蓉の中のマダラへの愛情とも同情とも区別のつかない感情が、消せない希望の火を興し、マダラを独りにさせることを躊躇わせた。
しかし芙蓉は、マダラが里を襲い死んだ時から、マダラの罪を自分の罪として、一生償って生きていくと心に固く決めていた。
償うこと、それがマダラへの愛を貫くことだと思っていたからだ。
マダラが生きていたからといって、今更マダラに着いて行くことなど、出来ない。
マダラのことは愛している。
だが、もうマダラの『先の夢』を受け入れる事など決して出来ない。
木ノ葉の里を、人を、守りたいから。
『そこに、お前も居ないということか』
答えは「はい」か、「いいえ」か。
いくら里に帰ると息巻いてみても、マダラの前では非力すぎる芙蓉にとって、選択肢はマダラと共に行くか、ここで死ぬか、やはり二つに一つしかないのだ。
とにかく、もう、芙蓉は里への帰り道を無くしてしまっていた。
◆
雨上がりの朝、忍たちが慌ただしくその家を出入りしている。
柱間と扉間が現れると、忍たちは立ち止まり頭を下げ、道を開ける。
「・・・間違いない。椿だ。」
「ああ。」
二人は四畳半の部屋にうつ伏せて横たわる椿の遺体を確認すると顔を見合わせた。
つい三十分ほど前、柱間と扉間へ、長屋で中年女性の死体が見つかったという連絡が入った。
発展途上の木ノ葉の里では人口増加に伴い犯罪は増えていたが、殺人事件はまず起こらなかった。しかも、忍による一般市民の殺人とあって二人にもすぐ連絡が入ったのだ。
扉間は、事件場所を聞いて血の気が引いた。
芙蓉の安否を確かめる為に直ぐ飛雷神の術で芙蓉の元へ飛ぼうとしたが、飛べなかった。
その事が事態の深刻さを示していた。
ただ、死んでもマーキングは決して消えない。
扉間のマーキングを解除できるほどの忍が存在しているかもしれない事が、一番深刻な問題だった。
しかしわざわざマーキングを解除して芙蓉を殺し、死体を持ち去るとは考えにくい。
状況からして、芙蓉は椿を殺した忍に誘拐された可能性が高かった。
「火影様、扉間様、このハンカチがここに落ちていました。死亡した被害者の物では無いようですが。」
警務部の忍が遺留品のハンカチを持ってきて、玄関の場所を指さしながら見せた。
「兄者、これは芙蓉のハンカチだ。間違いない。」
「ああ。芙蓉の気配も残っているな…」
扉間はその場にしゃがんで目を閉じ、畳に指を着いて感知を始めた。
「チャクラの残骸を三つ感じる。一つは椿だ。あと二つは…男…千手でもうちはでもない。里に居る一族のチャクラとも違う…他国から来たのか…。⁉…こいつら…まだ里の近くに居る!!」
「どっちの方向ぞ!直ぐに向かうぞ!」
「ここら4~5kmほど十時の方向…千手領地と里との境界線辺りだ。動きはない。」
「千手温泉の辺りか?」
「ああ。おそらく温泉街のどこかに居るな。」
二人は再び顔を見合わせる。
「俺がまず感知で追尾する。居場所が判り次第戻って来る。」
「相手はお前のマーキングを消すほどの力の持ち主かもしれぬ。油断するなよ。」
扉間が飛ぼうとした時だった。
「扉間様!」
カガミとヒルゼン、そしてダンゾウの三人が駆けつけてきた。
忍による殺人事件は中忍以上に知らされ、里の警備が始まっていた。
カガミの目に、扉間の手に握られたハンカチが飛び込んできた。
忘れられない柄だった。
町で同じ撫子柄を見かけると、いつも目で追ってしまっていたほどに…
「ふ・・・芙蓉先生っ!!!」
カガミが扉間と柱間の前をすり抜けて、四畳半の部屋に走って入った。
「!!!」
血の海の上にうつ伏せに横たわる女の死体。動揺して目の前が揺らぐカガミには、それが芙蓉の姿に見えた。
「芙蓉先生ぇ―――っ!!!」
「落ち着けカガミ!それは芙蓉じゃない!!」
死体に掴みかかろうとしたカガミを扉間が直ぐに止めた。
震えながらゆっくりと扉間のほうを振り返ったカガミの目を見て、扉間と柱間は驚いた。
「カガミ・・・お前、今、写輪眼を開眼したのか!」
「扉間様・・・芙蓉先生は?先生はどうしたんだよ!!」
そう叫ぶと写輪眼の巴が複雑に、そして鮮明になってゆく。
「芙蓉は誘拐された可能性が高い。これからそれを俺が確かめに行くところだ。貴様も付いて来い。その写輪眼、さっそく芙蓉の為に使え。」
「・・・はい!」
「お、おい…今開眼したばかりで大丈夫か?それに、相手はお前のマーキングを消せるほどの忍かもしれぬのだぞ!」
柱間が焦って二人に意見した。ヒルゼンとダンゾウも心配そうに顔を見合わせている。
「カガミには俺の感知を教えてきた。今や上忍に勝る能力だ。それにカガミは芙蓉の気配をうちは一族の中で一番知っている。それに加え写輪眼の能力を使えば芙蓉の捜索に役に立つ。カガミだから連れて行くのだ。」
「火影様、任せて下さい。写輪眼の使い方や能力はしっかり学んでいます。芙蓉先生の為に直ぐに役立ててみせます!」
柱間と三人で作戦を立て直し、扉間とカガミは二人で先遣の偵察に行くことになった。
「カガミ。お前が芙蓉のことを心から慕っているのは知っている。だがこれは任務だ。どんな場面でも感情的になるな。感情の乱れは危機を招くという基本を忘れるな。」
「はい!」
・・・先生。俺が必ず助けるから待っててくれ!・・・
◆
「確かにここに居ますね。」
カガミと扉間は千手領地の温泉街にある旅館を離れた建物の影から気配を消して見ている。
椿を殺し、芙蓉を誘拐したと思われる男二人は直ぐに見つかった。
「芙蓉の気配はしないな。どうだ?貴様は何か感じるか?」
「いいえ。俺にも先生の気配は全く感じません。」
「こやつら、確かに手練れの忍のようだが、俺のマーキングを消せるほどの能力があるとは思えない…写輪眼でチャクラの流れを見てみないことには分らんな。よし、行くぞ。」
二人は温泉街の人混みに紛れながら、旅館に入っていった。あっという間に廊下をすり抜け、男二人が居る部屋の襖の前に立っていた。
扉間はカガミに目で合図する。カガミは頷き、静かに写輪眼を発動させると、襖の隙間から部屋の中を見た。
そこには、大の字になっていびきをかく大柄の男と、横向きに丸くなる痩せた男が布団の上で寝ていた。芙蓉の姿は無い。
カガミは写輪眼で男二人のチャクラの流れを観察した。
チャクラに乱れはない。大柄の男は水、痩せた男は風の性質のチャクラだ。チャクラの最大量が量れる心臓を見てみると、確かに木ノ葉の里の上忍レベルの強い忍であるようだが、扉間には遥か及ばない。
今度は部屋の中を見回してみる。すると、さっき四畳半の畳の上に広がっていた血と同じ血が付いたまま鞘に収まる刀があった。椿を殺したのは間違いなくこの男たちだろう。
カガミは扉間の方を向き、目を見て頷いた。扉間も頷き、カガミの右腕に触れると二人の姿は消えた。
スッ・・・
火影室の机に座る柱間の目の前に、扉間とカガミが戻ってきた。
「どうであった⁉芙蓉は居たか⁉」
柱間は二人の姿が鮮明になる前に立ち上がり、その勢いで椅子が後ろに倒れる。
「落ち着け兄者。男二人は見つけた。カガミ、写輪眼で見て分ったことを報告しろ。」
「芙蓉先生は居ませんでした。大柄の男は水性質、痩せ型の男は風性質の忍です。能力は上忍レベルです。男二人が椿さんを殺したことは間違いないようです。椿さんの血が付いた刀を持っていました。幻術にかけられている様子はありませんでした。」
「そうか…ならば呪印専門の術をもっているやもしれぬな。そのような一族は…」
「呪印に特化した一族はいくつか知っているが、俺のマーキングを消せるほどの術をもった一族は居るはずがない…だが、俺たちが知らぬ所でそこまでの術を開発していたのかもしれんな。」
「だが、それなら目的はなんぞ?芙蓉を誘拐する為だけとは考えにくいが…」
「敵の狙いは扉間様の飛雷神の術を分析することなのではないでしょうか?それで芙蓉先生に付けられたマーキングを目当てに、誘拐した…」
「確かに…マーキングを付けられているのが公になっているのは、芙蓉一人ぞ…」
柱間はそう言うと机に手を突き、俯いた。
「やはり、芙蓉はマーキングを追跡できない強力な結界の中に居るか、それとも既にマーキングが外されているかどちらかだな。」
扉間は腕を組み、目を閉じて言った。
・・・マーキングが外されたあとの芙蓉は・・・
扉間と柱間が黙り込む様子を見て、カガミが声を上げる。
「とにかく!一刻も早く男二人を拘束し、知っている事を全て吐かせましょう!」
「そうだな!よし、扉間、三人で行くぞ!」
「ああ!必ず吐かせてやる!」
カガミの声に二人は我に返った。冷静な分析の結果の中には、希望もあるのだ。
扉間はカガミと扉間の方に手を置き、再び男二人の元へ飛んだ。
◆
「「わぁぁぁ―っ!!」」
男二人はさっきまで旅館の部屋で熟睡していたはずが、叫び声を出して気が付けば森の中で木に縛り付けられていた。
そして目の前には、火影とその弟と、見知らぬ少年が立っている。
「…こ、これはこれは…火影様と扉間様ではないですか。お偉いお二人が私たちに何の用ですか?」
痩せた男のほうが、明らかに動揺した様子で言った。
「身に覚えは無いとは言わせぬぞ。椿を殺したのはお前たちだな。芙蓉の身柄はどうした?」
柱間が男二人に近づいて問う。
「こちらも依頼でしてね…そう簡単に口を割るわけにはいかないんですよ。どんなに拷問しても無駄ですよ。貴方には遠く及ばぬとはいえ、私たちも一流の忍です。幻術にかけても絶対に吐きはしませんよ…フフ。」
「フン…アンタたちだって依頼や任務だったら人くらい殺すだろう…」
男二人は絶対に何も言わないという自信をもって不敵な笑みを浮かべている。
「この眼を見てもそう言えるか?」
カガミは柱間の隣りに立ち、写輪眼を発動させて男二人を睨みつけた。
「それは…写輪眼か。だがガキの…」
痩せた男がしゃべり終わる前にカガミは男二人に瞳術をかけた。二人の動きが止まる。
「まず痩せた男のほうの記憶から見ていきます。」
「ああ!頼む!」
カガミは目を凝らし、痩せた男の瞳の奥を見つめると、徐々にカガミの頭の中に男の記憶の画像が映し出されてきた。遡れるところまで遡る。
「椿さんが痩せてる男に風遁の術で拘束され、刀で刺されて倒れました。椿さんは男たちとは面識が無かったようで、いきなり襲われています…。芙蓉先生が家に入って来て椿さんを発見し、そこに二人が現れ、大柄の男の方が先生を抱きかかえて眠らせました…。⁉…温泉街の影で黒いマントの面をした男に先生を渡し、金銭を受け取りました。その男の名前は…ワダチです!……」
カガミはそこまで言うと、ガクっとその場に片膝を付いてしゃがみこんだ。
「大丈夫か。よく頑張ったな…」
扉間がそう言ってカガミを後ろから支えた。
「大丈夫です!まだ、いけます・・・」
「いや、無理をするでない。それより奴らにまだ瞳術にかけておいてくれ。『ワダチ』・・・扉間、お前聞き覚えはあるか?」
「いや聞いたことが無い。だが、忍ならばなぜ自分で芙蓉を誘拐しないのだ。わざわざこいつらを雇って、どういうつもりだ。」
「おそらくワダチという名も偽名だろう。自ら動いて里に気づかれ、素性を探られるのを避けたのだろうな。とにかく、そのワダチという男を探すぞ!」
「その為にはもっと情報が必要だ・・・あれを使う。」
扉間はそう言って木と写輪眼の幻術に縛られて茫然としている男二人を、これまでにない冷たい目で見た。
「まさか・・・穢土転生か!だがその術は・・・」
「こういう時の為に開発したのだ。今使わないでどうする。」
「・・・えどてんせい?」
「貴様はもう幻術を解いて構わん。これから先は俺がやる。」
「は、はい・・・」
扉間はカガミから手を離し、立ち上がると男たちに近寄って行った。
「待て扉間!うちはの上忍を連れて来て続きの記憶を見ればよいではないか!その間に俺たちでワダチと芙蓉の捜索を・・・」
「黙れ!!そんな時間は無い!兄者は本当に甘すぎる。今の状況をよく考えろ。」
怒りのチャクラのこもった言葉にカガミがビクッとする。扉間は本気で怒っている。
・・・グサッ!!
扉間は腰の刀を抜き、無言で痩せた男の心臓を躊躇なく突き刺した。
幻術を解かれた大柄の男が、その様子を隣りで見て動揺している。
扉間は男の首に手を当て絶命したのを確かめると、今度は大柄の男へ歩み寄った。
「俺たちを殺したとて、情報は手に入らんぞ!」
男の言葉を無視し、扉間は素早く両手で印を結ぶ。
「穢土転生の術!!」
「ぐあぁぁぁぁ・・・」
男の身体に無数の塵が集まって張り付いてゆく。それに比例して男の呻き声が薄れてゆく。
「火影様…穢土転生とはいったい…?」
後ろに下がって扉間の術を見守るカガミが隣の柱間に問う。
「・・・見ていれば解る。あまり良い術ではないがな・・・」
火影が“良い術ではない”と苦言を呈するとは、いったいどんな術なのか…。
塵に全て覆われた男の身体が縮んでゆく。すると、徐々にその塵の表面に先ほど殺された痩せた男の姿が浮かび上がってきた。暫くすると、大柄の男の姿は完全に痩せた男の姿と入れ替わってしまった。だが、その目だけは黒く濁っている。
「・・・!!」
カガミは驚いて言葉も出ない。
そして扉間は、術札の付いたクナイを取り出し、その男の後頭部に突き刺した。
「さぁ、知っている事を全て吐いてもらうぞ。」
「い、いったい何が起きたのですか!」
「穢土転生。見た通り、生きている人間を生贄に、死んだ人間を蘇らせる術だ。そして術札によってその人格を縛り、完全な操り人形と化し情報を聞き出す・・・それが扉間の言う、穢土転生という禁術だ。まぁ他にも使い方はあるようだが・・・」
柱間は少しだけ呆れたような、諦めたような口調でカガミに言った。
「ワダチとは何者だ?何を頼まれた?年はどれくらいだ?」
扉間が穢土転生で蘇った男に問うと、男は素直に話し始めた。
「…雲の国の忍だと聞いた。いつも面をしていて顔は知らない。声からして三十代くらいだと思う。妻の芙蓉が木ノ葉の里に逃げ、不貞をしているから連れ戻すように頼まれた。闇商売をしている事情で自分では動けないからと。ワダチに操られた椿は芙蓉をおびき出す役で、芙蓉が来ることを確認したら口封じと芙蓉を動揺させる為に殺し、芙蓉を連れ去る計画だった…」
「不貞の相手は聞いたか?俺のマーキングが芙蓉に付いていることを、お前たちは知っていたのか?」
「…不貞の相手は知らない。マーキングのことも知らない…」
それを聞いて扉間が柱間の方に振り返る。
「やはりワダチという男の狙いは、芙蓉か・・・」
柱間が顔を歪めて目を伏せる。扉間はまた質問を続ける。
「ワダチのチャクラはどんな感じだった?性質は?」
「…千手一族に似ていた。あと、そこに居るうちは一族にも似ていた…性質は分らない。弱いガキの忍並みのチャクラだったが…」
三人は顔を見合わせた。
「千手にも、うちはにも似ているチャクラだと⁉・・・どういうことぞ!」
「木ノ葉の里が出来てまだ三年も経っていない今、両方の血を引く成人した男が存在するというのでしょうか?」
「居ないとは言いきれないが、ほぼあり得ないことだ。」
「もし居たとすれば、千手とうちは、両方に恨みを持つ者かもしれぬな・・・」
事態は更に深刻に、そして複雑になってきた。
ワダチとはいったい何者で、どこに居るのか。
なぜ芙蓉を誘拐したのか。
ワダチは芙蓉のマーキングを外したのか、外していないのか。
本当の目的は何なのか。
「とにかくこうなったからには俺たちだけで動くわけにはいかぬ。芙蓉の安否は気になるが、里への脅威になる可能性がある以上、いったん里に帰るぞ。」
「仕方がないな…だがもう少しこいつから情報を聞いておく。」
カガミは、扉間の残虐な禁術を目の当たりにして若干引いていた。
だが、ここまでしなくては芙蓉を助けられないのかと、自分の未熟な万華鏡写輪眼を悔しく思った。しかし悔いている暇は無い。
一刻も早く、芙蓉の行方の手掛かりを見つけなくては…。
・・・この眼で必ず!・・・
◆
目を閉じ、仰向けに横たわって動かなくなった芙蓉に、マダラは丁寧に服を着せてゆく。
その所作一つ一つに、これまでの芙蓉との想い出が浮かんでは泡の様に消えてゆく。
服を着せ終えると、最後に乱れた髪を優しく撫でて整える。
神社の小窓からは真昼の眩しい光が差し込み、部屋をほんのりと暖めている。
辺りの森では小鳥が囀りながら飛び交っている。
マダラは写輪眼を発動し、異空間に飛ばしていた扉間のマーキングを取り出すと、再び芙蓉の左手首に戻した。
「これでもう、お互い苦しむ必要は無くなったな・・・」
芙蓉の頬に優しく触れた後、マダラは姿を消した。
その時、檜枝岐神社の上空を、冬を前に海を渡るオオルリが一羽、飛び去って行った。
◆
柱間と扉間、カガミが里に戻ると、木ノ葉の里は一気に緊張した空気に包まれた。
ワダチと名乗る謎の忍により芙蓉が誘拐され、扉間のマーキングが外されたかもしれないという事態に、里の中忍以上の忍たちは動揺を隠せなかった。
扉間のマーキングを外せるのは、柱間と今は亡きマダラレベルの忍しかいない。そのレベルの忍が里を狙っている可能性と、呪印に特化した忍が里を襲う可能性は大きな脅威だ。
またこの事件の発生により、唯一うちは一族を除き、千手一族やそのほかの一族からは、芙蓉を監獄に入れるべきだった、死刑にしておけば良かったと言い出す者まで現れていた。
事態は、マダラの事件を彷彿とさせるものであった。
「扉間様・・・俺、どんな事態になっても感情的にならないって誓いました。でも、芙蓉先生が悪者になっているこの事態には憤りを隠せません・・・」
「貴様だけではない。俺もだ。芙蓉が戻って来てもまた、困難が待ち受けているな・・・」
二人は木ノ葉の里本部の屋上から、忙しなく行き交う忍たちを見下ろして言った。
「芙蓉先生が里に帰ってきたら、俺が全力で守ります。誰にも、絶対、先生を傷つけさせたりしない!!だから早く、早く先生を見つけないと・・・!」
カガミは悔しそうに頭を下げ、右手で柵を強く殴った。
その肩に扉間がそっと手を置く。扉間もカガミと全く同じ気持ちだった。
『・・・俺、まだ写輪眼は開眼してないけど、開眼したらあのマダラを超える自信がある!そしたら先生・・・俺と・・・俺と結婚して!』
あの日、扉間は芙蓉とカガミの会話を聞いてしまっていた。
それ以来、扉間は少年であるカガミの、芙蓉への真っ直ぐな恋心に、かつて自分が少年時代に芙蓉へ向けられなかった気持ちを重ねていた。
ピールーリー・・・
高く澄んだ鳴き声がした。
二人にはそれが芙蓉の笑い声のように聞こえ、不意に空を見上げた。
白い腹をした鳥が通り過ぎたと思ったとたん、直ぐに翻り、方向転換して青い背を見せる。
「オオルリか・・・もう秋なのに、まだ居るのか・・・」
扉間はそう言ってオオルリの姿を目で追う。すると、またこちらに向かって飛んで来る。
ちょうど扉間とカガミの頭上に来た時、オオルリの姿がキラリと光った。
するとその光だけが落ちてくるではないか。
オオルリが光ったのではなく、オオルリが持っていた何かを落としたようだ。
コツンッ。コロコロコロ・・・・
扉間の左隣、数メートル先にその光るものが落ちて転がった。
「・・・⁉」
扉間はそれに駆け寄り、拾い上げた。
「これは・・・芙蓉の髪留めだ!!」
直ぐに再び空を見上げ、オオルリの姿を追う。オオルリは里の端に向かって飛んでいく。
そのオオルリを感知してみるが、なんのチャクラも感じない。
だが、こんな偶然はあり得ない。誰かが意図的に、自分に向けて差し向けたに違いなかった。
扉間に駆け寄り髪留めを見たカガミも急いで写輪眼を発動してオオルリを見た。だが、やはりなんのチャクラも感じられなかった。
「扉間様、ワダチという男が仕向けたのでしょうか。」
「ああ・・・。これはもう一度、芙蓉の元へ飛べるか試してみるべきかも知らん。」
「そうですね・・・俺も、そんな気がします。」
扉間は頷き、飛雷神の術を行った。
フッ・・・ストン。
扉間の目の前の景色が変わり、着地した。
飛べた。
そして直ぐに、目の前に床に横たわる芙蓉に気が付いた。
「芙蓉っ!!!」
◆
「・・・はい。この先、マダラさまの隣りに居ても、もう心は一緒に居られないから。」
「それが、お前の答えか?」
「・・・はい。ですから、我儘かもしれませんが、私を、マダラさまを裏切った妻のまま、今ここで殺して下さい。」
芙蓉はそう言って、微笑んだ。
マダラはその瞳の奥に、揺るがない光を見た。
その光はマダラの写輪眼であっても、決して消すことは不可能だと悟った。
そして、その光は奇しくも、他の誰でもない、自分が灯したのだということも…。
マダラは無言でマントを脱いで床に落とし、上着を脱ぐ。
芙蓉の目の前に、恋焦がれた、愛おしく、美しい胸板が現れる。
無意識に、いつものように、芙蓉は両手をマダラに向かって広げていた。
マダラはその腕の中に吸い込まれるように、芙蓉の胸に顔を埋めた。
白く柔らかで、滑らかな芙蓉の肌がマダラの身体に吸い付くように重なる。
マダラの指は、芙蓉の存在を覚えておくためかのように、丁寧に身体をなぞっていく。
「ああぁ…」
夜明け前の静まり返った空間に、芙蓉の吐息と、二人の口づけの音だけが響く。
空には月も太陽も無く、ただ瑠璃色だけが続いていた。
ハァハァハァ・・・
二人は絶頂を迎え、抱き合って放心していた。
マダラがゆっくりと身体を離し、芙蓉の顔を見た。
芙蓉は幸せそうに微笑んでいる。
それは、マダラが芙蓉を愛し始めた頃から何も変わらない、愛する笑顔だった。
「ヘッ。どうせ裏切るなら、涙ぐらい見せろよ・・・」
マダラは苦笑いした。僅かに潤んだその目には写輪眼が浮かんでいる。
「ごめんなさい・・・私、最後まで貴方を困らせてばかりですね。」
芙蓉も苦笑した。
「ああ、そうだな。だがこれで最後だ。」
マダラはそう言うと、意を決したように素早く印を結んだ。
万華鏡写輪眼が芙蓉の瞳をすり抜け、脳裏まで貫いて強烈に焼き付く。
そして声も出せないほどの頭痛が芙蓉を襲い、あまりの痛みに心臓まで締め付けられる。
『マダラさまと二人で、一生一緒に生きてゆけますように』
芙蓉が意識を失いそうになる瞬間、いつか願った言葉が通り過ぎた。
・・・あの願いはちゃんと、叶った・・・