猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、うたたねコハル、水戸門ホムラです。
この物語では、絶対に、ずぇったいに、居なくならないマダラ。w
最強の忍・マダラVS最強の教師・芙蓉。かつての夫婦の対決の行方は!?
芙蓉は扉間への愛を貫き通すことができるのか・・・!?
※芙蓉と扉間と弟子と樹が皆で大食いチャレンジしますw
昨日は思ってもよらない扉間からの求婚で、その後の塾の授業では集中力を欠いてしまった。
それは喜びから心が浮つくという良いものでは無く、明らかな動揺だった。
勿論、扉間からの求婚はとても嬉しかった。
求婚の返事に一瞬迷ってしまったが、同時に、マダラと決着をつけるという覚悟を確固たるものにする為にも、ハッキリと承諾した。
マダラと決着をつけ、必ず扉間と結婚する。
そう思っているものの、やはり不安と恐怖は消すことが出来ない。
…コンコンコン。部屋のドアを叩く音がした。
「芙蓉。樹が迎えに来ているぞ。」
「は、はい!今行きます!」
芙蓉は鞄を手に持ち、急いで部屋を出る。
「珍しいな。お前が樹の声に気付かないなんて。俺も下から何度も呼んだのに。」
部屋から出て来た芙蓉に、扉間が不思議そうな顔で言った。
「すみません。昨日の事を思い出してついぼーっとしちゃいました。エヘヘ…あの!樹ちゃんには伝えても大丈夫ですか?」
「あ、ああ。構わん。」
「ウフフ。良かった!じゃあ、行ってきますね。」
芙蓉はそう言うと早足で階段を下りて玄関に向かった。
「樹ちゃんお待たせ!ごめんね。」
「全然大丈夫。じゃ、いこっか。扉間さま~、んじゃ芙蓉借りて行きますね~」
「くれぐれも気を付けるんだぞ。十五時には迎えに行くからな。」
「ハイハーイ。分ってますよ~だ。」
「ハイは一回で良い。お前相変わらずホント態度悪いな。勤務時以外でももっと俺に…」
「行くよ~芙蓉!」
「い、行ってきます!」
扉間の話を無視して、樹は芙蓉の背中を押して玄関を出て行った。
「まったく・・・」
閉められた玄関に向かって扉間は一人、苦笑した。
「嘘でしょ⁉」
「い、樹ちゃん、声が大きいよ…!」
二人は元千手領地に着き、女学校近くの定食屋で昼食をとっていた。
この辺りは木ノ葉の里へ向かう人たちの休憩地点として栄えており、今でも多くの人が住み、食事処や宿屋が何件も立ち並んでいる。
食事を終えたタイミングで芙蓉は樹に、昨日扉間から求婚されたことを伝えたのだった。
「だ、だって・・・驚くに決まってる・・・じゃん・・・」
「そうだよね・・・私も、凄く驚いたもん・・・」
「・・・・・・」
「・・・樹、ちゃん?」
「で?返事はしたの?」
「うん・・・お受けしますって、答えたよ。」
「そ、そうなんだ・・・」
そう言うと樹は空になった膳に目を落とし、黙ってしまった。芙蓉もその表情を見て俯き、何と言おうか言葉を探して無言になる。
「…さっ!ぐずぐずしてたら時間無くなっちゃうよ。早く女学校行こう!」
そう言って樹が沈黙を破り、席を立つ。芙蓉は樹が怒っているのかもしれないと不安に思いつつ、焦って席を立ち樹の後ろを追った。
「あれ?休館日って書いてある…今日は休館日じゃないはずなのに…どうして?」
資料館になっている元女学校の門は閉ざされ、休館日を知らせる看板が掛かっている。
「せっかく来たんだしさ。こっそり入っちゃおうよ。ね?」
「で、でも…それは流石に…」
「いいじゃん!いいじゃん! ほら、鍵空いたし。」
樹は芙蓉の言葉を無視して開錠術で門の鍵を開けた。
「う、うん・・・じゃあ、少しだけだよ。ちょっと見たらすぐ出ようね。」
「分かってるって!さっ、行こう。」
樹は芙蓉の手を引っ張って門の中に入れ、再び門の鍵を閉めた。その様子を見て芙蓉は言い知れぬ不安を覚えたが、樹に手を引かれるまま行くしかなかった。
それから二人は校内を見て回った。
最初に教室、家庭科室、理科室、茶室、教員室と回った。
教室は千手一族の歴史や女学校の歴史などの展示室となっており、その他の場所は道具や器具が全て撤去され、ただの箱となっていた。
最後に、渡り廊下を渡り武道館へ向かう。
「校庭の桜はそのままだね。やっぱり、樹ちゃんと一緒に卒業式、出たかったなぁ…」
芙蓉が足を止め、すっかり葉桜になっている桜並木を見て呟いた。
「そうだね…。あの頃だっけ。芙蓉がマダラに出会ったの…」
「え⁉・・・うっ、うん・・・」
突然樹の口からマダラの名前が飛び出し、芙蓉は明らかに動揺してしまう。
そこへ突然強い風が吹き、桜の枝木が一斉にザワワワと音を立てて大きく揺れた。
芙蓉は驚いて思わず身構えた。
その手を、樹がおもむろに掴む。
「芙蓉。行こう。」
「うん・・・」
武道館の重い扉を開けると、ヒンヤリとした空気が流れ出て来た。
中央まで進むと、樹は繋いでいた手を離し、芙蓉に背を向けて数歩前に出て黙り込む。
樹は芙蓉が扉間から求婚されたことが気に障ったのだと思い、芙蓉は何とか樹の気持ちを宥めようと昔の話を話し始める。
「剣術の稽古の時、樹ちゃん、皆からカッコイイ!って大人気だったよね。樹ちゃんは昔から本当に素敵でカッコ良かったなぁ・・・」
「・・・・・・」
「樹ちゃん・・・扉間さまと結婚すること、怒ってる?」
樹は芙蓉の言葉を無視し、更に数歩前に歩み出る。
「祝福はできんな。」
その声に、芙蓉が後ろを振り向くと、そこにはマダラが居た。
「・・・マダラ・・・さま」
しかし、すぐに目の前のマダラの姿は消え失せた。
再び振り返ると、樹の隣りにマダラが居るではないか。
「樹ちゃん!!」
マダラは樹の肩を持ち、芙蓉の方に振り向かせた。
樹の目には、写輪眼が映っている。
「樹を迎えに遣らせるなんて、気が利くだろ?」
「どっ、どうして・・・どうして樹ちゃんを⁉」
「禁固呪の札。以前俺がお前を残して里を出る時、樹にも仕込んでおいたのさ。幻術をかけたのは千手領地に入ってからだけどな。」
「っ…!! 私はこうしてあなたの前に来たわ。今すぐ樹ちゃんの術を解いて!!」
「その前に。お前にやってもらうことがある。」
「?」
「扉間を殺して来い。」
「⁉ そ、そんなこと、出来るわけがないじゃないっ!!」
「抱かれている時に寝首を掻け。それがダメなら、お前が死なないなら自分が死ぬと迫れ。
まぁ、あいつは卑劣な奴だから、それでもダメかもしれんが・・・。だが、信頼し愛した女に裏切られる苦しみは充分与えられるだろう。フフッ」
「そ、そんなっ・・・」
「出来ないと言うなら、樹の命は無いぞ。」
芙蓉は俯き、唇を噛みしめた。
しかしすぐに顔を上げマダラを睨みつける。
そして、突然壁に向かって勢いよく走り出した。
ガシッ!!
芙蓉は素早く壁に掛かっていた木刀を手に取り、マダラに向かって構えた。
「アハハハハ!おいおい。そんなもので俺とやるつもりか?」
芙蓉は両手でしっかりと木刀を握り直すと、一直線にマダラに向かって走っていく。
バシッ!
マダラがその木刀を片手で掴み、そのまま振り払う。
芙蓉は力いっぱい木刀を握っていたため床に倒れてしまった。
それでも芙蓉は木刀を握り締めている。
そして急いで立ち上がった。
「ヤァ―――っ!!」
声を上げ、再びマダラに木刀を振り下ろす。
しかし今度は掴むまでも無くマダラは木刀を片手で薙ぎ払うが、それでも芙蓉は木刀を離さない。
いくら振り払われても、何度も、何度も、諦めることなくマダラに木刀を振り下ろす。
「ワハハハ!…分った、分かった。芙蓉。お前が剣術が得意なのは…だが残念ながらお前如きの力では、俺の用心棒にはなれないがなぁ。」
・・・なんとか、扉間さまが迎えに来てくれるまで時間を稼ぐしかないっ!・・・
芙蓉はいったん木刀を腰の位置に下げると、マダラの後ろに立ちまわる。
そして身体を低くし、マダラの足の甲めがけて木刀を打ちつけようとした。
ザシュッ!!
ついにマダラは右手で腰の刀を鞘から抜き、芙蓉の木刀を真っ二つに斬った。
「お遊びはここまでだ。」
それでも芙蓉はマダラの言葉を無視し、立ち上がると斬られて尖った木刀をマダラの腹めがけて身体ごと突っ込んでいく。
マダラはその木刀を左手で掴んだ。
それでも芙蓉は力を込め、足を踏ん張り、マダラの腹めがけ、掴まれた木刀を刺そうと手を震わせる。
・・・負けない。絶対に!!!・・・
「ハァ…」
グサッ!
マダラは溜息を吐くと、右手に持っていた刀を樹の腹に刺した。
・・・ドサッ!
樹はその場に仰向けに倒れた。
「!!!」
「樹で終わりと思うなよ。次は誰だろうな…うちはカガミか?それとも扉間の弟子のガキ共にするか?お前が抗えば抗うほど誰かが死ぬだけだぞ。」
「・・・・。」
カランカラン。
無音の空間に木刀が床に転がる音が短く響いた。
ついに芙蓉は、その場に力無く両膝を付き、木刀から手を離してしまった。
「・・・樹・・・ちゃん・・・」
「ようやく俺に跪いたな。」
マダラは芙蓉の前に立ち、その顎を持つと、無理やり顔を上げさせる。
「・・・。」
「お前、今すげぇいい顔してるぜ。」
芙蓉は、すがるような目でマダラを見上げ、弱弱しい声で言う。
「・・・分りました・・・あなたの、言う通りに、します・・・」
「フン。やっとかよ。頑固なところは相変わらずだな。」
芙蓉はマダラの目を見つめたまま、おもむろに、ゆっくりとマダラに向かって両手を伸ばした。
マダラにとってそれは懐かしくもあり、何度も思い出す忘れられない光景だった。
どんな宝石よりも美しいと疑わなかった芙蓉の二重の大きな目、長いまつ毛、そして琥珀色の潤んだ瞳はマダラを捕らえて離さない。
マダラは気付けば芙蓉の両腕を持ち、ゆっくり立ち上がらせていた。
そして、二人は見つめ合う。
「マダラさま・・・私、やっぱりあなたを、愛しています。」
その言葉に、おのずと二人の顔が近づいてゆく。
しかし芙蓉の心臓の鼓動はこれまで生きてきた中で一番速いのではないかと思うほど高鳴り、目の前にあるマダラの顔がその振動でグラグラと揺れているように見える。
芙蓉はそれに耐えられなくなり、そっと目を閉じた。
『 芙蓉なら、絶対大丈夫 』
その時、瞼の裏に自分に似た女性が現れ芙蓉に話しかけた。
・・・お母・・・さ・・・ま・・・?・・・
そう思った瞬間、芙蓉とマダラの唇が重なった。
芙蓉は反射的にマダラの頭を抱き寄せると強く唇を吸った。
・・・本当に愛してた。だから、もう・・・
『マダラさま。貴方を開放する。永遠に、さようなら。』
そう心の中で力強く、呟いた。
「・・・うっ!ううっ!!・・・!!!」
マダラは突然、両目を抑え悶絶し始めた。
芙蓉は一瞬その様子にうろたえたが、その隙に急いで樹に駆け寄る。
まだ息がある。
急いで自分の帯を解き、樹の腹に巻いて傷口を抑えた。
「芙蓉・・・お前っ・・・俺に何をしたぁ――っ!!!」
マダラはあまりの激痛に、ついには床に両膝を付き動けなくなっていた。
マダラに対しなすすべを無くした芙蓉は、気づけばゼツに言われた通りの行為をしていた。
それで本当に、自分がマダラにかけたという『傾国の術』が解除されたのかは分らない。
しかし、マダラは急に両目を抑えて苦しみ始めたのだ。
いったい何が起きたのか分らず、芙蓉は震えながら、ただ茫然とその様子を見つめていた。
「ゆ、許さんぞっ・・・芙蓉ぉっ・・・・」
マダラの意識は次第に遠のいてゆく。
あまりの激痛に呼吸すらままらなくなり、悶絶しながらも、頭には芙蓉との、あの日の残像が浮かんでくる。
マダラに抱え上げられ、芙蓉はマダラの顔の前にそれを差し出した。
思わず、鮮やかな赤いモミジ越しに、目が合う、そして…。
・・・芙蓉・・・・・・
マダラは意識を失い、その場にうつ伏せて倒れた。
「やった。成功したみたいだ。」
「!」
芙蓉の首元から黒い物体が伸びて離れ、そのまま地を這いマダラの方へ向かって行った。
その黒い物体、ゼツは、マダラの頭の前に来ると再び喋り始めた。
「ありがとう。これでマダラは君から解放されたよ。あ、安心して。死んでないから。ただ、両目は失明しちゃったけどね。」
「えっ・・・」
「別に君は気にしなくていいよ。マダラは失明くらいで困るような弱い忍じゃないし。君のことも記憶から無くなったし、これからは自由に生きてくよ。」
芙蓉はゼツの言葉を聞き唖然としながらも、思わず言葉を洩らす。
「・・・里には・・・木ノ葉の里には、戻って来ないの?・・・」
「アハハ。それは絶対に無いよ。それもマダラの意思だもん。・・・それじゃ、もう行くね。」
「待って!」
「何?もうマダラに何を言っても無意味だけど?」
「・・・・・」
ゼツとマダラの姿は次第に薄くなってゆき、気づけば姿を消していた。
「樹ちゃん!しっかりして!!樹ちゃんっ!!!」
芙蓉は必死に樹に声を掛ける。
「・・・ん、んんっ・・・」
「樹ちゃん!!」
「・・・あれ?私、なんで横になってるの?ていうか、ここどこだっけ?」
そう言うと、樹はむくっと勢いよく起き上がった。
その勢いで樹の腹の傷を抑えていた芙蓉の手と帯が外れた。
芙蓉は焦って樹の傷口を見た。
「傷が・・・無い・・・?」
「え?傷?何のこと?」
樹の腹には傷も、傷から流れ出た血の跡も無くなっていた。
いや、最初から傷など、無かったのだ。
・・・マダラさま・・・やっぱり、貴方というひとは・・・
「ねぇねぇ!ホント、私どうしたんだっけ⁉」
樹は青い瞳の目を大きく見開いて芙蓉の顔を凝視し、答えを待っている。
「えっ⁉あっ、うん・・・実は・・・・・ワダチが現れたの。」
「えぇっ!マジっ!!!芙蓉、大丈夫だった⁉てか、ワダチどこ⁉」
「うん。・・・樹ちゃんが退治してくれたんだよ・・・でも樹ちゃん、勢いよく後ろに倒れちゃって、気を失ってたの。」
「嘘でしょ⁉いや、全然覚えてないし!!」
「本当だよ!樹ちゃん、すっごくカッコ良かったんだから!助けてくれて、ありがとう…本当に、良かった…良かった…」
芙蓉は樹の首に抱き着き、泣き始めた。
「う、うん・・・」
樹は全く解せない様子だが、芙蓉の背中に手を回し、抱き締め慰める。
武道館の空気は変わらず冷たく、静まり返っている。
まるで、何事も無かったかの様に…
「おい!どうした!何があった!!」
扉間が現れ、二人の様子に驚いて駆け寄る。
「・・・扉間さま。」
芙蓉は、扉間の姿を目にすると、滝のように涙を流し始めた。一方、樹は茫然として扉間を見上げている。
「樹、何があったんだ。説明しろ。」
「それが・・・」
「ワダチが現れて、樹ちゃんが退治してくれたんです。」
「ワダチが⁉樹、本当か?」
「えっと・・・それが、何も覚えていなくて・・・」
「何⁉」
「扉間さま、私が説明します。」
「分かった。その前に感知してみる。」
扉間は芙蓉の説明を聞く前に、武道館と女学校内を感知してみたが、全く異常は無かった。
以前、穢土転生で尋問した忍から聞いた、千手とうちは両方のチャクラを併せ持つチャクラらしきものも感じない。
扉間は目を開け、ゆっくりと立ち上がる。
それから芙蓉は、扉間にワダチが現れ樹がワダチを倒した様子を説明した。
武道館に入った途端、面とマントのフードで顔を隠したワダチが現れ二人に襲いかかった。ワダチの目的はやはり芙蓉だった。ワダチは以前、芙蓉に求婚して断られたを恨んでいた忍だった。先の殺人事件を起こした目的は、事件の混乱に乗じて芙蓉を奪うという作戦だった。柱間と扉間の追跡に一旦は退散したが、芙蓉が里の外に出る機会を窺っていた。
樹が風遁の術で応戦し、樹の渾身の一撃でワダチは倒れ絶命した。その時、樹も技の衝撃で後ろに倒れて気を失ってしまった。芙蓉がワダチの絶命を確かめている最中に、その死体は姿を消した。真っ二つになった木刀は、芙蓉が加勢しようとしたが、ワダチの刀によって斬られたもの…。
勿論、全てが作り話である。
芙蓉の説明は完璧なものでは無く、扉間には矛盾を感じるものだった。
しかし、芙蓉は忍についても、忍術についても知識が無いのは扉間が一番知っている。それに今は恐怖で動揺している状態だ。矛盾と説明不足は、それが所以だと扉間は判断した。
ワダチの死体が無いため、本当に死んだのか不審が残るが、それらしいチャクラも感じないし、芙蓉が絶命を確かめたというのであればいったんは安心できるだろう。
扉間は二人を連れて里に戻ることにした。
◆
いつもと変わらない松明の炎が揺れ、壁に影が伸びている。
その影は、横たわるマダラの影だ。
動くはずの無いその顔を天井から見下ろし、ゼツが呟き始める。
「まったく、芝居するのも疲れるねぇ・・・。
マダラ。お前に己の意思なんてとっくの昔に無いんだよ。
お前が先の夢とほざいてる事も母さんの意思の一部に過ぎない・・・
これまで散々楽しませてやったんだ。
母さんの復活の為、死ぬまで、いいや死んでも働いて貰うからね。フフフ・・・」
◆
「なんと⁉俺のおらぬ間にそんな事が起きておったとは!・・・とにかく、芙蓉が無事で良かったぞ!それに、これでもうワダチの脅威はほぼ無くなったわけだな。」
尾獣を砂隠れの里に譲る判断をし、先ほど帰還した柱間に、扉間は先日の出来事を報告するため屋敷に訪れていた。
ミトや使用人たちに話を聞かれないよう、二人は隠し部屋で話している。
「ああ…。だが引き続き定期的な警戒は続ける。他にも芙蓉を狙う者、木ノ葉を狙う者の存在と発生は否定できんからな。」
「うむ、そうだな。その為にもこの際、芙蓉と夫婦になった方が色々と楽ぞ?ハハハハッ!」
「そうだな。その通りだ。」
「はっ⁉え?い、いま同意したのか?ホントに??えっ、えっ?マジ??」
「自分で話を振っといて、動揺しすぎだろ。」
「いやいや、まったくの冗談のつもりでは無かったが、いつもの調子でツッコまれることを期待、いや想定しておったからビックリしたぞ!あははは・・・はは。」
そう笑っているものの、柱間は明らかに落込んでいるように見える。その様子に勿論気付いている扉間が更に畳みかける。
「先日求婚して、承諾も貰った。結婚する。」
「はっ?・・・そ、そうなんぞ?・・・お、おめでとう!いやぁ~ついにか!良かったぞ!本当に!わはははは・・・・はは・・」
柱間は胡坐をかいた足に両手をつき、うな垂れて何度も頷きながら力なく笑っている。
・・・まったく。自分で結婚を迫っておいて、いざ結婚するとなると落ち込むとは。想定通りの反応だな。兄の心情と男の心情の狭間ってやつか・・・
扉間はそう思い、少し苦笑しながら柱間の様子を見つめた。
ガバッ!
「ていうか、いつ求婚したんだ?求婚の言葉は何ぞ⁉どこでしたんぞ⁉芙蓉の反応は⁉まさかデキ婚じゃあるまいな⁉」
勢いよく顔を上げた柱間は目をギラつかせながら、質問ごとに扉間の顔に顔を近づけていく。
「あーっ!もうっ!そんなに矢継ぎ早に質問されては答えられん!てか顔近い!」
そう言って扉間はグイッと柱間の顔面を両手で押し返した。
「ゴホンっ…。兄者が出かけてから四日目だったかな。顔岩展望所で。その場で承諾を貰った。子供は出来ていない。以上だ。」
「任務報告じゃないんぞ?もっとこう、ワイドショー的にファンに向けて面白く話を広げて語れんのかぁ?」
「お前はいつから芸能レポーターになったんだ?」
「予行練習ぞ!お前の結婚を発表すれば里じゅう、いや火の国じゅうからもインタビュアーが詰めかけるぞ?お前にはしっかりと応対して貰わんとな。ガハハハハ!」
「アホか。俺は結婚を公表するつもりは無い。結婚式もな。」
そう言うと扉間は腕を組み、目を閉じて少し俯いた。それを見て柱間が言う。
「何を言うておる!ワダチの問題も解決したのだ。めでたいことはしっかり祝うべきぞ!」
「芙蓉が嫌がる。それに…散々否定しておいて自分で言うのも難だが、同棲して長いしな。今更改まって色々と結婚の儀を行う必要も無いだろ。」
ダンッ!ゴンッ!
柱間は勢いよく立ち上がって天井で思いきり頭を打った。隠し部屋は狭く天井も低い。
「…ってぇ!…と、とにかくだなっ、せめて身内だけででも結婚式はするんだ!一緒に居るのが当たり前になってはならん。芙蓉にとって結婚は二度目かもしれぬが、それでも結婚式は女にとって特別なものなのだ。それに美しい芙蓉の晴れ姿、お前も見たいだろ?」
「クックックッ…アハハハハ!…兄者らしいというか、らしくないというか。ククッ…いや、うん、確かに正直言うと、俺も見たいな。」
涙目で頭頂部を撫でて痛がっている柱間を上目遣いで見上げながら、扉間は口を押えて笑って言った。
「だろ?お前が言えぬなら俺が言ってやろうか。」
「断る。」
「即答かよっ!」
◆
五月も半ばになり、晴れた日には初夏の暑さで道に逃げ水が見られる日もあるほどだ。今日も見事な五月晴れで、田植えの終わった水田の畔には紫色の菖蒲が咲いている。
芙蓉と樹は蝶屋に居た。
蝶屋は芙蓉の思った通り、以前柱間の結婚式の引出物に蝶屋の菓子が使われたことで更に人気が沸騰し、ついに先月店舗を拡張した。
二人はその改装後に出来た大きめの個室の席に仲良く並んで座っている。
「ねぇ結局さぁ、結婚式はどうするの?」
「うん…時期はまだ決めてないけど、することになったよ。扉間さまがね、絶対にしようって。」
「良かったじゃん!芙蓉あんなに結婚式は嫌がってたから、しないのかなって心配してたんだよ。扉間もやっぱ芙蓉の晴れ姿が見たいんだねぇ。フフフ。」
「だって…何度も言ってるけど、私には結婚式をするような資格、無いもん。今もそう思ってるよ。」
「もうっ、また!絶対そんなこと無いっ!過去の事は気になるだろうけど、マダラはもういない。柱間はもう結婚して幸せなんだし、どれももうとっくに清算されてる事!それに、結婚式は芙蓉だけのものじゃないんだよ?愛する芙蓉と結婚式がしたいっていう、扉間の顔に似合わない乙女な気持ちも考えてあげな。ね?」
「うん…そうだね!ありがとう。」
「でも、あの事件の日からもう二週間以上経つんだよね~。早いなぁ。私は私で身に覚えが無い事で賞なんて貰っちゃってさ、本当に変な感じだよぉ。」
「ウフフフ。でも紛れもなく、樹ちゃんがワダチをやっつけたんだよ!私、ちゃんと見てたんだから!」
「そんなこと言って、本当は芙蓉がワダチを倒したんじゃないのぉ?」
「・・・・・実はね、そうなの・・・ “お色気の術”でっ!」
「アハハハハ!なるほど。そりゃワダチもイチコロだっただろうね!」
二人は身体を揺らして笑い合った。
すると間もなくして、急に店内が黄色い悲鳴交じりでザワザワと騒ぎ始めると、すぐに扉間とその弟子たちが個室の暖簾をくぐって入ってきた。
「扉間さま、みんな!お疲れ様。来てくれてありがとう。さ、奥の席にどうぞ。座れなかったら私たちの隣りにも座れるからね。」
一番奥の上座に扉間、その隣にコハル、ホムラ、ダンゾウが座ると奥の席は埋まってしまい、カガミとヒルゼンは樹と芙蓉の隣りに座った。
「樹。何も狭苦しい甘味処にする事はないだろ。せっかく俺が、仕方なくだが、奢ってやると言っているのに。お前らしくないな。高級懐石料亭を指定されると思っていたぞ。」
「別にいいじゃないですかぁ。文句言わないで下さいよ。私はここが良かったんです~!」
「樹ちゃんったらまたそんな言い方!…扉間さま、これでもこのお部屋は改装されて広くなっているんですよ?」
「フン!まぁ安上がりで良いがな。で、食べたいものはいつもの白玉あんみつか?」
「樹ちゃんのお祝いですから、スペシャルな白玉あんみつですわ!ねぇ?」
「そうそう。五人以上じゃないと絶対注文受けてもらえない、しかも数量限定の!!」
「え~!なんですかそれ?すごく楽しみなんですけど!」
コハルが目を輝かせて樹に訊ねた。
「女性はホント、限定品に弱いですね。」
ホムラが苦笑してぼそりと言った。
「…俺、正直あんま甘い物好きじゃないんだけど…」
ダンゾウが不満そうに洩らす。
「コハル、最近里で流行ってるアレも入ってるよ~?」
「もしかしてアイスクリームですか⁉」
「そうそう!」
「キャー!嬉しい!!」
「ダンゾウ君、扉間さまも甘い物あまり好きじゃないけど、ここの餅入り最中や白玉あんみつは美味しいって言って食べてるのよ。だからダンゾウ君のお口にも合うと思うな。」
芙蓉がそう言って、少しいたずらっぽい笑顔でダンゾウに微笑みかけた。それを見ているカガミは明らかにムッとした顔をしている。そのカガミの横顔を見ていたヒルゼンは、少し呆れたように口角を上げる。
芙蓉が店員に注文した品を作って持って来てくれるように頼み、出来上がるまでの間、ワダチに遭遇した時の話になった。
芙蓉は、樹が果敢に風遁の術で攻撃をした事、芙蓉も剣術で応戦したがあっという間に刀を真っ二つにされてしまったことなどを話して聞かせた。ワダチの存在が消えたか今だからこそ、話を聞く全員の顔が笑顔だった。
「お待たせいたしました。“蝶屋スペシャル特大クリーム白玉あんみつ”でございま~す!」
若い女性店員が二人がかりで大きな盆に載ったそれを運んできた。
『 でっか―っ!!!! 』
大皿には店名物のおはぎ、最中、紅・白・緑の白玉、わらび餅、寒天、蜜柑、サクランボ、桃などの果物、そしてアイスクリームが天高く盛られている。
「う、嘘だろ・・・どうツッコめばいいか分らん。」
扉間は腕を組み、顔を引きつらせている。弟子たちは驚いて何も言えないでいる。そして樹も予想以上のボリュームに苦笑している。
そんな空気を破るように芙蓉が言う。
「樹ちゃん、火影特別奨励賞、おめでとう!」
『おめでとうございます』「ご苦労だった。これからも精進しろよ」
パチパチパチパチ・・・・!
「あははは…あ、ありがとうございます。なんか照れるなぁ~エヘヘ…」
そう言って樹は少し顔を赤らめてもじもじした。芙蓉はその両肩を抱き、樹の顔を覗き込む。
「さ!樹ちゃんから好きな部分、食べてみて!」
「う、うん…えっと、あのさ、せっかくだから、最初にいつものアレ、してほしいんだけどぉ?」
「え⁉で、でも・・・」
「芙蓉。してやれ。それも褒美の一つだ。」
「と、扉間さまぁ~!!」
「その顔止めろ。気持ち悪い。」
弟子たちは顔を見合わせて不思議がっている。そして芙蓉は銀の匙を持つと、そっとアイスクリームをすくった。
弟子たちがこれから何が起こるのかとその様子を凝視している。芙蓉はその匙に手を添え、ゆっくりと樹の顔の前に持っていくと、樹はいつもと違って少し恥ずかしそうに芙蓉の方を向き、小さ目に口を開ける。
「樹ちゃん。よく頑張りました!はい、あーん♪」
「あーん・・・お、おいひ~!!ありがとう芙蓉!」
弟子たちはその一部始終を見終わり、顔を引きつらせた。明らかにドン引いている。
「と、扉間様…俺たちは今、何を、なぜ、見せつけられているんでしょうか?…」
「ダンゾウ…耐えろ。」
それから全員で特大のクリーム白玉あんみつの塔をつつき始めた。
そのボリュームに対してひつひとつの素材の味は最高に美味で、全員の笑い声と歓喜と共に、五十センチはあったであろう塔はあっという間に低くなり、最後はきれいに消えた。
皆が満腹の腹を抱えて歓談していると、樹が真剣な顔をして話し始めた。
「扉間様。ありがとうございました…実は、以前扉間様と芙蓉と三人で来た時が本当に楽しくて、今度は後輩ちゃんたちも一緒に、あの時みたいな時間が過ごしたかったんです。芙蓉が作るご馳走も、高級店の料理も美味しいけど、想い出の場所で大好きな仲間と甘味を囲むのって特別な気もするし…。あ、限定スペシャルが食べてみたかったっていうのが一番の理由だけど!エヘヘ…」
それを聞くと弟子たちは少し俯き、これまでの出来事に思いを巡らせながらながら、感慨深げに微笑んだ。
扉間は真っ直ぐ樹を見つめ、少し沈黙したあと口を開いた。
「まだまだ俺には及ばんが、立派になったな、樹。…ま、俺も予算が少なく済んで良かった。」
「おっ!“遠く”が外れた!私が扉間様を追い越す日も近いですよ!」
「それは無い」
「無い無い」「無理だな」「それは流石にちょっと…」「難しいですね」
扉間が即答で否定したのに続き、ヒルゼン、ダンゾウ、コハル、ホムラも否定した。
「ちょっと!なんでアンタ達まで全否定すんだよ⁉もーっ!もっと先輩を敬いなっつーの!!」
「樹さん。それは無理なんじゃない?だって先輩のあんたが扉間様を敬ってないしさ。」
「カガミ。良く言った!」
扉間がそう言うと全員がワハハハと爆笑した。
芙蓉は一緒に笑いながら、一人一人の笑顔を見てほっと胸を撫で下ろした。
今この瞬間、ようやくワダチの問題が終結したのだと思った。