※この作品はR-18です。

罪の向こう、愛の絆   作:千野 伊織

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今回(28)の登場人物は、千手扉間、千手柱間、うちはカガミ、うちはマダラ、O.C:千手樹です。
大晦日までちょうど一週間。この日うちは私塾は冬休み前の最後の授業。
授業の後、カガミは芙蓉に話があると呼び出しました。そして・・・
・・・『罪と罰』・・・
そもそも罪とは、罰とはいったい何なのか?誰が決めるものなのか?報いはあるのか・・・
そして愛の絆とはどんなものなのか・・・?
その答えとは?

最終回です。



(31)罪の向こう、愛の絆

「皆さん。明日から冬休みですね。年末年始、任務のある人も居るでしょうけれど、良い年を迎えて下さいね。その為に今から今年の反省と来年の抱負を・・・」

「もー先生!お説教はいいって!早く忘年会の店に行こうぜ!」「そうそう!お説教は美味しいお鍋を食べながら聞きますから。」「あと新婚生活の話もね~!」

ワハハハハ・・・・

「まったくもう…ハイハイ。では片付けが終わった人からお店に向かって下さいね。」

芙蓉は苦笑いしながらも嬉しそうに教科書を揃え、教室を出て行こうとした。

 

「芙蓉先生。」

廊下に出ると、カガミに呼び止められた。

「どうしたの?」

「二人だけで話がしたいんだけど・・・」

「じゃあ、理科室なら空いてるから、そこで話しましょう。」

「塾じゃちょっと・・・。それに先生はこの後忘年会でしょ?遅れたら皆から文句言われるよ。できれば忘年会の後…顔岩展望所まで来てほしいんだ。」

芙蓉は、それでは帰宅があまりにも遅くなってしまい扉間に心配をかけてしまうと考えたが、カガミのこれまでになく深刻そうな様子に、カガミのことを最優先させることにした。

「分りました。じゃあ二十二時、展望所でいいかしら?」

「はい。待ってます。」

そう言うとカガミは背を向けて歩いて行った。

いつもと明らかに違うカガミの様子を心配に思ったが、芙蓉も急いで教員室へ向かって行った。

 

◆

今日で大晦日まで残すところ一週間。

夜の北風は刺すように冷たい。今夜は雪が降るかもしれない。

芙蓉は雪が積もってしまう前に、年用意をしなければと考えながら歩いている。

鍋料理と温かい店内で身体が温まっているとはいえ、寒さが堪える。

だが、カガミの話を早く聞かなければと、芙蓉は展望所の階段を急いで上り始めた。中腹を過ぎると息が上がり、再び体が温まってきた。

最後の数段を上る時、不意に扉間から求婚された日のことを思い出した。階段を上り終えたが、カガミはまだ来ていない。夜の展望所は街灯が四つほどあるのみで、暗く恐ろしい。その恐怖に、あの頃の数日間、マダラに怯えていた恐怖が重なる。

少しでも明るい場所に居ようと、街灯の下(もと)、町明かりが輝く里の風景が見渡せる手摺の柵に歩み寄る。

恐怖と苦々しい気持を打ち消そうと、手袋を外し左薬指の指輪を撫でてみる。

芙蓉が結婚式の日に扉間に贈った指輪も、扉間は家では必ず着けてくれている。その光景を想い出すと、胸に甘く温かい感覚が広がり、同時に先ほど店で女子たちと話した事も思い出した。

芙蓉は結婚式の衣装を里に寄付した。

結婚式を行う希望者に無料で貸し出し利用して貰うことにしたのだ。それを聞いた女子たちは、いつか自分もその衣装を着て結婚式がしたいと言ってくれた。

・・・私も、あの子たちの誰かがあの衣装を着てくれる日が楽しみだなぁ。家に帰ったら扉間さまに話そうっと・・・

そして急いで手袋をはめ、辺りをキョロキョロと見回しながらカガミの到着を待った。

すると、つむじ風に乗って木の葉が足元を舞い、街灯の灯りに照らされて琥珀色に輝いた。芙蓉はそれを見て、一瞬、マダラのことを想い出し、思わず目をつぶった。

 

・・・マダラさまはいま、どうしているだろうか。本当に私にことを忘れてしまったのだろうか・・・

 

駄目だ。考えてはいけない。

思考回路を遮断し、かっと目を見開いて気持ちを取り直し、また辺りを見回す。

 

 

「芙蓉先生。お待たせ。遅くなってごめんなさい。」

後ろからカガミが声をかけ、芙蓉は笑顔で振り向いた。

「ううん。今さっき来たばかりよ。それで、話というのは何かしら?」

カガミは芙蓉の元へ歩み寄ると、黙って俯いた。

よく見るとカガミは任務服を身に着け、腰には刀を刺し、背には荷物を背負っている。

「カガミ君。今から任務なの?」

「うん・・・。当分、里には帰らない。」

「えっ?どれくらい?」

「分らない。一~二年…もっとかも。」

「えぇ⁉いつ決まったの⁉どうして早く言ってくれなかったのよ!」

「一ヶ月前、長期スパイ任務に志願したんだ。それで今夜、出発する。」

「・・・そんな・・・どうして?どうしてスパイ任務なんて!貴方なら里に居て任務を行うほうが適任でしょう?・・・扉間さまは知ってるの⁉」

「知ってる。扉間様に直接志願し、許可したのも扉間様だよ。・・・いいんだ。俺はまだ未熟だから、スパイ任務でキャリアを積みたいしさ。」

「・・・・・。」

芙蓉はカガミが突然居なくなるショックと、扉間が自分に何も教えてくれなかったことにショックを受け、俯いて何も言えなくなった。

 

ふわり・・・クルッ・・・

「これ、俺からのプレゼント。先生寒がりだからさ。使ってよ。」

カガミは芙蓉の首に白いマフラーを巻いた。

芙蓉はそれを触りながら、目を潤ませカガミの顔を見上げた。

「カガミ君・・・。ありがとう・・・」

「うん・・・。それでさ・・・俺も、先生から欲しいものがあるんだけど・・・」

「何?」

カガミは芙蓉にピタリと体を寄せ、芙蓉の両肩を掴んだ。

そして、芙蓉の顔に顔を近づけ、唇を重ねようとした。

「駄目っ!!!」

芙蓉は顔を大きく逸らし、カガミを突き飛ばした。

「ご、ごめんね・・・それだけはあげられない。」

しかしカガミは黙って再び芙蓉に近づき、無理やり芙蓉を抱き寄せた。

「やめてっ!離してっ!!」

「せめて、せめて抱き締めさせて!先生の温もりを覚えておきたいんだ!!」

しかし芙蓉は激しく抵抗した。

手を掴まれ両手の手袋が外れ、肩を引っ張られマフラーも地面に落ちた。

体格でも力でもカガミに敵うはずが無いのだが、それでも芙蓉は全力で暴れた。

カガミもそんな芙蓉の腕を力づくで掴んで引っ張り、何とか抱き締めようとする。

その手を振りほどこうと芙蓉が思い切り腕を後ろに引く。カガミは、流石に芙蓉が痛がっているだろうと思い、その腕からぱっと手を離した。

すると、その反動で芙蓉の身体は勢いよく後ろに倒れ、手摺の柵を乗り越えてしまった。

カガミが焦って柵の下を覗き込むと、芙蓉は柵の根元に右手で捕まり、つま先を崖に掛けて、かろうじて留まっている。

しかしその身体は震え、今にも落ちてしまいそうである。

カガミは、苦しそうに自分を見上げている芙蓉を見下ろした。

 

「・・・芙蓉。一度でいいから、俺のものになって。なら、助けてあげる。」

「・・・・っ・・・・い、嫌よ!」

 

芙蓉はなんとか左手でも柵を掴み、懸命に自力で這い上がろうとあがいている。

その左薬指には、今年の春の終わりに突然現れた白金の指輪が光り、鉄の柵に擦れてギリギリと音を立てている。

カガミはその様子を見て、心の中で何かがプツンと音を立てて切れたのを感じた。

 

それは、芙蓉と繋がっていると信じていた細く、強い糸だった。

 

「・・・芙蓉。永遠に愛してるよ・・・・・さようなら。」

 

カガミは芙蓉の両手を柵から外した。

数秒後、崖の下から鈍い音が聞こえた。

 

 

 

時計は二十二時を三十分も過ぎている。

忘年会は二十一時半前には終わり、塾生たちが家まで送ってくれると聞いていた。

店から家まではゆっくり歩いても三十分あれば着くはずである。

皆で盛り上がって長引いているだけだろうか。

しかし、教師である芙蓉がこんなにも会を延長させるとは思えない。

そう思いながら扉間は自ずと上着を羽織って靴を履いていた。

そして飛雷神の術で芙蓉の元へ飛んだ。

 

 

・・・この光景は、何だ? 誰かの幻術か?・・・

 

 

一瞬、扉間は自分の目を疑った。

しかし直ぐに正気に戻り、目の前に仰向けに横たわっている芙蓉の元へ駆け寄った。

仰向けに横たわる芙蓉の後頭部からは大量の血が流れ、血溜りが出来ている。動かさない方がいい。

「芙蓉!芙蓉!!しっかりしろ!!」

「…と…扉…間…さ…」

芙蓉はかろうじて意識があったが虫の息である。

急いで医療忍術で後頭部の傷を回復せる。

 

「…これは、私への罰…なの…どうか…カガミ君を責めないで……愛…し…てる…」

「芙蓉!!頑張れ!!今助けてやる!!!目を閉じるな!!芙蓉―っ!!!」

 

扉間は心臓マッサージと人工呼吸を始めたが、芙蓉の脈は戻らない。

芙蓉を抱きかかえると柱間の屋敷に飛んだ。

 

「⁉ ど、どうした⁉何があった⁉」

「いいから来い!!!」

柱間を連れ、木ノ葉病院へ飛んだ。

そして直ぐに柱間と医療忍者による手術が行われた。

 

しかし、再び芙蓉の心臓が動くことは無かった。

 

 

 

「扉間様。俺を今すぐ殺して下さい。反省も後悔も、していません。許してほしいとも思っていません。」

 

扉間が顔岩展望所に着くと、そこにはカガミが里の方を眺めながら立ち尽くしていた。

カガミは扉間が現れたことに気が付くと、背を向けたまま落ち着いた声でそう言った。

 

「なぜ芙蓉を殺した。」

 

「手に入らないなら、いっそ殺して自分のものにしたかったからです。」

 

「それで…芙蓉はいま、貴様のものになったのか?」

 

「・・・・・・」

 

「芙蓉は貴様を責めないでほしいと言って息を引き取った。そして、俺には愛していると言った。」

 

その言葉を聞くとカガミは扉間の方に振り向き、取り乱し始めた。

目からは涙が流れている。

「・・・俺は!俺はただ、最後に芙蓉先生の温もりを、この身に刻みつけたいだけだった!!!でも、先生がそれをかたくなに拒んで・・・それで、柵から落ちそうになって居るのを見ていたら・・・もう・・・もう・・・!!!」

「俺は今すぐ貴様をここで殺してやりたい。貴様のことは決して許さん。だが、芙蓉の遺言だからではなく・・・俺にはその資格が無いのだ。」

「・・・・?」

「去れ。カガミ。当分貴様を里には戻さん。その間、自分の犯した罪を良く考えろ。そしてこの瞬間から、その命を芙蓉が愛するこの里の為だけに一生捧げろ。そして償え。」

「・・・・・は・・・はい・・・」

カガミは擦れた声で答えると、よろよろと後ずさりそのまま姿を消した。

 

 

その後、芙蓉の死は扉間によって事故死と断定された。

扉間と顔岩展望所で待ち合わせをしており、扉間が到着する前に誤って柵を乗り越え転落した。手摺の柵からも芙蓉の指紋と血痕、崖には靴跡も見つかり、芙蓉が最後に扉間に残した遺言から、事故死を疑う者は誰も居なかった。

真実を知るのは、犯人のカガミ。

そして扉間だけだった。

 

 

・・・そうか。

 

これが俺への本当の罰だったのか。

過去の行いに辻褄を合わせなくてはならない時がきたというわけだな。

ならばこの命が尽きるまで贖おう。

 

今日から俺の命は、木ノ葉の里のものだ・・・

 

 

「扉間…最後に芙蓉と話せただけでも良かったと思え。あの怪我で話せた方が不思議ぞ。即死していてもおかしくなかった…」

柱間はそう言って、芙蓉に寄り添う扉間の肩に手を載せた。

「…そうだな。本当にそうだ…」

「・・・・・」

柱間は涙を堪えながら、静かに病室を出て行った。

 

◆

 

・・・せめて最後に扉間さまに会いたい!お願いっ・・・

 

暗い奈落の底へ吸い込まれながら芙蓉は願った。

すると何かにそっと頭を抱えられている感覚がした。

 

『あなたを助けることはできないけれど、その願いだけは私が必ず叶えるから』

 

そう聞こえた瞬間、芙蓉の身体は奈落の底へ叩きつけられ、意識を失った。

 

 

全身に心地良いそよ風を感じる。

ゆっくりと目を開けると、野花が咲き乱れる草原の上に一人で立っていた。

無意識に足が一歩前へ出て、歩み始める。

すると、目の前に夕陽を受け黄金に輝く木ノ葉の里の風景が広がった。

空は、芙蓉の大好きな晩夏の壮大な夕焼け空だった。美しい。

芙蓉は胸の前で両手を組み、目を閉じた。

・・・

今が全ての罪を贖う時。そして罪から解放される時なのね・・・

もっと生きたい。だけど、もう充分生き抜いた。

それに私はもう、ちゃんと全てを知ることが出来た。

本当の愛・・・本当の幸せ・・・本当の悲しみ・・・本当の痛みを・・・

ちゃんと伝えることが出来た。

本当の言葉を・・・想いを・・・愛を・・・

何より私は、幸せだった。

だからもう、私は・・・

・・・

芙蓉は目を開けると里の風景に背を向け、そっとまた目を閉じて満天の星空に向かって歩き始めた。

 

「芙蓉!!!」

 

その声に目を開けると、目の前に扉間の顔があった。

芙蓉は最後に伝えなくてはならない言葉を伝えた。

しかし、何と言ったのか自分自身では分らない。

 

・・・ああ、扉間さま。

そんな顔しないで。泣かないで。

また目にゴミが入っただけだって言って…

やっぱり私、死にたくない。

もっと、もっと、もっともっと…貴方の隣りで里を見ていたい。

美味しい料理を作ってあげたい。肩を揉んであげたい。

また錦谷にも行きたい・・・

ねぇ、扉間さま。愛してる・・・

 

◆

 

「何か変わったことはあったか。」

マダラは机で古い書物や古典を眺めながら、偵察から戻ったゼツに向かって背中で問う。

マダラの両目は、マダラの意識が戻る前にゼツが移植していた。

「ううん。最近は各地の里作りが活発になっていて特に目立った戦は無いね。ただ、興味無いかもしれないけど、マダラの大嫌いな扉間の奥さんが死んだよ。その奥さんに片思いしていた教え子に殺されたみたいだね。恋愛のもつれかな?」

「あいつに妻なんて居たのか。・・・殺された、か。フッ。扉間の奴ざまあみろだな。いつかあいつ自身も悲惨な死に方させてやる。・・・ゼツ、前から思っていたが、お前結構ゴシップネタが好きだな。」

「え?マダラも嫌いじゃないでしょ?嫌いじゃないから僕も嫌いじゃないんだけど。」

「ややこしい事を言うな。」

 

マダラはあの日、芙蓉によって芙蓉についての全ての記憶を失った。

つまり、マダラの人生に芙蓉という人間だけが初めから居なかったことになっている。

 

ゼツの報告を聞き終わると、マダラは再び書物を読み始めようとしたが、ふと手を止めた。

 

「なんか、無性にいなり寿司が食いたくなってきたな・・・」

 

マダラは宙を仰ぎ少し何かを考えた後、何事も無かったかのように書物を開いた。

その背中を見ながら、ゼツが心の中で呟く。

 

・・・芙蓉。これまで何度もチャンスをあげたのに。今頃マダラに着いて行かなかったこと後悔してるかもねぇ。フフッ…まぁでもあれ以上マダラが芙蓉に入れ込むのは番外編が続いちゃって面倒だったし、これで良かったかもね。・・・

 

ゼツは再び壁の隙間から、何処かへ消えて行った。

 

 

◆

 

芙蓉の四十九日が過ぎ、扉間は意を決して芙蓉の部屋に入った。

部屋に入るのは、芙蓉の葬儀の日以来である。

あの日、芙蓉に着せる服を探そうと急いでいたため、衣装棚は開けっ放しになっていた。

その様子を見て否応なしに葬儀の日の事を思い出す。

空の青さがいつもよりも濃い、良く晴れた冬の日だった。

 

埋葬する芙蓉には、扉間が昨年の誕生日に贈った洋服を着せた。樹が泣きじゃくりながらその服を着せ髪をとかしたたあと、樹の母親が芙蓉に美しく化粧をしてくれた。

芙蓉の死は多くの者にショックを与え、皆が深い悲しみに涙を流しながら献花した。

柱間は泣きもせず、ただ黙って芙蓉を見つめていた。

今にも目を覚ましそうに眠る芙蓉の頬、唇は冷たく、そして硬かった。それは寒牡丹の藁苞を直したあの日の、芙蓉の手の冷たさよりもずっとずっと冷たかった。

葬儀の時の場面が、まるで紙芝居のようにパラパラと扉間の頭の中で切り替わる。

 

気が付けばまた、涙が浮かんでいた。

どうやら涙が底をつくということは無いらしい。

 

扉間も柱間も、芙蓉の葬儀の次の日からは仕事に戻り、いつも以上に働いた。里の為に身を粉にして働くことしか、もう、芙蓉にしてやれることが無いと思っていた。

柱間から屋敷で一緒に住まないかと言われたが、そんな気持ちになどなれなかった。そして、今も家に居るだろう芙蓉のことを独りにしたくもなかった。

なので今、こうして芙蓉に黙って部屋に入っているのは申し訳ない気持になる。

 

扉間は衣装棚の扉を静かに閉じると、おもむろに芙蓉の机の上に在る結婚式の二人の写真が入った写真立てを手に取った。

すると何かがパサッと床に落ちた。

拾い上げると、それは封筒に入った手紙だった。

扉間は急いで便箋を取り出し広げて読み始めた。

 

「…私はこれまで『絆』という言葉が好きではありませんでした。

幼くして家族を失った私は、この先誰と一緒に居ようが一生独りだと思っていたからです。

けれど私は、木ノ葉の里で、柱間様、扉間様、樹ちゃん、そしてマダラ様、他にも多くの人たちと暮らして、ようやく絆とは何かを知ることが出来ました。

絆とは、人から貰って育てるものなのですね。

私は、両親から『芙蓉』という名前を貰った時から親子の絆を貰い、仏間様に引取って頂いた時から柱間様、扉間様、板間様、椿さんと家族の絆を貰った。女学校では、樹ちゃんから友情という絆を貰った。マダラ様に助けられた時、うちは一族の人たちとの繋がりを、愛という絆を貰った。私塾では子供たちから信頼という絆を貰い、そして私も子供たち同士の絆を育てる手伝いが出来ました。他にも数え挙げればきりがありません。

私は気付かぬうちに、ちゃんと貰った絆を育てていたのですね。

扉間様に求婚して貰えて本当に嬉しかった。

二人で育てた絆が美しい形を成したことを感じました。

そして、これからも二人でその絆を固く大きく育てていくこと、それが結婚なのですね。

私は誰よりも木ノ葉の里を想い、多くの絆を守る千手扉間という立派な男性の妻になれたことを心から誇りに思います。愛しています。

どうか、死がふたりを別つとしても、ふたりの物語が永遠に続きますように。           

                                                                        千手 芙蓉 」

 

扉間は手紙に涙を落さないよう、そして何度も同じ部分を読み返しながら読んでいたため、最後まで読み終わるまで十分以上かかった。

そしてよく見ると、千手芙蓉という名前の左端には、扉間が求婚した卯月の日付が小さく記されていた。

まるでそれは芙蓉の遺書のように思え、ますます悲しみが溢れてきた。

 

「…俺には過去に支配されるなと言っておきながら、自分は死ぬ準備をしているなんて、どうかしている…馬鹿だな…。お前が死ぬ必要なんて全く無い。お前が罪だって言ってた事も、元はと言えば全部俺がした事のせいだろ!死ぬべきは俺のはずだ!

お前はババアになって、近所のガキ共に勉強教えたり説教したり、相変わらず樹とつるんで甘味食べたり、俺を放って二人で旅行三昧したり、俺のこと尻に敷いたりしなきゃならなかったんだよ…なんでだよ。なんでお前が死ななきゃならないんだよっ!!!

あれだけ俺より先に死ぬなと言っただろ・・・!!!」

 

扉間は床に突っ伏し、拳を床に何度も打ち付けながら、大声で泣いた。

芙蓉が死んだ時も、葬儀の時も、この四十九日間も、こんなに泣いたことは無かった。

これまで何度も何度も、大切な人を、仲間を失ってきた。

しかし芙蓉の死だけはどうしても受け入れられない。

認めることもしたくない。

戦で死ぬこと。平和な生活の中で死ぬこと。

尊い命が失われることに違いは無いはずなのに、残念ながら、そこには大きな違いがあるように感じた。

平和と幸福という眩しい光に対して、死という闇はあまりに暗く深く、悲しい。

いまの扉間の目には、この世界の全てが灰色に写っていた。

庭では、雪を被った藁苞の中で、紅色の寒牡丹の新たな蕾がほころび始めていた。

 

 

 

◆

 

 

 

「扉間様ってさぁ、奥さん亡くなってから更に性格キツくなったんだよなぁ。一時期ずいぶん丸くなってたんだけどなぁ。」

「そうなのか?丸い扉間様なんて想像がつかないぞ。」

「まぁでも、あれでこそ本来の千手扉間って感じもするけどな!」

「お、おい!…」

木ノ葉の里本部の廊下で中忍二人が話していると、正面から樹が歩いて来た。

「本来の千手扉間?なにそれ。知ったフリしてんじゃねーよ。」

樹はそう言って二人を思い切り睨んですれ違って行った。

 

「お疲れ様でーす…で、話って何でしょう?」

樹は参謀室に入り、扉間の机の前に立った。

 

芙蓉が亡くなって七年が経っていた。

樹は、芙蓉の死後一年間、自暴自棄になって荒れに荒れた。

しかし、扉間から芙蓉の死の真相を聞かされ、樹は忍を続ける決意をし、更生した。

それからは誰よりも任務に励み、その活躍はめまぐるしく、今は扉間の右腕、そして上役の一人にまでなっていた。

 

「うちはカガミを里に戻す。」

「そうですか。」

「驚かないんだな。」

「だてに六年も監視してませーん。扉間様の期待通り、里への忠誠心は千手一族以上に育ってますよ。で、何に使うんですか?」

「里の警務部門の責任者にする。」

樹は流石に驚き、一歩前に出て訴える。

「いや、芙蓉を殺した犯罪者を警務部門のトップにするなんて!何か考えがあるんでしょうけど、いくら何でも…私は賛成できません。」

「犯罪者だからだ。カガミは今も罪悪感に苦しんでいる。芙蓉を殺した罪を償う方法は、木ノ葉の里に命を捧げることだと信じ、何とか生きている状態だ。法で裁かれる方がまだマシかもしれないな。まぁ…だからと言って罪が消えるわけでは無いが。」

「何が言いたいんですか?」

「罪悪感に苛まれ苦しむ己が、罪人を取り締まる全責務を負う。どんな気持ちだろうな。」

「…ハハッ。相変わらずエグいこと考えますねぇー。今のカガミなら、徹底的に取り締まるでしょうね。で、更に自分の犯した罪の罪悪感に苛まれるでしょ。心を病んで自殺しないと良いけど…フフフ。」

樹は腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。

 

すると春風が桜の花びらを舞い上げ、窓ガラスを揺らして音を立てた。

一瞬、二人は同じことを思い出し、沈黙する。

 

「将来、うちは一族で忍の犯罪を取り締まる警務部隊を作り、刑務所を併設した施設を里の外れに造り、うちは一族全員をそこへ移住させる計画を考えている。」

「それって体のいい迫害政策に聞こえますけど?」

「‥ああ。兄者が火影であるうちは絶対に認めないだろうな。兄者は今でもうちは一族に肩入れし、奴らの本性など全く解っていない。だが、最近は早いうちに火影の役を退きミトと外交活動に専念したいと言っている。」

「へぇー。いいじゃないですか。そうなればやっぱ次の火影は・・・」

「必ず俺が二代目火影になる。その時までにこの計画の基礎を作る。貴様も協力しろ。」

樹は扉間の机に歩み寄り、机に手をつくと扉間に向かって前のめりになって小声で言う。

「…もちろん!芙蓉を殺したカガミ、芙蓉を不幸にしたマダラ…芙蓉はうちは一族に関わらなければ死ななかった!…私、忌まわしきうちは一族なんて大っ嫌いですから。」

「・・・・・。話は以上だ。下がれ。」

ハーイと言って片手を挙げ、樹はくるりと扉間に背中を向けた。

しかしドアの取っ手を掴むと、思い出したかのように扉間に振り返ってこう言った。

「扉間様って昔、あまりの無慈悲っぷりに卑劣様なんて呼ばれてましたけど、ここからが本当の卑劣様伝説の始まりですねっ!アハハハ!じゃっ。失礼しまーす。」

 

バタンとドアが閉まると扉間は立ち上がり、窓の外から里を眺めた。

木ノ葉の里は七年前よりも発展し、今日も多くの人々が今日も大通りを行き交っている。

そして振り返り、返机の引き出しを開けた。そして写真を手に取る。

写真が在る横には布張りの小箱が在り、伴侶を失った白金の指輪が入っている。指輪には細い鎖が通され首に着けられるようにしてあり、扉間の任務時には必ず共に連れて行かれている。

扉間は手に持った写真を見つめた。

「お前がいなくなって、もう七年か…芙蓉。」

そう呟くと写真の中の芙蓉の顔をそっと指でなぞる。

「見ていてくれ芙蓉。俺がこの里を在るべき姿にしてみせる。里こそ要だ。そうだろ?」

その問いに芙蓉は何も答えず、ただ扉間に向かって微笑み続けている。

 

窓の外の桜は満開で、今年もまた扉間の脳裏に初々しい袴姿の芙蓉を蘇らせる。

・・・あの頃に戻れたなら・・・

何度考えたか知れない。春だけではない。

春夏秋冬、季節の輝きを感じる瞬間、芙蓉との輝かしい日々を想って止まないのである。

『 一年中花が絶えないお庭を造りましょう?ね? 』

芙蓉の四十九日の法要後、扉間は芙蓉の言葉通り、庭に花木を植えた。

二~三月に咲く沈丁花。十月~十一月に咲く金木犀。

そして、八月に盛りを迎える芙蓉の木を。

 

想い出は美化されていくものだと言う。

しかしいくら美化しても芙蓉の美貌、美しい声、優しさ、聡明さ、そして共に過ごした美しく幸せな日々を完璧に思い出すことなど出来ない気がする。

 

扉間は写真をそっと引き出しにしまうと、再び机について書類をさばき始めた。

この一枚、次の一枚、その次の一枚が、木ノ葉の里の未来に繋がると信じて。

 

 

                                        完

 

 

 

 




★

最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。

続けて『罪の向こう、愛の絆』の番外編のお話を公開していきますので、ご覧いただけますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

★
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