今回(No.5)の登場人物は、扉間、OC/千手樹、うずまきミト、雑誌の編集長と編集者。
結婚後、芙蓉は生きている設定。今回は更に現代要素を取り入れています。
2回に分けてお送りします。今回はその前編。
結婚三周年を迎えた扉間と芙蓉。
ある日、扉間のところへ雑誌に出て欲しいという依頼が来ます。
しかしそれを拒否する扉間に対して雑誌編集長は・・・?
一方、芙蓉は扉間との間に些細な不満を感じており、樹とミトに相談します。
そこで不満に気付いて貰う為にある作戦を思いつき決行します。
結婚三周年の壁をどう乗り切るのか!?
【 if you XXX 】は基本的に、
芙蓉×誰かの濡れ場がメインです。
ですが、芙蓉が誰とでもしちゃうイケナイ子なのではなく、作者の都合で色んな相手とさせられていて可哀想って思ってあげて下さい。(芙蓉、ごめんね…)
また、「if」ということで、「もしも」がテーマなので、本編の話に沿いながらも、本編の展開とは関係ありません。
「そこをなんとか…お願いします!扉間様!!」
「他を当たれ。その役目、俺である必要性が無い。」
「で、すから、扉間様は女性だけではなく、男性からも憧れの存在で・・・」
若い編集部員の男が、先ほど説明した事を繰り返して説明しようとすると、それまで隣で黙っていた四十代の男が口を開いた。
「あの所で、扉間様は先日、革婚式(結婚三周年)を迎えられたとか。おめでとうございます。」
「は?・・・ああ。それがどうした。」
「お二人はご結婚前の同棲、許嫁の期間を含めると随分長い間ご一緒にいらっしゃいますよね。」
その男は机に両肘をつき、両手を組み合わせると、そうにこやかに扉間に言った。若い編集部員はぎょっとして男の方を見る。扉間に結婚の話はNGの筈では…?
「だったらなんだ。お前には関係無いだろう…私的な事を詮索する気ならもう帰れ!」
「大変失礼しました。お二人が長い間、仲睦まじくいらっしゃる秘訣を教えて頂きたくて…ウチは結婚して二十年近く経ちますが、子供が独り立ちしてからは会話すらままならなくて、いやはや羨ましい…ははは」
その言葉に扉間は荒げたチャクラ、そして怒りで強張らせた顔を少しだけ緩めた。
この日、木ノ葉の里の男性ファッション情報誌の編集長と若い編集部員が、扉間のインタビュー掲載とモデルとして誌面に登場してほしいと依頼にやってきて、扉間の参謀室で机を挟み三人で話をしている。だが、扉間は派手に目立つことを嫌い即答で断った。しかし若い編集部員が粘ってなんとか説得しようと悪戦苦闘していたのだった。
「扉間様はさぞ奥様に対していつも愛情を注いで、お気遣いもなさっていらっしゃるのでしょうね。いや本当に素晴らしい!」
顎に少し髭をたくわえ、四十代にしては若々しい男前の編集長は少し頭をかしげ、目を細めて白い歯を覗かせながら大きな笑顔で言った。
「・・・。」
扉間はその言葉を聞くと、黙って腕を組んだまま椅子にもたれ、顔を逸らし、鼻から息をふーっと吐きながら何度か瞬きをした。
その様子を見て若い編集部員が編集長と顔を合わせ、目が合うと軽く頷いた。そして続いて扉間に質問をする。
「結婚記念日には何かお祝いをされたのですか?」
「・・・いや。特には。」
「では、奥様が喜ばれるようなサプライズプレゼントをなさってみてはどうでしょうか!」
若い編集部員は目を輝かせて言った。扉間の反応を待たずに編集長がそれに言葉を畳みかける。
「いいですね。ぜひ私たちにもお手伝いさせて下さい!」
「はぁ?…必要ない!余計な世話だ…」
「…そうですよね。申し訳ありません。出過ぎた事を申しました。先日、火影様にご協力頂いた時、コーディネートした服でミト様をデートに誘ったら大変喜ばれたと言われたものでつい、図に乗っておりました…。本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございました。またいつかご協力お願いします…では我々はこれで…」
編集長はそう言うと、隣の編集部員を促し一緒に席を立とうとした。
「…さっき、柱間とセットの企画だと言ったな?」
「はい。そうですが…」
「柱間がしたのに、俺はしないと妻が知れば機嫌を損ねるかもしれん…それは厄介だ。少しだけなら…出てやってもいいぞ。」
「本当ですかぁっ⁉」
若い編集部員は立ち上がって扉間の方に身を乗り出し目を輝かせた。ただ、その輝きは驚きというより演技がかっているのだが、扉間はそれに気付かない。
「ありがとうございます。奥様が惚れ直すような素敵なコーディネートで撮影させて頂きますので、お任せください。」
「…別にそんなことはどうでもいい。家庭内に波が立つのが嫌なだけだ。但し。少しだけだぞ。私的な質問にも一切答えん。いいな!」
こうして扉間はまんまと雑誌編集長にのせられ、雑誌にも載せられることになった。
◆
「どう?美味しい?」
卵焼きを口に入れて咀嚼し始めると、不意に芙蓉から尋ねられ、扉間は思わず顔を上げた。
「…ああ。いつも通りだぞ。」
「そう…良かった…」
「何だ急に。」
「いいえ。今日はお塩を多く入れ過ぎた気がしたので…“いつも通り”なら良かったわ。」
芙蓉は微笑んでそう言うと、自分も卵焼きを口に入れると、うん美味しいと呟き、少しだけ俯いて食事を始めた。扉間はその様子に、芙蓉が自分を気にかけてくれていると思い、可愛らしいと感じた。そして雑誌に登場する件を思い出し、再び目の前で上品に食事をしている美しい妻を見据えると、何とも言えずワクワクしてくる。それを気付かれまいと片手で新聞を広げた。
「朝ごはんくらい、ゆっくり食べたらどうですか?」
「いつも言ってるだろ。時間を有効に使っているだけだ。」
芙蓉は肩で小さく溜息をつくと上目遣いで、新聞と食事と交互に見ている扉間を見つめた。しかし扉間はその視線に気づかない。
扉間の言うことはいつも正しい。
しかしいつからか、芙蓉はそれに従う中で二人の心がすれ違っている様に感じてしまっていた。決して仲が悪いわけでも、扉間が優しく無いわけでも、互いの愛情が色褪せたわけでもないのに、二人で居ても時々、こうして寂しさを感じてしまうのである。
・・・もっと私を見てほしい。私に関心をもってほしい・・・
しかし、芙蓉はその寂しさをいつものように自己嫌悪で蓋をした。
結婚後も相変わらず扉間は参謀として里の為に激務をこなしている。それと同時に弟子たちの指導や術の開発などにも時間を割き、毎日多忙である。
・・・なのに、私はなんて我儘なの…
二人、同じ方向を見て歩いているだけで幸せなのに…
私は扉間さまを理解して、しっかり支えないといけないのに・・・
ちなみに芙蓉は今でも、うちは私塾で週三日、教師を続けている。
扉間と共に、木ノ葉の里の役に立てていることは大きな幸せであり、芙蓉の誇りだった。
ふと芙蓉は扉間の左手を見ると、そこには互いに贈り合った白金の指輪が変わりなく輝いている。
しかし、その光は少しだけ冷たいものにも感じられた。
◆
「はい!では今度は笑顔を下さい。お願いします。」
・・・に、にっこり・・・
「もう少し、自然に…さりげなくでけっこうですよ。」
・・・に、にっ・・・
「もう少し、もう少し自然に。力を抜いて下さい。」
「あーもっう!俺にあれこれ指図するな!!!」
「あ、今の怒った顔も良いですね。いただきました~!」
「うっ・・・・フン!!」
「では、少し休憩しましょうか。」
ノリノリのカメラマンに対して、扉間はイライラして顔を引きつらせている。それを見兼ねた編集長が撮影を中断した。
扉間はドスンと不機嫌そうに、赤いビロードが張られた椅子に座った。
撮影場所は火の国恩賜公園。
ここはその名の通り、里創設が決まった際に火の国によって建設・賜った公園で、大きな池を中心に伝統的な造園がされ、いくつかの東屋と池に面した大きな御茶屋がある、里で最大の庭園だ。今は御茶屋の中で池を背景にして撮影中である。
扉間は用意された衣装、赤紫色のVネックニットに紺のジャケットを羽織り、タイトなワンウォッシュデニムに先のとがった黒のチャッカ―ブーツを履いている。
ところが、最初はポージングへの注文だけだったのが徐々に表情への注文が入り始めると、扉間は目に見えて苛つき始めた。確かに怒った顔も人気があるようだが、ここはどうしても自然な笑顔が欲しい。
椅子に座った扉間にヘアメイクの女性が近づき髪と服を直す。そして若い男性編集部員が冷茶の入った切子グラスを、黒光りする漆塗りの机の上に茶托と共に置く。扉間は直ぐにグラスを手に取り、ぐいっと一口飲んで大きな溜息を吐く。
それを少し離れた所で見ながら、編集長がカメラマンに何かを耳打ちした。それから扉間の向かいの椅子に座った。
「お疲れ様です。申し訳ありません。色々注文してしまいまして…あと少しで終わりますので。」
「撮影とは服を着て撮っておわりではないのか?あれこれ、表情にまで指図されるとは聞いていないぞ。」
「ははは…すみません。でもこちらも皆プロです。この仕事に誇りを持っています。扉間様の魅力を最大に引き出し読者に伝える為に必死なんですよ。どうぞお許しください。」
「・・・そうか。」
『仕事に誇りを持っている』…その言葉を聞くと、扉間は苛立ちを収め、今しばらく協力しようと気持ちを切り替えることにした。
「あの、ところでその左手の指輪。素敵ですね。とてもお似合いですよ。」
「あ、ああ…仕事以外の時には着けている。」
「もしかして、奥様からの贈物ですか?」
「・・・そうだ。」
「いや素晴らしい!あんなに美人で知的で、そのうえ扉間様にこんなにお似合いの指輪を選ばれる高いセンスをお持ちだなんて。そんな女性はまずいないですよ。」
・・・当たり前だろ。芙蓉以上にいい女なんて、居ない・・・
思わず扉間は顔を緩ませ、余裕の表情でまたそっと切子グラスを口に運んだ。
「奥様は料理の腕前も素晴らしいとか。もう非の打ちどころが無いですね。」
「・・・。まぁ料理はあいつの趣味のひとつだしな。だが時々作り過ぎるのが玉に傷だ。」
「あはは。でもそんな所もまた可愛らしいんじゃないですか?」
「・・・」
その質問には答えなかったが、扉間は編集長と目を合わせると、無自覚に微笑んでしまった。その顔を見て、編集長は更に言葉を続ける。
「しかも奥様はご結婚後も教師を続けながら、重責で多忙な扉間様を支えていらっしゃるんですよね。普通出来ませんよそんな事。本当に心から尊敬します。」
扉間は目を細め感慨深げに微笑みながら、両手で握った切子グラスに目を落とす。
「ああ。妻には本当に感謝している。」
「本当にお二人共、素晴らしいご夫婦ですね・・・さて。そろそろ撮影再開しましょうか。早く奥様の待つお家に帰って頂くためにも。ね!」
そう言って編集長は白い歯を覗かせて大きく笑うと、両膝に手をついて勢いよく立ち上がった。扉間もゆっくり立ち上がる。
「いやー良い表情撮れましたね!さっすが編集長!御見それしました!」
若い編集部員がさっそく現像した写真を見ながら大喜びしている。
「ああいうタイプは正面からぶつかってもダメなんだよ。まぁそれにしても想像以上に奥さんにベタ惚れだったな。ははは。」
◆
こういう夜に限って芙蓉は居ない。
今夜芙蓉は、ミト、樹と三人で久しぶりの女子会に出かけている。
扉間と芙蓉の結婚披露宴をきっかけに、芙蓉とミトは会って話すようになり、樹とは同じ風遁使いのくノ一ということもあって三人はすっかり仲良くなっていた。
昼間から昂っている情熱、いや欲情を持て余しながら、扉間は今日の撮影後に編集長から渡された雑誌のバックナンバーを広げて読んでいた。
「ったく、兄者め、ノリノリじゃないか…火影の威厳が全く感じられんな。あ、別に日頃から威厳は無いか…」
誌面でなんとも言えない不思議なポーズをきめ、モデル気取りで写っている柱間のページを見ながら扉間は苦笑した。
これまでこういった雑誌には一切関心は無かったが、読み始めるとなかなか興味深い。ついつい読み進めてしまう。
「・・・⁉」
『LIFE STYLE』のコーナーの特集に扉間の目が釘付けになり、思わず雑誌に前のめりになった。芙蓉も、当然他の誰も居ないのに、つい周りを見回して誰も居ないか確かめてしまう。そしてその特集記事を読み始めた。
◆
「えっ!美味しいも言わないの?あり得ん!私がビシッと言ったげようか?」
樹が腕を組み、眉間にしわを寄せて息巻いた。
「う、うん…でも、美味しいって思ってくれてるのも、感謝してくれてるのは解ってるの。笑顔とか箸の進み具合とか…」
芙蓉が興奮気味の樹を宥めるように、扉間のフォローした。
「でもせっかく芙蓉さんが頑張って毎日、朝・お弁当・晩、毎食作っているのだから、たまには美味しいとハッキリ名言すべきよ。あの柱間様ですら『上手いぞガハハハ』って毎回、わざとらしく大袈裟に喜ぶわよ?」
ミトも少し眉間を寄せつつ、頭をかしげて苦言を呈した。
「美味しいって言って欲しいというか…要は私にもっと関心を持ってほしいの…かも。」
「まぁ確かにあの人、五影会談で協定締結してから更に激務だもんねぇ…。でも結婚する時に芙蓉のことを一生愛する、守るって宣言したくせに、たった三年でこんな想いさせてるなんて許せないっ!」
寂しそうに俯く芙蓉と、更に息巻く樹を見て、ミトは少し苦笑しながら言う。
「火影である柱間様がもっとしっかりしていてくれれば…そういう意味では私も少し責任を感じてしまうわ…」
「そ、そんな!火影様は火影様にしか出来ないお役目を果たしていらっしゃいます!」
芙蓉は顔を上げ焦ってミトに向かって言った。
「扉間様が柱間様を火影たるものにしているのは事実だし、扉間様が居なくなったら里は立ち行かなくなる…でもね、仕事を理由に女に寂しい想いをさせるのは、いくら仕事が出来てもイイ男とは言えないと思うの。だって一日二十四時間しか無いのは女も男もみな平等。仕事を理由に家庭を疎かにするのはただの言い訳よ。」
ミトが真剣な顔をして芙蓉に言った。
「そうだよ!ミト様の言う通りだ!あんな奴もう放っといてウチにおいでよ!」
「で、でも・・・いくらなんでもそれは・・・」
「家出したって男は鈍感だから何故出て行ったかなんて気付かないし解決にはならないわ。それに芙蓉さんが居なければ本当に支障が出てしまうでしょうし、里まで困るわ。」
三人がうーんと考え込み、沈黙が訪れる。
三人の手元にあるミルクティーは、もうすっかり冷めてしまっている。ケーキの皿は既に空だ。
「…あ!そうだ!だったらショック療法だよ!!ドッキリ仕掛けるのはどう?好きな男が出来たから別れてくれってその男を紹介して反応を見んの。なんだかんだあいつは芙蓉にベタ惚れだし、絶対ショック受ける!あ、勿論すぐ私たちが出て行くよ?」
「えぇっ!!流石にそれはやり過ぎだよ…それに扉間様が『別れてもいいぞ』って言ったら私、死んじゃう…」
そう言って芙蓉は本当に泣き出してしまいそうな顔をした。
「ウフフ…大丈夫よ。扉間様は絶対に芙蓉さんと別れない。言い切れる。それに死ぬのはその紹介された男のほうだろうしね。アハハ。」
「・・・・」
ミトの言葉に、樹と芙蓉の頭には荒ぶる扉間の顔が浮かんだ。
しかし、二人のその想像にはかなり大きな差が在るのだが…。
「あははは!ミト様ってほんと冗談がお上手ですね!」
そう言って笑う芙蓉の肩に、樹がポンと手を置いて満面の笑顔で言う。
「うん。やめとこうか。その案は!」
・・・・・三十分後・・・・
「いかに日頃の芙蓉さんの言動・性格が扉間様にとって有難いものなのか気付かせ、思い知らせるってことね?」
ミトがくりっとした目でニッコリして、顎に人差し指を当てながら言った。
「そう! 芙蓉も女学校で演劇すごく上手かったじゃん。できるって!」
芙蓉は、大きな目と大きな笑顔で同意を求めている二人の顔を交互に見て少し俯いた。
「でも、どんなキャラを演じれば良いのかなぁ?」
「ここに良い見本が居るじゃーん?」
「…そ、そんな!ミト様を演じるなんて畏れ多いわ!」
「ちっがーう!! 私、わ・た・し・だよっ!!」
二人のやり取りを見て、ミトはアハハハと口に手を当て大笑いしている。
「樹ちゃん?…うん…確かに扉間さまにいつもつっかかるし、遠慮は無いし、言いたい事ズバズバ言っちゃうし、とにかく失礼な事ばっかりしてるよね。なるほど!」
その通りなのだが、改めて芙蓉の口から説明されるとなんだが複雑な気持になり、樹は苦いものを口にした時の様な顔をして肩をすくめる。そして、それを見てミトがまた更にアハハハと大声で笑い、芙蓉に言う。
「アハハハ…うん、樹さんをお手本にしてみたらいいんじゃない?…ウフフフッ…」
あまりに大笑いしているミトを見ながら、芙蓉は、本当にミトはそう思っているのだろうかといささか疑問に思ったが、確かに樹の様な性格を真似てみるのは良いかもしれない。
「じゃあ私、やってみる!この先ずっとモヤモヤ自己嫌悪しながら過ごしたくないし、頑張ってみるよ!」
三人は笑い合った後、カップに残った冷めたミルクティーを飲み干し、新しい飲み物と追加のケーキを注文して作戦会議を始めることにした。
◆
収穫を終えた畑に白菊、黄菊、紫菊が咲き乱れ秋麗の風景が広がる。
今日も穏やかに晴れた朝である。
扉間はいつもの様に朝刊を広げて朝食が出来上がるのを待っている。
しかし、その心は穏やかではない。
今日は自分が登場している雑誌が刷上がり、この後、編集長が撮影時に着用した服一式とその雑誌を届けに来る予定である。
芙蓉が手際よく朝食と弁当を同時に準備している後ろ姿に目を遣る。
あの雑誌を見たら、芙蓉はどんな反応をするだろうか…期待と不安で胸が高鳴る。
「今日は早く帰って来られるんですよね?何時頃になりそうですか?」
芙蓉が出来上がった味噌汁と焼き魚を盆に載せてこちらに来ながら訊いた。
「あ、ああ…六時には帰宅できるぞ。」
「久しぶりにゆっくり夕食が食べられるわぁ。お酒も何種類か用意します?」
「そうだな。ありがとう。お前に任せる。」
二人はテーブルに着いて朝食を始めた。
芙蓉は味噌汁の椀を口に着け、そっと扉間の顔を見る。
芙蓉もまた心中穏やかでは無かった。
今夜は、ついに、先日女子会で考えた作戦を決行するからだ。
上手くいくだろうか…演技をするのは数年前、水の国の女『コウ』を演じて以来である。
しかも今回の相手は扉間である。演技を突き通せるか不安だ。
自ずと二人の間に無言の時間が流れていた。
◆
「あら、扉間様。まだ柱間様はお帰りではありませんよ?」
扉間の訪問を知らされたミトが、急いで扉間の居る居間へやって来た。
「い、いや…今日はミトに話があって来た。」
「あら私に?・・・ほら、母上はおじさまと大切なお話があるの。あなたたちはお部屋に戻って居なさい。」
「えー私もおじさまとお話したい!」「私も一緒にするぅ~」
自分と一緒に居たいとぐずる可愛い姪たちを見て扉間は微笑み、すまないまたなと言って謝り手を振る。
ミトは使用人を呼び、長女と次女を部屋の外へ出して扉間と二人になった。
「で、お話って?」
「あ、ああ…えっと…。先月、兄者とデートして貴女がとても喜んだと聞いたんだが…その、何がそんなに良かったんだ?」
扉間は膝の上で組んだ手の指を何度も組み替えながら、顔を少し赤らめて訊いてきた。ミトはその様子を見て、扉間がなぜそんな事を聞きにやって来たのか直ぐに察しがついた。しかし…
「サプライズ感、ですかしら。洋服の夫を初めて見ましたし、大きな薔薇の花束も驚きました。突然子供たち抜きで二人でお洒落なお店に連れて行かれ、そこで日頃の感謝を口にして頂けたのも嬉しかったですわね。」
「そうか…やはりサプライズか…あ、いや、兄者でもそんな手の込んだ事が出来るんだな…それなら仕事にも活かして欲しいが。ハハ…」
扉間は口では皮肉を交えながらも、なぜかホッとしたように笑って見せた。
「でも、それはきっと日頃から意思疎通が出来ているからだと思いますわ。」
「?」
「日頃から態度だけでは無く、言葉でお互いに愛情と感謝を伝えているからこそ、大きなサプライズを素直に喜べるんだと思います。だって毎日餌を貰えずお腹を空かせて泣いているのに、突然、食べきれもしない大きな餌を貰ってもただ不安になるだけですもの。」
「うむ。そうだな…」
・・・フン。釣った魚に餌をやらないか。その点、俺は全く問題無いな。・・・
余裕の表情をして腕を組んでいる扉間を見て、ミトが言葉を続ける。
「芙蓉さんなら飢え死する前に自分で餌を探しに行くでしょうね。まぁ彼女なら実際、教師のお仕事でご飯は食べて行けるでしょうし。」
「⁉」
思ってもよらないミトの刺々しい言葉に扉間は驚き、ぎょっとした顔をした。しかし直ぐにとても不機嫌な顔になる。
「俺が餌を与えていないとでも…?」
「いいえ。もしもの話ですわ。サプライズ、成功すると良いですわね。」
ミトは悪びれた様子も無く、にこやかな顔で答えた。
「ど、どうしてそれを…」
「どうしてって、バレバレですわよ?ウフフフフ!…とにかく、常に芙蓉さんを労わってあげて下さいね。」
「ああ。解っている。」
そう言って扉間は立ち上がり、帰ろうと背を向ける。
「だが、芙蓉が食える餌はこの里には無いぞ。いやこの世界中どこにもな。」
「そ、そうですわね…お二人以上にお似合いの夫婦は居ないものね。フフ‥」
・・・怖っわ!普通チャクラ発動してまで言う⁉この人いま卑劣な事考えてるわよ、絶対・・・
ミトはドン引きしながら扉間を見送った。
◆
扉間はムカムカとした気持を抑えながら玄関の小上がりに腰かけ、隣に大きな紙袋二つを置き、靴を脱ぎながらただいまを言う。
しかし、芙蓉の返事は無い。
「おい!芙蓉、帰ったぞ!…居ないのか!」
「そんなに大声で呼ばなくったって聞こえてるよ!こんなに小さな家なんだからさぁ!」
そいう言いながら芙蓉が居間から出てこちらに大股で歩いて来る。
扉間はいつもと違う芙蓉の様子に驚き、言葉さえ出ない。
「おかえり。もう六時を三十分も過ぎてるよ!あんた、六時には家に着くって言っただろ!仕事と同じく時間は守りな!」
「・・・・・・」
「何ぼさっとしてんのさ。さっさと上がって着替えて来ておくれ。もうとっくに夕飯の用意できてんだ。」
「・・・・・・・・・」
扉間は冷や汗しか出ない。言葉が出ない。
そんな扉間を無視して芙蓉はズカズカと居間へ戻って行った。
・・・な、なんなんだ⁉あれはぁーっ⁉・・・
「ふ、芙蓉…?」
服を着替えて居間に下りてきた扉間が、恐る恐る芙蓉に声を掛けた。
「なに!」
「…ど、どうしたんだ?…いったい何が、あったんだ?」
「はぁ⁉あんたこそ今まで何してたんだよ!遅くなった理由をちゃんと説明しな。仕事だから仕方ないだろとか、いつもみたいな事言うんじゃないよ?じっと待ってるあたしの気持ち、考えたことあるのか?」
「‥‥す、すまない。兄者の家に用事で行ってミトと話していたら遅くなってしまった。」
「フン。そうかい。さっさと座んな。今日はあんたの好きなヒメマスの塩麴焼き、白菜・人参・豚肉のスープ、春菊の白和え、ついでにヒメマスで刺身も作ったよ。」
「あ、ああ。ありが、とう…」
・・・もう、これ、一体どうしたらいいんだ⁉
なんかもうツッコミすら許されてないじゃないか!!!
どう対処しろと⁉
ていうか本当に芙蓉は大丈夫なのか?何か悪い病気だったり…でも口調とキャラ以外は特におかしくはないし・・・
「はい。お疲れ様。今日も仕事頑張ってきてくれてありがとうな。」
二人でテーブルに着き、向かいの芙蓉が徳利をこちらに向けている。扉間は急いで猪口を持って差し出した。そして注がれた酒をぐいっと一気に飲み干す。
「・・・んっ!」
すると芙蓉が猪口を持ち、自分の方に差し出している。
「あ、ああ。」
これまで芙蓉から酒を注いでくれと催促してきた事など無い。初めて命令された。僅かに震える手で芙蓉の猪口に酒を注ぐ。注ぎ終わると芙蓉がまた口を開く。
「おい。なんか言う事は無いのかい?」
「え?は?・・・えっと、お、お前も、ご苦労だったな‥」
「それだけか?」
「…他に何と言えと言うんだ⁉てか、お前ホントさっきからおかしいぞ!いったいどうしたんだ⁉」
扉間はついに怒りを露にして言った。芙蓉は思わずそれに怯んでしまいそうになるが、心の中でぐっと耐える。
「どうもしちゃいないよ。そっちこそ、ちゃんと言葉で言わないとこっちには理解出来ないんだ。いつも、そうだ…」
「・・・?」
芙蓉は注がれた酒をぐいっと飲み干すと、箸を手にし、いただきますと言って食事を始めた。
扉間は何も言えず、二人は口を閉じたまま、食事を始めた。
「どうだい?味は。」
芙蓉が突然口を開き、訊いた。扉間は箸を止めて芙蓉の方を見た。
「いつも通りだ…」
「いつも通りってどんなだよ?」
「…う、美味い。言わなくても分るだろうが!」
「いいや、言わないと分らないな!美味いならうまい、他にも具体的に味がどうか、きちんと口に出して言いなよ。言葉で言わないと…あたしには、分らないんだ!」
「…そうか。分った。」
扉間はそう小さく言うと、再び静かに食べ始めた。
その様子を見て芙蓉は、演技・キャラ・作戦とはいえ、罪悪感に胸が痛み、負けてしまいそうになる。今すぐこの演技を止めたい。しかし、最後までやり通さなければ意味が無い。
『言葉で言わないと…あたしには、分らないんだ!』
この言葉の真意…扉間にきちんと伝わっただろうか。言いたいことはズバッと伝えたはいいものの、キャラと演技の影に霞んでしまったのではないかと少し不安になる。
食事の後、扉間は早々に自室に上り籠ってしまった。
芙蓉は皿を洗いながらガックリと肩を落とす。泣きたい…。
・・・扉間さま、きっと私のことすごく怒ってるわ。伝えたい事も伝わって無い気がする・・・
後編へ続く