※この作品はR-18です。

罪の向こう、愛の絆   作:千野 伊織

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(2)のあらすじ

ホロと共に温泉街へ出かけた扉間。
しかし、ホロは何か企んでいるように思え扉間は警戒します。
そして明らかになった事実に、扉間、そしてホロ自身も驚きます。
癒しの滞在時間を終え旅館を後にした扉間でしたが・・・・

いったい、扉間はどちらを選ぶ?

※関連話:『契り。マダラとの新たな生活』
     『マダラ、死す』


扉間の旅(2)~あまつさえ

◆

 

「ふあーっ・・・よく寝たな・・・」

翌朝。

ホロの気遣いのお陰で胃腸の調子も悪くならず、酒も残らず、気持ち良く目覚めることが出来た。昨夜布団に入った時は気が塞いでいてなかなか寝付けなかったが、寝てしまえば夢さえ見ないほどに熟睡してしまった。気づけば腹も減っている。

浴衣を整え袢纏を羽織ると朝食を摂るため部屋を出て食事処へと向かった。

 

「扉間様おはようございます。あれからご気分はいかがですか?」

指定された半個室の席に座ると直ぐに、ホロが明るい笑顔で現れテーブルの上に煎茶を置いた。

「昨夜は助かった。お陰で体調も好いし、よく眠れた。」

「それは良かったです!ではお食事をお持ち致しますね。」

ホロは扉間の返事を聞くと心から嬉しそうな笑顔をして厨房へ料理を取りに向かった。そしてホロ手によって扉間の目の前に朝食の品がずらりと並べられた。昨夜の料理同様、とても美味そうである。

…ドササササッ。

窓から突然何かが落ちる音がして、扉間は箸を止め窓の方を見た。そこに丁度ホロが最後の水菓子を持ってきて言う。

「ああ、屋根から雪が落ちたようです。」

「昨夜、雪が降ったのか…全く気が付かなかったな。」

「でもうっすらですよ。もう道の雪は融けかけていますし。今日はどちらかにお出かけされるご予定ですか?」

ホロがそう訊ねながら真っ赤な苺が入った皿を置く。瑞々しく輝く苺に、扉間は不意に目を細めた。

「・・・。あっ、ああ。土産を頼まれているので買いに行こうと思っているのだが…何か君のおススメの物はあるか?」

「色々ございますよ!ちなみに、どういった方へのお土産ですか?」

「酒好きの中年男とその妻、あとはその娘の十代後半女子二人・・・か。」

扉間はそう話しながら、銘柄など気にせず浴びるように酒を呑み賭けては負ける兄、それを甲斐甲斐しく世話する真面目な妻、その両親を反面教師にして早々に恋愛結婚してしまった現在妊娠中の姪、最近反抗期を迎え叔父の自分とも口を利かないもう一人の姪の姿が頭に浮かび、思わず扉間は苦笑した。その表情を見て、ホロは優しく微笑んだ。

「それならおススメの地酒がいくつかありますよ。あとは、この地域は柘植(ツゲ)が名産品でして、櫛はもちろん、髪飾りやブローチ、印鑑なんかも女性には大人気です。」

「それは良いな。店の場所を教えてくれないか?」

「…あの、もし宜しければ私が、ご案内いたしましょうか?…」

そう言って口元はニコリとしているのだが、目では申し訳なさそうに扉間の反応を窺っている。

「それは有難いが、仕事は大丈夫なのか?」

「私、明日の朝まで非番なんです。ぜひお役に立たせて下さい!」

「あ、ああ・・・悪いな。じゃあ、店まで案内を頼む。」

「はい!お任せ下さい!」

ホロの親切は嬉しかったが、非番の時間を割いて貰うのは気が引けた。しかし扉間も土産探しに時間を費やしたくも無かったので、後でホロに礼を渡そうと決め、その申し出を受けることにした。

◆

扉間とホロが旅館を出る頃には、昨夜降ったという雪は地面から姿を消していた。そして澄み渡る青空には白い雲が低く浮かび、眩しい太陽が濃い影を作っている。

「こちらが柘植製品の老舗店です。この辺りでは一番品揃えが良いと思います。」

「あ…すまんが代わりに選んではくれないか…その、女の好みは良く分らんのでな…」

「いいえ!せっかくの扉間様の旅のお土産でございます。扉間様がご自身でお選びになるべきだと思いますよ。もちろん、お手伝いなら喜んでさせて戴きます!フフッ。」

「あ、ああ・・・じゃあ、それで、頼む。」

扉間はホロの上手な物言いに少し戸惑いながらも二人で店に入った。

そしてホロのアドバイスを受け、ミトには大ぶりで蝶が彫られた解かし櫛を、上の姪には梅の花が彫られた持ち手の付いた解かし櫛、下の姪には小ぶりで赤い漆に鈴が付いた挿し櫛を買った。ホロのアドバイスは素晴らしかった。特に妊娠中の姪に対しては髪が抜けやすい事や漆でかぶれる危険がある事を気にして無垢の物を薦めてくれた。どれも扉間一人では絶対に選べなかっただろう。

「本当に助かった。君のお陰で良い物が選べた。ありがとう。これは薄謝だが今日の礼だ。受け取ってくれ。」

「とんでもないことでございます!受け取れません!私はそういうつもりではございません!それに、まだ酒屋へご案内しておりませんし!」

「酒屋には一人で行く。せっかくの休息時間を使わせたのだ。受け取ってくれ。」

「本当にお礼なんて要りません!私が勝手にしたくてしている事なんです。だから、ぜひ、酒屋までご案内させて下さい!お願いします!!」

「・・・。分った。ならば酒屋にも案内してもらおうか。」

扉間は、なぜホロが自ら案内したいと言い出したのか、なぜここまで必死になるのか、色々と疑問はあったが、ここは様子を見ることにした。礼は明日、宿を出る時に無理やりにでも渡せばいいのだし…。

それに、何か企んでいるのだとしても跳ね返す自信はある。

 

二人は地元の地酒屋に行き、店主イチオシの銘酒の一升瓶を一本、柱間の為に買った。どうせ酒豪の兄には味など分らないだろうが…。

「御所望のものが全て見つかって本当に良かったです!」

「これで今日の用事は全て済んだ。…頼む。受け取ってくれ。受け取ってもらわねば俺の気が済まない。」

地酒屋を出て少し行った道で立ち止まり、扉間は懐から再び謝礼の入った封筒をホロに差し出した。

「本当に要りません!あの・・・でも・・・その・・・その代わり、お尋ねしたい事がございます。あと、出来ればお頼みしたい事も・・・宜しいでしょうか?」

 

・・・ほら来た。本当の目的は、なんだ?・・・

 

…ぐぅううう。

突然、ホロの腹の虫が鳴いた。

「すっ!すみませんっ!やだっ…私ったら恥ずかしい…!!」

「ハハハハッ!いやいや、俺も丁度腹が減った所だ。では昼飯が礼ではどうだ?何でも好きな物を馳走するぞ。話もそこで聴こう。」

「・・・すみま・・・せん・・・」

ホロは顔を真っ赤にして何度も頷いた。

◆

「おっ。ホロちゃんいらっしゃい!あれ~そのひと彼氏?」

「もう!おじさんやめて!この方は旅館のお客様!失礼なこと言わないでよ!」

「しっつれいしやした~ってな。ハハハハ!ゆっくりしてってね。」

ホロが店の扉を開けると、店主と思われる陽気な初老の男が入って来た二人を見て冗談を言ったあと、笑いながら厨房の奥に入って行った。その手前に立って調理をしている妻と思しき初老の女は申し訳なさそうに苦笑いしながら、いらっしゃいませと言って扉間に頭を下げる。ホロがその女に向かって「奥のお座敷予約入って無いよね」と確認すると、扉間をその座敷へ案内した。

「失礼しました。ここの店主良い人なんですけど、いっつも悪ふざけが過ぎて…あ、味は美味しいのでご安心くださいね!」

「フフッ。君はこの街の人気者なんだな。」

扉間は座敷に腰を下ろし、胡坐をかきながら言った。

「いえいえ。狭い街ですから皆顔見知りというだけですよ。」

この定食屋に来るまでの道中、ホロは色んな店の店員や行き交う住人、男女関係なしに話しかけられたり挨拶を交わしていた。本人は謙遜しているものの、扉間にはホロがこの小さな温泉街の人気者であることがよく判った。

二人はこの店の名物で、ホロの好物だという親子丼定食を揃って注文した。丼の蓋を開けると食欲をそそる出汁の香りが立ちのぼる。朝採りの新鮮な卵は半熟で、若鶏の肉は柔らかい。魚醤がブレンドされているという寒露醤油が染みた玉ねぎもアクセントになっている。旅館で食べた昨夜の懐石も今朝の朝食も美味かったが、こちらは胃が待ち望んでいたかのような愛おしい美味さである。

「美味いな。」

「良かったです。お口に合ったようで!」

とりあえず二人は、他愛もない話でその場の空気を繋ぎながら箸を進めた。

そして、扉間がホロの親子丼の皿が空になったのを確認したところで話を切り出した。

「で、俺に訊きたい事、頼みたいという事は何だ?」

それを聞いてホロが急いで口の中に残っているものを咀嚼し飲み込むと、胸をトントンと叩いてお茶を飲み、姿勢を正して扉間を見据えた。

「あの、扉間様は木ノ葉の里から来られたのですよね?」

「そうだが。なんだ?」

「あの・・・『芙蓉』さん、という女性をご存知ではありませんか?…」

「!」

扉間はその名前に一瞬動揺したが、それを見せることなくホロの話を聞き進める。

「姓は?」

「…姓は分らないのですが、今の年齢はおそらく四十歳前後だと…あのでも!もの凄く美人なので里でも有名なんじゃないかなって…お心当たりはありませんか?」

「その女性と君の関係は?」

「昔、お世話になったんです。というより、命の恩人なんです。…私が八歳の頃、まだ山岳の墓場の港町で兄と二人、孤児として暮らして居た時に出逢って、読み書きや計算、他にも生きる為に必要な事をたくさん教えて貰いました。そのお陰で今こうして、まっとうに生きていられるんです…私。」

そう言うとホロは唇を噛みしめ俯いて眉を寄せ、今にも泣きそうな顔をした。

「なぜその女性を探しているのだ?」

「それがある日突然、芙蓉さんは居なくなってしまったんです。ああいう場所だから、犯罪に巻き込まれたんじゃないかって心配で、兄と二人で一生懸命探しました。でも見つからなくて…それで、そう言えば木ノ葉の里から来たって言っていたのを想い出したんです。だから里に帰ったのかもしれないと思って…でも、日々暮らすのに精いっぱいで、木ノ葉の里まで探しに行く事は出来ませんでした。だから、旅館なら木ノ葉の里から来たお客さんで誰か芙蓉さんを知っている人に会えるんじゃないかって思って、兄が結婚したのを機に働き始めたんです。でも、誰も知らなくて…。ただ、元気なのか知りたいんです。そして、私も兄も元気で生きていると伝えてもらいたいんです…」

ホロは顔と目を真っ赤にして、今にも涙が溢れそうになりながら必死に言葉を絞り出していた。それを見て扉間は、ホロの言っている話はおそらく嘘では無いだろうと判断した。

事実、芙蓉は十数年前、自分と結婚する前、山岳の墓場でマダラと暮らして居た。

そして、そこから連れ帰ったのは他でもない…俺だ。

「・・・その女性は、この者か?」

扉間は懐に手を入れると、小さな楕円形の銀製の額縁に入った写真をホロに見せた。

ホロは扉間の手からその写真を受け取ると自分の掌におさめ、ハッと小さく声を上げた。そして掌に顔をずいっと近づけ、目を見開き、何度も瞬きをして穴が開くほど見つめた。

「・・・この、ひとです・・・。でも・・・でもどうして⁉」

「俺の妻だ。」

「えぇっ⁉本当に⁉嘘・・・嘘みたい・・・芙蓉さん。芙蓉さんだ・・・わぁ!芙蓉さんの旦那さんに会えるなんて嘘みたい!!!・・・あの!芙蓉さんはお元気ですか⁉」

扉間は、組んでいた腕の左手を右手でグッと握り締め、少し俯き、息と唾をごくりと飲み込み目を泳を泳がせた。そして、ホロの目を見ずに答える。

「・・・十五年前に、事故で・・・死んだのだ。」

「え・・・・・嘘。 ・・・そんな・・・そんな・・・ぁっ」

ホロは掌の写真を両手でぎゅっと握り締めるとそれを額に当て、声を殺して泣き始めた。

扉間は何も言わず、その様子をただぼうっと見つめた。すると、目の前のホロの姿に、十五年前の自分、樹、柱間、その他、あの日に泣き崩れていた人たち一人一人の泣いている姿が重なって見えてくる。

そして、あの日の感情も否応なしに蘇る。

「…私にとって芙蓉さんは、お姉ちゃん、ううん、お母さん同然の存在なんです…本当は会いたかった…幸せに暮らしてるところ、見たかった…お礼が、ありがとうって…言いたかったっ!・・・」

ガタッ。カタンッ…ガラガラ。店の玄関口から小さく音がした。

開店前に入店したとあって、店内には扉間とホロ以外の客はまだ居なかった。ホロの話し声と泣き声を聞き、店主が暖簾をしまい準備中の札を下げて扉を閉めた音だった。厨房で店主は指で目頭を押さえ、その妻は布巾で涙を拭っていた。

扉間はその気配を察知し、我に返った。俯いて一度大きく深呼吸をすると、顔を上げ、泣きじゃくるホロの頭の上にポンと掌を置いた。

「こんな形だか、芙蓉も君に会えて喜んでいると思う。俺からも礼を言わせてくれ。今まで、芙蓉のことを探していてくれてありがとう。」

ホロはゆっくり顔を上げ、黙って、真っ赤な目で扉間の腕越しに扉間の顔を見つめた。すると再びその瞳からは大粒の涙が流れ落ちる。そして、歪めながらも無理やり大きな笑顔を作って答える。

「・・・はい!」

その返事を聞くと扉間はホロの頭から掌をのけ、フッと笑って見せた。

「それ、良かったら君が持っていてやってくれ。」

「え⁉でも、大切な物なのでは!」

「焼き増しすればいい。それに家に帰れば他の写真が沢山あるしな。」

「あっ、ありがとうございます!!本当に嬉しい・・・」

今度は写真を握った手を胸に当てて前屈みになり、ホロは喜びに堪えない様子で微笑んだ。すると最後の涙が頬を伝い、空になった親子丼の皿にぽたりと落ちた。

 

◆

 

「世話になったな。君のお陰で良い時間が過ごせた。」

扉間は旅館の玄関の敷居を跨いで外に出ると振り返り、後ろに居るホロに礼を言った。

「こちらこそ…本当にありがとうございました。芙蓉さんのことは悲しいですけど、旦那様である扉間様に出逢えて本当に良かったです。これ、一生大切にします!」

そう言って、首から下げた芙蓉の写真が入った銀の額縁を取り出して見せた。それが太陽の光を受けきらりと光る。そこへ不意に風が吹き、扉間の前髪を揺らして視界を遮った。扉間はその前髪を左手で抑えながら、少し寂しそうに微笑んでその額縁を見た。その左手に光るものにホロの視線が行く。

・・・結婚指輪かぁ。扉間様は今でも芙蓉さんのこと愛しているんだ。良かった・・・

ホロは扉間の顔に視線を戻し、何も言わず三日月のように細めた目で微笑んだ。

扉間はその笑顔を確認すると再び背を向け歩き出そうとした。

「あの!いつか、芙蓉さんのお墓参りに行ってもいいですか?」

「勿論だ。芙蓉も待っているだろう。」

扉間は立ち止まってそう笑顔で答えると、軽く左手を挙げながら歩いて行った。その背中にホロは深々と頭を下げ、ゆっくり頭を上げると扉間の背中が見えなくなるまで見送った。

 

 

「⁉」

坂道を下ったところで扉間は振り返った。

一瞬だが、複数のチャクラが大きく膨らんだのを察知した。辺りを見回す。そのチャクラは旅館の方向にまだ存在している。

「ホロ…」

嫌な予感がした。だが扉間は動き出そうとしている右足を止めて考える。

自分の実力ならたいていの忍は倒せるだろう。

しかし、二代目火影就任を前にして、いま火の国の外に居る。ここで揉め事に関われば、後々厄介な事に繋がりかねない。それが里の危機になるおそれだってある。

「・・・」

扉間は勢いよく走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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