※この作品はR-18です。

罪の向こう、愛の絆   作:千野 伊織

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(3)のあらすじ。

山岳の墓場と五里間・忍間に在る “暗黙の了解” ・・・
それを守るのか、ホロを守るのか。

扉間の選んだ選択は・・・?!




扉間の旅(3)扉間の選択

◆

 

旅館の玄関前には誰も居らず、静まり返っている。

 

「!」

 

扉間はそれを見つけると走り寄った。

水色と黄色で色付けされたトンボ玉の髪留め…ホロのものだ。

扉間はその場にしゃがむと目を閉じ、地に指をついて己のチャクラを追跡する。

まだそう遠くには行っていないようだ。すぐに飛雷神で飛んだ。

 

 

ガンッ! ガンッ!

「うおっ!!」「ぐあっ!!」

「誰だお前⁉」

扉間は何も言わず倒れた男二人を踏みつけてズンズンと向かって行く。

「くそっ!」

気を失ってぐったりしているホロを抱きかかえた男は、こちらに向かって来る扉間の迫力にたじろぎ、その場から飛び立とうとした。

ビュンッ!グサ!グサ!グサッ!

「ぐわぁっ!!」

ドサッ!!

扉間が放ったクナイが男の両足首と右腕の三ヶ所に突き刺さり、男は勢いよく後ろに倒れた。クナイが刺さった瞬間、扉間は男の腕の中からホロを救出すると、再び元の場所に着地した。

「お前たちの目的はなんだ?なぜこの女を攫った?答えろ・・・って、それは貴様に聞いたほうがいいか?」

振り向くと、そこには2mはあろうかという大柄の男が立って居た。

鍛え抜かれているだろう大きな筋肉のついた体は浅黒く、坊主頭。頬と顎に白毛交じりの髭をたくわえている。扉間よりも十は年上に見える忍だった。

「これはこれは…どこかで覚えのあるチャクラ、見覚えのある顔かと思えば、アンタは火影の弟じゃねぇか。」

その言葉にほんの僅かに扉間の眉がピクリとした。

“火影の弟”何度、幾人に言われ続けてきたか分らないが、どこの馬の骨ともしれないゴロツキの忍に言われるのは胸がむかつく。だが今はそれどころではない。チャクラの強さからしてかなりの手練れの忍のようだ。しかも自分の腕には敵の目的であるホロが居る。

…どうする…

「その女にちょっと聴きたい事がある。なに、用事が済んだらすぐに帰らせる。アンタは強い。ワシも無駄な戦いはしたくねぇ。こちらに渡してくれんか?」

男はにこやかな顔、穏やかな口調でそう言った。

「ならば今、俺の目の前で聴け。」

そう言って扉がホロの首元にスッと掌を添えると、ホロがゆっくりと目を開けた。

「・・・んっ・・・んん?・・・と、扉間様っ⁉」

「落ち着け。大丈夫だ。」

そう言ってホロをゆっくりと降ろし、地に立たせた。ホロは地に足を着けても扉間の右腕をしっかりと掴み、目の前の見知らぬ男を見て怯えている。

「ハァー…まいったな。」

男は苦笑いしながら仁王立ちしている。

「さあ、聴け。」

「ハハッ。いや、聴いてもいいけどよぉ、“アンタには関係の無い事”だってこと、承知しておいてくれよ。ワシたちは、山岳の墓場で商売をしている。」

「そうか。なら確かに“関係無い”な。」

「フッ。良かったよ、物分りの良いひとで・・・お嬢ちゃん、昨日の晩、塩専売店で何を見たか正直に教えてくれねぇか?」

「・・・? な、何も見てません!私はただお塩を買いに行っただけで、おばちゃんとちょっと話してすぐ帰っただけです!何も見てませんっ!」

ホロは更にしっかりと扉間の右腕に抱き着き、震えた声で答えた。

「ほらな?正直に答えるわけねぇだろ普通…」

男が扉間に向かって言葉を発したのと同時に、扉間は男の後ろに瞬間移動し頭上から刀を振り下ろした。しかし男も直ぐにそれに気が付きその場から姿を消した。そして目の前に取り残されたホロを捕まえようとして男がホロの前に立ちはだかると、扉間の影分身が現れ先にホロを抱きかかえ口から忍術を放つ。

「天泣!」

幾つもの水の針が男の顔面に飛んでいく。

「土遁・土塀防!」

男が顔の前で両手を交差させると瞬時に腕が茶色い土に覆われ、扉間の放った水針の数本を跳ね除け、残りの水針は男の腕に吸収されてしまった。しかし、男が防御している間にホロを抱きかかえた扉間の影分身はその場から姿を消していた。

男が振り向いた瞬間、目の前に扉間だけが現れた。

 

「水遁・水龍弾の術!」

「土遁・煉瓦の術!」

 

ズンッ!!! ブワッシャァァァ…

 

土遁で現れた土壁に扉間の放った水遁の水龍がぶつかるが、それと同時に土壁に吸収されて消えてゆく。

・・・土遁の壁に、いくら水龍弾をぶつけても無駄か・・・

扉間はクナイを取り出して投げたと同時に姿を消した。

宙を斬るクナイの場所に扉間の影分身が現れる。そしてまたクナイを五本、男に向かって投げた。

「フッ…無駄な事を…」

そう言った男の背後に落ちたクナイの場所に扉間が降り立った瞬間だった。

ビリビリビリビリィッ!!!

扉間の全身に強烈な電流が走り、身動きが取れなくなった。

「貴様…土遁だけでなく、雷遁…もか…」

扉間の影分身は消え、扉間本人は意識があるものの、不意の強烈な電流に身体が痺れて動けない。

「きゃあっ!」

男は遠くに座らされていたホロの所へ瞬間移動するとサッと抱き上げた。そして動けない扉間を見て笑いながら言う。

「ハハハハッ!アンタの有名税ってやつだな。くれぐれも暗黙の了解を忘れないでくれよ。じゃあな」

「待て!!・・・・・くそうっ!!」

男はホロを連れ去って行ってしまった。

しかし、扉間は身体を僅に動かすことしか出来ず、その場で痺れが切れるのを待つしかなかった。

 

 

ようやく手の痺れが薄れると、扉間は回復術の印を結んで全身の痺れを取った。そしてゆっくりと立ち上がり、まだほんの僅かに痺れが残る足を見つめて考える。

“暗黙の了解”

それは、山岳の墓場で起こる事に対して五里は無言・無関係を貫くことである。

三回目の五影会談で締結した条約の中には、『他里の内戦争には干渉しない事及びそれ以外の他国・他領地・無法地帯に於いても同じとする。但し自国・自里の忍による犯罪取締りの場合は例外として五影で協議し判断する』と明記されており、山岳の墓場は“無法地帯”に含まれる。そしてなによりも、里が興る以前からの慣例・教訓として『山岳の墓場について見聞きするべからず、近づくべからず、関わるべからず』といった“暗黙の了解”が忍の間にはあった。

それは、山岳の墓場で一番価値のあるものは金でも、命でも、地位や名誉でもなく、“情報”だからである。山岳の墓場に関わり持ちうる全ての情報を奪われれば、己の命だけではなく一族全てを危機に陥れる。

・・・暗黙の了解を破れば・・・

扉間の頭に、里の風景と、己が火影となりそれを見渡している姿が浮かんだ。そして、柱間とその妻や子、樹や弟子たち・部下。それから…しかし、最後のひとりはもう、居ない。

・・・いや、居るではないか。ここに。そして、ホロの中にも・・・

 

◆

 

「タダナカ様。やっぱり昨日店に居たのは黒寅一家の忍でしたね。あのイサリビって若頭、俺たちの取引先を片っ端から買収してやがる!」

ここは温泉街と山岳の墓場の中間地点に在る毒蛾一家アジトの一つである。

ホロを連れてきたタダナカと呼ばれる男が、幻術でホロから聞き出した情報に憤っている部下を尻目に、壁に寄りかかって座っているホロの頭を愛おしそうに優しく撫でている。しかし、ホロの視点は定まらず、頭を撫でられても何も反応しない。ホロの周りに居る三人の部下たちはその様子を見てクスクス笑っている。

「お嬢ちゃん。正直に話してくれて礼を言うぞ。まだ子供なのに偉いなぁ。」

「あいつら、さっさと幻術をかけてコイツから情報を聴き出しとけば死なずに済んだのにな…まったく、タダナカ様に手間取らせやがって。」

先ほどホロを攫った部下の三人は、扉間の前から姿を消す際、タダナカの手によって殺された。

「ふふん。いや、この娘を手に入れるのも目的だったからな。だが、まさか、あの火影の弟・千手扉間が現れるとは…フッ。流石に運が悪いとかしか言いようがねぇ。」

タダナカはホロの頭の上に置いていた掌を頬の方へと移し、丸い顔の輪郭を優しく撫でながらそう言った。

「千手扉間といえば感知能力で右に出るものは居ないと言います。もしまだ生きているのならば、間もなくここへもやって来るのでは⁉」

「うむ。ワシの『雷遁・電衣蛾』を喰らえば即死、そうでなくても丸一日は動けねぇもんだが、扉間はあの程度の術で死ぬような忍じゃねぇ。残念だがゆっくりもしてられんな…」

「あの…タダナカ様が本気を出せば、扉間を殺すことが出来たのでは?」

「解ってねぇな馬鹿か?暗黙の了解があるとはいえ、火影の弟を殺せば五里・五影を敵に回すことになる。そうなりゃワシら毒蛾一家は終わりだ。なぁに、用が済んだら娘を返してやろうと思ってな。…ハァ。だがこれほどワシ好みの娘はなかなか居らんぞ。ああ、本当に残念だ…解!」

タダナカは喋り終わると印を結び、ホロの幻術を解いた。

「・・・っん、んん・・・ん?」

ホロの目の前の視界が次第に鮮明になってゆく。しかしまるで酒に酔っているように身体は気怠く、思うように動かすことができない。

「お嬢ちゃん。ご褒美に、これからワシがたっぷり気持ち良くしてやるぞ…ヘヘヘ…」

そう言ってタダナカはホロの帯を掴み、強引に解き始めた。

「・・・いっ、いやぁ!!・・・やめ・・・てぇ!・・・」

部下たちがタダナカの後ろに近づいて二人の様子を覗き込む。これから始まる中年男と少女(に見える女)の禁断の房事をニヤニヤしながら期待している。そして、ホロの抵抗は敵うはずもなく、着物は剥ぎ取られ、タダナカは肌襦袢の襟を両手でぐいっと開くと、露になったホロの小さな乳房に吸い付いた。ホロはそのおぞましい感触に戦慄が身体を突き抜け、朦朧だった意識が否応なしにくっきりと輪郭を作ってゆく。

「いやぁぁぁぁ!!!誰か助けてぇぇぇ!!!!」

 

ホロは昨晩、旅館の料理長に「来月の納品まで塩が足りそうになから買い足してくれ」と遣いを頼まれていた事をすっかり忘れており、閉店間際の塩専売店に駆け込んだ。高級旅館とはいえ小規模な旅館である。内情は家族経営で少ない従業員と経営しているため、ホロは仲居の業務以外の事でも頼まれれば嫌な顔一つせず何でも引き受けていた。それもホロが信頼され好かれる由縁でもだった。

店内はすでに勘定所と、背の高い商品棚の奥にある接客用の席以外、灯りは消されていた。ホロは勘定所でおばさんに塩を注文すると、商品棚の間から洩れる奥の席の灯りが気になって目を遣った。すると、用心棒らしき大柄の男二人に挟まれた若い男が、5キロ用の塩袋を店主のおじさんから受け取っている様子が見えた。

塩専売店といってもタバコや日用品も一緒に売っているので、時たまタバコを大量に購入する客が居ることは知っていた。その客も大方そうだろうと思った。しかしホロは、本能的につい、中性的で美しい若い男の顔に見惚れてしまっていた。すると、横に居る大柄男の一人が黒革の平箱を取り出し、その蓋を僅かに開いて店主に見せた瞬間、そこで何かがキラリと光り、ホロは思わず眉を寄せて目を細めた。そして店主は頭を深く下げながら、笑いを堪えた顔でその箱を受け取ったのだ。

…あれはどう見ても、金(純金)の板だった。海からそう遠くないこの温泉街で塩は5キロといえど千円もしない。なのに、支払いが『金』?…

ホロはそう思った瞬間、見てはいけないものを見た気がして背筋が凍り付いた。急いで茶袋に塩を量り入れてくれているおばさんの方に顔を戻し、支払いを済まして礼を言うと直ぐに店を出て走って帰って行った。

最近、タダナカ率いる毒蛾一家のシマが荒らされるようになっていた。だがその犯人たちは直ぐに判明した。それは毒蛾一家とは因縁のある、黒寅一家の者たちだった。

両者は十年前の闘争終結後なんとか均衡を保ちつつ、うまく互いのシマで儲けていたはずだった。しかし、つい三ヶ月前に二十五歳という若さで若頭になったイサリビという男はかなりの強硬派で、どうやら再び毒蛾一家に闘争を仕掛けようとしている様だった。

タダナカは憤ったが、直ぐには手を出さずに暫く様子を見ていた。イサリビという人物とその本当の目的を探るためだった。

昨晩ホロが見惚れた若い男…それがイサリビだった。

毒蛾一家が使っている運び屋がイサリビたちに買収されているという情報を仕入れ、その日、タダナカとその部下三人は、運び屋である表向きは塩専売店のその店を見張っていた。そこへ、それらしき三人組の男が店に入ったのを確認したのだが、その中にイサリビの姿は無かった。しかし不審に思って暫く外から見張っていた所、明らかに動揺した様子で店から逃げるように走り去るホロの姿を見た。そして間もなく、再び三人組も店を出ていったのだが、店に入る時に手にしていた黒革の平箱はそこには無かった。その一連の様子を見てタダナカは、ホロが“見てはならない何か”を見たのだろうと思い、ホロが何を見たのかを知るために誘拐したのだった。

ただ、ホロは遅かれ早かれ、タダナカに誘拐される予定だったのだが…。

 

「ハハハ。お嬢ちゃん、そんなに怖がらなくてもいいんだぞ?命など取りゃしない。お家に帰る前に、ワシと最高に気持ちのイイ思い出を作ろうってだけだ…」

上半身を裸にされ、両腕を頭上で床に押さえつけられたホロの唯一残った下着にタダナカが手をつけた。固く閉じられた目頭から涙が溢れ出し、ホロはあまりの恐怖で悲鳴すらもう出せなかった。

 

「おい、知ってるか?」

その声にタダナカは勢いよく振り返った。

「貴様の様な物狂いは、死、以外に矯正方法は無いらしいぞ。」

ブンッ!!!

扉間はタダナカの首に刀を振り下ろした。

ズッシャアッ!!!

「チッ。そろそろ来る頃だとは思ったがこんなに早ぇとはな。流石、火影の弟…どうだ?何ならアンタも一緒に楽しまねぇか?終わったらちゃんと返してやるよヘヘヘッ…」

土遁・土塀防の泥で強化した腕で扉間の刀を受け止めたタダナカは、そう言って気食の悪い笑みで扉間を見上げた。その顔を見た扉間に虫唾が走る。

扉間は後ろに飛び退くと同時に数本のクナイを投げつけると、タダナカは両腕をクロスしてそれを防ぎ、クナイは跳ね返って地面に落ちてゆく。扉間は刀を構え直し、再び宙に飛んでタダナカに刀を振り下ろす。

「無駄だぁぁぁ!!!」

笑い交じりでが叫びながら、タダナカはその刀を両腕で受け止めようと更に泥を強化した瞬間。目の前から扉間の姿が消えた。

「・・・」

腕を強化し衝撃に備えていたタダナカは数秒の空白の後、クロスした手を解き辺りを見回した。目の前には周りに居たはずの部下たちが全員うつ伏せに倒れているだけで、扉間とホロの姿は消えていた。

 

 

「扉間様!ありがとうございますっ、ありがとう…うっうっうう…」

旅館の玄関前に着地し、抱きかかえていたホロを下ろすとホロは泣きだした。そして近くに居た仲居と、旅館の客たちが驚いて集まって来た。扉間は泣きだすホロと、どうした・どうしたと騒ぐ人々を無視して言う。

「ホロ、昨夜いったい何を見たのだ?」「そ、それが怪しい取引現場を見てしまって…」

ホロはしゃくりあげながらも、なんとか昨夜見た一部始終を扉間に話して聞かせた。

「おい。この子は悪党から狙われている。警務の忍を呼んできて警護してやれ。」

話を聞き終わると、扉間はホロの身体を支えて心配している仲居に向かってそう言った。それを聞いた周囲の男たちが頷き、焦った様子で警務忍者の要る駐在所に走って行った。

「ホロ、お前はおそらく昨夜見た件で口封じされる事は無いだろう。だが、あの変態ジジイがお前目当てにまたやってくるともしらん。」

「ええっ!…ど、どうしたら…」

「お前は芙蓉のことを母だと言ったな。ならば、お前は俺の娘だ。娘を守るのは父の務め。俺がお前を必ず守る。」

「扉間様!」

ホロが名前を叫んだ瞬間、扉間は目の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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