今も身を隠しつつ虎視眈々と生き続けているマダラ。
ある日、そのマダラの前に一人の若い女が現れた。
一方、木ノ葉の里では柱間亡き後、扉間が二代目火影に就任していた。
しかしその扉間にも最後の時がおとずれる。
そして、扉間の死により、主人公・芙蓉の秘密が明らかになってゆく。
マダラと芙蓉、二人を離さないように絡みつく因縁とは?
◆主な登場人物◆橘芙蓉(o.c)、うちはマダラ、ゼツ(黒)、千手扉間、うちはカガミ、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリフ、千手樹(o.c)、大筒木カグヤ、大筒木ハゴロモ。
※黒ゼツの性格は白ゼツのようなお調子者な感じにしてあります。
※うちはカガミはヒルゼンたちと同年代にしてあります。私の考えではヒルゼンが三代目火影に就任したのは35歳を過ぎてからだと考え、その設定で描いております。
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今回(1)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ(黒)。
マダラの誕生日にゼツがマダラの為に誕生日プレゼントを持ってきました。
それは一人の少女で・・・
やがてマダラと少女、そしてゼツの“先の夢”の為に行動することになります。
【挿絵表示】
「マダラ。誕生日おめでとう!これからも死ぬまで頑張ってね!」
「・・・なんだそいつは。何者だ」
マダラが死んだとされた時から二十年以上の時が流れていた。
その間ずっと、マダラは“山岳の墓場”の地下に在るアジトで生きていた。時には自ら情報収集する為に出掛けてはいたが、主な行動はゼツにさせ、自分はアジトで新術の開発をしたり“先の夢”実現への周到なシナリオを練る日々だった。
そしてこの日、ゼツによって初めてこの地下アジトに“客人”が招かれた。
しかし、客人はなぜか板の上に横たえられ眠っている。
「人生の黄昏時を目の前に男独りじゃ寂しいんじゃないかなぁ~って。ていか寂しいんでしょ?だから僕からの誕生日プレゼントだよ。」
「…邪魔だ。戻してこい」
「まぁまぁそんなこと言わないで。ほら見てよ!マダラのタイプでしょ?この子探すのに何年かかったと思ってんの~?ほら今起こすからよく見てみてよ!」
マダラは不服そうな顔で腕を組んだままゆっくりと、そこで横たわる女に近づいた。
目が覚めて騒がれれば、術でまた眠らせ記憶を消して捨てればいいのだし…
マダラはそう思いながら少しだけ身体を屈ませて女の顔をじっと見下ろした。
ゼツが術を解くと、女はゆっくりと目を開けたが茫然としており、身体はまったく動かない。起きたと言っても幻術はかけられたままだ。
「写輪眼…うちは一族ではないようだが、何をした?」
「うん。ストックしてあったのを移植したんだ。あ、ちなみに記憶は全て消してる。それから中忍レベルの忍術も使えるようにしてあるから、これから修行をつけてあげてよ。マダラが天寿を終えて転生する間、小間使いにすればいい。」
「チッ。面倒な事を…必要ない。」
「あのさぁ、僕一人で色々暗躍するのも限界あるんだよ?だってこんな身体でしょ。生身の人間の下僕がいたら便利だと思うけど?役に立たなかったら捨てればいいんだしさ。」
「・・・・。フンッ!」
「も~素直じゃないんだから。とりあえず幻術解くよ?あ、そうそう、この子は紛争に捲込まれていた所をマダラに助けられて、マダラが『これから俺の下僕として一生働けぇー!』ってなる設定ね。よろしく~」
そう言うとゼツは女の幻術を解いた。
「・・・・・・?・・・」
「あ?目が覚めた?紛争に捲込まれて死にそうになってた君を、この人、うちはマダラが見つけて助けてくれたんだよ。良かったね。はい、お礼言って!」
「・・・きゃあっ!」
女は、目と口が付いた黒くて丸い物体がしゃべる姿に驚いて悲鳴を上げた。
「ブフッ…ゴホン…」
何年も探していたという対象にゼツ自身が怯えられている様子を見て、マダラは無性におかしくなり思わず笑ってしまった。しかし。
「・・・あなた、喋れるの?・・・かわいい・・・」
「マダラ!僕、かわいいって言われたよ!やったぁ!!って、ちょっと、そんな事よりほら、マダラにお礼言って!早く!」
それを聞いて、女はゆっくりと身を起こし、マダラを見上げた。そしてマダラの顔を見ると明らかに怯えて両手を胸の前で握りしめた。唇が震えるが言葉は出てこない。
ポチャンッ。天井から雫が落ち、再び沈黙を作る。
・・・くそう。なんだこの敗北感は!・・・
「あ、あの・・・た、助けて頂いて、ありがとう、ございました・・・」
女は俯き、ようやく震えた声でマダラに礼を言った。隣では“かわいい”と言われてよほど嬉しかったのか、ゼツがぴょんぴょん跳ねている。腹が立つ。
「お前には、俺の下僕として一生働いて貰う。」
「・・・・あ、えっと・・・」
「お前の記憶は俺が全て消した。何も考えず、ただ俺に従え。」
「・・・・・」
「あのね、マダラって見ての通り、超怖~い人だから、逆らったら殺されちゃうよ?命を助けて貰ったんだしさ、とりあえずここはハイって言っとこ。ね!」
・・・ゼツ、てめぇ!なんかさっきから腹立つな!・・・
「は、はい・・・」
女はそう返事をしたが、これまでの記憶が全て消され、そして突然恐ろしい男の下僕にされる現実をまだ受け止められない様で、地面に向かって目を泳がせていた。
「ハイ決まり!じゃ、さっそくこの子の名前決めようよ。なんか良いのある?」
マダラは昨日、久しぶりに外に出た時の事を想い出した。
枯れ野を駆けていた時、ピタッと何か冷たいものが頬に当たり、その場に足を止めた。すると、僅かに青空を残した灰色の空から、牡丹雪がフワリ、フワリと降っていた。そっと目の前に掌を差し出すと、その上に雪の欠片が舞い降りた。マダラはそれをじっと見た。黒い手袋をしていたため、六角形の結晶の形までしっかりと見て取れて美しかった…
「思いつかないなら、月…」
「六花だ。お前の名前は、六花(ろっか)だ。」
暫く沈黙していたマダラを見てゼツが自分の思いついた名前を言いかけたのを遮り、マダラはその女に六花という名前を与えた。
「は・・・はい。分りました。」
女は名前を与えられてようやく現実を受け入れられてきたのか、俯いていた顔を上げ、まだ少しだけ怯えた表情でマダラの顔を見つめてきた。
マダラも、改めて六花の顔をじっくりと見た。
腰まである長い髪は亜麻色、きめ細かい肌は雪の様に白い。写輪眼の消えた大きな瞳は琥珀色で、上下のまつ毛がとても長い。鼻筋がスッと通り、唇は紅を差しているかのように赤く、頬の柔らかい輪郭が僅かに幼さを感じさせる…
確かに、マダラが好む容姿だった。
まじまじと顔を見られていることに耐えられなくなった六花は、再びそっと俯いた。
その俯く視線を追うように、マダラは視線を六花の顔から身体に移す。冬服を着ていても痩せているのが分かる。袖からのぞく、赤い平紐が巻かれている左手首も、か細かった。
「ゼツ。まずはコイツに何か食わせろ。…それと、俺はガキには全く興味無い。」
そう言ってマダラは六花に背を向けて歩いて行った。一年中気温が一定で冬はむしろ温かく感じる地下空間に、マダラの足音だけが響いていく。
「・・・」
六花は先程天井から落ちた雫の音を頭の中で繰り返すと、遠ざかるマダラの背中を黙って見つめた。
・・・私、この人と、どこかで会っている気がする・・・
「ほら、ぼうっとしてないで、さっさと立ってこっちに来て。六花!」
◆
「六花!…六花ってば!聞こえてんの?」
「シッ!静かにして…」
「また独りで勝手な事して…今度こそ叱られるだけじゃ済まないよ?」
「そんなこと言いながらゼツだって、また、一緒に居るじゃない?フフ…って、ほら!奴が来た。行くよ!!」
マダラの下僕となってからの二年間、毎日マダラに厳しい忍術の修行をつけられた。六花には予め中忍程度の力が与えられていたとはいえ、マダラの修行に手加減は無く、命の危機すら感じる厳しいものだった。しかし全てを失っていた六花は、そこに自分が生きる理由を見出し、何度も必死に立ち上がった。そして今では、熟達した忍に育っていた。
三年が経って六花が実力をつけてきた頃、マダラは偵察に六花を従えるようになった。そして六花の実力が確かなものになると、これからの“先の夢”に繋がる軌道を整備すべく、現実社会を書き換える為、六花にそれを手伝わせるようになった。
そして今では、最初の足掛かりだけをマダラが作り、後は六花とゼツに任務を任せるようになっていた。
この日も、六花はマダラに命令された任務を無事に完遂した。
しかし、マダラに速やかに帰還するように言われているにもかかわらず、この日もまた、その命令に反して六花は寄り道をしていた。
スッ・・・
「わぁっ!だっ、誰…」「写輪眼!」
子の刻(23時頃)の静寂の暗闇の中から、提灯を手に持った年寄男の前に六花が静かに姿を現した。
男が驚いて提灯を手から落としそうになるとと同時に、六花は写輪眼で男に幻術をかけた。
「・・・・・」
茫然と立ち尽くす男の瞳に写輪眼が写る。六花は男に近づくと、その手から提灯を乱暴に奪い取り、それを男の顔に近づけた。意識の無い男の影が男の代わりに怯える様に、地面でガタガタと揺れている。
「・・・もうこの町から手を引け。傭兵たちも全て撤退させるんだ。さもないと、お前だけではなくお前の家族、血縁全員をオレが殺しに行くぞ・・・」
六花は幻術と同時に、男にそう冷たく、強い怒りを込めて話しかけた。
「・・・分りました。すぐにその様に致します・・・」
男がそう返事をすると、男の目からスッと写輪眼が消え、気を失って膝から崩れ落ちそうになるのを六花がすぐさま支えた。そしてゆっくりと地面に座らせ、横たえた。
六花は立ち上がり、少し顎を上げ、まだ写輪眼の浮かんでいる冷たい目で男を見下ろした。
「こっわい顔~。なんか最近マダラに似てきたよねぇ。死神みたい。フフッ」
そう言いながらゼツがぴょんと六花の左肩に乗った。六花はそっとゼツに目を遣るとそのまま目を閉じ、フーッと鼻から息を吐いた。そして再び目を開けると、手に持った提灯を横たわっている男の傍に置き、背を向けて数歩歩くと地面を蹴り、姿を消した。
「良い事したつもりかもしれないけどさ、絶対マダラに超~怒られるよ?なんでいつも命令を聞かないで勝手な事ばっかりするのさ。」
六花は漆黒の森を木から木に飛び移りながら、自分の左肩に載っているゼツを思い切り睨みつけて言う。
「もうっ!うるさいな!…困っている人を見て見ぬふりするなんて、私にはどうしても出来ないの…どうせこの世界は無くなるんだし、なら、目の前の人を助けたって別に良いじゃない…」
ストン。ザッ。
そう言い終わると六花はアジトの入り口に着地した。同時にゼツが六花の顔に近寄り、耳元で囁く。
「あのさ、僕はマダラの意識から生まれた存在だよ?マダラの代わりに歴史や忍の動向について記録する為の存在なの。そして君の監視役…そりゃ僕だって六花の味方をしてあげたいよ。でもそれが出来ないから、いつもあれほど止めてるんじゃん。困るのは六花自身なのに…」
「・・・・」
六花は何も言わず僅かに下唇を噛んで俯いた。
もうとっくに日付が変わってしまっており、十六夜の月も随分と西に傾いている。
遅くなった理由を何とマダラに説明したら良いのだろう。帰路で感じていた胸の痛みに加え、更に大きな痛みが心にのしかかる。そんな六花の心を知る由もない秋風が、ススキを揺らし優しい音を奏でながら通り過ぎてゆく。
「とにかく早く中に入ろう。自分でした事だよ。責任取るしかないじゃん。」
「…わかってるよ…」
ゼツに促され、六花は俯いたままアジトへと入って行った。
「…任務は、うまくいったんだろうな?」
部屋の中央ではマダラが仁王立ちになっており、芙蓉を見るなりそう訊いてきた。
その声は穏やかだが、マダラのチャクラでピリピリ震える空気から、明らかに憤っていることが伝わって来る。
六花は小走りでマダラに近寄ると、その足元に片足で跪きマダラの顔をしっかりと見て言う。
「はい。確かにご命令通り完遂して参りました。遅くなり申し訳ありませんでした。」
「ゼツ。何故遅くなった?」
六花の報告を聞き終わると、マダラは表情一つ変えずにゼツへと訊ねた。
「偵察で把握していた忍の数より、実際は倍以上いたんだよ。中には手ごわい奴もいて、流石の六花も手こずったんだ。一人でよく頑張ってたよ。そうだよね、六花?」
「・・・はい。」
六花はマダラの足元を見ながら小さく答えた。その様子に、マダラはハァーと大きなため息を吐くと、六花の左側に歩み寄り、言う。
「下僕の分際で、主に嘘をつくとはな・・・」
六花はその言葉を聞くと、ごくりと小さく唾を呑み、地面で目を泳がせた。全身に冷たいものが走り心臓が鼓動を上げる。
ガンッ!…ドシッ!
「っ…」
マダラが六花の左肩を蹴り、六花は右肘から地面に倒れた。蹴られた左肩と右肘に痛みが走るが何とかそれを堪え、ゆっくり上半身を起こそうとすると、マダラが六花の左腕を掴み立ち上がらせた。
そしてその腕を引っ張りながら、六花を部屋の隅に在る地下水が溜まって出来た浅い池まで連れて行き、六花を池に向かって突き飛ばして落した。
バシャンッッ!!
六花は右半身からその池に落ちた。
左腕を池の底につき、なんとかゆっくりと上半身を起こした。そして、濡れて顔に張り付く前髪の間から恐る恐るマダラを見る。
「俺の分身であるゼツまで丸め込むとは良い度胸だ。立て!!」
「マダラ!僕が勝手に嘘をついたんだ。」
「黙れ。俺が何も知らないとでも思っているのか?」
六花はゆっくりと立ち上がり、そろりそろりと水溜りから出た。全身から滴る水で、六花の立つ地面の色が変わってゆく。一年中一定の地下アジトの気温、一定の水温の地下水とはいえ、十五℃ほどの水を纏えばすぐに寒さで体が震えてくる。マダラの瞳は怒りでついに写輪眼が浮かび上がり、それを見て六花の震えは更に激しくなる。
「服を脱げ」
「・・・・は・・い。」
六花は震える手で、濡れて固くなった帯の結び目をなんとか解き、服を全て脱いで全裸になった。
そしてマダラは、六花が服を脱いでいる間にゼツに持って来させた鉄製の首輪と手錠を六花に装着した。その冷たくずっしりとした重たさに、六花は意識が押し潰されてしまいそうな感覚になり眩暈がした。
マダラは首輪から繋がる鎖を引っ張り、部屋の中央に向かって歩き出した。六花は裸足で歩く岩の地面の冷たさで、ついに自分の身体の血が全て凍てついてしまったように感じ、ぐっと目を閉じて強制的に思考回路を遮断した。
「座れ」
六花はガクガクと震える膝をゆっくり折り曲げ、冷たい地面の上に正座をした。しかしもう六花には、その冷たさも寒さも感じられなかった。
マダラは鎖の先端をクナイに通し、地面に突き刺して固定すると、六花の目の前にしゃがみ、六花の顎をぐいっと掴んだ。
「また俺の命令を無視して、余計な事をしてきたな。」
「・・・・。」
六花の身体も唇も小刻みに震えているが、その瞳だけは真っ直ぐ、揺らぐこと無くマダラの目を見つめている。あたかもそれは、己が正しいと言い張っている様であり、マダラは更に怒りが膨らむ。しかし、マダラはフッと小さく笑うと六花の顎から手を離した。
「お前が人助けと思ってしている事は、単なるお前の自己満足に過ぎん。いや、むしろ余計な事だ。新たな争いの種、問題、そして苦しむ人間を生んでいる…」
「えっ…」
マダラの言葉に六花の瞳が思わず揺らいだ。
「まず、今回お前がした事。確かにあの町はあの大名の植民地同然にされ、駐屯する傭兵たちの搾取や犯罪に苦しんでいる。だが、一方であの大名の占領と傭兵の駐屯により、資源も無く痩せた土地で飢餓と貧困に苦しんでいたあの町は、今では商売が成り立ち多くの人間が潤っているのも事実だ。今、あの大名と傭兵たちが一斉に姿を消せば、大方の人間がまた貧困に苦しむことになるだろう。それでもお前は、人助けをしたと言えるのか?」
「そ、それはっ・・・」
六花が反論しようとするのを遮り、マダラは更に続ける。
「その前もだ。お前が売られた娘たち二十人余りを解放したな。だが、娘を売った家族はどうなったと思う?娘たちに逃げられた買手は娘たちの行方が分からない事で、その家族に騙されたと疑い、金を奪い返しただけではなく、その家族を皆殺しにした。解放された娘たちはその事にショックを受け、自害する者、女一人で生きてゆくことが出来ず結局女郎になった者が殆どだ。なぜか。それは、あの娘らは自ら望んで、家族を助ける為、そして己が生きてゆく為に売られたからだ。」
「・・・でも・・」
マダラは更にその前、そしてもっと前…芙蓉が人助けと思って行った行為全てについて、その末路を言って聞かせた。
六花は、途中から何も言えなくなり、俯き、首を横に振り、最後は涙を流しながら唇を噛んでそれを聞いていた。
マダラは、六花の涙がその震える膝の上に止めどなく落ちる様を見ながら言う。
「どうだ?これでもお前のやった事は本当に正しかったと言えるか?」
「・・・・・。」
六花は何も言えなかった。
それは全て、自分の軽率な判断、上辺だけの手助け、単なる自己満足に過ぎなかったからだ。
「第一、俺の命令に背いて何度も勝手な事をする時点で、お前の全てが間違っているがな…」
マダラはそう言うと六花に背を向け歩き出した。その背中に六花がすがりつくように言う。
「私!私は・・・いったいどうしたらいいのですか!どうしたら・・・」
「お前に出来る事はただ一つ。俺の命令に絶対に従う事だけだ。まずは、そのまま一晩反省しろ。…なに、いずれ全ての人間が楽になる…」
そう言うと、マダラは振り返ることなく別の部屋へ行ってしまった。
マダラの姿が目の前から消えると、六花は地面にうつ伏せ、声を殺して泣き始めた。
僅かに洩れる鳴き声が部屋に反響している。
「六花、大丈夫?」
六花が泣き疲れてウトウトとしていると、ゼツが布を引っ張ってきて六花の背中に掛けた。
「・・・ゼツ。ありがと・・・でも、これは私への罰だから・・・」
「うん。でも風邪引かれても僕が困るし。」
「フフ…そんなこと言って、優しいんだから…マダラ様にそっくり。」
「そりゃ分身だからね。」
「ごめんね・・・ゼツがあんなに止めてくれたのに、私・・・結局多くの人を不幸にしただけだった・・・もう、死にたいくらい、辛いよ・・・」
六花が地面にうつ伏せたままそう洩らすと、ゼツはぴょんとその頭の上に載る。
「気にしすぎじゃない?いいじゃん。百人や二百人不幸になったって別に。」
「フッ…それ、慰めてるの?責めてるの?」
「どっちでも無いけど。とにかくマダラが六花を殺さなくて良かったよ。ホントこんな事で死なないでね。困るからさ。」
「・・・うん・・・」
六花は頷き、肩に掛けられた布を手錠の着いた両手でなんとか身体に巻き付けた。
その様子を見ながらゼツは思う。
・・・困った人をほっとけない。人助けしたい…この惑星に来た頃の母さんにそっくりだ…
マダラと柱間と交わってもダメ、死にかけてもダメ…
若返らせて身体をリセットして、両目に写輪眼を移植して、これでもダメなら僕一人でなんとかするしかないかもしれない。でもそれは困る…
頼むよ、芙蓉・・・
◆
黄色い竹落ち葉の竹林を歩きながら、六花は遠くの青嶺を見てそっと目を細めた。ふと、いつかの自分が犯した軽率な行動の数々を想い出し、心が痛んだ。
だが、直ぐにまた正面を向く。
「地図を確認するぞ。」
六花の後ろを歩いているマダラが言い、ハイと言って六花が足を止め振り返る。
そこへ強い風が吹き、天から黄色い竹落ち葉がはらりはらりと舞い散り、六花の後ろで束ねた髪の毛と、それを束ねる赤い平紐を一緒に揺らした。
マダラと目が合った。
三秒ほど無言で見つめ合ったが、マダラが先に目を逸らし、道端の岩に歩み寄って腰かけると、被っていたマントのフードを下ろして眩しそうに天を仰いだ。
この日も二人で偵察に行った帰りだった。
今回の目的地は新たに訪れる不慣れな場所だった為、行きはマダラが先導し、帰りはこうしてマダラが後ろを警戒し、六花が前を歩いて地理を調査しながら帰っている。
最近、マダラの長い髪には白髪が目立つようになっていた。マダラは還暦手前であるが、最強の忍と恐れられた男とあって、実際はそんな歳には見えないし、そんな感じも無いのだが、やはり出会った時よりも年齢を重ねたマダラの姿を見ると、あとどのくらい一緒に居られるのだろうかとつい、考えてしまう。
そんな事を今日も考えながら、六花もマダラの隣りに腰を下ろし鞄から地図を取り出そうとした。しかし、直ぐに手を止め立ち上がる。
「女。ジジイ。有り金、全て出せ。」
目の前に、頭と顔を布で覆った一人の男が出現し、落ち着いた声でそう言った。するともう三人、同じような格好をした男たちの姿がその場にすう―っと浮かびあがり、六花とマダラを取り囲んだ。
「いや、金はいい。女。お前を頂こうか。」
その内の一人がそう言い、腰から刀を抜いた。それを合図に全員が刀を抜き構える。
しかし、六花は顔色一つ変えない。マダラもフードを被り直し俯いている。
「フフ…恐怖で声も出ないか。まぁいい。そのまま大人しくしておけ。」
男たちが一斉に六花に向かって駆け寄って行った。
六花が瞬きをすると、その目には写輪眼が浮かんだ。
『⁉』
「良い景色だろう?これがお前たちが見る最後の景色だ。」
四人の男たちの目の前には、美しい真っ青な初夏の空が広がっていた。
六花は腰の刀を抜くと周囲の竹を打ち切った。
『ぐわぁぁっ!!』『ぎゃあぁぁ!!』・・・・・・
六花が刀をカチンと鞘に収めた瞬間、四人の叫び声が竹林に響き渡る。
暫く男たちは呻き声を上げていたが、直ぐにその声は聞こえなくなった。
「おい。やり過ぎだろう」
マダラは立ち上がり、目の前の光景を見て、腰に手を当てると小さなため息を吐いた。
六花が打ち切り出来た竹槍に、四人の男たちが串刺しになって息絶えている。周囲の黄色い竹落ち葉は鮮血で真っ赤に染まっていた。
「いいえ。マダラ様をジジイ呼ばわりするなんて万死に値します。それにこいつらは山賊に堕ちた忍です。」
「やり過ぎだ…」
そう言ってマダラは、尚も無表情の六花の右肩をポンと叩くと先に歩き出した。
「・・・」
六花が無言で目の前の惨状を見つめていると、鞄の中からゼツが這い出てきて左肩に載る。
「わぁ~派手にやちゃったね~。何?六花、ストレス溜まってるとか?そういえば最近甘いもの食べて無いもんね。帰ったらおはぎでも買いに行こうよ~」
「うん。」
六花はその光景に背を向け、小走りでマダラの後を追った。