今も身を隠しつつ虎視眈々と生き続けているマダラ。
ある日、そのマダラの前に一人の若い女が現れた。
一方、木ノ葉の里では柱間亡き後、扉間が二代目火影に就任していた。
しかしその扉間にも最後の時がおとずれる。
そして、扉間の死により、主人公・芙蓉の秘密が明らかになってゆく。
マダラと芙蓉、二人を離さないように絡みつく因縁とは?
◆主な登場人物◆橘芙蓉(o.c)、うちはマダラ、ゼツ(黒)、千手扉間、うちはカガミ、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリフ、金角・銀角兄弟、千手樹(o.c)、大筒木カグヤ、大筒木ハゴロモ。
※黒ゼツの性格は白ゼツのようなお調子者な感じにしてあります。
※うちはカガミはヒルゼンたちと同年代にしてあります。私の考えではヒルゼンが三代目火影に就任したのは35歳を過ぎてからだと考え、その設定で描いております。
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今回(3)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ、金角・銀角兄弟、千手扉間、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリフ、うちはカガミ、千手樹(o.c)。
雲隠れの里で行われた同盟締結式に参加した扉間とその部下たち。
無事に終了したはずの締結式の後、金角銀角兄弟がクーデターを起こします。
しかし金銀兄弟の目的はクーデターだけではなく、扉間を殺害する事でした。
追手とトラップから逃れながら、雲隠れの里から脱出する扉間班。ついに窮地に追い込まれます。
(※原作・アニメの場面を引用しておりますが、随所を変更し、第31話の流れに合わせております。)
無事に扉間殺害計画を完遂した六花。
先に戻ったゼツを追い、一人で森を走ってアジトへ向かう途中で1人の男の死体を見つけます。
【挿絵表示】
◆
コトッ。
扉間は署名し終わると静かに筆を置いた。
そして今一度、二代目雷影と向き合った。
「この同盟に至るまでに再び大戦が起こってしまった。しかしこうして火影自ら我ら赴いてもらい、木ノ葉と同盟を結べた事を本当に嬉しく思う。心から礼を言う。」
「こちらもだ、雷影殿。心からこの同盟締結に礼を言わせてもらいたい。いまのこの戦火を収めるには時間がかかるかもしれないが、共に協力し、民と里を守ろう。」
パチパチパチパチパチパチ・・・・・・・
二人が固く握手をすると大きな拍手がおこり、鳴りやまない。
扉間と雷影は互いに笑顔を見せて頷いている。
その様子を、扉間の護衛で同行した、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリフ、そして、うちはカガミが拍手をしながら見守っている。
「なんか昔に戻ったみたいだよな!」
「確かに!こうやって皆で一つの部屋に泊ってワイワイやるなんて何年ぶりだろ~」
ヒルゼンが酒を片手に嬉しそうに言うと、コハルもヒルゼンの顔を覗き込むようにして嬉しそうに言った。ホムラ、トリフ、ダンゾウも、そうだなと言ってにこやかに酒を飲む。
その様子を見て、扉間も微笑んでいた。そして一口酒を飲むと、僅かに目を伏せて言う。
「今回の同盟締結でこの戦の終息も早まるだろう。いや、早く終息させなければならん…木ノ葉だけではなく、五里の市民たちの為にもな…」
全員が少し俯き、口を閉じて何度も頷く。
扉間を護衛する為の都合もあるが、久しぶりに扉間とその弟子・部下たちが揃ったとあり、全員一緒に大広間で就寝することになった。
寝る前に皆で今日の労いとして、ぐい呑み一杯だけのささやかな酒盛りをしている。
カガミも一緒に頷いていたが、今考えていることはきっと、他の誰とも違う事だろう。
『 …さっ、食べましょう!皆さんお腹空いてるでしょ?遠慮しないで沢山食べてね。まだ茶碗蒸しや豚の角煮、シジミのお味噌汁もあるのよ~ 』
いや、もしかしたら扉間だけは、自分と同じ事を想っているかもしれない。
カガミはそう考えると、芙蓉を手にかけてからの毎日…24時間365日…決して消えることのない、胸に突き刺さった楔(クサビ)が、更に奥へと深く突き刺さるのを感じた。その痛みで、ぐい呑みを持つ左手が僅かに震え始める。
「そういやカガミ、お前んとこ子供は何歳になったんだ?」
いつの間にか普通の会話が始まっており、不意にヒルゼンから話しかけられてカガミはハッと我に返った。全員の視線が自分に向いている。勿論、扉間の視線も。
「あっ、ああ…もうすぐ十二歳かな。」
「もうそんなになるのかよ。はえーなぁ。」
カガミの答えに、ダンゾウが珍しく優しい表情をして言った。
「あーあ。なんで女の私よりカガミとヒルゼンが先に結婚して子供までいるかなー。あ、そういえばヒルゼンとこは二人が目産まれるんだっけ?」
「二人目なんてまだ出来てねぇって!どっからそんな話出てきたんだよ!」
「“まだ”だってさ~!予定はしてるんだぁ。アハハハ!」
コハルがヒルゼンに話を振り、照れるヒルゼンを全員がからかい笑いが起こる。カガミは話題の中心が自分から逸れた事にほっとする。
カガミがふと顔を上げると扉間と目が合った。
扉間だけは、真顔でじっとカガミの顔を見つめていた。
カガミは焦って顔を逸らす。
動揺し、止まったはずの手がまた震える。
扉間以外誰も、カガミの様子に気付くこと無く楽しそうに笑い合って話していた。
◆
「貴様ら起きろ!!!」
未明、扉間の声で皆が飛び起きた。
扉間は障子を開け廊下に出て、ガラッと勢いよくガラス戸を開け、遠くを見つめる。
「どうしたのですか⁉」
皆が扉間の所へ集まり、その視線の先に目を凝らす。
「伏せろ!」
ドン!バン!バババン!ドン!バン!・・・
カガミが大声で叫ぶと同時に目の前で複数の爆音が鳴る。
音が鳴りやむと、全員が腕を盾にしながらゆっくりと立ち上がり目の前を見た。
目の前、200mほど先でいくつも炎が上がっている。
扉間が即座に感知をする。
「この里の忍が・・・暴れている。内紛か!貴様ら準備しろ。」
扉間が言うと全員が服を着替え戦闘態勢を整えた。扉間も素早く甲冑と額当てを纏った。
すると、部屋の扉を勢いよく開けて一人の忍が転がり込んできた。
「火影様!直ぐにお逃げ下さい!我が里の戦闘部隊がクーデターを起こしたようです。もしかしたらあなた達のことも狙っているやもしれません!」
「クーデターか・・・」
「扉間様、直ぐに里を出ましょう。」
コハルが隣で冷静な声で言った。
そして全員で直ぐに別邸を出た。
「俺たちを追跡している!何故だ!」
「やはり狙いは扉間様か!」
「うん。とにかく、扉間様を皆で守るよ!」
別宅を後にして木ノ葉の里へ向けて漆黒の森を走っていたが、すぐに追手が迫って来ていることに気付いた。
「もしかしたら、他里と共謀しているのかもしれない…」
「だとしたら、敵はさらに増える可能性も…」
コハルとホムラがそう言うと、扉間は全員止まる様に指示をし、一斉に地上に着地した。
「七人で固まって逃げるのは不利だ。別行動にする。猿、貴様はダンゾウ、カガミ、トリフと行け。コハル、ホムラ、貴様らはワシと行くぞ。」
全員が頷くと直ぐに二班に分かれ、再び木の上に飛び上がると、別々の方向へと走って行った。
・・・ガン!キィン!カン!キィン!・・・
ヒルゼン、ダンゾウ、カガミ、トリフの前に無数のクナイと手裏剣が降ってきたが全員それを防いだ。
『!!!』
ドカァァァン!!!
四人の頭上で突然大きな爆発が起こった。瞬時に四人はそれぞれ別の方向へ逃げた。
クナイと手裏剣、そして鉄の針があらゆる方向から降って来る。どうやらあらかじめ忍術によって仕掛けられた罠の様だ。四人はそれを防ぎ、避けながら前へと走って行く。
そしてダンゾウが何とか罠をすり抜け、いったん茂みに身を隠した時。
ザザッ!
「⁉」
ビュン!ビュン!ビュン!・・・ドカァン!!
「っ!!!」
茂みの向こうから敵が起爆札の付いたクナイを投げつけてきて、ダンゾウの目の前で爆発した。ダンゾウは一瞬動きが遅れてしまい、なんとか両腕で頭を守った。
「大丈夫か⁉」
気が付くとヒルゼンがダンゾウの肩を抱え、一緒に走っていた。
「余計な真似だ!」
ダンゾウは焦ってヒルゼンをつき飛ばした。
「フッ。まぁそう言うなよ。ここで仲間を失うわけにはいかないだろ?」
「チッ!」
するとヒルゼンが目の前にカガミとトリフのチャクラをみつけ、ダンゾウと共に急いで追いついた。
「お前ら無事だったんだな!トリフ、カガミ!」
「ああ、なんとかね」
「敵が多すぎる。どうする?ヒルゼン」
「扉間様と合流しよう。カガミ、扉間様の位置を感知してくれ。」
そして四人は扉間が居る方へと方向を変え、走り出した。
「囲まれたな・・・敵は・・・二十。この追跡力からして雲隠れ・・・手練れの金角部隊か。」
何とか無事に七人全員が扉間と合流し、扉間が地に指をつけて敵を感知する。
しかし、既に敵に囲まれていた。
しかも敵は雲隠れ最強と言われる、金角銀角兄弟が率いる戦闘部隊だった。
「こちらは扉間様を含めて七人・・・これじゃとても・・・」
「ホムラ!そんな弱腰でどうする!敵はこちらの正確な位置は把握できていない。ここは待ち伏せして逃げ道の突破口を作りましょう。」
「無理だコハル・・・この場合、誰か一人、陽動で気を引くしかない。」
「囮役か・・・誰が・・・」
カガミとトリフがそう言うと、即座に手を挙げた者が居た。
「俺がやります。」
「ヒルゼン!お前!」
「ヘッ!心配すんな!こう見てもお前らの中じゃ一番出来るって自負してる。なに、死にゃしないよ。」
そして呆然として自分を見ているダンゾウの肩に手を置いてヒルゼンが続ける。
「これから皆を頼むぞ!ダンゾウ!お前なら…」
「黙れ!・・・俺が手を挙げようと思っていた。一人で良い格好するな!囮役は、俺がやる!」
ダンゾウはその手を振り払うと、そう言ってのけた。
「ダンゾウ・・・」
ヒルゼンが複雑な表情でダンゾウを見つめていると、カガミが口を開いた。
「いや。囮役は俺が行く・・・いいですよね。扉間様」
「カガミ!何言ってんだよ!ダンゾウ、カガミ、お前ら二人じゃ務まらない。俺が行く!」
ヒルゼンはダンゾウとカガミの顔を見ながら言った。
そして、これまでのやり取りを黙って聞いていた扉間が、ついに口を開く。
「囮役は勿論、ワシが行く。貴様らはこれからの里を守っていく若き火の意思たちだ。」
「駄目です!貴方は火影なんですよ!里に貴方以上の忍は居ない!」
ダンゾウがすかさず扉間に意見した。
「ダンゾウよ。貴様は何かある毎に猿と張り合ってきたな。だがこの場で必要なのは仲間同士の結束だ。私的な争いを持ち込むな。決断が遅かったのは事実。まずは己を見つめ、冷静さを欠くこと無く己を知る事だ。今のままでは仲間を危機に陥れる」
ヒルゼンはゆるぎない意志を宿した目で扉間の目を見てその話を聞いていたが、ダンゾウは目を伏せ唇を噛みながら聞いていた。その二人の様子を見て扉間は続ける。
「とにかくダンゾウ、猿。その歳で焦る必要は無い。いずれその時が来る。その時までその命、とっておけ。」
そう言うと扉間は静かに立ち上がった。しかし全員が何も言えずに黙って扉間を見上げるしかなかった。
「猿よ。里を慕い貴様を信じる者たちを守れ。そして育てるのだ。次の時代を託す者を…明日からは、貴様が火影だ。」
『!!!』
扉間の思わぬ発言に全員が驚き更に何も言えなくなるが、反射的に全員の視線が一斉にヒルゼンに集まる。しかし、ダンゾウ以外の者は直ぐに地面に目を伏せる。その表情は悲壮の色に染まっている。
扉間が、今、ヒルゼンを次の火影に指名した。
それは、扉間が己の命に代えて自分達を守ろうとしている事を明示していた。
「猿、木ノ葉を頼むぞ」
「はいっ!」
ヒルゼンも悲しい気持ちは同じだった。しかしそれを打ち消し、扉間の火の意思で己の意思に大きな火を興す様に、揺るぎない大きな声で答えた。
全員が顔を上げて扉間を見た瞬間、扉間の姿は消えた。
「待ってください」
その言葉に、扉間は足を止め振り返った。
そこにはカガミが居た。
「囮役は私がやります。これまで木ノ葉の里の為に生かされてきたこの命…今こそこの命を役立て、そして償う時です。私に行かせて下さい。」
「…貴様に囮役は務まらん。貴様が失敗し他の者まで犠牲になっては意味が無い。貴様には写輪眼がある。その力で皆を里まで守り通せ。」
「・・・扉間様・・・」
扉間はカガミに背を向け歩き出したが、直ぐに足を止めた。そして背を向けたまま言う。
「…俺はかつて、芙蓉を殺そうとした。だが、マダラによって芙蓉の命は助かった。マダラが居なければ俺が…芙蓉を殺していた。貴様と芙蓉が出逢うことも無かっただろう。」
「⁉」
カガミの言葉を待つことなく扉間の姿は消えた。
「・・・・・」
目の前の真っ暗な森はまるで、芙蓉を殺してしまってからの自分の心の様だとカガミは思った。
しかし、その闇の向こうに、一瞬、芙蓉がこちらに振り返る姿を見た気がした。
◆
「水遁・水陣壁!」
スザザザザァァァァ・・・・!!!
分厚い水の壁が暗い夜空に向かって伸びてゆく。
ほぼ全員の雲隠れの忍がその壁に跳ね返されたり足止めされたが、その二人だけはその壁を難なく破り、扉間の目の前に飛び出て来た。
「てめぇが二代目火影か…なんだ独りかよ。部下は全滅したのか?ハハッ!」
「まぁ雑魚はどうでもいい。てめぇをぶっ殺すことが目的だからな。」
「狙いはワシか…木ノ葉の里にも攻め入るつもりか?」
二人は扉間の問いには答えず、二人で顔を見合わせてニヤリと笑うと扉間に飛びかかって行った。
「芭蕉扇!」
金角が宝具の一つを振りかざすと雷・風・土・火・水の性質を帯びた突風が起こり、扉間へと向かっていく。扉間はすかさず飛び立ちそれを避けたが、扉間を追うように飛んできた大量の火の粉を受け、腕で顔を覆った。
「扉間様、右へ!」
その声に扉間は直ぐに右へ飛んだ。
「・・・カガミ!」
「この暗闇の中、五つの性質全てを操る宝具を相手にするのはいくら扉間様とは言え不利です。この写輪眼があれば見極められます。」
カガミは扉間の前に立ち、背中で言った。
「何だ、まだ雑魚が残ってたのかよ。まぁ何の問題もねぇよな。銀角よ。」
「ああそうだな金角。写輪眼ごとき、俺たちの前では無意味だぜ。はははっ」
まだ夜明けは遠い森の中、金角と銀角の二人対、扉間とカガミの二人の戦いが始まった。
◆
広い森が作る空との水平線は薄青く、朝またぎを迎えていた。
六花は少し不満そうな顔で、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら走っている。
ゼツは金角銀角兄弟が火影を殺す場面を記録・確認する為、夜中に一人で出て行った。戦闘は壮絶なものになる事が想定された為、六花はそれに巻き込まれないように雲隠れの里の隅で待機していた。そして先ほどゼツは六花に火影の死を伝え終わると、急いでマダラに知らせるからと言って先に帰ってしまった。
「何よ。いつも私と一緒に報告してるのに今日に限って…さてはアイツ、雷饅頭を一人で全部食べる気じゃ…」
六花はそう呟くと不機嫌な顔になり、足を速めた。
ザッ。
六花は森が開けた土地の上で足を止め、顔をしかめた。
そしてゆっくりと歩み寄る。
・・・死んでる。雲隠れ?木ノ葉?どっちの忍かな…まぁいいか・・・
甲冑と思しき防具はボロボロに壊れ、全身傷だらけで右脚は骨が見えている部分もある。額から顎にかけて血で染まっている。
六花はその死体から急いで目を逸らし、横を避けて通ろうとした時だった。
「ごふっ…ゴホゴホ…ぐっ…」
「⁉」
六花は驚いて後ろに飛び退いた。
「いっ、生きてる?・・・」
死体と思っていたその男は、まだ息があるようで、咳き込み口から血を吹き出した。
六花はゆっくりと男に歩み寄り、そっと男の顔を覗き込んだ。
男は薄目を開け、弱弱しく息をしていた。
死にかけの人間や死体など山ほど見て来たのに、その男の白か銀かの髪の毛が血で濡れている様子を見たとたん、急に胸に何かが込み上げてきて喉が詰まり、苦しくなってきた。
その理由を考える前に、六花は気づけばばしゃがみこみ、二本の指で男の顎を上に向けて気道を確保すると、心臓の辺りに両手を当てて回復術を始めていた。そして男の胸に耳を当て、心臓の音が少しだけ安定したのを確かめると、次は足の傷を回復に当たった。
辺りは随分と明るくなり、あとは太陽が森から顔を出すだけとなった。
「・・・ふ、芙蓉・・・」
男の微かなその声に、六花は男の顔を見た。
「・・・芙蓉・・・迎えに・・・来てくれた・・・のか・・・」
「ふよう?誰だそれ。黙ってろ、死ぬぞ。」
六花は死にかけている男のうわ言など気にせず回復術を続ける。しかし男も言葉を続ける。
「じゃあ・・・君は・・・誰だ?・・・」
「 お前に教える名など無い。」
そう言うと六花はすくっと立ち上がった。そして、険しい表情で男の顔を見下ろして言う。
「オレの力で回復出来るのはここまでだ。里まで帰れるかどうかはお前の運次第だ。じゃあな。」
「礼を・・・言う・・・ありがとう・・・」
「・・・なに、ただの気まぐれだ。」
六花は険しかった表情を少し緩め、唇を尖らせて少し恥ずかしそうに顔を逸らし、そう言うとその場を走って去って行った。
扉間はその足音が聞こえなくなると、両手を地に着け、力を入れてみる。なんとか起き上がれそうだった。そしてゆっくりと、全身の痛みに堪えなが上半身を起こす。
そして、森の水平線から僅かに覗く眩しい太陽に目を凝らした。
・・・他人の、空似か。それとも、幻覚か・・・
◆
「遅かったな。何かあったのか」
「申し訳ありません…途中、雲隠れの残党に絡まれまして‥問題はございません。」
アジトに帰還しマダラの前に跪いて報告をしながら、六花はいつかと同じ胸の苦しさを想い出したが、それを隠そうと真っ直ぐにマダラの顔を見つめていた。
そう、あの時とは違うのだ。
反射的だったとはいえ、死にかけていた男一人を助けただけだ。
クーデターに巻き込まれて死にかけるような弱い忍一人を助けた所で、なんて事はないだろう。
マダラはそうかと言って背を向けると、六花は少し目を泳がせ、後ろめたさを飲み込んだ。
「ご苦労だったな。しっかり休め」
「はっ、はい!」
マダラからの労いの言葉に、嬉しさで声が上ずった。その一言で、後ろめたさなど一瞬で消化されてしまった。
「そういえばゼツから聞いたぞ…一週間前、名演技だったそうだな。フフッ。」
「っ・・・。」
六花の顔が赤くなり、俯いて両手で顔を覆った。
「六花~お帰り。雷饅頭美味しかったよねぇ。でもあの店、焼けちゃったかな?」
「ゼツあんた、私のこないだの演技、マダラ様に脚色して伝えたでしょ⁉もう!」
「そんなこと無いよ。見たマンマ伝えただけだけど?」
六花は疑いの眼差しで頬を膨らまし、ゼツをジトッと睨みつけた。
「ていうかさ、ホントに残党に絡まれてたの?まさかまた余計な事してたんじゃないだろうね。」
「別に…何もしてない。」
六花はそう言ってさっと顔を横に逸らし、僅かに目を泳がせた。
「やっぱり・・・。何したのさ?マダラには言わないから教えてよ。」
「男を・・・死にかけてたから、助けた。」
「まさか何人も助けたんじゃないだろうね!」
「一人だよ!死体だと思ったら急に意識を取り戻して、驚いて…それでつい…」
「ねぇ、“つい”で助けるもの?」
「いいじゃん!クーデターに巻き込まれて死にかけるような弱い忍だよ?そんな奴一人助けたくらい別に問題無い。火影は死んで、任務は無事に完遂したしさ!」
「それを判断するのは君じゃないよ、六花。この数年で成長したと思ったのに、そんな事も分らないの?」
六花は堪らず立ち上がり、目の前のゼツに叫ぶ。
「マダラ様みたいな口ぶりで言わないで!!」
「六花。僕はマダラだよ。」
ゼツはこれまでに無い、冷たい声でそう答えた。
さっき消化したはずの後ろめたさが再び喉を突き、六花は顔を歪めた。
「いくら毎日仲良くしてるからって、君と僕は対等じゃない。自分の立場忘れないでね。」
「・・・・・はい。」
「じゃあ次からまた気を付けてね。僕、六花のこと大好きだよ。」
そう言うとゼツはぴょんと六花の左肩に載り、頬に擦り寄った。六花は苦い笑顔でそれに頷いた。
◆
空は分厚い雲に覆われ、野分の強風が吹き、これから来る嵐を予感させる。しかし雨はまだ降っていない。
その窓辺にもたれながら、樹は苦笑交じりで言う。
「ヒルゼンの奴、突然火影になって四苦八苦してますよ。早く扉間様が指南してやって下さいよ!こっちまで業務に支障出てるんですからぁ。まったく。」
勿論皮肉も忘れない。寝台に横たわったまま、扉間はそう言う樹の顔を見てフッと鼻で笑って見せた。
四日前。扉間は自力で木ノ葉の境界線付近まで辿り着き、そこで保護された。
しかし容体は思わしく無く、丸二日間意識不明で眠り続けた。そして、今里に居る医療忍者と今の医療技術ではそれ以上の回復は難しいものがあった。それでも周囲は懸命に治療に当たろうとしたが、扉間の強い希望で自宅での緩和治療を行うことになった。
そこへ樹が見舞いへ来ている。
「猿なら問題ない…。貴様こそ何年ワシについておったんだ?それを活かして支えてやらんか…まったく」
扉間もいつものように、皮肉交じりに樹へ言葉を返した。
「嫌です。」
「ハァ…貴様も火の意思を継ぐ木ノ葉の忍なら…」
「解ってるんですからね!貴方だけ先に芙蓉の所へ行こうったって、そうはさせないから…芙蓉だって、喜ばないっつーの…」
「忍が自分の最後を選べるのだ…こんなに幸せな事は無いのだがな…」
「はぁ?どんだけ我儘なんですかぁ。火影のくせに、ありえないし!」
そう言う樹の声は震えている。涙を見せまいと窓の外を見ながら話している。
扉間自身も、そして樹も、扉間の命が長く無い事は解っていた。
「それがなぁ…芙蓉に会ったんだ。いや、芙蓉に、助けられたのだ…」
「ちょ、死にそうアピール止めてくれますぅ?」
樹は扉間の方へ振り返り、いい加減にしてくれと言わんばかりの表情で抗議した。
強い風が窓ガラスをガタガタと揺らして音を立てた。
しかし、桜は咲いていない。強風で剥がれた木の葉だけが風に舞っている。
しばしの沈黙の後、扉間が続ける。
「死にかけていたワシを、芙蓉に瓜二つのくノ一が回復術で助けてくれたのだ…本当だ。名は教えてくれなかったがな…」
それを聞いて樹は静かに深呼吸し、そっと目を伏せた。そしてまた顔を上げ、僅かに微笑みを讃えて天井を見つめている扉間の横顔を見た。もう、樹には何も言えなかった。
そこへ再び強い風が吹き、木の葉がパチパチとガラス窓に当たって落ちた。
「秋の嵐が来そうだな…こんな所で油を売ってる暇があったら早く本部に帰って嵐に備えろ。水路と電線電柱の点検も忘れるな…」
「ハイハイ、分かりましたよ~だ」
樹はヒラヒラと右手を振りながら、つかつかと部屋を出て行った。
「ハイは一回で良い・・・フッ、まったく・・・」
◆
六花はマダラに呼ばれ、アジトの一室に向かって歩いている。
何の用事だろうかと考えつつも、頭の半分では今夜の夕飯を何にしようかと呑気な事を考えていた。
失礼しますと言って中に入ると、マダラはこちらに背を向けて立って居た。足元にはゼツが居る。
「何の御用でしょうか。マダラ様。」
マダラはゆっくりと六花の方へ振り返った。腕を組んだまま、無表情で何も言わずに六花の顔を見つめる。重い空気に、六花の心臓がドクンと音を立てる。そしてマダラが口を開いた。
「お前は、俺の数十年を無駄にした。今回ばかりは許すことは出来ん。」
「・・・?」
六花は全く何の事だか分らないのだが、全身がいっきに冷たくなるのを感じ、動揺して目を泳がす。そして何の事なのか必死に思い当たる事を頭の中で検索する。しかし全く分からない。
「六花…君が助けた男は、二代目火影だったんだよ。」
ゼツがマダラの足元で六花に向かって言った。
「ええっ⁉だって、火影は確かに死んだはずじゃ!!!」
「おそらく仮死状態だったんだろう。扉間は千手一族、そして柱間の弟だ。生命力は並外れている。それを知った上で、お前とゼツだけに任せた俺も間違っていたがな…」
「申し訳ありません!!!どうか、どうか今一度チャンスを下さい!!!私が必ず火影の息の根を止めて参りますっ!!!」
「その必要は無い。助かったとはいえ、奴はもう虫の息だ。間もなく死ぬ。」
その言葉に六花は思わずホッとした。自分が助けてしまったとはいえ、火影は死ぬ…良かった。しかし、マダラは続ける。
「だが問題は、お前がまた俺の命令に背き勝手な行動をした事だ。数年前の反省から学んでいたと思っていたが、何も成長していなかったようだな。よりにもよって俺が悲願としていた扉間殺害の任務で、その扉間を助けるとは…心底失望したぞ。」
「マダラ様!!!お許しください!!!どうか、どうか・・・」
六花はマダラの足元に駆け寄り、土下座をしてマダラを見上げて必死に懇願するが、マダラは大きな声で怒鳴りつける。
「黙れ!!!今すぐ俺の前から消えろ!二度と現れるな。そして六花という名前も返せ。今後その名を名乗る事は許さん。そして俺のことを他言すれば殺す!」
六花はすがりつくような目でマダラを見つめながら首を横に振り、はぁはぁと息を上げている。動揺しすぎて言葉が出てこない。
マダラは六花を無視して部屋の出口に向かって歩き出した。
「マダラ様!!!私を…私を今すぐ殺して下さい…貴方に捨てられ、名も無くし、生きる意味まで無くしては、私は死したも同然です。この先、肉体だけで生きていく事など出来ません…お願いします…」
六花はやっとのことでそう言葉にした。本心だった。
マダラは足を止めたが、振り返りはしない。
「なぜ俺が、お前の為に、お前を殺してやらなければならん・・・最後の命令だ。今すぐここを出て行け。消えろ。」
「マダラ様っ!!!」
本当は立ち上がり、マダラの背中に駆け寄りしがみ付きたかった。
殴られても蹴られても、必死にしがみ付きたかった。
しかしその激しい感情の反面、マダラの命令に従わなければならないという思考回路が働き、六花の足を動かさなかった。
居なくなったマダラの背中を真っすぐ見つめ続けるその目からは、涙だけが滝のように流れ落ちる。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
強風の中、髪を振り乱しながら六花はとぼとぼと、黄金色の枯れススキの草原を歩いている。
耳障りな風の音、飛んでくる枯れ草、まとわりつく髪の毛が不快に感じるが、そんな事で今の悲しみが紛れるはずもない。
「六花!待って!」
今はもう失った名を呼ばれ、六花は虚ろな目で振り返る。
強風で真横になって揺れる枯れススキの中から、ゼツがぴょんと飛び出して六花の掌に載った。
「ゼツ・・・今までありがと」
「死ぬ気?」
「・・・・だって、もう生きてたって・・・」
「六花、君はまだマラダのこと愛してる?」
六花は黙って、しっかりと頷いた。目にはじわりと涙が浮かんだ。
「マダラも本当は君のこと、今でも愛しているよ。でも流石に今回はマダラも簡単に君を許すことは出来ない。それは解るでしょ?」
「うん…」
「君が今以上にマダラの為に役に立てる存在になって、時間が経てば、きっとマダラも許してくれる。だからその為に、今やれる事をやろう。」
「今、やれる…事?」
「そう。マダラと同じ力を手に入れるんだよ…!」
「・・・?」