今も身を隠しつつ虎視眈々と生き続けているマダラ。
ある日、そのマダラの前に一人の若い女が現れた。
一方、木ノ葉の里では柱間亡き後、扉間が二代目火影に就任していた。
しかしその扉間にも最後の時がおとずれる。
そして、扉間の死により、主人公・芙蓉の秘密が明らかになってゆく。
マダラと芙蓉、二人を離さないように絡みつく因縁とは?
◆主な登場人物◆橘芙蓉(o.c)、うちはマダラ、ゼツ(黒)、千手扉間、うちはカガミ、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、水戸門ホムラ、うたたねコハル、秋道トリフ、金角・銀角兄弟、千手樹(o.c)、大筒木カグヤ、大筒木ハゴロモ。
※黒ゼツの性格は白ゼツのようなお調子者な感じにしてあります。
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今回(5)の登場人物は、ゼツ、大筒木カグヤ、主人公の六花(芙蓉)。回想で扉間が少し出てきます。
マダラが柱間の細胞を手に入れたように、芙蓉も柱間の血を引く扉間の細胞を手に入れることに成功しました。
しかし、マダラと同じ能力に目覚められたのか分りません。
ところが、六花の中に目覚めたのは全く違う“人物”でした・・・
それは・・・
ゼツが芙蓉を必要としていた理由、そして芙蓉と橘一族の秘密の一部が明らかになります。
そして芙蓉が再び木ノ葉の里へ戻ってきた時、思っていた時に思わぬ人物に攻撃されます。
◆
六花は木ノ葉の里を出て、木漏れ日の雨が降る森の中を歩いていた。
あれから二日が経っていた。
扉間の家を飛び出した直後は、下腹部に残る僅かな痛みと違和感が長らく続き、否応なしに悍ましい行為の一部始終が六花の頭の中で繰り返された。
とにかく気持ちが悪い。その一言に尽きた。道端で何度か吐いたほどだった。
しかしそれ以外、今のところ体に変化は無い。
本当に、マダラと同じ能力を手に入れられたのだろうか…
一刻も早くゼツに会って確認したいのだが、何度も呼んでいるにも関わらず、ゼツは現れない。
更にこれまでの疲労に加え、何度も吐き続けているため、チャクラと体力を随分消耗しており本来のスピードで走り抜けることも出来なかった。
・・・焦る事は無い。目的のモノは手に入ったのだ。必ず、マダラ様と同じ能力に目覚められる。大丈夫・・・
六花はそう自分に何度も言い聞かせながら、ゆっくりと歩みを進めていた。
『 せいぜい後悔しながら 』
体調が善くなり気持ちも随分落ち着いた頃、六花は扉間へと最後に放った言葉を思い出していた。
なぜあんな事を言ったのが自分でもその理由が分からない。扉間が何かに後悔しているかなど知る由もないのに…しかし、それが妙に心に引っかかるのだ。
六花は立ち止まり、下を向いて頭を振り、その思考を何とか振り払った。
その夜は満月だった。森が作る丸い空の上に煌々と輝いている。
六花は火を起こして暖を取り、里で調達した僅かな食べ物を口に運びながらその月を見上げていた。
今まで何度、一人で月を見上げてきただろう…
しかし、それ以上の回数、マダラとゼツと一緒に月を見上げきた。
寂しかった。
食事を終えると鞄から薄い毛布を取り出して羽織った。鞄を枕にして横になる。
パチパチと燃える炎を見ていると、何かが口から溢れて来そうな感覚になる。
六花はここ数日の出来事から、なんとなくそれは、マダラによって消された己の過去の記憶なのではないかと感じていた。
・・・でも、思い出したくない。私の人生はマダラ様との七年間だけでいい・・・
そう思いながら六花は目を閉じた。
六花が目を覚ますと、そこは真っ白で何も無い世界だった。
そして、両手に何かずっしりと重いものを抱えている事に気付いて腕の中を見る。
するとそこには二人の赤ん坊がスヤスヤと眠っているではないか。しかし六花は驚くどころか、その二人のことが愛おしくてたまらない。
優しい眼差しでその二人を見ていると、キャッキャと騒ぐ子供の声が聞こえてきた。
顔を上げて前を見ると、二人の少年が追いかけっこをして遊んでいる。その後ろを幼女がヨチヨチと懸命に追いかけている。気づけば腕の中に目線を戻すと赤ん坊は消えていた。
六花は目の前の少年と幼女に近づこうとした。
すると少年たちは六花に気付き、笑顔で駆け寄ってきた。
六花はその三人を両手を広げて受け止めようとしたが、受け止める瞬間にその姿は消えてしまった。
そして不意に後ろに振り返った瞬間。
若い男二人が武器を持って襲いかかって来た。六花はそれを防ごうと両手で顔と頭を覆った。
「・・・・・」
六花が顔を上げると、そこには白く長い髪、額には二本の角の様なものが生えており、瞳は日向一族がもっている白眼、額には見た事のない第三の眼をもつ女が立って居た。
しかし、六花はその女に見覚えがあった。
とても懐かしかった…そしていつのまにかその女へ微笑みを向けていた。
するとその女も微笑んで、六花に向かって両手をかざして来た。
「母さん。やっと、やっと会えたね!」
「ゼツ…良くやった…誉めてやろうぞ」
森の中、六花とゼツが対峙して会話をしている。
しかし六花の人格は、芙蓉でも六花でも無かった。
「ヒミコは母親孝行の娘で良かったよね。ハゴロモとハムラとは大違いで、ヒミコは母さんっ子だったもんね。あれからしっかり後世に母さんの魂の欠片を繋いでくれたよ。で、マダラと柱間、二人の世代でようやく条件が揃ったんだ!」
「…ヒミコの転生者がハゴロモの…アシュラとインドラの能力を手に入れたか…」
「うん。でもハゴロモが母さんの魂の欠片がヒミコの魂に封印されてる事に気付いちゃって、ヒミコからチャクラを奪ったんだ。だからその血を引く橘一族は皆チャクラが無くて、ヒミコの転生者にアシュラとインドラの細胞や血を手に入れさせても、母さんを覚醒させられなかった…チャクラを与えることがカギだったんだね。それは教えておいて欲しかったかも。」
「…お前がそれに気づく時…それがわらわの覚醒の時だったのだ…それもわらわが仕組んだ事…わらわの苗床が人間の欲で肥沃に満ちる時だ…」
「なるほど。そうだったんだね!じゃあ、やっぱり母さんを復活させる世代はマダラなの?」
「…インドラの転生者であるマダラはわらわの歴史を読み解きアシュラの能力を手に入れた…もうすぐ輪廻眼も開眼する…マダラこそ人柱力となりわらわの封印を解く者…」
「やっぱりそうか!でもマダラが寿命で死んだあと、復活させる人間を誰にしようか迷っているんだ…いま母さんが入ってる芙蓉でいいかな?」
「…この者は生かしておけ…再びわらわの魂を宿せる身だ…マダラの輪廻眼はアシュラの血を引く者に預け転生術を使わせてマダラを復活させよ…おおよそ十年後うちは一族の中にマダラの血を色濃く受継ぐ男が産まれる…その男を役者として使え…」
「わかった。じゃあそういう風にシナリオをしっかり作っていくね。あのね、それから・・・」
「…もうチャクラが切れる…必ずやマダラの世代でわらわを復活させるのだ…次のアシュラとインドラの転生者に邪魔させるでない…解ったなゼツ…」
「うん!月に封印された母さんの身体と魂は、僕が絶対に復活させるからね!」
フラッ・・・ストン。
別人格の魂が消え、気を失っていた六花が地面に倒れそうになり、ゼツが体の形を大きく変えてそれを受け止めた。
「・・・・・?」
六花は眩しさを堪えながら、ゆっくりと目を開けた。
空には太陽が昇っており、青空に白い雲が浮かぶ秋晴れだった。
「目が覚めた?芙蓉」
「…あっ、あなたは確かマダラさまの…!というか、私、確か展望所から落ちて…えっと…」
「ああ。あれからもうウン十年経ってるよ?君、いま浦島太郎ってやつ?あははは!」
「えっ?・・・」
「色々説明するの面倒だし、適当に言うね。君が崖から落とされて死にそうになってるのを僕が知って、マダラに助けさせたんだ。んで、身体と魂の回復の為に仮死状態で封印し、七年前に復活させた。その時ついでに十五歳に若返らせてあげたんだよ、感謝してね。で、君は芙蓉じゃなく“六花”っていう名前で君の記憶が無いマダラと一緒に暮らしてきたんだ。君たち、幸せそうだったよ。でもまたこうして君はマダラに捨てられててるけどね。あはは」
「・・・・・。それを、どう信じろというの?」
「相変わらず疑い深いねぇ。木ノ葉の里に行ってみると良いんじゃない?柱間も扉間も死んでるし…あ、君を殺そうとしたカガミも死んでる。樹は生きてるみたいだけどね…」
「そっ、そんなっ・・・!!」
「とにかく里に行ってみたら?これから僕が里まで案内してあげるよ。道中、木ノ葉の人間のことやマダラと君との生活についてゆっくり教えてあげるし。」
「・・・・」
芙蓉はあの日、カガミと顔岩展望所に行って揉み合いになり、崖から落ちた以降の記憶が無い。
目が覚めたら突然森の中で、以前マダラの分身と名乗って現れたゼツと対峙していた。
しかも自分が崖から落ちたあの日から何十年も経過していると言う…
もう何が何だか全く分からない。
どうしていいか分からず、とりあえずゼツの言う通り木ノ葉の里へ向かうことにした。
図々しくも自分の左肩に載るゼツの道案内に従い森を抜け、橋を渡り、草原を歩いた。
芙蓉の足では木ノ葉まで一日で辿り着ける距離ではなく、ゼツの勧めで途中宿場で一泊することにした。
夕方前、まだ明るい時間に宿場町に入った。多くの人が行き交っている。
確かに、目の前の人々の格好、建物、道具や乗り物など、見慣れないものがいくつもあった。
芙蓉はそれらを見て、ゼツが言っている事は嘘では無いのかもしれないと少しばかり感じた。
宿の部屋に入ると、芙蓉は肩に掛けていた鞄を床に下ろした。
ふと、横にある姿見に写る自分が目に入り、ゆっくりともう一人の自分へと歩み寄る。
「これが…六…花…?」
姿見に写るその顔は、紛れもなく自分の顔だった。
しかし、目が覚めた時から気になっていた服装は芙蓉が所有しているどの服とも明らかに違い、忍が纏っているような装束だった。
それはまさに、道中ゼツに聞かされた、マダラと共に戦っていた忍・六花の姿だった。
芙蓉は目の前の六花と両掌を合わせたまま、俯いた。
・・・扉間さま・・・
芙蓉が想いを馳せるのは、マダラではなく、扉間だった。
ゼツの話が本当ならば、扉間はもうこの世に居ない。
そう考えるとこんな所で休んでいるどころでは無く、一晩中走り続けてでも木ノ葉の里に、扉間の所へ向かいたい。しかし悔しい事に、今の芙蓉にその体力は無かった。長時間歩いたのもあるが、目が覚めた時から身体が風邪でも引いているかのように気怠くて堪らないのだ。
芙蓉は六花と両掌を合わせたまま、ゆっくりその場にしゃがみ、うな垂れる。
「あのさ、信じなくてもいいけど、柱間も扉間もカガミもその他、君の慕う人殆どは死んでるのは事実だから焦っても意味ないよ。とりあえず今日は、何も考えずゆっくり寝たら?」
鞄の中に隠れていたゼツが這い出てきて、芙蓉の隣でそう言った。芙蓉は少し戸惑った顔をして小さく首を傾けてゼツの方を見た。
・・・なぜこの子は、私にこんなに親切に、優しくしてくれるのかしら?やっぱり、マダラさまの分身だからなの?ううん。でも・・・
「そ、そうね…明日、早く木ノ葉の里に着く為にもそうするわ。」
芙蓉は風呂に入ろうとしていた。
服を全て脱ぎ、後ろで一つに束ねていた髪を解こうと結んでいる赤い紐をほどいた。
「…綺麗な赤色…」
身に着けていた装束同様、見覚えの無いその赤い紐を手に取って小さく呟くと、くるくると丁寧にそれを巻き始めた。
「・・・⁉・・・こ、これって・・・」
芙蓉は、紐の両端に一ヶ所づつ施されている小さな刺繍を見て驚いた。
芙蓉から見て右端には芙蓉の花、左端には親友である樹の御印“鴨脚樹(銀杏)”の葉が刺繍されてあるではないか。
『 …仮死状態の君は埋葬されたけど、直ぐに僕が救い出して封印していたんだ 』
道中のゼツの説明が蘇る。
やはり、自分は一度死んだ事になっているらしい。
・・・赤い紐の両端に、自分と想い人の御印を刺繍して身に着けると恋人同士になれる・・・
木ノ葉の里が出来る前、千手一族の領地内の女学校で流行っていた“まじない”だった。
これは間違い無く、樹の物だろう。芙蓉には解る。
自分が埋葬される際、樹が棺に入れてくれたに違いなかった。
芙蓉はその赤い紐を裸の胸に抱き締めた。
愛しい樹への想いと、樹がどんな想いでこの紐を棺に入れたのかを思い遣ると涙が溢れ、止まらなくなった。
◆
「じゃあ、僕はここで。また会いに来るよ。あ、そうだ今更なんだけどさ、またマダラとまた一緒に暮らしたいとか、少しも思わないわけ?」
「ええ。思わないわ。だって、私の居場所は…ここだもの。」
芙蓉はゼツの問いにそう答えると後ろに振り返り、その家を見上げた。
「あっそ。でも、また気が変わったら教えてね。」
「それは無いと思う。例え浦島太郎状態だとしても、今生きているは事実…フフッ、まぁ貴方に生かされている命なのだけれど…だとしても、木ノ葉の里の為に生きていくという私の償いを、たとえ独りでも、この命が続く限り続けていくわ。」
芙蓉はそう言いながら坂の下に広がる木ノ葉の里の風景を目を細めて見渡した。
良く晴れた秋晴れの午後。
薄い水色の空には刷毛ではいたように雲が描かれている。
里は太陽に照らされていて、芙蓉の記憶の中の風景よりも色鮮やかに見えた。
「物好きだねぇ…いずれこの里もこの世界も無くなるって何度も説明したのにさぁ…」
「私が死んでから何十年と長い時が経っている現在(いま)、忍でもない私がマダラ様の事を誰かに話してもきっと誰も信じない。実際、もうこの家にだって住むことは出来ないだろうし…だから私をこうして自由にしてくれるんでしょう?」
「良く解ってるじゃん。まぁそもそもマダラの事を他言できない様にガッチリ術かけてるけどね~」
「あっそ・・・。だけどね、私は思うの。木ノ葉の里は永遠に続くって・・・きっとマダラさまを止める誰かが現れる。そしていつか、柱間さまが願ったように、全ての忍がひとつになる時が来る。必ず・・・」
「はぁ・・・頑なだね、ホント。マダラの気持ちが良く解るよ。」
そう言うとゼツは一度地上に降りていたのに、ぴょんと勢いよく再び芙蓉の左肩に飛び載った。芙蓉はそのゼツを見て苦笑しながら答える。
「フフッ。だってあなたはマダラさまの分身なんでしょう?」
「そうだけど・・・まぁいいや。じゃあまたね!」
ゼツは芙蓉の肩から飛び降りると、そのまま地面に吸い込まれて消えていった。
ガチャッ、ガチャッ。
玄関の扉には鍵がかかっており、開かない。当然か。
芙蓉は庭の方へまわってみた。
「!!!」
驚いた。
そこには沢山の花木が植えられていた。
秋になり殆どが葉を落としていたが、ハナミズキの葉は赤く紅葉している。
そして、その隣には見覚えのない金木犀の木が在り、今まさに花盛りを迎えて甘い香りを放っている。
芙蓉はその香りに胸が締め付けられた。堪らずそっと目を逸らすと、目線の先に見覚えのある木が在った。
いや、しかし芙蓉の記憶ではその木は、敢えてここには、植えていなかった筈である。
「・・・芙蓉の・・・木?・・・扉間さまっ・・・」
芙蓉は両手で顔を覆い、その場にしゃがんで泣き始めた。
『 一年中花が絶えないお庭を造りましょう?ね? 』
いつか、扉間へ言った己の言葉が蘇る。
庭の花木の数々、そして、芙蓉の木は間違いなく扉間が植えたものだった。
芙蓉は何とか涙を収めると立ち上がった。ここにいつまで居ても仕方が無い。
ゼツの言うことを丸呑みする気は無かったが、二代目火影に就任した扉間が雲隠れの忍のクーデターに巻き込まれた事は、時代背景や現在の忍社会の状況からも信ぴょう性は高かった。また、先ほど見た柱間の顔岩の隣には確かに扉間の顔があり、その隣には三代目となる人物の顔が今まさに彫られている作業が進められていたのを見た。
扉間の生死について木ノ葉の人間に訊ねてみても良かったが、今の芙蓉にその勇気はどうしても出なかった。
真実を己の眼で確かめる為、芙蓉は千手一族の墓地に向かおうと考えていた。
芙蓉はゆっくり立ち上がると、再び玄関の方へ歩いて行った。
ふと立ち止まり、もう一度玄関の扉に振り返る。
開くはずのない扉をもう一度、なんとなく開けてみたくなった。愚かな事だと思いつつ、芙蓉は玄関の扉に手を掛けてみる。
・・・お願い。開いて。一度だけで良いの。中に入れてほしいの・・・
目を閉じて心の中で呟いた。
カチャッ・・・
「…あ、開いた⁉」
確かに、先ほどは施錠されていたはずの玄関の扉が、開いた。
元から鍵はかかっていなかったのだろうか?
疑問と罪悪感を抱きつつも、芙蓉は恐る恐る、ゆっくりと扉を横に開く。
ガラガラガラ・・・
20センチほど開いた扉の隙間から、頭を左右に動かし、目を凝らして中を覗く。
窓から差し込む光で廊下の床がピカピカと光っている。よく手入れがされているようだった。
思い切って扉を開けて中に入ると直ぐに扉を閉める。そして誰も居ない廊下に向かって呼んでみた。
「扉間さま・・・扉間さま・・・?」
返事は無い。
静けさで耳鳴りがしそうなほど静かである。
芙蓉は俯く。
先ほど見た庭、年を重ねたこの家の風貌…その他の様々な事象から、長い年月が経過している事に間違い無いようだ。
しかし、やはり柱間と扉間、カガミが亡くなった事は最後まで信じたくはなかった。
・・・もしかしたらまだ扉間さまは里本部でお仕事中なのかもしれないし・・・
限りなく低い可能性を信じたかった。
それでも、僅かな可能性があると思うと、急に今この家に居ることが愛おしくなり、ほっとしてくる。
芙蓉は急いで短い廊下を走り、台所と居間の在る部屋の扉を開けた。
シン・・・。
灯りをつけてみると、部屋全体が良く見て取れた。
一歩、二歩、部屋の中に入って見回す。
居間の食卓は以前のまま変わりない。そして台所は・・・
芙蓉は居間を抜けて台所に立った。綺麗に片付いており、何も物は置いてない。
左に目を遣ると食器棚もそのままだった。中には、見慣れた芙蓉のお気に入りの皿たちがお行儀よく並んでいる。
芙蓉はその様子に嬉しくなり、食器棚に近寄って観音開きの扉を開けると満面の笑顔になった。
「やっぱり、扉間様は生きてるんだわ!」
笑顔の芙蓉は、急いで台所と居間をすり抜け、階段を上る。
キシッキシッキシッ・・・
きしむ音に思わず昇る速度を緩め、慎重に足を進める。
そして踊り場に着き、自分の部屋の前に立った。
…ゴクリ。
ほんの少しだけ緊張する。
芙蓉はゆっくり取手を押して扉を開いた。
カーテンは閉められ、部屋は目が慣れるまで何も見えないほど暗い。一歩中に入り灯りをつけた。
「・・・何にも、変わって・・・無い・・・?」
明るくなった部屋は芙蓉の記憶のままだった。
寝具も、絨毯も、机も、本棚も、壁にかかる絵も…。
芙蓉は自然と、いつもの様に机に歩み寄る。
机の上に在る写真立ての位置まで全く変わっていない。その中の一つを手に取って見た。
芙蓉が扉間に肩を抱かれ、二人共笑顔で写る写真。
そう、ついこの前、秋に行った結婚式の写真だ。直近の記憶の笑顔と何も変わらない。
しかし、写真は日に焼けて少し色褪せていた。
苦いものが胸に込み上げて苦しくなるのを抑えようと、芙蓉はその写真立てをぎゅっと胸に抱き締めた。
そしてその写真立てを胸に当てたまま、部屋を出って行った。
今度は扉間の部屋の前に立つ。
胸に写真たてを押し当てている左手は震えている。
…カチャッ。パチ…扉を開けて、灯りをつける。
「・・・・・」
閉められているカーテン、綺麗に整えられた寝台、何も置かれていない机…
しかし本棚には、本も忍術書も巻物も無く、空っぽだった。
芙蓉は急いで衣装棚の扉を開けた。
しかし、そこも空っぽだった。
『俺が死んだ時は忍術書の類は里に寄付し、衣類や日用品は全て処分してくれ…まぁ詳しくはこのノートに書いてあるから読んでおいてくれ』
『何を言ってるの⁉やめて下さい!縁起でもない…』
『お前は忍の妻になったんだ。解れ…だが心配するな。俺はそう簡単に死にはせん。だがお前よりは必ず先に死ぬからな。ハハハ…』
芙蓉は再び写真立てを両手で握ると胸に抱き締め、膝から床に崩れ落ちた。
「・・・私は・・・私はっ・・・もう、いまの木ノ葉の里に生きてはならない人間なんだわ・・・」
そう呟くと芙蓉は俯き、その頬からは静かに涙だけが流れ落ちて絨毯にシミを作る。
ビュンッ!!グサッ!!
反射的に身体が動き、芙蓉は床に突き刺さったそのクナイを避け、即座に後ろに振り返った。
「・・・・!?」