今回(No.7)の登場人物は、柱間、扉間、千手樹(o.c)、芙蓉。
主人公は芙蓉の親友・千手樹です。
結婚後、芙蓉は生きている設定。
木ノ葉の里が創設されもうすぐ7年を迎える頃。
ある日、樹は任務で出かけた帰り道、思いもよらず銀孤(ぎんこ)と名乗る山の神を助けます。
その礼に銀孤は何でも一つだけ願いを叶えてくれると言ってきました。
しかしそれには色々と条件があり…
それでも樹は願いを叶えて貰うことにします。
※【 if you XXX No.1 】芙蓉と樹のすれ違い を読んで戴いてからだとより楽しめると思います。
※樹と芙蓉の濃厚な濡れ場描写があります。
※挿絵の女の子は芙蓉のイメージです。
「われはこの山を千年守る役目を仰せつかっておった銀孤(ぎんこ)という。そなたのお陰でわれは呪いから解かれ、無事に故郷である明来峰へと帰還することが出来る。ありがとう。感謝するぞ・・・」
「ええっとぉ、ああ、いえいえ。そりゃあ良かったですね・・・」
・・・って、なんだぁこの白いキツネみたいな?オオカミみたいな?もののけは。目つき悪っ!誰か(扉間)にソックリなんだけど。って、私は倒れてた碑石(推定2トン)を起こしただけなんだけどなぁ・・・
樹は左手で頭をぽりぽり掻きながら、苦笑いしつつ銀孤に向かってそう答えた。
樹は護衛部隊と、樹がまとめる秘書室の部下の女子たち8人で、昨日火の国の大名の屋敷で行われた会議に出席して来た帰りだった。
しかし会議の内容は報告を急ぐ必要のあるものでは無かった事、そして次の日はそのまま休日ということもあって、木ノ葉の里へ帰る途中にある「千手温泉」に立ち寄って温泉と食事(護衛部隊との合コン)を楽しんで帰ろうという話になった。
しかし、樹だけは先に里へ帰る事にした。貴重な休日は芙蓉と一緒に過ごしたかったし、土産を渡した時の芙蓉の笑顔も早く見たかった。
皆と別れ、ひとり里に向かう山道を、後ろで束ねた長い金髪を揺らしながら急いでいた所、道を塞ぐように2mはあろうかという平たい御影石で出来た碑石が倒れており、道を塞いでいた。碑石は古の人々からの重要な教訓や啓示が書いてある貴重なものであり、それをそのまま跨いで通り過ぎるのも気が引けたため、樹はとりあえず道の傍らにそれを起こして立てることにした。くノ一の実力者である樹にとって、高さ2m・重さ2トン以上あろうとも、風遁を微細に操って立て起こす事など容易い事だった。
樹は手も服も汚すことなく、あっという間に碑石を道の端に直立させ、下部50cm程は地中に埋め、その足元は大きめの石を敷き詰めて転倒防止まで施した。
「もう倒れんじゃねーよ。迷惑だし、何より危ないからさ」
そう言って前を向いたとたん、今、対峙しているもののけが目の前に現れたのだった。
「…それで、われを助けた礼にそなたの望みを一つだけ、何でも叶えてやろう。但し、われの残りの魔力では叶うのは一日限定だがな。それでも良ければ申してみよ」
「え?は?ほ、ホントに?で、す、か?やったぁー!!わぁ~何叶えて貰おうかなぁ!えっと、えっとぉ・・・」
「もう一度言うが、一日限定だぞ・・・」
「えっ。そうなんですかぁ⁉ちぇ~ケチだなぁ」
「…さっきも、そう言ったのだが、なぁ…」
「うーん、じゃあ芙蓉、あ、私の親友なんですけど、その子と二人っきりで海の見える高級温泉旅館で贅沢三昧したいな!どうですか?」
「…うむ。構わんが…そなた、他にもっと昔から願い続けている事があるのではないか?…われにはそなたの心が見えるぞ…ああ、いや、何を叶えるかはそなたの自由だが」
「…昔から…願い、続けてる…事・・・・・」
男になりたい。
男になって・・・
「あっ、いや、それ一日じゃ無理だし、芙蓉はもう扉間の妻だし…って、あーもう、私何言ってんだろ、もののけ相手にっ!」
樹は赤面し、頭を両手で抱えながら首を横に振った。
「もののけではない。山の守り神・銀孤(ぎんこ)だ!」
「あぁ、サーセン。・・・あっ!でも!たった一日だけでもいいから、やっぱり男になりたい・・・うん!じゃあそれでお願いします。私を男にして下さい!」
「本当にそれで良いのだな?」
「はい!男になった私を見た芙蓉の反応を見てみたいし!」
「それは無理かもしれぬ。他の者の力で願いを叶えているという事が他人に知られれば、その場で魔力は解けてしまう。大きな力にはそれなりの代償も必要だという事だ。まぁ人間の魂を生贄にすれば別だがな。魔力も50年は持続するだろうし…だが、もうわれにはその生贄を待っている時間は無いがな。」
「えぇ―――。なんか制限ばっかじゃないですかぁ。」
「文句があるなら、われはもう消えるぞ。」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!分りました!私の正体を誰にも言えなくていいから、それでもいいから、私を一日男にして下さい!!」
「うむ。その願い、確かに受け取ったぞ・・・・」
「⁉」
銀孤が話し終わると、その姿はまばゆい光を放ち、辺りの森の景色までを真っ白に変えた。樹はあまりの眩しさに目を閉じ、両腕で顔を覆った。
暫くすると音も無くその光は徐々に薄れ、辺りの景色が戻ってきた。
樹は恐る恐る腕を除け、眼をゆっくりと開けると銀孤の姿は既に無く、目の前には先ほどまでと変わらない山道が木ノ葉の里に向かって伸びている。碑石も見てみたが、何の変化も無かった。
小鳥が囀り、木洩れ日は揺れ、まるで全く何事も無かったの様な景色である。
「ふぅ…ったく。やっぱキツネに化かされたってやつかな?ははっ。」
そう小さく呟くと、樹は一歩前に足を踏み出した。
「ん?」
思わず足元を見た。
いつもよりも歩幅が大きい気がする。
そして何より、股間にこれまで感じた事の無い異物感がある。それに、足元を見ているにもかかわらず、いつもならその視線を邪魔する豊満な乳房が無いではないか。
「えっ!えっ!えええ???マジでっ?」
樹はその場でぐるぐると回りながら自分の身体を触って、見回し、確かめてみた。
あるはずのものは無く、無かったものが、ある。
それに、心なしか着ている服も窮屈な気がする。身長が175cmもある樹だが、それ以上に身長も伸び、肩幅や腕の太さ、足の太さなど身体全体が大きくなっている様だった。
樹は急いで鞄の中から芙蓉に貰った手鏡が入っている巾着を取り出し、震える手で袋から鏡を出した。そして、恐る恐る、鏡を覗き込む。
「うっわあぁ!!誰だこの男っ!!??」
つい大声で叫んでしまい、直ぐに焦って肩をすくめ360℃、辺りに誰も居ないか確かめる。叫んだその声も、低く男そのものの声だった。そしてもう一度、鏡の中の自分の顔を見た。
樹は、もともと“男装の麗人”と呼ばれるほど、中性的で美男子の様な顔立ちとスタイルを持ち、里の一部の女性からは絶大な人気がある。女学校の頃から続く「樹ファンクラブ」も存続しているほどだ。
しかし今、鏡に映る“男”になった樹はどうだろう。
・・・この顔に口説かれて落ちない女なんて居るのか?・・・
樹は大きく見開いていた目を細め、うっすらと歯を覗かせて微笑した。
「あの銀ギツネ、本当に神様だったんだなぁ・・・よし!里に帰るまでにこの一日の使い方をしっかり考えるぞぉ~!」
樹は股間で揺れるものを手で確かめながら、その感触に満足そうにニヤケつつ、顎を少し上に上げ、大股でズンズンと木ノ葉の里に向かって歩いて行きだした。
◆
里の玄関「阿吽の門」をくぐると、ここに辿り着く道すがら以上に、婦女子の視線が自分に集まるのを感じる。
樹を指さして、きっきゃっとざわつき顔を赤らめる若い女子の集団のいくつかの横を、知らんぷりのフリをして前を見て真っ直ぐ歩く。しかし。
「…ねぇねぇ、でも木ノ葉の忍にあんなに美男子で男前なんて居たっけ?」
「…ううん見た事ない。居たら気付くって!新しく里の忍になった人かなぁ?」
・・・ヤッベ!木ノ葉の額当て、したままだった!!・・・
樹は歩みを早め、そのまま走り去って行った。多くの婦女子が名残惜しそうにうっとりとした顔でその後ろ姿を見送っていた。
「はぁー。変に騒がれて、火影や扉間の耳に入って正体バレたら全部水の泡だよ」
樹は細く暗い路地に入ると壁にもたれてそう洩らし、額当てを殴り捨てる勢いで外して鞄に入れた。そして代わりに鞄の中から手拭いを出し、少しでも顔を見られない様に頭から被った。初夏のこの季節、帽子・日傘替わりに手拭いを被っている人間など珍しくないだろうし…
そして気を取り直し、行った事は無いが思い当たる衣料品店へと急いだ。
しかし樹は、正体がバレないか不安と焦りを感じつつも、頭の中の九割は冷静にこれかの計画を周到に練り上げていた。
◆
「火影様!火影様!」
「おお~なんぞ?どうしたんぞ?そんな可愛らしい顔をして。何か良い事でもあったんぞ?」
久しぶりに木ノ葉の里本部の食堂で、柱間が扉間と二人で視察を兼ねて食事をとっていたところ、若い中忍のくノ一・四人組がニコニコしながら駆け寄ってきた。女好きの柱間は鼻の下を伸ばして破顔している。扉間は向かいの席からそんな柱間を睨んだ。
「あの、最近男の忍で、金髪・長身の超イケメンが里の忍に入隊しませんでしたか?お名前をご存知なら教えて下さいませ!」
「はて、そんな忍、最近新しく入隊した奴の中にいたかのう…?なぁ、扉間?」
「新人採用人事は火影ではなく、この、俺が、全て管轄しているがそんな奴はおらん。フン!貴様ら!わざわざそんな下らんことを休憩中の火影に訊きに来るな!」
その言葉に四人は身を寄せ合い怯えて後ずさると、震えた声で申し訳ありませんと言った。
「コラ扉間!良いではないか!皆の者、すまぬな。何でも訊いてくれていいんぞ?俺も皆と話すのがとても楽しみなのだ!わははははは!」
「“但し女に限る”だろーが…ったく。」
「で、おぬしらは、そんな情報どこから仕入れてきたんぞ?」
「あ、はい。さっき十時前頃に、里の入り口で木ノ葉の額当てをした金髪のそのイケメンを見たんです。周りに居る女性も皆、色めきだっていて凄かったですよ。だから真相が知りたくて、つい…」
「まぁ土産物用に木ノ葉の額当ては売ってあるからのう。おぬしら、そのイケメンの顔に見惚れて額当てが土産物用だと気づかなかっただけではないのか?わはははは!」
「土産用は布が黒ではなく、似紅色(にせべにいろ)だ。板の部分も合金ではなくただの錫(すず)の安ものだ。貴様ら、惚けておるからそんな見間違いをするのだ。それに万が一、それが里の忍に変装して何かを企んでいるとしても、そんな目立つ風貌でやって来るとは考えにくい。貴様たちも任務外だとしても気を引き締め、忍としての観察眼と洞察力と緊張感を…」
「あーあーもうその辺にしておけ扉間!皆泣きそうになっておるではないか!おお、おお、可哀そうに。気にせんでもいいぞぉ?おぬしらも忍の前に年頃の娘だからの。また何か面白い話があったらぜひ聞かせてくれ!」
『…あ、ありがとうございます…』
四人組はそう言って柱間の方に向かって深く頭を下げると、そそくさと去って行った。
「フン!!!」
「妬いておるのかぁ?自分がモテないからって。ニシシシシ…」
「うっさい!俺だって…モテとるわ。つーか芙蓉以外の女に好かれたいとも、好かれる必要も無い!」
「わはははは!よっ!さっすが男前♪」
「お前、いま絶対俺のこと馬鹿にしてるだろ?」
・・・木ノ葉の額当てをした美男子か。少々気になるが、木ノ葉創設の歴史の演劇をする旅芸人達も増えているしな。そこまで気にする必要もないか・・・
若いくノ一に囲まれた事が余程嬉しかったのか、水菓子の水ようかんを満面の笑みでパクついている柱間を横目に、扉間は心の中でそう結論づけた。
◆
「お急ぎの所、申し訳ありません。ちょっと道をお尋ねしたいのですが」
芙蓉が夕食の買い物を終え、家に帰ろうと住宅街を歩いていた所、見知らぬ青年が現れた。
その青年は夫の扉間と変わらない長身で、長く美しい金髪を靡かせ、眼は切れ長の奥二重で瞳は青色、凛々しい眉、筋の通った高い鼻、面長で男らしい輪郭の顔、程よく厚みのある色っぽい唇をしており、芙蓉は思わず見惚れてしまった。
「…あっ、は、はい。どちらでしょう?」
「私は今日、翡翠亭という割烹旅館で行われる会合に参加する為に水の国から地図を頼りに何とかここまでやって来たのですが…恥ずかしながら男のくせに地図に弱くて。最後の最後で道に迷ってしまったのです…ここです。」
そう言いながら男は芙蓉に一歩近づくと地図を広げ目的地を指さした。
「翡翠亭…名前は知りませんけれど、この辺りの地理なら解ります。ちょっと距離はありますがそんなに遠くないですよ。まず、この角を右に曲がって…」
「あの、本当に申し訳無いのですが、待合せ時間に間に合いそうに無んです。お礼は致しますので、近くまで道案内して頂けませんでしょうか?」
「そうでしたか。解りました。ではご案内いたします。あ、お礼は結構ですよ。木ノ葉の里に来て下さったお客様ですもの。おもてなしさせて下さいませ!ふふっ」
芙蓉はそう言うと肩に掛けた藤の籠を掛け直し、頭を少し傾げて微笑んで見せた。
「ありがとうございます!本当に助かります。よろしくお願いします。」
こうして二人は並んで歩き出した。
翡翠亭という割烹旅館がある場所までは人通りの少ない住宅街の道を抜け、竹林の遊歩道を通る約700mほどの距離である。ゆっくり歩いても15分もあれば着く。互いに一度一会。暗黙の了解で互いに名前を名乗りはしなかった。
「水の国から来られたのなら、木ノ葉の里の初夏はとても暑く感じるんじゃありません?」
「ああ、確かに。でもここまでくる道中で慣れましたよ。ははは。」
少し照れたように苦笑いするその男の顔はとても爽やかで、芙蓉は思わずドキッとしてしまった。それを隠そうと正面を向くと、前から歩いて来る年配の女性や子供連れの女性が隣の男の見ながら通り過ぎていく。
・・・このひと、なんて美男子なの。隣に居て気まずいし恥ずかしくなっちゃう・・・
芙蓉は下を向き、両手で藤の籠の持ち手をギュッと握り締めた。
・・・ふふっ。芙蓉ったら、なんて可愛いの・・・
芙蓉の隣に居る男。
そう、樹は、顔を赤らめて俯いている芙蓉の横顔を見下ろしながら微笑んだ。出来れば握り締められた芙蓉の手を優しく握ってやりたくなる。
「その籠、重くありませんか?沢山荷物が入っているみたいですけど。良かったら私がお持ちしますよ?」
そう言って樹は芙蓉が籠を持つ手に手を伸ばしたが、芙蓉は焦ってそれを避けた。
「あっ、いえ!今日はそんなに重たい物は買っていませんし、慣れているので大丈夫です!あ、ありがとうございます…」
そう言う芙蓉は、ついに耳まで真っ赤にしてしまった。
しかし、樹はその様子を見て、なぜか喉に苦いものを感じる。
・・・芙蓉も本物の美男子には弱いんだな。しかも、“私”じゃなく、その美男子の前ではこんな恥じらった姿を見せるなんて・・・
樹は思わず下唇を噛んだ。
夢にまで見た男という性別になれたのに、やはり自分以外の現実は変わっていない事を実感した。
「本当はもっと広い道が在るのですが、お急ぎとのことなので近道を通ろうと思うのですが、その道はこの時期竹落ち葉で足元が滑りやすいんです。それでも宜しいでしょうか?」
「はい大丈夫ですよ。その道でお願いします。」
二人は竹林の遊歩道に入った。
サワサワと笹が擦れる音がとても涼やかで、目の前には黄色い竹落ち葉がちらほらと舞っていた。
「木ノ葉の里にはいつまでいらっしゃるのですか?」
樹はその質問にドキリとする。芙蓉の質問の真意は…?
「明日までの予定です。明日の昼前には国へ帰ります。」
「あら、そうですの!とんぼ返りなんて大変ですわね。木ノ葉の里が創設してもう直ぐ7年が経つのですが、随分と見どころや名物も増えて、里の外れにある千手温泉も人気なんですよ。次、里に来られた際はぜひ、色々楽しんで帰って下さいね。」
芙蓉はそう言ってにこやかに男の顔を見上げた。深い意味は無かったようだ。
樹は安堵と共に少しばかり残念な気持になる。いや、それでいいのかとも思う。芙蓉の目の前に居るのは樹であって樹ではない、全く別人の美男子なのだから…
しかし、その気持ちのお陰で樹の心の複雑さは解消され、本来の目的を再度見据えることが出来た。
「この辺のはずだけど・・・あっ!あった!あの建物ですわ!」
「あ、本当だ!ここだ、ここだ。・・・ありがとうございます。お陰で間に合いました。しかも随分早く着けましたよ。あの、ここは喫茶室もあるようですから、良かったら時間まで一緒に冷たいお茶でも飲みませんか?お礼もお渡ししたいし」
「いいえ!お礼だなんて本当に結構です!それに、私も家に帰って夕食の支度をしなければなりませんので、せっかくですけど…どうかお帰りの際はお気を付けて。ではこれで。」
芙蓉は口早にそう言い終わると、少し後ろめたい気持ちを隠す様に男に背を向けてもと来た道へ歩き出そうとした。
夕食の支度。嘘ではない。ただ、“夫と食べる”夕食の支度だ。
「あの、すみません、さっきの竹落ち葉が頭に付いていますよ!」
「えっ?」
芙蓉は反射的に男の方へ振り返り、ハーフアップにしている髪の毛を触り始めた。すると男が芙蓉に歩み寄って目の前に前に立った。
「ちょっとじっとしておいて。取ってさしあげますから」
そう言って男は芙蓉の返事も待たずに、芙蓉の頭を両手で包み込んだ。咄嗟の事に芙蓉も身動きが出来ず、眼を見開いて男のその次の行動を待った。
チュッ
ドサッ。
芙蓉が持っていた藤の籠が地面に落ちた。
◆
上半分は障子、下半分はガラス窓になっており、ガラス窓からは専用の小さな中庭が見えている。青々とした苔と新緑のモミジが美しい。床の間には季節の花々の生け花が置かれ、その上には漆塗りの丸い壁飾りが掛かっている。
そして、手入れが行き届いている艶々とした畳の上には真っ白なリネンを被された羽根布団が二人分くっつけて並んでいる。
その左側に、芙蓉は仰向けに横になっていた。
「ごめんね芙蓉…こんな真似して…でも罪を犯しても、芙蓉を犯してでも、一度でいいからこの想いを遂げさせて欲しいんだ…お願い」
静かに眠っている芙蓉の上に樹は裸になって四つん這いに覆いかぶさり、芙蓉の顔を左手で優しく撫でながら小さな声で囁いた。
そしてその左手は芙蓉の胸に下り、白いブラウスのボタンを、ゆっくり、ひとつずつ外してゆく。やがて芙蓉の上品な胸をしっかり支えている白の絹の下着が現れ、丸い二つの乳房の間にくっきりと谷間ができていた。その胸は汗ばんでおり、山と谷はまるで真っ白い陶器のように輝き、妖艶で美しい。
樹はそれを確かめると唾を呑み込み、芙蓉に優しく口づけをする。
最初は音もなく上下の唇をなぞり、そして次はチュッチュッと音を立て唇を吸う。
ハァハァハァハァ・・・
それだけで樹の呼吸と鼓動は速くなる。
樹は既に、芙蓉の身体のすべてを知っている。
そして女同士、何度も抱き合ってきた。
しかし、女である限りどうしてもすること出来なかった行為、知ることの出来なかった快感を知りたい衝動が樹の気持ちを逸らせる。
今は美しい芙蓉の身体全てを味わい尽くすよりも、一刻も早く、それを知りたかった。
知りたい衝動と共に、下半身でドクドクと脈打っているモノの感覚に気が付く。
「⁉」
見ると、男になった樹の男根は太く、大きく、長く、腹に向かってそそり立っているではないか。赤黒く大きな亀頭に、太く長い陰茎体は血管が浮き出て真っ赤に充血している。
“男性経験”の無い樹にはある意味衝撃的な光景だったが、いったい何度、自分の股間にこれほど立派な男根が生える事を願い、そして妄想したか分らない。妄想の中だけでは、その男根で何度も何度も芙蓉の中に挿入し、射精しててきたのだが…
樹は芙蓉のスカートを脱がし、ショーツの中に手を入れ、膣の入り口を触ってみた。
当然だが乾いており、男を迎えられる状態では無さそうだった。
一刻も早く、芙蓉の中に、挿れたい…
しかし、樹の望みは野蛮に芙蓉を姦淫する事では無い。
芙蓉と、男と女同士、身も心も一つになって愛し合いたいのだ。
樹は芙蓉のブラウスを全て脱がせ、絹の下着、ショーツ、全てを脱がせて全裸にした。そして、優しく包み込むように芙蓉を抱き締める。
いつもなら自分の豊満な胸と芙蓉の上品な胸がくっつき、柔らかな感覚同士が温かな快感と安堵感を呼び起こすのだが、今は、樹自身の硬く分厚い胸板に芙蓉の柔らかな胸が触れ、樹のつぶらな乳首が刺激されてゾクゾクとする。男になっても乳首は性感帯の様だ。そして、そのたびに男根も一緒にドクドクと脈を速める。
これまで樹は、男がやたら女の中に挿入する事ばかりに拘る事に対して嫌悪し、下等な生き物だと見下して来た。しかし、いざ自分が男になってみると、その理由が少しだけ解った気がした。
樹は身体を離し、芙蓉の右乳首にちゅうっと吸い付きながら、おもむろに自分の男根に手を伸ばし、握ってみた。
すると、本能的とでもいえるのだろうか、握った手を上下に動かし、しごき始めた。自分でもその行動に驚く。男根をしごく快感は、まさにクリトリスを擦る快感と同じだった。樹の男根は更に破裂しそうなほどに膨らんでゆく。
樹は一旦しごくのを止め、芙蓉の唇から口を外し、今度は芙蓉の左の乳首に吸い付き右手で自分の唾液で濡れている芙蓉の右乳首を転がしてみた。
「…あっ…ああん…」
眠っている芙蓉がいやらしい声を洩らした。しかし顔は苦しそうに歪めている。
「芙蓉・・・気持ちいんだね」
そう呟くと芙蓉の性感帯である首筋に吸い付いた。舌で上下になぞり、チュッチュッと口づけをしたり、舐め回す。そして同時に、両手は芙蓉の両乳首をつまんでトントンと優しく刺激し続けてみた。
「はぁああんっ、はぁああん・・・あああっ・・・・・・えっ⁉」
芙蓉はパチリと目を開けた。
自分に何が起こっているのか、どういう状況なのかも分らず、全身を硬直させている。
樹も芙蓉が目を覚ましたことに気付き、顔を上げて芙蓉の顔を見た。
芙蓉は硬直しつつも、眼球をきょろきょろと泳がせる。驚きと恐怖で言葉も出ないようだ。
「ハァハァハァ・・・」
そのうち芙蓉の息が速くなる。肩が激しく上下し、眼はみるみるうちに潤んでいく。
「怖がらないで・・・君を、最高に気持ち良くさせてあげるだけだから・・・」
「な、なん、で・・・?」
「君がこんなにも美しく、魅力的だから悪いんだよ。私の心を、君は全て奪ったんだから」
樹は優しい目でそう言うと芙蓉を抱き締めた。すると、いきりたっている樹の男根が芙蓉の下腹部に当たった。
「⁉・・・い、いやあああっ!やめて!助けてっ!!誰かっ!!!誰か来て!!扉間さまぁ!!!扉間さまっ!!!」
芙蓉は何とか力を振り絞り、ジタバタと身体と手足を動かして抵抗する。しかし、樹は芙蓉の両手首を握ると、布団に押し付けた。
「いっ…た」
それはとても強い力で、手首が折れてしまいそうだった。芙蓉は女の自分の力で敵わない男の腕力に恐怖を感じる。そして自分に覆いかぶさっているその男の姿はとても大きく、芙蓉の視界を全て覆っていた。そして再び、芙蓉の体は固まってしまった。だが、それでも何とか声を洩らす。
「や、やめて…お願い…やめて…やめてください・・・」
芙蓉の顔は恐怖で歪み、潤んだ瞳は恐怖で揺れ、唇を震わせている。
樹にはその様子がまるで、
『早く、きて』
と懇願している様に見えた。
樹は一度目をつぶってハァーっと大きく息を吐くと、再びゆっくりと目を開ける。
そして、樹は左手で芙蓉の両手首を芙蓉の頭上に押さえつけると、右手で芙蓉の秘部に手を伸ばした。
もう膣はトロリと蕩けており、簡単に中指が入ってしまうほどだった。
「い、いやっ!!どうして!どうしてこんなことを?」
「さっきも言っただろ?…君が、君だから…だよ」
そう言うと樹は芙蓉の手を離し、今度は芙蓉の両ふくらはぎを持って無理やり股を広げ、膝を突いてその間に入る。そして左手で芙蓉の腰を抑え、右手で男根を支えながら芙蓉の膣の入り口に押しつけた。
『んんっ』
二人の声が重なる。亀頭が芙蓉の膣の中に入った。
もっと奥へと挿入しようとするが、なかなか入らない。
しかし、樹は先ほど男根をしごいた様に、無意識に腰をゆっくり動かし始め、男根を僅かに出し入れした。すると男根は少しずつ、少しずつ、狭い芙蓉の膣を押し広げながら奥へと入ってゆく。
「あぁっ気持ちいいっ!」
樹は思わず声を上げ、眼を閉じて天を仰いだ。
・・・なんだこの感覚は⁉指で感じる比じゃない!ここれが“ひとつになる”快感なのか。気持ち良すぎてもう、直ぐにでもいきそう・・・
樹は更に腰を動かし、もっと奥へと男根を入れようとした。
しかし、ある部分で男根が閊(つか)えた。樹は腰を止める。
芙蓉はシーツを握り締め、今生の頼みのごとく声を震わせながら樹に向かって言う。
「…お願い…お願いだからやめて…もう、これ以上は…」
・・・なるほど、ここから先が男しか知ることの出来ない聖域なんだな・・・
樹はそう悟ると、いっきに男根を更に奥へとねじ込んだ。
「っ!!!いやぁぁぁあっ・・・・・」
樹の亀頭がふわふわとした柔らかな部分に突き当たると、芙蓉の声が途切れた。
芙蓉の顔を見てみると、虚ろな瞳には諦めと快感が写っており、先ほどまでの恐怖と苦痛の表情は消えていた。
樹はその瞳を確かめると芙蓉の腰を両手で掴み、無心に腰を振り始めた。
何も考えなくとも、自分の快感を高めようと自然に腰が素早く動く。
それはまるで、生まれる前から知っていた、まさに本能だった。
・・・ああ。やっぱり、私は生まれる前から男だったんだ・・・
「あんあんあんっ!ハァハァハァ・・・や、やめてぇ・・・お願いっ!お願いっ!」
無心で腰を振っていた樹は、芙蓉のその声で我に戻る。
芙蓉のことも、存分に気持ち良くさせなければ。
「…やめないよ。これから、どんな男たちよりも私が、芙蓉を最高に気持ち良くさせてあげる…」
今度は少し挿入する角度を変え、いつも指で擦る膣の腹側の場所めがけ亀頭を激しくぶつけてみる。
スボスボ、ぐちゅちゅ、ぐちゅっ、ぐぽっぐぽといやらしい音が響く。
「ああああああ・・・あんあんあんっはぁんはぁん、はああんっ!!だめっ!だめぇやめてっ!」
「本当にやめていいの?いきたくないの?いかないとずっと苦しいままだよ?ほら、いかせて下さいって言ってみて、芙蓉」
「・・・だ、だめっ!嫌!」
「・・・そう、分かった」
樹は腰を止めると、男根を挿入したまま、再び芙蓉の両手首を布団に押し付け、乳首を舐め始めた。
「あっ・・・あっ・・・はぁあんっ。はああんっ」
「だめって言いながら腰がピクンピクン動いて、いやらしい声も出してるね。フフッ」
樹はそう言いながら芙蓉の顔を見てほくそ笑んだ。
そして、また芙蓉の右乳首を舐め回したり吸ったりしながら、再び腰をリズミカルに振り、男根を出し入れする。
「はああぁぁぁんっ!らめぇっ!らめぇええ!い、いっちゃう…お願い…いかせて、いかせてくらさいぃっ…」
「うん、いかせてあげるよ。素直でいい子だね、芙蓉は」
樹は上半身を起こし、今度は芙蓉の両方の乳房を両手で掴み、揉みしだきながら激しく腰を振り、芙蓉の膣の中を掻き回す。
「あんっあんっあんっあんっ!!ひゃああんっはあああんっ…だ、だめっ、いく!いくぅううぅっ!!」
「ああ芙蓉、私もいっちゃう…出すよ、芙蓉の中に私の精子、いっぱい出すよ?」
「それはだめぇ、外で、外で出し…」
「うっ!あああっうああああっ!!!」
「いやぁあああんんっ!ああああっああ、はあああん・・・き、気持ちぃ…んっ」
樹は芙蓉の言葉を無視して膣で思い切り射精した。ドビュウッっと男根から熱いものが放たれ、ドクドクと脈打ちながら、芙蓉の子宮の中へとそれを注ぎ続けている。
芙蓉も射精された感覚に強い快感を感じて同時に果ててしまい、つい「気持ち良い」と洩らしてしまった。そして芙蓉はハァハァハァと息を切らしながら、ぐったりと脱力して顔を横に向けた。
樹はその芙蓉の顎を持って上を向かせ、優しく唇に口づけをする。芙蓉はその口づけを嫌がることなく、脱力したまま男の優しく甘い口づけに浸っていた。むしろ、芙蓉は自ら男の唇をむさぼっていた。
長い口づけを終えると、二人はぎゅっと抱き締め合った。
「・・・愛してるよ。芙蓉。」
「・・・うん。私も、愛してる・・・樹ちゃん・・・」
「⁉」
樹は思わず顔を上げ、眼を見開いて芙蓉の顔を見た。
芙蓉は少し困ったように微笑んでいる。
「えっ、なんで・・・?」
「・・・分るよ。」
芙蓉は呆れたように言うと、左手で樹の柔らかい頬を、右手で豊満な乳房を優しく揉んだ。
「はっ!」
「…樹ちゃん、これはいったいどういう事?」
「えっと、それは、あのっ…」
「とりあえず、そこに正座して。きちんと私に解る様にちゃんと説明しなさい。」
芙蓉は真顔だが、明らかに怒っているのが判る。
樹はいそいそと芙蓉の上から退いて、布団の足元に正座した。芙蓉も起き上がり、隣の布団の掛け布団を引っ張って身体に巻き付け、樹と向かい合って座る。
「あのね、話すと長くなるんだけど…まずは、本当にごめんなさい!!!許して!!!許されない事だって解ってる。でも、でも!私の事嫌いにならないで!!!」
樹は敷布団に穴が開く勢いで土下座をした。
「いいから。兎に角、こんな事をした理由をしっかり説明してちょうだい。」
・・・こんなに怒ってる芙蓉、初めてだよ…当然だよね・・・
「今朝、木ノ葉の里に帰ってくる途中、山の中で大きな碑石が倒れて道を塞いでたんだ。そのまま放っておくのも難だから、風遁で道端に立て直したの。そしたら“銀孤(ぎんこ)”って名乗る山の神が現れて、碑石を起こして自分を助けてくれた礼に、一つだけ何でも願いを叶えてくれるって言ってきたんだ。信じて貰えないかもしれないけど…それで、その願い事は一日限定で、しかも他者の力でその望みが叶えられている事がバレたら即・魔力は解けてしまうっていう条件付きでさ…で、私は、それでもいいから私を一日男にしてくれって言ったんだ…」
「私を強姦するために?」
「っ・・・・・。それは・・・」
否定など出来るはずもない。間違い無いのだから。
樹は膝の上で拳を握り締め、泣きそうな顔でその拳に目線を落とした。
「本当に、本当にごめんなさい…一度でいいから、男として芙蓉と愛し合ってみたかったんだ…。これは言い訳だけど、芙蓉と出逢って以来ずっと、ずうっと男になりたいって願ってた!扉間様より、柱間様より、そしてマダラより芙蓉を愛している自信があった!けど、私は女で在る限り、芙蓉と結ばれる事も、芙蓉と夫婦になって幸せにする事も出来ない。それがとても苦しかったんだ…。一度でいい。想いを遂げられたら、自分から正体を言って芙蓉に謝るつもりだった。でもだからって言ってこんな事するのは間違ってた!この世で一番大切で愛している芙蓉を、傷つけたんだから・・・」
「樹ちゃん・・・。うん。樹ちゃんのした事は間違ってる。あの男の人の正体が樹ちゃんじゃ無かったらって思うと、今でも死にたくなるほど悍ましい。本当に怖かった…。でも途中、目の前の男の人の正体が樹ちゃんだって気付いた瞬間、樹ちゃんにこんな事をさせた理由も、分かった気がしたよ…扉間様への愛情とは違うけれど、私は樹ちゃんを愛してる。でも、樹ちゃんにとっては男の扉間様が私を愛しているのと同じく、私の事を愛してくれているよね…私、その事にずっと前から気づいてた。でも、気づいていない振りをして、樹ちゃんの愛情と我慢と友情に甘えてきた。だから樹ちゃんにこんな事をさせたのは、私にも原因があるわ。」
芙蓉は目に涙を浮かべ、樹の眼を見てフッと微笑んだ。
「芙蓉・・・」
「樹ちゃん、ごめんね。ずっと長い間、辛い想いをさせて。」
「なんで芙蓉が謝るのさ!芙蓉は悪くない!!悪く無いよ!!」
樹はそう言うと、両手で顔を覆って声をあげて泣き始めた。
芙蓉はゆっくりと樹に近寄り、樹の身体をそっと抱き締めた。
「夏の白昼夢・・・そうしておこう。ね?」
「…私のこと、許して、くれるの?」
「うん。だから樹ちゃんも、これからも私の親友で居てくれない?愛し合う親友として傍に居て。お願い…」
「うん!うん!!芙蓉、愛してるっ!芙蓉!!!」
樹は芙蓉に抱き着くと、芙蓉の裸の胸に顔を埋めて泣いた。
◆
六月も末になり夏至を迎え、夜の闇より昼の明るさの方が長くなった。
しかし腹時計は正確なもので、まだ明るくとも時間になれば腹は減る。
ガラガラッ。ピシャッ。
「おーい。帰ったぞ。」
扉間は腹をさすりながら玄関を入り、暗い廊下の向こうに声を掛ける。
しかし、返事は無い。
それにいつもならば、扉間の帰りに合わせ廊下の灯りも付いているはずである。
芙蓉の今日の予定では私塾での授業は無く、何か用事があっても19時までには家に帰っているのが普通である。扉間は急いで靴を脱ぎながら再び廊下に向かって叫ぶ。
「おーい、芙蓉!!」
やはり返事は無い。寝ているのだろうか。
以前、上役との会食の日、帰って来た時に芙蓉と樹が部屋で昼寝をしていた事があったのを想い出す。しかし玄関にはやはり、芙蓉の普段履きの靴も、樹の靴も無い。
『・・・最近男の忍で、金髪・長身の超イケメンが里の忍に・・・』
不意に扉間の頭に昼間、くノ一たちが言っていた言葉が浮かんだ。
「いやいや、まさか・・・芙蓉に限ってそんな事・・・いやでも、無理やりその男に何かされていたら・・・!」
扉間は急いで再び靴を履く。
そして飛雷神の術で飛んだ。
(結婚しても芙蓉の手首に付けられたマーキングは消されはしなかった)
「芙蓉!!!」
そう叫ぶと同時に、扉間は目の前の芙蓉にズンズンと歩み寄る。
「と、扉間さま!…あ、あの、帰りが遅くなってごめんなさい…」
芙蓉はその迫力に少し怯え、後ずさる。
そして、隣の樹が芙蓉を庇うように芙蓉の前に出た。
「樹!お前、こんな時間まで無断で芙蓉を・・・って、あっ!…あぁーっ!!!」
『??』
芙蓉と樹は驚いて顔を見合わせる。
「ど、どうされたんですか?扉間さま?…」
「・・・・・。いや、何でもない。ほら、早く帰るぞ!樹、今度無断で芙蓉を遅くまで連れ回したらただじゃ置かんからな!」
「はぁ⁉まだ19時ですけどぉ⁉単に腹減ってるだけでしょぉ?腹減るとカリカリするとかガキですか。バッカみたい!」
「なんだと!今日ばかりは許さんっ!」
「まぁまぁ二人共、落ち着いて!扉間様、私がついつい長話をして樹ちゃんを引き留めてしまったの。大名様の所での話も楽しかったし。だから樹ちゃんを怒らないで下さい!」
「そ、そうか…兎に角、帰るぞ。…それから樹、お前もう少し女らしい格好をしたらどうなんだ?それでは男に間違えられるぞ。」
「あ、それセクハラ発言!火影様に報告しちゃおーっと。」
「・・・くっ!!」
「あははは!そうそう、最近忍の間でもセクハラやパワハラ撲滅が推進されていますからね。気を付けて下さいね、扉間さま!フフッ!」
「お前らなぁ・・・ハァ。」
扉間は腰に手を当て、うな垂れ溜息を吐いた。
「あっ!そうだ!そんなに腹減ってるなら、皆で何か食べて帰りましょうよ!勿論、扉間様の奢りでぇ~!」
「あ、それいいね。たまには私も外食したい!」
「よっしゃ決まりぃ~!レッツゴー!!何食べよっか、芙蓉?」
「はぁあ⁉俺はいいとは言ってないぞ。って、おいコラ!待て!!」
二人は手を繋いでスキップしながら扉間の隣りをすり抜け先に進み始めた。扉間は焦ってその背中を追いかける。
貴重な梅雨晴れのこの日、美しい夕陽が辺りを桃色に染めていた。
おしまい