アジトにてコピーマダラの尋問を終えた六花。
情報と共に、マダラがコピーマダラを助けた理由が判り・・・
しかし、そこには違和感が残る。
夜になっても、魔鏡を取りに行ったマダラは帰って来ない。
マダラを待つ時間は、今や六花しか持たない“芙蓉”とマダラの想い出を蘇らせる。
耐えきれない睡魔に襲われ眠ってしまった六花が目を覚ました時、
そこにはマダラが居て・・・
※関連話「罪の向こう、愛の絆(7)~わだかまり」、「罪の向こう、愛の絆(8)~結実と決別」
「これで、俺が知っている事は全てだ」
「話して頂きありがとうございました」
「礼なんて言う必要無いよ。話の内容が本当かなんて分からないしね」
「ゼツ!そんな言い方しなくたって…」
パチッ…ボゥ…ボォォオオ…
部屋の片隅に在る松明が弾けて音を立てると、炎の姿が大きくなった。
コピーマダラは閉じた眼をその方向に向け、言う。
「構わん。敵の話を鵜呑みにする方がおかしいだろ」
「・・・。」
六花は少し困った顔をして俯いた。
「大体さマダラが本当にコイツから情報を得る為に助けたわけ無いじゃん」
「えっ⁉どういうこと?」
六花は顔を上げ、眼を見開いて左肩のゼツを見た。
「フッ…」
すると、暖炉の方を見つめたままコピーマダラが横顔で笑った。六花は怪訝そうに何度も瞬きをしながらその横顔を見つめる。
そしてゼツが六花に向かって口を開く。
「マダラは君の我儘を聞いてくれたんだよ。コピーマダラを殺さないで欲しいっていうね!分からないの?マダラだって禁固術の札ごときでコイツが本当の事を言うなんて思っちゃいないよ。何か有益な情報が有ればラッキーくらいには思ってるだろうけど」
「でも!さっきマダラさまは全部正直に言えば消滅させないでおいてやるって、コピーさんに…」
「お前を守る為だ」
「お前が言うな!」
六花に対しコピーマダラが答えると、すかさずゼツが叫んだ。
しかしコピーマダラは気にせず言葉を続ける。
「眼を奪われ、禁固術の札を埋め込まれたとしても俺が本気を出せば、お前ひとりくらい殺せる」
「!!…」
その言葉に六花は僅かに身体をのけ反らすが、ゼツは眼を三角にして身を乗り出す。
「…怯えるな。あっちの俺も、俺が消滅を免れたいと望まぬとも、お前を殺さぬと解っているからこうして二人きりにしたんだろう」
「は?ちょっと何言ってるか分かんないんだけど。何の根拠があって言ってんだよ。それに僕の存在忘れんな!」
ゼツはコピーマダラを睨み語気を強めた。
「お前には解らんでも良いことだ」
「はぁ?僕は“本物”マダラの意思から生まれた存在だ。ニセモノのお前なんかよりマダラのことはよく知ってる」
「ちょっとゼツ!ケンカ腰で話さないの…」
六花はそう言って、ゼツを宥めようと身体を撫でようとしたが、ゼツはその手をすり抜けて六花の膝の上に乗り移ると、六花を見上げて言う。
「六花もいい加減にしなよ。自分が下僕だっていう自覚が無さ過ぎ!マダラが許してくれるからって調子に乗ってさぁ。大体君がさっき…」
ゼツの説教が始まった。
六花は太腿の上に重ねた掌の上に視線を落とし、悲しそうな顔でそれを聞いている。
コピーマダラは見えない眼を二人の方へ向け、ゼツの説教に耳を傾けた。
「…君はもう芙蓉じゃない。マダラに愛されてるからって対等じゃないんだ。以前の六花同様に下僕として役に立たないなら僕がここから追い出してやる。君の甘さはいつか今以上に大きな危機を招くかもしれないしね!」
「…ごめん…なさい…」
「もちろん。僕とも対等じゃないってことも忘れないでね」
「…はい」
コピーマダラはゼツの説教に対して素直に謝っている六花の表情を想い浮かべていた。
先ほど自分の顔を覗き込んでいた時にしていた様な表情なのだろうが、きっと少し違うのだろうと思った。
「さ、部屋を出るよ。話は聴き終わったしコイツと一緒に居るのも危険だからね」
そう言うと六花の膝の上でゼツは身体を二つに分裂させた。
「片方の僕がコイツに張り付いて見張る。何かあればもう片方の僕にすぐ伝える。六花は外に出て扉に二重に封印錠をかけな」
「分かったわ」
六花が立ち上がると同時に、片方のゼツはコピーマダラに飛び付き、身体を広げて貼りついた。しかしコピーマダラは微動だにせず、黙っている。
「コピーさん…マダラさまが帰って来るまでそのまま待っていて下さい」
「余計なこと言わなくていいから早く出て!」
六花の左肩に載る方のゼツは口で六花の髪を引っ張り、出口へ向かうよう促した。
六花は文字通り後ろ髪を引かれながら、最後にコピーマダラの顔を見た。
「…!」
「どうしたの?」
「…う、ううん…何でもないわ…」
六花はコピーマダラから顔を背けると急いで重い扉を開け、部屋の外に出た。
…ガシィィィン…
扉をしっかりと閉め鍵をかけると、印を結び封印錠をかけた。それから外側にあるもう一枚の観音開きの扉を閉じ、その扉にも封印錠をかけた。
そして、六花は振り返ること無くその場を離れて行った。
「もう十九時を過ぎていたのね…マダラさま、遅いなぁ…」
一度自室に戻り、戦闘服から普段着に着替えてから台所に立っている六花は、前屈みになって袖を捲りながら小さな置き時計を覗き込み、呟いた。
「一人で千人の敵を討伐してるのかもね」
左肩から落ちそうで落ちないゼツが六花の顔を覗き込んで言った。
「だとしてもマダラさまにしては遅過ぎる気がする…お一人で遺跡の調査をされているのかも」
「兎に角サッサと早く帰って来て欲しいよ。あ、六花。僕はきな粉餅が食べたい。今日はまだ甘いもの食べて無いし」
「はい。承知致しましたゼツ様」
「なんか嫌味を感じるけどいつもそういうものの言い方して欲しいね」
六花は目を閉じ小さくため息を吐くと、身体を起こして夕食の準備に取り掛かった。
人参、里芋、蓮根、牛蒡、椎茸、鶏肉を手際良く下ごしらえすると、火にかけた鍋に油を入れて炒め始める。
ジュウウウという油と水分が反発する音が小さくなり、具材の表面に軽く火が通ってきたら水を加える。水は多くても少なくてもならない。具材が軽く浸る位だ。
次に砂糖、酒、塩、醤油の順で加えてゆく。鍋の中が沸騰したら弱火にし、おたまで小皿に汁をすくうと味見をする。
「…もう少し砂糖かな」
小さじ一杯分の砂糖を追加すると木ベラで鍋を優しく混ぜ、落し蓋をした。
そして六花は再び時計を見る。
カチッ。時計の長針が一つ目盛を進めた。
その時、六花の頭に、遠い昔の想い出と共にその頃の感情が蘇ってきた。
あの頃もこうして、一日に何度も時計を見ていた…
しかしいくら遅くなっても、帰って来てくれていた頃は良かった。
しかしある頃からマダラは家を、木ノ葉の里を、度々空ける様になった。
そして遂に、マダラは二度と里へは帰って来なかった…
六花はギュッと胸が強く締め付けられ、胸に手を当てて俯いた。
最後に、一輪挿しに生けられたリンドウと置手紙が目に浮かぶ。そして。
・・・禁固術の札・・・
その後の芙蓉とマダラの物語が堰を切ったように流れ出し、六花は耐えられなくなってその場にしゃがんだ。
…くつくつくつ…
幸せな音と共に、食欲をそそる香りが六花の鼻をくすぐった。
六花はグスンと鼻をすするとサッと立ち上がり、何事も無かった様に春菊をまな板に載せて刻み始めた。
「ねぇ六花も食べなよ。この調子じゃマダラはいつ帰って来るか分からないよ?」
その声に六花はハッと時計からゼツに顔を向けた。気づけばまた、時計を見つめていた。
ゼツはきな粉で顔を黄色くしながら五つ目のきな粉餅を食べている。
「ありがとう…でも私は大丈夫よ」
「痩せるよ?そしたらまたマダラに怒られるよ?」
「大丈夫、大丈夫!…もぉゼツ様、顔じゅうきな粉だらけですわよ?」
そう言って六花がハンカチを取り出し優しくゼツの顔を拭き始めると、ゼツは眼を閉じて黙って拭かれていた。
顔がキレイになるとゼツは眼と口の両方を同時に開ける。
「いいから食べなって!これは僕の命令だよ!早く!」
「・・・。分かったわ」
そう言って六花は目の前の沢庵をつまんで口に入れ、大袈裟にモグモグと咀嚼しながらゼツに笑顔を見せた。
「もう!本当に六花は頑ななんだから」
…バタン。
六花は自室に戻ると、机の上の時計を見た。
二十三時。
「マダラさま、今夜は帰って来ないのかしら…」
椅子を引いて机に着くと、ノートを広げて先ほどコピーマダラから聞き出した話のメモ書きを整理して書き始める。しかし、直ぐに書き終わってしまった。
正直、これといった有力な情報は無かったのだ。
大きな情報といったら、山賊とその支配下の忍の数が約千人位だという事か。
あとは、山賊たちは十尾の器(のちの外道魔像)についての碑石の存在には気づいていないという事。
六花はまた再び時計を見た。
・・・もう直ぐ十二時間が経つ…あの人の命はあと・・・
六花は気を取り直してノートを閉じると、本棚から適当に忍術書を取り出して読み始める。なるべくコピーマダラのことは考えたくなかった。
「・・・・!」
六花は焦って眼を開け、何度も瞬きをした。
「大丈夫?六花。少しだけ横になったら?」
「そんな訳にはいかないわ…大丈夫よこれくらい」
・・・おかしいな。いつもならこれくらいで眠くなったりしないのに・・・
パンパンと両頬を叩くと再び忍術書を広げて読み始めた。
「・・・・・・」
「コピーといえどマダラの本気の殺意を見せられてよっぽど精神的に参ったんだね…よく頑張ったね。六花」
ゼツはひざ掛けを口で引っ張って来て、机にうつ伏せて眠る六花の肩に掛けた。
「んん・・・。」
「少し眠ってちょっとは楽になった?」
「・・・ええ」
ガタン。
「どこ行くのさ?」
「・・・御手洗よ」
「真っ直ぐ帰っておいでよ!間違ってもコピーマダラの所になんて行くんじゃないよ!」
「・・・解ってるわよ。でもついでにマダラさまの着替えや寝床の準備もして来るわ」
「今日は帰って来ないと思うけどねぇマダラ。いいから早く戻って来てよ」
「・・・うん。・・・ねぇゼツ?」
六花が掌をゼツの前に揃えて出すと、ゼツはぴょんとその上に飛び載った。
「なぁに?六花」
六花は何も言わずにゼツを自分の顔の高さまで持ち上げ、眼を閉じた。
しかし口元だけは軽く開いている。
…チュッ。
六花は目を開けると、掌の上で目を閉じ眠ってしまったゼツを静かに机の上に置き、部屋を出て行った。
フッ!・・・・ギィィイ…
六花は封印錠を解き、その扉を押して開けた。
真っ暗な部屋の中に入ると写輪眼を発動し、真っ直ぐその場所に向かって歩いてゆく。
「・・・・」
そしてその場所の前に立つと、棚の鍵を術で開錠し、その奥に手を伸ばした。
六花の真っ赤な写輪眼は、その手に握られたものを刺すように見つめていた。
◆
ギィィイ…バタン。
「六花」
マダラは六花が部屋に入って扉を閉めると立ち上がり、名を呼んだ。
「・・・マダラさま・・・」
六花はマダラを目の前にして微笑すると、マダラの方へゆっくりと歩き出した。
ボゥ…ボォォオオッ…
六花が横を通り過ぎると、松明の火が大きく揺れた。その足元には黒い影が伸びている。六花はその影を踏んで歩いてゆく。
しかしそれは影ではなく、床に貼り付けられ気絶しているゼツだった。
「ご入用の物を持って参りました」
六花は手に持って居る物をマダラに向かって差し出した。
「うむ」
マダラはそれを受け取ると、直ぐに開封しその中身を取り出した。
そして、それを、両眼に入れた。
何度か瞬きをし、最後に目を開けるとその眼は写輪眼に変わる。
そして、その眼でジッと強く六花の瞳の奥を見つめた。
「・・・⁉・・・マダラさま!いつお帰りに?」
「フッ・・・俺はコピーの方だぞ」
「えっ⁉・・・じゃあその眼は⁉」
「今お前が持って来たんだろう?」
「⁉」
六花は反射的に後ろに飛び退き、身構えた。
しかし武器や防具は戦闘服を脱ぐと同時に全て外しており、丸腰である。有るのは写輪眼と自らの体術のみである。
それでも動揺を見せない様、なんとか冷静にコピーマダラを見据え、問う。
「いつ術をかけた?」
「昼間、倒れた俺にお前が駆け寄って来て俺の顔を覗き込んだ時さ」
「最初からこれを狙っていたのか?」
「さぁ、どうだろうな・・・それを知ってどうなる?あのゼツとかいう奴もとっくの昔に始末している。出入口も開かんぞ」
「やってみないと判らないだろう?」
「“俺”に守らなければ俺に殺されていたような女となぞ、やるつもりは無い」
六花は微動だにせず、しかし静かに唾を飲み込み瞬きをした。そして問う。
「やはり狙いはマダラさま本体か?」
その問いに、コピーマダラはフッと不敵に笑って見せると、後ろにある椅子にドスンと腰かけて足を組んだ。
「ああ。あっちが帰って来るまでお前にはここに居て貰うぞ」
「オレは人質というわけか…だがマダラさまが明日の正午までに帰って来るとは限らないぞ?その場合、おまえは必然的に消える」
「アハハハ。本当に俺が二十四時間で俺が消えるとでも思っていたのか?つくづく馬鹿な奴め」
「・・・っ!!おまえ・・・」
「敵である俺に情けをかけるお前を見て、そう言えば落ちると思ってな。あの時俺のことを見ていたお前の顔…傑作だった…」
「・・・・」
六花はあの時のコピーマダラに、柱間との戦いに敗れ、遺骸となり冷たく暗い横穴の中に横たえられているマダラの姿を重ねてしまっていた。
二度も、マダラが死ぬところなど見たくなかったのだ。
そんな我儘で弱い自分に対して腹が立ってきて、六花は僅かに視線を下げ沈黙してしまう。
「あの時、俺が二十四時間の命だと分からなければ、俺を殺していたか?」
「…いや。結果は変わらなかった…」
「ならばなぜ今は戦おうとしている?」
「…それは…お前に答える義務は無い」
「…。ところで、その言葉遣いはやめろ。俺に対して粋がっても滑稽なだけだ。女なら女らしくしろ」
その言葉に、六花は堪らず苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、写輪眼を発動するとコピーマダラを睨みつけて叫ぶ。
「ニセモノのお前の言う事など聞くか!」
「フッ…」
バタァン!!
「ぐっ!」
「ならば力ずくで女に戻してやろう」
コピーマダラに覆い被さられ、両手を地面に押し付けられている六花は、それでも諦めることなく持てる力を全て込めて抗っている。しかしそれに反して頭の中では力なくうな垂れていた。
『君の甘さはいつか今以上に大きな危機を招くかもしれないしね!』
・・・あの時、マダラさまの言うことを聞いていればこんな事には・・・
ゼツの言葉と激しい後悔と共に、何とか命だけは守らねばならないという使命を思い出す。
六道仙人との約束…
碧眼の少年が世界を救うまで生きねばならない…
六花は目を閉じると、抗うのを止めて脱力した。
「…解りました。あなたに従います。ですから…許して下さい。命だけは…助けて下さい」
「いいだろう。殺しはせん」
「んっ…」
つづく