六道仙人との約束を守り生き伸びる為、コピーマダラに降伏した六花。
しかし、六花は諦めてはいなかった。
なんとか本体のマダラが戻るまで、コピーマダラに取り入り気を許させることに徹する。
しかし、マダラは戻って来ない。
ついにコピーマダラから命がけの選択を迫られることに・・・
六花の選択は?マダラは現れるのか?
※関連話:「罪の向こう、愛の絆(4)~マダラとの出会い」、「罪の向こう、愛の絆(24)~すべて思い出した」
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「続・六花の森」の番外編です。
お話の舞台は「続・六花の森」(一)のずっと前、「六花の森」(完)から暫くしたある日という感じです。
六花が芙蓉である記憶を取り戻し六道仙人に会った後、マダラと六花が一緒に偵察に出かけていた頃です。
パチッ…ボゥ…
ビクッ!
薪が弾けた音に、服を羽織る六花の手が止まった。
そして再び、震える手でゆっくりと服を着始める。
「お前、本当に甘いな」
その言葉に、再び六花の手が止まる。
そして、ここまでなんとか堪えていた涙が溢れ、頬を伝った。それを見せまいとコピーマダラに向けた背を丸めた。
「後悔しているだろ?俺を助けた事を」
胡坐をかいて座るコピーマダラは、手を伸ばせば届く距離の六花の背中に向かって言った。
「・・・。確かに私は甘いです。すぐ感情的になって流されるし…でも…だからこそ、自らの決断の結果は黙って受け入れます」
「偉そうに言い切ってみても、お前は下僕失格だな。命惜しさにあっけなく主を裏切るんだからな」
その言葉に、六花はゆっくりとコピーマダラのほうへ振り返った。
「・・・・。」
その瞳には松明の炎が映り込み、怒りに震えている様にも、悲しみに打ちひしがれている様にも見える。しかし、六花は落ち着いた声でコピーマダラに問う。
「あの。お腹空きませんか?」
「は?」
「さっき夕食を作ったのですが…宜しければ召し上がりませんか?」
「毒でも盛ろうというなら無駄だぞ。そんなものでは死なん。それに逃げようと…」
「居間に行って、一緒に食べませんか?」
「・・・。俺の身体は腹も減らんし喉も乾かん。必要ない」
コピーマダラは腕を組み、六花から目線を外した。
「そうですか…じゃあもしマダラさまが明日になっても帰って来なくて、コピーさんも食べて下さらず、私もここから出られないのなら全て無駄になってしまいますね…」
六花はあからさまに落ち込んだ様子で眉をひそめ、地面に目を落とした。
ぐぅぅ…。その時、タイミング良く六花の腹の虫が鳴った。
六花は大袈裟に腹を摩りながら、思い出す。
…お前が見たくないのなら…
頭の中で、昼間のコピーマダラの言葉を反芻してみた。
マダラと同じ心をもっているならば、コピーマダラはきっと…
「……ってやっても構わん…」
「はい?」
「食ってやると言ってる!外に出てこのアジトについても調べたいしな…」
「ありがとうございます」
六花は少し悲しそうに眼を細めた笑顔でコピーマダラに向かって礼を言った。
「フン…」
◆
・・・うまい・・・
「あの、お味はいかがですか?」
「…悪くない」
素っ気なく答えると、コピーマダラは二口目の筑前煮を口に運ぶ。
その光景を見て、六花は目尻を下げると口角を上げた。
「何をニヤけている?やはり何か仕込ん…」
「いいえ。昔の事を思い出していて…すみません。どうぞ安心して食べて下さい」
そう言うと六花は背筋を伸ばし、箸置きの箸を持つ。
まず右手で箸の真ん中より少し上の部分を掴み、左手を軽く添えてから持ち方を整える。そして筑前煮を箸の一寸より短い部分だけでつまむと、ゆっくり口へと運ぶ。
コピーマダラは箸を止め、その一連の光景を眺めていたが、六花の所作はとても上品で美しく、思いもよらず感心してしまった。そして同時にどこか懐かしさにも似た気持ちになり、ある筈の無い過去に目を凝らそうとした。すると、口の中のものを飲み下した六花が口を開く。
「うん。美味しい。お店に出せそうです」
「自分で言うか」
上品な所作とはギャップのある発言に、思わずコピーマダラは笑ってしまいそうになり、大きく顔を逸らした。しかし、六花は笑った。
「ふふふ…あ、ごめんなさい…本当にコピーさんはマダラさまそのものなんだなぁって、思ってしまって」
「当たり前だ。違うのは過去の記憶が無いことと“大切なもの”が無いくらいだ」
「過去の記憶も無いのですね…あの、その大切なものって、何なのですか?」
「文字通り、大切なものだ」
「…?…大切なものが無い、つまり、失うものが無いということでしょうか?」
「だな。」
「そうだったのですね・・・でも…あ、いえ」
六花は口をついて出そうになった言葉を急いで飲み込んだ。
「何だ?」
コピーマダラは少し怪訝そうに六花の顔を窺っている。
・・・大切なものが無いから、本体のマダラさまよりも強いと言っていたのね。
でも、それは逆だと思う・・・
「ええっと…ほら!大切な物、あるじゃないですか!…命です。生きている今というこの時です!」
「それは…もしかして俺を馬鹿にしているのか?」
「とんでもありません!自分の命を大切に出来なければ、強くなることなど出来ません。忍は己の命より任務と君主を優先させよと教えられるようですが、それは心を捨てて無心で死ねという意味では無いと思うのです。自分を大切にするからこそ、自分を生かしてくれている全て人とモノに思い遣ることが出来る。その思い遣りがあってこその自己犠牲なのですから」
「フッ。語ってくれるじゃないか」
「すみません…つい熱くなって…」
コピーマダラは再びフッと口角を上げると味噌汁の椀を持ち、口をつけ食事を再開した。
六花は、おそらく最初で最後であろうこの奇妙な食事に、再び初めてマダラと食卓を共にしたあの日の事を思い出していた。
「お前、いつから俺の下僕なんだ?」
その問いに、六花は口に付けた湯呑を離し、目の前のコピーマダラを見据えて答える。
「十五歳の頃からですから、十年ほど経ちます」
「ふーん・・・」
「・・・?」
「さっき、あの黒い玉から説教されていたが、そもそもお前、自分のことを下僕だなんて思っていないだろ?」
その問いに、六花は大きく目を見開くと、そのまま目を伏せた。
「図星か?」
「…いいえ。私は下僕の六花です」
そう言うと六花は湯呑に口をつけ、静かにひと口、茶をすすった。
そして湯呑の中に目を落としながら言う。
「でも…愛しています。そんなこと、マダラさま本人には言えませんけれど」
「・・・。何故だ」
「下僕だからです」
「無意味だな」
「いいんです」
そして二人は暫く沈黙の中で茶をすすった。
◆
食事を終え、六花はコピーマダラの命令に従い、アジトの中を案内して周った。
しかし、マダラの部屋だけはコピーマダラの力をもってしても開かなかった。本当は六花が解錠方法を知っているのではないかと、コピーマダラは写輪眼で六花の意識の中を見てみたのだが、やはり開ける為の手掛かりは無かった。
そして仕方なく、再びコピーマダラが監禁されていた部屋へと二人で戻って来たのだった。
「一番肝心の俺の部屋が開かないとはな」
「私一人の時は絶対に開きません。ゼツが居てもです。ご覧になった通り、私もどんな術式なのか知りません…」
「術式だけなら簡単に解ける。鍵もあるのだろうが、それが何か分らん。…いや、大方の予想はつくのだがな…」
そして、二人の間に再び沈黙が訪れた。
六花は、椅子に腰かけるコピーマダラと向かい合って椅子に座って居るが、二人の間には三メートルほどの距離がある。
しかし、六花にとっては先ほど食卓で向かい合って座って居た時と同じ短距離に感じる。いや、距離が無いのと変わらない。
恐る恐る、眼球だけをコピーマダラのほうに向けてみると、ピタリと眼が合った。コピーマダラも六花の顔を見つめていた。
六花は焦って視線を外した。
ここまで何とかコピーマダラの懐に入ろうと振舞ってきたが、やはり、いつ殺されるかも分からない恐怖は完全に払しょくする事など出来ない。そして、先ほどと同じ行為が繰り返されないとも限らない。
今の六花にはもう、心の中でマダラの名を呼び早く戻って来てくれるよう訴えるしかなかった。
「お前、自分があっちの俺に愛されていると思っているか?」
沈黙からの思いも寄らない問いに、六花は更に固まった。
そしていつまでも答えない六花に、コピーマダラが右手を挙げ、六花の顔を指差して言う。
「お前は愛されてなどいない。見ろ。この状況を。お前を愛しているならお前をこんな目に遭わせないだろ。どうだ?」
六花は一度目を伏せたあと、ゆっくりと顔を上げ、コピーマダラを見据えた。
その瞳には揺れも、ブレも無い。
ただ真っ直ぐコピーマダラを射抜く様に見据えている。
「私はマダラに愛されています。それはこの状況が、あなたが、証明しています」
「お前は甘く、忍には向いていないが、実におもしろい女だな」
コピーマダラはそう言うと椅子から立ち上がり、六花に向かって歩き始めた。
しかし、六花はもう、全く恐怖は感じなかった。
コピーマダラが目の前に立つと、六花もスッと椅子から立ち上がって向かい合った。そして更に六花へと近寄ると六花の右腕を掴み、眼を細めて言う。
「俺が本体になればお前を下僕ではなく、俺の女にしてやろう。忍もやめるといい。どうだ、二人であっちを消さないか?」
その言葉を聞くと、六花は眼を閉じた。
そして考える。
…月の眼計画を知らないコピーマダラさんが本体になれば、世界の危機を遅れさせることが出来るかもしれない。それに私も…
六花が眼を開けようとした瞬間、遠くから鐘の音の如く、ある人物の声が頭の中に響いた。
『俺は、お前の過去を含めてお前を愛している』
…扉間…さま…私は…
六花はパチリと目を開け、再びコピーマダラを見据えた。
「それは出来ません。私にとってマダラさまは、たったひとりだから」
「…やはり、そうか…」
どちらのマダラの声だっただろうか。
そう聞こえた瞬間に、目の前が真っ暗になった。
ドシィン!…
その音と同時に視界の縦半分が開けて明るくなった。
明るくなった先には、マダラが地面に倒れているのが見えた。
「マ…⁉」
すると六花が叫ぶ前に、地面に倒れているマダラの姿は音も無く、光になって消えてしまった。
「死ぬところだったな」
その言葉に、六花は目の前の影を見上げた。
「お前がニセモノを選んでいたら俺が迷わず殺していた」
「マダラさま…!!」
六花は思わずマダラに抱きつき、その胸に顔を埋めて泣き始めた。
その頭をわしゃわしゃと撫でながらマダラは言う。
「これで解っただろう。自分の甘さが招く絶望がどんなものかが…」
「…はい…でも」
「でもぉ?」
「やっぱり、マダラさまはコピーでも優しいんだなって、分かりました!」
「ハァ?…ったく、やっぱり懲りて無い様だな、お前は…」
「いいえ。懲りています。懲りてますけど…」
「けどぉ?」
「…いえ。何でもありません。己の性格と思考をもう一度見直します。ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした…マダラさま」
六花はそう言ってから身体を離すと、マダラに向かって深く頭を下げた。
「はぁー。その言葉、忘れるなよ」
「はい」
二人は揃って、消えてしまったコピーマダラが居た場所を見つめた。
◆
ガッシャァァ―――ン・・・
「もう!下僕失格の誰かさんのせいで酷い目に遭ったよ!」
「ごめんなさい…」
マダラによって救出されたゼツが、六花の左肩で飛び跳ねながら文句を言った。
二人の目の前では、マダラが山賊から奪い取って来た魔鏡を結界の中で粉々に破壊している最中である。
――十五分ほど前――
「…あの。でもどうやってコピーを消したのですか?」
「なんて事は無い。この魔鏡は両面鏡になっていて、片方は複製を生み出すが、もう反対側の鏡の光で照らせば複製は簡単に消える」
「ではなぜ、コピーはマダラさまに魔鏡を取りに行かせるよう仕向けたのでしょう?消されてしまう可能性があったのに」
「アイツが二十四時間で消えると言っていたのは本当だ。最初は半分死を覚悟していたようだが、もう半分は時間稼ぎをしてでももう一度俺とやり合って、いや、お前を味方につけて俺に勝つ事に賭けていたんだろうな」
その言葉に、六花は顔がカッと熱くなり、反対に身体は氷のように冷たく固まった。
しかし、なんとか横眼で恐る恐るマダラの横顔を見上げた。
「い、いつから…アジトに戻って来ていらっしゃったの…ですか?」
「尋問の途中あたりだったか…。お前が森でアイツに近づいた時に瞳術をかけられていたから、アイツがどう出るか泳がせてみたのだ」
「そ、そんな…」
・・・どうして助けてくれなかったの⁉・・・
六花は思わず口をへの字にして、恨めしそうにマダラをジトッと見つめてしまった。
すると、その視線に気づいたマダラが六花のほうへ顔を向け、言う。
「ま、今回は相手が俺だったからな」
「?」
「フフフッ」
「??・・・・!!!…マ、マダラさま…ったら…」
きっとその場面を思い出しているだろう、ニヤニヤと笑うマダラの顔を見ると、六花は顔を両手で覆ってうな垂れた。
コピーマダラとマダラは全く同じと思いきや、実はコピーのほうが心優しいのではなかろうかと六花は思った。
「腹減った。魔鏡を壊した後、すぐ飯にしろ」
「マダラさまの分はもうありませーん!」
「はぁああ!?」
おしまい