【六花の森】の番外編、(一)の続きです。
あらすじ:
芙蓉が六花としてマダラの下僕になって数年。一人前の忍に成長した六花はようやく一人で任務を任されるようになっていました。
今回の任務は、砂隠れの里が尾獣の一尾を利用して開発している尾獣兵器の情報収集と破壊。
六花は砂隠れの里に潜入し、二代目風影・沙門に近づきます。
しかし得られたのは尾獣兵器よりももっと危険なもので・・・!
その頃、木ノ葉の里の二代目火影・千手扉間も、軍事拡大する風影と会談するために砂隠れの里へやってきます。
沙門の開発している危険な兵器とは!?六花(芙蓉)と扉間の再会はどうなる!?
※ぜひ【六花の森】シリーズも合せてお読みくださいませ(^^)
翌日。
この日は朝から空は晴れ渡り、会談が始まる午後一時には初夏を思わせるような暖かさだった。一方、いま、穏やかな笑顔で握手をする扉間と沙門の両者の内心はというと、実に冷ややかなものだった。
砂隠れの里本部役所の最上階にある会議室。
入り口から入って左手の席には扉間とその部下四人が並んで座った。それに対して向かいの席に座った砂隠れの里側はといえば、沙門とその部下がたった二人だけであり、砂隠れの里の側がこの会談をいかに軽視しているかは一目瞭然であった。
「風影殿。今回は半ば強引に会談を開いて貰って礼を言う。多忙だと聞いていたが、側近が会談に出席できないほどかのか?」
扉間は沙門の両隣に座る二人の部下を交互に見ながら冷静な声で言った。沙門は少しだけ微笑み、両隣の部下を見てからそれに答える。
「ははは。心配は要らない。この二人は軍事と条約法務担当の長官だ。俺よりも詳しいくらいだ。そちらこそ、火影が貴殿に代わってからの多忙ぶりは伝わってきているぞ。そんな中わざわざ足を運んでもらわなくても、先代同士が締結した条約についての再確認なら、文章かそちらの部下数人に任せてもよかったんじゃないのか?」
一瞬、双方の部下同士の視線がぶつかり、その場の空気が凍った様に重たくなったが、直ぐに沙門が再び口を開く。
「せっかく来て貰ったんだ。夜は盛大にもてなさせて貰うよ。それに、色々見て回りたいだろうしなぁ…。さ、早速そちらが確認したい条約条文について聴こうか」
「ああ。…コハル、頼む」
「はい。こちらが再確認・再締結を要望している条文は、第三条・尾獣均衡(通称:尾獣バランス)についてです。砂隠れの里は尾獣の分配は無かったものの一尾を所有しておられ、五里条約全文に同意し締結されました。しかし最近になり一尾を利用した兵器開発を行っており、それについては既に多くの忍里が知る所です。そこで、砂影殿の条約への解釈をお聞かせ願いたい」
「ふむ…条約解釈か…条文通りとしか言いようがないがな。詳しくはこちらの条約法務長官から…」
「すまないが、風影自らの口から解釈を聞かせ願いたい。風影殿は協定・条約締結時にワシと同じく会談に出席していたはずだ。当然、初代風影と同等の理解をしていると思っているのだがな」
「火影殿、ハッキリ言ってはどうだ?尾獣兵器の開発は条約違反だから止めろと」
「それを判断するのはワシ一人ではない。五影すべての判断による。それには風影の条約の解釈と、尾獣兵器開発についての情報全てを開示する必要がある。しかしいきなり五影会談を開けばそれは即ち、砂隠れが条約を破っていると断言されるのと同じだ。その前に個人的に風影殿の意見を聞きたいのだ」
「それは、木ノ葉が砂の味方になるという意味にも取れるが?」
「橋渡しになりたいのだ。五里同盟から孤立する前にな…」
「なるほど…だが、卑劣とも呼ばれる冷徹な貴殿だ。ただの善意とは受け取れんな。要求はなんだ?」
「その前に、条約の解釈について答えて欲しい」
すると、沙門の右隣りに座っている軍事担当者が口を開く。
「こちらを切る時に必要な条件が、条約解釈と言うわけですね…」
それを聞いて、書記をしているホムラが顔を上げた。そして、沙門がクスッと笑ってから言う。
「橋渡しはするが危ない橋を共に渡ってやる気は無いってことか。流石、それでこそ俺の知っている千手扉間だ。ははは。いいだろう。正直に答えよう…。第三条を順守するつもりなど無い。尾獣均衡など、初代火影、いや実質的には貴殿が考え提案し決まった事。砂隠れは最初から一尾を持っていたが他里は均衡という冷戦状態を金で買わされ、我々砂は、初代風影が要求した通りの資金と資源は得られなかった。だが他里はまだいい。冷戦とはいえこの均衡状態の中、産業・工業などの発展を遂げて豊かになっている。しかし我々は風の国からの支援も無く、資源の乏しい中、忍と市民の暮らしを支えるのがやっとだ。このままだと再び大戦がくれば里は、力をつけた他里に潰されてしまう」
「本音を聞かせてもらえて良かった。感謝する。…確かに、先代たちの結んだ協定と条約は完璧なものとは言い切れぬ。木ノ葉が提案して同意して貰ったものも多い。だからこそ時代と共に条約の確認や見直しが必要だ。その為にも風影殿だけではなく、他里の本音を知る必要があると考えている。だがまずは軍事拡大を進めている風影殿の意見が訊きたかったのだ」
「で、訊いてどうする?」
微笑みの消えた顔で沙門が扉間へ訊いた。
「今の本音を聞いて、条約の改正よりも先に、砂隠れの里への援助や支援が必要だと思った。その支援をまずは木ノ葉から率先してさせて貰いたい。そうすれば他里へも支援呼びかけがしやすくなる。どうだろう?」
「援助や支援か…それが尾獣兵器を止める条件ってことだな?」
「そう捕らえて貰って構わないが、尾獣兵器開発中止は五里の話し合いで決めて貰ってもいい。その代わり、今現在の尾獣兵器開発情報についての全てを五影に開示してほしい」
扉間のその言葉を聞き、沙門は口角を軽く上げた。
・・・なるほど。木ノ葉は九尾の扱いに苦慮していると聞いていたが、欲しいのは尾獣兵器の情報だったのか。まぁいい。不完全な尾獣兵器の情報と引換えに支援を取り付けられる。そうすればその金で傀儡兵器の開発も進む・・・
「分かった。軍事拡大は我々が真に望む事では無いからな。まして五影全てを敵に回して孤立しようとも考えていない。里の発展と安定の為に、火影殿の提言を前向きに考えさせて貰うとしよう」
「ぜひ前向きに考えて欲しい。具体的な話はこれから部下が説明する。コハル、ホムラ、頼む」
◆
砂漠の大海に夕陽が沈んでゆく。その光に照らされ、煉瓦や石で出来た家々は黄金に輝いている。
六花は五階立ての屋根の上に座り、その光景を眺めていた。六花の瞳もまた、黄金に輝いている。
「そろそろ会食が始まる時間だね」
「ええ。警備も想定以上に会食会場に集中しているみたいだし…そろそろ向かおうか」
「油断と深追いはしないでね。マダラの指示通り今日は下見だけにしといてよね」
「分かってるわ…」
緊張して少し顔をこわばらせたまま、六花は勢いよく立ち上がると、屋根から飛び降り姿を消した。
「食事は口に合ったかな」
一時間半ほどの短い会食が間もなく終わろうとしていた。
扉間は食後に出されたジャスミン茶の茶器から口を離すと、フッと口角を上げて対面の席に座る沙門に顔を向けた。
「ああ。どれも素晴らしい味だった。次はぜひ、木ノ葉に来て木ノ葉名物を食べてみてくれ」
「そうだな。ぜひそうさせて貰おう」
互いの〝いかにも〟な社交辞令のやり取りと、顔の前で漂うジャスミン茶の良い香りが合わさって扉間の鼻をくすぐり、扉間は思わずクスッと笑ってしまい、俯いた。しかし直ぐに顔を上げる。そして次の言葉を発しようとした時だった。
コンコンコン。
「入れ」
「失礼します。沙門様、急ぎお伝えしたい事が…」
部屋の扉からこちらに顔を覗かせている部下に向かって、沙門は手招きをして自分の側に呼び寄せた。部下は椅子に座って居る沙門の左隣に来ると腰を屈め、沙門に耳打ちをする。
その様子を見て、扉間とその部下たちも顔を見合わせた。
「…そうか。分かった。何としても捕まえるように伝えろ」
部下は深々と頭を下げると足早に部屋を出て行ってしまった。その様子にやはり何か問題が起きたのだろうと扉間は少し険しい顔になり、沙門の言葉を待った。沙門はジャスミン茶の茶器の中を覗き、一口それを飲むと大きなため息を吐いた。
「扉間殿…いや、火影殿。先ほどまでの話は一旦白紙に戻す必要がありそうだな」
「どうかしたのか?」
「一週間前、里の豪商の一軒が三人組の忍に水遁の術で襲撃され、金品を盗まれ、そこの当主が殺害される事件があったのだが、今度はその犯人共がこの会談の警備が手薄になっている間を狙ってか、先ほど貿易商の家を襲撃したと知らせを受けた。同時に、その犯人共の正体が判明したとな…」
「まさか…」
扉間の脳裏に思い当たる類似事件が思い出され、背中に冷たいものが走る。
「その三人組は全員、肩に赤い炎の刺青をしている。そして、木ノ葉の抜け忍だ…」
「やはり…」
・・・先ほど街で見かけた人物は奴らだったのか・・・
「二代目様!」「待てヒルゼン!」
思わず立ち上がったヒルゼンの腕を、隣に座って居るホムラが掴んで止めた。それを横目に、扉間は冷静な顔で沙門に言う。
「話していなかったが、十日ほど前、木ノ葉でも抜け忍三人組による豪商襲撃事件があった。水遁による襲撃という手口、肩の炎の入れ墨、いずれも共通している。おそらく同じ者達による犯行だろう」
「犯罪者を野放しにしていた結果、わが里の市民にも被害を与えたという事だな」
「申し訳も無い。ワシが至らぬ結果だ…今、ワシらに出来ることは今すぐ捜索に行き、何としても犯人共を確保することだ。行かせてもらえるだろうか?」
「火影殿。アンタほどの人が抜け忍三人ごときを捕まえられないとは、にわかに信じがたい…アンタが砂の里に向かわせ襲撃させたと考える方が自然なんだがな」
「そんなことは有り得ん!…いや、言葉で言ったところで信じてはもらえぬだろう。頼む、捜査に行かせてくれ!」
「逮捕して連れて来るのは当然だが、その後の事も、解っているだろうな…」
「分かっておる。その話は後でさせて貰う。頼む、時間が無い!」
「分かった。行け。但し必ず捕まえて連れて帰れよ」
沙門の言葉が終わる前に扉間と四人の部下全員が立ち上がり、顔を見合わすと大きく頷いた。そして扉間が部屋を出るのに続いて全員が一瞬にして部屋から居なくなった。
「沙門様、我々も行きますか?木ノ葉の奴ら、捜査すると言って何をするか分かりません」
「うむ…お前達二人は扉間たちに同行しろ。決して傀儡の館には近づけるな。俺は念のために傀儡の館に行って様子を見る」
「分かりました」
◆
昨夜の風のお陰なのだろうか。空の霞は消え、夜空には満点の星が競うように輝いている。月は無い。新月の様だ。
「まさかこんな住宅街に在るなんて…信じられない」
「カムフラージュだね。警備も私服の忍にさせたし」
戦闘服に身を包み、頭と顔をストールで隠している六花は、足元に横たわる二人の大男の忍を飛び越えると、その館の大きな鉄製の柵門を押し開け、素早く中に入って再び柵門を閉じた。
柵門からは五mほどの真っ直ぐな道が庭を縦断して館の玄関に続いている。道の両脇には小さな灯りが置いてあり、周囲はほの明るい。
この館は一見、裕福な住民の邸宅に見える。豪邸とは言えないが小さくも無い。ここ一帯は高級住宅街なのか、この館よりも大きな豪邸が立ち並んでおり、むしろ小さく見えるほどだった。
六花が玄関に向かって歩き始めると、先ほど倒した男二人とは別の男二人が左右から音もなく現れた。
『・・・・』
「・・・・」
無言の男二人に対して六花も無言で返す。そして音もなく腰から刀を抜くと宙に飛び上がった。
ガチィィン!ガチィィン!
六花の振り下ろした刀は、二人の構えた鉈(なた)にぶつかった。
『⁉』
刀と鉈がぶつかった音と同時に、男は二人共、何者かによって後ろから羽交い締めにされた。
二人はそれを振り払おうと身体をよじらせると、羽交い締めにしている人物の顔が眼に入って来た。
『⁉』
『ふふっ』
男二人を羽交い締めにしているのは、ふたりの六花だった。その眼には、写輪眼が浮かんでいる。写輪眼を見てしまった男二人の動きが止まる。しかし、男二人はそれでも何とか顔だけを正面に向けた。
ザシュッッッッ!!
男二人が正面に居る六花(本体)の顔を見る前に、六花はひと太刀で男二人を同時に切り裂いた。
ドタッ!ドタッ!…
男二人は最後まで無言だった。
「私、無口な男は嫌いじゃないわ」
六花は地面に倒れた二人の間を通り、悠然と館の玄関扉へと歩み寄った。すると玄関の入り口に灯りが灯った。人が近づくと明かりが点く忍術の様だ。
六花は一旦写輪眼をしまうと、その灯りを頼りに扉の取手を握り、その上にある南京錠を見つめた。
「これ絶対トラップ仕掛けてあるよね」
「ええ。開錠術で開けたら直ぐに沙門に知らせるようになっていると思うわ」
「窓とか壁を壊して中に入る?」
「きっとそれも同じ事が起こる」
「どうすんのさ?帰る?」
「問題は沙門が駆けつけるまでにどれくらいの時間があるかってことね。今日は下見だし、中に何があるかを見れればそれでいいわけだし、取敢えず中に入るわ」
「いやいくら六花だって一人じゃ沙門には敵わないって。しかも一人で来るとは限らないし!」
「館の中に簡単に入れるなんて最初から思って無いわ。こんな事想定内よ。さ、つべこべ言わないで入るわよ」
「もーっ!」
ゼツが六花の左肩で飛び跳ねると同時に、六花は開錠術で鍵を開け、直ぐに玄関の扉を開けて中に入って行った。
「火影様。ここから先は住宅街。風影様より立入厳禁のご命令を受けております」
「分かっておる!つべこべ言わずに手伝え!」
事件直後とあり扉間の感知によって木ノ葉の抜け忍強盗犯は直ぐに見つかった。
しかし、拘束することに手間取っている。
扉間の力と部下四人の力をもってすれば、上忍三人くらいの相手は難しくも無い。しかし、ここは砂の里の中心部。住宅街に隣接した場所である。そんなこともお構いなしに大掛かりな水遁で攻撃をして来る三人組相手にもっと強力な水遁で応戦することは町の大規模破壊を意味する。
・・・そうなれば、多額の賠償金が・・・
扉間の頭の中では算用が働いており、なかなか捕まえられずにいたのだ。
「うああああ!」
扉間が抜け忍に接近して戦闘していると、見張りを言いつけられていた沙門の部下の一人がその戦いに巻き込まれて地面に叩きつけられてしまった。
「大丈夫か⁉おい、アイツらはワシらだけで必ず捕まえるし住宅街にも立ち入いらせぬ。だから貴様は早くコイツを救護班の所へ連れてゆけ!」
「しかし…それでは…」
「いいからいけぇぇっ!!」
「は、はひいぃぃぃっ」
被害者が増える度に賠償金は跳ね上がる…。
扉間の荒ぶるチャクラと瞳に映る「¥」マークに怯え、沙門の部下は怪我をした部下を連れて逃げて行った。
「フン!これで少しは自由に闘える…おおっと、逃がすものか」
扉間も急いで再び戦闘に加わった。
そしてほどなくし、抜け忍三人組はチャクラを切らし、しつこくも強力な扉間たちの攻撃に負けて拘束されたのだった。
「・・・・」
「二代目様、どうかされました?」
拘束した三人組を沙門の所へ連行しようと歩いていた時、扉間の様子に気付いたダンゾウが声を掛けた。
「十時の方向…先ほどの住宅街の中ほど辺りに大きなチャクラを感じてな…あれは恐らく沙門だ」
「え⁉でも強盗はこうして捕まえましたし、風影に何かあったのでしょうか!」
ダンゾウは慌てて訊き返した。
「向かいますか?」
コハルが冷静に扉間に訊いた。
「貴様ら四人はコイツらを砂の本部へ連れてゆけ。ワシひとりで見て来る。チャクラの大きさからまだ戦闘にはなっておらんようだ。それに沙門は風影だ。簡単に倒れはせぬ」
「分かりました…くれぐれもお気をつけて!」
ヒルゼンが心配そうな笑顔で言った。
「ああ。貴様らも頼んだぞ」
『はい!』
◆
「一階には何も無かったね」
「うん。流石に入ってすぐには何も無いでしょ。あるならここ、地下室ね」
六花は地下室の扉の前に立つと、その扉にも当然かかっている鍵を開け、扉をゆっくりと押し開いた。
ギィィィ・・・・
六花は灯りが付いている三十畳はあろうかという広い部屋の中を見回しながら、その中へと進んで行った。そして、目の前に並んでいる意外なものに驚き呟いた。
「・・・・人形?」
「どう見ても人形だよね。生身の人間には見えないけど」
「でも傀儡兵器は人体を利用した兵器だって…これ、元は人間だったということ?」
そこには、数十体もの人のかたちをした人形たちが壁に立てかけられており、六つある寝台は布を被っている。
六花は壁に並ぶ人形の顔や体をまじまじと見た。
「この人形、チャクラを感じるわ。沙門のものと、たぶんこの人形自身の持つチャクラ…」
「人間だった頃のチャクラってことだろうね」
「うん。でも生身の人間をどうやってこんな風にするのかしら。こんな技術が完成して戦争に投入されれば大変なことになるわ…」
六花は寝台に歩み寄ると、かかっている布をゆっくり捲ってみた。
「⁉」
「キモッ。解剖されてる途中じゃん」
「やっぱり…ここに在る人形は生身の人間の身体を利用して作られているんだわ。早くマダラさまに報告しなきゃ…」
「誰だ貴様」
その声に振り返ると、地下室の入り口に男が立って居た。
「お前こそ誰だ。何故ここに居る?・・・あっ!」
六花は冷静な声で訊ねたが、その男の顔とチャクラで見覚えがあることに気が付いた。昨日、街ですれ違った五人のうちの一人だった。
「ワシは木ノ葉の里の二代目火影、千手扉間だ。貴様、チャクラとその格好からしてこの里の忍ではないようだな。誤魔化そうとしても無駄だぞ」
六花は戦闘服を身に纏い、頭と顔をストールで隠しているために顔は見えない。
『六花!アレは本物の火影だよ!感知とスピードで右に出る者はいない。誤魔化しきれないよ。ここは味方につけた方が良い!』
六花の左肩に載るゼツが焦って囁いた。その言葉に、六花は数秒考えこんだ後、真っ直ぐ扉間に向き合った。
「突然ですが火影様、話を聞いて下さい」
「悪党かもしれない貴様のか?まぁいい。言ってみろ」
「この部屋に在るものは風影が極秘で開発している、人間の身体を利用して作った傀儡兵器です。これが完成すれば多くの人間が死ぬ。尾獣兵器よりも危険な物です。しかしもう直ぐここに風影も駆けつけて来るでしょう。そうなれば砂と木ノ葉の戦争にも発展しかねない。貴方は今すぐここを去って下さい」
「そんな話どうやって信じろというのだ」
「こっちへ来てください」
扉間は一瞬身構えたが、眼を細めると六花の方へと歩み寄り、六花の二メートルほど前で立ち止まった。すると六花は隣の寝台に被さった布を勢いよく剥いだ。
「…これは⁉」
「こうして解剖した人間を、このように人形に変えているのです」
「なんてことだ…だが一体貴様はなぜこんなことを知っている?」
「オレも世界の平和を願っている。それ以上は言えません」
「世界平和か…義賊か?いや、兎に角、これが本当に人間を利用した兵器なら戦争法や平和条約に反することだ。ワシが直接風影と話す。貴様は証言者として力を貸してくれ」
「それは出来ません。オレは世界の地下で生きる者。表には出られない。申し訳ないが先に去らせて貰います」
「待て!・・・今逃げるのは危険だ。もう、風影が」
扉間が入り口に振り返った瞬間だった。バンッと大きな音を立て、扉が開けられた。
「なるほど、流石に切れ者と名高い男だけはある。会談は隠れ蓑で、本当の狙いはこれだったか。どうやって情報を仕入れた?まさか抜け忍か?」
そう言いながら、腕を組んだ沙門がゆっくりと地下室の中に入って来た。
「いや。今知った。この者に聞かされてな」
「?・・・お前は何者だ?扉間の手下か!」
「・・・・」
六花は無言でストールを取った。
「ユエ⁉」「芙蓉⁉」
「火遁・豪火球!!」
二人が驚くと同時に六花は口から火炎を沙門に向かって吹き出した。沙門と扉間は咄嗟にそれを飛び退いて避け地面にうつ伏せると、その隙に六花は入り口に向かって走った。
扉を通り抜け、右足が廊下の床に着地した瞬間。
ドン!
「⁉」・・・速い・・・
「逃がすか」
あらかじめ廊下に待機していた沙門の影分身が六花を正面から抱き締めた。
・・・くっ…苦しい・・・
六花の肺、肋骨と背骨が悲鳴を上げる。
「やめろ!!」
沙門と六花の眼の前に扉間が現れかと思うと、沙門の腕に刀で切りつけた。沙門は寸での所でそれを除け、六花を抱きしめたまま部屋の中に移動した。そして今度は六花を羽交い締めにした。
「風影やめろ。その女は本当にワシと無関係だ。貴様のチャクラを追ってここに来てみたらその女がここに居た。それだけだ」
「…。じゃあ誰の命令でここへ侵入した?答えろ!」
「誰の命令でもない…オレの意思だ」
「そうか…」
一瞬うな垂れた沙門の腕の力が弱まり、六花は沙門に振り返った。そして沙門の瞳を潤んだ目で見つめる。
「沙門様…ごめんなさい…」
「…。ユエ」
六花の眼から涙が伝うと同時に、その瞳は赤く光った。
「…ユ…エ・・・はっ⁉」
沙門の影分身は瞬きをしながら頭を横に振ると姿を消した。その隙に六花はその場から消えた。
「写輪眼…うちは一族か。影分身でなければ危なかったぞ」
入り口に立った六花の前に、沙門の本体が立ちはだかった。
「チッ…」『六花どうするの!』
「風影!その女を殺すのは許さぬぞ!」
「やはり…お前ら二人は仲間なのか」
「違う。だが、その女から聞いた貴様の企みは見過ごせぬ…人体を利用した傀儡兵器など許さぬ!」
「秘密を知られたからにはお前も生かして帰すつもりは無い。扉間、ユエ、二人まとめてここで殺してやる」
「今の発言、取り消すなら今だぞ?」
「五月蠅い!」
沙門は袖の内側からクナイを数本取り出すと、六花と扉間に向かって投げた。
六花は写輪眼でクナイの動きを瞬時に見極め全て避けると後ろに飛び上がった。扉間は腰から刀を抜くとそれでクナイをはじき落した。後ろに飛び上がっていた六花は、刀を抜き、地面に着地すると同時に反動をつけて再び飛び上がり、沙門に刀を振り下ろした。しかし沙門は右手にはめていた鉄拳で六花の刀を受け止め、身体をひねり、六花の腕を掴んで床に叩き落した。
ドンッ!!「っ…」
六花は受け身を取ったが、沙門の怪力で大理石の床に叩きつけられたダメージは大きく、直ぐには立ち上がれない。
カチャン!シュッ…
沙門は腰に二つに分割して携えていた鎌槍(かまやり)を素早く結合させると、立ち上がろうとしている六花の顔の前に突き出した。
「そんな顔もするんだな。それがお前の本性ってわけか」
「やめろ風影!」「お前の相手は俺だ」
同じく鎌槍を構えた沙門の本体が扉間の前に立ちはだかった。
「フン!傀儡兵器の開発本丸で大術も使えぬくせに、ワシに勝てるとでも思っているのか?」
「ははは。この砂漠の大海に浮かぶ木の葉如きが何を言う。ここが壊れても全ての情報が失われるわけじゃない…風遁・砂塵岩刃!!」
ピキピキピキ…パラパラ…
床の大理石が剥がれ宙に浮いた。
ビュンッ!!!
その石の破片が一斉に扉間に向かって飛んでゆく。
グサグサグサッ!!!バッシャァァアン!!!
「…水分身か」
「ユエ・・・本当は誰の命令なんだ?」
「・・・・」
「正直に言えば、お前だけは助けてやってもいい」
「・・・・」
チャッ…
六花に突きつけられている鎌槍の刃が光った。
「命を捨ててまで仕える主人なのか?」
「ああ…そうだ」
「!…フフ。お前の力ごときで俺の動きを止められるとでも?」
六花の影分身が沙門を後ろから羽交い締めにしていた。しかし沙門は動じることなく正面に居る六花に鎌槍を突きつけ笑っている。そして床に膝を突いている六花は、ゆっくり立ち上がろうとした。
「動くな」
その言葉を無視して六花は立ち上がった。そして伏せていた眼を上げ、沙門の顔を見つめた。
「二度も写輪眼にはかからん。先ずはその眼を潰してやる」
沙門は鎌槍を握り直し六花の顔に近づけたが、六花はその誇槍を掴むと、それを避けて沙門に近づいてゆく。そして沙門は、そこでようやく自分の身体が言うことを利かなくなっていることに気付いた。
「貴方は今、〝本体〟だろう?貴方の本当の能力は、影分身と本体で身体を入れ替えられる事…それが仇に出たな。もうとっくの昔にオレの瞳術にかかっている」
「く…そう…」
六花は沙門に身体を密着させると、両肩に手を置いた。
「だがオレは、こうして貴方の優しさのお陰で助かったんだ…ありがとう」
「…?」
チュッ。
・・・バタァン!…
沙門は気を失い、背中から床に倒れた。
「・・・なんだと⁉」
しかし、六花は目の前の光景に眼を疑った。沙門本体を倒したというのに、扉間と戦っている沙門の影分身は消えていないのだ。
沙門の影分身は扉間と刀と鎌槍を交えていたが、いったん後ろへ飛び退いた。そして袖口から手裏剣を出すと六花に向かって投げた。六花はそれを軽くかわしたが、写輪眼で沙門を強く睨んだ。
「ユエ、よく俺の能力に気が付いたな。だがな、俺の能力は影分身と入れ替われるだけじゃない」
「…実体化…してる⁉」
「芙蓉!油断するな!!」
ビュンビュンビュンビュン!!!
六花の背後から、沙門の風遁・砂塵岩刃による大理石の無数の破片が飛びかかって来た。
「芙蓉─っ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「…なんだ?あれは…」
沙門は目の前の六花を見て驚き、思わずたじろぎ後ろ足をジリリと下げた。
そこには、六花が半透明の骸骨に包み込まれて立って居た。そして、その半透明の中には六花を襲った大理石の破片が浮いている。
「あれは確か・・・マダラが使っていた須佐能乎と同じ!」
「…これは返すぞ!」
フワッ・・・ビュンビュンビュンビュン!!!
六花は須佐能乎の中に入っていた大理石の破片を沙門に向けて一斉に放った。
「くっ!!」
沙門は側転して破片をかわそうとしたが、放たれた範囲は大きく、ほとんどの破片を浴びてしまい地面に両膝を突いた。
「どうした?影分身で防げば良かっただろう…まさかもう影分身を出すチャクラは無いか」
六花は須佐能乎の中から沙門に向かって冷酷な笑顔を向けて訊いた。そして体の前に刀を構えた。
「あのまま意識を失っていればいいものを…愚かだな」
六花は須佐能乎の中から飛び出すと一直線に沙門に向かって走ってゆく。
ガキィィン!!・・・
「何故止める…」
「殺すな。風影を殺せばお前はS級犯罪者だぞ!あとはワシに任せろ!」
「…構わん。殺せ…ユエ」
「・・・?」
「お前になら、殺されても良い…」
「何を言う風影!貴様はまだやり直せる。傀儡兵器の開発を止め、市民の為の政策に転換すればいい」
「・・・・」
六花が無言で刀をしまうと同時に須佐能は消え、そして扉間と沙門に背を向けた。
「馬鹿らしい。色ボケオヤジめ…」
「芙蓉!」
「それから!…オレは芙蓉という奴じゃない!人違いだ」
「待ってくれ!!」
芙蓉は走り出すと、そのまま地下室から姿を消した。
「待ってくれ」
民家の石造りの屋根の上、六花の前に扉間が立ちはだかった。
「しつこいぞ!邪魔をするなら殺す」
六花はしまっていた刀を抜くと扉間に向けた。しかしその手は、いや身体全体が上下に震えており、扉間はそれを見逃さなかった。
「君ももう限界なのだろう?…風影は君が誰の命令であんな事を行ったかを正直に言えば罪に問わないと言っている。一緒に戻ってくれ。そして正直に言ってくれ」
「オレに指図をするな…」
「だがこのまま逃げれば風影も、そして我々木ノ葉も君をどこまでも追うぞ。そうなれば必然的に君の主にも辿り着く」
「…芙蓉とは、一体誰だ?」
「?…。うむ…」
「答えろ」
「知ってどうする?」
その言葉に、六花はフッと不敵に微笑み、刀を鞘に収めた。そして、ゆっくりと扉間に近づいてゆく。
「!」
六花は扉間に接近し向かい合った。直ぐにでも互いのクナイで心臓を突き刺せる距離である。しかし互いに微動だにしない。
「・・・」
六花は黙って、微かな街明かりに照らされている扉間の顔を見上げた。
「風影と同じ手にはかからぬぞ」
そう言うと眼を閉じ、そして、思い切り六花の唇に吸い付いた。
「⁉」
『六花!今だよ力を使って早く!』
「・・・・・・」
・・・そんなっ!こんな時にチャクラ切れだなんてっ!どうしよう!・・・
扉間は六花を抱きしめ、後頭部を抱き寄せて強く唇を吸い続けている。直ぐにでも扉間を突き飛ばしたいのだが、六花は力が使えないことに動転し、固まってしまっていた。
グサァ!!
「⁉」
「破廉恥な奴め。扉間」
「…ま、マダラ⁉…うっ!写輪眼…」
バタンッ!!
「マ…ダラ…さま」
「まったく。相変わらず主に手間をとらせおって」
「来るのが遅いよ~マダラ」
「馬鹿者。この距離を最速で来てやったんだ。感謝しろ」
「老体に鞭打って?笑」
「ジジイ扱いするな。…六花は気を失っているじゃないか。二人で連れて帰るぞ」
「へーい。ていうか扉間のこと遂に殺したの?」
「肩の関節を刺して写輪眼で気絶させただけだ。死にはせんだろう」
「なんで?殺すなら今じゃん。やっちゃいなよ」
・・・だって芙蓉が生きていること知ったまま生かしておいたら厄介だし・・・
「そうしたいが残念ながら今じゃない。扉間にはまだ火影として仕事をしてもらわねばならんしな。この状況(傀儡兵器発見と沙門が六花に倒された)を処理できるのもこいつだけだしな。って、記憶を消したからそれも難しいか…。さぁ帰るぞ」
「うん」
マダラは六花を抱きかかえると、屋根の上にうつ伏せに倒れている扉間を見た。そして大きなため息を吐くとそのまま姿を消した。
◆
気怠いような春の午後。
六花は地下のアジトの真上に在る丘の上から海を眺めて小さく溜息を吐いた。
「春愁や束ねし髪に銀のピン。って六花はピンつけて無いっけ」
「そんな歌どこで知ったのよ…」
「そんなに落込まなくても良くない?結果オーライだったわけだし。風影は傀儡兵器の開発を断念したし、木ノ葉も抜け忍の件は傀儡兵器について口外しない代わりに賠償金をまぬかれて砂と同盟まで結べたんだからさ。それになんたってランダムでしか出せなかった須佐能乎をコントロールして出せた事マダラから褒められてたじゃん」
「・・・マダラさまに、キスしてるところ、見られた…」
「え?そこ!落込む所そこなの。別にマダラは気にしてないっぽいよ」
「ぽい、でしょ?気にしているかもしれないじゃない!」
「いやいやあれは一方的にされたわけだしノーカウントでしょ」
「だといいんだけど…。それと、火影が私を呼んでいた〝芙蓉〟って誰なのかな?多分、火影と親しい人物なのは間違いないんだろうけど」
「誰だっていいじゃん。世界には自分に似てる人物が三人は居るらしいし気にすること無いよ」
「あれ?四人じゃなかったっけ?」
「どっちでもいいってー」
・・・ヤバイなぁ。このままだと六花が芙蓉の記憶を取り戻しちゃうかも。マダラに消させなきゃ・・・
◆
「大おじ様!おかえりなさい!」
「綱、良い子にしとったか?」
「うん!だって綱、もうお姉ちゃんだもん!叔母様に赤ちゃん産まれたし!もう見た?」
「ああ、この後見に行く。綱も一緒に行くか?」
「うん行く!準備してくるね!オシャレしなくっちゃ!」
綱手はスキップをしながら廊下を走って行った。
「ふふふ。あれは準備に時間がかかるわねぇ。大丈夫ですの?」
ミトは嬉しそうに微笑みながら扉間の前に茶を置くと、扉間と向かい合ってソファに腰かけた。
「大丈夫だ。その、姉上にちょっと聞いて貰いたいことがあってな…」
「あら?何ですの?」
「その・・・芙蓉は、生きていると思うか?」
「は?」
「いや、その、もしもの話だ…」
「…。そうですわね…柱間さまが私の心の中でいつまでも生き続けてゆくように、これまでも今からも、芙蓉さんは扉間様の心の中で生きていらっしゃると思います」
「うむ。そうなのだが…。それが、先日砂の里で芙蓉に瓜二つの女と会ったんだ。いや、瓜二つと言うより芙蓉そのままだったのだ。顔かたち、声、身長も、芙蓉が死んだ当時そのままの姿だった」
「うーん…お気持ちはよく解りますけれど…。私も全く似ていない人と柱間さまと見間違えたり、重ねてしまいますし…。それに、この世には自分に似た人物が五人は居ると言いますし、生き写しのような人に会うこともあるでしょう」
「そう・・・だな。いや、すまぬ。変な事を言ってしまった」
「いいえ。お気持ちはよく解りますから…」
「…そういえば、六人じゃなかったか?」
姪の入院している産院に綱手と一緒に赤ん坊を見に行き、商店で綱手に駄菓子を買ってやった後家まで送り届け、扉間は自宅に帰って来た。
ようやく最近になって部屋の中は暖房が要らなくなってきた。寒がりの芙蓉は、いつも火鉢にあたりながら、部屋が扉間の術で暖かいことをニコニコしながら喜んでいた…。
扉間はしまい忘れた火鉢に目を遣りながら、食卓の椅子にドスンと腰を下ろした。
「確かに生きている…芙蓉はこの胸の中に…だが、触れられないんだ…もう…芙蓉、芙蓉…」
「ん?呼んだ?」
「ううん」
「そう…いま誰かに名前を呼ばれた気がするんだけど」
「気のせいでしょ。さ、今回の任務も頑張ろう」
「うん!」
今年ももうすぐ、ハナミズキの花が咲く。
おしまい