※この作品はR-18です。

罪の向こう、愛の絆   作:千野 伊織

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今回(8)主な登場人物は、マダラ、柱間、扉間、OC:芙蓉の親友・千手樹です。

千手とうちはの平和協定が締結し、里づくりが始まりました。
そして柱間は芙蓉が扉間の謀に嵌められたと知り、扉間に対して・・・

新しい里に住むことになった芙蓉は、里と柱間やマダラの為に役立ちたいと考えます。
そして、芙蓉が柱間と扉間の許嫁だと知ったマダラは・・・?

芙蓉・マダラ・柱間・扉間。4人の里での新たな関係と生活が始まります。



(8)芙蓉・マダラ・柱間・扉間。夢の実現

初冬の良く晴れた日。千手一族とうちは一族は平和協力条約を締結した。

柱間とマダラが握手をすると大きな拍手が起こる。

「ようやくここまで来たな。」

「ああ。やっとな。」

こうして新たな里づくりが始まった。

火の国とも手を組み、国と里が同等の立場で組織する平安の国づくりも始まった。

 

条約締結後、少しだけ落ち着き始めた頃。

柱間はマダラに話があると言ってうちはの領地にやってきた。

「今日は里づくりとは別件で、話があってな。」

「おう。なんだ?」

「橘芙蓉という女を知らないか?」

「・・・!」

「今年の春から行方不明でな。空知一族との作戦の際、遺留品がうちはの領地内で見つかったのだ。」

柱間は、黒くなった鎖に金と銀の指輪が通された首飾りを取り出して見せた。

「・・・知っている。ここに居るぞ・・・」

「ほ、本当か⁉げ、元気なのか⁉」

・・・金と銀の指輪。芙蓉の意識の中で見たのはこれだったのか・・・

「ああ。いま俺と暮らしてるぜ。」

「・・・!」

「春に芙蓉と千手の忍二人が領地内に侵入したところを、部下が見つけて攻撃した。それで怪我をしていたところを俺が偶然保護したんだ。まぁ、二人の忍のほうは芙蓉を置いてさっさと逃げていたがな。…一般人である芙蓉を誤って負傷させた責任はこちら側にある。申し訳ない。謝罪する。」

「そ、そうだったのか…お前に保護されたことが不幸中の幸いだったぞ。いやーありがとう!で、さっそく芙蓉に会わせてくれんか?」

前のめりになった柱間の言葉を無視してマダラが答える。

「・・・一般人の芙蓉が、うちはの領地内まで、何をしに来ていたと思う?・・・」

「・・・?」

「柱間、お前に重要な巻物を届けるためだ。」

「なんだと・・・⁉」

「何も知らない様だな。」

「誰が、芙蓉にそんなことを…!」

「扉間だ。」

「・・・・⁉」

柱間は思わず、床に視線を落として愕然とする。言葉も出ない。

「扉間がなぜ芙蓉にそんなことをさせたかは知らん。だが、間違いなく、芙蓉をうちはに消させるつもりだったんだろうなぁ。」

マダラがほくそ笑む。

「扉間・・・あいつ・・・」

「安心しろ。この件で争うつもりはない。」

「芙蓉は…何と言っておるのだ?」

柱間がマダラのほうへ身を乗り出して尋ねる。

「新しい里で、俺と暮らしたいとさ。」

「・・・そう・・・か・・・分った。すまなかったな・・・色々面倒をかけたようで。こちらこそ謝罪する。すまなかった。芙蓉のこと、よろしく頼む。」

柱間は心ここに在らずといった感じだった。

「お前。たかが女中に、やけに熱心なんだな。」

・・・芙蓉。許嫁のことは言ってないのか。正解だ。バレていなくて良かった・・・

「たかがとは何ぞ。子供の頃から家で手伝いをしてくれていた兄弟のようなものぞ!」

「…そうか。お前がここに来たこと、芙蓉に伝えても?」

「ああ。頼む。心配していたが無事で安心したと伝えてくれ。」

「分った。任せろ。」

 

 

外は雪が積もり始めていた。風呂の湯気が窓の隙間から漏れては消えてゆく。

風呂場で芙蓉はマダラの背中を流していた。

「そうですか…わざわざ柱間さまが来て下さったのですね。」

「あいつも、お前のことが好きだったりしてな!」

「…そ、そんな…それはないですよ。」

いま顔を合わせていなくて良かったと芙蓉は少し安堵する。

「ガキの時からずっと一緒なんだろ?それに天然な所はお前たちけっこー似てるしな。」

「…やめてください。嫉妬、してるんですか。」

「ハァ⁉ん、なわけねーだろ。なんで俺が…。いいからお前も一緒に服脱いで入れよ。こんなに湯船広れーんだからよぉ!」

「それは無理です。」

「チィ。ホント頑なだよなぁ。ほぼ毎晩、裸見てるし見られてるっつーの。」

バシャァァ!

「つっっめてぇっ!!」

「いい加減にしてください。」

背中越しに芙蓉が不機嫌になっている様子が伝わってくる。

「・・・お前。本当に千手の領地に帰りたいと思わないのか?」

マダラは呟くように芙蓉に訊いた。

「はい・・・私はこれからもずっとマダラさまと一緒に居たいです。」

「そうか。じゃあ里に俺の家が建って住める状況になるまでここに居ろ。俺もここから里に通うから。」

「ありがとうございます。でも、通うのは大変では無いですか?」

「なに、忍の足なら里まで三十分あれば着く。大丈夫だ。」

「マダラさま…」

芙蓉は濡れたマダラの背中に抱き着いた。

「ほら濡れた。だから一緒に入ればいいだろ?」

「あり得ないです。」

「いや、太陽が西から昇ることレベルで拒否するなよ…」

マダラはけっこう凹んだ。

 

◆

屋根には雪がうっすらと積もり、落葉した芙蓉の木も白くなっている。

 

「どういうことだ、扉間。」

柱間がチャクラを荒だてつつも、冷静に扉間を見据えて問う。

「・・・あいつ自らが望んだことだ。断ろうと思えば断れたはずだ。」

「お前っ!!」

柱間は扉間の返答とその態度に激高し扉間を思いっきり殴った。扉間は激しく床に倒れる。

「俺を殺すのか?あの時殺さなかったからな。」

「…なぜだ。なぜこんなことをした!芙蓉にいったい何の恨みがあるというのだ!芙蓉を傷つけるなとあれだけ言ったはずだ!運よく助かっただけで、死んでいてもおかしくなかったんだぞ!現に左肩に重傷を負い、危ないところだった!」

「恨み?…あるな。あいつが俺たちの前に現れたこと、あいつの存在自体だ。」

扉間は体を起こし、口から流れる血を拭った。

「お前、芙蓉を愛していたんじゃ…」

「言っただろ。あいつは、俺も兄者も二人とも好きだと言った。なのに、どちらとも結婚はしたくないと言うんだぞ。俺の…今までの我慢はなんだったんだ!」

いつも冷静沈着な扉間が声を荒げ床をドンと叩いた。

「扉間・・・」

柱間は扉間が兄である自分に遠慮して、芙蓉への想いを我慢した結果、愛情が憎しみに変わったのだと悟った。

「…もう芙蓉はこの家には戻らない。だが二度と芙蓉に近づくな。いいな。」

「兄者は…いいのか?芙蓉が他の男のものになっても。」

「芙蓉が望むなら、仕方がない。」

「だったら…芙蓉の存在が消えた方が良いと思わないか?」

「扉間!!」

「けど実際は芙蓉が生きていることを知った時、安堵した自分も居たんだ。俺はずっと、芙蓉にどう接して良いのかすら分からなかった。いつも突き放すことしか出来ず、そのたび自己嫌悪になった。だが想いだけは募った。苦しかった。芙蓉が俺のものにも兄者のもにもならず、どこかへ行ってしまうかもしれないと考えた時、芙蓉を消そうと思ったんだ。…だが、芙蓉を消したところで芙蓉への想いはどうやら消せないようだ…。俺はもうやり直すことなど出来ない。だがせめて兄者は…芙蓉の気持ちを繋ぎとめてくれ…」

 

・・・弟をここまで追いつめたのは、この俺だ・・・

 

二人の間に沈黙が訪れる。

音もなく激しく降りしきり積もってゆく雪が、更に音を奪ってゆく。

芙蓉の木には厚く雪が積もり、その重さにじっと耐えているようだった。

 

◆

 

「はい。それではここでの授業はこれで終了です。皆さん、今までありがとうございました。」

パチパチパチパチ…。

新緑が光り、庭にはハナミズキの花が満開に咲いている。

教室には生徒の他に、生徒の家族、一族の議員、上忍、そしてマダラが参観に来ていた。

最初は孤児院の教室から始まったこの学校も、今やうちは一族の殆どの子供たちが学ぶ立派な学校になっていた。

条約締結から半年ほどが経ち、新しい里づくりも順調に進んでいる。

そしてうちはのこの学校も今日で閉校になる。二週間後からは里に出来た学校で千手の子供たちと共に学ぶことになっていた。

 

「芙蓉先生、これまで一年以上、本当にありがとうございました!」

孤児院の職員たちと子供たちから、大きな花束と寄書が芙蓉に贈られた。

「こちらこそ…ありがとうございます。」

そう言って涙ぐむ。そして姿勢を正して言う。

「ちょっとだけ私の話をさせて下さい…

実は私、教師になるのが夢だったんです。でも絶対叶わないって諦めてました。けどその一方、夢が捨てられなくて、勉強を続けていました。だから、このお仕事を任せて頂けて本当に嬉しかったです。マダラ様、上忍の皆様、議員の皆様、私みたいなよそ者に大切な役目を任せて下さり、本当にありがとうございました。

皆さん、夢を持ってください。どんな小さなことでも良いです。そしてそれを叶える努力をゆっくりでもいいから、止めずに続けてください。例えもしその夢が叶わなかったとしても、それまでの努力はきっと次の夢への足掛かりになります。諦めないでください…って、あ、ちょっとじゃなくなっちゃいましたね。あはは。」

教室から拍手と笑いが起こる。

マダラも大きな拍手を送った。

 

・・・芙蓉の夢が叶った。

そして、今度はこの子供たちの夢が叶う世界を、俺たちが作る。

責任重大だな・・・

 

マダラは改めて気を引き締めた。

「…以上、次の学校についての説明は終わりです。何か質問がある人はいますか?」

「ハイ!」

「はい。ミモザ君、どうぞ。」

「先生とマダラさまはいつ結婚するんですか?」

「えっ。えええええ…」

教室から黄色い悲鳴が上がり、生徒が一斉にマダラのほうを振り向いた。

・・・えええええええーーーっ!今それ俺が答えるのか?・・・・

マダラは固まるしかない。

「はい。授業と関係の無い事は放課後か休み時間に質問してください。次の学校でも!」

「スルーかよ~。つまんねー。」

「そうだよ。もう授業終わってるんだからいいのにねー。」

そーだ、そーだと生徒たちが質問したミモザに賛同して騒ぐ。

「・・・する。」

その声に生徒が静まり、教室に居る全員がマダラのほうを一斉に見た。

「新しい里が完成したらする。以上!」

マダラは腕を組んでそう叫び、真っ赤な顔で教室をツカツカと一人で出て行った。

教室がどっと沸く。子供も、大人も大騒ぎしている。

「芙蓉先生おめでとう!良かったわね!花嫁衣裳は任せてね!」

「せんせーおめでとう!今度はマダラさまの花嫁さんになるんだね!」

「先生の花嫁姿、超たのしみ~お祝いしよーよ!」

芙蓉は苦笑するしかなかった。

一人自分だけを残して出て行ったマダラを恨む。

どうやら今、マダラに求婚されたらしい。

 

◆

「芙蓉―――っ!」

「樹ちゃん!!」

二人は強く抱き合った。

芙蓉は里に出来たマラダの家に引越し、ようやく樹と里で再会した。

実に一年以上ぶりの再会だった。

 

「芙蓉…良かった。良かったよ。私、芙蓉が居なくなってからずっと生きた心地がしなくて、柱間様から芙蓉が無事って聞いて…早く会いたかったんだから!!」

そう言っていつも気丈な樹が涙を見せた。

「樹ちゃん…心配かけて本当にごめんね。私も樹ちゃんに会いたかったよ…樹ちゃんは元気だった?」

「芙蓉が居なくて元気なんか出なかったよっ!あ、そうだった…」

樹が思い出して鞄の中から黒い筒を取り出した。

「卒業証明書。芙蓉のだよ。」

「ありがとう…でも、私も樹ちゃんと一緒に卒業したかったなぁ…」

「うん…でもさ、聞いてるよ。あっちで学校の先生やってたんだって?芙蓉いつも先生になりたいって言ってたよね。夢が叶って良かったじゃん!」

「うん!女学校で勉強していたお陰だよ…」

「それが何よりの卒業証書じゃん?」

「そうかもしれない。ありがとう!」

樹は、以前よりもすいぶん大人びて色っぽくなった芙蓉の笑顔に、胸がときめく。

二人は木陰のベンチに腰掛けて、これまでの事を語り合った。

 

「それでさぁ…柱間様と扉間様、どっちと結婚するのか、もう決まったの?」

「…どちらとも結婚しないつもりだよ。」

「ええ!なんで?」

「結婚したいとは、どうしても思えないからかな。二人の事は好きだよ。でもね、それって恋愛じゃなくて、家族として好きっていうことが、この一年で分ったの。」

「そっか…やっと芙蓉も気づいたか!そうだよ、やっぱ許嫁なんてそんなもんだよ。芙蓉の気持ちに正直になるのが一番。私はいつでも芙蓉の味方だよ。」

「ありがとう・・・あのね、樹ちゃん。それと・・・私・・・」

「ん?どうしたの?何かあった?」

「好きな人ができたの。」

樹は後頭部を金槌で殴られたような衝撃を感じた。

「え・・・うそ。・・・だ、誰?」

樹の動揺した、不安そうな顔を見て芙蓉は少し心配になりながらも答える。

「・・・うちはマダラ・・さま。」

「マダラ!!嘘でしょ⁉なんで敵だったうちはの長のマダラなんか・・・」

樹は芙蓉がこの一年間うちは領地内で保護されていたことは柱間から聞いて知っている。だが、まさかよりにもよって、あのマダラを芙蓉が好きになるなんて…

「本当に優しい人だよ。樹ちゃんも会えばきっと分ってくれると思うの。」

「嫌だよ…だって、千手の忍はマダラに沢山殺されているんだよ。それにあいつだって自分の兄弟が千手に殺されたこと恨みまくってる。芙蓉はそれを知ってるの?今は和解してこうしてここまで里を作り上げてきた人だけど、私はそんな人、止めた方が良いと思う。さっきはああ言ったけど、芙蓉が不幸になりそうな方向に行くのを黙って見てられないよ!」

樹が自分のことを心配して言ってくれていることは良く解っている。

「知ってる。でも私はマダラさまのことを、マダラさまが選んだ平和への道を信じてる。」

「芙蓉。それってさ、命を助けてもらって気持ちが一時的に傾てるだけだよ。ねぇ、もう一度柱間様のこと見てみたら?あの人はこの里創設の一番の立役者で、必ずこの里の長になる。柱間様のほうが芙蓉に釣合う。悪いこと言わないからマダラはやめときな。ね!」

「でも、もう柱間さまのことは…」

芙蓉は罪悪感で少し心が痛み、困った顔をして俯く。

「仮にも芙蓉は柱間様の許嫁だよ?千手でその事を知らない人なんて殆ど居ない。それがもし、うちはの長のマダラと結婚なんてことになったら、祝福してくれる人なんて誰も居ないと思う。芙蓉は芙蓉自身が思っている以上に本当に素晴らしい立派な女性なの!芙蓉は柱間様の、この里の長の妻になるべきだよ…もっと自分を大切にして…お願い。」

樹が涙ぐみ、俯く。

「ありがとう。樹ちゃん。樹ちゃんは本当に優しいね。でもね私、マダラさまのこと心から愛しているの。初めて自分で決めた道なの。たとえ人から見て間違っているって思われる道でも、自分が決めた道を歩いて行きたいの…これからは。」

芙蓉がそう言って、樹を抱きしめた。

「本当にありがとう。樹ちゃん、大好き!」

樹はこの芙蓉の『樹ちゃん大好き』発言にとても弱い。

結局、樹はこの発言に負け、今度マダラに会う約束をしてしまった。

 

◆

芙蓉は樹と話をしたこともあり、やはりこのまま柱間に会わずに済ませることは出来ないと思った。

まだ正式に婚約解消を申し込んでない。それに一応まだ、あの家の女中だ。育てて貰った恩もある。不義理なことは出来ない。

芙蓉は思い切って、柱間の所へ会いに行くことにした。

 

里はたった半年で以前の千手領地よりも多くの建物が立ち並び、既に沢山の人が生活をしていて賑わっている。店も沢山ある。以前顔見知りだった店主たちが居ないか探してみるが、あまりに人と店が多すぎて見つけられなかった。

どうやらここまでの急速な発展は、柱間の木遁術の力によるところが大きいようだ。

柱間の居るらしい里の管理施設にやってきた。建物は三階建だった。

芙蓉は上を見上げる。すると、ちょうど二階の窓から柱間の顔が見え目が合った。

芙蓉は一礼して、また柱間を見た。

 

「芙蓉…おかえり。」

「御心配おかけして、申し訳ありませんでした…」

柱間の居る指令室は広くは無いが、里を広く見渡すことが出来る。

日差しが椅子に座っている二人の足元を照らしている。

「いや。謝らなくてはならないのはこちらだ。扉間がとんでもないことを…」

「いいんですもう。むしろ私、扉間さまに感謝しているんです。」

そう言ってニッコリと微笑む。

「・・・?」

「今日は正式に、柱間さまと扉間さまとの婚約解消のお願いに上がりました。」

「芙蓉…ちょっと待ってくれ!俺は、今もお前のことを愛している。俺が扉間の考えに早く気づけていれば、お前はこんな事にならなかった。すまない…俺を許してくれ!」

「やめてください。柱間さまは何も悪くありません。私、気づいたんです…柱間さまと扉間さまの事を愛している気持ちは、家族としての愛情だったのだと。」

「ならいいではないか。夫婦になり、新たな家族を作ろうぞ!」

そう言って、以前芙蓉に贈った金色の指輪を差し出した。

芙蓉は少し困った顔をしてその指輪を見つめた。

「…この一年間でお前が変わってしまったのは仕方がない。だが、この新しい里で俺をひとりの男として見て交際してほしい。もちろん、女中としてではなく。」

「ごめんなさい…私もう…柱間の事を男性として愛することは出来ないと思います…」

「…マダラのことを…愛しているのか?」

「・・・そうです。」

芙蓉の瞳から大粒の涙が流れて落ちた。心からの言葉だったのだろう。

「そうか・・・確かにあいつは良い奴だ。まぁ、俺には劣るがな!アハハ・・・」

柱間は無理に笑顔をつくり笑って見せた。その顔に芙蓉は更に心が痛む。

「お願いします。婚約を解消してください…どうか、お願いします。」

芙蓉は痛む心に負けてしまいそうになりながら、重ねて懇願した。

「分った。解消しようぞ。だがな、俺もそう簡単にお前を諦めることはできぬぞ。マダラと比べて構わない。また俺のことも見てくれぬか?」

このまま身を引くことが芙蓉の幸せかもしれない。

だが、柱間の愛情も、そう簡単に諦められるほど簡単なものでは無かった。

「…わ、分りました。」

本当はマダラと柱間を同時に見ることなど出来ないし、したくない。

だがここはこう答えるほか、芙蓉には言葉が見つからなかった。

「…それから、これまで育てて頂いた御恩をお返ししたいと思っています。」

「そんなことは気にしなくていい。充分尽くしてもらってきたからな。」

「仏間さまが亡くなられる前に私に仰ったんです。恩を返すのは、何も結婚だけじゃないと…繋がりを持ち続けることが大切だと。」

「父上が、そんなことを…」

「だから私も、里の為、柱間さまの為にお役に立ちたいのです。それが私にできる恩返しだと思うから…」

芙蓉は窓から見える里の風景を眺め、目を細めた。

「うむ…では考えてみよう。だが…里の為に働くとなると、どうしても扉間と顔を合わせることになるが…大丈夫なのか?」

「正直少し不安です。でもお仕事ならば私情は持ち込みません。」

柱間は、芙蓉がずいぶん逞しくなっていることに驚いた。

「芙蓉自身は何かやりたい事はあるのか?」

「はい…できれば、教師として里の子供の教育に携わりたいです。」

「聞いておるぞ。うちはでの活躍ぶりは!そうだな、芙蓉には里でも教師として働いてもらうのが良いかもしれん。どうだ、忍者アカデミーの教養科目の教師というのは?」

忍者アカデミーはうちはで教えていた子供たちが多く通う忍の学校である。芙蓉は心が弾むのを感じた。

「あ、ありがとうございます。ぜひお願いします!」

「では会議で芙蓉をアカデミー教師に推薦してみようぞ。」

芙蓉の嬉しそうな笑顔を見られて、柱間はほっとした。

話が済むと芙蓉は深々と頭を下げて帰っていった。

帰る場所。それはマダラの家だ。

柱間はやりきれない思いで遠ざかる芙蓉の後ろ姿を窓から見つめていた。

友への信頼と嫉妬、芙蓉を助けられなかった後悔、弟への恨みと理解、芙蓉への変わらぬ愛…複雑な感情が入り混じる。

遠ざかる芙蓉の後ろ姿にはもう、女学校へ送り迎えをしていた頃の少女の面影は無かった。

 

 

まだ慣れない台所で芙蓉は苦戦しながら料理をしている。その背中にマダラが話しかける。

「今日、柱間の所に行ったんだってな。」

「あ、はい…ご挨拶に…」

芙蓉は首だけマダラに向けて、料理を続ける。だがマダラから何を言われるのだろうと不安がよぎる。

「聞いたぞ。教師をしたいと申し出たそうだな。」

「はい。私も里の役に立ちたくて…まだ出来るか分らないですけど」

「会議で俺からも推薦しといてやるよ。お前なら大丈夫だろ。」

その言葉に芙蓉は人参を手にしたままマダラの方をぱっと向いて喜ぶ。

「ありがとうございます!嬉しいなぁ。」

そう言ってまた、まな板の方を向いて人参を切り始める。その後ろ姿から芙蓉が嬉しそうな様子がマダラにも伝わってくる。マダラは立ち上がり、台所の芙蓉に近づいていく。

「…他には、何を話したんだ?」

芙蓉の手が止まる。

「扉間さまの件で…私は気にしていませんと、お伝えしておきました。」

「教師になれば里の会議などにも出席することになるが、扉間と顔を合わせても大丈夫なのか?」

芙蓉は再びマダラの方を振り返る。

「はい…お仕事ですから私情は挟みません。里の為、私もマダラさまと頑張ります!」

「無理、すんなよ。」

マダラはそっと後ろから芙蓉を抱きしめた。

「あの…マダラさま。実は私、マダラさまに言わなければならないことがあって…」

「なんだ?」

芙蓉は料理の手を止め布巾で手を拭き、マダラと向かい合う。

「私と柱間さまと、扉間さまの関係の事です。」

「・・・・。」

「私が仏間さまに引き取られたことはお話ししましたが、女中という立場だけではなく、柱間さまと扉間さま、そして当時ご存命だった板間さまの許嫁として引取られたんです。」

「・・・・!」

「今日は、お二人との正式な婚約解消のお願いに行ってきました。」

・・・幻術で芙蓉の心の中で芙蓉に質問した時、確かに許嫁などとは言わなかった。

なぜだ?あの世界では決して嘘などつけるはずはないのに!

そうか。あの時見た金と銀の指輪は、柱間たちから貰ったものだったのか。

しかし、その指輪も何か判らないと答えていたが・・・

「それをずっと俺に隠してたってわけか。」

「申し訳ありません!私が許嫁だと言えば、私が取引の材料にされて柱間さまや千手の皆さんにご迷惑をおかけすると思ったんです。そして、保身のためです。うちはの領地内で生きていくにはそうするしかないと思いました。マダラさまのことが好きになってから、ますます言えなくなって…本当にごめんなさい!」

芙蓉の話を聞きながら、マダラは柱間との昔の会話を思い出した。

 

『俺、イイナズケ、いっからさ!』

・・・そうか。あいつの許嫁は芙蓉のことだったのか。

確かに可愛いし、美人だな。柱間・・・

 

あの時の柱間の嬉しそうな様子を思い出し、目の前の芙蓉を改めて見据える。

「マダラさま…怒ってらっしゃいますよね…?」

芙蓉がすがりつくような目でこちらを見ている。今にも泣きそうだ。

・・・俺は友の愛する女を、知らなかったとはいえ奪ったのか・・・

マダラは胸にちくりとするものを感じる。

・・・皮肉にも弟を殺した扉間の謀がなければ、俺たちは出会わなかったってことか・・・

マダラは、芙蓉との出会いは弟・イズナの導きだったのかもしれない、そんな風に考えた。

「お前の事情は理解できる。それに今はもう俺の女だ。そうだろ?」

「・・・マダラさま・・・私を許して下さるんですか?」

「・・・ああ。」

「私、ずっとマダラさまを騙しているようで辛かったんです・・・何をどうするのが正しかったのでしょうか・・・」

マダラに許してもらったとはいえ、芙蓉は落ち込む。

「俺がお前でも、同じことしたと思うぜ。そんだけお前は馬鹿じゃないってことだ。いいだろ、もう。」

芙蓉は恐る恐る、マダラに抱き着く。

「許す代わりに、今日一緒に湯船に入れ。もちろん裸でな。」

「えええええええ…そんなぁ…」

その夜、芙蓉は泣く泣くマダラと一緒に入浴した。

 

◆

 

柱間と扉間は、里に出来た新しい屋敷の部屋に居た。

庭には柱間が移植した芙蓉の木が植えられている。蕾はまだついていない。

 

「今日、芙蓉が来たぞ。婚約を解消してほしいと言ってきた。当然だな…。」

「兄者はいいのか。」

「お前が芙蓉にしたことを考えれば仕方ないことだ。だが…これからは許嫁ではなく、ただの一人の男として見てほしいと伝えた。」

「そうか…」

扉間は柱間から顔を背けて頷いた。

「それから芙蓉は里の為に自分もなにか出来ないかと言ってくれたぞ。出来れば教師として教育に携わりたいそうだ。明日の会議で芙蓉を忍者アカデミーの教師に推薦しようと思っている。だが、扉間、お前はもう芙蓉に仕事以外で近づくなよ。」

「分っている。だが、俺は忍者アカデミーの教師にするのは反対だ。あいつは女学校のほうが向いている。いくら基礎教育科目のみを教えるだけだとしても、忍の知識が全くない奴がアカデミーの教鞭をとることは、里の教育方針に合わん。」

「教育方針にのっとって授業をすれば問題ないではないか。」

「アカデミーには既に忍の教師が揃っている。それに教師というのは授業だけして終わりの仕事ではないだろう。子供の成長への影響力が大きい。」

「要は芙蓉の人格では、アカデミーの教師に相応しくないと言いたいのか?」

「そこまでは言ってない。だが里設立の大切な時期だ。素人よりも忍に、忍の里としての在り方を教育させるのが正解だ。」

「うむ…俺は芙蓉にはぜひ忍者アカデミーで教えてほしいのだがな…」

「それは個人的な感情だろ?感情で決めるな。とりあえず議会で決める。」

 

柱間は扉間が起こした謀を、罪に問わなかった。

扉間がした事は許されることではないが、それをさせた責任が自分にもあると感じていた。また、いま扉間に居なくなられたら里創設に多大なる支障が出る。

柱間は事件に目をつむった。

扉間は柱間の優秀な補佐として力を発揮し、今もこうして柱間に対して当然に意見する。

 

 

「資料で配っている橘芙蓉を忍者アカデミーの教師に推薦したいのだが、皆の意見を聞きたい。」

「我々うちは側からも、同じく彼女を推薦する。」

「「・・・・!」」

柱間の言葉に続いて発言したマダラの言葉に、千手の上忍たちがざわつく。

「彼女はうちはで保護をしている期間中、多くの子供たちに国語と算数、理科を教えて貰っていたが、とても優秀だった。適任だと思う。」

マダラの発言に、うちは側の上忍が揃って頷く。

「俺は反対だ。一般人であり、忍について全く知識のない橘芙蓉の指導では、十分に里の教育方針に即した指導が出来るとは思えない。橘芙蓉には・・・・」

扉間は昨夜柱間に反論した意見と同じことを言い、反対に女学校教師に向いている理由を説明し始めた。

「・・・よって、橘芙蓉は女学校の教師として適任だと言える。」

マダラは無表情で、芙蓉を女学校の教師に推す扉間を見ていた。

「マダラ様の意見も解るが、扉間様の意見のほうが良いと思うな。いくら優秀でもあの花嫁学校同然の女学校で主席だったのなら、なおさら女子相手に教えた方が良いのでは?」

「橘芙蓉は、女学校に行く前から父・仏間から長年勉学の指導を受けており、剣術にも優れている。忍の知識はなくとも忍の一家で育ち、忍の精神は解っているはずだ。」

柱間が議員に反論する。

「俺は実際に芙蓉の授業を見てきたが、頭脳明晰で学問の知識に於いては並の忍よりも断然優れている。これからの忍は忍術だけではなく、学問も学んで忍術に活かすべきだと思うがな。」

柱間の意見に賛同する形でマダラが発言した。

「でも、そうは言ってもアカデミーの教師はもう足りているんでしょう?ならばそこまでしてアカデミーの教師にしなくても。」

「確かに。橘芙蓉がアカデミーに必須な人材とまでは言えないな。」

「やはり扉間様が仰るように、女学校の教師のほうが彼女にとってもいいのではないか?」

多数決を取ることになった。

その結果、扉間の意見が支持され、芙蓉には女学校ならばと教師の許可が出された。

 

「残念だったな。柱間。」

「そうだな…。せっかくうちは側も推薦してくれたのにな。」

「俺がもっと口が達者なら、芙蓉の素晴らしい教師っぷりを解説できたんだがな。」

「お前、それ以上達者になってどうするんだ。充分達者ぞ…」

「まぁ芙蓉が望んでいた教師って仕事には就けるんだ。あいつも喜ぶさ。」

「そうだな。芙蓉に…伝えてやってくれ。」

「ああ。」

そう言って右手を挙げて歩いてゆくマダラの背中を見ながら、柱間は自ら芙蓉に報告できないことを悲しく思った。

マダラの帰る場所には、芙蓉が待っている。

 

 

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