短編です。これしか出さないつもりなので、次作は期待しないでください。
人間って言うのは、どうしてこうー
「ゴミみたいなんだろうなぁ。」
俺は、大きく穴の空いた胸の痛みに耐えながらそう呟いた。
死ぬ寸前の人間が走馬灯を見るように、俺は何故こうなったのかを思い出していた。
俺こと鳴神
この学園で禊は唯一神童から才能アリと呼ばれるものであり、その才能はまだ咲かなかった。学園の中では。
「なぁ禊〜。お前、今のままの実力でいいのか〜?」
禊に話しかけて来たのは、学年12位の猛者。河添卓哉だった。彼は禊の幼馴染であり、特殊者に分類される者だった。その能力は【
「程度の低い能力だ。」
と一蹴された。卓哉は禊よりも圧倒的に強いにも関わらず、卓哉の能力を程度の低いと神童は言った。だが、卓哉は禊よりも自身が劣っていると言われたのにも関わらず気にかけていなかった。禊が卓哉の元へ行った時は、
「俺は禊よりも実力がないっぽいわ。お前は神童に認められたんだから、自信持てって。」
と言った。実は卓哉が、いや、禊よりも成績が上位の者たちは禊が才能アリと認定された時点で自分たちも言わせられるに違いないと考え、次々と挑んだのだが、誰一人として言わせることはできなかった。卓哉は自身の能力がどこまで通用するかを知りたかったらしく、自分と同じ系統の能力を持つ神童に挑んだのだが、結果はそう言われてしまった。
実際、禊には現在能力というものが存在しない。正確には、覚醒していないのだ。禊は自身の能力が開花していないのにも関わらず、神童に才能アリ認定されたことが不気味で仕方がなかった。それに、不安でしょうがなかったのだ。能力無しではケモノは傷一つつけられないのだ。そんな中、自分は戦場にいてもいいのだろうかと考えてしまうのだ。無駄死にするだけではないのか、と。しかし、禊は諦めなかった。と言うよりも、流れに身を任せたのだ。今は開花しなくてもいつかその時が来るだろうと。そう考えるようになったのだ。
禊が才能アリ認定されてから1年。それは、禊が2年生になって夏がやって来る季節。事件は起きた。卓哉が失踪したのだ。その時期は丁度神童たちがケモノ狩りに赴いていたために学園を開けていた時期だったのだ。禊は慌てた。すぐに教師に相談した。だが、すぐに教師陣は動いてくれなかった。それもそうだ。たった1日姿が見られないだけで失踪したと判断するには早計だったのだ。結局教師陣が動いたのは、卓哉捜索に打って出たのは卓哉が居なくなって1週間が経過した頃だった。卓哉の部屋が徹底的に捜索されたが、物的証拠は一切見つからず、卓哉失踪の件は事件未解決のまま迷宮入りになるかと思われた。しかし、卓哉から声明があったのだ。ケモノを従え、現世を滅ぼしに行くと。たしかにそう言ったのだ。これによって、卓哉は討伐対象になってしまった。それから、俺もまた討伐隊に組み込まれた。神童は急いで招集され、神童各自で動くようにと指令が出された。討伐指令が出されてから、日が経つにつれ、目撃例よりも死傷者の方が圧倒的に多くなった。始めに12隊あった隊数も、今では4隊しか無くなっている。一番驚いたのが、あの神童が一人だけだが傷を負って帰還したことだろうか。それから、各隊の士気は一気に下がり、今の結果を引き起こしている。
とうとう、俺にも順番が回って来たらしい。俺以外の者は神童以外全滅。俺も土手っ腹に穴が開いてしまった。
「な、なぁ卓哉。お前何でこんなことしてんだよ。」
俺は今にも消えそうな声で卓哉に聞いた。
「お前には関係ねぇよ。禊。」
「そっかぁ。お前、ここ最近見なかったけど、随分と窶れた顔つきになったなぁ。」
「おい、もう喋るな。本当に死ぬぞ。」
「でもさぁ、お前が後悔してねぇんならいいんじゃぁねぇかなぁ。なぁ卓哉、これでお別れだなぁ。」
「ーーッ」
「長くも、短くもない普通の人生だったけど、意外と楽しかったんだぜ?お前といれて。」
「あぁ。俺も楽しかったよ。」
「結局ぅ、・・・神童の言ってたことは・・・・嘘だったのかなぁ。能力・・・開花・・・・しなかったなぁ。」
言葉を発する度に死の足音が大きくなり、自然と涙が流れた。
「なぁ卓哉・・・・もう一回・・・・普通の日常・・・お前と・・・・過ごしたかったなぁ。」
「あぁ。そうだな。」
「じゃぁなぁ。先にあの世で待ってるぜぇ。」
「あぁ。じゃぁな。あっちで会えたらまた駄弁ろうな。」
最後に笑って俺は意識を落とした。
「ここはー何処だ?」
真っ白な空間の中で俺は1人佇んでいた。
「ようやく、話せるようになったか。主人よ。」
声のする方へ振り向くと15、6歳ほどの女の子が着物を着てすわっていた。
「あなたは?」
「我は・・・名前はまだないのじゃ。好きに呼んでくれ。」
彼女はそうとだけ言った。こちらにキラキラとした視線を向けて。どうやら名前をつけて欲しいようだ。
「えっとぉ、参考程度に聞くけど、今までの名前はどんなのがあったの?」
「今までか?そんな物はない。今回が初めてだからな。」
「え!?ないの?困ったなぁ。名付けとか苦手なのに。」
あ、見るからにガッカリした。そんなに期待してたのか。
「えっとぉ、名付けは後にしても良いかな?取り敢えず現状確認したいし。」
「おお!そうだった。すっかり忘れてたわ。え〜っと、取り敢えずここは禊クン、君の精神世界だよ。君の能力?我はほかのやつらと違ってね、自由自在なんだよね。名前1つで最強にも最凶にもなれる。結局はその人次第ってことよ。主人が変われば我の名前も変更になるから安心してくれて良いと思うよ。だから我にとっては名前は命と同義ってわけよ。だから、主人にはどんな能力の内容にしたいのか。それを決めてもらうよ。」
「え?名前が先じゃぁ無いの?」
「名前が先でも良いんだけど、ハッキリとした能力のイメージが無いと不完全で安定しない能力になっちゃうんだよね。例えば、毎回使う能力が違ったりね。だから先にどんな能力にしたいのかをイメージして欲しいな。」
「ん〜。いきなり言われても、困るなぁ。」
「そう言うと思ったよ。だったら主人は自分の力で何をしたい?」
「何をしたいのか?」
「そう。例えば、家族を守りたいとか、友達を守りたいとかね。主人がこの能力、いや、この力を手に入れた時主人は何を成したい?」
「俺はー」
正直迷った。だけど真っ先に思い浮かんだのは、卓哉だった。卓哉と駄弁って笑いあった日常。その風景が頭の中を駆け巡った。俺の側にはいつでも卓哉がいた。敵になるなんて正直信じられなかった。夢だと何度も何度も思った。けど、目の前で起きているのは現実だと理解させられた。卓哉はきっと卓哉なりに考えて行動した結果が今回のこれだと思う。だけど俺はあの日に戻れるなら、もう一度、卓哉と笑いあえるならこの力でー
「俺はお前の能力で手の届く範囲のものを全て救いたい。理想だとか戦略だとかはどーでも良い。結局は結果が全てなんだ。現実を見なくちゃいけないんだ。だから、俺は救えるものを、手の届く範囲のものを全て、全て救いたい。守りたい。それを邪魔する者は、どんな奴でも許さない。例え神様でも。俺はいつもの日常を、当たり前を守り続けたい。もう2度と手放したく無い。その力、俺にくれるか?」
「はぁ〜、何を今更言うのかと思えばそんなことか。我は主人の能力だ。力の源で主人の影だ。主人がそうしたいのなら異論はないし、それを可能にさせてみせる。だがこれだけは約束してくれ。決して後悔するな。これから主人が歩む道は幾千もの戦いの末にある平和を守るための戦いだ。そこにはもちろん、友人が敵になって出てくるときもあるだろう。殺さなければならない時もあるだろう。だが、結末を見て、後悔は決してするな。軟弱になるなとも、強くあり続けろとも言わない。我が突きつけるのは現実を見続けて歩み続ける揺るぎない覚悟と根性だ。精神論だとかは一切聞かねぇ。嫌になったら降りれば良い。だが、降りねぇなら覚悟を決めろ。この先微塵でも後悔の念が見えた瞬間に我は実体化して、殴りつけてやる。いや、常に実体化して監視してやる。それでも、後悔の念が消えないようなら我が主人を殺してやる。その覚悟が主人にはあるか?」
「俺は、まだそこまでの覚悟はないよ。だけど、俺は一度死んでるんだ。死より怖いものなんて無いだろう?」
俺は笑った。心からこいつが心配してくれるのが嬉しかったから。ツンデレなんだなぁと思えるほどの心の余裕を与えてくれたから。
「俺は、自分の信念と自己満のためだけにもう一度立ち上がるよ。そのために、俺に力を貸してくれ。」
「元よりそのつもりだ。主人よ。」
彼女は少しだけ微笑むとすぐに機械的な表情になった。
『我、鳴神禊を主人とし我の全てをこの者に捧げん。この者の悲願、果たされる時まで我は常に主人と共にある。我、神々の古の盟約に従い、彼の者に従え尽くさん。主人よ、我に名を。』
「
『我、主人から賜りし名、紗夜を冠す。我は主人の為にこの身命賭すことを誓わん。これからよろしくお願いしますね。マスター。』
そう紗夜が言うと俺の目の前は白一色に染まり、意識がフラッシュアウトした。
俺が再び目を覚ますと、そこは俺が一度死んだ場所。つまりは戦場だった。しかもそこにはまだ卓哉がいたのだ。
「禊、お前死んだんじゃなかったのかよ。」
「いやな、俺も死んだと思ってたんだけど、実は生きてたっぽいんだよね。」
「ふーん。で?そこにいる女の子は誰?」
「ん?あぁ、こいつか?こいつは紗夜って言って、俺の能力だよ。ほら紗夜、挨拶しろ。」
「なんでだよ?だってこいつ殺さなきゃいけないんだぞ?挨拶なんてしたって意味ないじゃんか。それに、奴さんやる気らしいよ?」
「ありゃりゃ、殺気は消したはずなんだけどなぁ。なんで分かった?」
「いやだって、雰囲気がいきなり不自然になるし、何よりもあんた気づいてないかもだけど、心拍数上がってるよ?」
卓哉は初めて気がついた。自分が禊を殺したくないのは分かっていたことだが、それよりも自分は禊と戦いたいと思っていて気分が高揚していることに今指摘されて初めて気がついたのだ。
「ってぇ訳だ。禊、お前の実力見せてくれよ。最期に、お前の実力をしっかり確かめたいからさ。」
卓哉の口が三日月のように変化していく。禊は気がついた。卓哉は特殊者なだけではなくて、快楽殺人者なんだと。禊は気を引き締め直した。
「紗夜、お前の初陣だぞ。主人としても初陣は綺麗に飾りたいな。」
「何言ってんだよ。バカ主人。」
紗夜は顔を赤らめながら、俯いた。これは相当恥ずかしいようだ。
「って、こんなことをしてる暇ねぇ。主人、これから私の能力の説明するぜ。」
「お、おう。ってか紗夜お前、口調変わってね?」
「んなこたぁどーだって良いんだよ!取り敢えず説明するぜー」
紗夜は俺にわかりやすいようになる且つ、時間をかけないように説明してくれた。
「大体分かった。違ってたらまた言ってくれ。今はとにかく、ヤルぞ!」
卓哉は待ってましたと言わんばかりに構えた。
「ふひひっ!やぁっとかよぉ。それじゃぁ、始めようぜぇ。」
「卓哉、さようなら。案外お前のこと好きだったんだぜ。友達として。」
「ふひっ!そんな戯言に用は・・・ねぇッ!!」
卓哉は喋り終えると、一気に距離を詰めてきた。能力がなかった頃の俺なら反応できずに死んでいただろうな。だが今の俺はー
ガギィィイン!!!!
「何ッ!?」
卓哉は戸惑いを隠せないようだった。それもそうだ。俺は今、何もせずに攻撃を防いだのだから。
(ヘヘッ。当たらねぇって分かってるけど、流石にビビるな。ビビるし、迫力がヤベェ。)
禊は紗夜の説明を思い出していた。
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「いいか主人、最初に言っておくことがある。それは、相手の攻撃は私が何か言わない限り、防がなくていいってことだ。だが、慢心してもらっちゃぁ困る。それは私が言えば防御態勢に入らなければ傷を負うことになる。それに、私の能力にとっちゃぁ、こんなのは序の口だよ序の口。取り敢えず、相手の攻撃はこれでなんとかなるだろ。次は、攻撃の手段なんだがー」
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俺は手を手刀の形にして、横に振った。すると、透明な刃が卓哉の右腕の肘から下を切り落とした。
ドチャッ
自身の腕が落ちたことに実感を感じられなかった卓哉が反応を示したのは、10秒ほど経ってから。その頃には、右腕を切り落とした刃がブーメランの様な軌道を描いて帰り際に左腕も落とし、俺に当たったかと思うと霧散した。
「ぐぅぁぁぁああああ!!!!」
咆哮の様な悲鳴を卓哉は上げた。止血しようにも、両の腕が落ちているので、不可能。只々血が流れ落ちるのを見るしかなかった。
「なにしやがんだクソ野郎ッ!俺の腕を返せよッ!!」
「・・・」
「な、なぁ、命だけは助けてくれよ。死にたくねぇよ」
「お前は、そう言ったやつらを殺しただろうがッ!!だから俺もお前を助けない。それだけだ。」
卓哉の口角が再び上がる。
「助けて〜なんて本心で言ってると思ったか?忘れたかよぉ〜、俺の能力。」
俺はハッとした。卓哉の能力、それはー
「停滞」
瞬間、世界が色あせた。灰色の世界になり、あらゆるものの動きが止まっていた。卓哉の放った言葉からここはー
「
これが卓哉の持つコキュートスの本領。物質のみならず、空間にすら影響を与えるほどの能力。しかし、これはー
「なによそ見してんだぁ?」
俺の動きがコキュートスによって阻害されているのか、反応が出来なかった。禊は吹き飛ばされたが、守りのおかげか無傷だった。
「言っただろう?この世界では俺の思い通りになるって。今のお前の動きなんざ、亀同然だったぜ?」
確かに厄介な能力だが、紗夜なら何とかしてくれると信じている。
先程卓哉に傷を負わせた方法で攻撃して見るも、時間を操れるせいか、傷を与えることが出来ない。
『主人、この空間の解析が終わった。能力奪取も可能だ。ヤルか?』
『いや、まだやめといてくれ。もう少しだけ様子を見たい。』
『わかった。』とだけ言って紗夜は念話を切った。
「どぉしたぁ?元気がねぇじゃねぇかぁ。もしかして、諦めちまったのかぁ?」
「随分と上機嫌じゃないか。これから殺されるというのに。それとも何か?こんな程度の低い能力如きで勝ったと言わしめるつもりか?随分と気が早いやつだなぁ。」
「テメェ、よっぽど殺されてぇようだな。いいぜぇ、ぐちゃぐちゃに切り刻んでやるよ!」
禊は内心、清々しい気持ちでいっぱいだった。ようやく、まともに戦える。初めて戦いと呼べるものが出来ると。とても歓喜していた。だからこそ、全力を以って目の前の相手を倒そうと思った。
『紗夜、次に卓哉が攻撃モーションに入ったら、奪ってくれ。』
『わかった。気をつけろよ。』
一体何度切り結んだだろうか?片や両腕がなく、片や全くの無傷。双方ともに、次の一撃で相手を殺さんと最高の攻撃をする構えを取る。卓哉が攻撃モーションに入ったその瞬間、卓哉は無様に地に伏せた。
「な、なにをしやがった。身体が、ピクリとも動きやしねぇ。」
「お前の能力を奪わせてもらった。お前の能力はお前では本来の力の3割を引き出すことが限度。いや、それすらも怠った。貴様にこの能力を使う資格はない。だから奪わせてもらった。」
コキュートスの本来の能力は根本的には1つ。それは“怠惰”。この能力は大罪系の実力を持っていたのだ。だが、今回の使用者は愚者だった。この能力の本質を理解しようとしなかったのだ。仮に卓哉がコキュートスを完全に使いこなせていたのなら、禊が勝つのは容易ではなかっただろう。だが、卓哉はそれを怠ったが故に敗北したのだ。自身はこの能力を完全に使いこなせていると錯覚して。だから愚かなのだ。
「さて、お前には世話になったから楽に殺してやるよ。じゃあな。卓哉。」
「禊ッ、待ってくー」
それ以上卓哉が言葉を発することはなかった。完全にこの世を去ったのだ。
禊はふと自分の掌を見た。穢れた掌を。
「主人よ、お主は穢れてしまった。だが、後悔することは許さない。許されない。その覚悟を主人は示したはずだ。」
「わかってるよ。俺が今思ったのは、意外となんとも思わないんだなぁって思ったんだ。安心しろ。俺は後ろを振り返ったりしない。つまらないことは1度目の命とともに捨ててきた。今あるのは修羅の心だけだよ。」
紗夜は満足そうな顔をしながら、
「うむ!いい覚悟じゃ!」
と言った。
これから、沢山の苦難があると思う。沢山人が死んで沢山人を殺さなくちゃいけないんだと思う。だけど俺は後ろを振り向かない。振り返らない。後悔なんて一切しない。そのために生まれ変わったんだから。
「さて!これから忙しくなるぞ!紗夜!」
「大丈夫じゃ。主人ならきっと成し遂げる。」
「あぁ。そうするさ。自らの野望のために俺は全てを奪ってみせる。だってー」
だってそれが俺の能力ー
【
なのだから