「恨むなら」
声と共に、軍人姿の魔法少女が細い腕を振り上げた。
今にも切れそうな、貧弱な電燈の灯りを受け、手の先の物体が輝いた。
華奢な五指が握るのは、白銀の金属棒。
柄の少し先には細長い鍔が形成されていた。
彼女の姿の原型、軍隊や警察官が用いる警棒に似ていた。
だが鍔の数センチほど先は、尋常な形をしていなかった。
警棒でなら棒となる場所は、幅広に膨らんでいるのだった。
俗にいう「パドル」といった形状を成していた。
「私だけを恨みなさい」
気高き犠牲の言葉と共に、それは風を巻いて振り下ろされた。
「ひぎぃ!」
爽快ささえ覚えるほどの「パァン」という弾ける音を、
その悲鳴は掻き消していた。
悲鳴の発生源は、ロープや針金、果ては鎖を用いて机上に固定された道化型の魔法少女。
服は既に大半の部分が破壊され、
道化を示す場所は頭に被られた帽子くらいしか残っていない。
更に、体の一部が若い肌を晒け出していた。
「ぎぃっ!」
そこに再度、魔法のパドルが激突した。
人体の恥部の一か所、尻であった。
喧しい悲鳴と対するように、パドルの連打が見舞われた。
離れた瞬間、自動的に発生する治癒魔法により、道化の尻は年相応の白さを保っていた。
だがそれを、自警団長の尻叩きの破壊力が上回る。
一瞬にして、白かった肌は溶鉄の色となった。
「繰り返します。恨むなら、私だけを恨みなさい」
自らの言葉に酔っているのではない。
正義に盲目な訳でもない。
悲哀さと真摯さを宿し、人見リナは苦痛の打撃を放っていた。
彼女にとっては複雑な意味を持つ単語だが、「親の仇」のように、
道化の尻を叩いた。
「ひっ!」
叩いた。
「ぎっ!」
叩いた。
「ぃいっ!」
彼女の手心は、意外な、或いは当然ともいえる結果を引き起こしていた。
尻への打撃は肉を痛めつけ、優木の痛覚に苦痛を叩き込んでいた。
だが一方、魔法少女の腕力とリナの無意識の優しさが絶妙なバランスを取り、
肉体に与える振動は痛みとは真逆のものを引き出していた。
肉を伝う衝撃は優木の尻を通り、薄い尻肉の間の穴を刺激していた。
奇しくも彼女が勝者たちへの罵詈雑言として放った部位だった。
断続的に与えられる刺激は、優木の本能に生理的な快感を呼び起こしていた。
「ひぃ!「ひゃん!」「くふっ!」
刑罰の執行より約三十分。
悲鳴には、甘い声色が混じり始めていた。
苦痛と快楽のパワーバランスも、にわかに崩れを起こし始めた。
衝撃が尻を貫通し、ハラワタを震わせる。
そして遂に、内臓の裏側の袋を衝撃が槍となって貫いた。
「くふぅぅぅううううっ!?」
拘束された状態で、優木が背を大きく仰け反らす。
同時に全身が痙攣、青い瞳が茫洋と霞み、涙が大粒となって零れ堕ちた。
尻と同様に剥き出しとなっている秘裂から、体液の飛沫が弾け飛ぶ。
幼い性器に沿って生えた栗色の体毛を濡らし、細い脚を通って床へと滴る。
床に広がる液体へと、黄色い靴を通って入り混じっていった。
発狂せんばかりの苦痛によって、優木の股間からは既に大量の尿が溢れていたが、
リナはそれに新たな液体が加わっている事には気付かなかった。
折檻に対し熱心だったからでもあるが、最大の原因は彼女自身が性に疎いためだった。
痛みと快感、その中に道化は何かを見出していた。
この感覚を、何処かで味わったことがあった。
酩酊するような感覚下での思考の中、道化は答えを探り当てた。
それとの出会いは、下劣で卑劣な、真紅の同類との激戦の中だった。
闇のように黒く、炎のように刺々しい黒髪。
闇の炎が燃え盛っているかのような瞳。
自らと大して変わらない身長の癖に、今まで見てきたどんな異性よりも鍛え上げられた肉体。
そのくせに線自体は細く、きめ細かい肌を宿した身体。
そして、雰囲気以外なら同性としても通じるほどの可愛らしい顔。
異界から来たのではないか、とさえ思わせるアンバランス且つ整合の取れた外見に、
自分は不覚ながらに心を掴まれた。
こいつは欲しい、と、魔女を支配下に置く時と似た、それでいて明らかに違う感情を
道化型の魔法少女は認識していた。
自らの誠意と好意を挙げて、道化は言葉を囁いた。
それは、彼女にとって愛に等しい言葉だった。
声帯に痛みを覚えるほどの告白の直後、道化の眼に広がっているのは、
自らの愛に応えた彼によって斬り伏せられる、薄汚い真紅の同類の姿の筈だった。
だが結果として、彼は道化のモノにはならなかった。
しかし彼は、彼女に贈り物を残していった。
若い男女によくある意見の相違の果て、道化は涙を呑んで彼を撃った。
鉄をも溶かす超高温の前に、彼の姿は完膚なきまでに消滅すると思っていた。
今でもあの時の嗜虐の快感と寂しさは、
道化の一人遊びのネタとしてかなりの頻度と実用性を宿している。
だがそれを彼は耐え切った。
全身から脂が焼ける甘い匂いを立ち昇らせつつ、道化の前に立ち上がっていた。
今の道化を包む快感と苦痛は、この直後に訪れた。
全身を打つ衝撃の乱舞は内臓を突き抜け、掻き回し、
直接触れていないにも関わらず、彼による暴力の嵐は優木の雌の部分を苦痛で満たした。
発狂せんばかりの痛みが駆け巡った瞬間、
彼女の帽子の先で揺れる宝石は淡い光を迸らせた。
痛みを無に、は無理だった。
だが痛みを真逆の刺激とすることは出来ていた。
時間にして五秒、だが快感の体感時間は五時間程にも感じられた。
「く、くふ」
そうか、そうだったのかと、涙と唾液に濡れる優木の顔が淫らに蕩けた。
その様子に、軍服姿の魔法少女が何かを告げていたが、道化にはどうでもよかった。
ただ道化の言葉に、リナはひどく安堵した様子を見せた。
道化の悪辣な頭脳は、正義の魔法少女の心に届く言葉を告げたらしかった。
歪んだ思考と欲望で淫らに蕩けた表情も、彼女が見た際には心底からの恭順を示した
哀願の顔となっていた事だろう。
そしてこれが最後のケジメと言わんばかりに、リナの手は下へと振られた。
魔法が彼女の腕に宿り、細腕は神速の電磁加速を伴っていた。
一万回にも及ぶ打撃の中で、最大の衝撃が優木の尻を打った。
尻のみならず全身を駆け巡る衝撃に合わせ、道化は想いを解き放った。
生命のゆりかごが震え、そこに至るまでの道を快楽の閃光が貫いた。
異形の絶頂の果て、地獄のような気絶へと意識が沈む中、
閉じ際の道化の眼は爛々と輝いていた。
今の自分をこの想いに沈めた者達への、殺意と怒りの凝集が瞳の中で青い炎となっていた。
その灼熱地獄の中には、黒と赤の美しい影が囚われていた。
それらは特に手の込んだ地獄を用意してやろうと、
消えゆく意識の中で道化は何遍も想いを繰り返した。
「くふっ」
断末魔のような不吉な笑顔と共に、今度こそ道化の意識は虚無へと堕ちた。
傍ら立つ軍服姿の魔法少女は、心身の疲労感に身を浸らせていた。
雌の臭気が色濃く目立つ薄汚れた室内で、リナは暴力による吐き気を堪えていた。
治癒魔法の応用で無理矢理に呼吸を整える。
そして新たな仲間を開放すべく、身を汚すことも厭わずに、道化の拘束を外し始めた。
本編、「流れ者達の平凡な日常」からの妄想で書き綴りました。
時間的には11話⑤の直後です。
我ながらエロさとは無縁且つ、優木さんを酷い目に合わせてしまっている番外編ですが、
ほんの僅かでもお楽しみいただけたら幸いです。