パン一つで体を許すなんて馬鹿げていると思う。何度考えてもそう思う。しかし確かにオレはそれで了承し、現に今、男の後を付いていっている。行き先はもう二人とも判っている。階段脇の用具室だ。オレたちは人の波が分断されるのを待って素早く室内へ滑り込んだ。
畳二畳程のこの狭い部屋は学校の備品をストックしておく為の部屋だ。基本的に鍵は掛かっておらず、いつでも入れる。しかも内側から鍵を掛けることができるので、秘め事をするにはうってつけというわけだ。もし万が一教師や事務員が鍵を使い入って来ても、人一人分が通れる程の小窓があるのでそこから抜け出せばいい。女になっても男一人位なら担いで運び出すことはできる。
鍵を掛けるなり、お互いに向き合う。もうやることは決まっている。昼休み、時間は限られている。
コイツとは何度目だろうか。隣のクラスの、名前は……忘れた。今まで関係した人数が多すぎて覚えていられない。頼み込まれると断り切れない性格ゆえ、結局意図せず多くの男とズルズルと今まで関係が続いている。
ただ初めてのことは今でもしっかり覚えている(相手は……忘れた)。童貞を捨てさせてくれと土下座までしたので根負けしてしまったのだ。放課後の教室で鍵を締めて机を集めて、ちゃっちゃと終わらそうと思っていたが、男の手がおぼつかないながらもオレをギュッと抱きしめた瞬間、今まで感じたことのない感覚が体の内側から湧き上がってきたのだ。
結局この感覚が何なのか未だによく分からない。ただ男の体の時には決して感じた事がなかった感覚であることは確かだ。
オレの背中に男の手が滑り込んできた瞬間、ビクンとオレの体が震え、ぞわぞわとした感覚が胸の内に生まれる。それは待ち望んだ感覚でもあり、にわかに危険な性質を帯びているようでもある。
男の左手がオレの後頭部に移動し、優しく何度か撫でられると、体からすうっと力が抜けていく。考えるということが段々と億劫になり、一切の判断をこの男に委ねてしまいたいと思い始める。
これは何なんだ、と毎回思う。女に変わったときの変化は外見だけではなく確実に中身にまで及んでいる。それも回数を重ねるごとに感じる強さも増している。
恋愛体質なんていうものがあるが、そんなものなのかもしれない。こんな簡単に心を開いていいのか、体を許していいのか、と思う。しかし心の方が先へ先へと勝手に行ってしまうので思考は後から付いていく他仕方ないのだ。
「はぁ……ふぅ……」
呼吸が速くなり、オレの吐息が熱を帯びていく。そして男の右手がオレの背中からお尻へゆっくりと蛇行しながら移動していく。ズボンの上からお尻を包み込みゆったりと揉み上げる。そして何度か揉み込んだ後、また背中へと帰っていく。それを何度も繰り返す。
たまらない。胸の奥がムズムズする。もっとしてほしい、と思う。
男の顔が正面に来て目線が重なった。互いの口からでた温かい吐息が絡み合い、頬に当たり、唇に当たり、その一部は口の中へ入り込んでいく。やがてその出処を求めるかのようにお互いの顔が近づいていき、ついに唇が塞がれた。
唇から伝わってくる感覚が全身へと広がり、それを快感だとはっきり感じる。お互いに唇を動かし合い、更なる快感を得ようとする。
オレは確実に女になっている。男だったときの感覚はもうほとんど無い。満たされるような気持ちで溢れ、永遠にこの時が続けば良いと思い始める。
くちゅり、と唇が離れ、お互いに見つめ合う。
「もっと……」
自然と口から漏れる。男はオレの要求に従い、また唇を塞ぐ。そして先程よりやや強い力で押し込み、マッサージをするかのように開いては閉じ、開いては閉じ、と揉み込んでいく。男の背に回したオレの手が思わずキュッと締まる。くちゅ、くちゅという濡れた粘膜同士の絡み合う合う音が何度も狭い部屋に響き渡り、いやらしさを増幅させる。
オレの後頭部を押さえる男の手にグッと力が入ったと思うと、同時に前歯に何かが当たる。無遠慮に侵入しようとしてくる存在に初めは警戒心を抱き抵抗するが、オレの意に反し体はさらなる快感を受け取ろうと、あっさりと侵入を受け入れてしまった。
にゅるりと入ってきたそれは、オレの舌の感触を確かめるように絡みつき、密着しながら少しずつ奥へ奥へと移動していく。そして最深部まで到達すると、そこからゆったりとした動きで裏側全体を舐め上げる。表側もしっかりと左右へ動きながら、オレの舌は隅々まで時間をかけ丁寧に舐め取られていく。時折、深くから吸われながら舐められると、まるで胸辺りまで入られたと錯覚してしまうその感覚は、陶酔と言ってもいいような心地良さを生み出していく。
男の舌の動きにうっとりとしていると、男は舌は動かしたまま、俺の頭は固定したまま、右手を俺の下腹部へと動かしていき、股間を覆った所で止めた。オレの陰部全体をすっぽりと包み込むように押し当てると、やがてゆっくりと動かし始めた。深くは会陰から始まり、大陰唇、小陰唇、陰核包皮まで手のひらを押し当て、陰部全体を確かめるように撫でていく。薄い布地のズボンなので刺激を思いの外強く感じてしまう。しだいにその愛撫は小陰唇に集中していき、最後は割れ目に狙いを絞り、指で少し内に入り込むくらいの力でしばらく擦り続けた。その性感はかなり強く、ジーンと響く心地よさに思わずうっとりとしてしまう。オレはここに来て陰部がずっと疼いていたことを知った。
しばらくして男は手を止め、突然クリトリスを包皮の上から指に挟み、キュッと締め付けた。
「くっ!……ん」
不意を突かれた感じになり、咄嗟に口が離れ、鋭い衝撃が全身を貫く。コリコリと包皮の上からクリトリスをしつこく刺激する。
絶え間なく下腹部から襲ってくる性感に思わず俺は体をくねらす。やがて男の指先がクリトリスの先端に伸び始め、ズボンの上から触れるか触れないのタッチで擦り始めた。断続的な刺激により次第に込み上げるものをオレは感じ始める。そしてとうとう抑えきれなくなったとき、男の爪がオレのクリトリスを弾いた。
「んはぁっ!」
大きく仰け反り、何度もガクガクと体を震わせる。膝が力が入らず男にもたれ掛かってしまう。
男が壁に手を付くよう促すと、絶頂の余韻をまだ残した中、オレはそれに素直に従う。ズボンを下まで脱がされ、下半身が露わになる。ひんやりとした感覚と内腿を伝わり落ちていく愛液をオレは無意識に感じていた。
ジッパーを下ろす音が聞こえる。少しして振り返ると、そこには大きくそそり立つ陰茎と、くっきりとエラが張り出した剥き出しの亀頭が見えた。
男は亀頭をオレの割れ目に当てると、にわかに擦り始めた。
「ふあ……あ……」
甘さのある気持ちよさと、挿入された時の想像をしてしまい、思わず声が出てしまう。とろり、とまた溢れた愛液が垂れ落ちていく。
男はゆっくりと挿入していった。入れては少し戻し、そこからまた入れては少し戻し、を繰り返す。摩擦面から充実した快感が全身へと広がっていく。Gスポットを通り抜けるときは、その鋭い刺激のために思わず体に力が入ってしまう。
そしてついに陰茎が最奥まで到達する。まるで腹の中まで入ってこられたと錯覚するその感覚は、軽く叩かれただけでも全身に響き渡る程の快感を生み出す。トンッ、トンッ、とリズム良く子宮口を突かれ、甘い痺れが断続的に呼び起こされる。しだいにこみ上げてくる物を感じ始めた。その強さは先程の比ではないことはっきり分かった。
そして、子宮口にそれまでにない程の重く力強い衝撃を感じた瞬間、オレの中で何かが弾けた。
「んああっ!うっ……ん、はあっ!」
大きな波が押し寄せ、快感が体を突き抜けていく。その力はもはや制御できるものではなく、オレの体を強引に恍惚の渦に引きずり込んでいく。
「くうっ! んっ! んっ!……」
ビクッ、ビクッと断続的に激しい痙攣が続く。体全体が絶えず揺さぶられるほどの強烈な快感は、もはや危険性さえ帯びている。自分の体が自分のものとは思えず、もう目もぼんやりとしか見えない。
「かふっ……かふっ……」
息が苦しい。しかし男はお構いなしに子宮口を突き上げ続ける。絶え間なく続く強い快感にオレの口元からはダラダラとだらしなく涎が垂れ、床へと落ちていく。
仕様がないのだ、何せ力という力が抜けきっているのだから。もはや相手の男が支えてくれないと立っていられない程だ。
しだいに男の呼吸が荒く、まるで焦っているかのようにオレの耳元にかかるようになった。挿入速度もだんだんと速くなっていく。間違いない、男は最後の瞬間へと近づこうとしている。絶対に離すまいとオレの腹を掴む男の腕にグッと力が入る。
うっ、と男が呻く。同時に挿入速度が一気に落ちていき、密着した時にオレのお尻をゆっくりと押し上げる動きに変わっていく。
――射精されている!
「はあぅ、うあ、あ……」
たまらずオレは声を上げてしまう。絶頂時とはまた違う感覚をオレは得る。体内にじんわりと広がっていくような感覚。それはとても穏やかで心地よく、体全体に染み渡っていく。
オレの体を押し上げる動きが長く続く。相当量の精液が流し込まれたはずだ。その精液が子宮口にこれでもかと浴びせられたのだと認識したとき、思わずブルッと体が震えてしまった。
それは幸福感によるものだった。
男が去り、一人残されたオレは、小さな窓から流れていく雲を見つめながらぼんやりと考えていた。大量に出された精液はあかねからこっそりと拝借したパンツにティッシュをはさむことで抑えられている。
複雑な気持ちが入り混じっている。何だかよく分からない。とりあえず腹が減った。オレは男から報酬として受け取った焼きそばパンを頬張っていると、ふとある疑問が浮かんだ。はて、オレは妊娠するのだろうか。考えてもよく分からない。なんだか難しい問題のような気がする。難しい問題はオレの性に合わない。オレは静かに立ち上がり用具室を出ていった。
お読みいただきありがとうございました