※この作品はR-18です。

白蛇の貰い子   作:名も無き呟き

4 / 5
変化

審神者の眼前に広がる、書類の山、山、山。

昨日から徹夜で一心不乱に処理をしているが、まだ半分も終わっていなかった。

 

「主、大丈夫?」

 

背後で別の山を処理していた近侍・加州清光は心配そうに声をかける。しかし、審神者からの返事はない。加州は一旦休もう、と提案しようかと思いつつ、さりとてこの量を目の前にしたままでは休まるものも休まらないだろうとも思い、仕方なく再び手を動かした。

黙々と続く作業。

続く沈黙を破ったのは、意外にも審神者の方だった。

 

「ねぇ、こんのすけ。」

 

「なんでございましょうか、審神者様?」

 

「結婚しよ」

 

「えっ」

 

審神者の耳を疑う言葉に、加州は思わず手にした書類を床にぶちまけた。

今、なんて?結婚する?主が式と?

 

「ちょっt···「何を仰りますか!審神者様!!」」

 

審神者の膝辺りから聞こえる甲高い声。論争の的である管狐···基こんのすけが口を開いたのだ。

 

「いくら疲れていらっしゃるとはいえ、そのような事を軽々しく口にしてはいけません!それに···」

 

「そうだよ主!······ってそれに?」

 

不意にこんのすけが顔をそむけた。

 

「ま、まずは文通からですよ(ポッ」

 

「何恥ずかしがってんの!?」

 

「愛いやつめーほれほれ良いではないかー」

 

「あーれー···///」

 

「主の声が棒読み!?てか元々裸だよね!?」

 

「ヨイデハナイカーヨイデハナイカー」

 

「キャッ///審神者様のえっち···///」

 

「なんか発情し始めたよこの狐!!てか主!正気に戻ってよ!!」

 

全く焦点の合わない目で先程のセリフを繰り返す審神者に、何故か恥じらう管狐。解決しようのない空間の中、耐えられなくなった加州は本丸中に響く声で叫んだ。

 

「山姥切〜!!薬研〜!!!早く来てー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大将···俺、アレだけ無理はするなって言ったよな?」

 

「えっと、その、あのぉ···」

 

「アンタ、この前約束したよな?おかしくなる前に休憩するって。」

 

「そ、そそそんな約束s」

 

「したぜ、大将。まさか覚 え て な い訳じゃぁないよな^ ^」

 

「ハイ、オボエテマス···」

 

満面の笑みを湛えた初期刀&初鍛刀が、過労で倒れた審神者の傍で約束を破った事を優しく窘める。内心冷や汗ダラダラの審神者は片言になりながらも、救いを求める視線を周りに送る。しかし、集まった面子はにこりと笑うだけで同情の余地もなかった。

 

「なら、かねてからの約束通り担当へ直訴だな。兄弟、あれを。」

 

「えっちょ待っt」

 

「はい!主さんの端末ですよ、兄さん。」

 

「薬研。」

 

「ああ。···"主が倒れた為、俺達が介護をしています。これ以上無理な書類を渡すようなら神隠しも辞さないby備前国審神者佳月刀剣男士一同"と。これでいいか?」

 

「全然y」

 

「完璧ですね。早速送りましょう。」

 

「長谷部ぇぇぇ···」

 

最後の砦(長谷部)すら休養を強制し、起き上がろうとする佳月を両側から前平コンビが優しく床へ戻す。三人ともとてもにこやかな顔だった。

 

「前田ー···平野ー···」

 

「ダメですよ、主君。疲れた時はしっかり養生なさって下さい。」

 

「身の回りのことは僕達にお任せ下さい。」

 

「うー···」

 

古参達の見事な連携に流石の佳月も抵抗を諦め、渋々布団の中で大人しく横になる。どうやって逃げ出そうかな〜、と考えつつじわじわと意識を奪っていく眠気に負けそうになるが、その瞬間政府からの来訪を告げるベルが鳴った。

 

「俺が見てきます。···どうぞ、主は御休みになられて下さい。」

 

「チッ」

 

「おいおい、大将。そんな顔したらせっかくの別嬪さんが台無しだぞ?」

 

「うぇっ!?や、薬研そういうのはやめてって前に···」

 

「ん?"そういうの"ってのはなんだ?たーいしょ。」

 

「そういうのはそういうの!///···からかわないでってこ······」

 

「そいつァ心外だな、大将。今も昔も、可愛いと思ってるぜ···?そうやって、すーぐ真っ赤になる所とかな。」

 

「···///」

 

ゆでダコのように真っ赤になる佳月とニヤつく薬研藤四郎。その近くでやれやれと首を振る山姥切と微笑ましい目で見つめる前平コンビ。······そして、その後ろで気まずそうに中を伺う長谷部と政府役人。

 

「···え、あっ!?どどどどうぞ、入ってください!」

 

顔を更に赤くしつつも、慌てて二人の入室を促す佳月。長谷部は無表情で、役人はやれやれと言った感じで佳月の傍に座る。先に口を開いたのは役人だった。

 

「···まぁ、別に刀剣男士との恋愛は御法度では無いからな。薬研藤四郎と"そういう"関係なら甘い時間を邪魔して悪かったな。」

 

「ち、違います!!全然薬研とはそういうんじゃなくて、ただ、その、初期から一緒に居たってだけなんです!!!」

 

「そうなのか?てっきり付き合ってるものだと俺は思っていたが···」

 

「ちょっ、変なこと言わないでよ山姥切!私は······」

 

「まあまあ、そう照れんなって大将。俺はわかってるからよ。」

 

「薬研は黙ってて!」

 

「···まあ、その······なんだ。俺もそんなに経験がある訳じゃないが、恋愛は素直になった方が良いぞ。」

 

「役人さんまで!」

 

味方をくれ!と騒ぐ佳月と、ニヤつく薬研、山姥切、役人。前平コンビは相変わらず微笑ましいものを見るような表情で、長谷部に至っては最早顔から全ての表情が消え去っていた。一名(一振?)を覗いて和やかになった室内で、ふっと役人は真面目な表情になった。

 

「空気も砕けたところで、だ。お前からのメールはあの馬鹿のパソコンにしっかりと送られた。」

 

「······ええー。」

 

「案の定ブチ切れて大暴れしやがってな······しょうがないから(物理的に)寝かせてやった。」

 

「それは本当に申し訳ないことを······」

 

「いや、申し訳ないのはこっちだ。あんな問題のある職員を今までずっと担当に就けていて悪かったな。今日限りで彼奴は降格、且つ研修館に送り込んだ。まぁ、数年は出てこられないだろうよ。」

 

「そうなんですか······あ、今度の担当さんはどうなるんですか?」

 

「俺だ」

 

「へ?」

 

しれっと言う役人に、間抜けな声を出す佳月。役人はニッと笑い、己を指さしながら同じ言葉を繰り返した。

 

「だから、俺だ。謝罪と挨拶を兼ねて此処に来させて貰ったんだよ。」

 

「·········えええぇぇっ!?貴方が!!?」

 

「ああ。嫌か?」

 

「嫌という訳ではないですが···なんでです?」

 

「ここ最近お前と関わって真面目な奴ってのがわかったし、翠咲の事もあるしな。どうやら、俺が妥当だと思われたらしい。」

 

「へええ···。では、よろしくお願いします。」

 

「こちらこそよろしく。···あ、俺の事は"在我"と呼んでくれ。担当さんだとなんだか背筋がゾワゾワするからな。」

 

「在我さん、ですね。わかりました。」

 

「おう。で、佳月。一つだけ言っておきたいことがあるんだが良いか?」

 

「呼び捨てなのが釈然としませんがどうぞ。」

 

「もし、翠咲の様子が急におかしくなったら一人で解決しようとするな。必ず俺の方へも連絡を寄越せ。細かいことは気にすんな。後、今はどんな感じだ?」

 

「······離れで、結界を張って出てきません。」

 

「···なら良い。いいか?くれぐれも変な気を起こすなよ?お前らも、此奴が一人でやろうとしたら止めてくれ。······多少強引な手段でも俺がなんとかしよう。」

 

「はいっ!?」

 

「わかった(りました)。」

 

最後にもう一度だけニカッと歯を見せて在我は笑い、その場を去っていった。呆然と後を見送る佳月だったものの、どうやらこれで仕事をこなさなくて済みそうである。

そうと決まればやることは一つ。

 

「主、お休みになられ···」

 

「(。- . -。)スヤァ」

 

『早っ!?』

 

古参達の心のシンクロ率が120%を越すスピードで寝付く佳月。結局二日間眠り続け、起きた時には別の意味で古参達+歌仙&燭台切に怒られるのであった······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間······ニンゲンハ要ラヌ···』

 

『···我ラノ苦シミ······我ラノ悲願···』

 

『······従ウ···我ヲ···』

 

『······愚カナ·····人間ヲ···』

 

『コノ世···全テノ人間ヲ···』

 

『殺セ···』

 

「···駄目···です···············皆様···が···」

 

『殺セ···』

 

「····元に······」

 

『殺セ···』

 

「···戻れ···なく······」

 

『殺セ···』

 

「·········なって······」

 

『···殺セ···殺セ···殺セ···殺セ·········』

 

「···しまい·········ます······」

 

何度繰り返したかわからない説得の言葉を、霞がかった意識の中で紡ぐ。もう既に視界は木目から覗いた景色の様に僅かで頼りなく、音は刀剣男士達(みなさま)の怨嗟の声しか響かない。触覚は痛みで麻痺して何も感じず、嗅覚が捕えるのは焦げ臭さと血の匂い。そして、味覚はもう存在していない。残った意識も、最早大半が蝕まれている。

――これでは、直に結界と魂檻の術を制御することも······

ゾプリ、ゴプッ···ゴポポホ·········

形容しがたい水音がして、また一段と意識が侵食されていく感覚がした。今回の闇はいつもより濃く、僅かに残った浄化の力さえ飲み込んでいく。

どうやら、私はもう死ぬらしい。

不思議と怖くはないものの、無念だった。きっと、私を引き取ったあの優しそうな人に迷惑をかけてしまう。ごめんなさい、と心の中で謝る。せめて最後くらいは誰にも迷惑をかけずに逝きたかったのに、その願いは叶いそうにない。

一際大きい闇が、私の中の"何か"をごっそりと削り取る。それは感情なのかもしれないし、記憶なのかもしれないけれど、もう何もわからなくなってきた。襲って来る眠気――のようなものに身を委ねて、意識を手放す。全てが無くなる直前、脳裏に浮かんだのは、何処かで聞いたような低い声だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。