※この作品はR-18です。

ヨハネのリトルデーモン   作:果樹 椿姫丸

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件の少女

 それからの千歌の行動は早かった。…まぁ、以前から行動力がある人だという認識はあったのだけれど、こうして目の前で見ると彼女はなるべくしてAqoursのリーダーになったのだと、そう納得せざるを得なかった。

 

「善子ちゃん、ルビィちゃんとはいつ頃から今の状態になってたの?」

 いつものバスの中。…けれどいつもよりちょっとだけ早い時間帯のバスの中で、千歌は私に問う。

「わからない。……けど、避けるようになったのは、多分一週間くらい前。…原因がわからないの……」

「そっか……」

「あっ……でも!ルビィのこと怒ったりしないであげてね!」

 確かに、あれからルビィは私のことを避け続けているし、目の前にいても無視される。…けれど、ルビィはなんだか苦しんでいるみたいで……。

 何か理由が、特に私に関して理由があるように思えた。無視したくてしてるワケじゃない、みたいな……。

 ……そう思いたいだけなのかもしれないけれど。

「どうして?」

「え?どうしてって……ルビィにもきっと何か事情があって、だから……」

「ごめんね、善子ちゃん。多分私怒るよ」

「そんな……」

 不穏な千歌の一言と共に、バスが目的地に停車する。

「勿論ルビィちゃんだけじゃなくて、善子ちゃんも」

「私も……?」

 

 

 ◇

 

 その場所―――黒澤邸はいかにもな感じの大きな屋敷で、玄関に向かうと先に着いていたダイヤが私達を出迎えた。

「いらっしゃいませ、お二人とも」

 軽くお辞儀をすると、彼女の長く艷やかな黒髪が揺れ、過剰演出と言いたくなるような冷たい横風に、更にその黒髪がなびく。

 流石三年生というか、ダイヤの立ち振る舞いはとても落ち着いていて、その姿はまさしく大和撫子そのものだった。

「今日は一段と冷えますわね」

「……はい。それで、その……」

「わかっています。…ルビィのところまで案内しますわ」

 

 

 ダイヤの案内で屋敷の中をしばらく歩くと、やがて数人が泊まれそうな和室が目に入った。

「……ルビィ?入りますわよ」

 言うより早く、ダイヤはその襖を開ける。

「おかえり、おねぇ……ちゃ」

 笑顔で迎えたはずのルビィの表情が、みるみる沈んでいく。……まぁ、分かってた反応ね。

「ルビィ、言いたいことは分かりますわね?」

「……」

 無言を肯定と捉えたのか、ダイヤはそのまま私達を部屋に取り残し、襖を閉め出ていく。

 ……え?ダイヤ残らないの?

 

「……」

「……んんっ」

「……ルビィちゃん、善子ちゃんと何があったの?」

「……ちょっ、千歌!?」

「ごめん、多分どうせ聞くことだし、それを聞くために私達ここに来たから」

「それは、そうだけど……」

 

 それからは、重苦しい時間がゆっくりと流れた。…誰も口を開かず、あまりの静けさにそれぞれの息づかいや時計の秒針が動く音、それに空調の音なんかまで聞こえてきて、静かなんだけれどイヤにうるさくて。

 ……しかし無限に続くかに思えたその時間は、ルビィの発した一言により突然終わりを告げた。

「……ごめんなさい、話せません」

「……どうして?」

「ごめんなさい……」

 私達から目を背け、ルビィは口元を押さえる。

 ……やっぱり、何かあるのね。

「ルビィちゃん、それって、私達には話せないって事なのかな?」

 それでも千歌は彼女に近づき、その両手を握る。…私は知っている。彼女から差し伸べられた手の温もりを。

 ……だから、きっと今回も、以前の私の件のように、千歌が解決してくれるって、そう思っていたのだから、私の他力本願さにはほとほと呆れる。

 

「……なんでッ!」

 

 ぱしん、と乾いた音を立て、差し伸べられた手を、ルビィの小さな手が撥ね退ける。それは、にわかには信じられない光景で……。

「なんでよりにもよって千歌ちゃんと善子ちゃんなんですか!」

 だからもう、私の頭は現状を捉えることなんて出来なくて。

「話せるわけないじゃないですか!」

 屋敷じゅうに響き渡るほどの大きな声で、ルビィは叫ぶ。よく見ると彼女の目には大粒の涙が浮かんでいて、けれど今の私にはそれを拭う権利など与えられていなかった。

「……落ち着いて、ルビィちゃん?…どうしたの、もしかして善子ちゃんのこと嫌いになってたりなんか―――」

「……帰って下さい」

 氷のように冷たく、静かな声でルビィは言い放つ。

 

 先程のルビィの声に驚いたのか、ダイヤがばたばたと音を立てて部屋に入ってきた。

「どうしましたの!?」

「んーん、なんでもないよ。おねぇちゃん」

 ルビィは笑う。

 ……なんで、またそんな笑い方するのよ。

「でも、ルビィ……」

「千歌ちゃん、善子ちゃん。……今日はもう帰って下さい」

「……ルビィ、一つだけ聞かせてもらっても良い?」

「……」

「誰にだったらワケを話せたの……?」

「……」

 ルビィは何も言わず、代わりに薄く笑う。

 よく見るとその目元は赤く腫れていて、きっと私達が来るより前から泣いていた事が分かって……。

「……ごめんね、善子ちゃん。…私、まだ信じていたいんだ」

「……なんの事よ……?」

 

 ルビィは、また答えをくれなかった。

 代わりにくれたのは、絶望する先輩の姿と、それから自身の無力さを呪う自分の姿で。

 ……今回の事から、この問題はこれまでのように千歌一人でどうにか出来るような、そんな小さなモノではなくなっているのだと、そう実感せざるを得ないのだった。




たーのしいいいい!
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