その気持ちに気付いたのは、私がスクールアイドルを始めるよりもずっと前―――多分、中学生の頃だった。
「千歌ちゃん……」
私―――渡辺曜と千歌ちゃんは幼馴染で、学校もずっと一緒。まさか高校まで一緒になるなんて、昔は想像出来なかったけれど……。
でも、ずっと一緒だったから、だから彼女のことが大好きなのは当たり前だって、昔はそう思ってた。
「大丈夫、千歌ちゃん?」
「ふぇ?あぁ、うん…大丈夫、大丈夫……」
でも、部活を一緒にやれなくて、一人の時間が増えてからは、私はすぐに自分の気持ちに気付いた。
「―――この前のルビィちゃんのこと?」
「え?」
……それとも、梨子ちゃんのことを考えてたのかな?
と、その言葉は胸に仕舞い込み、私はいつもの笑顔で言葉を紡ぐ。
「……ごめんね、実は少し善子ちゃんから聞いてて」
「そう……だったんだ」
視線を落とすと、千歌ちゃんは席に座る。ぎぃっ、という床を擦る音が、二人きりの教室に響き渡った。
「うん、あれから善子ちゃんもあんまり部活に顔出さなくなっちゃったし、梨子ちゃんとルビィちゃんも相変わらずだし。……私、もう色々わかんなくなっちゃった」
「千歌ちゃん……」
「ルビィちゃんに会いに行った時ね、私……なんにも出来なかった。私ならどうにか出来るって勘違いしちゃってたんだ。……でも、実際は違ってて、ただそこにいただけだった…なんにも、出来なかった……」
「ルビィちゃんは……なんて言ってたの?」
「え?……確か、「なんでよりにもよってこの二人なんですか」とかなんとか。……善子ちゃんには、「まだ信じていたい」って言ってたよ。言葉の意味は分からないけど……」
「なるほどね……」
"まだ信じていたい"か……。あの日あの場所で千歌ちゃんに事実を話していたらどうなっていたのか考えるに…そういうことか。
「ルビィちゃんらしいや」
話を戻そう。
私は千歌ちゃんの事を、恋愛の対象として好きだって、その事実を知りつつもその気持ちをずっと押し殺してきた。…私にとっては今の関係も幸せで、大切で……この気持ちを打ち明け今の関係が壊れるのが怖かったから。
でも、もうそんな毎日ともさよならだ。
「?……曜ちゃん?」
「千歌ちゃん、私今からすごい事言うけど、落ち着いて聞いててくれる?」
全てが終わったら、自らを犠牲にチャンスをくれた彼女を強く抱きしめよう。…そう胸に決め、私は初めての告白をするのだった。
◇
「………で、なんでこの重要な場面で私達にバトンタッチしてるの?」
「今まで全然話に関わってきませんでしたから、その埋め合わせでは?」
「……あ、ダイヤそこのアイテム拾ってて。次のステージで使うから。―――メタな発言はぶっぶーでーす!」
夜。今日も今日とて人数不足から練習が出来ず、明日明後日は各々休むように決まった事もあり、私達三年生三人組は、私―――松浦果南の家でくつろいでいた。
「本当はダイヤの家が良かったんだけどな〜」
言って、私はぼうっ、と二人がやっている古いゲームの画面を覗く。
「……仕方がありませんわ、家にはルビィがいますから」
「……様子は相変わらずなの?」
ゲームの画面を見据えたままで、金髪の少女―――小原鞠莉はダイヤに訊ねる。ゲーム中なのでその表情を読み取る事は出来なかったけれど、彼女も私や他の皆と同じようにルビィを心配しているようだった。
「はい。……先日千歌さんがいらっしゃいましたが、それでも相変わらずで……」
「……善子とかも、全然練習来ないよね。…何も私達に出来る事はないのかな?」
「まぁ、しばらくすれば元のグループの雰囲気に戻れるんじゃない?……あんまり最上級生が出しゃばるのも良くないよ。……多分梨子もそういうの苦手だと思うわ」
「うん、そうd……待ってダイヤ、今の聞いた?」
「はい」
私の問いに、ダイヤは首肯する。その動きに合わせ、彼女の艷やかな黒髪が揺れた。
「ねぇ、鞠莉。今私達、梨子の話なんてしてなかったよね?」
「あっ」
「鞠莉〜?」
「何も知らないヨ?私日本語ワカラナイネ」
「……訴えるよ」
「おおぅ……ウェイト、ウエェイト。果南、あんまり怒るとシワが増えるよ?」
「いいから話して。怒らないから」
「もう怒ってるじゃない!」
「……全部話してくれたらハグしてあげるから」
「は、ハグになんか、ハグになんか……絶対に負けないんだから!」
◇
「……やっぱりハグには勝てなかったよ」
『ハグ?なんの話ですか?』
「あぁ、いやごめんねこっちの話。……それで、梨子はどうなの?そろそろ決着つけないと…皆心配してるわよ?」
『それなんですけど、この間二人きりになった時も当たり障りのない会話ばかりで……でも、今度は全部打ち明けるつもりです。"あの子"にも、無理矢理にでも協力を仰ぎますよ』
「そう……あんまり時間を掛けすぎないようにね?…それじゃ、良い結果になるよう祈ってるわ」
『はい、それじゃあそろそろ…おやすみなさい』
「おやすみ」
ワシじゃよ