「もしかしたらと思ってたけど、やっぱり三人一緒になったね」
なんとも微妙な表情をしながら、ルビィは私の横にちょこん、と座る。両手に花というか何というか…私が曜さんと彼女の間に挟まれる形だ。
「…そっか、曜さんとはもう今日一緒に打ち合わせをする約束をしてたのよね」
「あっ、もう曜さんから話聞いてたんだね。…そうなんだよ、だから今日は善子ちゃんと途中まで一緒に帰れるかもって思ってたのに、急に善子ちゃんがいなくなっちゃったから…」
少し怒ったようにぷくっ、と頬を膨らませ、ルビィはこちらをじとーっ、と見つめる。…正直迫力は全くないし、ただ可愛いだけだなぁ、と思う。
「…それは本当にごめん。ちょっと急いでたから」
「何をそんなに急いでたの?」
「えっと、それは…」
「……それ。私も気になるよ。善子ちゃんが部活休んだ理由、まだ聞いてなかったよね?」
当然の如く助け舟はなく、曜さんはルビィに続けて私を問い詰める。
教室では「用事」とテキトーな理由をつけてあの場を何とか凌げたのだけれど、今回は少し分が悪い。何せ、用事があるという事以外、何も帰る理由を用意していなかったのだから。
「今日は、用事が…」
「それはもうルビィ聞いたよ。ルビィが聞きたいのは、その用事の内容のことだよ。…話せない理由があるなら、仕方ないけどね」
言いながら、ルビィは悲しそうに目を伏せる。
……ズルいわよ、これじゃあ話さざるを得ないじゃない。
「その……」
……けれど、馬鹿正直に今朝起きたことを話しても、きっと二人は信じてくれない。…何かに悪い影響でも受けたんだと
「ごめんなさい、ルビィ」
私の言葉に、ルビィがそらしていた視線をこちらに向ける。彼女の人となりを表したかのような、汚れのないエメラルドグリーンの
「そっか……」
「あぁっ、違うのよルビィ!」
ここで私が取るべき選択肢は、恐らくこの場はテキトーに誤魔化して一旦帰宅することだ。……けれど、彼女の純真無垢な目は、裏切りたくない。…ルビィや花丸は私の友達だ、親友だとも思ってる。
それに、一度はあの場から逃げてしまったけれど、こうして目の前で友達が悲しんでいるのを黙って見ていられるほど、私は人でなしではない。
「ここじゃ話せないことなの。…だから、その……曜さん?」
「えっ、私!?」
「その……私も曜さんの家にお邪魔させてください」
◇
「お邪魔しまーす」
「どうぞどうぞ、大したものも出せませんが」
私とルビィの二人が家の敷居を跨いだことを確認すると、曜さんは家の鍵を閉める。中から何も反応がないあたり、ご両親は今日不在のようだ。
「そういえば善子ちゃん、用事は良かったの?ここにいたら用事済ませれないんじゃ…」
少し申し訳なさそうな様子で、曜さんは言葉を紡ぐ。
「いいんです。……そもそも、あの「用事」っていうのは、あの場を離れるための方便でしかなかったし」
「……」
「曜さん?」
「……いや、善子ちゃんって、結構普通にしてれば日本語が堪能というか、語彙力高いし、振る舞いも少しお淑やかな感じだし、すぐにでも善子ちゃんが言うところのリア充になれるんじゃないかなー、って」
「う……うるさいわよッ!」
それから、私とルビィの二人は曜さんの案内で彼女の部屋にお邪魔することになった。
「ごめんね、散らかってて」
「いいじゃない、凄く綺麗よ」
「ルビィもそう思う。…ルビィ、すぐにアイドルのグッズで部屋散らかしちゃうから、その度にお姉ちゃんに片付けてもらってるし」
「……そこは自分で片付けなさいよ」
前から思ってたけど、ダイヤは少し…いや、かなり妹を甘やかし過ぎてるんじゃない?
「―――っと、二人とも少し待っててね、ジュースとか取ってくるよ!」
言うより早く、曜さんはそさくさと部屋を出ていき、バタバタと音を立て階段を下りていく。期せずして二人きりになってしまった形だ。
「……その、ルビィ?」
「なに?」
「……今日、部活行かなかった理由なんだけど」
「うん」
真剣な表情で、ルビィはこちらを見据える。
「……何言っても、笑わない?」
「……保証は出来ないけど、馬鹿にしたりはしないよ」
「……本当に?」
「うん、そんな泣きそうな顔で言われたら、馬鹿になんか出来ないよ」
「誰も泣きそうになんか……」
正直、否定出来ないけど。
「それで、その、理由なんだけど……その、生えてて」
「はえ……んん?善子ちゃん、夜中にお菓子でも食べすぎたんじゃないの?」
お菓子?なんでおか……あぁ。
「違うわよ、虫歯じゃなくて」
「じゃあ……何が生えてたの?」
「それは、その……」
まるで見当もつかないとでも言うように、ルビィは首を傾げる。その動作とともに、彼女のツインテールが小さく揺れた。
「えっと……ルビィ、ちょっとこっち来て」
「?」
「その……ごめん、口に出して言いにくいのよ。…私のスカートの中、触ってみて?」
「えっ?えぇっ!?なんで??」
驚きの表情とともに、ルビィは半歩後ずさる。狙ってやっているわけではないのだが、今日一日だけでも色々なルビィの表情を見ることが出来た気がする。
「いいから!私だって恥ずかしいのよ!」
「で、でも何で!?」
「今は黙って言うこと聞いて!―――あっ」
そのまま無理やり彼女の手を私の下半身に触れさせようとしたその瞬間、抵抗していたルビィがバランスを崩し、床に倒れる。当然支えを失った私も共に倒れ、彼女の上に覆いかぶさってしまった。
「いたた……ごめん、ルビィ…痛かったよね?」
「ううん、私はだいじょ―――あ」
受け答えようとしていたルビィの言葉が途中で切れ、見る見る表情が青ざめていく。
?後ろに何かあるのだろうか?
「どうしたのよ……あ」
彼女の視線の先へ体を向けると、そこには、ボトル入りのお茶とコップを両手に抱えたまま凍りついている先輩の姿があった。
「……」
無言のまま、先輩―――曜さんはお茶とコップをテーブルの上に置く。
「……曜さん、これはその……違うのよ…違うんです」
私の言葉に特に反応を示さず、曜さんはそのまま部屋を出ていこうとする。
「ごめんね、二人とも!ちょっとお菓子とか足りないし、飲み物もお茶しかないから、先輩買ってくるね!」
「ちょっ、曜さん!?…って足速ッ!?」
私の声は届くことなく、曜さんはそのまま渡辺邸を後にしたのだった……。
実は善子って運動神経良かったりするんですけど、流石に曜ちゃんのダッシュには勝てなそう。
あっ、皆さんお察しの通り次回以降はほんとに18禁な感じになると思います。