本当のはじまり
「お邪魔しましたぁ」
「また来るわ」
「じゃあね、二人とも」
軽く手を振り、ルビィと善子ちゃんの二人は一つ上の先輩―――渡辺曜さんの家を後にする。曜さんはとても"優しく"て、後輩思いな素敵な女性で、ルビィの憧れるアイドルのうちの一人だ。
「なんか……大変なことしちゃったわね。色々…」
曜さんの姿が見えなくなったのを良いことに、善子ちゃんはそんな事を言い出す。街灯に照らされ、その頬が上気してるのを確認出来た。
「本当にね」
「……嫌じゃなかった?」
「まさか。…頑張ってる善子ちゃん可愛かったよ?」
「うぅ……」
ぷしゅう、と音を立て、善子ちゃんはスクールバッグに顔を埋める。
今日一日で色々な表情の善子ちゃんを見れたのは大きな収穫だし、愛しいと思う。…善子ちゃんは本当に"善い"子で、だから皆から愛されているんだとも思った。
「可愛いよ、善子ちゃん♪」
「あぁーっ、そういうのは屋内でだけにしてよ!」
両手をぶんぶん回し、善子ちゃんはルビィに猛抗議する。その動きに合わせて覗かせる彼女の八重歯はその可愛らしさを増長させ―――
「―――」
考えるよりも早く、ルビィは善子ちゃんに唇を重ねる。
「……んっ」
「ごめんね、善子ちゃんが可愛いかったから…つい」
「別に気にしないわよ。―――」
少し唇を離すのもつかの間、善子ちゃんはルビィのあごをくいっ、と持ち上げ、再度唇を重ねる。…善子ちゃんそのキス好きなんだね。
「―――」
唇と唇を重ねるだけのキスは、曜さんの部屋でしたことに比べればそこまで情熱的な行為ではなかったけれど、平日の夜、閑静な屋外でするキスには独特の緊張感があって、心臓が激しく鼓動を打っているのが自分でも分かった。
「―――フフ、ルビィ、顔真っ赤ね」
「……よ、善子ちゃんだって!」
善子ちゃんは得意気に微笑みながらも、真っ赤に染まった顔を隠すことも出来ずにいて、その様子にルビィも自然と笑みがこぼれる。
多分、ルビィは今幸せだ。善子ちゃんと楽しくお喋りして、キスとかしちゃって、お互いに顔を真っ赤に染めたりなんかもしちゃって。
この時間が、ずぅっと続けば良いのになぁ。
「………善子ちゃん?」
「なによ、急に真剣な表情で」
「ルビィ、曜さんの家に"忘れ物"しちゃった。軽くでも衣装の話しないとだし、取りに行ってくるね!」
「えぇっ、今から!?」
「うん、だから善子ちゃんは先に帰ってて。…どうせそこの分かれ道で別々になるんだし!」
「……まぁ、それもそうね。…それじゃあルビィ、あんまり遅くなりすぎないようにね?」
「うん!」
会話もそこそこに、ルビィは曜さんの家に向かって歩きだす。この忘れ物は、今解消しておかなければ後悔すると思ったから。
「もしもし、おねぇちゃん?……うん。……うん、ごめんね。今日はもしかしたら家に帰れないかも。……もうっ、心配しすぎだってば。……大丈夫だよ、曜さんも一緒だから」
◇
「……あれ、ルビィちゃん!?」
「こんばんは、曜さん。さっきぶりですね」
「…そうだね。……それにしてもどうしたの?もしかして忘れ物?」
「忘れ物……そうですね、忘れ物といえば忘れ物ですね」
ルビィは半歩近づき、曜さんの両手を握る。季節のせいか彼女の両手は冷えていて、そのきめ細かい肌はスベスベして気持ち良かった。
動揺する曜さんの視線が、ルビィの視線と交わる。
「……ルビィ、知ってるんですよ?」
「……なっ…何を?」
手のひら越しに曜さんが緊張してるのが伝わってくる。…本当に分かりやすくて、可愛い先輩だと思った。
「曜さん、ずうぅっと、ルビィたちのこと見てましたよね?」
小さく悲鳴をあげ、曜さんはルビィの手を払う。
「……それも見てただけじゃなくて、動画まで撮ってた。ですよね?」
「…や、ち、ちが……」
がちがちと歯を鳴らし、曜さんは半歩後ずさる。
「……撮ってましたよね?」
「う―――」
「なんでそんなに震えてるんですか?汗もひどいです、こんなに今日は冷えるのに」
言いながら、ルビィは曜さんの頬に手を添える。善子ちゃんの逆とでも言うべきか、曜さんの顔は青ざめていて、体もひどく冷えていた。
「……本当に、ルビィちゃん…なの?」
「?……それはどういう意味ですか?ルビィはルビィですよ?」
「いや、そうじゃなくって―――」
「……曜さん、そんなに怖がらないでください。今は二人きりで、ここには誰もいません。…それに曜さんは例の動画を持っていて、多分ルビィじゃ曜さんに力で勝つことは出来ません」
「?……何が、言いたいの?」
ようやく落ち着いたのか、曜さんはキョトンとした表情でこちらを見据える。…怖がらせるつもりなんてなかったんだけどなぁ。
「……曜さん。ルビィと善子ちゃんが"あんな事"してる所を動画に収めて、ルビィに、いや―――ルビィ達に何をさせるつもりだったんですかぁ?」
「……る、ルビィちゃんこそ、今は家にパパ達いないのに、そんな話を私にして、どういうつもりなのかなぁ?」
「……質問してるのはルビィですよ?…ほら、今ならその動画のせいにして、ルビィになんでも―――」
言いかけて、ルビィの体が拘束される。…それは凄いスピードで、だから、ルビィは曜さんに抱きしめられているのだと気付くのに少し遅れた。
「……曜さん?」
……苦しい。明らかに善子ちゃんと違う大きさの柔らかいものが当たってる。
「……最初に誘ったのはルビィちゃんだからね!」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で、曜さんは警告…のような事をする。その顔は先程までと違い赤く健康的な色になっていて、上着越しでも体が温まっているのが分かった。
「……曜さんのそういうところ、嫌いじゃないですよ」
へんたい良く出来ました。
盛り上がってきたんだヨーソローなぁ!
やっぱり曜ちゃんの家をラブホ代わりに使わせるだけでは勿体無い!ということでちゃんと曜ちゃんが話に絡んできます。
結局話少し長くなりそうだけど、どうか皆さん見捨てないで次回以降も読んで下さい。
現場からは以上です、おわきぃでした。