少し時間は過ぎて…日曜日の朝。
あの後、曜さんと一日じゅうお互いの体を貪るように求めあった……かと言われるとそんなこともなく。
当初の目的であった『次のライブで使用する衣装』についてしばらく話し合い、とりあえずの結論が出たところで曜さんの家を後にした。…まぁ、一度も"そういうこと"がなかったかといえば、ないこともなくって、でも今度は優しく、曜さんはちゃんとルビィのことを見てくれた。
ルビィは千歌さんの代わりでしかないんだろうけど。…それでも、ルビィのことをちゃんと見て、包み込むように優しく体を重ねてくれた事は、素直に嬉しかった。
「ごめん、ルビィ!…待った?」
と、息を切らしながら駆けてきたのは、先日"色々"あって少し仲良くなった友達の善子ちゃん。その艷やかな藍色の髪は、比較的多くの人が行き交うこのデパートの中でも一際目を引き、間近で見ることでよく分かる彼女の目鼻立ちの良さに、ルビィは少しドキッとした。
「んーん、全然」
本当は少し待ってたけどね。
「……ねぇルビィ。本当に買うの?」
「善子ちゃんが一人で来るのが怖いって言うからついて来てあげたんだよ?」
「むうぅ……」
ルビィ達はまず最初に、今回の最大の目的である"ある物"を調達すべく、下着コーナーへと立ち寄っていた。
「でも、でもね、ルビィ……」
「はよ」
……とは言っても、ここは女性用の下着コーナーではなく、男性向けの下着のコーナーである。
…まぁ、その……善子ちゃんの下半身の都合上、"ソレ"に相応しい下着を身につけるべきだろう、という結論に至ったワケで……。
「別に店員さんは何とも思わないって。…それに、今のままだと善子ちゃん、"大変"でしょ?」
言って、ルビィは善子ちゃんの手を握る。…あの大きなものが女性用の可愛らしい下着の中に納められているのは、正直可哀想だと思う。
「それはそうだけど……」
「サイズは分かってるし、買うものも決まったんだから早く買っておいでよ!…それともルビィが一緒じゃないと心細い?」
「うぅ〜…。良いわよっ!買ってくれば良いんでしょっ、もう!」
少し顔を紅潮させて、善子ちゃんはレジへ向かって駆けていく。
……その後、善子ちゃんが更に顔を赤くして戻ってきた事は、想像に難くない…よね?
◇
またまた時間は過ぎて、ついでに場所も移して今は善子ちゃんの部屋。ご両親は今日は外出していて、帰るのは遅くになるらしい。
「善子ちゃーん、終わったー?」
「待って、もう少し…」
そんな二人きりのルビィ達は何をしているのかと言えば、例の男性向けの下着の着心地を確認しようとしていた。…勿論、善子ちゃんが。
「おっ!……おおっ!?」
「善子ちゃん!?」
突然の素っ頓狂な善子ちゃんの声に、ルビィは思わず後ろの善子ちゃんの方を振り向く。
そこに在ったのは、ゆったりとしたボクサーショーツのパンツを履いた善子ちゃんの姿だった。…あぁ、やっぱり股間のところがゆったりしてるんだね。
「おお……なんか凄いね」
「いや、ほんと……凄い…これ。下着の力って凄い」
「着心地良いの?」
「良いなんてもんじゃ……ほんと凄いわよこれ?空飛んでるっていうか……」
「うっそでしょ」
「……履いてみる?」
「ルビィはいいかなー」
「……そう」
とりあえず、まぁ……このパンツだけじゃなくてトランクスも買ってて正解だった。部屋着ならともかくとして、部活の練習中なんかだと使えなそうだし。
◇
そんな感じで、文章化したところで特になんの面白みもない平和な日々が過ぎていった、勿論善子ちゃんのおちんちん問題も解決していないそんなある日、事件は起きた。
「ルビィちゃーん、起きてるー?」
「ん……」
ひどく眠い。頭がぼーっとする。
「ルビィちゃん?」
誰かがルビィを呼んでる。
それだけは理解出来て、けれど、それ以外何も分からない。…ここは、どこ……?ルビィを呼ぶのは誰……?
眠いなぁ……。
「……少し入れすぎたかしら」
入れすぎ……?何の話かな……?
「……まぁ、これを見れば少しは素直になるよね?うふふっ♪」
素直に……?何だろ、すごく上品な笑い方をする人だなぁ。とてもこの地域の人じゃないみたいな―――。
「り、こ…ちゃん……?」
ようやく動かせた口は何だか重くて、上手く言葉を発せれなかった。…すごく体がダルいや。
「あぁっ♪やっと私の名前呼んでくれた!」
何でそんなに嬉しそうなの?梨子ちゃんは大げさだなぁ。
「あ……れ………?」
「梨子ちゃん助けて、凄く体が重いんだ」と、そう伝えようとしたその瞬間、徐々に感覚を取り戻しつつあるルビィの体は、自分の体以外が原因で体を上手く動かせない事に気付いた。
「うふふっ、悪く思わないでね♪…それは必要な物だから」
ルビィの全身は、それ―――縄でキツく縛られていて、芋虫みたいになっていた。
……待って。あれ?ルビィがおかしいのかな?何で?
「何を……言ってるの……?」
「面倒を起こされると困るの。……分かるよね?」
梨子ちゃん、何言ってるの……?ルビィには、梨子ちゃんの言ってること、分からないよ……。何で……
「何で、こんな事するの……?」
「さぁ?……とにかくさ、ルビィちゃんこの動画見てよ!とっても面白いから!」
動画?………何、を……。
それは、ルビィの倦怠感を吹き飛ばすには十分すぎる映像だった。
「止めて……ください………ッ!」
「うふふっ、ダメよルビィちゃん♪貴女は最後までこの動画を見ないと……」
「ふざけてるんですかッ!」
それは、その映像は………あの日、曜さんの家でルビィが善子ちゃんと共に体を重ねた様子を記録したものだった。
「ふざけてなんかいないわ、私は真剣よ。……ほら、時間はまだ一時間近くも余ってるわ。貴女は全部を見なきゃいけないの」
梨子ちゃんの言うとおり、ルビィは行為が終わるその瞬間まで、その映像を見続けた。…いや、目を逸らす度に梨子ちゃんはルビィの頭を掴んで無理やり映像を見せたのだから、見せられたというのが正しい表現かもしれないけれど。
正直、映像を見せられた理由はよく分からない。…けど、ルビィはその映像を見たことで得体の知れない罪悪感のようなものを抱いた。……何か、自分が穢らわしい行いをした、みたいな……。
「ルビィちゃん」
「はい……」
「私達、スクールアイドルよね?」
「はい……」
「ルビィちゃんの知ってるアイドルは、グループ内でこんな事をするのかしら?」
ルビィよりも濃くて暗い赤髪を揺らし、梨子ちゃんはベッドの上を這ってくる。…その目はルビィのよく知ってる梨子ちゃんのソレとは違い据わっていて、その瞳には光一つなかった。
「しないよ、でも……」
「でも……なに?」
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの?……それに、謝るなら私にじゃなくて、別の人に謝るべきだよね?」
別の、人……?
「善子ちゃんに……?」
「そうそう。ルビィちゃんは頭がいいのね♪」
言いながら、梨子ちゃんはルビィの頭を撫でる。…けれど、その目は据わったままで、その指はひどく冷たくて、とても生きた人間とは思えなかった。
「でもね、実はルビィちゃんは謝らなくて良いかもしれないのよ?」
「どういうこと……?」
「ルビィちゃんは善子ちゃんに悪いことをしたって思ってるんでしょ?……でもね、うふふ♪逆もまた然りってね……」
「なにを、言って―――」
「この動画ね、実は可愛い後輩が送ってくれたものなんだぁ♪」
病ん病ん梨子ちゃんでしたとさ。
正直パンツの話は要らなかったけど、まぁ息抜きってことで。