私が目を覚ました時、そこは森の中だった。
霧が濃く鬱蒼とした木々の中、次に目に入るのは赤黒い物体であった。
触手。
ぬめぬめと粘液を帯びながら蠢く、常人ならば忌避感を覚えるような環境。
そこが私の生まれた故郷であった。
粘つく全身を触手が絡みつき拭っていく。
奥まった所は触手の先端から分岐した極細の触手や、人間の口を模した先を持つ触手が舌で舐めとる。
そうやって自分の身体の感覚がわかるようになった時、私の身体は所謂人間の女の身体であると理解した。
だが、自身の認識する種族は触手である。
そう、人間の姿をとっているが、一皮剥けば触手が蠢く触手人間であった。
だが、自身の思考は人間のものである。
この違和感に私は多少の時間を割き、理解に努めた。
しかし、そんな疑問はすぐに解消される事となる。
「あっ、あっ、あっ……」
まるで単純な楽器のように音を発していたのは、触手の森に捕らえられた人間達である。
男は首から上を残し、歯の生えた触手達に内側から食い破られ、耳や鼻の穴から髪の毛より細い視認できるか怪しい太さの触手が頭の中に侵入し、根を張っていた。
記憶やスキルの吸い出しの為に蠢き、反射的に動いた事で喉が震え音が鳴っていた。
女は四肢を肉の壁に取り込まれ、同じく耳から触手達は根付き情報の吸い出しと、栄養補給を行なっていた。
生かされている女の腹は大きく膨らみ、卵が孵る度に強烈な快楽という刺激を与えられ、勢いよく触手を生み出していた。
産み出された触手の赤ちゃんは、大きく膨らみ多量の母乳を生み出せるようにされた乳房へと群がり、初めての栄養補給を受けていた。
触手に膣内を突かれる度に泣き、子供が産まれては啼き、母乳を啜られては鳴いていた。
翻り私の生まれた場所を見てみると、巨木のように見える触手の群れから一本の茎が伸びていた。
肉の花と呼ぶのが相応しい4つに分かれた触手花の中心に、丁度私が丸まれば入れそうな球体が付いている。
その肉の果実は破れており、粘液が私の足元まで続いている。
そう、私は集めた人間達の記憶やスキルを備えた、触手達の子供であった。
コロニーの外で新たな巣を作る事を命じられた女王蜂の様に、私の役目はこの森を出て新たな子孫を作る事とされていたのである。
理解が追いついてしまえば、もうこの場所には留まれない。
触手達が不要だと隅に集めて捨てていた、魔物達を食い尽くした後の毛皮や骨、人間達の衣類や武具、道具に保存食の山から状態の良い物を集め、持ちきれないものは身体に取り込んでいく。
見た目成人女性重さオーク数匹以上な触手の塊である私を、身体に納めるに当たり修められていた、異次元収納の空きスペースにどんどん放り込む。
そうして発掘していったブラウスにハーフカップのコルセットスカートにフード付きローブを着る。
装飾としてガーターベルトでニーハイソックスを吊るし、太ももがちらりと覗くロングブーツを履いて、魔力伝導や耐性の性能が良いネックレスとイヤリングを着け、身の丈程の杖を持つ。
手ぶらは怪しいので毛布などを詰めたリュックを背負うと、どこからどう見てもソロの強そうな魔導士の完成である。
後は同輩の触手達が集まり作った階段を登り触手の森を越える。
すり鉢状になった生家を見下ろすと、媚薬効果の体液でできた霧で歩いてきた道は見えなくなっていた。
足元には、人や馬車が通ったように偽装している触手達がせっせと草を食み、轍を掘って踏み固めていた。
そんな仲間達や逸れた触手を狙う魔物達の気配を感じながら道を辿る。
そうしてようやく偽装では無い人の使用している気配のする道へとぶち当たった。
杖を立て、倒れた方向へ進み半日。
切り株に腰を下ろす。
そうして森の香りを吸い込む。
「うっそだろ?!おいおい!!どうなってんのこれ?!どうなっちゃったのわたしぃ!!」
私は吠えた。
がっつり異世界の人間の記憶を持ったまま、異世界の異生物になってしまった現状に対して。
そして私が生きていくには生物を、特に知的生命体である人間を快楽地獄に陥れなければならない事に対して。
加えて言うならば、ぐっちょんぐっちょんに餌となった人間達を見た感想が美味しそうだった事についても。
音を聞きつけ寄ってきた犬型の魔物を自動的に触手で突き刺し、中身を啜りながら、私は散々に吠えた。