ストレス溜まったプロデューサーがまゆを押し倒しました。

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佐久間まゆを押し倒した話

「はぁ……」

 

 椅子の背もたれに体重を預け、事務所の天井を仰ぐ。眼鏡を外し、右手の親指と人差し指で目頭を軽く揉んだが、眼の奥の鈍い痛みは取れてくれない。

 普段はあまり眼鏡を掛けていないから、どうしてもいつも以上に疲れが溜まってしまう。まともに寝ていない状態でコンタクトレンズを使うのは憚られたので、昨日の朝からは眼鏡を掛けっぱなしだ。

 俺は再び眼鏡を掛けて、パソコンの画面に向かう。画面に映っているのは、もう何度上司から突き返されたかわからない企画書のデータだ。最初のほうは上司に腹を立てていたが、いまはむしろ、自分の無能さに苛立ってしまう。

 

「あー、違う、こうじゃない」

 

 文字を打ち込んでは消して、打ち込んでは消しての繰り返し。十分な休息を取れていない脳は働きを鈍らせてしまっている。

 ふと窓の外を見ると、いつの間にか日が沈んで仄暗くなっていた。事務員のちひろさんは定時で帰ったから、それから結構な時間が経っていたらしい。

 そろそろ帰ろうかと一瞬腰を上げかけたが、やはりできるだけ今日のうちに企画書を直しておきたいと思って、再び椅子に深く座り込んだ。

 直後にドアが開く音がして、俺は画面に戻そうとした視線を、音の方へと向けた。

 

「あっ、プロデューサーさん、お疲れ様です」

 

 事務所に入ってきたのは、俺の担当アイドルのひとりだった。

 

「……まゆか、お疲れ」

 

 声を掛けると、佐久間まゆはにこりと微笑んで俺の席へ歩み寄ってきた。普段は軽く内に巻いたカールで、頭に回すようにリボンをつけている彼女だが、今日は髪を後ろで一つまとめ――いわゆるポニーテールという髪型だ――にして、それをリボンで括っている。今日は暑かったから、それでだろう。白いブラウスに薄桃色のスカートも涼しさを感じさせる。

 

「体調が良くないみたいですけど、大丈夫ですか? 目の下にくまができちゃってますよ?」

 

俺の顔を覗き込んで、まゆが言う。自覚はしていなかったが、この睡眠不足ではくまの一つや二つできるだろう。彼女の様子を見るに、どうやらかなり酷いくまらしい。

 

「まあ、ちょっと寝てないだけだから……。それよりまゆはどうして事務所に? 今日は現場から直接帰るんじゃなかったか?」

 

 確か、今日の彼女の予定だと仕事の現場に直接向かって、そのまま帰宅のはずだった。事務所にわざわざ出向いてくる必要はないはずだ。

 

「そのつもりだったんですけど、プロデューサーさんの顔が見たくなって……昨日もお会いできてませんし……」

「ああ……」

 

 しおらしい表情でまゆが言うので、俺は合点がいったという風に声を上げた。彼女なら確かに、俺に会うためだけにわざわざ事務所に寄るくらいはするだろう。

 

「やっぱり事務所に寄って正解でした。眼鏡のプロデューサーさんに会えましたから」

「まあ、普段はコンタクトだからな」

 

 幸せそうにまゆが笑う。それを直接言葉に出すことはないが、彼女が向けてくれる好意は、ときどき重く感じることはあるものの、俺としても心地よかったりする。他人に好ましく思われて悪い気はしないものだ。

 まゆのことをとても魅力的に感じることもあるけれど、俺と彼女はプロデューサーとアイドルという関係以上には決してなってはいけない。だからなるべく、彼女の中に女を見ないようにはしているのだが。

 

「何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね。まゆにできることなら、何でもしますから」

「……じゃあ、コーヒーでも淹れて貰おうかな」

 

 デスクの上に置きっぱなしだった空のマグカップをまゆに差し出す。彼女はそれを受け取って、

 

「わかりました」

「よろしく」

 

 小さく頷いて、まゆが給湯室の方に歩いていく。振り返ったときにちらりと見えた、汗で後れ毛がはりついたうなじ。普段はふわりとカールした髪で見えないそこが、今日は露わになっている。それがどうしようもなく扇情的で、俺はそこから目を逸らすようにしてパソコンの画面へ向き直った。

 少しして、まゆが湯気の立ったマグカップを手にして戻ってきた。

 

「どうぞ、コーヒーです」

「ありがと」

 

 差し出されたそれを受け取るときに、俺の指がまゆの指に触れた。カップの中の液体とは対称的にひんやりと冷たいまゆの体温を感じる。駄目だ、今日の俺はどうかしてしまっている。

 頭をぶんぶんと横に振って、受け取ったマグカップの中身を少し口に含んだ。疲れている俺のことを気遣ってくれてか、いつもよりも少し甘めに作ってくれている。

 これでもう少し頑張れる、とパソコンに向き直ったが、そういえばまゆを帰したほうが良いと思って、彼女の姿を探した。

 椅子から立ち上がりパーテーションの向こうを覗き込むと、まゆはソファに座っていつの間に淹れたのか自分のマグカップを手にしていた。

 俺はパーテーションの向こう側に回り、まゆに声を掛ける。

 

「まゆ」

「あ、プロデューサーさん。お仕事、終わりましたか?」

 

 顔を上げたまゆに、俺はかぶりを振って見せた。

 

「終わってないけど、お前はそろそろ帰ったほうが良いぞ。いまからだと、急いでも十時は回るだろ」

 

 アイドルである彼女にもしものことがあってはならない。今日は送ってやる余裕は俺にはないし、ひとりで帰ってもらうしかないから、遅くまで残すわけにはいかない。

 しかし、まゆは手を口元に当てて小首をかしげる。

 

「まゆは大丈夫ですよ? プロデューサーさんのお仕事が終わるまで待ってます」

 

 疲れのせいだろうか、いつもならこれくらいで苛立ったりはしないのに、今日はまゆの態度がカンにさわった。

 

「あのな、俺はお前のことを……」

 

 そのとき、まゆの胸元がふと目に入った。ブラウスのボタンが幾つか外されていて、ふたつの膨らみがその端を覗かせていた。

 いつもなら、正常な俺なら、それさえも意識の外に追いやれていた。まゆに女を感じることなどないはずだった。なのに今日は、駄目だった。

 どこから湧き上がったのかわからない劣情が、まゆを滅茶苦茶にしたいという衝動が、俺の中で膨らんで、抑えきれなくなった。

 

「きゃっ!」

 

 気がつけば、俺はソファの上に押し倒したまゆの上に覆いかぶさっていた。

 

「ど、どうしたんですか、プロデューサーさん?」

 

 震えた声で、まゆが尋ねる。俺はまゆが逃げられないように、彼女の顔の横に右手を置いて、言う。

 

「まゆ、さっき何でもするって言ったよな?」

「はい、言いましたけど……」

「まゆは俺のことが好きなんだろ?」

「はい……」

 

 そうだ、俺はまゆが拒めないことを知っている。空いた左手でブラウスのボタンを乱暴に外していくが、まゆは身じろぎ一つしない。ただ、紅の差した顔で俺の目を見ているだけだ。

 

「でも、人が来るかもしれませんし……」

「もう俺とまゆしか居ないよ。警備の人の見回りもまだ先だ」

 

 まゆはそれ以上何も言ってはこなかった。ブラウスのボタンが全て外れて、彼女の白い肌が外気に触れる。白いブラウス越しにも透けないようにか、下着は薄桃色のものを着けている。それによって包まれた胸のサイズを、俺はプロデューサーという立場上知っているが、こうして実際に見てみると、やはり数字とは当てにならないものだと感じる。

 胸の双丘に手を伸ばす前に、俺はまゆに最後の確認をする。絶対に断ることのできない問いかけを。

 

「な、いいだろ?」

 

 少しの逡巡のあと、まゆは小さく頷いた。

 

「……わかりました。プロデューサーさんが望むなら……」

 

 その言葉を聞いて、俺は左手でまゆの胸をブラの上から強く揉んだ。乱暴に、貪るように揉みしだいた。

 

「んっ……」

 

 感じて出た声ではないだろうことはわかる。痛みに対しての嬌声だ。

 ブラの上からでははっきりとした感触ではないが、まゆの乳房の柔らかさを左の手のひらで確かに感じた。幾らか揉んで満足すると、俺は左手を胸から離して、指先で脇腹を撫でるようにして脚の方へと持っていった。スカートの裾まで辿り着くと、端を掴んで一気にたくし上げる。

 それまでは秘されていた、ほどよい肉付きですらりと伸びた太腿と、ブラと揃えた薄桃色のショーツが露わになる。この布の下に、まゆの女の部分があるのだと思うと堪らない気持ちになった。

 まゆは微動だにせず、俺の手を受け入れている。ショーツに手を掛け、ずり下ろそうとしたときだった。

 まゆの目に涙が浮かんでいる。

 その事に気づいた。

 左手が止まる。

 

「……プロデューサーさん?」

 

 俺の手が止まったことを不思議に思ったのか、目を潤ませたまま――いや、そのことに自分では気付いていないのかもしれないが――まゆが俺の名を呼んだ。急速に俺の中の情欲が萎んでいくのを感じる。

 まゆの涙が、声が俺を我に返らせてくれた。

 大きくひとつ呼吸をして、俺はまゆのショーツから手を離して立ち上がった。

 

「悪い、まゆ。頭冷やしてくる」

 

 そう言って、そこから立ち去ろうとする。いや、逃げ出そうとした。

 

「待って!」

 

 背後から抱きつかれて、俺の足が止まった。

 

「まゆ、嫌じゃないですから。プロデューサーさんに抱かれるの、嫌じゃないです……」

 

 それが本心なのかは、わからない。少なくとも、さっきの俺には抱かれたくなかったんだろうということだけは、はっきりとしているけれど。

 

「俺はお前を泣かせたんだぞ」

 

 ただ抱くならまだしも、強引に迫って彼女を泣かせるということだけは、してはいけなかった。

 

「それは、プロデューサーさんがいつもと違ったからで……でもまゆとして、いつものプロデューサーさんに戻ってくれるならと思って……」

 

 まゆは、思っていることをそのまま口に出しているだけだった。顔は見えないけれど、泣いていることが声でわかった。

 

「まゆは、どうすればいいですか? どうすればプロデューサーさんは元気になってくれますか?」

 

 情けない男だと思った。一回り以上も年下の女の子にここまで心配させて、考えさせて、涙を流させて、俺はとても弱い人間だ。

 どうすればいいだろう。尋ねられた言葉を頭の中で繰り返す。

 ずいぶん考えて、俺はようやく口を開いた。

 

「……一時間だけ」

「はい?」

 

 腰に回されたまゆの腕をほどいて、彼女に向き直る。中腰になって、開きっぱなしだったブラウスのボタンをひとつひとつ丁寧に留めていく。

 

「一時間だけ、膝枕してくれないか? そしたら、いつもの俺に戻るからさ」

 

 それだけ寝れば、少しは元気になるだろう。まゆが帰るのが遅くなってしまうが、仮眠を取れば俺が送っていくこともできる。

 何より、まゆのことを頼りたいと思った。俺は弱いから。

 今度は正面から、まゆが俺を抱き締める。

 

「もちろんです、プロデューサーさん」




 このあと滅茶苦茶セックスした(してない)
 Pがまゆを泣かせた罪悪感はどこいった。

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