創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
挙動が急に変わるナイトシーカーを前に、ジプシーは一瞬手が止まった。だが彼女も経験を積んだダイバーである。すぐに思考を引き戻して、早急に対応する。シグルスレイヤーを振り下ろすタイミングを見計らい、隕石から伸びているワイヤーに手をかけ一気に引っ張った。
「これならどうかしら?」
ナイトシーカーが勢いを殺さぬままに突撃する。ジプシーの計算通り、隕石は大爆発を起こしナイトシーカーは火の中へと飛び込んだ。
「罠ッ....!?」
「舞夜!えぇい....!!」
リョウマはビルドレイザーを最大まで加速させ、ビルドライフルでノアールロータスを追い返した。
「お前の相手は、この俺だ!」
ビルドレイザーがビームサーベルを斜めに振り上げ、ノアールロータスの茨の鞭を寸断した。だが茨の鞭を成していた棘は、機体の周囲に漂いビルドレイザーに牙を剥いた。
「私の武器だって、一枚岩ではないのよ?」
「コイツ...!ウェポンビルドアッブ!」
棘の正体がビットだと分かり、リョウマはすかさずビルドシステムを起動した。ビルドレイザーの左腕に円筒形の装置が現れ、四方に向けて光の刃を発した。ビットが接触する刹那、ビーム刃が高速回転し、触れる物全てを真っ二つにした。ジプシーは不利を悟り、一時撤退を視野に立ち回るのを考えた。
「まさかその手を使うなんて....流石は天才」
「鞭相手には、これが有効だ」
「でしたら、もっといい舞台でも用意しましょうか...ふふっ」
ノアールロータスが右手からビームサーベルを発振させ、突然ビルドレイザーめがけ全速力でバーニアを噴きはじめた。ビルドレイザーも当然斬撃を躱し、ビルドライフルの下部にあるレアアロイ製のバヨネットで、サーベルを跳ね返そうとした。しかし。
「あなたに私を捉えられます?黒猫って....闇夜に紛れると...」
「逃しはしない!....何ッ!?」
ビームサーベルが弾け、強い光にリョウマの目が眩んだ。ビルドレイザーが勢いに押されてくるくると宙を舞い、背中に隕石が接触した。視界を取り戻したはいいが、ノアールロータスを完全に見失ってしまった。
「諒馬....私は....」
舞夜もようやく冷静さを取り戻したらしく、急いで状況の把握に努めた。
「正気に戻ってくれて助かる。奴は姿を消しただけだ....次は俺達の予想も着かない場所から来る。間違いなく、な」
「理解しています」
ビルドレイザーのレーダーに、ドラグハートとF91-Mの機影が表示された。想像以上に遅い合流にリョウマは思わず溜息が出た。
「一体何があった」
「お二人の反応探してたけど、中々見つからなくて....!」
「馬鹿な。俺達はあのポイントからそんなに離れていない」
「でも事実なんだよ。いきなりお前らの反応が消えちまって、変な方向に引き寄せられそうになるしよ」
弘はコクピットの天井から伸びるグリップを掴み、懸垂を始めた。
「しかし、機体の熱源反応すら....音波でさえも検出させないステルスとは一体...」
舞夜はモニターを隅々まで凝視し、レーダーの感度を最大まで引き上げつつ、ノアールロータスの行方を追う。
「そう言えば水崎さん...比良坂さんが同僚と言うなら、ラボの場所もきちんと教えた方がいいと思います」
F91-Mのマニピュレータをビルドレイザーの右肩に乗せ、リョウマに提案した。しかし彼の返答は、スワンの予想を裏切るものだった。
「教えても、どうせ行く事すらできないんだ....アイツは、そう言う奴だ」
リョウマの口調は重く、普段とは異なり消え入るような感じであった。
「どういう意味でしょう....?」
「君には関係のない事だ。仮に知ろうとするなら、今すぐにでも協力関係は破棄するつもりだ」
F91-Mがビルドレイザーから離れるのを認めると、リョウマは頭を垂れ両掌をじっと見つめた。舞夜との間で起きたことを思い返す度、自分のこの手が怖くて仕方が無くなる。唐突にコクピットが揺れ、視線を上げるとドラグハートが先行していくのが見えた。
「いや、今はやるべき事をやるだけだ」
ペダルをゆっくりと踏み、ビルドレイザーのスラスターを点火した。
何度も自分を呼ぶ声が聞こえ、英梨は何事かと顔を上げた。
「お客様、ここで寝られると他のお客様がご利用出来なくなる事がありますので。具合が悪いのでしたら、このすぐ近くに病院がありますが...」
「すいません....!何ともないですから!」
コンビニのイートインで昼食を摂っていたはずが、気づかぬ間に眠りこけてしまった。英梨は気まずそうに笑い、急いでコンビニを後にする。短時間ではあるが睡眠のお陰で頭はスッキリとしていた。
「あの面会からずっとこんなだわ.....何なのよ、全く....」
車を少し走らせ、公園の駐車場に停めた。シートを傾けエアコンを換気モードにして窓も開けると、トートバッグの中から煙草の箱を取りだした。
「あんなにアイツには吸うなって言ってた私が、まさかこうなるなんてね.....」
ライターで火を点け、煙草を咥え天井を眺める。幸いにも自分の車だったので、何の問題もないが自分自身の変わりようの方が大きく感じられた。JOKER事件からZeuSの終焉までを追い続けてきて、その集大成となるはずだった今日を、黒幕たる翼に簡単に潰されてしまう。その原因の一端が英梨自身の意識の変化にある事も、十分に理解していた。
「真実を世間に伝えるはずだったのに、いつしか潰そうとして復讐に置き換わってる....行けないとは分かっちゃいるけど、どうにもなんなさ過ぎ....そろそろ行こうかな」
煙草の灰を窓のエッジで叩き落とし、灰皿の中に押し込んで閉めた。時計を見ると17時を回っていた。流石に遅くなり過ぎると先方に迷惑がかかりかねなかったので、最短ルートを駆使して急行した。その行く先とは、堂夢大学だった。
「ふぅ、やっと着いた....」
車から降りた矢先、黒いダウンを着た青年に声を掛けられた。英梨はそれに気づくと、鍵を締めて彼のもとへ歩いた。
「やっ。久し振り、ユウ君....だっけ」
「半年振りですか。ですが相変わらずギリギリに連絡寄越すとは....」
「紗綾ちゃんとのデートの予定ぶった斬っちゃったとか?」
英梨が意地悪な笑みを浮かべ、言い当てようとしたが当のユウは特に取り乱す様子は見せなかった。どうやら外れのようだ。しかし。
「アイツは一足先に帰りました。と言うか、あなたは紗綾に何を教えたんです!?お陰で朝からお互い変な空気になって....!」
「あっちゃあ〜....駄目だったんだ?」
何を教えたのかは英梨の性格を考慮すれば、大体の想像がつくだろう。平静その物だったユウも、恥ずかしさ半分に何とも言えぬ表情をしていた。
「まあまあ、そうすぐに慣れるもんじゃないでしょ!えっと〜....サト君は何処に?」
「この敷地のすぐ近くに.....あぁいいや。行きましょう」
ユウは英梨を伴って、大学の近くにあるバーに入った。どうやら夕方まではカフェとしても営業しているらしく、店内は明るかった。
「こんな店があったなんてね」
「最近出来たばかり....だとか。聡、お連れしたぞ」
隅の席に座っている青年に声をかける。彼こそ、ZeuS事件に巻き込まれながらもダイバーズを救ったガンプラダイバー"エス・ブラックベイ"こと、黒浦 聡である。聡は慌ててヘッドホンをバッグに突っ込み、弾みか何か椅子から立ち上がってしまった。英梨はそれをポカンと眺めた。
「どうした....?大丈夫、サト君?」
「いや別に...ってかその呼び方はどこで知ったんですか!」
「まぁー、ジャーナリストを舐めるでないよって事なんだけどね」
今の英梨の呼び方は聡からすると、頭が痛くなりそうな程の不愉快さを与える。彼女は冗談のつもりで言っているのだと、聡も理解していたので受け流す事はできた。ユウはこれから用事があるらしく店を後にした。そして英梨は聡の向かい側の席に腰掛け、トートバッグからクリアファイルを取り出しテーブルの上に置いた。
「これ、ありがとう。お陰で次の手に進めそう」
「これはもう、教授があなたにくれてやるって言ってましたけど」
「そうは言ってもねぇ....この情報が持つ力って私じゃどうにもなんないの。SECTORですらない、本来なら存在し得ないはずの"区画"....本気で調べようとしたら、深みにハマってヤバイかもって分かったから」
「あそこで戦った俺だから言えるんですけど、アレを利用されたら、どうやったって太刀打ちできない。でも、調べようとしたって事は、まだ残ってるんですよね」
「そうよ。痕跡的な物だったらどんなに良かったかって思った。封鎖されて消えたはずなのに、いきなり蘇ってさ....解散したZeuSにダイバーズをどうこうする力はない....だったら今運営しているアーネストなんでしょうけど」
「少しはマシになったんだと思ってたんですけど、今の話を聞けば更にヤバイ事になってそうだ....」
聡は唇を噛み、眉間を押さえた。命がいくつあっても足りない、死闘の連続を乗り越えて来てようやく平穏を掴み取ったかと思えば、また別の何者かが事件を利用して、全てを無に返そうとしている。あの長き戦いには何の意味があったのか、分からなくなってしまいそうだった。
「だからあなたと門松教授から提供してもらったこれが、役に立った訳。旧ZeuSの上層部が、影でアーネストと繋がっていた事がハッキリしたから.....でも引っかかるんだよね..."ハザード"って、何か知ってる?」
英梨が資料の指差した先にある、"ハザードシステムの開発は現段階を持って中断。以後破棄された"と言う文言を見て、聡は思い出したように口を開いた。
「俺もお渡しする前に読んでて、分からなかったんですよ。でも教授はそれについての事だけは、一切教えてくれなかった...ハザード、か....」
そっか、と英梨は呟き聡の頭をひと撫でした。
「聡君の状況は私もよく知ってる。だから手伝えとは言わない。聞いてくれてありがとうね」
「流石にアレは誰でも気になりますよ。そう言えば昨日、葛城さんがサークルに来ました」
葛城と聞き、英梨はぎょっとした。
「え、アイツが来てた!?え....でも絢斗、ダイバーズには関わらないって言ってたのに....てかそんな事本人から何も聞いてないし!!」
ビルドレイザー一行は廃棄コロニーが漂う宙域に到着した。ここまで一度も敵らしき機影が確認出来ず、やはりジプシーが撤退したのではと言う見方が濃厚になりつつあった。
(何で水崎さんは、比良坂さんの事を何も教えてくれないんだろう.....普通の人じゃないの、分かってて...なのかな....)
スワンは先を行くナイトシーカーと、ビルドレイザーを交互に眺めた。初めて対面した時に聞こえた、機械の駆動音や生気を感じられぬ白い肌。比良坂 舞夜は一体何者なのか、スワンとしては内心信じられずにいた。
「のわっ!?爆弾....!?」
ドラグハートの直ぐ側の壁が爆発し、弘は咄嗟に回避行動を取らせた。幸い損傷はないが、ジプシーの所在が確実となった。間違いなく、この廃棄コロニーの何処かにいる。
「なるほど....通りでここに誘導されてきた訳だな。ウェポンビルドアップ!」
ビルドレイザーの左手に形成された、手榴弾"クラッカー"らしき武装。これにはステルスを使う相手に対し有効な機能を内包させている。リョウマはそれを何個かビルドさせ、ナイトシーカー達に投げ渡した。
「何だこりゃ」
弘はクラッカーらしき物体を前に首を傾げた。
「投げて何かにぶつかれば起動する。適当なタイミングで使っていいけど、一発しかないからよく考えて使え」
4体のMSは散り散りになって行動を開始した。スワンのF91-Mは、ナイトシーカーがぎりぎり見える位置を航行しながら索敵する。
(あの人が何者なのか分かれば....)
頭部バルカン砲で破片を砕きつつ、西へ進んでいく。その時、スワンの目に奇妙な物が映り込んだ。ビームの物とは違う、光の筋。その先へ目を遣るが、何に繋がっているのかはっきりしない。だがそれがスワンにある確証を与えた。
「間違いない....この近くだ....!」
一度その場を離れた瞬間、目の前を光が通り過ぎ瓦礫の塊を粉砕した。スワンは光弾が飛んできた方向を睨み、唾を飲んだ。
「そこッ!!」
ジェットペネトレイターのビームマシンガンをばら撒き、炙り出そうとした。外壁が崩れ爆発の炎が起こる。そして左手に持ったクラッカーを勢い良く投げつけた。球体から生えたような円筒から、更に細長いアンテナが伸び青白い光の力場を発した。
「水崎さん!見つけました!」
スワンは力場が僅かに歪む瞬間を目撃し、直ちにリョウマに通信を送った。リョウマも同時に目にしていた為、即座に対応に出た。
「ナイスだ!ウェポンビルドアップ!」
ビルドレイザーの右手にザンバスターを形成し、銃口にクラッカーを嵌め込み引き金を引いた。ザンバスターには元々、銃口にグレネードをはめ込む事で謂わばグレネードランチャーの機能を使う事ができる。これを応用して、クラッカーを放ったのだ。
「気づかれた....少し安易過ぎたかしら...!」
ジプシーは攻撃の手が迫って来ているのに、若干の驚きを覚えた。ノアールロータスは眼前の外壁破片を蹴って方向転換、ジグザクに動きながら撹乱していく。しかし、これが彼女らしからぬ迂闊な行動となってしまった。
「あれは....!?きゃあ!?」
「あ....アンタ、あの時の!?いきなり現れやがって!!」
何とあろう事か、ドラグハートに追突してしまい、その勢いのせいか反射的にノアールロータスのステルス機能を解除してしまった。これには両者ともに困惑せざるを得ず、思考が止まりかけた。そこへビルドレイザーが現れたことで、再び臨戦態勢に移った。
「今度こそ逃がさないぞ!ジプシー・ノアールッ!!」
「天才は嘘じゃないようね....!」
ビルドレイザーのザンバスターを避けつつ、ノアールロータスは鉄骨を蹴り上げて反作用で急降下する。だがビルドレイザーも素早く反応し、着地点めがけザンバスターで狙撃し風穴を空けた。
「意地でも広い所へ引きずり出そうという魂胆....見えてるわよ!....あら、少しの幸運もあったようね」
茨の鞭を振り上げてザンバスターを打ち消すと、背後から迫って来たナイトシーカーに振り向きビーム・アサルトライフルを放った。当然ナイトシーカーは、シグルスレイヤーのシールドで防ぎながら真横へ飛び退いた。
「足を止めるッ!!」
煙の中からナイトシーカーが飛び出し、巨大な手裏剣を投擲した。高速回転しながら追尾する手裏剣を、ノアールロータスはジャンプと巧みな飛び移りを利用して躱す。しかし長時間追尾する手裏剣を見たジプシーは、舌打ちをした。
「量子コントロール....!これは厄介ですね...また上から!?」
今度はF91-Mが真上に現れ、最大速度を維持したままジェットペネトレイターで突進してきた。流石のジプシーも反応しきれず、茨の鞭を薙ぎ払って追い返すしか無かった。その刹那。
「えっ!?狙撃!?」
「悪いけどビルドライフルの狙撃性能は、下手なスナイパーライフル並にはあるんだよ。頼んだぜ常岡。ウェポンビルドアップ」
正に光速。常人では避けきれない速度のビームがノアールロータスの左肩を貫いた。ビルドレイザーが構えていたのはザンバスターではなく、ビルドライフルだった。そして間髪入れずドラグハートが急速接近し、右手に装着したドリルで殴りかかる。
「あん時の仕返しだッ!!受け取れよぉ!!」
「そんな、私がやられる.....!?」
敗北が揺るがぬ物になる。そう予感した。しかしドラグハートの拳はノアールロータスの右足を粉々にしたのみで、それ以上の攻撃をしなかった。ジプシーは最早、ドラグハートをただ怯えた目で凝視するしかなかった。
「何故.....」
「そりゃアイツに聞け。俺は女を全力でぶん殴れるほど腐っちゃいねぇよ....アンタに調子狂わされた仕返しは、これで終わりにしてやる」
弘は手のひらに拳を打ち付け、昂りを抑え込みリョウマに後を任せた。
「あなたから聞かなければならない事が山程ある。出来ればこれ以上やり合いたくないんでね....よほどの馬鹿じゃないならこの状況を理解できるはずだ」
ビルドレイザーがスッと目の前に現れ、ビルドライフルの銃口をノアールロータスの頭に向けた。ナイトシーカーも背後にやって来、シグルスレイヤーの切っ先を背中に向けていた。ジプシーはもう観念しようかと言う素振りを見せた。そう、見せたのだ。レーダーに映るもう一つの反応。ジプシーは艷やかな笑みを浮かべた。
「そうね....でもここにいるのが私一人とは思わない事ね」
ジプシーの発言が嘘ではないと舞夜は察知し、レーダーを見るとかなり遠く離れた場所に、もう一つの熱源反応が見つかり、奥歯を噛んだ。
「諒馬!熱源反応がもう一つ!高出力ビーム、来ます!!」
「何だって.....最悪だ....!皆避けろ!」
スパークを纏った、メガ粒子の濁流が押し寄せて来た。ビルドレイザー達は緊急離脱して難を逃れるが、廃棄コロニーは一瞬にして呑み込まれ綺麗に半分ほどが消え去ってしまった。
[次 回 予 告]
突如襲いかかってきた砲撃により、ジプシーを取り逃がしてしまったリョウマ。行方など到底分かるはずもなく、現実世界に戻る事を余儀なくされた。そして神宮寺 英梨と再会したのだったが―。
次回、創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius
File.11 実態の無いMEMORY
もうお前らは、袋の鼠なんだよ...