※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.14 RECORDから掴んだ悲劇

とある区画の某所。シューイン達の拠点となっているビルの、地下深くに位置する巨大な空間をグロックが訪れた。ほぼ真っ暗で何も見えないが、床と壁の境目を走る光と水面から漏れ出す青く淡い輝きで辛うじて歩けるようにはなっていた。グロックの目の前にはモビルスーツが―ウヴァルスタークが立っていた。ここは交流区画のはずだが、何らかの技術で持ち出す事ができたのだろう。そして彼が手に提げているアタッシュケース。隙間から赤い光が漏れていた。

「かなり長い時間がかかっちまったなぁ.....水崎教授夫妻が遺棄したデータを復元すんのは、随分と骨が折れた...ま、それに見合った収穫ではあるんだが、な」

近くの物置台の上にアタッシュケースを置き、鍵の暗証番号を打ち込んで解錠した。赤い光は更に強くなり、それに併せてグロックも歓喜の笑顔を見せる。中に入っているのは赤い光を内包した、黒いシリンダーだ。

「本職じゃなかったもんで完全再現は無理だったが、補完は簡単だった。謂わばこれは俺オリジナルの"ハザード"って事だ」

グロックはそのシリンダーを片手に、背後にあるデスクトップマシンにソケットを接続した。ソケットが通電したのを確認すると、シリンダーを挿し込みパイプ椅子に腰掛けた。ウヴァルスタークを繋いでいたケーブルを赤い光が流れ、機体へと伝っていく。ウヴァルスタークから黒い霧が溢れ出し、赤いパーツが鈍く発光した。実験は成功のようだ。突然遠くから足音が響き、グロックはデスクトップマシンから顔を覗かせた。やって来たのはシューインだった。

「これは?」

シューインはウヴァルスタークを包む黒い霧に驚きを隠せず、目を細めた。

「まぁ旦那、これは上手く利用できるものだと分かったら、お前さんにもやるよ。これで水崎 諒馬を潰せる」

そう言いながら机に寄りかかるグロック。シューインは彼とウヴァルスタークを交互に見、手摺に手をかけた。

「これは何です?似たような物ならZeuSに在籍していた時に見た事がある......確か...」

「そう。ハザードシステムだ」

グロックは喜びを噛み締めるように告げ、シューインの隣に立った。それを聞いたシューインはウヴァルスタークを凝視した。ダイバーズが正式リリースされるよりも前に開発自体が凍結し、関連データ群は全て抹消ないし封印されているはずだった。ZeuSへの警視庁特捜部による強制家宅捜索の前後に、跡形も無く消えているのは確かである。

「だがあれは、完全に抹消されたはず....どうして....!?」

「理由は簡単だ。水崎 諒馬の母親....水崎 順子がまだ生きていたからだ。ただ頭をやられちまってるから記憶は完全に無かった。ちょい前に俺はコンタクトを取れてな、そこで頂いたのさ。本人はこれが何なのか分かってなかったみたいだけど、俺からすりゃあ相当なお宝だったんでね.....ハザードなんてとんでもねぇ物、百崎が何で作らせたかってのは、息子のアイツが一番気になるんだろうぜ」

 

交流広場第8区画に帰還して、リョウマは弘に対し開口一番に「ドラグハートを返してもらう」と言い放った。スワンの戦果に関しては初めから問う気は無く、弘の独断専行をどうにかしなければならなかった。しかし当然弘は納得するはずもなく、椅子から立ち上がりリョウマを睨みつけた。

「そういう訳には行かねぇ。もうすぐアイツに....望に近づける。もう時間が無いんだよ」

そのまま立ち去ろうとする弘の肩をリョウマは掴み、流れるような動作で襟首を引いた。

「ふざけるのもいい加減にしろよ.....何の確証も無かったのに勝手に突っ込んで自滅したのはお前だ。正直俺もスワンも不安しかなかった。多分スワンは気が気でなかったはずだ.....あんなズタボロになるまでやられてんだからな....今のお前の行動は、お前だけが被害を被るだけじゃない、俺達全員を苦しめたんだ....分かってるよな?組んでいる以上、身勝手にやる事がどんなリスクを生むか....!」

「俺がお前と組んだのはな!望を助ける為だ....お前の仕事とか全く関係ねぇ」

「だったら一人でやっててくれ。ドラグハートはお前のものじゃない。いくらかリミッターを解除できたからって、それはお前の力だと勘違いすんな」

睨み合う二人。スワンは割って入ることも出来ず、最悪の事態にはならぬよう祈るしかなかった。

「俺の成長が気に食わねぇだけだろ、お前こそ嫉妬してんじゃねぇぞ....そもそも初めから手出しさえしなけりゃ」

「手出ししなければお前はやられていた。俺たちも奴の罠に引っかかった形だが、お前一人が受けるダメージは確実に減らせた....それは事実だ」

リョウマが告げる事実に弘は言い返せず、舌打ちだけして強引に立ち去った。スワンが慌てて後を追おうとするが、リョウマはそれを制した。

「確かに成長性は期待してたが、予想以上の馬鹿だ。何を言っても無駄にしかなんない。行こう」

「み、水崎さん......だけどそれじゃ!」

「奴は痛い目を見ねぇと学ばないんだ....本当にそう言う人間なら、俺から願い下げだ。仕事の邪魔どころか、疫病神でしかない」

リョウマはスワンと別れ、ただ何の目的もなしに街を歩く。ここ2日ほどの間に畳み掛けるように降ってくる、両親の話。そしてブルームーンの解体による捜査の難航。リョウマに余裕が完全になくなっていたのも無理もない話だった。舞夜とは一切連絡がつかなくなり、頭痛の種が増えていく。そんな時だった。ある意味敵に回したくない女が現れたのは。

 

時は遡り、昨日深夜。英梨は警視庁にいる知り合いを伝に、ZeuSの社屋を訪ねていた。この付近に諒馬が仮住まいとしているラボもあるが、詳しいことは知らない為頭の片隅にも置いていない。

「ここが、第4開発室.....水崎 諒馬のご両親が所属してたって言う.....」

ドアを開けるとホコリが隙間から降りかかり、英梨は咳をしながら飛び退いた。迷わずリュックサックからマスクと防塵グラスを取り出し、装着して再突入する。そこかしこに机が並べられ、全てにデスクトップマシンや本が置かれていた。どこにでもあるIT企業の一室にしか見えない。ゆっくりとした足取りで部屋の中を歩き回り、スチール棚にぶつかった。

「どれもこれもプログラムの解説書ばかり.....いや、そうでもない...か」

英梨の目に留まったのは赤いバインダーファイルだった。手近な机の上に置き、直ぐ側にあったワイパーで埃を払う。掠れた字で題目が記されているが、読めなくは無かった。

「H計画 第7回開発状況報告書.....ってこれ相当な特ダネじゃん!?何でこんなもの放っておいたのよ捜査員さん!これはラッキーと思ったほうが良さそうね.....」

英梨は真剣な面持ちでページを隅から隅まで、穴が空くレベルで読み込んでいく心づもりでいた。どうにも水崎夫妻が関わっていたというH計画は、現実では到底不可能な事を引き起こすために用意されたものだと言う感想しか出てこない。

「仮想空間に人間の意識を潜入させる為に、脳に対し直接情報を流入する方式....."インターコレクト方式"を確立した現在、H計画の重要性はますます高まると見られる.....随分な自信だったのかな.....にしちゃあ、ここまで隠匿され続けた意味が分からないなぁ....ちょっとこれ拝借しましょうか」

1時間程読み進めても、全く理解しづらい内容で絵空事にしか思えなくなってきた。しかし、巻末に記載されている担当開発者の名前に目が留まり、英梨は彼らに取材をしてみる事にした。知り合いに電話で一報を入れた後、ZeuS社屋を後にした。そして今朝、担当開発者の一人である女性とのコンタクトを取ることに成功したのである。英梨は大急ぎで神奈川県横須賀市にある、市民病院に向かった。2階にある個別タイプの病室。ネームプレートに書かれている名前を見て、英梨は思わず二度も目を向けた。

「水崎 順子.....ちょっと待って、それって確か水崎さんのお母さん....!?」

前回までの取材では、諒馬の両親は二人共他界しているはずだった。墓そのものはないが、どこかの寺院に納骨されているのは確かである。英梨は若干の狼狽を残しつつも、ドアをコンコンとノックした。奥から「どうぞ」と声がし、ゆっくりとドアを開いた。中には諒馬の母が寝ているであろうベッドと、その隣に座る女の姿があった。女は英梨の姿を認めると、すっと立ち上がり深々と礼をした。英梨はトートバッグから名刺入れを出し、中から取り出した名刺を乗せ差し出した。

「Romanesqueの神宮寺 英梨と申します。先日は深夜遅くに突然の連絡、申し訳ございませんでした。豊島 遙さんでよろしいでしょうか?」

「いえいえ、そんな.....こちらにお掛けになってください」

そう言うと豊島はパイプ椅子を持って来、英梨に座るよう促した。英梨からして豊島は恐らく5、60代だと思った。服装はありふれていて質素なくらいだが、歳の割に若々しく物腰の柔らかさから上流階級にいる人間と見た。

「ありがとうございます。あのベッドに水崎 順子さんがいらっしゃるんですね?」

「ええ....そうです、もう5年になります....全く私のことも思い出せず、夫さんの事も、二人いるお子さんの事も......起きている時に見せる笑顔は、あの時のままなのに...」

豊島と順子はどうやら、それなりに長い付き合いになるらしい。あの時と言うからには、数年単位なはずはなかろう。しかし英梨は、彼女の話から妙な引っ掛かりを感じていた。英梨の取材では、水崎夫婦の間には一人息子のみがいた。勿論それが水崎 諒馬な訳だが実はもう一人兄弟が居た事など、初耳だった。

「お子さんが二人....ですか」

「確か、お兄さんが諒馬君で....私と同じ部署に入って来ました。あの会社の中では一二を争う逸材だと思います....それと、妹さんの真文さん....諒馬君とは結構年が離れてて、最後に見た時は中学生くらいでした」

豊島が言うには、水崎家は父・晴俊と母・順子、長男・諒馬、長女・真文(まや)で構成されていたようだ。ここでいよいよ英梨は本筋に切り込んでいく。

「かなり年が離れた兄妹なんですね。私も8つ離れた妹がいるから、何となく親近感がありますね。.....それじゃあ、何個かお聞かせください。答えづらかったりしたら無理にお答えしなくても大丈夫ですので。豊島さんは水崎夫妻の実験に関わっていましたか?」

「はい。私はそれまで第5開発室という、仮想世界構築の為に必要な技術を研究する部署にいました。ですが12年くらい前でしょうか....先代の社長からいきなり異動を言い渡されて、順子のいる第4開発室に転属しました。そこから5年位は、何もなかったのです....ただ夫さんと3人でひたすら開発に没頭する日々です。だけど一瞬で崩れてしまいました....あの日を境に」

「あの日.....もしかして、H計画に関係が...?」

H計画と聞き、豊島はぎょっとした目で英梨を見つめた。どうやら当たりだ。

「H計画....そんな呼ばれ方もしていましたね。よく、ご存知ですね...警察でもそんな話をしなかったのに」

「私も大学卒業から記者一筋でやって来てますから、こういう情報を掴んでくるのは得意なんです。それに警察だって知ってるとは思いますよ、だって捜査の重大な証拠になる訳ですしね」

笑顔で返しながら、英梨は手元のタブレットで豊島の話から要点をまとめ上げる。まだメモ程度にしかなっていないが、全て聞き出してしまえばこれ以上とない資料になるのは間違いなかった。

 

今から8年前の7月。まだ暑さは本格化せず、いくらか過ごしやすい気候だった。当時のZeuSの開発施設は別棟にあり、これが後の諒馬の仮住まいとなるラボに当たる。この頃は施設全体を本社社屋の中に移設すると言う計画が立ち上がっており、それなりの慌ただしさで動いていた。豊島 遙も第4開発室の一員として仕事に励んでいた。18時を回り、自らの仕事を終えて帰宅の準備を進めようとした所、後ろから「ハルちゃん」と軽い呼び声がした。水崎 順子である。

「ん?順子ちゃん、どうした?」

「ちょっとねぇ....夫と社長とで話ししてたんだけど、ハルちゃんにも声かけとこうと思って。今時間大丈夫よね」

いいけど、と遙は順子について行った。開発室内にある休憩コーナーには、順子の夫・晴俊がいた。

「すいません、お帰りの前に呼び止めてしまって」

晴俊はやや申し訳無さげに笑い、取引先から貰ったと言う鳩サブレーとコーヒーを差し出した。向かいに遙が、二人の間に順子が座った。

「いえ、とんでもないです。それで、お話と言うのは....」

「実は来週の中頃に、娘が社会科見学と言うことでこちらに来る事になってですね」

この開発室全体は、社内でもトップシークレットとされる程、情報を外部に公開しないようになっていた。そのセキュリティの強さは尋常ではなく、例えいちエンジニア単位でも情報漏洩に対する厳しい教育を施す程だ。無論遙や、順子達も例外ではない。しかし何故、いきなり社会科見学を受け入れようとするのかさっぱり見当もつかなかった。そんな遙の疑問を察したかの様に、順子が補足を入れた。

「うちの娘がゲームプログラマーになりたいんだって。それでここを見学したいって話になったんだけど、その日はちょうど操作周りとか調整が終わるから、それを狙って何か適当にゲームを作っておいて見学させようと思ってるのよ」

「へぇ....そうなの?確かに私の所もその辺だと一段落はつくわね....でもそんな短い間に適当な物でも用意出来ないんじゃない?」

「一応こちらでも用意はしたんですよ。社長と話ししたのは、ここの見学の許可を取り付けるためですから。見学用に作ってもらうのは、体感型のシューティングゲームですが、経験はありますか?」

「その位ならもう一人、花家君と宝多さんも来てもらえばすぐに出来ますけど....?」

こうして遙は見学用ゲームの制作を引き受けたのだが、妙に気になる所があった。社会科見学と言うからにはそれなりの人数が来ると当然誰しもが思う。だが予定表を見ても来るのはたった一人、水崎夫妻の娘だけしかいないのだ。正直一人に見せるためだけにここまでやる必要性は感じない。もし遙があの夫婦の立場だとしたら、過去に制作したゲームのソースコードを一部見せながら解説を交え、当該箇所を一緒に作る方がやりやすいし成功体験として、将来への参考にもなると考える。これは何とも不思議な話だが、この時の遙は疑う事もせずすんなりと受け入れた。

そして見学の前日。

「豊島さん、こんなもんっすかね?ラグとか判定とか割とガバ目にして、調整し甲斐あるようにしたんすけど」

遙と共同で作業していた宝多が、テストから戻ってきた。かなり砕けた物言いだが、遙は元から気にしない質だった。

「結構雑に仕込んだわね....見学のデモンストレーションなのに本気にさせようって魂胆?」

「そんな訳ないじゃないっすか!でも、プログラマの本気を一度見せてやれば、きっと憧れられるはずっすよ!あたしだって豊島さんマジリスペしてるんすから!」

宝多に押し切られ、ついつい遙も乗せられる。後ろでテストプレイの様子を見ていた花屋に頭を叩かれ、宝多は頬を膨らませ押し黙ってしまった。

「まだ作業が終わってない人がいるんだから静かにしろ、ニコ。豊島さん、自分も見た感じだとこれでいい気はします。でも不思議ですよね、一人しか見学に来ないんでしょ?何でここまでやるんだか...」

花家の言う通りだった。この案件はどう考えても普通とは考えにくいのだ。

「そうなのよ、そこが分からないけど.....それに諒馬君に兄妹がいたなんて聞いたことないし....気にしても仕方ないとは思うけど、気になるのよね」

スカウター型のヘッドギアをつけたまま、宝多が机の上に乗り出してきた。

「ははぁ〜ん、これはアレっすね。兄を超える大物妹って奴っしょ!」

「何だよ大物妹って。いいからさっさと片付けてしまえよ、邪魔になってんだからな。それじゃあ豊島さん、お疲れ様です」

「あぁちょっと花家先輩!こういう時だけ押し付けて最悪じゃないすか!!手伝えよ〜!」

花家と宝多のやり取りを微笑ましく眺めつつ、遙はコーヒーを飲んだ。あの二人は付き合っているのではないかと噂があるが、実の所交際はしていないらしい。精々息の合う先輩後輩と言った所だろう。二人が帰ってから、続々と他の社員達も開発室を後にした。残ったのは遙ひとりとなった。自分自身の作業も一段落付いた所で、そろそろ帰ろうとコンピュータの終了処理をしようとした矢先。

「ちょっとごめんね、ハルちゃん」

順子と晴俊だけではなく、当時の社長までやって来た。それだけでない。見た所中学生くらいの、長い黒髪の女の子もいる。遙は彼女を見て「もしや」と思った。

「いいけど、作業はまだ終わってないのよ?予定前倒しなんて聞いてないのに」

遙が戸惑うのも当たり前の話だ。そこへ社長の百崎が説明に入る。

「申し訳無い。これは急を要する話になりそうなので、こちらが独断で通してしまった。君のスケジュールを考慮しなかったのはこちらの落ち度だ」

社長に謝られてしまうと、いち社員に過ぎない遙は何も言えなくなってしまう。そこまで抗議するような重要性は無いのだから、取り立てて気にする意味もない。

「そ、そうでしたか....それで、この娘が二人の?」

晴俊は「ええ」と笑い、少女を撫でて一歩前へ歩かせた。

「娘の真文です。将来はゲーム開発に携わりたいからと、ウチの入社を狙っているみたいで」

「水崎 真文です....今日はよろしくおねがいします」

真文はぺこりと深めにお辞儀をし、遙も軽く礼をした。このときは気が付かなかったが、後に遙は彼女の奇妙さが引っかかるようになった。彼女は自分の名前を名乗っているはずである。なのに、若干詰まりながら言っていたのだ。本来そんなことがあり得るのか。緊張から来るものにしては、暗記した物を諳んじる感じがあった。




[次 回 予 告]
水崎夫妻が行った実験により命を落とした、名を知らぬ少女。ZeuSの異常さに直面した遙はついに去る決意をする。そして今紐解かれるハザードシステムの謎。英梨にそのバトンは託された。しかしそれは、あまりにも重過ぎる物だった。そして真実に近付こうとする彼らに、また影が迫るのだった。
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