※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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[これまでの創造戦士ガンプラダイバーズ Side:Genius]
リョウマ達を圧したシューイン率いるアーネスト勢力は、裏であるシステムの再現に成功させ、新たな手札を獲得した。その頃リョウマは弘の身勝手な出撃について問い質す。がしかし、事態は悪化し弘からドラグハートの返還を要求したことで離脱が決定的になってしまった。そんなリョウマの前に、記者の女が現れる。


File.15 上塗りと現実のPARADOX

「それじゃあ、後の事は私達に任せて。ハルちゃんは帰ってゆっくり休んで?」

順子の気遣いは嬉しいが、この仕事は本来遙に任されていた事だった。担当まで変わるなら、引継ぎまでしなければ話になるまい。

「でも順子ちゃん、そのゲームの触る所分からないでしょ?それが分からなかったら見学どころでも無くなるんだけど....」

「大丈夫よ!その位なら見つけ出す所も含めて見せれば!」

サムズアップをしてニッコリと笑う順子。そこまで言うのなら遙も心做しか安心してしまい、ようやく帰る心積もりも出来た。しかしそれが、後にZeuSを暴走させる実験になるとは思いもしなかった。遙が開発室を出るとすぐにドアに鍵がかかり、物音一つしなくなった。順子が説明するような声も聞こえない。瞬く間にドアの向こう側から異様な雰囲気が立ち込める。丁度そんな時に、外から戻って来たであろう諒馬と遭遇した。

「あ、水崎君?こんな時間まで仕事?」

「まぁ、そんな所。豊島さんはもう帰られるんです?」

「ええ....順子さんに強引に押し返されちゃった」

順子の名を聞き、諒馬はピクリと眉を動かした。

「あの二人に関わった人間は、必ずと言っていいほど不幸になる.....今度は何をしでかそうってんだ」

「嫌な予感がするのよ....ねぇ、水崎君って妹さんいたっけ?一度も聞いたことなかったなぁって」

「妹?ハッ.....まさか。俺は一人っ子ですよ。実験が明日なので、それじゃ」

これでハッキリした。水崎 真文は存在しない人物。そこからもう一つの疑問が生まれる。何故でっち上げの人物を使ってまで、見学をさせようとするのかである。そもそも見学自体許されるケースはほぼ無いが、広報の担当範囲であれば何とか許可は下りる。そうなれば態々偽名なんて使わなくていい。益々順子らが何をしようとしているのか分からなくなった。ほぼ同時に、ある噂を思い出した。「水崎夫妻は、百崎の一家に恩義があるらしく、信奉している」と言ったものだった。ふと開発室の窓に目を向けると、社会科見学とは到底思えぬ叫び声が聞こえてきた。それとは裏腹に淡々と何かを読み上げる声もした。遙は堪らなくなり、ドアを勢いよく開いた。

「何をしているんですか!?.....これは一体何なんです!?」

「ハルちゃん!?帰ったんじゃ....!?」

やはりだった。真文と名乗った少女は全身を椅子に縛り付けられ、スカウター型のヘッドギアからは、かなり幅広のケーブルが伸びていた。そして彼女の目の前にあるディスプレイには、試作段階のガンプラダイバーズのサイトが。挙句ログインまでされていた。順子は何とか遙を開発室から連れ出そうとしたが、梃子でも動く気は無かった。これは人体実験以外の何者でもない。晴俊は電話で誰かを呼びながら作業を続けている。その後ろで百崎は表情一つ変えず、作業進捗を観察する。数分してやって来たのは東郷 純一だった。ひと月ほど前に開発チームから外れ、百崎の側近として出世街道を行くようになったと遙は聞いていた。

「水崎さん」

「おぉ、東郷君。後少しで完成するよ。H計画の核....ハザードシステムが」

ハザードシステム。未知の単語に遙は本能的な危機を察知し、順子と純一を押し退け強引に介入した。

「ハザードシステム!?それって何ですか?そんな物はダイバーズの開発計画の中にはありません!教えてください、ハザードシステムって、H計画って何ですか!?」

食い下がる遙を純一は面倒そうに睨み、眼鏡をかけ直した。

「貴女には関係のない事です。出来れば上司だった貴女には、関わってほしくはないのですが」

「自分の出世の事だけを考えるあなたにそれを言われるのは、嬉しくも何ともない!晴俊さん、順子さん!今すぐそれをやめてください!こんなのただの拷問よ!」

遙は元々面倒見の良い姉御肌で通っていた。強い正義感もあり、かつて所属していた第5開発室では「エンジニアのオカン」と呼ばれる程だった。そして純一もまた遙の部下として働いていた時期があった。だが遙以下、殆どのエンジニア達から忌み嫌われてもいた。純一の腕を押し上げ、詰め寄るのを諦めなかった。

「水崎さんもこんな事、普通じゃないって分かってるはずです!今すぐこんなことはやめなさい!」

「これはダイバーズのユーザー体験を更に高めるために必要な事なんだ!先鋭化されたスリルは、VRに求められているのは分かっているでしょう!」

晴俊の抗議さえ、もはや説得力の欠片もなかった。現にあの椅子に縛り付けられた少女は、苦痛に唇を歪めていたのだから。しかし、遙には事態を止められなかった。少女は悲鳴さえあげず物言わぬまま、事切れてしまった。百崎は駄目かと息を吐き、純一を伴って開発室を後にした。その時に遙の耳に入ったのは、信じられないような話だった。この事件から数カ月後、遙はZeuSを去ったのだが際になって部下の一人からこんな事を告げられたのだ。

「諒馬もかなりやばい実験に手を出しているらしいよ。源川もウチも知ったのは昨日。実験は明日行われる....その被験者は今年入ったばかりの新人ちゃん....比良坂ちゃんです」

「え......!?比良坂って....水崎君の事が好きだって言ってた子よね.....どうして、また....」

「ウチからしたら、諒馬も複雑そうな感じでしたよ。あいつ実験大好きだから楽しいはずなのに、心を開き始めた相手を使わなきゃいけないんだから。顔には出ないけど、長い付き合いだと分かっちゃうっていうか....」

比良坂と言うのは、比良坂 舞夜の事だ。彼女はこの年に新卒入社してきたプログラマーだった。誰にでも明るく接し、第5開発室のメンバーからは妹の様な扱いで可愛がられていると聴いたことがある。まさか彼女までZeuSの手にかけられようとしていて、諒馬がその中心に立とうとする。寝耳に水もいい所だった。

 

そして話は現在に戻される。豊島はあの事件の記憶だけは鮮明に残っており、その後部下や同僚から聞いた情報さえメモに残していた。この事は風化させる訳には行かない。ZeuS事件が世間の関心を集めた今だからこそ、これを伝えられる誰かに託したかった。そのバトンを渡す相手に英梨を選んだのはそういう理由があったからだ。

「それから色々、話を聞くようになりました.......H計画と言うのは、ハザードシステムを使って無理やり人間を仮想世界に最適化させて、"進化"を促すためのプランだったと....いつの事は知らないのですが、赤ちゃんに対して石を埋め込む実験もあって、それをどの年代の人間にもリスク無しで使えるようにする為に、ハザードシステムを用意した.....それがH計画だったようなんです。結局、その進化と言う物に耐えられなかったあの子は帰らぬ人となりましたが....」

英梨は言葉を失った。正直ZeuSが、百崎の一族が何を考えていたのか全く分からなくなってしまった。仮想世界言えど、ガンプラダイバーズはただのゲームである。そんなことはあり得るはずがない。挙句リスク無しを謳いながら、"ハザード"とはあべこべにも程がある。しかし彼女もまた、ν-Typeと呼ばれる"異能者"の戦いを間近で追い続けた経験がある。結局信じるしかなかった。英梨の踏み込んだ場所は、もう常識では捉えきれない魔境の様に思えた。否、それが現実なのだ。これを記事にしなければならないが、一体どれほどの人間がこの話を事実と思ってくれるのだ?長年ジャーナリストを続けて来た英梨でさえ、皆目見当もつかない。そした豊島の一言に、英梨は耳を疑った。

「単に規約違反者を取り締まるJOKERも、その開発中のデータもハザードシステムの開発に使われたのでしょうね.....」

「え......だけどJOKERは少なくともハザードシステムよりも前に開発が進んでて、凍結されて5年前に....」

「仰る通りです。だけどアレもまた、ハザードシステムのもう一つの側面を作る為に必要な物....あの社長と周辺の人間達はそう考えているはずです。でも、順子ちゃんはもうその記憶すら無くして、私の事もよく遊びに来る人程度にしか見ていないのでしょうね....諒馬君がこの姿を見たら....殺意を感じてもおかしくない...」

「実は水崎 諒馬さん、ZeuS事件の調査をしているんです。だけど彼、"記憶が上塗り"らしくて、その為に情報は必要なんです」

「上塗り...やっぱり、彼も何かをされてZeuSを追われたのでしょうか。あの、これ....読みづらいかと思いますが、お役に立てるのなら...」

後に遙から預かった手帳によると、順子はハザードシステムの開発凍結から間もなくして退職してたようだ。しかし全く記憶を保持せぬまま幼子の様な人格に様変わり。遙は久方ぶりに会った時点で衝撃を受けたと言う。医師の診断では認知症やそれに類する病気や障害は見受けられず、可能性として外部からの記憶消去が行われたかも知れない、という話だった。人間の記憶という物はそこまで脆く、壊れやすいものだと言うのを如実に表していた。例えそれがどんな悲劇、幸福だったとしても―。

 

そして意気消沈するリョウマのもとにやって来たのだ。豊島 遙から託された"バトン"を片手に。

「相当に苦境っぽいね、あなた。あぁ、私の事はここでは"エリィ"って呼んでほしいな、お願いね」

「まさかダイバーズにまで追いかけてくるなんて。あなたこそ形振り構う気すらないんだな」

リョウマは半ばやけになった口調で返し、標識の柱に寄りかかった。エリィが無理にいつもの調子を保っているのは、リョウマから見てもすぐに分かった。エリィも繕った笑みを浮かべながら、リョウマに歩み寄る。

「ご両親の同僚だった人に会って来ちゃった。それでアレやコレや聞いて、記録の品もお借りできたから調べがついたのよ。これで私は嘘つきジャーナリストにならずに済んだって訳ね」

「そうですか」とリョウマは返し、明後日の方向に目を向けた。正直、今頃になって両親の研究の正体など知りたくもなかった。だが今後の動きの為には否応なしに知る必要がある、それだけだった。もう彼には肉親に対する感情はなく、罪人に対する断罪以外は頭にない。そもそもZeuSの行って来た違法な研究の全てを暴く為に、戦いを始めたのだ。記憶が上塗りでしかなくても、それくらいは出来る。

「何かこないだに比べて反応薄い。もうどうでもよくなった?」

「ぶっちゃけ、今更両親がどうとか関係ない気がしてきてな。どの道欠片さえ残っているなら、跡形もなく消してしまえばそれで済む。誰かに悪用される前にな」

「確かに、ハザードシステムなんてものが、何も知らぬ誰かに使われたらそれこそ、ZeuS事件の繰り返しにはなるよね」

「ハザードシステム.....?何だそれは、聞いたことがない」

リョウマは唐突過ぎる予測に耳を疑った。門松からも聞いたことがないその単語に、リョウマの頭痛の種はまた一つ増えた。エリィはリョウマの目をじっと見つめ、意外そうな顔をした。

「あれ?本当に知らなかったんだ....!だとしたら教授も....いやぁ...でもそれはそれで、おかしいじゃん。教授ってダイバーズ開発計画の中心に居た人でしょ?流石に天原博士とか篠原博士レベルじゃあなかったけど」

「.....おい、分かるように説明しろよ!そんな物があったなんて.....いつ知った!?」

リョウマは衝動的に彼女の両肩を掴んだ。エリィはぎょっとして彼の手を払い除け、落とした帽子を被り直した。

「ちょっとがっつき過ぎ!だから教えるためにここに来たんでしょうに....そんなに信用できないかな、私の事」

「雑誌記者なんてそんなもんだろ....けど今は何にでも頼るしかねぇんだ...」

昨日の話が余程尾を引いているのか、リョウマの表情は常に曇りがかかっていた。自分という物が上塗りでしかないからなのか、或いは―。エリィとしてもこの件は放っておく気にはなれなかった。彼もまた、違う意味で"自分を失っている"のだから。

「とか言いつつ、私もどこから話していいのか分かんないんだよね。何て言うか、私の取材と想像を超えてたっつーか....」

エリィが豊島から聞いた事を、イチから話そうと決めた矢先。交流広場にあるまじき乾いた音が響き渡った。聞き間違えようがない、銃声だ。銃弾はエリィとリョウマの間をすり抜け、壁にめり込んで地面を転がった。二人は事態が掴めず、音のする方へ振り返った。黒い何かが建物の上を移動するように見えたリョウマは、その場から追いかける気なのか走り出した。

「一体何考えてんだ....例え遊びでもタチが悪過ぎんだろ!」

「え....何よ!?ぁあもう、何でこうなんのよ!」

エリィは置いてけぼりを喰らいそうになり、大慌てでリョウマについて行った。事件の中核に触れようとするエリィとリョウマを狙った手合なのだろうが、ここまで白昼堂々狙撃をするのか理解に苦しんだ。黒い影は建物を屋根から屋根へと飛び移り、ひとまずリョウマ達を煙に巻いてから看板の裏に身を潜めた。ウェットスーツの様な服の上から防弾チョッキを羽織り、左大腿にはホルスターのついたベルトを巻き付けた、如何にも暗殺者の様な出で立ちをしていた。VRゲーム機の様なデバイスを外して露わになった顔。ジプシーだった。

「もうそんな所まで来ていたのね、記者さん。舌を巻く位だけど、もうすぐに黙らせてあげる。私の正義がそうしろと言うのよ....」

サイレンサーとやけに大きなスコープをつけた銃をホルスターに差し込み、またバイザーをつけると光学迷彩を起動させ行動を再開した。ジプシーの狙いはただ一つ。エリィのアバターを"消す"事のみ。一方で狙撃手を追いかけていたリョウマ達は、まんまと煙に巻かれ天を仰ぎながら右往左往するしかなくなった。

「最悪だ、見失っちまった!」

「仕事柄命狙われることもあるけどさ....何でここに来てまで、同じ思いしなきゃなんないんだか....」

「ただの雑誌記者が命狙われるって、おたくは一体何を取材してた訳?」

「顔に傷がお似合いの人達....って言えば分かる?割と何処にでもいるんだよね、ああ言うのは」

エリィもとい、英梨の手掛ける記事は他の記者に比べると"過労自殺"と揶揄される程、途轍もなく幅広い。政治経済のみならず、リゾートや恋愛関係、アパレルからゲーム、企業ぐるみの詐欺から殺人事件等など。普通の記者とは比べ物にならない程の取材をしているのだ。当然それ相応の経験があるはずだ。

「そりゃ怖いな」

彼女の口振りからリョウマも、その苦労を察して「聞いて損した」と内心思ったものである。にしても今回は酷すぎる。人殺しなんぞ出来やしないはずのダイバーズで、愚かにもそれの再現をしようとする馬鹿者が現れるとは。人として放って置けなかった。





[次 回 予 告]
ただ一人弘の捜索を続けるスワン。その道中で意外な人物と再会を果たす。彼らの助力を得て無事弘を発見できるのか。今ここでリョウマと弘を断ち切らせては行けないのだと、スワンの勘だけが告げていた―。

次回、創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius
File.16 縁繋げるか極熱FIST

落ち着きが無いから、探偵を始めたのはそういう理由だ。
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