創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
人々は娯楽の対象を仮初めの世界から享受しているが、それは今に始まったことではなかった。絵画や書物は創り手の空想を具現化させるための手段であり、演劇や映画は見る者にも感情を共有させる。そしてゲームは触れた者全てに新しい世界への扉を開かせる。この時代のエンターテイメントはそれからさらに踏み込んで、仮想現実の世界に踏み込めるようになった。娯楽は人々の求める物であり、その欲求がある限り発展は進み続けるのだろう。ガンプラダイバーズもまた、その発展の一つと言える。
「さて...始めるか。実験開始だ」
青年はデバイスを片手に、コンピュータを起動させた。コンピュータと接続している6角形の装置の上にはガンプラが置かれていた。赤と青に彩られているが、色の配置から非対称めいた印象を与えた。
ニューホンコン。"機動戦士Zガンダム"に登場する都市で、カミーユとフォウ・ムラサメの出逢いの舞台となった事で有名だ。ガンプラダイバーズのバトルエリアはオリジナルの物もあれば、こうした原作再現ステージも数多く存在する。高層ビルが乱立する森の中を駆け抜ける赤と白で彩られたMS―F91が、更に移動速度を上げる。何かを追いかけているらしく、コクピットの中ではパイロットがレーダーを逐一操作していた。
「見つけた!見つけました!このポイントに集結してください!」
このMSのパイロットは、やや幼い顔立ちをした少女だった。首元までのショートカットにした黒い髪に赤い瞳。一見すればミステリアスだが声と表情から、それとは正反対の性格をしているようだ。少女が仲間に呼びかけると、続々と僚機の反応がレーダーに現れた。
「早く見つかったなぁ...ほんま助かるわ、スワンちゃん!」
F91の隣をEx-Sガンダムが通り過ぎる。スワン、と呼ばれた少女は口許に笑みを浮かべレバーを更に前に倒した。彼女が乗っている機体はF91をベースに、V2ガンダムのミノフスキードライブを参考にした装置を搭載して接近戦用にフルチューンされている。その名もガンダムF91-M。
「じゃあ、行くよ!F91-M!」
ビルの陰からでもすぐに分かるほど、標的は巨大だった。全身が黒い魔神の様なガンダムタイプ。サイコガンダムだ。F91-Mが上空に飛び上がり、リアアーマーからビームサブマシンガンを装備しサイコガンダムの頭目掛け連射した。サイコガンダムも反応して指先の砲口に光を収束させ、一斉に解き放った。五本の指の先端から放たれるメガ粒子の渦をくぐり抜け、F91-Mは再度ビームサブマシンガンで頭部センサーの破壊を試みた。しかしサイコガンダムは耐ビームコーティングがなされていた。ビームによるダメージは尽く軽減され、サイコガンダムに掴ませるだけの隙を作ってしまう。
「一瞬だけなら...!」
サイコガンダムの指がF91-Mに触れる刹那、機体が光りに包まれ一瞬でその場から姿を消した。サイコガンダムはそれに気づかぬまま握り潰したものの、手に残ったのは塵のようになった装甲の破片だった。F91-Mがサイコガンダムの背後に回り、右手に持ったブースター付きの大型槍「ジェットペネトレイター」を構え猛スピードで突進した。ジェットペネトレイター後部のブースターと機体の推力が組み合わさり、途方も無い攻撃力を付与するその一撃が、サイコガンダムの後頭部に命中した。
「や、やるやんけ!何もせんわけにはアカンわな!」
Ex-Sも負けじと背部ビームキャノンを放ち、リフレクターインコムを射出してサイコガンダムの死角に取り付かせる。
「皆、すまねぇ...こんな相手に格闘機で来ちまったから足を引っ張ったな...」
僚機の一つ、エピオンのダイバーがメンバーに対し詫びを入れた。しかし、スワンもEx-Sのダイバーも彼の活躍の場を作るつもりでいた。
「大丈夫ですよ!格闘機が必要な場面はありますから!」
「せや!だからお前さんはそれまで体力温存しときや!トリがへばってたら話にならへんしな! 」
Ex-Sがリフレクターインコムに向けてビーム・スマートガンで狙撃した。音速をも超える光の矢が弾かれ、急角度で軌道を変えてサイコガンダムのシールドのハードポイントに直撃した。シールドは物の見事に腕から外れ、ビルを薙ぎ倒しながら転がった。
「何をする...んなぁあッ!?」
何が起きたのか、エピオンが吹き飛ばされてサイコガンダムの足元に出て来てしまった。
「エピオンの人が...!?他にも敵なんて居なかったはずなのに...」
スワンはその様子を見てただ困惑した。しかし、4機で戦っているのに一度も姿を見せなかったダイバーが一人だけいた。スワンの脳裏にある予感が過ぎった。
「ちょろちょろ逃げてんじゃねぇよ雑魚がよ。格闘機かなんか知らないけどサボんな」
黒と赤に染まった機体が空からエピオンを執拗に狙い撃つ。エピオンは被弾寸前に空中に退避したが、それを狙ってサイコガンダムが蹴りを放った。スワンもEx-Sのダイバーも思わず息を呑んだ。
「な、何や一体...あぁ、あのストフリか!今まで何にもしとらんやったのに何で今更出て来おって!」
Ex-Sのダイバーは怒りを顕にし、黒赤のストライクフリーダムにインコムとビーム・スマートガンを放ち追い返した。何とあろう事かストライクフリーダムは反応し切れずに全弾を喰らい撃ち落とされた。
「妨害すんなよバカ!さっきのが役立たずだから僕がアイツぶっ倒すんだよ!」
ストライクフリーダムから聞こえる声は明らかに小学生くらいだった。
「ちょっと君!何で仲間を邪魔だなんて言うの!メッセージでもいいから謝りなさい!」
スワンがストライクフリーダムの近くにF91-Mを着地させ、エピオンのダイバーに謝罪してくるように促すが、ストライクフリーダムのダイバーはそれを無視して何故かF91-Mを庇うような位置に機体を動かした。
「女の子がこんな所にいちゃあいけない。僕がいるから安心しろ」
ストライクフリーダムのように見えたが、顔と胴体だけが該当し、バックパックはデスティニーガンダムの物だった。しかも足はガンダムDXであった。機体名も"アルティメットロストフリーダムガンダム"とあり、かつてダイバーズを震撼させた機体と被っていた。しかし恐らくこの機体のダイバーは、それをただ模倣したに過ぎない。何も無ければ、スワンも褒めるくらいはできたのにダイバーの態度が悪過ぎるあまり、溜息しか出なかった。
「あの歳の男の子ってああなの...?何か違う気がするんだけど...後でキツく叱ってやらなきゃ!」
スワンはストライクフリーダムがサイコガンダムに突っ込むのを止めるべく、F91-Mのバーニアを点火した。Ex-Sがビーム・スマートガンでサイコガンダムの注意を引き、アルティメットロストフリーダムに活躍の場を与えないように立ち回り始めた。チームの連携が必須となるこの戦いにおいて、互いの足を引き合う様な事態が起きてしまえば、ミッション自体も失敗したも同然となる。エピオンがようやく戻ってきたが、機体が赤く輝いていた。ビームソード高出力モードである。ブースト持続時間と防御力を犠牲に圧倒的な機動力と攻撃力を手に入れる、エピオンの機能である。エピオンがすれ違いざまにサイコガンダムを斬りつけ、その姿も相まって輝いていた。
「やりおるわぁ...エピオンの旦那!妨害なんぞへのかっぱや!」
エピオンの太刀筋はまさに電光石火の一言だった。Ex-Sのダイバーは興奮気味に讃え、ますます手に力を入れた。しかし、またしても少年が行動を起こした。エピオンがサイコガンダムの死角から一撃を見舞おうと急降下した。その矢先にアルティメットロストフリーダムが、真横から蹴りを入れてエピオンを撥ね飛ばしてしまった。挙句サイコガンダムが足を上げて踏み込もうとする場所にエピオンを放り投げ、踏み潰させた。これにはスワンも穏便に済ませられそうにはなかった。
「今君が何をしたのか分かってるの!?仲間を身代わり人形にしてるんだよ!?」
「この世界は力のある者だけが勝つ!あの赤いのは想像するだけの頭のないチンパン野郎なのさ!はははは!でも大丈夫だよ、君の事は見捨てはしないから」
アルティメットロストフリーダムのダイバーが精一杯格好つけてスワンに言うが、逆に彼女の気を遠のかせてしまった事に気づいていなかった。
「ほら、あんなクソ重いので勝てるわけ無いだろ?時代は速さを求めてるからね!はい、雑魚はドーンってね!」
「やめてッ!!」
アルティメットロストフリーダムはバックパックから長距離射程ビームキャノンを構え、サイコガンダムを相手に奮戦しているEx-Sを撃ち落とした。スワンは悲しくて仕方が無かった。このようなゲームには、他人の迷惑となる行為を楽しむプレイヤーがいるという定説があるのはよく知っていた。しかし様々な立場を経験してきたスワンは、そのような輩と出会うことが無かった。故にあの定説は都市伝説の様なものだと信じたくなった、その結果がこの少年の行いであった。スワンは唇を噛みぐっと怒りが爆発するのを堪える。ここで力に任せてしまえば、自分も彼と同じレベルになってしまう。
「ちょっ、放せよ!敵が来てんだよ!」
「えっ...えぇっ!?」
アルティメットロストフリーダムに振り払われそうになるF91-M。しかしサイコガンダムの足がすぐ目の前に迫って来ていた。そしてその足が踏み降ろされようとした、その瞬間。
「ウェポンビルドアップ!」
サイコガンダムの足元から青白い爆風が巻き起こり、足を丸ごと消滅させられた。その上光の粒が胴体にも直撃し、まるで抉り取られたかのような姿になり真後ろに転倒した。サイコガンダムの膝の上からMSが飛び降りると、徐ろにアルティメットロストフリーダムの肩を掴んで投げ倒した。
「何すんだよ、不意打ちか!?お前もこの娘狙ってきてんだろ知ってんだよ!けどな、あの娘は僕の...ぐへぇっ!?」
アルティメットロストフリーダムがアロンダイトで斬りかかろうとするよりも早く、謎のMSのハンドガンが鳩尾に命中した。
「ごめん。そう言うの、興味ないんだ!俺が欲しいのは機体のデータだけなもんでさ」
スワンは目の前に現れた謎のMSに眼を見張った。特に何かを盛り込んだのでは無く、ただシンプルさを突き詰めたような外見をしていた。それでいて両肩は右と左で色と形が異なっている。後頭部からもよく分かるV字型のブレードアンテナで、ガンダムタイプだと悟った。
「足に...車輪??」
謎のMSの踵にはタイヤのついた車輪が。それに近いものは"SDガンダムフォース"の"キャプテンガンダム"でも見たことがあるが、通常頭身の機体で足に車輪がついている機体は見る事がない。謎のMSはアルティメットロストフリーダムのアロンダイトを軽々と避け、胸に膝蹴りを食らわせ飛び上がりつつ回し蹴りを浴びせた。踵のタイヤが高速回転し、蹴った跡は獣に襲われたような裂傷が残った。
「何だ...何だよこれぇ!!」
「これ?あぁコイツのこと?」
謎のMSは自身の装甲を小突き、その指をアルティメットロストフリーダムに向けた。
「ビルドブレイズガンダム。"造る"、"形成する"って意味の、ビルドだ。以後、お見知り置きを!」
未知の攻撃に少年はパニックに陥り、逃亡を強行した。アルティメットロストフリーダムが上昇しようとバーニアを噴かせて虚空へ消え去ろうとした。しかし、ビルドブレイズが空へ左手を掲げる。突然周囲に白い壁が現れたかと思うと何かを作るような音を立て始めた。
「ブーストビルドアップ!」
ビルドブレイズのダイバーは溌剌と宣言した。この壁の中ではファクトリーのようなシーケンスを経て武器を製造するようだ。そしてバックパックには青い大型スラスターユニットが装着された。
「ウェポンビルドアップ!さてこれで鳥を撃ち落としてやるぜ」
高く上昇し、左手に召喚したビームライフルを右手に持ち替え、狙いを定めるや否や引き金を引いた。
「い、今ので当たったの!?」
呆然と様子を見ていたスワン。僚機の損害状況が更新され、更に目を丸くした。続け様にビルドブレイズは両腕に奇妙な形の装備を形成、落下地点に向けて先端のクローを伸ばした。交差されたフレームパーツの構造からしてマジックハンドの類だが、それとは比して桁違いの速度で伸びてMSを掴んで引き戻してしまった。
「さて、データは完全に頂いていこうか!そんで、味方を餌にするやつは...分かってるよね!」
慣性が働きこちらへ向かって投げ出されるアルティメットロストフリーダムの鳩尾めがけ、正拳突きを放った。拳はVPS装甲すら紙のように突き破り胴体を貫いた。
「す、凄い...!でも流石にこれだけやられたら向こうも懲りるよね...あはは...」
シンプルな機体に見合わぬ凶悪な性能に、スワンは、ただただ引き笑いするしかなかった。しかし、彼のおかげで全滅は免れミッションは達成できた。その礼を言おうとビルドブレイズに通信をかけた。
「あの...助けてくれてありがとうございました!またお会いした時の為に、お名前教えてくれませんか?」
ビルドブレイズは一瞬無反応だったが、今気づいたらしくF91-Mに向き直った。
「助けたなんてそんな、言いすぎっしょ!」
戦い方に見合わぬ程の明るい声にスワンは呆気にとられるが、我に返り再び名前を聞いた。モニターには機体の名前もダイバーネームも表示されていなかったのだ。
「まさか2度も自己紹介することになるなんてな...まぁいいや。ビルドブレイズガンダム。"造る"、"形成する"って意味のビルド。そんでブレイズはバーニングの言い換えだ。それじゃ、SeeYou」
ミッションの制限時間が過ぎ、スワンは強制的に交流区画に転移させられた。かつて経験した事に比べればと思ったのだが、ビルドブレイズという機体が見せた力はどんな物よりも異質だった。だがスワンは、またどこかでビルドブレイズと出会うような気がしていた。
ZeuSの社屋、その何処かにあるという研究所。その地下で青年―水崎 諒馬が一人コンピュータの前に座っていた。彼は先程、ダイバーズの仮想空間から意識をサルベージして来たばかりであった。
「これで機体のテストは終わった。後は...動き出すだけ、か」
諒馬はビルドブレイズを手に取り、デスクトップマシンのモニタと交互に見た。ビルドブレイズの戦闘ログと、"ビルドアップ"の正常処理回数と不正処理回数の記録がびっしりと並んでいる。普通なら目眩を起こしそうになる画面だが、諒馬にとってはこれが普通である。
「ビルドブレイズなら...ビルドシステムを完璧に使いこなせる。間違いない」
諒馬はデスクトップマシンをスリープモードに切り替えて画面の電源を落とした。ネイビーのジャケットを羽織り、部屋を後にした。秋も深まり肌寒さも感じ始める頃に差し掛かると聞いていたので、ジャケットを持って来ていて正解だった。
「つってもこの辺って食える店が少ないんだよなぁ....何日目のカレーだよ本当」
車に乗り込み、プッシュスタートボタンを押した。これだけでエンジンが始動する自動車はほぼ全ての車に普及しているものだ。オプションでキーシリンダー式とを選択できるが、諒馬はかなりの面倒くさがりなのかボタン式を迷わず選んで車を購入していた。数分近く車を走らせ、目的の店に到着した。入口に置かれているカレーのオブジェでどう店なのか一目瞭然である。
「隣の店潰れたと思ったら駐車場になってたのねぇ...」
カレー料理店の隣は骨董品店だったのだが、いつの間にか閉業しており現在はコインパーキングとなっていた。諒馬は奥の方に車を停め、カレー料理店へ歩いた。
「いらっしゃいませ~あれ、随分と久しぶりなお客さんじゃない!」
気さくに微笑みかける店員に軽く会釈をし、すぐ近くの席に座った。メニュー表を手に取ることなく店員を呼び、注文した。「久々なのに大丈夫ですか?」と半ば心配されたが、諒馬は「平気ですよ」と聞き流すように答えた。店員が「爆熱++入りまーす!」と厨房に伝えた瞬間店内が一瞬静かになった。諒馬から見て斜向いの席で食べていた少女もぎょっとしたような顔をしていたが、彼は見向きもせずいつも通り携帯電話でニュースを読んでいる。
(証券取引所も動きが速い、特にこういう時は...更生法使おうたって、ZeuSの屋号は呪いみたいなものになってしまってる...これが現実なんだよな)
諒馬はコップの水をひと口飲み、携帯電話から目を離した。丁度注文していたカレーがテーブルに運ばれた。
「極限の熱さを受け入れろカレーです!」
「今思いついたみたいな名前ですね!?」
「バレちゃったかぁ...いいと思ったんだけどなぁ」
「こっちが恥ずかしくなるから勘弁してくださいよ...いただきます」
店員が楽しそうに厨房に戻り、諒馬はいよいよカレーを味わえるようになった。この店ではカレーの辛さを段階的に選べるようで、一番辛いとされるのが「爆熱」と呼ばれるものだ。今しがた諒馬が注文したのは、ほぼ彼の為と言ってもいいようなメニューである。カレーのルウが赤く、スパイスの強い香りと温度が相まって見ているだけで涙が出てくる代物だった。この男、水崎 諒馬は超が付くほどの辛党なのだ。
次 回 予 告
ビルドシステムとビルドブレイズの親和性をテストし終えた後の諒馬を待っていたのは、かつての同僚だった男"東郷 純一"。彼は諒馬に対し"事件を追うのはやめた方がいい"と忠告を受ける。だが諒馬はそれを気に留めずダイバーズへ飛び込む。そして何気なく対戦に入った所、初っ端から命知らずの戦い方をしてくる馬鹿と出会う。水崎 諒馬はこれにどう対処するか。そして襲って来た機体のダイバーとは?
次回、創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius
"File.2 怒りのKNUCKLE"
次回もゆるっとお楽しみに!