※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

23 / 71
File.22 歪みを生んだFIRESTARTER

諒馬が研究室を後にしてから、1時間が経った。帰国するまでに調べた事は全て伝えたつもりだったが、門松自身はこれで良かったのだろうかと持ち帰った資料を広げていた。

(篠原博士があの後、ハザードの基礎理論の原本を持ってZeuSから姿を消した.....だが完成形は会社が持っていて、それを使って実験をした...それなら7次もあった開発報告書は何だったんだ.....?)

当時の記憶を辿っても、やはり歳のせいか朧気であった。ZeuSの"情報処置"が完全になされなかったのは幸運とも言えるが、こればかりは避けられぬ物。ノートマシンを開き、当時の事を記録したファイルをダブルクリックした。正気を半ば取り戻しかけた頃から、ZeuSでの会話は全て録音していた。後に証拠として使えそうな物もいくつか画像やPDFとして残しているのだが、これもZeuS事件の規模に比べればほんの氷山の一角に過ぎないのだろう。

「割りかし近い所にいたもんだと思ったけど....本当にそうじゃなかったとしてもおかしくは....ないよな....全くどうなってんだ俺の古巣は....」

この時間に液晶画面と向き合い続けるのは、年齢的にも辛いものがあった。眉間を指で抑えつつ席を立つが、今度は腰に痛みが走る。

「はぁ〜......歳は取りたくねぇなぁ.....しっかし、どこまで俺の推理が通るのかねぇ......」

ふと窓の外に目をやると、夜空に満月が浮かんでいた。教え子の一人からこんな事を言われた。"あの娘は、月が似合う女の子ですね。三日月じゃなくて、満月が良く似合う気がする"と。娘の事を言ったのだとは知っているが、それを初めて実感したような気がした。

 

ガンプラダイバーズ交流広場第5区画。リョウマは舞夜に呼ばれ、教会らしき建物を訪れた。入口で彼女が待っていた。

「どうしたんだよ、いきなり呼び出すなんて」

「事態が悪くなりました。最早一刻の猶予すらも無いでしょう」

舞夜は相変わらず生気を感じさせぬ顔だが、口調だけは感情がこもっていた。

「何だ?何があった?」

「これを」

リョウマが聞き返すと、舞夜はコートの中から歪な形をした紫に輝くナイフを出した。リョウマはぎょっとして刃先を眺め、目を瞬いた。

「......ナイフ?気持ち悪い形してんだな...」

「これはただのコピーですが、どうやらオリジナルは自在にクラックゾーンを生成出来るようです。これを持った集団を目撃しました」

「クラックゾーン.....!?分かるように説明しろ!どうなんだよそれ!?」

「申し訳ありません....私も一瞬しか見ていなかったので、詳細までは。コピーを作るので精一杯でした」

「コピーを作れるならしっかり見てたんじゃないのか.....」

「少しでも視認できればその位は可能です」

リョウマは目眩を起こしそうになった。クラックゾーンを生み出せると言うナイフの存在。考える余地もなく、アーネストの誰かがそれを作ったに違いない。リョウマ達の行動など最早彼らの眼中にはなく、想像など遥かに超越して動きを起こしているのだ。もうリョウマ達だけではどうにもならない所まで、後一歩に迫って来ていた。兎にも角にも、舞夜がこの事態を見つけてくれなければ、対策を考えるきっかけすらなかった。それだけが唯一の救いに思えた。

「まぁ、分かっただけでもありがたい。助かった。後はそのオリジナルを押さえなきゃなんないって話か....」

リョウマが思考を巡らせる。舞夜はそんな彼を見て、先に助けてくれた男の事を思い出した。

「諒馬。少しよろしいでしょうか」

「どうしたよ」

「あなたの事を知る人と会ったのですが、ご存知ですか?「深く関わるつもりはない。水崎さんによろしく言っておいてくれ」と言付かりました」

「いいや、知らないな.....取り敢えず、ナイフの手掛かりを探さないと話にならない。どうにかして見つけ出さないとな....」

それだけの話で分かるはずがない。舞夜は質問を間違えたと内省した。リョウマに付き従い交流広場内を歩く。

「なぁ、俺もお前に聞きたいことがある」

リョウマが突然立ち止まり、舞夜に向き直った。

「お前.....俺の事を全部知ってるんじゃないのか?」

「なぜそのような事を?記憶はほとんど保持していないと申し上げたはずですが」

しかし舞夜はいつか聞かれるのではと危惧していた。記憶が上塗りであっても、勘の鋭さはそのままなのだから。だがここで話してしまう訳には行かなかった。話せばきっとリョウマは戦えなくなってしまう。きっとどこかで自分の最期を知ったから、そのような事を聞くのだろう。しかし舞夜も死んだとは言え人間だった。本当の心のまま諒馬と話がしたかった。でもそれは叶わぬ事。今の自分はただリョウマの力となり、ダイバーズの平穏を取り戻す。その為だけの存在でしかない。

「そうやって黙っていたいんだな......もういい、どの道俺の事は重要じゃねぇ。済まなかった」

「....行きましょう。現場は恐らく残っているはずですから」

リョウマが動揺を隠そうとしている。舞夜にはそれがすぐに分かった。いつ何かがトリガーになって完全な記憶を取り戻してもおかしくはないだろう。かく言う舞夜も機微を読み取られぬよう唇をきゅっと結んで、目撃したポイントへとリョウマと共に転移した。舞夜の言う通り、微小ではあるがクラックゾーンが開いていた。バリケードが周囲に設置されており、一先ずの隔離がなされた状態である。

「これか.....やばいな。にしても運営も手が早かったんだな、一応の隔離はしてある」

リョウマはクラックゾーンを睨むように見つめ、再び黙考した。舞夜が見せたナイフのオリジナルは、確かに悍ましい効果を持っているのは事実だ。となると問題は、それが流布していないかどうかと言う話になってくる。集団で使っていたのを考慮すると、何も知らない人間の手に渡り、取り返しの付かないことになるのはもう、時間の問題だ。

「アーネストの連中に問い質すのが早い....が、口を割るとも思えないな.......?」

ふと視線を向けた先に、異様な気配を感じた。真紫の影が一瞬だけだが見え、リョウマは目を細めた。

「諒馬?」

「どうやらもうダメらしいな、俺達のことも目をつけられてるんだろうぜ」

リョウマは紫の影を追って走り出した。舞夜も慌てて屋根へ飛び移り、上空から追跡を始める。舞夜の右目の光彩が赤い光を灯した。

(アレか.....承知!)

視線の遙か先に人影を見つけ、ズームを最大にした。間違いない、ナイフを持っていた連中と全く同じ姿だ。舞夜はすぐさま最短距離を計算し、更に勢いをつけて跳躍、ターゲットとの距離を詰めた。

「諒馬、私ならすぐに追いつけます!身柄を押さえ次第連絡します」

リョウマに音声通信を送り、走行速度を一気に上げた。もはや人間の走りではない速さでビルの上を飛び、あっという間にターゲットとの距離は目と鼻の先へと詰め寄った。コートの中からワイヤーガンを引き抜き、ターゲットの足元目掛け射出した。

「もう逃げられません。観念していただきます」

舞夜は一気に跳躍して降り立ち、ターゲットの身柄を拘束しようとした。その刹那、ターゲットはぐるりと身を翻し舞夜の首元にナイフを向ける。それは舞夜がコピーしたものと同じ、紫色に輝く歪な形をしたナイフだった。やはりこのターゲットもまた、交流広場にクラックゾーンを作ろうとする集団の一人であった。

「離せ!でなければこれで首を落とす!」

「女.....?なぜそのナイフがあるのに、私に恐怖するのですか。いや、そのナイフを恐れているのはあなた自身....間違いありませんね?」

明らかに若い女性の声。そしてナイフを持つ手が震えている。これでは押し当てるまでが限界だろう。しかし舞夜の推察を振り払うかのように、少女はナイフを突き出し刺し殺そうとした。だが舞夜は素早く彼女の手首を掴んでナイフを落とさせ、そのまま地面に組み伏せた。リョウマも間もなく合流するが、舞夜が押さえたターゲットの正体に困惑した。

「スワンと歳が近い人まで関わってんだ.....これが、あのオリジナルって奴か。成程」

リョウマは足元に落ちていたナイフを拾い、刀身を眺めた。グネグネと歪んだ刃だが、アメシストを削って作ったような美しさも兼ね備えた何とも不思議な得物だ。

「さて、君から話を聞かせてもらえるかな。何で君がこんなものを持っているのか。これで何をしようとしているのかを、ね」

リョウマ達は人気の無いショッピングセンターの様な場所を訪れた。舞夜にはターゲットの拘束をしてもらいながら、落ち着いて話のできる場所を探していく。休憩スペースと思しき場所を見つけ、そこで話を聞くことにした。妙な事にターゲットは無抵抗のまま、椅子に座った。

「ここまで来たら誰もやって来ない。さぁ話してもらおうか、このナイフで何をしようとしていた?」

リョウマが問いかけるが、やはりターゲットの少女は黙秘して答えない。角度のせいかフードで顔の半分が隠れ、表情も分からない。今度は舞夜が質問をする。

「このナイフは、クラックゾーンと呼ばれるセキュリティホールを生み出す機能があります。内部からダイバーズを壊すだけの力があるのはご存知ですね?」

しばらく間をおいて、その少女は舞夜をちらりと見てまた手元に視線を戻した。

「知らなかったら、そのナイフの事なんて知る由もないですよね。何でそんなことを聞くんですか...」

「いえ。認知せずとも手に入れられる可能性はあります。集団で利用するだけの数があれば、どこかで流通してもおかしくはありません」

「それこそ私が知るはずの無いことです.....いい加減離してください!でなければ運営に報告しますよ!?」

少女はおもむろに立ち上がり、舞夜に詰め寄った。しかし彼女はただ少女を見つめて首を横に振るだけ。

「別に言っても構わない。既に狙われている身なんでね。だけどそれ以上に問題を起こしているのは君自身なんだ。このナイフがある事で....」

「うるさいッ!!」

リョウマの話を遮り、少女は声を荒らげた。リョウマを見る彼女の目は鋭く、殺意が見え隠れするほどだ。

「あなたは何か大事な物を失くしたことがあるの!?何も知らないくせに!何も分からないくせにッ!!あなた、ZeuSの人なんでしょ!?だったら返してよ!返してよッ!!私の大切な人を返してッ!!」

「ああ、何も知らないな。本当なら知ったこっちゃない。だけど被害者がいるってんなら...放ってはおけない」

リョウマは静かに返し、舞夜が彼女を座らせた。だが少女は舞夜にも詰め寄る。

「あなたなら分かってくれるはず....そうでしょ?大切な物を失くした時の辛さが、悲しさが....!」

「.....元より私は、何も失くしてなどいません」

舞夜は本心のまま話したが、少女はそれでも食い下がった。

「嘘よ!あなたの目を見たら分かるもの!何もかもを失くしてるって!」

「失った物はないと申し上げました。この事については、それ以上はお話する事はございません。諒馬」

「悪い、舞夜。俺はZeuSの人間だったが、今は凡そ正反対の立場にいる。ZeuSが起こした惨劇....その傷跡を修復するために行動しているんだ。もちろん関わってしまった人を守る為にもね。だから教えて欲しい。このナイフは一体何なのかと」

リョウマの眼差しは真剣そのものだった。しかし少女は素直に信じる気にはなれない。ZeuSによって大切な物を奪われ、ガンプラダイバーズと言う楽園を地獄へと塗り替えたのだから。今更何を言われても受け入れられるはずが無かった。無論、そのつもりもない。

 

Romanesque。英梨は帰社してすぐに記事の続きを書き始めていたのだが、その折に知り合いの報道記者から一本の電話が入った。疲労も溜まりつつあった頃にいきなり連絡とは、と英梨は溜息をつきそうになりながらも受話器を取った。

「はい、Romanesqueの神宮寺です。何かありました?」

「TVTの増田です。たった今百崎 翼の保釈が確定しました!警察の会見もすぐに始まります」

馬鹿な。英梨はそれしか言えなかった。翼の実刑判決と執行開始は来週のはずである。それがどういう訳か識らぬが、突然今日になって保釈されるのか。英梨は平静を保ち、その話の続きを聞く。

「何かしら前触れのようなものは?何も無かったんですか?」

「同僚が取材に行った時には、既に確定していたと言ってました。僕らも神宮寺さんの記事に突き動かされて取材を再開したけど、まさかこんな事になるなんて....」

「一体何だって言うの、こんなタイミングで保釈って.....すいません、すぐに向かいます!」

英梨は受話器を置くと、ジャケットと帽子、仕事道具を詰めたバッグを持ってオフィスを出ようとした。その矢先編集長と出くわした。

「あらぁ英梨ちゃん?精が出るのねぇ」

編集長は誰がどう見ても"体格のいいおっさん"なのだが、オカマ口調と言う変わった人だった。しかもこれで平常運転である。

「百崎 翼が保釈されたとタレコミがあったので、現場に急行しようかと」

「その話なんだけど、ウチはこれ以上乗らないことにしたわ」

意外過ぎる決断だった。社内で英梨の事を誰よりも理解する編集長が、まさかZeuS事件の記事から手を引く判断をしようとは。背中を押してくれるものだと思った英梨は、ただ目を丸くして言葉を詰まらせた。

「ど、どうしてですか!?」

「これは私のカンだけど....英梨ちゃん、本当に殺されるわよ、ZeuSに」

「それは覚悟の上です!だけど見過ごす事だって出来ないじゃないですか!」

「気持ちは分かるけど....こないだ英梨ちゃんが出した記事の事で、脅迫メールとか電話が来るようになってねぇ....」

「え......」

寝耳に水だった。確かに先日週刊ROMANESQUEのネット版記事には、門松からもたらされた情報を基にした内容を盛り込んでいた。恐らく多方面から反応が来る事は予知していたが、有ろうことか会社が脅迫されるとは考えてもみなかった。ZeuSは既に消滅した法人格だ。翼自身の信奉者も社会の中に埋もれ、発言力はとっくに失っているはずだった。更に編集長は続ける。

「英梨ちゃんが知らないって事は、きっとそう言うはっきりした意思表示のように見えるの。あなたを殺そうって言うね。だから私決めたのよ。英梨ちゃんも会社の皆も守るために、このヤマからは手を引くって。だから英梨ちゃんにも納得して欲しい」

編集長が英梨の肩に手を乗せ、諭した。しかし英梨はもう一歩も引く気はなかった。この事件に関わってきた以上、その全てを明らかにして世間に公開し風化に歯止めをかけると言う責任を感じていた。これは最早、英梨の義務なのである。

「でしたら私は今の取材を最後に、Romanesqueを去ります。その方がきっと被害は少なくて済むはずです」

「ちょっと、英梨ちゃん!?何を言っちゃってるのよ....!?」

「後任とかあるでしょうけど、彼なら私のスピリットをきっちり受け継いでいますから大丈夫です。私はそう信じてますから。高岩だっているんだし、不安要素はないでしょ!」

英梨はニッコリと笑って見せ、廊下を急いで通り抜けた。

「"親不孝"な"娘"を許してください、"お父さん"......!」

編集長には色んな所で世話をかけてもらった。その恩返しはきっと自分が彼の後任になる事だと分かっていた。しかしそれでは英梨自身の義務から、何より運命から逃げているのと同じようにも思えた。きっと自分はどこまでも現場の人間なのだと苦笑しながら、車に乗り込んだ。現実世界でも、既に一刻の猶予もなくなった。もうここから先はスタートを切ると絶対に後には引けない戦いが始まるが、英梨は初めから覚悟の上だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。