創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「翼が保釈された......!?」
今日も怜の眠る病室を訪れた門松だったが、突然英梨から掛かってきた電話に耳を疑った。可能性は0ではないと思っていたが、まさかこのタイミングで保釈されるとは門松も予想外だった。
「神宮寺君、こうなっては何が起こるか分からん。出来るだけ慎重に取材を進めろ。無理なら手を引く判断もしろ、いいな?」
「何を言ってるんですか、こんなチャンス滅多にないんですから出来る限りのことはします。もう私には後ろ盾がないから、何だってできます」
「どういう意味だ?」
「私、この事件を最後にRomanesqueを辞めることにしました。結局私も過去に縛られたままだったって事です。あ、大丈夫ですよ死ぬ気はありませんから!それでは!」
電話がぷつりと切れ、門松は呆然と怜を見つめたまま立ち尽くした。
「このタイミングで保釈だと.....!?」
急いでテレビの電源を入れると、ちょうどZeuS事件に関する報道が流れた。翼が拘置所から護送されて行く様子も映されている。門松でさえ、この先に翼が何をしようとするのか皆目見当がつかなかった。ZeuSは法人格としては消滅し、"連合"に属している企業は全てアーネストに追従する流れだ。翼に残された手段は皆無と言っていいだろう。だが門松には、もう一つ当てがある人物に思い当たった。
「徹・アルマーニュ.....奴なら翼を欲しがる....その為の保釈を手引した.....それしかあり得ない!」
至極単純な予想だが、門松は彼らが昔から親しい間柄だと言うのを知っていた。そもそも翼が発動させようとした"計画"も、徹との間で骨子となる物は用意していたという。その為のJOKERの開発再開や、ハザードシステムの凍結解除が行われているなら、全てが繋がる。彼らの理想郷を完成させる為に、その地に相応しい人間をハザードシステムで選び、漏れた者をJOKERの圧倒的な力を以て葬り去る。自己中心的な選民思想の具現化に等しい計画だった。だがその計画は途中で歪められる。翼が自身の為に計画その物を私物化して進めた。徹はこれを面白く思わないはずだ。しかし翼の陣営が蓄積した技術や人脈は無視できるものでもない。尤も、その殆どは門松が押さえており封印しているから、上手く行く可能性は低くなっている。翼自身がどれだけ保持しているのかは分からないが、期待値は低いだろう。そんな彼を徹が必要とするならば、答えは一つしかない。実験台、つまりはモルモットだ。
「なんてこったい!人が人を食い物にするなんて.....どこまで腐ってんだこの事件は!」
アーネスト・ホールディングス本社社屋、地下駐車場。一台の黒いリムジンが進入し、入口付近に停車した。
「ここがアーネストか.....ZeuSの栄光無き今だからこそここまで成長できた.....しかし当時の我々と同じ立場。舞台としては申し分なかろう」
運転手がドアを開け、車から降りたのは百崎 翼だ。助手席から結利香、後部座席の反対側からは純一も降車する。
「社長がお待ちかねです。すぐに参りましょう」
「ああ、行こうか」
純一が先導し、徹が待つ社長室へ向かう。社屋を貫くエレベータからは、オフィス街を一望できる。しかし翼は景色など目もくれず、ただじっと最上階へ到着するのを待っていた。
「私の命が終わると分かれば、ユピテル財団も黙っていまい。だがこうもすんなり行けてしまうと、却って奴らから怪しまれそうで怖いが」
そう言うが、翼は涼しい顔をしていた。
「どちら道あなたの力になりたいと思う者は、既に早い段階から手を回してくれました。人望がそうさせているのです、百崎社長」
「ここでそう呼ぶな。君と私では対等でありたいのだよ。何かと見えぬところで働いてくれたのだからね....こういった所で助けになってくれるのなら頭が上がらんよ」
純一と翼のやり取りを横目で見ながら、結利香は苦虫を噛み潰したような顔をした。ユピテル財団からの指示で監視に出向いているのに、いきなりそれを反故にされたのだ。そしてあの記者から受けた一言が、まだ胸の中をグルグルと回っていた。もう過去を捨てて、自分の信念の為だけに生きていくつもりが再び揺らごうとする。何が正しくて間違っているのか、彼女には見えなくなりつつあった。最上階に到達し、結利香が開ボタンを押した。翼は彼女に一言礼を言うと、そのまま真っすぐに社長室へ歩き始めた。ドアの目の前に来ると純一がセキュリティ装置にカードキーをスキャンし、虹彩認証を行った。すると内部に通信が繋がった。
「東郷です。百崎 翼氏をお連れしました」
ドアは自動でゆっくりと開き、徹自ら出迎えた。
「やぁ。しばらく振りじゃないかな、百崎 翼君。会いたかったよ」
「私も君と再び歩き出せるのを心待ちにしていた」
徹は翼を部屋に招き入れ、純一達を戻らせた。この部屋は間もなく密室となり、徹と翼二人だけの空間へと変化した。
「獄中生活はどうだったかな?見た所そう変わってないようだけど」
応接用のテーブルにつき、徹が冷蔵庫からよく冷えた緑茶をグラスに注いで翼に差し出した。
「根掘り葉掘り聞いても構わないが、それだけで一冊の本になってしまうだろうな」
「それは困るね。犯罪者が増えてしまう....さて、君の保釈には僕も僅かながら支援したんだ。上手く行ってよかったよ。しかしどうするつもりなんだい?ZeuSは消えてしまったよ」
「アーネストを第二のZeuSへと昇華させる」
「そう言うと思ったよ。君があの結果を見てさぞ悔いたんじゃないかと見てたが....それで、僕ともう一度手を結ぶ気になってくれた、と?」
「そうで無ければ私は世間に戻ってくるまい。今一度、また力を合わせられればと思うが」
二人の間に特に殺伐とした雰囲気はなく、むしろ古い友人同士の寛やかな空気が流れた。しかし互いの胸の内では、場の空気とは正反対に読み合いに近い心境だった。互いが互いを利用せんがための、静かな掌握権の奪い合いが始まろうとしていた。徹は思い出した様に、執務用の机からガラス製のケースを運び、テーブルの上に置いた。
「保釈祝いにでもこれはどうかなと思って用意したんだ。気に入ってくれると嬉しいよ」
徹がスイッチを押した。すると5方向を囲むガラスから色が抜け、無色透明へと変化し中の物が見えるようになった。翼はその中身を見るや愕然とした。なんとその箱には翼自身の力の証明となった、ガンプラが入っていたのだ。
「フリューゲル.....!?馬鹿な、なぜここに...!?」
「ただのフリューゲルガンダムとは思わない事だ。よく見たまえ」
よく見てみると、似通っているのはシルエットだけで躯体その物は全くの別物であった。その姿に翼はある物を連想する。
「JOKER.....とでも言うのか.....」
「君の有していたフリューゲル、そして僕がもたらしたバルトアンデルス....双方の力をJOKERと言う器に集束させたんだ。その名もフリューゲルガンダムΩ....この力さえあれば君は再び、頂点に立てる。そして全てが思いのまま」
徹は翼に耳打ちし、窓の方へと歩く。これで翼がどう答えるかは一つに絞られる。しかし相手はその百崎 翼なのだ、油断だけはできない。
翼の保釈から僅かに遡り、ガンプラダイバーズ交流広場第5区画にて。リョウマと舞夜による、ナイフの持ち主への尋問が続いていた。
「君がはっきり答えてくれなければ、またこのナイフを持った奴が更に誰かを奪っていく事になる。君はこのナイフをどこで手に入れたんだ?何に使うつもりだったんだ?俺達が知りたいのはその2つだけだ、答えてくれ」
ナイフの持ち主たる紫のフードの少女は依然押し黙ったまま、リョウマの質問にも舞夜のにも答えなかった。脅されて言えないのなら、一瞬でも動揺が見え隠れするものだが彼女の場合は、自らの意思で黙秘を貫いているように感じられた。そこが一番の謎でもあった。リョウマとしては、一番恐れている動機は"復讐"だ。このナイフには途轍もない力が秘められている。これでガンプラダイバーに対し、直に刺突した場合どうなるのか全く想像がつかない。恐らく生成したクラックゾーンの中にダイバーが飲み込まれ、そのまま消滅する可能性がある。もしその通りであれば、間違いなくテロ行為そのものでしかない。舞夜の目撃証言でこのナイフを有するのは、目の前にいる彼女だけでないのは事実だ。仮想世界に向けられたいちプレイヤー達によるテロなど、前代未聞である。
「恐らくあなたはダイバーズが憎くて仕方が無いのでしょう。ですが同じだけダイバーズを愛している人もいます。地獄に作り変える事なんて簡単にできる。もしそうなれば、必ず苦しむ人は少なからず出てくるでしょう。あなたはその人達に対して責任を負えるのですか」
舞夜の一言に、少女はリョウマを睨み声を震わせた。
「あなた達に言われたくない....!ハジメ君も、お兄さんも.....誰も何もかも消えたのに何もしてくれなかった!詫びることもしないまま逃げていった貴様達に、何も言う資格なんてない!!」
リョウマは返す言葉が見つからず、ただ黙って彼女の目を見る事しかできなかった。彼女が言う事は道理だった。ダイバーズを地獄に作り変えた大規模過ぎる実験。そのせいで失った物は計り知れない。そして現に大切な人をZeuSによって奪われた被害者は目の前にいる。リョウマは自分の記憶が上塗りであることが、ここまでもどかしく感じられたことが無かった。膝の上で握っていた拳が震える。本当に自分は、どこまでこの事件を理解できているのだろうか。知識や情報などではない、被害を受けた人間の感情や願いを今のリョウマが受け止められるのか。2度と同じ過ちを繰り返さない為に、事件の傷跡を消し完成させたビルドシステムで、ダイバーズを在るべき姿に戻す。その答えに帰結するとしても、決定的な何かがリョウマには欠けていた。
「....!?やめなさい!!」
突然少女が机を蹴り付け、ナイフの落ちた勢いで拘束ワイヤーを切断した。舞夜は急ぎナイフを回収しようとするが、それよりも早く少女が手にして最寄りの壁に突き立てた。
「クラックゾーンは.....こう使う物....!」
「止せッ!!何考えてんだ!?」
リョウマが少女を抱き寄せて止めようとしたが、腰に回し蹴りを受けて反撃を喰らい失敗に終わった。少女はクラックゾーンの中に飛び込み、姿を消してしまった。
「諒馬、マーカーはつけています。第2区画からバトルエリアに進みました」
「あの一瞬でか!?どうなってんだクラックゾーンってのは.....行くぞ!!」
リョウマと舞夜は交流広場第2区画へ転移し、そのままバトルエリアへと進んだ。
(何だ、この戦場を取り巻くオーラは.....プレッシャーとでも言うつもりか....?)
ナイトシーカーの舞夜は、バトルエリア全体を包み込むような殺気に、顔をしかめた。人の憎しみと言うのは、こうも簡単に広がり離れた人間にも伝わってしまうものなのか。生前の自分の体質がそうさせているのか。さっぱり分からなかったが深くは考えない事にした。ビルドレイザーの姿を認めると、機体を追従させた。
「レーダーの範囲最大、いやそれでも見つからないのか.....ウェポンビルドアップ」
リョウマはレーダーのモニターに反応が映らぬと気づくと、即座に拡張レーダーユニットをビルドした。これを展開することでレーダーの有効範囲を拡大させられる。ビルドレイザーの手元から離れたレーダーユニットは、分散する様に飛び立ち遠くへと向かった。ナイトシーカーも対象に含まれているようで、舞夜もレーダー有効範囲の変化に気がついた。しかしそれでも敵影の姿は見当たらず。
「時間帯でしょうか」
「かもな。見つかるとしたらさっきの娘くらいのはずだ....いや、ビンゴだ。さっきのマシンが壊されてんな....奴だろ!」
ビルドレイザーのモニターに被弾通知が現れ、リョウマはフットペダルを強めに踏み込んだ。ビルドレイザーのバックパックにジェミナス用のバックスラスターをビルドし、加速しながらスペースコロニーの中へと飛び込んだ。
「これは.....インダストリアル7か!?」
バトルエリアは何と、"ガンダムUC"に登場したアナハイム・エレクトロニクス所有の工業コロニー、インダストリアル7であった。
「諒馬、来ます!」
「ファンネルか!」
突如上空や足元からビームが飛来し、ビルドレイザーとナイトシーカーは巧みなスラスターさばきで回避、敵の位置の把握を急いだ。しかしファンネルの攻撃はどれも正確で、舞夜でさえ集中を切らせてはならないと思わせた。
「奴はファンネルに慣れている......これだけのコントロールは並の者には出来無い」
ナイトシーカーは素早く着地すると、壁キックやジャンプを駆使して上下左右にジグザグ運動しながら、索敵を急いだ。人間並みの運動性を有しているナイトシーカーだからこそ可能な芸当だ。一方のビルドレイザーは、ダミーバルーンを大量にビルドし、ファンネルの攻撃を逸しながら都市上空を航行していた。右手にはビルドライフルでは無く、ビームスマートガンを装備している。
「舞夜が先か俺が先かだな.....何!?コロニーの外だと!?」
レーダーに反応が映り、リョウマは見上げたが敵の姿が見当たらなかった。だが"運河"と呼ばれる事もある採光用の窓からは、薄っすらと緑色の影が見え、機体を急上昇させた。
「成程、あれが正体ならファンネルにも納得が行く!舞夜、奴はコロニーの外に.....また別の反応!?今度は何だ.....!?」
コロニーのエアロックへ向かう道中、また別の熱源反応がレーダーに感知された。リョウマはぎょっとしてその方向に目をやる。真っ黒なガンダムフレームがこちらを眺めているのが視認できた。
「グロック・ルーツ......!?またお前の差し金か!?」
「Bravo!ご名答だよ水崎君!しかし真っ先に疑われるのは何か悲しいなぁ」
リョウマはウヴァルスタークを睨みながらナイトシーカーにメッセージを送り、ファンネルの主へ向かわせた。今ここでグロックに邪魔される訳には行かない。ビルドレイザーはビームスマートガンでビルを撃ち抜き、ウヴァルスタークを浮き上がらせた。
「おいおいいきなりかよ!侘び寂びも何もあったもんじゃねぇな!?」
「何の話をしてんだ!お前に邪魔される訳には行かないんだよッ!!」
ウヴァルスタークがライフルを連射する。それをビルドレイザーは掻い潜りながら接近し、バックパックからビームサーベルを抜き放ち、袈裟斬りを仕掛けた。だがウヴァルスタークは左肩のシールドで防ぐと、ビルドレイザーの胴体めがけアッパーをぶつけた。すかさずビルドレイザーも反応して拳を受け止め背負い投げの要領で地面に叩きつけ、右腕にドリルクラッシャーを形成した。
「ウェポンビルドアップ!!」
ウヴァルスタークの顔面目がけてドリルクラッシャーを叩き込むが、それよりも速く振り上げられた蹴りを頭に喰らい、大きくよろめいてしまった。
「そんなもんじゃ勝てないなぁ....そんじゃ、ちと遊んでやるか」
ウヴァルスタークはライフルを放棄すると、リアアーマーから巨大なチェーンソーを装備した。ギュインギュインとけたたましい駆動音を鳴らしながら歩み寄り、一気に振り上げた。超振動分子カッターと同じ素材で作られた刃、そして10000rpm相当の回転数が加わり一振りだけで凄まじいダメージを与えてしまう、まさに殺意の塊のような武器である。ビルドレイザーはシールドの形成を間に合わせられずまともに受け、胸部装甲に裂傷を負いビルに倒れ込んだ。
「チェーンソーがあんな力を持つのかよ....最悪じゃねーか...!」
「ん?もう終わりか?常岡の方が骨があるんだな、こりゃ期待はずれだ」
ウヴァルスタークは一度地面にチェーンソーを当て、じりじりとビルドレイザーに向けて動かし始めた。グロックとしては敢えて猶予を与えるつもりだった。力の差をハッキリさせるにはまだ早過ぎる。そう考えての選択である。
「終わったと思うなよ.....ユニットビルドアップ!」
ビルドレイザーのバックパックに、円形のヴォワチュール・リュミエール発生装置が形成された。その直後に右腕に再度ドリルクラッシャーもビルドし、ヴォワチュール・リュミエールの圧倒的な加速力を持って強引に前進。ウヴァルスタークのコクピットめがけドリルクラッシャーをねじ込み、衝撃と掘削を加えて撥ね飛ばした。これにはグロックも舌を巻き、作戦を切り替えようと頷いた。ウヴァルスタークは空中で受け身を取り、シールドに内蔵されたビームキャノンを斉射した。ビルドレイザーは即座にバックパックを別のものにビルドする。同じヴォワチュール・リュミエール発生装置でも、今度はより戦闘向きのデスティニーガンダムと同型である。