創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
舞夜のAGE-1ナイトシーカーはファンネルの嵐の中を突っ切り、コロニーの外に出て敵の正体と対面した。純白の装甲を身に纏った、"顔の無い"クシャトリヤ。モニターには"クシャトリヤ・コープスブライド"と表示された。直訳すれば死人の花嫁。何とも恐ろしい名前である。
「E-002.....それがあなたの名前ですか」
舞夜は静かに問うた。
「残念です......あなたとなら分かり合えると思っていました。でもそれがどうしても無理と言うなら.....」
クシャトリヤ・コープスブライドが後ろへステップし、4方のバインダーからファンネルを射出した。全方位からの攻撃をナイトシーカーはすり抜けながら外壁に降り、蹴り付けて跳躍。腰から鉈型の実体剣"シグルスラッシャー"を引き抜き、くの字を描きながら近づきつつ居合斬りを見舞った。しかしクシャトリヤ・コープスブライドの反応も速かった。即座に手首からビームサーベルを発し、シグルスラッシャーと斬り結んで素早く後退した。左手のビームガンを執拗に撃ち込みながらファンネルで袋叩きにしようとするが、ナイトシーカーには全く通用しなかった。飽和攻撃の類をすり抜けるのは舞夜の得意技なのである。ナイトシーカーがスパローベースなのは、そう言った理由があったのだ。ナイトシーカーは両足にマウントしたスパロクナイを回転し、蹴りと同時に斬撃を加えた。クシャトリヤ・コープスブライドがバインダーにビームシールドを展開し、攻撃を一旦受け止めカウンターとしてもう片方のバインダーから隠し腕を伸ばして、ビームサーベルで斬りつけた。舞夜はとっさの判断で、ナイトシーカーにコープスブライドのバインダーを踏み台にさせて体勢を立て直し、再び接近を試みた。右腕のシグルスレイヤーの一撃をサーベルで防ぎ鍔迫り合いに持ち込むと、少女は引きつったような笑みを浮かべた。
「あなたもあの男と同じ.....そうであろうとするなら斃してやる!」
「私は何も失っていないと言っている!はじめから自分に見えている物だけで考えるからそうなる!もっと周りを見なさい!!」
「うるさい!!あなたはどうせ分かっているんでしょ....私の気持ちが!!なのに知らないふりして.......許せないッ!!」
少女の怒りに呼応するかの如く、コープスブライドのフロントアーマーが可動、ビームサーベルを発振させた隠し腕がナイトシーカーに襲いかかる。
「駄目か....彼女はもう、憎しみに囚われて自我をコントロール出来なくなっている....!」
舞夜はコープスブライドから感じ取る殺気に気圧されるが、それでも冷静さだけは失わず操縦に徹した。隠し腕の一撃を躱し、真横へ回り込んでシグルスレイヤーでバインダーを支えるアームを切断しようと踏み込んだ。だがそこへファンネルが現れ阻まれる。だが舞夜はそのまま機体を前進させた。
「シグルハリケーンを使うッ!!」
左腰にマウントした巨大な手裏剣型ブーメラン"シグルハリケーン"を装備、斜め右前に向かって投擲した。シグルハリケーンはナイトシーカーの周辺を囲うように飛び回り、ファンネルを次々と斬り落とした。少女は舌打ちをし、ウェポンセレクタから拡散メガ粒子砲を選択して追い返そうとする。コープスブライドが拡散メガ粒子砲を放ち、ナイトシーカーは踏みとどまるがすぐに隙間を見つけては飛び込み、あっという間に懐へ突入した。
「そうですね....でしたら私も一つ認めるとしたら....失ったのは自分の感情。しかしそれは私の意思で捨てた物。やはりあなたは私を勘違いしているようですね。私とあなたは違う」
シグルスラッシャーを再び手に持ち、コープスブライドの左前バインダーを斬り落とした。しかし少女は果敢にも全ての隠し腕を使ってナイトシーカーを拘束する。
「自分で感情を捨てる.....?そんなやれもしないことを!!」
「出来たから今の私が在る。もし私に完全な感情があれば、あなたに同調して目的を見失っているはず。でもこうして戦っている。あなたの様な心に苦しみを抱える人を増やさない為に」
矛盾しているのは本人も承知の上だった。苦しむ人を救うには、等しく感情を理解できる人間で無ければ意味がない。だが今の彼女を相手にするなら話が違う。あの子はあのマシンに憎しみを乗せて戦っている。それを許容してしまえば彼女は2度と後戻りできなくなり、後悔すらできぬまま自分自身さえ殺してしまう。舞夜にはその方が耐え難かった。感情を捨てていても、救いたい気持ちだけは心に持っているのだ。
「だからこんな馬鹿な真似はやめなさい!あなたはそんな事を望んで生きてきた訳じゃない!憎しみだけで人が変われるなら、善意で変わる事もできる!!それを信じて生きてさえすれば答えは見えるから.....!」
「この人.....何なの.....!?」
少女は困惑した。感情を捨てたと言っていながら、あの女は訴えかけてきた。何がどうなっているのか理解が追いつかず、ただナイトシーカーを凝視した。
「こんな気持ちの悪い感覚......嫌いだ.....!消えてしまえッ!!」
コープスブライドはナイトシーカーを放り投げ、ファンネルと拡散メガ粒子砲を一斉に放ち葬り去らんとした。
「何故だ.....何故私は.....!?」
舞夜は今しがたの発言を自分で疑ってしまった。感情はとうの昔に捨てきっていたはずで、自覚もしていた。なのに今の自分は何かが蘇ったような感覚があった。当惑しながらナイトシーカーを降下させ、次の一手を出せないままコープスブライドを逃してしまった。
「涙.......!?私はまた......人に戻るのか.....!?」
舞夜は手元を見て目を疑った。機械の体では流せるはずの無い涙。あの異空間でレイ・ブルームーンと出会った時と同じ、弱い温もりのある涙だった。
ビルドレイザーとウヴァルスタークの戦いは、後者のペースのまま進んでいた。それもそのはず、リョウマ自身の腕は並のダイバーと変わらない。頭脳戦を得意としていても、結局はそれ以外の力が物をいう世界だ。ウヴァルスタークがチェーンソーで落下の勢いを利用して斬りかかる。ビルドレイザーはムラマサブラスターをビルドして斬撃で弾き返し、左腕にピーコックスマッシャーを形成、ランダムシュートで着地の隙を狙う。
「何故ビルドシステムが通用しない....!!」
「そりゃ簡単だ。お前さんは確かに天才だが戦いに向いていない。体よりも頭の方が先に行き過ぎてんだよ」
ウヴァルスタークは着地をギリギリで止めて浮上、投げ捨てていたライフルを拾い上げてピーコックスマッシャーを撃ち抜いた。ビルドレイザーは爆発する前に放棄し、続けてパイルバンカー機構と巨大なビルドナックル角を組み合わせた"インパクトナックル"を形成、ホバー移動で急接近して強烈なパンチを叩き込んだ。単に質量攻撃としても強力だが、そこにパイルバンカー機構が生み出す衝撃が上乗せされ、撃墜レベルの威力を発生させる。
「舐めんじゃねぇ!!」
「何だ!?」
ウヴァルスタークはシールドを構え受け止めたが、グロックは見立てが悪かったと舌打ちした。左肩のシールドが凹んだだけでなく、その衝撃が伝わって肩のフレームそのものも機能不全を起こした。当然シールドは弾けとび、ウヴァルスタークは吹き飛ばされた。
「お前の目的を話してもらうぞ、グロック・ルーツ!!」
「そう簡単に話しちゃ面白くねぇだろ?ま、ちとその一端くらいならお見せしてもいいが?......"ハザード"」
「何ッ!?」
グロックはニヤリと唇を歪ませ、コンソールを操作した。コクピットが赤い光に包まれ、ウヴァルスタークも全身の赤いパーツから眩い光を放った。リョウマは"ハザード"という単語に耳を疑い、驚愕した。門松の予測通り、アーネストはハザードシステムを完成させていたのだ。しかしデータの殆どは消滅しているはずだった。
「ハザードシステム.....完成していたのか....」
「骨が折れちまったがな。これを完成させる為に水崎 順子.....お前さんのお袋に会って来なきゃなんなかったしよ....いやぁ、アレは面倒だったなぁ」
グロックが苦労をしみじみと振り返り、笑みを浮かべた。一方リョウマは愕然としていた。死んだはずの母親が生きていただけでなく、グロックのハザードシステム開発に手を貸していたとは。ウヴァルスタークから黒い霧が噴き出し、機体全体を覆う。各部の赤く発光したパーツと、顔の十字型センサーアイ以外が見えなくなった。
「さて試すかねぇ.....ハザードシステム、その実力って奴を」
ライフルを数発放ち、黒い風となって瞬時に背後を取って背中にも接射した。前後からほぼ同時に被弾し、ビルドレイザーは為す術もなく地に伏した。そのままウヴァルスタークはビルドレイザーからムラマサブラスターを奪い取り、昇竜斬りを見舞って無理やり打ち上げ、更にライフルで蜂の巣にした。この間、僅か2秒。リョウマは全身を打ち付け、意識が一瞬消えかかった。
「うぁああああッ!?ぐぅ......何なんだこのスピードは.....!!」
「まだまだこんなもんじゃあないぜ?」
起き上がったビルドレイザーの顔面を左手で掴み、ビルに叩きつけながら駆け抜けムラマサブラスターで両腕を斬り飛ばした。その後巨大ビルにビルドレイザーをめり込ませ、顔面に銃口を向けた。リョウマは全く対応できなかった上に、ウヴァルスタークから強い恐怖心を植え付けられてしまい唇を震わせ視界が揺らいだ。
「これでハッキリしただろう.....お前じゃあ何も変えられない、何も救えないって事が。冥土の土産に教えてやるよ。お前のお袋さん、水崎 順子はまだ生きている。まぁ頭をやられちまってるからお前さんの事も、事件の事も忘れてるがな?だから簡単にデータを引き渡してもらえた。だからハザードがここにある」
「は.......何だ.....と!?」
「比良坂 舞夜が何でお前に殺されたのかも教えてやるよ」
リョウマはもう何も聞きたくないと言わんばかりに耳を塞ぎ、「やめろ、やめろ.....やめろ....!!」と頻りに呟いた。しかしグロックは何かを感じ取ったのか、お構いなしに続けた。
「お前の両親が全部仕組んだことなんだよ。比良坂 舞夜はハザードの事を察知していた。それをお前に伝えて止めてもらおうとした。でもそんな事が読めない親じゃない事は、お前もよ〜く知ってるはずだ。だからお前に殺させたんだよ。邪魔で目障りだから、当然だろ?だが何の因果かダイバーズの中で生き長らえていた...しかも史上初のクラックゾーンを抱えてなぁ」
真実に触れるのを拒むかのように頭を抱える。そんなリョウマを見て、グロックは見限ったと言わんばかりに溜息をつき、続けた。
「全くお前も運が悪いよなぁ?ダイバーズを救う為に、愛してくれた女を2度も殺さにゃならんとは」
「舞夜が.....!?ふざけるな....ふざけるなよ.....!!」
しかしこの瞬間、リョウマの目にあるビジョンが浮かび、思考が完全な破綻へと向かい始めた。生前の舞夜の笑顔。頬に感じた唇の柔らかさ。そして何より、一度だけハッキリと「好き」と伝えられた時の瞬間が強くフラッシュバックする。
「やめろ、やめてくれ!!やめてくれぇ.....ああぁ....あぁ.....あぁあ....!!う、うわぁあああああああああああああッ!!?!?!?」
リョウマは絶叫し、それを合図にグロックが引き金を引いた。ウヴァルスタークのライフルが火を噴き、ビルドレイザーの顔面に風穴を空けた。モニターは激しいノイズが走った後に真っ暗になり、コクピットも暗闇に包まれた。リョウマは震える自分を抱き込むように蹲り、嗚咽した。終いには吐瀉までしてしまい、再起不能な精神状態に陥ってしまう。
それから2時間が過ぎた。そこへ偶然通りかかったブレイヴ指揮官用試験機が降り立ち、ビルドレイザーにマニュピレーターを接触させた。
「おいどうした!?応答しろ!こちらソルブレイヴス隊のグラハム・エーカーだ!ガンダムのダイバーは至急応答せよ!」
何とブレイヴのダイバーはグラハムだった。単に隊員同士での戦闘訓練でここを訪れていたのだが、このエリアを取り巻く不気味な感覚が気になり独自に捜査していた。そしてこのインダストリアル7に行き着いたのである。
「ハワード、レーガン!すぐに合流してくれ!要救助者を発見した!....しかし何だこの被害は.....まるで嵐が通り過ぎたかのようだな....」
グラハムはインダストリアル7の惨状にも驚きを隠せず、眉を顰めた。一体どんなモビルスーツがこんな力を持っていたのか。グラハムには到底予想がつかなかった。まさかサイコガンダムクラスの巨大な機体がいたとでも言うのだろうか。間もなくして、2機のブレイヴ一般用試験機が到着した。
「隊長!....これは一体.....!?」
ハワードがグラハムに回線を開いたが、彼もまたこの惨状を目の当たりにして言葉を失った。
「おいおいこれは酷いぜ....何ていうか、ハリケーンでも来たのかよ」
レーガンもビルドレイザーとインダストリアル7の状況に閉口した。グラハム機の前に着陸すると、3機でビルドレイザーに布を巻き付け、同時に巡航形態に変形して上昇。担架の要領でコロニーからビルドレイザーを運び出し、4機でバトルエリアから離脱して交流広場へ転移した。
ソルブレイヴス隊の拠点は第3区画にあった。軍事基地めいた場所に位置し、まさしく"ガンダム00"のユニオン領の様相である。ここにも巡航形態で待機しているブレイヴがあるが、これらはただのディスプレイで実際に動かせないらしい。司令室の一角でソルブレイヴス隊の面々がリョウマに毛布をかけてやったり、温かいココアを勧めたりしていた。しかしリョウマは一切見向きもせず、ただ震えているだけだった。
「少佐。データがヒットしました。彼のダイバーネームはリョウマ・アルキメデス。所属はないようですが一部の開発者権限を持っています」
唯一の女性メンバー、カリーナがグラハムにウィンドウを見せた。
「開発者権限だと?つまり彼はガンプラダイバーズの運営側という事か.....何という....」
「どうします?開発者であれば迂闊な扱いは出来ませんが」
「どちら道彼から聞かねばならん事はある。すぐに解放なんて出来ないが.....我々の味方についてもらう必要もあるだろう」
ハワードがリョウマの前に座り、タブレットを起動させた。
「他の皆は持ち場に戻ってくれ!もう仕事にならん!いきなりで悪いが君と話がしたい」
リョウマは虚ろな瞳でハワードをちらりと見たが、何も言わないまま毛布に顔を埋めた。ハワードも急かす気はなかったので、暫く様子を見ることにしてグラハムのもとへ向かった。
「あの怯え様、本物です。無理に口を開かせるのは危険かも知れません」
「心理学の心得もある君が言うならそうだろう。そこは異論できまい」
「しかし開発者なんですよ、彼。そんな人がここまで怯えるって....相手は一体何者なんです?」
カリーナはリョウマの様子に若干戸惑いつつも、彼を脅かした存在が何なのか気になった。
「その辺も踏まえて捜査の必要はあるでしょうね。隊長、出撃許可を」
ハワードとカリーナの視線を感じずとも、グラハムもそのつもりでいた。
「カリーナは引き続きリョウマ・アルキメデスの調査を。ハワードはダリルとマックスと共に捜査に出てくれ。私も後に合流する」
「了解!」
3人は敬礼を交わし、いよいよリョウマに深手を負わせた存在を探す事となった。しかし彼らがその存在が厄災そのものであると知るのは、まだ先の話であった。
舞夜は一人、別の区画で路地裏から夕焼け空を眺めていた。何かが見えるからと言うわけではないが、止めどなく流れる涙を物理的に押さえ込みたかった。しかしそんな努力も虚しく涙は零れる。感情は捨てた。そのはずだった。それを崩したのはレイ・ブルームーンだが、恨む事も出来なかった。何故なら舞夜自身がどこかで安心していたからだ。全く理由の分からない安心感。否、理由を考えたくないのかも知れない。しかし大人になって間もないうちに夭折してしまった彼女は、まだ強く割り切って考えられるほど成熟なんて出来ていない。それは誰しも有り得る当然の事だ。一人で泣く事くらいしても大丈夫なのかと自問する。彼女ならどうしただろうか。自分は使命を果たすだけの機械ではない、ただ一人の人間なのだと言ってくれたのはレイだ。誰かに請うわけでもなく、"ごめんなさい"と呟きその場に蹲る。
「私がありのままだったら、ありのままで諒馬と話せたらこうならなかったのかな.....ごめんね諒馬.....ごめんね.....」
自分の事をすべて話せば、きっと諒馬は大事にしてくれる。だがそれでは自分だけが報われる。そんな話があっていいはずがなかった。諒馬の戦いはダイバーズの為にある。彼自身の事より、全ての為に戦う道を選んだ。そんな彼の為になりたくて、捨て去ったはずの物が返ってくる。大人になったばかりだった舞夜は、それをどうすればいいのか分からなかった。ただ受け入れることも、封じてしまう事も考えが及ばないのだ。ただ、今の自分がわがままを言っているのではと不安がるしかなかった。