創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「そうだったんですか.....」
交流広場でスワンは、弘から話を聞き唇を噛んだ。どうやらスワンもあの採掘施設に来ていたそうなのだが、運の悪い事に入れ替わる形で弘が交流広場に戻っていた。二人は公園をやや重い足取りで歩きながら、黒い霧を発する機体がどういう物なのか考え倦ねていた。どう考えても不吉な物だが、何故同じ機能を持つモビルスーツが2機も居るのか不思議でならない。
「しかも俺までおかしくなっちまってよ.....何て言やぁいいんだ?相手が何をするのか読めたりとか、中にいる奴が考えてる事が少しだけ分かったりしてんだ....何だか、気持ち悪りぃし...」
「それって、本当にニュータイプみたいですよね。ガンダムの世界にも、そういう人達がいるんですよ」
そう言いつつも、弘の能力の正体についてスワンには見当がついていた。彼はν-Typeとしての力を開花させつつあったのだ。ウェルスやエルニアと同じ存在へと近づくのも、本人次第だが時間の問題になるだろう。しかし彼らの辿ってきた時間を知るスワンは、あまり喜べなかった。何しろウェルス達は、力を自覚してからも決して幸せとは言えない道を歩んでいたからだ。事件が解決したとは言え、残した傷は一生付いて回る。彼らが絶望することなく平穏を掴んだのは、ある意味奇跡の様に思える。しかし、そうではない者達も少なからず居るのも事実。どうして世界はここまで無情なのだろうかと、嘆きたくもなる。
「そう言えばずっと水崎さん見ませんね....ダイバーズには居るみたいですけど、場所が分からなくなってます」
「あんだけ俺には勝手に動くなってブチキレてたのに、自分はそれかっての.....一番何とかしないと行けないのはアイツかも知んねぇな」
「きっと水崎さんなりに考えがあるんですよ。.....それに、比良坂さんは....比良坂さん.....あれ!?」
スワンはフレンドの欄から舞夜の名前が消えているのに気付き、目を疑った。弘も後ろから覗くが、本当に舞夜の名前が無くなっていた。
「どうなってんだ?お前ら喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんてそんな!どう言う事でしょう、これは.....!?」
正直な所、スワンは舞夜を信用するのは避けていた。それを察したから黙って消したのだろうか。ならば弘のも確認しなければ気が済まなくなった。だが聞くよりも早く、弘も自分のフレンドリストを確認していた。
「俺のからも消えてる.....」
何と弘の方でも消滅していた。そうなると、スワンの想像は更に最悪な方へと舵を切らざるを得ない。彼女の身に何かが起きているかもしれない、と。その時だった。スワンのもとに一通の音声通話申請が届いた。
「グ、グラハムさん....!?どうしていきなり.....!?」
かつての仲間の一人、グラハムからの連絡だった。スワンは慌てて申請を受諾し、応答する。
「お久しぶりです、グラハムさん。どうかしたのですか....?」
「済まんが挨拶は後にしてもらおう。直ちに指定のポイント....いや、こちらから向かった方が早いか。とにかくそこに居てくれ!我々が迎えに行く!では!」
「えっ!?えぇっ!?....切れちゃった....じゃなくて、何で何も説明しないんですかもう!」
全く要領を得ない連絡に憤慨するスワン。弘はただ黙って見ているしかなかったが、こちらへ向かって走って来る連中を目の当たりにし、スワンを振り向かせた。
「おい。アレなんじゃないのか」
「あ......!?」
スワンの視線の先には、ユニオンの空軍制服を着た集団の姿があった。その中央にいる金髪で確信した。グラハムだ。
「こちらです!」
「よくぞ待っていてくれた!しかしこうも見つからんとは、やはりこの世界も広いようだな」
結構な時間探し回っていたようだが、4人ともそれほど息が上がっておらず、本物の軍人たる所以を見せた。ただ何も知らぬ弘だけは、ポカンと見ていたのだが。
「ここに居るとは分かっていても、大まかな範囲しか分からぬのも考え物だ....さて、君達には我々の拠点に来てもらいたいが、都合の程は如何かな」
「都合って....少しは説明してください!グラハムさんいつもそうやって、何も説明しないんですから!」
「そうだったか?失礼。ならば概要程度に言わせてもらおう。リョウマ・アルキメデスとは知り合いらしいな?実は彼の身柄を、我々が先日保護したのでね。調べてみた所君等の名前が出てきた」
弘が「リョウマ・アルキメデス?」と首を傾げた。スワンも一瞬誰の事かと考えそうになり、その直前に思い出した。
「水崎さんだ.....!私達、その人の事本名で呼んでたから....!」
「あ、そっか!」
「それなら分からなくもなるな....いや今は関係ない。すぐに同行願いたい、問題は無いな?」
スワンも弘も頷き、一行はソルブレイヴスの拠点へと移った。
「只今帰還した。カリーナ、彼の容態はどうだ?」
「依然として変化がありません。後、少佐からお受けした調査ですが、ビンゴでした。彼、単独の立場でZeuS事件の後始末をしているようです」
司令室に入ると、カリーナが出迎えてグラハムにタブレットを手渡した。リョウマもとい水崎 諒馬に関する記録が表示されているが、その中にある「ビルドシステム」なる文言が気になった。
「ビルドシステム?これは何だ?」
「ガンプラダイバーズの基幹システムの一つだそうです。元々ダイバーズはオープンワールドになる予定だったと言う噂がありましたが、それは本当のようです.....それで少佐、この二人は?」
カリーナは報告しながら、グラハムの後にいる二人の男女に目が留まり、小首を傾げた。
「リョウマ・アルキメデスと関係のある者達だ。身柄を引き渡す相手がいなかったら処遇にも困ってただろうが....運良く見つかった、という感じだ」
グラハム達の会話をよそに、弘はソファの上でもぞもぞと動く毛布の塊に目が行った。
「何だあれ?.....ん、待てよ?」
毛布とは明らかに違う、ベージュの布が隙間から顔を覗かせた。そして更に端の方ではスニーカーの白い靴底が見え隠れしている。弘は訝しむ様な目でそれを暫く眺め、近寄って毛布を引き剥がした。カリーナはそれを見るや「待って!彼はまだ.....!」と声を上げて制したが既に遅かった。そして弘も、変わり果てたリョウマの様子を見て絶句し、毛布を床に落として呆然とした顔で立ち尽くした。スワンもその様子を目にし、息を呑んだ。
「これが.......水崎、さん.....なの....?」
弘を怯えた目で見つめながら、ブルブルと震えて蹲る男。確かに特徴からしてリョウマ本人なのだが、あの常に余裕のあるような笑みは消え失せ、目の下にくっきりと浮かぶ隈と土気色の肌、青紫色っぽくなり震える唇と言う顔は、スワン達の知る彼とはかなりかけ離れて見えた。弘は認めまいと首を横に振り、リョウマの肩を掴んで起こした。
「お前.....どうしちまったんだよ!何でそんな顔してんだよ?怒られると思ってビビってんのか?」
敢えて挑発するように問いかけてみるが、リョウマは何も言わずただ怯えた目で、見つめ返すだけだった。
「何だよそれ.....何なんだよそれ!!何とか言えよッ!!テメェ今までどこで何を....!!」
「うわ.....うわぁああああああああ!!!!!ぁあああああああ!!!!!」
弘が両肩を掴んだ刹那、リョウマは戦慄した顔をして震えながら悲鳴を上げた。弘を突き飛ばして毛布を分捕ると再びその中に包まりながらも、震え続けたまま悲鳴を漏らす。これがあの天才と豪語していた男なのか。スワンはこの事態をどう受け止めたら良いのか、全く持って明確な解答を持たなかった。
同じ頃、舞夜は何故かナイトシーカーのコクピットに乗っていた。状況を確認しようと周囲を見渡すが、その光景に唖然とした。青い光が下の水面から漏れ出し、打ちっぱなしのコンクリートの壁と鉄骨が照らされている。舞夜はこの場所をよく知っていた。自分を長い事閉じ込めた空間なのだから。
「またここに戻って来た.....なるほど、もう私は長くはないという事か.....」
「そうだなぁ.....しかし悲しいよなぁ、結局お前まで信じて貰えず終いなんてよ。奴さんきっと思い出しちまったんだろうぜ。だから全てのクラックゾーンを消す為に、お前さんを2度殺すなだって躊躇わねぇはずだ。何しろあの水崎諒馬だからな」
そんな舞夜の独白に答えるかのように、グロックが姿を見せた。
「まぁでも安心しろ。お前にも生きる権利は無いわけじゃあない。それにお前さんも奴の役に立って死にてぇんだろ?俺がその舞台を作ってやろうじゃないの」
グロックはさも愉快そうに腕を広げ、ナイトシーカーを見上げた。それとは対照して、舞夜の目は怒りに溢れ唇を歪ませた。
「何を戯言を...!私が死ぬのは諒馬にとって最高の結果を得られると分かった時だ!それまでは私は、死ねない!」
怒りを込めて言い放つ。するとグロックは納得する様に頷き、リフトに乗ってナイトシーカーのコクピットハッチを開けた。
「でもお前はもう人間ですらない。スワン・マスターピースからずっとどう思われてるか、とっくに気づいてるんじゃないのか?お前さん、とんでもないエンパスだからな、そんくらいは気づいてて当たり前だろ?一度死んだお前を生き返らせたのは、俺だ。何で蘇らせたか、本当の理由はお前に教えたな?折角だからもう一度話してやるか」
グロックの手が舞夜の顎の先へと伸び、くいと上に向けた。グロックは舞夜の瞳を見据え、口元に笑みを浮かべる。
「お前を生き返らせるために使ったクラックゾーンはなぁ....内部にとんでもない物を内包してんだ。だけとそいつぁ、何の因果かお前の人格と結びついた。だから奴にお前を殺させて、必要なものに作り変える。元からお前にゃ何の価値もねぇ....だけど奴と一つ殺し合いでもしてくれりゃ、もっと粋なもてなしを大将にできるだろうし?そう言う意味じゃあ、すぐに死なれても困るけどな....ハハッ」
「貴様はどこまでも人を踏み躙る.....それでも同じ血が通う人間なのか!?」
「そもそもお前は人間じゃねぇだろ?クラックゾーンが何故かお前の人格を抱えて、可哀想に思った俺が器を用意してやったから、お前は今こうしていられんだぜ?何故か機械に生まれ変わったのにはびっくりしたけどよ。ま、クラックゾーンなんかに人権は、ない」
忽ちナイトシーカーのコクピットを赤い光が照らし始めた。舞夜は何が起きているのか分からず、モニターやコンソールを凝視する。そして。
「ハザードシステム......!?」
「お前さんなら簡単に順応するが、手札として使えるようになるまでは、大人しくしてろ。それじゃ、Ciao!」
グロックがコクピットから飛び降り、ハッチを閉じて外からロックをかけた。舞夜は膨大な量の情報が流れ込むのを避けるべく、シャットアウトを始めたがCPU回路の切替えが出来なくなっていた。
「うぁあああああ......!!!やめろ.....私をコントロールするまで....続ける気かッ.....!!かはッ...!はぅぐ....ぁあああああッあああ...!!」
舞夜の視界に浮かぶ"CAUTION:容量を超えるデータの受信"の信号。しかしもう、彼女自身で止められる限界を超越していた。視界にノイズが走る。口元の動きさえも機械的な物に戻りつつあり、指に至っては動く気配さえ見せない。やはり自分は機械でしかないのだと、無残に突きつけると共に、ほんの僅かでも人間らしく在れるかも知れないと期待したのを後悔した。だが皮肉な事に、舞夜が心の奥底で助けを求めた相手が諒馬だった。少しでも彼と"本来の自分"で話がしたかった。この後悔の念こそ、人間だけが持ち得る感情なのだから。
(諒君....私、やっぱりあなたと話したかったよ.....ちょっとでも手を繋ぎたかった......ごめんね....何の力にもなれなくて....)
両目のレンズシャッターがとうとう開いたままになり、視界もブラウン管テレビが消えるような瞬きで真っ暗になった。
スワンはグラハム達ソルブレイヴスの面々に、これまでの経緯を話した。リョウマはガンプラダイバーズが平穏な時代を取り戻せるように、そしてその時代が永久に続くようにする為に戦っているのだと。スワンと弘が、それぞれダイバーズに囚われている友人を救う為に協力している事も、付け加える。グラハムは話を聞きながら、間違いなく大規模な戦いになると踏んだ。
「そういう事だったとは.....しかし肝心の彼があの様子ではどうすることも出来んな」
「それは.....そうですが」
「レイだけで無かった事もまた大きい。彼も探し回っているそうだが...」
「え?」
グラハムの言う"彼"がリョウマの事ではないと分かり、スワンは聞き返した。するとグラハムは躊躇いがちに口を開いた。
「私は先日、ある友人と出会ったのでね.....様々な立場に挟まれながらも、一人で探していたとその時に知った。リリ嬢から聞いた話は本当だったという訳だ」
遠くから話を聞いていたハワードの面持ちが少し暗くなる。あの青紫のスカーフを拾ったのはハワードだった。グラハムの頼みでブルームーンに在籍していた時期があり、レイの事も僅かながら知っていた。スカーフに刺繍された名前を見て彼女のだと知り、グラハムへ渡りウェルスのもとへと戻ったのである。スワンは不意に、ウェルスが言っていた言葉を思い出していた。
『俺の落ち着きの無さだな、探偵を始めたのはそんな理由だ』
今思い返すと、かなり無理のある理由だった。スワンの知るウェルスは落ち着きのない性格ではなく、むしろ正反対に冷静沈着である。熱くなり、それが態度に出る方が珍しい。そんな彼が自分で落ち着かないと言う事はあるのだろうか。特にエルニアに何かが迫っているなどと言う話も無い。そう考えると、浮かんで来る答えは一つしかない。彼はたった一人でレイを探し続けているのではないか。グラハムが"様々な立場に挟まれながらも"と言っており、ますますウェルスである条件が揃ってしまった。
「もしかして、ウェルスさん.....レイを探す為に、一人で探偵を始めたんじゃ.....」
「もう見抜かれたか。くれぐれも本人には言わないでもらいたい。そう言う話をしてしまったのでな.....しかしこの事態だ。リョウマ・アルキメデスの危機は即ちダイバーズの危機その物である、と考えた方が良いだろう」
グラハムはリョウマを暫し眺め、今度は部下達に目を向けた。グラハムの意思を汲み取った隊員達は、各々頷いた。「有り難い」とグラハムは呟きスワンに向き直る。
「我々ソルブレイヴスも、ダイバーズの安寧の為に戦うと言う誓いを立てている。たった今我々も君達に力を貸すと決めた!」
「はい!?」
これにはスワンも弘も驚いた。信用に置けない立場であるはずのリョウマに協力しようというのだ。スワンもリョウマが敵とならない事は伝えたつもりだが、まさか仲間と認識されるに至るとは予想外であった。ソルブレイヴスの実力の高さはよく知っており、もしこのまま連携出来れば今までよりも盤石な体制で戦えるようになる。受け入れない手はない。
「皆さんの力があれば、きっと今までより出来る事は増えます!でも、水崎さんが決めない事には....」
「そうも言ってらんねぇだろ。俺達じゃ限界がある....あんなバカ見てぇな連中相手にたった4人じゃどうにもなんねぇ」
弘の言う事は尤もだった。むしろ4人でよく全滅せず戦えたものである。スワンは心の中でリョウマに謝り、グラハムの申入れを受ける事にした。
「グラハムさん...ソルブレイヴスの皆さん。ご協力感謝します!共に頑張りましょう。ダイバーズの明日の為に! 」
「分かってくれると思っていたぞスワン。敢えて言おう、我々はダイバーズの十字軍であると!」
その時だった。弘の脳に再び何かが瞬いた。
「これって.....奴かよ.......いや、違う......畜生ッ!!」
弘がいきなり司令室を走り去り、スワンは慌てて後を追った。
「常岡さん!?どこへ行くんですか!」
「待ってろ....俺が蹴りをつけなきゃ行けねぇ奴だ.....!」
「だったら私も...!」
「俺話し合いとか頭使うの苦手なんだよ、だからお前が向こうの人達とこれからの事決めてくれ!な?」
弘は笑ってみせ、スワンを残し別の交流広場へと転移した。
交流広場第6区画。弘は自分の感覚を頼りに歩みを進めやって来たのは、ダムだった。外壁の近くに進むと、頭に届いた"何か"の正体と対面した。しかしその正体を目にした弘は、愕然として足を止めた。そう、彼の目の前にいるのは天然パーマ気味の黒い髪と眼鏡をかけた青年―リゲルだった。初めて直接顔を見た弘は、彼の本当の名前を無意識に口にした。
「望.....!?お前、望か.....!?」
「久し振りだね、弘。相変わらず元気そうでなによりだよ」
リゲルはやや辛そうな面持ちで弘を見、視線を左に向けた。山と山の間から街を一望でき、青空も相まってより美しい景色となっている。
「まさかお前がダイバーズをやってるなんて知らなかったよ....でもおかげで、お前の実力が分かった」
「はぁ....?何の話だよ?それよりお前今までどうしてたんだよ、そっからだろ!?」
弘が肩を掴みリゲルを向き直らせる。しかしリゲルは特に驚く様子もなく、ただ真っ直ぐ弘を見つめた。
「もうそろそろ、お前も気づいてたんじゃないかと思う。パラサイトスパイダーを使っているのは僕だ」
「な.....あの蜘蛛野郎が、お前.....!?嘘だろ....はぁ?そんな事....あってたまるかよ....!!」
「お前と僕は、ほぼ同時に力に目覚めているんだ。ν-Typeと言う力を、僕らは手にしたんだ。あの戦いの後、僕は君があのバーニングを使っているんだと分かったんだ。あの感覚は間違いない」
「何言ってんだよお前.....?」
そう返しつつも、弘もどこか腑に落ちたのを感じた。コープスブライドとの一戦から、ダイバーがどういう感情を持っているのか分かってしまったからだ。そして遡り、パラサイトスパイダーと対峙した時から、望に近づいていると感じる様になっていた。つまり弘も望も、超感覚を持つ存在―ν-Typeへと変革しつつあったのだ。望はいち早くそれを理解して、意識的に能力を使い弘を呼び寄せていた。
「僕のそばにいたあのウヴァル.....奴こそ僕らが復讐しなければならない相手だよ。グロック・ルーツ....本名は、結城 秀晃」
「じゃあ何でお前は奴の隣にいたんだよ!?」
「僕が復讐する為に、奴の持っている力が必要だと思ったからだ....けどお前がここにいるって知らなかった!だから急がなきゃいけなかったんだ....それでお前を呼んだ。僕に協力するか、大人しくダイバーズから身を引くか....それを教えてもらう為に!」
弘は今まで見たことの無い望の表情に絶句した。怒りと憎悪に塗れているなど陳腐でしかない。皆目言葉にすらならない気がした。
「僕は必ず奴を....この世界からも、現実からも消してやる.....いや、消さなきゃいけない!奴のせいで大事なものを失った人は沢山いる!....これ以上そんな人を増やさない為には、法じゃ駄目なんだ.....奴を直接消さないと.....!!」
「待てよ.....!そんな事しちまったら、お前だって奴と同罪なんだぞ!?奴と同じになりてぇのかよ!?」
「これ以上奴の犠牲になる人間が出て来なければそれでいい!弘....お前だって家族を皆殺しにされたんだ、奴に!!何でそんな事が言えるんだ.....忘れたのか、あの時感じた物を?」
「忘れる訳ねぇだろ.....けどよ、その前に俺は決めてんだよ。親父とお袋に、ちゃんと生きているって胸張って言うって......ここでアイツを倒すのは別に構わねぇし、俺も奴をぶっ潰すつもりだ....けど本当に殺しちまえば皆同じになっちまう!そんなんじゃ、それこそ奴の思う壺じゃねぇか.....!」
「お前は怖いんだよ.....前に進むのが」
弘は初めて望の瞳に恐怖した。憎しみに駆られた者の目というのは、こんなにも心に深く突き刺さるような眼光を放つ物なのか。昔に話していた事を、彼は本気で実行するつもりなのだ。結城 秀晃と言う人間を、この世から消し去るのに全くの迷いも躊躇いもない。その事だけを考える望を、弘は信じたくなかった。しかしこう考える自分もいた。もしこの場でグロックを倒しさえすれば、望を正気に戻すチャンスが訪れるのではないか、と。
「............俺も一緒にやりゃあ、いいんだよな」
「やっと分かってくれたか.....ありがとう、弘」
ありがとう、と伝える声は間違いなく弘の記憶の中にある、望と同じだった。彼と共に最後の青春を駆け抜ける日がもうすぐそこまで来ようとしている。弘は自分に言い聞かせてバトルエリアへと転移する。