創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
ドラグハートが降り立ったのは、何と建物の中だった。MSサイズの建造物なのか、はたまたドラグハートが人間サイズまで縮まったのか。何とも奇妙な光景に、弘は軽い目眩を感じた。
「何だこれ、気持ち悪いな......」
ドラグハートの隣に着地した異形。パラサイトスパイダーである。弘はその姿を認めるとやりきれない気持ちを押さえながら、意識を戦いへ集中させた。
「なぁるほど.....俺に模擬戦を手伝えと言ったのはそういう事だったのか」
背後から足音が聞こえ、パラサイトスパイダーとドラグハートは急いで振り返った。左右対称のガンダムウヴァル―ウヴァルスタークだ。
「しっかし、随分と剛毅なもんだ。水崎君の子分まで引き連れて復讐しようたぁ、本気度は評価出来る」
「子分だぁ?俺はそんなんじゃねぇ!」
「あぁそうかい。まぁ、水崎 諒馬はもう使い物にならねぇけどな。今のうちは、ね」
「テメェ.....やっぱりテメェだったのか!諒馬に何しやがったッ!?」
ドラグハートは助走をつけて飛び上がり、勢いをつけながら拳を突き出した。しかしウヴァルスタークはドラグハートの腕を軽く掴み、そのまま受け流して蹴り飛ばした。
「それはアイツの口から聞いてもらおうかな」
ウヴァルスタークが右のシールドにマグネット接続したライフルを装備し、ドラグハートに向けて発砲した。その隙を狙って、パラサイトスパイダーはヲルタースパイダーを分離、ウヴァルスタークに組み付かせる。だがウヴァルスタークの反応は素早く、ヲルタースパイダーの中央にシールドバッシュを叩き込み、左手の爪で貫き内部のジェネレーターをもぎ取った。
「"ハザード"!!」
その直後、パラサイトスパイダーはハザードシステムを起動させた。全身から黒い霧を発し、知覚できぬ速度でウヴァルスタークに近づき、足先から伸ばしたビームサーベルで斬りかかる。それをウヴァルスタークはいとも簡単に見切り、シールドで蹴りを受け止めるとライフルを腹部に接射した。
「何故....だ!?ハザードを起動しているのに....!?」
「経験と勘だよ、そんなのは。まぁそもそもの話、お前さんの機体じゃハザードを使えても数分も持たねえだろ」
ウヴァルスタークはライフルを右肩シールドにマウントし、今度は左肩の方から無骨な形のロングソードを装備した。その刃渡りは自身の全長にも匹敵する長さだ。悠然と歩み寄り、目にも留まらぬ速度で振り上げ、一撃でパラサイトスパイダーを打ち上げて庭を跨いで離れた所の柱に激突させた。ドラグハートが真後ろからウヴァルスタークを掴み、引き寄せて壁に叩きつけた。
「今度は俺だ!!」
「やってみろよ」
「るっせぇ!!言われなくてもやるに決まってんだろ!!」
ウヴァルスタークの顔面にストレートパンチをぶつけ、そのまま左右に殴り抜いた。何故かウヴァルスタークは無抵抗だが、そんな事はお構いなしに拳の乱打を浴びせていく。
「望!!今だ!!」
ドラグハートがウヴァルスタークの背中を庭の方へと向け、パラサイトスパイダーがビームライフルで狙撃した。しかし。
「リゲル君よぉ.....忘れたのか?俺のウヴァルスタークは、そんなもんじゃ倒せないって事を」
「何抜かしてんだよ!うぉおおおりゃああ!!」
ドラグハートが炎を纏った拳でシールドを突き破ろうとした。その刹那、ウヴァルスタークから黒い霧が噴き出し、ドラグハートが弾き飛ばされてしまった。ただの霧とは違うようで、他の機体が触れればダメージになる。弘はこの事態が掴めず、黒い霧に包まれるウヴァルスタークを凝視した。
「どうなってんだよ....」
「"ハザード".....ハザードシステムを持つ者同士、ここでタイマン張るってのはどうだ」
ウヴァルスタークは庭へと歩き出し、指をクイと動かしてパラサイトスパイダーを挑発した。リゲルはハザードシステムに呑まれるのを耐えるので必死になり、冷静ではいられなくなっていた。当然、これはグロックの読みどおりでもある。パラサイトスパイダーは両手にビームサーベルを持ち、黒い風となってウヴァルスタークに激突、最上段から振り下ろしたがその場には敵の姿はない。
「そこかぁ!!」
リゲルは素早く反応し、左へ斬撃を繰り出した。だがまたしても敵の姿を見失い、ますます焦りが募る。そんな彼を嘲笑うかの様に、ウヴァルスタークは近寄ってはライフルを接射し続けた。ドラグハートが乱入するがグロックは余裕を崩さない。
「おっと、ボクシングは1対1だろ?それは無えだろ」
「うるせぇ!!テメェをやるときゃ別なんだよッ!!」
ドラグハートが右足に炎を纏わせ、飛び上がりながら回し蹴りを放った。ウヴァルスタークのシールドに命中し、一瞬だけだが動きを止めた。そこから一気に畳み掛けるように拳のラッシュを叩き込んだ。ウヴァルスタークは数発を受けながらもすぐに体勢を立て直し、ライフルの連射でドラグハートのラッシュを相殺した。
「このままならやれるはずだ!!」
パラサイトスパイダーは既にヲルタースパイダーを呼び寄せており、クロー形態を取らせて背後から引き裂かんとウヴァルスタークに迫った。しかしグロックはそれも看破しており、レバーを細やかに動かした。振り下ろされるクローの中へとドラグハートを引き寄せると、自らはその場を一瞬だけ離れた。その結果、ヲルタースパイダーの爪がドラグハートに裂傷を加えてしまい、同士討ちと言う形となった。
「あららぁ....仲間割れかい!」
僅かに生まれた停止時間に2体の間に滑り込み、左手を大きく開きドラグハート目掛けて振り上げた。何者も引き裂く爪がドラグハートの装甲をえぐり、両目も劈かれ宙を舞い地面に衝突した。弘の両目にも激痛が走り、苦しみ悶えながら機体を立ち上がらせようとする。しかしそこへウヴァルスタークが近づき、ロングソードでドラグハートの右膝を貫き爆破させた。バランスを失ったドラグハートは力なく倒れ、再起不能に陥ってしまった。
「うぐ......クソ、何て力だ....まるで手が出ねぇ....!!」
「本当に手が出なかったよなぁ」
グロックは涼し気な顔で返し、パラサイトスパイダーに目を向けた。パラサイトスパイダーがコントロールを保とうと藻掻き苦しんでいる。ハザードシステムの暴走である。
「なぁんだ、結局そうなんのね....ま、そんなもんだろうさ。お前程度じゃあ、ハザードシステムを使いこなすなんて、夢のまた夢だ」
ウヴァルスタークはロングソードをくるくると回し、ナイフも同然の扱いで投擲した。風を切りつつ突き進むロングソードは、正確にパラサイトスパイダーの右腕を切り裂きながら貫き、遠くの壁に突き刺さった。パラサイトスパイダーは爆発の衝撃を利用して左側へ回り込み、ビームサーベルを横薙ぎに振るった。ウヴァルスタークも左手を振り上げて切り結び、ライフルを放って追い返す。しかしパラサイトスパイダーは様々な方向に関節を動かしてやり過ごし、再びウヴァルスタークに肉薄した。
「暴走しちまうとハザードシステムが勝手に機体をコントロールする!いやぁ恐ろしい方向に関節動かしちゃう訳だ!」
グロックは歓喜しながらパラサイトスパイダーを観察した。関節の可動範囲をフルに駆使して、もはや人体ならば骨折しているであろう身のこなしで、ウヴァルスタークの攻撃を躱している。パラサイトスパイダーにハザードシステムを乗せて暴走させると、そう言った挙動を見せるようだ。
リョウマはグラハムの判断により療養として、個室を割り当てられそこに運ばれていた。まともな意思疎通が可能になるまでは、スワンが世話するとハワードに頼み込み、こうして彼の側にいるのである。
「水崎さん、私ならそばにいますから安心してくださいね?」
声を掛けてみても、やはり返答はなかった。震えや怯えは一切変わらないが、ヒステリーを起こす事はなくなっており、再起までは着実に進んでると思う事にした。ところが、スワンが隣に座ろうとした時にある事が起きた。
「.....もう、放っておいてくれ....」
注意してなければ聞こえぬ程のか細い声で、確かにリョウマはそう言った。スワンはぎょっとしてゆっくりと視線を向け、リョウマの顔を覗き込んだ。相変わらず死人のような顔だが、瞳だけはきっちりとスワンを見ていた。
「そういう訳には行きません。水崎さんが元気にならないと、ダイバーズを救える人がいなくなります。私達じゃできないことが出来るのは、水崎さんだけですから。少しでも早く立ち直れるよう、私も頑張りますから何かあったら何でも.....水崎さん!?ちょっ.....何を....きゃあっ!?」
突然リョウマはスワンの手首を掴み、そのまま押し倒した。全く予想もしない出来事に、スワンは何も抵抗出来ず、ただリョウマを凝視するしかない。そのまま静寂が訪れてから数分が経ち―。
「もう、俺についていかないでくれ....皆には俺が裏切ったと言ってくれていい....誰も巻き込むべきじゃなかったんだ........」
スワンの頬に落ちる雫。それが何なのかスワンが知るのに、時間を要しなかった。リョウマがコートのポケットから出したのは、赤い光を鈍く発するガラス製のシリンダーと、専用のソケットを備えたガジェットだった。
「奴が俺に送りつけた物だ。俺はコイツを.....ハザードを使って、奴らからダイバーズを取り戻す」
リョウマがベッドから降り、メニューウィンドウを呼び出した。スワンは本能的に危険を悟り、ベッドから落ちながらもリョウマに縋り付いた。
「やめてください!!一人でなんて無茶です!それに、その道具は...!!」
「俺はもう、元々人間なんかじゃないのかもな。科学と自惚れに取り憑かれて自分の彼女を殺した。その彼女ってのは舞夜だ.....でも目の前にいたアイツは、人間じゃなくてクラックゾーンだ。いずれ俺が閉ざささなくちゃならない。なら俺にはもう、失う物は何も無い」
リョウマの告げる真実に、スワンは言葉を失った。生気の消えた瞳。それだけで真実だと伝えるには充分だった。
「犠牲になるのは....俺一人で十分だ」
リョウマがバトルエリアへ転移した瞬間、スワンはその場に崩れるようにして座り込んだ。
「こんな事って.......こんな事って......」
ただ呆然と呟き、誰も居なくなった部屋で一人佇む。舞夜の事実を知ろうとした時、もう二度と協力を受け付けないと諒馬から警告されていた。もう、彼はこれから先スワン達の前に現れる事はなくなるのだろう。
「おっ....来たか」
グロックはレーダーに新たな反応が来たのを認めると、ウヴァルスタークを起こした。建物の奥から現れたのは、リョウマのビルドレイザーガンダムだった。辛うじて意識だけは保っていた弘は、ビルドレイザーを見て唖然とした。
「お前....!もう動けん.....のか.....?」
「常岡。お前は今すぐここから離れろ」
リョウマは静かに告げるとウヴァルスタークを睨んだ。
「何で俺にハザードシステムを寄越した?」
「お前なら使いこなせると思ったからだよ。他の奴らは使うだけで頭がパーになっちまって面白くない。けどお前さんなら、と思ってな」
ああそうか。とリョウマは呟きハザードギアにシリンダーを装填、コンソール直下にあるスロットに接続した。コンソールの画面上に"HAZARD-SYSTEM ACTIVATED"と表示され、モニター全体に赤い光が走った。そしてコクピットが赤く照らされ、全ての準備が整ったのを示した。リョウマはコンソールに右手を翳し、ハザードシステムのセーフティを解除する。そして―。
「ハザードビルドアップ」
ビルドレイザーの周囲に真っ白なファクトリーが現れるが、次第に黒く染まり紅い稲妻を上げながら稼働、黒い霧を噴射して砕け散った。ビルドレイザーは黒い霧に包まれ、赤と青の眼光を放ちながら歩き出す。弘はその姿を見るや、望のパラサイトスパイダーや、コープスブライドが脳裏を過ぎり、思わず声を荒らげた。
「やめろッ!!諒馬、そいつはマジでヤバい!!使えば暴走してどうなんのか分かんねぇんだぞ!」
「暴走する前に奴を倒す!」
ビルドレイザーは右手にGNソードⅢをビルドし、一気にバーニアを全開にした。ウヴァルスタークは地面に突き刺したロングソードを引き抜き、待ち構える。
「さてどんなもんか。ビルドレイザーとハザードシステムの相性の程は」
ビルドレイザーがGNソードⅢを低く構え、ウヴァルスタークの眼前に到達するやグルリと身を翻し、真後ろへ回り込みながら斬りつける。そしてライフルモードに切り替えると、3つの銃口からビームを集束させて放った。ウヴァルスタークは一度目の攻撃は避けきれず、よろけるが照射されたビームは完璧に躱し、ライフルを撃ち返した。しかしビルドレイザーは真上にバーニアを噴射して真っ直ぐ着地、すぐさまシャイニングエッジ・ビームブーメランをビルドして投擲した。弧を描いて迫るシャイニングエッジを、ウヴァルスタークはシールドで跳ね返し再びライフルを放つ。
「やはりそこそこ扱えるんだな?こりゃ楽しみだよ成長が!」
「舐めるなよ.....ウェポンビルドアップ!」
今度はバルバトスルプスのソードメイスに、ソードストライクのシュベルトゲベールの要素を組み合わせ、ビルドした。ソードメイスの刃に沿う形でレーザー刃を発しており、これを活かした溶断と質量による破断を可能にした代物だ。ビルドレイザーは特殊ソードメイスを居合に構えながら突進する。ウヴァルスタークがロングソードを振り下ろすが、ビルドレイザーが特殊ソードメイスで真っ二つにし、更に手元に戻ったシャイニングエッジを再び投げつけた。シャイニングエッジは緩やかに軌道を変えつつ、ウヴァルスタークの左肩シールドをジョイントから切断して飛び去り、そのままビルドレイザーのもとへと帰還する。
「コイツ!?こりゃあすげぇな....!」
ロングソードにはかなりの強度を持たせていたらしいが、特殊ソードメイスにあっという間に両断されグロックは舌を巻いた。挙句シールドも片方を失っている。流石は天才だと思うが、グロックの目は既に相手の限界を見抜きつつあった。
「しかし残念だ、時間切れ。そんじゃ、Ciao!」
ビルドレイザーの特殊ソードメイスをやり過ごしつつ、ウヴァルスタークはライフルを胸元に接射。怯ませたところでパラサイトスパイダーの接近に気づき、手をひらひらと振って退散した。
「逃げる気か........何だ、これは.....」
リョウマはグロックの撤退を許すまいとしたが、モニター全体を赤い光が流れていく光景に思考を止められた。やがてリョウマの瞳が緑の光を帯び始め、意識が加速度的に遠のいていく。急いでハザードを解除しようとしたが、手が既に動かなくなっていた。間もなくビルドレイザーはだらんと力なく立ち尽くし、その後デュアルアイと各部センサーを強く発光させた。
「諒馬....!?おい、諒馬!?」
ビルドレイザーから発せられた黒い霧が更に濃くなり、弘は絶望した。ハザードシステムが、暴走したのだ。コンソールの光以外見えぬ、暗闇の中でリョウマは昏い眼差しのまま、瞳だけが光を灯していた。パラサイトスパイダーが猛烈な勢いで突進して来たがビルドレイザーは、特殊ソードメイスを放り投げ、一瞥することも無くブランド・マーカーをビルドし、真横に拳を突き出して弾き返した。そのまま向き直り、ゆっくりと歩きながらブランド・マーカーを消失させ、代わりに先端部をマガノシラホコに変えた射出装置を形成、真っ直ぐパラサイトスパイダーのコクピットに打ち込もうと腕を向けた。
「やめろぉおおぉおお!!!」
弘は死に体の肉体に鞭打ち、叫びを上げながらドラグハートを突進させる。果たして彼は、ハザードに侵される二人を止められるのだろうか―。