※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.28 FATALな結末

ドラグハートが残るバーニアを噴き、姿勢を保たせると全速力でビルドレイザーとパラサイトスパイダーの間へ突入した。乱入に気づいたビルドレイザーは、右腕の射出装置を放棄し新たな武器を形成する。何とAGE-1ナイトシーカーの主力武器である、シグルスレイヤーだった。ぐるりと向き直りシグルスレイヤーで突きを放ち、ドラグハートを弾き飛ばすと再びパラサイトスパイダーに向かって歩き出す。パラサイトスパイダーもビームサーベルの出力を上げ、コクピット目掛け突き出した。しかしビルドレイザーは上体を左にずらしてこれを回避、左手にバズーカをビルドして即座に発射した。弾頭が真っ直ぐパラサイトスパイダーの顔面に直進し爆発。したのだが、パラサイトスパイダーは衝撃を受けて倒れた身体を、まるで映像の逆再生のような形で起こした。しかしパラサイトスパイダーは限界を迎えつつあった。グロックの言う通り、この機体ではハザードシステムに順応しきれずフレームから崩壊しかねない。普段のリョウマならここで戦いをやめると弘は思っていた。だが現実はそれとは大きく逸脱する運命を見せる。

「お、おい.....何やってんだよ!?」

ビルドレイザーがシグルスレイヤーを構え、パラサイトスパイダーのコクピットを貫かんと迫ったのだ。ドラグハートは撃墜の危険を冒してでもパラサイトスパイダーを逃がすべく、ビルドレイザーにしがみつき押し出そうとする。だがこの推力差は何なのだろうか。いくらドラグハートがバーニアを最大に噴かせようとも、ビルドレイザーを1mmたりとも押せなかった。それどころか逆にこちらが押されそうになる。ダメージも蓄積され続け、ドラグハートはもう持たなくなった。

「やめろッ!!やめろよ諒馬!!望だぞ!?いい加減止まれよッ!!おい!!」

ビルドレイザーはドラグハートを見下ろす事なく左手に巨大マニュピレーターアームを形成、むんずと掴んで壁に叩きつけた。コクピットを激震が走り、弘はモニターに頭をぶつけてとうとう意識を失ってしまった。

「望......逃げろ......!!」

最後の瞬間に懸命に手を伸ばすが、ドラグハートがトレースするよりも早くバトルエリアから退場させられた。だがビルドレイザーとパラサイトスパイダーにも電子のゆらぎが襲い始める。ハザードシステムの暴走による弊害で、強制的に自壊してしまう。その現れとも言うべきか双方共に被撃墜扱いとなり、対戦そのものは決着がつかぬまま終結した。

 

弘は現実世界に戻り、蹌踉めきながらソファーに座り込んだ。奏は先に戻ってきていたようで、斜向いの椅子で震える手を抑えながらココアを飲んでいる。

「戻って来てたんだな。てか、どうした」

弘に声をかけられ、奏はビクリと身体を震わせた。

「水崎さんが、もうこれ以上ついて行くなって言って.....」

「どういう事だよ、それ.....気がついてまず言う事じゃねぇだろ....」

ココアを眺めながら俯く奏。弘も畳み掛けるように迫りくる現実を受け止めきれず、ただ苦しみ藻掻くしかないのかと悩んだ。間もなく諒馬もダイバーズから帰還するが、二人のもとへ歩きドラグハートとF91-Mをテーブルの上に置いた。驚きと戸惑いに満ちた顔で見上げる二人を前に諒馬は冷たく宣告した。

「もうお前達は俺に構わず生きていてくれ。この体制は今日で終わりだ。常岡、ドラグハートはお前にやる。だからこれで綺麗サッパリ、これまでの事は忘れてお前の目的を果たせ」

「何言ってんだよ!?お前それ本気で言ってんのか!?冗談じゃねえ!!」

弘の襟を掴まれても、諒馬はただ冷静に彼を見つめ静かに手を下ろさせた。

「これから先は、お前たちの力を借りても犠牲になるだけだ。そんなのは耐えられないし、目的の達成にもならない。....犠牲になるのは、俺一人で十分なんだ」

スワンも椅子から立ち上がる。しかし今の諒馬の目は、これまで見てきたような彼とは全く違っていた。輝きという物が消え失せた、黒い瞳だ。

「"犠牲になるのは俺一人で十分"って.....そんな事言わないでください!力が及ばないのは分かっています.....だけど!」

「何を根拠に言ってるんだか....どうせ時間のかかる方法しか出て来ない。フィーリングでしか物を考えない人は、効率なんて全く見向きもしない。もうこれ以上つきまとわれると、邪魔にしかならない。ハッキリ言って足手まといだ。早く帰ってくれ。環境を作り直せなくなる」

諒馬はそう断じてラボを後にした。

 

(俺がグロックに倒されてから.....記憶が蘇った......タイミングが良すぎるけど、誰も巻き込まなくて済むなら....)

諒馬は病院の屋上から景色を眺めていた。ある人物を待つ為だ。

「あ....いた。水崎さん?」

呼び出した相手とは、英梨だった。

「一体どうしたんですか、急に呼び出すだなんて。しかもこの病院、知ってたんですか」

「門松教授から聞きました。この病院にレイ・ブルームーン....いや、久遠 怜がいる、と。そんな事よりあなたに頼みたい事があります」

「あなた.....まるで別人みたいね.....」

英梨は諒馬の様子が明らかに違い、ある予感が脳裏を過ぎった。まさか記憶を取り戻したのではあるまいか、と。

「俺の事はこの際関係ありません。あなたはもう、この事件に関わってはいけない」

ある意味英梨の予想通りだった。しかしもう一歩も引かないと決めた彼女の覚悟は堅い。

「そう言う訳にも行かないわよ。私だってこの事件に関わってるんだから、それなりの責任はあるもの。絶対に手を引いたりなんかしないわ」

「なぜそうしてまでやる必要があるんですか....自ら死ににいくような真似までして」

「その言葉をそっくりそのまま、君に返すよ。よくある記憶喪失の話に、失っている間の事も覚えているってあるじゃない。これをそのまま当てはめると、君の方が死にに行く感じにしか見えないけど」

諒馬はますます嫌な女だと眉を顰めた。多分彼女が記者だからそれを言うのではなく、苦しんでると思った人間を放っておけないのだろう。しかし諒馬にとっては、厄介も甚だしい。本来なら自分は、罪を裁かれるべき存在だった。問われていないのなら、自ら全てを清算して―。

「俺は仕事だからやるまでです。これ以上被害者を出す訳には行かない.....もう、手を引いてください。あなたに出来る事には限界がある」

諒馬が言い残して立ち去ろうとする。英梨はそれを横目でちらりと見て、ビルの景色に視線を戻した。

「でもね、私だって引けないだけの理由があるの。ZeuSのしてきた事で苦しんだ人を沢山見てきたから、その人たちの為に私にしか出来ない事をしたい。確かに限界はあった。でもそんなのは、もう無くなる。それにね、あなただって被害者なのよ。ますますこっちが手を引く理由、ないんじゃないかしら」

「俺が被害者?はっ.....冗談じゃない。俺は科学と自惚れのために悪魔になったような男だ。本当の被害者からしたら、俺だって元凶に変わりはない」

諒馬は英梨を一瞬だけ睨み、屋上の階段を駆け下りた。

「俺が被害者だと....?ふざけるな....!」

車に乗り込んでエンジン始動スイッチを押し込む。ルームミラーに映る彼の目は冷たく、在りし日の面影は殆どない。交差点で信号に引っかかり、停車すると電話がかかってきた。スリープを解除した途端、電話の主に諒馬は驚愕した。

「百崎.....翼.....!?どう言うことだ!?」

恐る恐る応答する。

「はい」

「やはり君でよかったようだ。水崎 諒馬」

声は間違いなく翼本人の物だった。諒馬は狼狽しつつもアクセルを踏み、車を発進させる。

「拘置所から電話を掛けるとはどう言う風の吹き回しだ?」

「君は知らなかったのか。私はもう、自由の身だよ」

「な......!?一体何をした!?」

「私の持つ力は、君もよく知っているだろう。ところで、君と話をする場を設けたいが構わないだろうか?」

「何を今更話そうってんだ?俺はお前とは違う道を行くと決めたんだ、何も話す事なんて.....なぁ!?」

突然隣を走っている車が急激な幅寄せを始め、あからさまにぶつけようとしていた。諒馬はどうにか最寄りの曲がり角で車線から外れようとするが、隣の車も同じ速度で並走する。そのまま角を通り過ぎたところで衝突し、諒馬の車はガードレールを捻じ曲げながら数メートル進み標識のポールにぶつかり停止した。諒馬はエアバッグにより一命は取り留めたが、それでもかなりの衝撃が加わったせいで意識を失っていた。

「水崎 諒馬を確認。これより移送します。後処理の方はTSに」

真っ黒なセダンからスーツ姿の男達が続々と降り、諒馬の車に近づくと運転席に装置を近づけ解錠してから引きずり出した。彼の腕に注射器を刺す者も居り、諒馬が抵抗出来ない状態を作り出して移送する準備を始めた。黒いセダンに乗ったまま、中から様子を見ているのは純一だった。

「水崎を確保しました」

インカムで報告を上げる。その通信の相手はやはり翼であった。

「よくやってくれた。早急に運び込んでくれよ、彼は我々にとって最大の戦力になる」

「承知しております。それでは」

意識のない諒馬が後部座席に押し込まれ、間を挟む形でSPの男が座りドアを閉める。セダンは間もなくアーネスト本社に向かって走り始めた。純一は横目で諒馬を眺め、眼鏡をかけ直した。こうまでしなければ理解する場を作れない事に、内心複雑であったが自陣営に引き込めるまたとないチャンスに可能性を見出していた。10分程で社屋の地下駐車場に到着し、通用口から出て来た社員達によって諒馬は運び出された。その折、純一は見覚えのない少女に目が留まった。黒く長い髪に、眼鏡をしているので真面目そうな印象を持ったが、前髪の奥に隠れた目が露わになった時に純一は驚きを隠せず口が開いた。

(何だ.....彼女は......子供がこんな顔をするのか....!?)

そのくすんだ瞳は、普通に生きて来た人間には見られるはずがない。憎悪に塗れているとでも言うのだろうか。

「君はどこから来た」

「死んだ人間にそれを聞くんですか」

「質問に答えてもらおうか。君はどこから来た」

無表情で淡々と返す彼女に、純一は異常さを感じずにはいられなかった。

(精神病質のつもりか、この女は)

暫しの静寂の後、少女は

「私はあの人の為にここにいる。それが私に残った存在意義」

と残してエレベーターに乗り上階へと消えた。純一は彼女を訝しみ、誰も居なくなった通用口を睨む。社員でもない彼女がここに自由に出入りする権利がある。とすれば予想がついてしまう。

(徹・アルマーニュが.....結城を伝に配下にした女という事か。あんな子供まで利用するとは)

そう考えると疑問はひとまず晴れたので、エレベーターを呼び出して目的のフロアへと向かった。純一がアーネストに移ってから、研究室として利用している部屋があるが、今頃は諒馬がそこへ運び入れられているはずだった。そして、翼も立ち会いの為に訪れていよう。純一は歯をギリ、と噛み操作盤の液晶パネルを睨んだ。

「水崎。お前の目を覚まさせてやる.....俺達は間違ってないんだ....!」

 

堂夢大学、仮想世界工学研究室。この時間はまだ学生や准教授らが研究や実験をしている為、本来なら部外者は立ち入る事はできない。しかし今日だけは、門松の計らいにより午後からは全てのコマをキャンセルして閉鎖していた。そのお陰か、奏や弘、英梨を招き入れる事が出来たのである。

「悪いな、手続きにえらく手間取ってた。ったく、日本の悪い所ってこう言う所だよな....何もかもが官僚主義で融通が利かない」

門松個人で使っている一室があり、奏達はそこに集まっていた。門松は皆に適当な場所に座るよう促し、それぞれにコーヒーを淹れたカップを配った。

「それで、皆水崎から"ついてくるな"と最後通告された、と」

門松が確認するように問いかけると、奏は俯き弘は膝に肘を突き顎を乗せた。英梨もゆっくりと頷き唇をへの字に曲げる。

「水崎さん、どうしたのでしょうか.....あんな顔してるの、初めて見ました.....何というか、怖かった....」

奏は震えを抑えながら呟いた。門松はそれを聞き頭を掻きながら椅子に座り、足を組んだ。

「まぁ元々アイツは、顔立ちの割に人相が無茶苦茶悪かったしな。生まれ持った人間不信みたいなもんで、科学と論理的に裏付け出来る事実しか認めようとしない節がある.....考えてみりゃ、比良坂君はよく付き合おうと思ったな....当時は誰もが驚いてたよ」

舞夜の名前が出て来、英梨は首を傾げる。

「あの人は存命していないんですよね、でもダイバーズにいるなんて....奏ちゃんからもさっき話は聞きましたけど、それって本当にあり得る事なんですか?」

「奇跡の一つとして捉えたくもなるが、そんな事は絶対にあり得ない。だがダイバーズはもう理論では証明できない世界になりつつある。悔しいがそれがあっても不思議じゃない。俺も調べてみたんだよ、てか本人と話をしてきた」

門松の告白に3人揃って目を丸くした。真っ先に続きを聞きたがったのは奏だ。

「何を言ってたんですか....?」

「記憶は完璧にある。俺の事も覚えてたし、水崎の事も相変わらず好きなんだと。けどアイツはもうガンプラダイバーじゃなく、ただのもの言うオブジェクトになっていた」

話の要領を得なかった弘は、聞きながら戸惑う。だがこれは誰が聞いても同じ反応になるのだから、仕方のない事である。

「どういう事っすか?ガンプラダイバーじゃねぇって」

「あの娘は本当に天才だった。自分の人格と記憶をAIとしてバックアップを取って、機械の身体に移植したんだ。そうすりゃ仮に運営からアバターを消されても行動は出来る。しかしアバターとアカウントは紐付けされてる。消されてしまえばそこで終わりなんだよ。でも人格と記憶をもった"端末"として残していりゃ、壊されない限り動き続けられる。常岡君に分かりやすく言えば.....嫌な表現だが緑のキノコを自分で育てて、それを食って残機を1増やしたって所だな」

この話を理解出来たのはやはり、英梨だけだった。他の二人は必死に理解しようとしたが、時間がかかりそうだ。

「確か、比良坂さんって水崎さんの指導を受けてから頭角を現して、同じ開発室のトップ候補にもなったって話....聞いたことがあります。流石と言うか、ある意味恐ろしい人ですね」

「俺は直接言わなかったけど、アイツも相当な異常者だったんだよ。人格のほうじゃなくて体質っつーか何だろうな。お前らエンパスって知ってるか?」

「エンピツ?」

案の定と言うべきなのか、弘が聞き違えを起こして問うた。門松は呆れ半分に溜息をつき、コーヒーを一口飲んだ。

「常岡君は空気を読め。エンパスだよ、エンパス。サイコパスなら聞いたことがあるだろ?」

「あの、漫画の?」

「まぁあれは拡大解釈だと思ってるけどな。それはさておき、サイコパスってのは人の感情を全く理解出来ない人間のことを指す。他人がどう思うかなんて想像が及ばないし、そもそもそんな事をする意味がないって思ってるんだな。エンパスはその逆で、人の感情に鋭敏で共感しやすい人だ。人の気持ちが分かるってのは、優しさに捉えられがちだが本人によっちゃ....かなり苦しいと思うらしいな」

英梨が説明を引き継ぐように口を開いた。

「要するにだけど、サイコパスとエンパスは正反対の関係ね。相手の気持ちに対して極端に違う感じ方をする.....私もエンパスなんじゃないかと言われたことあるけど、私はただのお節介だったなぁ。あ、どっちも人の個性でもあるから、それで価値を決めるような事をしちゃ駄目よ?」

「神宮寺君、要約ありがとう。そんで比良坂君は極度のエンパス体質だった訳だ。神宮寺君の取材では、幼い頃から他人の感情を感じて来たせいで、その苦しみに耐え続ける日々を送ってたらしい。生前のアイツはとにかく明るい奴だったが、多分その裏返しなんだろうな。逆に水崎は...まぁいい、互いに相反する二人は何があったのか惹かれ合ってたんだろうよ」

しかし奏は腑に落ちなかった。記憶が無いときの彼は、人を褒める事もあれば弘を叱る場面もあった。感情を理解出来ないのがサイコパスなのだとしたら、それは違うのではないかと感じていた。

「だけど水崎さん....私とか常岡さんの為に必死になってた事だってありましたよ!本当のあの人は、きっと私達が知っている水崎さんのはずです....!」

「言いたい事は分かるがね....俺が色々教えてやったからああなったんだ。人として何が大事なのか、出来る限り身に染み込ませたつもりだったけど記憶を戻した途端にこれだからな.....結局それも上塗りか」

コンコン、ドアを叩く音がし門松は何事かとドアを僅かに開けた。扉を叩いた人物に門松はただ驚き息を呑んだ。

「き、君は.....天原君....黒浦まで....!?」

天原、黒浦と聞き、英梨と奏は思わず席を立った。まさかこのタイミングで彼らがやって来るとは、誰も想像していなかった。

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