※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.29 希望奪還のALLIANCE

先程まで晴れていたはずの空が曇り、やがて雨が降り出した。ザァザァと激しい音を立てており、運悪く帰りそびれた学生達は喚き散らして走って大学の敷地を飛び出していく。この仮想世界工学研究室も、門松の教授室以外は明かりがついておらず薄暗くなっていた。門松と奏、英梨は唐突な来訪者に呆然として、その人物を見つめる。

「君らは......どうしてここにいる....?」

門松が静かに問うと、聡は隣りにいる少女の前に踏み出し一呼吸して口を開いた。

「ニュースで見たんです、ダイバーズ病の話。教授なら何か動き出してると思って、ここに来ました」

英梨は聡の表情が病んでいる様に見え、「聡君...」と漏らした。聡の隣りにいる少女に至っては、彼よりも弱っているのではと感じた。だが彼女もまた、自分の意思でここに来たのだろう。逃げ出したり泣きだすというよりは、何かを乗り越えようとしている。英梨にはそう映った。ZeuS事件における最大の被害者にして、終息に導いた英雄。彼ら二人が今のダイバーズを取り巻く現状に黙っていられないのは、無理もない話だ。しかし門松は。

「天原君、少しこっちで奏ちゃん達と話でもしててくれないか。神宮寺君もいるし、少しは気が楽になるかもしれない。黒浦はこっちについて来い.....!」

天原 奈都は心配げな顔で聡を見つめるが、了承して教授室に入った。それを認めると門松は聡を連れて別のフロアへと向かう。ドアを開き電気を点けると、そこは講義室だった。聡は何を言われるのか分かっており、苦しげな面持ちだ。

「お前一体どう言うつもりだ!!お前達はZeuSに何をされたのか忘れたのか!?」

机をバンと叩く門松。その横顔は悲痛さの中に怒りを混じらせている。それもそうである。聡はこれまで何度も門松にかけ合い、自らも完全な終息に乗り出そうとしていた。愚行である事は聡自身もよく知っていた。だがここで引いてはならないのも分かっていた。

「だからこそ、ですよ.....これ以上俺達のような人を出さない為に動くのは、間違っていないはすです」

「それは俺達でやることだ、君らがやればまた同じ目に遭わないとも限らない!」

「愚かだと言われるかも知れない....でも俺は覚悟の上でここに来た。怜さんの事だって....!」

「気持ちだけにしてもらおうか。どちら道力を貸してもらったとしても、君等を確実に、安全に仮想世界から引きずり出す保証が出来ん」

「じゃあ何故神宮寺さん達は戦えるんです!?」

「俺が察知した頃には動き出してたからだ。本来なら現実で神宮寺君には動いてもらうつもりだった.....が、あの二人はそんな事を知るはずもなく、ある奴に協力してしまった。事件の後始末を任された、俺の元部下にね」

雨に打たれる木々を見つめる門松の顔は、悔しさでくすんでいた。聡も彼の背中から何となく察し、何も言い出せなくなった。

(結局俺は、自分の娘さえ満足に救えないのを嫌がって、無関係なはずの彼らを巻き込んでしまった....巻き込まざるを得なくなってしまった....挙句可愛い教え子とかまで使えって言われて、はいそうですかと言える訳ねぇだろ....!!)

門松は震える手でパスケースをポケットから出し、中に入れていた怜の写真を眺める。成人式の前後と思われるが、振袖姿で恥ずかしげに笑う娘の写真。思えば父親らしい事ができたのは、これが最初で最後だった。こんな不甲斐ない親が他にいるのだろうか。久々に一時帰国した日の夜、『お父さんまた遅くまで起きて仕事なの?夜食作ったから、ここに置いとくよ』と困ったように笑う怜の姿が蘇り、思わずパスケースをしまって窓に視線を戻した。

「お前は本当に、色んな人に育てられて来たんだな.......」

聞こえぬように呟いたつもりだが、聡も耳にしていた。しかし何かを言うつもりはなく、ただ目を伏せて拳を握りしめ、講義室を飛び出した。

(こうなったら、俺達でやるしかない....!)

 

一方教授室は、沈黙だけが支配する空間と化していた。と言うのは、奈都が英梨に自分を取材する様に頼んだからであった。"自分も元凶の一つ。きっと彼に救われなかったら、知ってる人だけじゃない。もっと沢山の人を傷つけていたかも知れない。それより酷い事をしていたかも知れない。今の私が生きていられるのは、償いの義務を全うする為の時間を、皆が与えてくれたからだと思う"と堰を切ったように英梨に伝えた。しかし英梨には、奈都が責任感から無理をしているようにしか見えず、すぐに受け入れる事は出来なかった。確かに彼女から得られる事実は、ZeuS事件の構造を解明するのに大いに役立つ。だがそうさせるという事は、奈都に全てを思い出させる必要がある。最悪の場合、PTSD程度では済まなくなる可能性も否定できないのだ。奈都の想いは間違いなく本物だと分かるが、それだけに苦しさを感じてしまう。

「まさか、あんたも望や奏ちゃんの友達みたいに、ダイバーズの事で苦しんでたなんてな....本当、どうなってんだよ....あのゲーム....」

弘が重い声音で漏らす。誰もが同じ気持ちであった。

「聞かれたら聡君に怒られるかもしれないけど、全部私のせいなんです....すれ違いも何もかも怖くなって、自分の中にあった子供の部分が....全部思い通りにならないなら壊せばいいって、その気になりさえしなかったら....側にいる人の事もちゃんと考えられたら....!」

「なっちゃん....もういいんだよ....なっちゃんだけが悪い訳じゃない。悪いのは人の純粋な気持ちを利用した、ZeuSの人間なんだから....。だから、私達に任せて。ちゃんと全ての事に、蹴りをつけるから。約束させて、なっちゃん...」

英梨は堪らず奈都を抱き締めた。これまでの取材と、聡から聞いた話で既に知っていた。奈都はただ利用されただけの被害者だという事を。奈都が責任感の強い性格故に、罪の意識を感じるのは至極当たり前だ。それを和らげるのは彼女に関われる人々の役割である。

 

聡は傘を一度取りに戻ろうと、研究室の外へ出た。その時。

「聡。やはりここにいたんだな」

「ユ....ユウ!?」

聡の前に現れたのは、ガンプラダイバー"ウェルス"ことユウだった。聡は突然の事態に目を瞬かせるが、ユウはそんな事はお構いなしに彼の手首を掴んで歩き出した。

「ちょっ.....どこ行くんだよ!?」

「教授に気づかれたいのか」

ユウに連れて来られた先は、ガンプラダイバーズ用のサークル"ウェイブダイバーズ"が使用している部屋だった。そこには既に何人か集まっており、"エルニア"こと奏花 紗綾を始めとした見知った顔が同時に聡に振り向いた。

「ようやく来ましたわね。主役とはこうして遅れてやって来るものなのかしら?」

一番中央に立つ少女に聡は目を丸くした。

「え....リリさん!?」

「その驚きようは失礼ですわね。私を惚れさせておいて、少し酷いのではありません?」

何とブルームーンのセカンドチームに所属していた、リタ・リーゼリットも来日していたのだ。

「葛城さんじゃなくて、俺ぇ....!?おい....ユウ、どういう事なんだ?」

「ブルームーンの解散をやはり認めきれなかったようだ....それに、何だかんだでリリ嬢はお前と怜の事が好きらしいしな?罪作りな所は相変わらずだ」

ユウがわざとらしく溜息をつき、肩をすくめて紗綾の隣りに座った。この場にはブルームーンの面々が何人か居る。

(グラハムさんに天田さんにハッパ....じゃないや葉山さんに.....凄いことになってるな....)

聡も急いでユウの隣の椅子に腰掛ける。リタはメンバーが出揃ったのを確認すると、プロジェクターの電源を入れた。

「さて.....これから私達は再びブルームーンを興しますわ。理由は唯一つ。私達の良き友人であってくれた、レイ・ブルームーンを救い出し、ダイバーズに再び安息の時をもたらす為、我々はもう一度手を取り合わなければなりません。そして....ダイバーズはまた同じ歴史を繰り返そうとしています。いちユーザーでしかない私達にできる事は限られていますわ。そんな事は百も承知しております。ですがそれを黙って見ていられる私達ではない事も、分かっています...だからこそ、動き出さねばならない。ブルームーンが存在する理由をもう一度思い出してください。そこに私達の使命がありましてよ」

聡にとっては思わぬ僥倖であった。奈都と共に動けるだけでも御の字なのに、これ程までに頼もしい戦力が集まっていたとは。失われた青い月がまさに、ここで蘇ろうとしていた。

 

「何だ....ここは.....」

意識が少しずつ明瞭になり、瞼を開こうとした。しかしいきなり眩しい光が虹彩を刺激し、薄ら目で慣らしつつ周囲を見渡した。真っ白な壁とガラスで囲われた部屋。自分だけが照らされておりよく見えないが、コンピュータの類がそこかしこに置かれており、モニターもかなりの数が稼働している。諒馬は全身に締め付けられるような痛みを感じ、恐る恐る視線を落とした。全身を何箇所もベルトで固定されており、歯科医院でよく見るような椅子に縛り付けられていた。

「気がついたようだな」

暗がりの中から純一が姿を現した。諒馬は彼の姿を見て、およその事情を察する。

「成程。俺を殺しかけてここに連れてきたのは、俺にもう一度ZeuSに忠誠を誓わせる為か....馬鹿馬鹿しいですね、東郷さん」

「お前が記憶を取り戻したのではないかと、こちらは睨んでいた。だからもう一度居場所を用意しようとしたまでの事。しかしその面構え....何が不満なんだ」

「見れば分かるだろ....こんなテロリストみたいな真似までして、今度は人体実験と来た。こんな馬鹿な話誰だって呆れる」

諒馬と純一は睨み合い、暫しの静寂が訪れる。遠くからコツコツと足音が聞こえ、純一はドアを開き招き入れた。

「こちらです」

部屋に入ってきた人物に諒馬は目を疑った。刑務所に収監されていたはずの、百崎 翼がここにいる。翼は懐かしむような顔で諒馬に歩み寄る。

「久し振り。まさかこうしてまた会えるとは思っても見なかったよ」

「検察でも買収したのか....でなきゃ説明が付かなさそうだな...」

「私には頼りになる仲間がいる。それだけだよ。君もその一人になってはくれまいか....我々と共に、新たな時代を再び作り上げようではないか」

翼は諒馬に顔を近づけ、柔和な笑みを浮かべつつ瞳を見つめた。息がかかる程の距離。諒馬は奥歯を噛み必死に恐怖を拒む。

「俺はもう、ZeuSを信じる気にはなれない。お前らと同じ道を歩む気は無い」

「そうか.....では」

翼が一歩離れ、手を挙げて合図を送った。その直後、諒馬の意識が途切れ、唇を歪ませながら頭を垂れた。

「ダイバーズ.......そうか、強制ダイブなんてやれたんだっけか.....」

ビルドレイザーのコクピット。リョウマは軽い目眩を感じながらも、レバーに手をかけた。バトルエリアとして選ばれたのは、如何にもSF映画に出てきそうな巨大な建造物だった。眼下には地球が見える。MSでさえ人間サイズだと見紛うほど広い廊下を歩いた先には、かなりの広さのコロシアムが。液晶画面の様なタイルが敷き詰められた床に、天井はモスクを内部から見たように、ドーム型を成していた。

「最悪だ......見世物かよ」

コロシアムに足を踏み入れた時、リョウマは周囲の様子に圧倒された。壁一面に貼られた画面には、観衆の様子が映し出されている。レーダーにはたった1つだけの、熱源反応マーカーが現れた。相手は言うまでもなく翼なのだが―。

「JOKER......」

空より見下ろす白い騎士。リョウマはその機体の姿を、自らの記憶と照らし合わせた。ダイバーズの秩序を乱す物を破壊する断罪者―JOKERと瓜二つであった。これは翼自身がダイバーズの秩序となるのを意味していると考えるしかなく、リョウマは歯軋りをした。一方の翼―メビウスは、眼下に立つビルドレイザーを品定めするような目で眺める。

「私のオメガフリューゲルガンダムの力を試すには丁度良いと見える.....しかし運が無かったな、水崎諒馬。君が素直に私の力になってくれれば、こうして修正されずに済んだのだがね...」

「ふざけた事を....どうあったって、結局こうするつもりだったんだろ?白々しい」

ビルドレイザーは右手にビームバズーカを、左手にはメガビームシールド、バックパックにはザンユニットをビルドした。睨み合う両者。束の間の静寂を突き破ったのは、ビルドレイザーだった。手始めにビームバズーカを放ち、様子を見る。だがオメガフリューゲルは手を翳すだけでビームを消し去り、背中の翼を大きく広げた。パーツが展開され、その間には歪んだ景色が顔を覗かせる。メビウスは瞳の動きだけで照準を固定した。

「ならば.....」

翼の隙間から鏃のついた鎖が飛び出した。ビルドレイザーは素早くステップし、メガビームシールドからバリアビットを射出、大型の光の盾を形成しながらビームバズーカで狙撃する。しかしオメガフリューゲルは避ける素振りすら見せず、空を漂っていた。リョウマが訝しむがその瞬間に、オメガフリューゲルが背後に現れた。

「瞬間移動!?」

「認識だけは早いようだが、考えている余裕はないだろう」

ビルドレイザーがメガビームシールドからV字型のビームを放つ。ところがオメガフリューゲルはこの場から一瞬で消え、今度は真正面に現れた。

「君では私を捉えきれんよ」

「そうでなきゃ面白くないけどな....ビルドアップ!」

今度はビームバズーカからミサイルランチャーに変わり、至近距離で撃ち込んだ。かなりの衝撃と爆風でコロシアム全体が揺れる。それでもオメガフリューゲルに傷一つつけられない。オメガフリューゲルは自分の腕や掌を眺めながら歩み寄り、翼の隙間よりある武器を呼び出し引き抜いた。

「あの騎士団にいた女....ラプラス・ライブラは、この武器を愛用していたそうだが.....どれ、私も一つ試してみよう」

「ベル、ゼルガ...!?」

「何故、か.....それは決まっているだろう?私だからこそ、出来るのだ」

青く輝く大鎌"ベルゼルガ"。元より斬り裂けぬ物が存在しないと言われている武器だが、それは現在のダイバーズでもその地位は揺るがない。オメガフリューゲルはベルゼルガを鎌から斧へ変形させると、軽々と振り上げてビルドレイザーを吹き飛ばし壁に激突させた。リョウマは背中と胸を打ち付け、悲鳴と呻きの中間のような声を上げる。

「な、何故奴が武器をビルド出来る......!?ビルドシステムは搭載されていないはずなのに.....!」

「嗚呼、確かに搭載していないとも。しかしビルドシステムなどと言う物は、元から不要だった。オメガフリューゲルは、その場で武器を作らずに持ち出せる。ビルドシステムとは大きく違うのだよ」

「持ち出せる.....だと!?」

オメガフリューゲルはゆっくりと歩み寄りつつ、もう一振りのベルゼルガを呼び出してそちらも斧の形を成した。かなりの重さがあるベルゼルガを、片手で悠々と扱えるなど最早フレームそのものも、常軌を逸した強度を誇っているとしか思えなくなる。リョウマは奥歯を噛み締め、ハザードギアをコンソール下部のコネクタに挿し込んだ。

「やるしか....ねぇか....!ハザードビルドアップ」

オメガフリューゲルが後一歩で間合いに入る刹那、ビルドレイザーから黒い霧が放たれる。装甲表面が黒い霧に接触した途端、電気の弾ける音がメビウスの耳に入った。

「ハザードシステム.....成程、あの男が寄越したのだな....何とも悪趣味な」

メビウスはハザードシステムを起動したビルドレイザーを面白そうに観察する。自らが遺した遺産と直接対面するという、奇妙な感動も覚えながら。

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