※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.30 JUSTICEが見えなくなるまで

「――ハザードビルドアップ」

ビルドレイザーを忽ち黒い霧が覆い尽くす。今の我々に視認できるのは、赤と青に輝く双眸と胸部のセンサーの発光のみである。ビルドレイザーは壁から勢い良く飛び出し、右腕にドリルクラッシャーを形成して正拳突きを叩き込んだ。オメガフリューゲルは敢えて避けず受け止め、そのまま流したがビルドレイザーはその場でぐるりと振り向き、左手にGNガンブレイドを即時形成して連射した。オメガフリューゲルが上体を僅かに傾け避けると、機動ウイングの間隙から鏃の鎖を飛ばしてビルドレイザーを捕らえんとする。しかしビルドレイザーは素早くGNソードVをビルドし、目にも留まらぬ速さで振り払い接近した。真横に一閃するのを躱し、空中へ退避しつつベルゼルガを薙刀へと変形させて急降下する。

「さぁ、我が道の轍となるがいい!」

ベルゼルガとGNソードVが衝突する。だが翡翠の刃は容易く砕かれてしまう。そして立て続けにオメガフリューゲルがベルゼルガを振り上げるが、ビルドレイザーはファンネルミサイルをビルド、柄に追突させて粉々にした。これにはメビウスも感心する。

「的確な判断だな....しかし君ももう持つまい」

「何の話だ.....さっぱりだ....!」

リョウマは強引に不敵な笑みを繕った。しかしハザードシステムがどんどん彼の身を蝕みつつあった。両目に赤い光が灯り始め、心臓の拍動が強くなっていく。ビルドレイザーのドリルクラッシャーと、オメガフリューゲルのベルゼルガが激しく打ち合う。互いの腕の動きは、既に常人は愚か達人の域を遥かに超えていた。これを捉えきれる人間は、ニュータイプ或いは強化人間位のものだろう。ビルドレイザーが足先にチェーンソーを形成、勢い良く振り上げ"斬り"蹴った。オメガフリューゲルは反応が間に合わずまともに受けたが、僅かによろけただけで無傷で済んだ。オメガフリューゲルがお返しにとマニピュレータを指鉄砲の形に曲げる。

「さぁ、イリュージョンの時間だ....楽しみたまえ」

指先から眩いばかりの閃光が迸り、突然ビルドレイザーのドリルクラッシャーが爆発した。ビルドレイザーが動きを停止した一瞬の隙を突き、オメガフリューゲルがベルゼルガを横薙ぎに振るい、ビルドレイザーを地面に叩きつけた。

「うがっ.......ぁあっ.....!!」

「まだショーは始まったばかりだ.....ゲストが簡単に果ててしまっては、成立などせんだろう?」

オメガフリューゲルのツインアイが煌めく。今度はビルドレイザーを謎の光が"掴み"、空中まで持ち上げたところで地面や壁など、あらゆる方向に何度も叩きつけ、最後に天高く放り投げた。そして背部ウイングの間隙から、夥しい数のレギルスビットを展開、一気にビルドレイザー目掛け放出した。ビルドレイザーは間一髪、メガビームシールドを再形成して凌ぐが、ハザードの暴走まで指折り数える位にしか、時間に余裕がなくなっていた。リョウマは急いで解除しようとするが、レギルスビットの群れから脱出する方を優先せねばならない。メビウスはそんな様子を見て嘲笑する。

「しかし君は、自惚れが過ぎるようだな....世の中と言うのは絶えず、絶対的な壁という物が出来上がるものだよ.....だが私が思うに君に屈辱は似合わん。このまま引導を渡してやろう」

メビウスはモニターに掲げた左手を固く握り込んだ。ビルドレイザーの周囲に剣型のエフェクトが現れ、瞬く間に貫きMSを剣山へと変貌させた。

「何だ.....コイツは......あぁッ.....!!」

ビルドレイザーは辛うじて動かせる右腕を伸ばし、せめてもの反撃にビルドライフルをビルドしたものの、機体が限界を迎え火柱に呑み込まれた。メビウスは巻き上がる煙を眺め、多少残念そうに笑んだ。

「ここまでしなければ、君は私の力を理解してくれんとは見損なったよ。しかし、もうその心配はいらないだろう。いくら反抗しようが、届かぬ力もあるのを思い知らされたのだからね」

 

結利香がコンクリートの床でのたうち回る。吐き気と目眩だけではない、頭がロクに働こうとしなくなっていた。そして胸を押し潰した罪悪感で彼女の目には、何も映らなくなる。視力の問題では無い。彼女自身が信じてきた、正義がもはやどこにも無いと言うことである。髪が酷く乱れ、整っていたスーツも皺や埃で変色しつつあった。

「お父さん.......お父さん.....!」

譫言のように父を呼ぶ。早くからZeuSの異常性に気づいていた唯一の人間だった。だが彼の訴えは誰の耳にも届く事なく、百崎一族の手により粛清されこの世を去っている。結利香が父の死を知ったのが高校に入学する直前、そしてZeuSによって始末された事実に触れたのが社会に出てすぐだった。それまで勤めていた広告代理店を辞め、ユピテル財団に就いたのも父の死の真相を知った事が何よりのきっかけである。ユピテル財団の頭取は百崎家の起こした一連の不祥事から、制裁という事で資産の一部を凍結する決議を出していた。故に結利香は期待していたのだ。百崎が起こした事件の闇をすべて暴き、これまでに築き上げた地位も何もかも奪い取れるのだと。それが彼女の、百崎に対する復讐であった。だがそれは純一と翼に看破され、全てが崩れ去る。挙句の果てにはユピテル財団は、翼の保釈以降手を出さないという方針を示したらしく、結利香の身柄保護をする気配すら見せぬまま放り出されている。気がつけば、あの雑誌記者の女に救いを求めようとする自分がいる。根も葉もないゴシップを書き連ねるだけの、嘘つき仕事をする人間など信用に値しないはず。しかし密かに彼女を求めたのは、手を差し伸べてくれるのかも知れないという、淡い願いがあったからだ。水崎 諒馬の名がふと脳裏を過ぎる。ベッドにのそりと乗り上げ、だらんと仰向けになり天井を眺める。水面に反射された光が壁を照らす。この殺風景な部屋に一つだけ、ポツリと水槽が置かれていた。2匹の熱帯魚がのびのびと泳いでいる。しかしこれは、結利香にとっては自分の置かれている状況を見せつけているとしか思えず、屈辱に感じられた。虚ろ気な目で横たわっていると、突然ドアが開いた。入って来たのは純一だったが、従えたSP達が後から現れ、見知らぬ人間をこの部屋に放り込んだ。SPが消えると純一は眼鏡をかけ直して、結利香ともう一人を表情のない目で眺めた。

「何とも酷い格好になったものだな、城島。水崎。これは相応の罰だ。社長の考えを理解せず、ただお前達は状況を掻き乱した....実に愚かだよ。だが安心しろ、社長は貴様らも力の一つとして、新生ZeuSに加えると仰るのだからな。忠誠を誓うなら早めにしておく事だ」

ドアが重い音を立てて閉まる。結利香はゆっくりと、視線を下げ放り込まれた男をじっと観察した。

「まさか.....本人だと言うの.....」

外傷は見受けられないが、昏睡状態にあるようで結利香の存在には当然気付かなかった。結利香は力の入らぬ身体を無理やり起こし、諒馬の元へと転がり込むように近寄った。間違いない、ダイバーズで見たときの姿そのままだ。肌の様子から、恐らく彼もまた、自分と同じ様に薬剤を投与されたに違いない。

「あなたなら........私の見失った正義を、取り戻してくれるのですか.....」

何を言っているのか、自分でもよく覚えられなかった。ただ失ったのが怖くて仕方がないから、彼に逃げようとしているのか、それすらも釈然としない。否、そんな自分を直視できないだけなのかも知れなかった。

「壊れた心じゃ.....自分を止めることもできないのね.......」

無意識だった。自らにある"女"の部分が理性をすり抜けて表へ出ていこうとする。しかしそれを止める事すら考えず、彼の頬に触れ接吻した。

 

先程の研究室で純一は、ハザードシステムの解析を行っていた。諒馬が自分の知らぬ内に、ハザードを使ったのが、不思議でならなかったのである。グロックと彼の配下以外で所持する者がいるとは聞いたことがなかった。

「奴め......何故水崎にハザードを.....」

「知りたいか?」

いきなりの本人登場に純一は思わず顔を上げた。そこには壁に寄りかかって笑みを浮かべる、秀晃の姿が。

「結城、秀晃.....なぜここに...」

「そりゃこの建物もそこそこ探検してたからなぁ....百崎 翼が娑婆に戻ってきてから、体制も変わるって分かってたもんで?」

「そんな事より、何故ハザードシステムが奴の手に渡っている?何故奴に与えた!?」

「別にいいだろ?ワンサイドゲームじゃ面白くない。そんだけの話だ」

「そんな事の為だけに、敵に塩を送るとは....」

「別に俺は奴さんをどうとか思ってねぇよ。利用はできるが、な」

そう言うと秀晃はポケットから一本のUSBメモリを出し、純一に投げ渡した。

「ま、割と旦那には世話になってるもんだから、くれてやるよ。でも使えるかどうかは、お前次第だけどな。Ciao!」

秀晃が部屋を後にし、純一はUSBメモリをデスクトップマシンに差し込む。セキュリティソフトが起動し、ウイルスの有無を検査すると無反応であった。

「奴にしては素直に渡して来た.....電話か.....」

携帯電話から着信音が流れ、純一は急いで部屋を出た。向かった先は翼の部屋であった。

「お呼びでしょうか」

「仕事中の所済まないね。時間は取れるかな?」

「問題はありませんが」

そこに座り給え、と翼に促され応接用のソファに腰掛けた。翼もワインセラーから一本のボトルを持ち出し、純一の前に座る。

「これは....」

純一がちらりとボトルの銘柄を見、グレードの高い物だと気づくと翼に視線を戻した。

「君のおかげで私は再び力を使う事ができるようになった訳だ。そこで君にほんの礼として、このワインを楽しまないかと、呼んだのだよ」

「失礼ですが、私はまだ社長の機体の調整が終わっていません。水崎や城島の"再調整"も...」

「急ぐことでは無いだろう。それに彼らを使うのだ.....言葉を交わす必要も、心を通わせる必要もない。使えぬのであれば始末するだけの事だ、違うか?」

「城島はともかく、水崎を始末すれば我々が不利になるのは明白。必ずあなたの存在の大きさを"再認識"させます」

純一の言葉を聞きつつ、翼はワイングラスに美酒を注ぐ。葡萄の芳醇な香りが辺りを包み、夜景も相まって翼の気品が際立った。

「しかし哀しいかな。あの顔はもう、私の事など見えていないのだろう.....阿頼耶識Type-Eの様に、脳だけを取り出して使うなど、現実には出来はしない」

「はっ......?」

困惑気味な面持ちの純一に、ワイングラスを差し出した。

「であれば彼の利用価値と言うのは、ビルドシステム以外に無い.....という話になる。いずれにせよ彼は私の敵になるつもりなのだろうからな」

「奴の持つ技術力は当てになります」

「それは、君でも十分に事足りるのではないかな。重ねて言うようだが、分かり合う必要などどこにも有りはしないのだ。ハザードを使える手駒が増える、後は我々の手でビルドシステムを兵器化させてしまえば済む話ではないか」

翼は諭すように語りかけるが、その眼差しは鋭く純一に突き刺さる。目元だけでは絶対に真意を推し量れないのが翼であった。純一は目を伏せ、膝においた拳を固く握り込んだ。

「仰る通りですが.....しかし....」

「私が思うに.....彼は理想主義者だ。自分の追い求める理想が解だと考えているのだろう.....だがZeuSが生み出したこのガンプラダイバーズで、彼自身の求めた理想が形になる事はあるまい。我々が作り上げた世界は、我々でなければ変えられない。となれば....奴は不本意でも我々に手を貸さざるを得なくなる。天才であるが故に、自ずと選択肢を狭める....何とも皮肉な話と思わんかね」

 

 

奏と奈都は、帰る方向が同じだったので二人で大学の敷地を出た。雨は止んでいるものの、夜になったせいで雨雲すらよく見えなかった。恐らくまた降り出すだろう。その後ファミレスで食事をして、再び帰途に就こうとしていた。

「ごちそうさまでした、奏ちゃん」

「そんな、気にしなくていいですよ?美味しい物を食べたら、少しは元気になるかなって思っただけですから」

「一度しか会ったことが無い私にそこまでしてくれるなんて、やっぱり奏ちゃんは優しいよ。ありがとう」

二人の身長差は頭一つ程違い、奏の方が小さい。だが経験で言えばその差は無関係になる。

「黒浦さんとは、上手く行ってるんですか?」

奏が不意に訊いた質問に、奈都はドキリとして明後日の方向に目を逸らした。

「う、うん.......まぁそこそこって所かな.....いつの間にか料理がもっと上手くなってて、私が世話焼かせちゃってるなぁって思うけど」

「少し前に怜から聞きました。黒浦さん、少しでも奈都さんにいい所見せたいからって、料理を教えてもらってたみたいですね?」

「それで時々怜ちゃんが家に遊びに来てたんだね....何か変に疑いそうになっちゃった....」

「お二人とも結婚したらいい夫婦になれそうですよね!」

奏に期待の視線を向けられ、奈都は赤面しながら俯いた。面と向かってそのような事を言われると、却って意識してしまうものである。

「奏ちゃんそう言う娘だったの.....!?」

「殆ど怜と、美彩って言うもう一人の友達のせいですよ.....特に怜なんか..............あれ、電話.....ごめんなさい、出ますね」

奏の携帯電話から音楽が流れる。画面を見ると英梨からの電話だった。

「はい、白鳥です.....どうかされました?」

「ごめ〜ん、奏ちゃん。なっちゃんとデートの所申し訳ないけど、今いいかな?」

「デートって、ただご飯食べただけですよ?えぇと、それで何の御用でしょう?」

「あのね.....さっき私の所に手紙が来てね。驚くかもしれないけど、その手紙の差出人が斐賀 那由多って人....調べてみたら百崎 翼の双子の妹なのよ。それで、斐賀さんが事件に関わった人に会いたいって仰ってて.....一応紗綾ちゃんには声かけといたんだけど、奏ちゃんもどうかなって電話してみた」

「え........私も、ですか.......」

「紗綾ちゃんを呼んだのは他の人達だと話が成立しそうにないし、聡君とかなっちゃんだとかなりマズいからって理由なんだけど、奏ちゃんは現在進行形で動いてるでしょ?」

「それは、そうですけど......でも今の私がお邪魔する事で、どうなるとか分からないですよね....もう、水崎さんとは一緒になれないんですから....」

「そんなの分かんないでしょ?私は諦めたくないから好き勝手にやってる。真実に辿り着かない限り、彼の事だって苦しみから助けてやるなんてできないと思うけど?怜ちゃんを救うのにだって、水崎さんがいなきゃどうにもなれない部分があるんだから」

英梨の言う事は尤もだった。怜を救うには、ダイバーズを完全に平和な状態に近づける必要がある。それを達成させるには、やはり奏にもやらなければならない事があったのだ。

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