創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
ガンプラダイバーズには、交流広場とバトルエリアの他にもう一つの世界が広がっている。開発者しか踏み込む事ができない、謂わば聖域である。その名はSECTOR。交流広場は全てで8区画存在するが、SECTORもまた同じだけの数が用意されていた。実際には新発売されたガンプラの動作確認や、新機能の実装に向けての調整テストを行うための場所として作られた物だ。しかしかつて、このSECTORを舞台として繰り広げられた悲劇があった。
「葛城 絢斗......君は後々僕らにとって大きな障害となる。その前にダイバーズから遠ざけられて良かったよ。お陰でJOKERを取り出す事ができた」
徹・アルマーニュはSECTORのとある場所で、光る柱に触れていた。JOKERとは、ガンプラダイバーズにおける規約違反プレイヤーを"駆逐"するシステムであった。しかしある時、単なるダイバーでしかなかった青年が、無理矢理JOKER権限を植え付けられ、本能の赴くがままに特定のプレイヤーを"狩る"と言う、本来の存在とは真逆の行いをしていた。その特定のプレイヤーとは、ウェルスを始めとした"ν-Type"能力を持つ者達である。これもまた徹と翼によって、引き起こされた惨劇だったのだ。
「しかし、僕も記憶が長持ちし過ぎるものだね....二人分の記憶を保持しなければならないのは、頭がおかしくなりそうだよ....僕の計画と、百崎翼。君に対する制裁....どちらも満たさけばならないのだから」
徹の目の前には、胸を鎖で貫かれた青い髪の少女の姿が。
「それにしても君も随分と往生際が悪いね。進化し過ぎた力は利用される運命だと言うのに.....まぁいいさ。どの道君は、自我を失うのだからね」
背後から革靴の音が聞こえた。
「よぉ、大将。おぉ.....これが終末時計って奴か?いやはやこりゃ凄えな.....!」
グロックもこのSECTORを訪れていたが、徹の背後に立つ巨大な時計を目にし歓喜の声を上げた。歯車が噛み合いゆっくりと回転する仕掛けは、如何にもノスタルジックな構造だが、この動力源は光の柱の中に埋め込まれた少女にある。
「コイツがラグナロクまでの時間を、カウントしてくれんのか?」
「ラグナロクとは失礼だね。僕が作るのは創世紀だよ。その為の、終末時計さ.....人類はやはり闘争を忘れられないから、敢えて加速させるしかない。人類はやがて、万物の支配者になれる、それだけの力を手に出来るのはやはり....戦争しかないのでね。各国首脳も、仮想世界の持つ可能性を評価している。後は....真実の姫――レイ・ブルームーンを目覚めさせるだけだ」
「真実の姫、ねぇ.......俺にはよく分からんが?この閉塞した時代を変えられるなら、やる価値は大アリだな....ハハッ....!さて大将。アレらはいつ起動させるね?」
グロックがウィンドウを呼び出し、徹に向けた。SECTORのどこかと思われるが、そこにはサイコガンダムやデストロイガンダムが並んでいる。それも1つや2つではなく、かなりの数が用意されていた。量産モビルスーツのような扱いにしているのだろうが、これ程のマシンを抱えるなど、戦力としての常識の範疇を遥かに逸脱するのは明白だ。これも徹が導こうとする、仮想世界大戦のトリガーなのだろうか。
「その前に彼を始末しなくてはならないね。百崎 翼を解放させたのは、そう言う意味がある」
「それまでに水崎 諒馬を強くしろってんだろ?かなり回りくどいやり方だねぇ....」
「僕は指導者であって、復讐者ではないんだ。それに、君はその道のプロなのだろう?ならば任せるのが筋というものだと思うよ」
「言ってくれるなぁ.....そんじゃ、お望み通りの展開に持って行ってやるよ。Ciao!」
グロックはそのまま交流広場第5区画へ転移した。珍しく雨が降っている。手元に傘を呼び出し、鼻唄をしながらぶらぶらと歩き始める。ちょうどその時。
「お?確か、エミちゃんってか?随分と精が出るねぇ」
対戦から帰還したと思われる、エミに遠くから声をかけた。エミは嫌悪感を隠すことなく、冷めた眼差しで睨んだ。
「私に何の用ですか」
「おいおい、そんな口の利き方はないだろう?お前の使命を果たす為に、大将に売り込んでやったのは俺なんだぜ?」
グロックが笑いながら肩に手を乗せてきたが、エミは指でせき止めてスタスタと歩き出した。そこでグロックは、勿体振るような顔で呼び止める。
「君に2つのニュースがある。一つはメチャクチャ悪い話。もう一つは君にとって最大のチャンスになる話。どっちも聞いとかないとやばいと思うんだがなぁ.....」
ピタリとエミの足が止まる。しめた、とグロックは口角を僅かに上げた。
「一体何ですか、話って」
「じゃあ悪い方から話しとくか。お前が憎いと言っていた、あのAGE-1の女.....俺のデータベースからハザードを盗んで行きやがった。ステルス性能が高すぎるもんで、俺にも探すのは簡単じゃなくなった。恐らく、被害は尋常じゃなくなるだろうな?」
「あの気持ちの悪い女が......!」
AGE-1の女と聞き、エミは歯軋りをした。自分の心の中を覗き込まれるような感覚が蘇り、今にも吐き出しそうな顔になる。
「それで、私に探して潰してこい、と.....」
「Bravo!段々分かってきてんじゃないの?そういう事だ。お前が、比良坂舞夜を斃せ。短期間でハザードに順応したお前なら、簡単にできるはずだ。もし出来たなら、大将の計画の根幹に関わらせてやるよ。それじゃ、Ciao!」
グロックは愉快そうに笑い、手を振って姿を消した。今のエミの顔は、憎しみに塗れ二度と後戻り出来ぬ道を選ぼうとするのを、物語っていた。このダイバーズを壊し、二度と同じ過ちが繰り返されぬ世界に作り直す。徹と初めて出会った時に告げられた言葉。これを成し遂げる事こそが、残った自分自身の使命なのだとエミは胸に刻んでいた。舞夜を消しさえすれば、より目的に近づける。
「そうね.....ハジメ君......私は、間違ってなんか無いんだよね.....」
そう呟く彼女の肩は、小刻みに震えていた。
現実世界。英梨は那由多や、彼女の夫隆行から得た情報と、それと並行して取材したものを纏めていた。有給を一気に消化してしまう形になるが、直にRomanesqueを去る覚悟はしていたので気にすることは無い。ただ、最後に見た編集長の心底驚いた顔が、時折脳裏に蘇り手が止まってしまう事に頭を悩ませた。感謝してもしきれない恩を、仇で返すにも等しい事は百も承知のはずである。
「何考えてんの私......!今は目の前の事に集中すべきでしょ.....!あれ、メール?」
頬を叩き雑念を振り払った矢先、一件のメールが届き通知が表示された。英梨はカーソルを迷わず"開封"のボタンに進ませる。
(やっぱり......私の動きは掴まれていたのね)
メールの送り主は何と、百崎翼からだった。英梨のこれまでの取材を、全て把握していると言う旨だがこれは間違いなく、最終警告と受け取れる物だった。那由多と話をした事までは恐らく知らないであろうが、いずれにせよすぐに割れてしまう。英梨は険しい顔でメールを読み上げ、返信すべきか一瞬考えるが突然携帯電話が着信音を鳴らした。見覚えのない番号だが、このタイミングで電話を寄越してくる相手は、一人しか考えられない。英梨はすぐさま応答した。
「はい、神宮寺ですけど」
「番号が合っていたようですね。もう私が誰なのか、お分かりでしょうから....敢えて名乗りませんが、構いませんね」
「ええ、結構です。名刺もお渡ししてないのに、一体いつ私の番号を特定したのです?これ、犯罪ですよ」
「今の私には、そんな言葉は通用しない....明日にでもまた直接お会いしたい....どうかな」
「悪いけど、ナンパはお断りなの。どの道、あなたは私を消そうとしているのよね。門松教授の息がかかった人間は、あなたからすれば物凄く邪魔なのは知ってるわ。だったら、私は全力であなたの邪魔をさせてもらう。それでは」
そう言い残して電話を切り、荷物を片付け始めた。作業に集中できるよう、ネットカフェに泊まるつもりだったがそれは断念し、急いで店を飛び出し車を走らせた。眠気は今の電話で十分に覚めている。
「まだ夜中って....!教授と打ち合わせようにも、出来ないじゃない!」
時計は午前3時を示していた。それでも東京の街は眠る事なく、常に何かしらの建物が道を照らす。今のうちに中心街を離れねば、恐らく翼は人間を寄越して英梨を連行するに違いない。そうなってしまえば、ただ死を待つのと同じである。英梨は何としても、ZeuS事件の真実を全て明らかにしたかった。事件で犠牲になった人々への手向けとする為に、生きている自分に出来る、唯一の方法なのだから諦める訳には行かないのだ。車を走らせること2時間。既に東京を脱して、横浜の街をぐるぐると駆け巡っていた。夜も白み始め、鳥の鳴く声も疎らだが聞こえ出す。
「ここまで来れば、少しは撒けるはず.....にしてもあの百崎翼が、私に直接脅迫だなんてね......もう越えてはならない一線を越えた感じ、かしら」
車を停め、運転席を倒して横になる。運転の疲れがようやく睡魔を呼び起こし、英梨は仮眠のつもりで目を瞑った。しかしやはり疲労が著しく溜まっていたようで、日差しが瞼越しに目を刺激して目を覚ました。英梨はガバっと起き上がり腕時計を見ると、時刻が12時半を過ぎていた。
「ヤバ、寝過ぎた!?最っ悪じゃないもう.....!取材の時間まで、30分もない......嘘ぉ.....」
がっくりと肩を落とし、カバンからカロリーメイトを出して頬張りつつ、車を再始動させる。寝癖直しやメイク、着替えはどうにかなるが取材時間への遅刻は許されない。英梨は起き抜けの頭をフル回転させて、最短ルートをシュミレーションするが上手く固められず、泣く泣くカーナビの電源を入れた。
その頃堂夢大学では。
「まさかボクまで仲間に入れてくれるなんてね〜....ごめんね、無理言っちゃって」
緑のミリタリーコートが似合う、ぱっつん前髪の少女が力無く笑いながら、聡が持ってきたオレンジジュースを飲んでいた。奏と怜の親友である、成田 美彩だ。聡とは同じ研究室で趣味の合う友人同士である。
「いいんだ。怜さんを助けたいって人が増えるのはいい事だから。それに、美彩ちゃんみたいなムードメーカーがいてくれた方が、皆の為になる」
聡はそう言うと、美彩の星型ヘアピンに目が留まり何かを思い出そうとじっと眺めた。美彩もそれに気づいたのか、外して彼に差し出した。
「これ?高校に上がった時に買ってね、怜とお揃いにしたんだぁ。奏にも史佳にもプレゼントしたけど、史佳は嫌がって付けてくれなかった」
「いいなぁ、そう言うのって.....女の子ならではだもんな。怜さんって、本当に愛されてると思うし......」
史佳、と聞いて聡が思い浮かべるのは、白き死神の怨念。しかし後日に怜―レイ・ブルームーンから、いくらか彼女にまつわる話を聞いた事もあり、何とも言えぬ気分になる。愛が暴走すると、対象さえ傷つけてしまうがそれすらも目に入らず、ただ盲信的に愛情をぶつけ続ける。やはり思い出すと自然と身震いしてしまう。
「黒さん?」
美彩がヘアピンをつけ直しながら呼びかけ、聡はすぐに我に返った。
「あ......どうした?」
「どうしたじゃなくて、いつから動き出すの?新生ブルームーン」
「明後日からになると思う。リタさんが戦艦を用意するから、それまで身動き取れないらしい。でもユウ.....まぁウェルスとか、グラハムさんは今頃捜索しているんだと思う.....俺も行きたいけど、アテもないから、さ」
パタパタと足音が聞こえる。聡と美彩が音のする方へ目を向けると、奈都が階段を駆け上がる姿が見えた。
「奈都?」
聡は上から呼びかけた。すると奈都は手を振りながら、段をひとつ跨いで駆け上って来た。
「はぁ.....はぁ.....聡君......、私も行く事になったから....!」
奈都が聡の両手を握りじっと目を見つめた。聡は目を丸くして見つめ返す。
「奈都.....本当に、大丈夫なのか?」
「うん.....きっと。でも、私も未来の為に出来る事をしたくて、リタさんにお願いしたの」
「そうだったのか......けど奈都のガンプラは、もう.....」
奈都がかつて使用していた機体、ビルドストライクガンダムギャラクシーは、ZeuS事件の中で聡の手で、彼の剣とすべくエールストライクガンダムへと組み込まれた。既に機体そのものは消えていたのだが――。
「大丈夫.....!この為に作ったんだから....見せようと思って探したのにどこにもいないし....!あ、みーちゃん!」
奈都も美彩の存在に気づき、手を振りながら歩み寄った。美彩はいきなり奈都に抱きつき、項に鼻を近づけクンクンと匂いを吸った。
「なっちゃん相変わらずいい匂いする....」
「うっ...そんなにいいの?聡君はどう?」
「俺に聞くなぁ!?ど、どうなんだろうなぁ〜.....」
聡がしどろもどろになりながらやり過ごそうとする。それを咎めるかの如く、美彩が不満そうな顔をした。
「一度はなっちゃんを食べたんだろ!言えー!!」
"食べた"と言う表現の意味は、奈都にも分かる。故か奈都は顔を真っ赤にして聡に目配せして、対処を求める。これには聡とて、どうにか回避しなければと考えざるを得ず。
「うん、それより時と場合を考えよう、な?そうだ、奈都。新しい機体って何だ?」
「今から見せるね.....みーちゃん、ちょっと退いて?」
奈都がカバンからプラスチックケースを取り出し、蓋を開いた。黒いスポンジが詰められており、その中心に埋め込まれる形で奈都の新型機が収められていた。美彩はガンプラを一目見ると、目をキラキラと輝かせて手をぱちんと叩いた。
「これ、もしかしてウィンダム?」
「....に、ビルドストライクとDX、ヴィクトリーの要素を私なりに織り込んだんだよ!その名もトライアンフガンダム。こっちにあるのはヴィータストライカー」
奈都は丁寧にガンプラを取り出し、机の上に立たせた。やはり美彩の観察力はかなりのもので、聡は間近で見てやっとウィンダムがベースなのだと理解した。そして奈都が作ったと言うだけあって、作り込みもアレンジの具合も、相当な気合の入れようを感じさせる仕上がりである。だが聡は、この機体の顔に何か仕掛けがあると思いずっと観察していた。バイザーの奥にはツインアイがあり、マスク部分にも小さな隙間が見られる。奈都は得意げな顔でトライアンフガンダムの頭を外し、額パーツを入れ替え本体に取り付け直した。何とトライアンフガンダムのガンダムたる由縁は、きっちり用意されているではないか。ツインアイと、マスクに彫り込まれた2本のへの字スリット。ガンダムタイプ最大の特徴がこの機体にも、勿論存在しているのである。
「そうか!バイザーとマスクが割れて収納されて、ガンダム顔が出てくるんだ!そうだろ!?」
こういう時の聡は、想像力が見事に働く。奈都は「よくできました!」と聡を撫でてピースサインした。
「流石に聡君のお友達みたいな事は出来ないけど、何だかんだ、私もそういうの好きみたい。結局差し替えになったけど、ダイバーズなら問題ないでしょ!」
顔面以外では、両肩はガンダムDXのパーツを青に塗装しており、可動センサーは形状を変えνガンダムHWSの肩部ミサイルランチャーを小型化した、マルチプルランチャーを装備。両腕は前腕がヴィクトリーガンダムになっているが、独特の形状をした関節を撤廃し、新規キットの共通規格品に差し替えられていた。そして腕自体も機体に合うよう、少し伸長している。サイドアーマーはビルドストライクの物を使用。ツインビームサーベルも健在で、左側には追加で太刀用の鞘を懸架する。両足はビルドストライクとガンダムDXからそれぞれ受け継いだ形とし、これは両腕も同様だが脹脛には追加スラスターとして機能する、ラジエーターユニットが。これだけでもかなり豪華な仕様に見えるが、奈都はこれで終わらなかった。トライアンフの背中に専用バックパック"ヴィータストライカー"を装着した。ビルドブースターを基部に、航空翼をDXのリフレクターに換装し、本体にもマイクロウエーブ受信器と思しきパーツが取り付けられている。本来下部に備え付けのビームキャノンは取り外され、代わりにダハックのアームドアームを左右にそれぞれ搭載する、近接向けの仕様に改められていた。これを装着したトライアンフは、"トライアンフガンダムヴィータ"と呼ぶようだ。奈都はトライアンフの右腰に下げられた鞘を指さした。
「この刀にも秘密はあるんだけど、これは実戦で見せたほうがいいかなぁ....とにかくこれで、私も皆の力になれる!」
「いいねぇ!なっちゃんがいたら百人力だよ〜!!」
またもや美彩は奈都に抱きつき、香りを嗅ぎ始めた。その様子に聡は若干引きつつも、トライアンフヴィータを眺める。ここまでするなら、奈都は本気だ。しかし聡にとっては、どこか心が痛んでしまうのだった。