創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「弘さん!!目を覚ましてくださいッ....!!」
自我を奪われ、仲間に手をかけようとする弘に、スワンは必死に呼びかけた。その結果が奏功し、ドラグハートチャージドの停止と弘を我に返らせる事ができた。弘もこの状況に全く理解が追いつかず、F91-Mから慌てて機体を離し何をしていたのか、思い出そうと頭を回転させるが一切意味がなかった。
「済まねえ!俺、頭おかしくなってたんだろ.....!?怪我無いか!?」
スワンは弘がきっちり我に返ったとし、首を横に振って微笑みかける。
「結構びっくりしましたが....私は大丈夫です。弘さんこそ、頭が痛かったりしてません?」
「滅茶苦茶痛いけど.....どうせ放っときゃすぐ治んだろ!ありがとな」
唐突にドラグハートチャージドから光が流れ出し、液体が蒸発するエフェクトを発しつつ増加ユニットが消滅した。弘もスワンも今の出来事を呆然と見ていたが、二人が疑問を持つのを見計らったかのようなタイミングで、両機のモニターにミニウィンドウが表示された。そこに映っていた人物に、二人はまたしても驚かされる。
「り、諒馬ァ!?今までどこ行ってやがった!?」
弘が怒り心頭にモニターに殴りかかろうとした。しかし、スワンに「待って!」と言われ踏みとどまる。撮影日時を見ると諒馬が消えた日の2週間前であった。
画面に諒馬が現れ、そのまま椅子に腰掛けた。
「さて。この動画をお前達が見ているという事は、アーネストとの戦いが本格化したか、或いは俺が死んだかのどちらかだ。本来なら俺が直接お前達に渡してやりたかったが、恐らくそんな状況になることは無いだろう.....飽くまでも虎の子として考えていた代物だからな」
そう言うと、机の上にモニターを置きカメラに向けた。映し出された物は、弘とスワンが見つけ出した設計図である。諒馬が最初に指差したのは、F91-Mが使っていた蒼く透き通る刃を持つ刀だ。
「これはスワン向けに開発する予定の武器.....グラビティエッジだ。最大出力の状態にすると、刀身を中心として重力が発生する。この技術はミノフスキークラフトを応用した、疑似重力兵器。ハイインパクトガンを刀に変えたと考えていい。しかし問題は、ミノフスキードライブ搭載機でなければ満足な性能にならない事だ」
諒馬の説明にスワンは驚きを隠せず、急いでグラビティエッジの詳細を確認した。確かに疑似重力兵器と言う趣の、他に類を見ないタイプの武器であるようだ。ハイインパクトガンと言うのは、アナハイム・エレクトロニクス社が海軍戦略研究所、通称サナリィのF90とのコンペにて対抗馬として建造したMS、"MSA-0120"に搭載された武装だ。ビデオで説明の通り、これはミノフスキークラフトを応用して、疑似重力を発生させる武器でF91-Mが携行しているグラビティエッジにも、それが応用されていると言う話である。
「....コイツは、強力すぎません.....!?」
斬りつける瞬間には対象を重力で引き寄せ、強引に刃を通らせ最後には倍以上に跳ね上げた反斥力を以て、力をかけずとも容易く斬り裂ける。斬れないものが無いと謳う武器は数あれど、これは間違いなく物理的でありながら驚異的な力を持っていた。ビデオでは諒馬が別の武装の説明に移る。
「これがドラグハートの強化形態。ドラグハートガンダムチャージド。プラフスキー粒子のプール量を増やす為のコンデンサを内蔵した、このチャージアーマーユニットを四肢に装着する事で、ドラグハートの機能を開放する.....恐らく今のダイバーズの環境だと、ぶっちぎりの壊れ性能になりかねない位の力を手に入れる....がしかし、だ」
指示棒で示されたのは、恐らくプラフスキー粒子循環回路を模したであろう、機体の図式。
「プールしたプラフスキー粒子を定期的に排出しないと自爆する危険性がある。常岡が更に実力を上げて、ドラグハートの機能開放をしてくれれば何れこの問題は解決する。それまでの間に気をつけなければならない事が一つ。これはまだシミュレーションでしか判明してないが、バーニングガンダム由来の機体故の危険性がある。それは.....アシムレイト現象による精神変質だ」
諒馬の説明を聞いても、専門用語ばかりの内容のせいで弘の頭にはあまり入ってこない。首を捻りながら聞こうとしても、やはり釈然としない。スワンが小声で一つ一つ説明してみるが、彼は所謂筋肉バカである為か、時間だけがかかる有様である。それでもビデオはそのまま話を進めていた。
「原因としては恐らくだが.....チャージアーマーユニットにエンボディシステムを組み込んだせいだ。常岡の超感覚と組み合わせることで、理論上では何のデメリットもなく、未来予知が実現可能になる。しかし超感覚は相手の感情すらも読み取る可能性がある......俺は認めたくないが、そう言う人間がダイバーズにはいるらしいからな。結果的にエンボディシステムと、アシムレイト現象の影響で好戦的な性格が強まり、本人が意識的にコントロールしない限り暴走する....だから使う時はスワンか舞夜がいる時にしてくれ。一人で扱えるようになるまでは、止めてくれる奴が居ないとただ危険なだけだ」
「要するにあれか、俺が狂っちまったのは....俺がまだ未熟だったからって事なのか....」
弘には朧気ながら暴走時の記憶は残っており、諒馬の解説を自分なりの感覚に結びつけて、何とか一つの結論を出した。それを聞いていたスワンも、グラビティエッジを託された理由の一つを理解し、ドラグハートをじっと見つめる。
「つまり、俺がコイツを使いこなせるようになりゃ、ハザードにだって勝てるかも知れねぇ....」
弘の独白。スワンは心臓が強く拍動するのに気づき、恐る恐るモニター越しに映る弘を凝視した。覚悟を決めた彼の顔は、どこか悲しげにも見える。弘は既に4人ものハザードシステム使用者と戦った事がある。故に彼は望の救出などとっくに超越して、一つの使命を感じ始めていた。それは偶然にも、「ダイバーズを取り戻したい」と言う、諒馬の願いと重なるものであった。
現実世界。取材を終えた英梨は、車の中でこれまでに得た情報を一つずつ整理していた。取材用の為だけに1台タブレットを用意していたが、思いがけぬタイミングで有用な使い所があったのだと、無駄にはならなかったのを内心安堵する。しかし今日は、またもう一つの取材先が残っているのだった。英梨はタブレットをスリープ状態にし、アクセルペダルをゆっくり踏み込んだ。
「まさか事件の被害者が、加害者になるなんてね......怜ちゃんとひぃ君が聞いたら絶望する....だからその前に何とか止めてやらなきゃいけない......!」
先の取材で知ったのは、ZeuS事件の被害者の一人が数ヶ月以上も前から、行方を眩ませているとの事だった。何でもその人物は、怜と彼女のパートナーあった男性と僅かながらの関係があるらしく、英梨は強く懸念していた。怜が目を覚ます前に、何としてもその人物を救い出さねばならない。その意識が英梨を突き動かしていた。車はやがて神奈川から東京に戻り、23区から離れた某所へ辿り着いた。やや栄えた地方都市の様な趣を持つこの街に、英梨の2件目の取材先がある。
「ここね。ユピテル財団の本部ってのは....」
守衛にアポイントの確認を取ると、大理石で形作られた道のある前庭へと歩みを進めた。黒一色で、外観も1個の巨大な大理石から削り出したかの様な建物は、周囲の景色から明らかに浮いていた。旧ZeuSと百崎家からするとかなり重要な施設であるにも関わらず、隠す気配すら感じ取れない。余程余裕だったのかと英梨は嘆息しながら、正面玄関のドアの前に立った。
「どこの博物館よ....こんな所にあるのが不思議じゃない.....」
正面玄関のドアは英梨の身長の、5倍はあろうかという高さがあり、その造りも厳かな印象を際立たせていた。やがてドアがゆっくりと開き、広報担当と思われる職員が現れた。
「お待ちしておりました、神宮寺 英梨様。私ユピテル財団の広報をしております、益田 雪菜と申します。本日はお越し頂きありがとうございます」
明らかに英梨よりも遥かに若い、主観的な見立てでは20代前半の女性だった。英梨は少し面食らいながらも、彼女に従い階段を上った。
「ここって普通に就職できる場所だったのですね....大変驚きました」
「所定の資格さえあれば、経験を問わずに採用されますね.....あれ、今日はお越しでした?」
廊下の角を曲がるところで、雪菜は向かい側から歩いてくる男に挨拶した。英梨もそれにならって会釈すると、男は陽気な調子で手を振り返した。
「よっ。お姉さん何処かで見たことあるなぁ.....?」
その男とは、秀晃だった。彼は暫し英梨を品定めするように眺め、態とらしく手を叩き思い出した様な素振りで声を上げる。
「神宮寺英梨だ!そうだろ?先々月まで連載してた猫特集、あれどうしちゃったのよ〜...俺、ファンだったんだよあの記事の!」
「え、ええと.....諸事情でフリーに転向しまして、それに伴って連載は止めてるんです。またいつか機会がありましたら、再開するつもりですから、それまで....!」
英梨は引いていたが、悟られぬよう笑顔を繕っておいた。すると秀晃は雪菜に案内するからと退かせ、英梨を連れて別の部屋へと歩き出した。
「ちょっと?私ここの頭取の方に取材に来ているんですけど....?」
「それがなぁ.....」
秀晃に連れられた先にはドアがあるが、他の物とはかなり異なる雰囲気を持っていた。と言うのも、漆を塗った様な艶がありここが重要人物のいる部屋だと、否応なしに認めさせる存在感があるからだ。秀晃はノックもせずにいきなりドアを開け、英梨を中へ招いた。そして彼女は真っ先に視界に飛び込んできた物に、腰を抜かしその場で尻餅をついてしまう。
「な、何これ.....し、死んで.....る......!?」
何とあろう事か、ユピテル財団の頭取と思しき人物が首を吊ってぶら下がっているではないか。英梨は目を逸らすような余裕すら失い、ただ身を震わせながら凝視するしかなかった。やがてバタンとドアが締まり、秀晃が本性を露わにするかのようにソファーに座った。
「この人なんだろ?お前さんが取材したいって言ってた頭取ってのは....でも残念だったなぁ....この通り、亡くなっちまったよ」
「あなたがやったんでしょう!?何でそう白々しくしていられるのよ!?」
「おいおいそんなにキレるなよ....折角の美人が台無しだ。それに、城島を遣わせるのに賛成したのはコイツだけなんだってよ?他の奴らは別に、百崎が何をしようがお構いなし。むしろ行き場を失った資産が再び動き出すってんだから、歓迎してんだよ。これは、このユピテル財団にいる人間の総意が生み出した結果に過ぎない。俺個人がなんて、出きっこないんだ」
秀晃が部屋の奥のキッチンでコーヒーを淹れ、さも当たり前のように宣いながら口に含んだ。英梨は無理矢理立ち上がり、ドアを開けて脱出しようとした。しかしドアは一向に開く気配を見せず、ノブすらもガッチリと固定されているせいで、非力な英梨ではどうする事もできない。正に八方塞がりだ。秀晃は不思議そうにその様子を眺めながら、また一口コーヒーを口にする。
「どうしたよ?ドアってそんなに重かったか?」
「ノブごと固定する鍵なんて.....くぅ.....!」
「そりゃあ、頭取の部屋のセキュリティは頑丈にするだろうよ?あ、そうそう.....俺仕事頼まれてたんだよ.....どんな仕事か教えてやってもいいが、どうするね?」
突然奇妙な質問を切り出され、英梨は彼の正気を疑った。全て秀晃が仕組んだことは明白。今すぐ脱出せずとも通報なら可能である。何故そこまで余裕なのか、追い詰められた彼女には答えに思い当たるものが無く、焦りばかりが伸し掛かった。
「そんなの興味なんて.......」
ジャケットのポケットの中に手を入れたが、本来ならあるべきの物が無い。思わず息を呑むが、秀晃もそれに目ざとく反応する。
「もしかして、これかい?」
秀晃が指で摘んで持ち上げた、1台のスマートフォン。ローズゴールドの背面に、バンパーの角から垂れ下がる満月と太陽を象った2つのキーホルダー。英梨はそれを見て愕然とした。いつの間にか自分の携帯電話が、彼の手元にある。つまりスリの手口で奪われていたのである。ノートマシンにバックアップはあるとは言え、ZeuS事件に係る取材先のアドレスを全て収めてある。これを奪われることは即ち、英梨のライフワークを断ち切られるのと同義なのだ。今までの努力も、託されて来た祈りも消えてしまう。それだけは何としても避けたかったが―。
「何もかもお見通しってわけね.....!」
「何の話だ?俺はふたりきりで話をするのに邪魔を入れられたくないだけだよ。さて、じゃあ解答と行こうか?俺の仕事ってのは....」
バンッ!と乾いた破裂音と、ガラスの砕け散る音が部屋中に響き渡った。しかし、その音を聞いた者は当事者しかいない。頭取の執務室の構造により、それを他の誰かに悟られることもない。これからも、この先も。英梨は血みどろの中に倒れ込み、恨めしげに秀晃を睨みつけた。
「たった一人を殺すためだけに.....こんな.....!」
「そうでもしなきゃ、死ななさそうだしな。ま、冥土の土産に一つくらい教えといてやるかぁ.....お前が今追いかけてんのは、塩原枝実だろ?奴さんは今、俺達と共にある」
ガンプラダイバーズ。仮想世界の"地下"とも呼べる空間、SECTORの某所にて。トオルは終末時計の運行を鑑賞しながら、秀晃からの連絡を受けていた。
「一先ずの牽制はかけといたぜ、大将。目ぼしいアドレスも後で送っとく」
「流石だね、結城秀晃.....君の腕を信用していて良かったよ。これでまた一つ、計画が進む。僕の予言通り、エス・ブラックベイ達も動き出すようだしね 」
トオルは横目でもう一つのウィンドウを眺める。2機のMSが飛行する様子が映されており、それを見る彼の面持ちは監視するようであった。
(アポロンなどと言う子供風情の集まりを利用して、ユピテル財団から百崎家の資産を手にした....その上で彼のお父上からの遺言を提示した事で僕が名実ともに、百崎を後継する事になった.....自分で培って来たものと組み合わせれば、世界を変えるのは実に簡単だね)
肩を震わせて笑い、終末時計の動力源となっている光の柱に手を触れた。
「後は、君を処理するだけだよ....百崎翼君。勿論、君が利用しようとした人物に任せるがね」
黒浦聡――エス・ブラックベイは慣熟飛行も兼ねて、ガンダムを駆り空を航行していた。カミカゼストライクガンダムJOKER。ストライクガンダムグリッターをベースに作られた機体だが、かつてエスと敵対しやがて共闘した事のある人物から譲られた代物であった。両肩にはビームサーベルを内蔵した、"アルミューレ・リュミエールビット"を搭載し、軽装でありながら必要な武装を揃えた仕様となっている。そしてそれを更に助長させる為に、エス自身の手によって造られたストライカーを装着していた。
「うおっとっとっ....!?」
しかしこのストライクJOKERは、ベース機に見合わずかなりピーキーな機動性を有しており、エスはこれを手懐けるのに一苦労であった。天原奈都―ミナ・ツバクラメのトライアンフに追突しそうになり、エスは慌ててストライクJOKERの脚部バーニアを噴かせ、バク宙の挙動で大惨事は回避した。
「ちょっとエス!危ないでしょ!?」
「ご、ごめん....まだ慣れてないんだよ....!こいつ、ピーキー過ぎて....!」
足を何度も着水させながら浮き上がり、また宙返りしてどこかへ激突しそうになり、を繰り返す。
「一体何だってんですの?エス・ブラックベイは何をしているのですか?」
ピースミリオンを小型化した様な戦艦から、リタ・リーゼリットが双眼鏡を使いストライクJOKERの挙動に、首を傾げた。彼女の隣にはエルニアも居り、「あちゃ~」と肩を落とした。
「確かJOKER....前に怜から聞いた話だと葛城さんって人。あの人から譲ってもらったみたいね」
「ストライクと言うマシンは、とてもマイルドな機体では無くて?」
ガンダムゲームの例に漏れず、エールストライクは比較的扱いやすい初心者向けの調整がなされているが、このストライクJOKERは先述の通り、その流れに逆行している。実際に触れなければこの機体の恐ろしさは分かるまい。
「一度触った事があるが.....あの機体は正直言って、誰が扱えるのか分からん」
パトロールを終えたウェルスがブリッジに現れた。エルニアは振り向きながら手すりに腰掛けて、窓に背中を預けた。
「そんなにヤバイんだ、あれ」
「ストライカー抜きでもエール並みの機動力を持ち、原理不明の次世代動力バッテリーを搭載....むしろストライカーが重荷になる位だ....それが冗談じゃないからタチが悪い」
「JOKER様の機体を、エス・ブラックベイが使う.....来ましたわ、この時が!!」
リタが突然ウェルスの肩を掴み、興奮気味に激しく揺すった。ウェルスは悲鳴を上げながら手を払い除け、軽い目眩に襲われ壁によりかかり、リタの正気を疑うのだった。