創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
交流広場第5区画。中世欧州風の街並みの中をリョウマは一人走っていた―と言うより、逃げ惑っていた。というのも、この土地に踏み入った途端誰かに呼び止められ、そのまま追いかけられたからである。追手の数も徐々に増え始め、概算しただけでも30人はゆうに超えていた。
「何なんだよこれは....!知れ渡るの早すぎんだろ...!」
路地裏に隠れ、木箱の陰にしゃがんで息を整えるが、そうしている間に目の前の壁から火花が散りリョウマは慌てて飛び上がり、再び全速力で路地を駆けた。
「見つけたぞぉ!!」
「大人しく捕まれぇ!!」
この逃走劇は最早常識が通用しないものとなっていた。何しろ追手のガンプラダイバー達は、皆銃や網を片手に追い回しているのだ。ここまで馬鹿にならない展開は初めてで、リョウマでさえ対処を考えあぐねる程だった。
「交流広場でビルドシステム使うのはご法度だが.....その前に何で舞夜が出て来ないんだ!?うわっ!?」
道の脇に置かれたドラム缶が突然爆発し、リョウマは咄嗟に運河の中へ飛び込む。運河を往く船も当然、リョウマを狙う者が居座っている。
「こうなれば袋の鼠だ!撃てぇ.....あれっ!?」
船長が号令を発する刹那、腰に鎖が巻き付き川の中へと引きずり込まれた。
「できれば俺はお前らの敵になりたくないけど、邪魔をするなら覚悟はしてるんだよな!ビルドアップ!」
リョウマは壁にリールマシンをビルドし、鎖を引き込ませ船長を拘束するとマリンバイクを即座に形成、跨って船を追い抜いた。更に右手に無反動バズーカをビルド、水面に向けて放ち水柱で船を転覆させてマリンバイクを加速させる。
「くっ....貴様ぁ!!」
船長が入水するのには見向きせず、リョウマはスロットルを捻り運河を駆け抜けた。両岸には恐らく、メビウスの演説を見たであろう者達が集まり、リョウマへ罵声を浴びせかける。中には投石をする者まで居り、リョウマはいよいよ危機感を覚えた。複雑な水路を縫いつつ海へ飛び出し、手早くウィンドウを開いて別の区画へと転移した。交流広場第3区画。江戸時代の城下町をイメージした作りに変わっており、彼を酷く困惑させる。まだアーネストが手を付けていないはずだったが、この短期間で大きく様変わりさせるとは、誤算であった。
「御用だァ!!」
「ここは映画村かよ!?最っ悪じゃねぇか....!」
腰に刀を差した和装の男とすれ違うが、すぐに気づかれてしまい、リョウマは間もなく侍に追いかけられる。男が柄に手をかけ、抜刀しようとする瞬間にリョウマは台車を無理やりひっくり返し、載っていた米俵をぶつけて時間稼ぎをする。だが男も中々の身のこなしをしており、米俵をひょいと飛び越え、あっという間に目と鼻の先まで詰め寄った。
「斬り捨て御免!」
追いつくやいなや、腰に差した刀を抜き放ち横一文字に一閃した。リョウマはその場でしゃがみ前転をし、刀の錆になるのは回避したが先程まで背後にあった、木製の看板が真っ二つにされるのを見て肝を冷やした。
「ほ、本物かよ.....どうなってんだ、こんなゲームじゃなかっただろ!」
「何を申すか!貴様はこのダイバーズを乱す物の怪であろうに!」
男が再び刀を構え一歩踏み出した刹那、真横から何者かの蹴りが突き刺さり横飛しつつ昏倒させられた。新手ではないのかとリョウマは目を大きく見開き、小屋の陰に視線を向けると、恐怖と驚愕で息を呑んだ。
「き......君は......まさか」
サングラスをかけた青年は暫しリョウマを眺めると、彼の手首を掴んで立ち上がらせそのまま走り出した。
「探してましたよ――リョウマ・アルキメデス」
「あの組織はもうなくなったんじゃなかったのか?それとも君個人で動いてるのか?」
「詳しい話は後でします。俺はまだ、あなたに借りを返していない」
甘味処へ男二人が立ち入るのは何とも奇妙な光景だが、身を隠せるのなら躊躇いはしなかった。NPCの店員に適当に注文し、二人は席につく。
「兎にも角にも、まだ生きていたのは有り難い限り.....これだけの規模で事件が起きれば、今度こそ誰にも止められなかった....」
青年はサングラスを外し、ジャケットの胸ポケットに差した。リョウマも彼の顔を見て本物だと知ると、尚更困惑した。
「何故君が俺を探そうとするんだ?君にとって俺は悪魔以外の何物でもないはずだ――カイ」
ガンプラダイバー、"カイ"。"アント"と呼ばれる組織の中心人物の一人で、ZeuS事件にも少なからず関与していた男である。無論、どちらかと言えば被害者に親しい存在だが、過去にリョウマとは繋がりがあった。何しろリョウマも、アントに技術提供を行っていたのだから。"アント"と言うのは、"Anti.ν-Type Alliance"と呼ばれる、ν-Type排斥運動を行ったとされる組織であり、かのエス・ブラックベイも標的にされていた。現在は解散されており、カイを含む全てのメンバーは、個々で一般プレイヤーとして生きている。だがカイだけはどうやら異なる事情があるようだ。店員が二人の席にみたらし団子の皿を運び、それぞれの目の前に並べて立ち去った。カイは団子を一口食べ、甘すぎたのかやや後悔したような顔をして、リョウマに向き直る。
「うっ.....いや、俺があなたを探していたのは、さっき言ったように借りを返す為です。俺の為に、わざわざP-DRIVEの開発に力を貸して頂いたこと、何より俺達の活動がより良いものになるように、協力し続けて頂いたこと。恐らくあなたと直接返礼出来るのは、俺しかいない。だからこの場を借りて」
「そんな必要はない」
カイの話を遮り、リョウマは口を挟みつつ水を飲んだ。"P-DRIVE"なる単語の意味を知るのは、この二人だけである。
「下手をすれば君を破壊装置にしかねなかった物だ、あれは。それに俺が君達に協力した理由は、ν-Typeの存在を否定し得る証拠が欲しかったのもあるが、単に俺自身の技術力を誇示したかっただけだ。俺のエゴの為にやった事に感謝なんて、するもんじゃあない」
「だが俺はそこに恩義を感じている。リョウマさん、アンタじゃなけりゃ....俺はこうして生きていられなかった。実力だけじゃどうにもならない。腐りきった根性を叩き直すきっかけを作ったのは、間違いなくアンタだ」
不意に昔の口調が混じり始めるが、カイは気にせず続けた。
「俺がアンタを勝たせる。ダイバーズが本当の平和を手にすれば、それで借りは完璧に返せる」
「貸しにしたつもりはない。俺に関われば、誰も彼もが苦痛を背負う.....俺があの一連の悲劇を生み出したんだ。被害者が加害者に与するなんて、馬鹿な話があっちゃならない。君はもう自由なんだ、それを捨てに行く真似なんてするな」
「アンタ相変わらずだな.....だが俺はそんな事で諦めるタマじゃねぇのも知ってるだろ。恩義があるなら返すのが筋だ。それだけは通させてもらう」
そう言うとカイは、ポケットから黒鉄色の懐中時計の様な物を取り出し、リョウマの手に置いた。
「何だこれ....?時計か?」
「それとは別だが、最近....俺達が使っていた拠点を引き払う時に見つけたやつだ。しかしそいつは、およそ俺の想像に及ばない何かがある気がしてな。アンタなら解析でもするんじゃないかと」
リョウマは渡されたそれを色んな角度から眺め、うんうん唸りながらコートにしまった。
「......まぁ、何かあればいいよな。とにかく、もう俺に関わるのはやめてくれ。お前まで狙われたんじゃ、また被害が増える一方だからな....」
半ば無理矢理に支払いを済ませ、リョウマはいそいそと甘味処を後にした。その折だった。手元に号外速報と称された通知アイコンが現れ、リョウマは何事かと展開した。
「"白いクシャトリヤ、無差別破壊を繰り返し述べ30人ものダイバーに被害が 細心の注意を払うを払うよう、運営より通達".....白い、クシャトリヤ......彼女か!!」
白いクシャトリヤとは言われれば、リョウマの脳内に浮かぶ答えは唯一つ。居ても立っても居られなくなり、取り急ぎ適当なダイバーに対戦乱入する形で、バトルエリアへと転移した。
ビルドレイザーのコクピット内、リョウマはすぐに出撃しようとレバーに手をかけた。その直後だった。どこからやって来たのか、ミサイルがカタパルトデッキの中へ侵入してきたのだ。
「なっ.....!?こんな所まで狙える奴が!?」
足下のレールが砕かれ、ビルドレイザーはすぐさまメガ粒子砲内蔵式シールドをビルド。ミサイルの爆風を防ぎながらビームを撃ち返し、カタパルトデッキを突き破って機体を空中へと落下させた。
「一体全体、どうなってんだ.....?」
疎らに襲いかかるミサイルを掻い潜りつつ、リョウマは敵の正体を把握することに努めた。だがそうする間もなく、彼の予感が的中する事になる。バーニアの残光が通り抜けた後で火球が発生した。間違いない、彼女だ。リョウマはそう見るや「ユニットビルドアップ!」と宣言、ビルドレイザーのバックパックを、G-セルフの大気圏用パックに換装して追跡を始めた。
「止めるか倒すしかないのか....くっ!邪魔をするなッ!!」
ビルドレイザーのすぐ後にぴったりとくっつこうとするSガンダム。ビームスマートガンの砲撃をバレルロールで避け、くるりと宙返りしながら右手にツインバスターライフルをビルド、最大出力で放ちSガンダムを撃墜した。だがそこへ、何かが近づきつつあった。
「自分のから来るのか....!」
接近してくる白い影を見、リョウマは歯軋りした。やはり、無差別破壊のMSとはクシャトリヤコープスブライドの事だった。クシャトリヤコープスブライドは両腕の先端を、ハイパービームジャベリンに換装しているらしく、大きく振りかぶり一気に叩きつけてきた。ビルドレイザーは先程のSガンダムの前に飛び出すと、前腕にIフィールドユニットを形成し、即座にIフィールドを発してハイパービームジャベリンの一撃を跳ね返した。エミも早々に相手の正体に気づき、唇を歪める。
「貴様は....あの時のッ!!」
コープスブライドがハイパービームジャベリンを勢い良く振り上げ、ビルドレイザーを打ち上げようとするが大振りな獲物故に、簡単に避けられた。ビルドレイザーは逆にサマーソルトキックを相手の顔面に浴びせ、怯ませたところで両肩を掴み接触を試みる。
「お前をこの先へ行かせない!これ以上被害を出させてたまるか!」
「これも何もかも、貴様らが引き起こした事だ!今更善人面するなぁ!!」
コープスブライドの膝から隠し腕を伸ばし、真下から斬り上げた。ビルドレイザーは既の所で躱し、相手の胸部に肘打ちを食らわせ、その勢いでビームサーベルを抜き放ち斬り返した。
「善人だとか、そんなのは初めから考えてない!これは俺の義務だ!」
リョウマの声が聞こえる度、エミは胸の内に憎しみの炎を滾らせていく。全てが遅すぎるのだ。そして、全てが嘘で塗り固められたものにしか映らなかった。彼女の目にはもう、人の心という物は見えないのかも知れない。と言うのは、他者はともかく彼女自身が己の変化を恐れなさすぎた故の、結果であった。
「はははは......ははははっははっははっはっはっ....!ハザードォオオオオオオーーーーーッ!!!」
エミは突然狂ったような笑いを上げ、コンソールを殴った。白い巨躯の各部から黒い霧が噴き出し、ビルドレイザーを吹き飛ばした。リョウマは巧みなレバー操作で機体の姿勢を制御するが、コープスブライドから発せられる凄まじい殺気を感じ、冷たい汗が全身を伝った。
「ハザード、だって.....!?」
ビルドレイザーは素早くビルドライフルを形成し、連射しながら距離を取るがコープスブライドは被弾さえ厭わず、全速力で追いかける。バインダーからファンネルをばら撒き、ビルドレイザーの退路を的確に塞ぐと、ハイパービームジャベリンの出力を最大にし槍の穂先を素早く突き出した。ビルドレイザーも身を翻し攻撃を躱したが、そのタイミングに合わせてコープスブライドがハイパービームジャベリンを薙ぎ払い、直撃を受けてあわや海面へと叩きつけられてしまう。ビルドレイザーは水中への対策は一切なされていなかった。宇宙と水中では、同じ気密性では意味が無いのだ。
「うっ.....まずいぞ.....!水が、入ってくる!?」
ビルドレイザーがますます海中に沈み、コクピットハッチの隙間から水が流入し始める。リョウマはレバーとペダルを最大まで押し込み、機体を無理矢理海上へと浮き上がらせようとした。しかしコープスブライドが空中から光の雨を降らせてくる。下手に海中から顔を出そうものなら、一撃で蜂の巣にされてしまうだろう。
「天才だったんじゃなかったの?笑わせないでよ、お勉強が出来るだけならそんな肩書、捨ててしまえッ!」
エミは頭をゆらゆらと動かしながら、レバーを前に倒した。コープスブライドがビルドレイザーのいるであろう水面目掛け、ハイパービームジャベリンを突き入れた。ドォオオオン!!と水が瞬時に蒸発する音が虚空へ吸い込まれ、とてつもない高さの水柱が天へと伸びたかと思うと、細やかな雨を降らせた。しかしエミは斃したと言う確信を持てず、すぐさま右に振り向いた、その時である。
「ビルドアップ!!」
ビルドレイザーが水飛沫で視界が悪くなる瞬間を狙って水中から飛び上がり、両手をダハックのマニピュレータに換装。ハイパービームジャベリンのエネルギーを、瞬く間に吸収しながら発振器を引っ掴むと、次はデスティニーの物へ形を変えてパルマフィオキーナで爆砕した。目まぐるしく攻撃パターンを組み立てていくのは、正しくリョウマが天才たる所以を示す。エミはビルドレイザーを睨みつけ、声を荒らげた。
「イリュージョンとでもッ.....!!」
ファンネルミサイルをリアアーマーから放ち、ビルドレイザーを吹き飛ばそうとするが、その目論見は簡単に崩される。ビルドレイザーが両手に持ったサーベルでファンネルミサイルの、弾頭のみを切り落として全て無効化したのだ。エミは迷わずコープスブライドを急上昇させ、一時離脱を目指す。しかしハザードを起動させた以上、戦闘の長期継続は避けねばならない。大型化した両腕の装甲を排し、通常型に戻すと前腕内部からビームサーベルを装備して旋回しつつビルドレイザーへ接近をかけた。
「この手で葬らなきゃ、気が済まないってのか....だったら!」
リョウマの指がコンソールの"HAZARD"に触れようとしていた。一瞬躊躇いを感じたが、コープスブライドの移動速度が予想を遥かに超えているのを察し、覚悟を決めウェポンセレクタをタップする。
「ハザードビルドアップ!」
ビルドレイザーの全身を黒霧が覆い尽くし、赤と青の双眸を煌々と輝かせた。右手にドリルクラッシャーをビルドすると、コープスブライドが至近距離へ到達するのに合わせ正拳突きを放つ。しかしコープスブライドはビームサーベルを振り下ろすと見せかけ、胸部の拡散メガ粒子砲を斉射した。放射されるビームの渦にビルドレイザーは巻き込まれたものの、ハザードの霧によりほぼ無効化される。勿論これはエミにも分かっていたことで、ドリルクラッシャーに対応する方法を考える為に、時間稼ぎをしたに過ぎなかった。
「たかがドリルに使うのは癪だけど、どちら道同じこと!」
バインダーの左右からビームシールド発生器を迫り出させ、光の盾を発してドリルクラッシャーを弾き返し、バインダー先端からも隠し腕を伸ばして斬りかかる。ビルドレイザーがビームサーベルで素早く斬り結び、高度を取ったがエミはそれを見るや勝ち誇った様に、口許を歪めた。