創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「ハザードビルドアップ!」
リョウマの宣言と同時、ビルドレイザーの全身を黒霧が覆い尽くし、赤と青の双眸から鋭い眼光を放った。右手にドリルクラッシャーをビルド、ギリギリまでコープスブライドを引き寄せてから正拳突きを見舞う。しかしコープスブライドはビームサーベルで攻撃すると見せかけ、拡散メガ粒子砲を放射しビルドレイザーを追い返し、バインダーから展開したビームシールドでドリルクラッシャーを弾いた。そのまま間髪入れずバインダーの先端からも、隠し腕を開放しビームサーベルを発振させ八つ裂きにせんと斬りかかる。だがビルドレイザーは素早く反応し、バックパックからビームサーベルを抜き放ち斬り結び、相手の頭上を取ったのだが当のエミは一切の動揺を見せないどころか、かかったとばかりに勝ち誇った顔をした。
(かかった....!天才なんてものは、ただの眉唾だと証明してやる!)
一方リョウマはハザード状態の機体から来る、情報のフィードバックにより、苦痛で顔を歪めた。しかしコープスブライドの挙動が想定とは違うと見、頭をフルに回転させた。だが状況は彼の予想だにしない方向から崩れて行くのだった。唐突に熱源反応が現れ、リョウマはぎょっとしてその方向へ目を向けた。鉛色に鈍く光る"何か"―。リョウマがその正体を察するのに、何ら時間もかからなかった。
「ダートビットか.....!と言う事は、相手は彼女ではなく、奴か!!」
ビルドレイザーは頭部バルカン砲でダートビットを撃ち落とし、緩やかに高度を上げながら左手にビルドしたザンバスターを連射した。放たれた光の矢は何かに弾かれ霧散する。消えた先で黒い影がぐんぐんとこちらへ向かい、加速していく姿が見えた。
「そうだ、私だ」
一つ眼の鬼神、イフリートコラプスがヒートサーベルを交差させ突進する。ビルドレイザーもザンバスターからバスターガンを外し、ビームザンバーへとシフトして迎え撃つ。赤熱化した鋼鉄と光の刃がぶつかり合い、稲妻の如き閃光を迸らせた。
「東郷さん、あなたが彼女を利用しているのかっ!?ハザードを使わせてまで戦わせるなんて、何考えてんだ!?」
「いいや、奴は私や百崎社長とは無関係だ。しかし目的が一致するのなら、こういう事にもなるだろう、水崎!」
イフリートコラプスの左腕、ビームバルカンが火を噴いた。ビルドレイザーはすぐさまGNシールドビットを形成し、ビームバルカンを防ぎつつコープスブライドにも目を向けた。するとコープスブライドの拡散メガ粒子砲が再び襲いかかり、リョウマは半ば強引に機体を向き直らせ光の合間を縫いつつ、ビルドライフルでの狙撃を試みた。だがコープスブライドは華麗にバレルロールを描いてこれを避け、ファンネルミサイルとビームガンを斉射し、ビルドレイザーを天高く打ち上げた。そこへ急接近をかけ、バインダーの隠し腕で四肢を掴み、胸部の拡散メガ粒子砲にエネルギーの充填を始める。
「これじゃあ逃げられないだろッ!!死ねッ.....死ねぇええええッ!!」
コープスブライドのコクピットの中は、すでに暗闇に包まれていた。エミの瞳も赤い光を灯し、口角もピクピクと震わせながら吊り上がらせている。彼女を知る者が今の顔を見たらどう思うだろうか。きっと同じ人物とは思ってくれないだろう。しかし今のエミにはそのような事はどうでもよく、憎きZeuSの人間を一人残らずこの手で葬ればそれで良いのだ。魂も誇りもかつての想いさえも全て捧げ、アーネストの軍門に下った。何の後悔もない。失うものも得るものもない。だがそれで十分だった。メガ粒子の渦がビルドレイザーを呑み込み、爆発の衝撃が空気を揺らした。
「この程度で終わるとは思えんが....」
シューインは今の状況を静観しながらも、油断だけは怠らないでいた。一方のエミはと言うと、勝利を確信したのかハザードを解除し青空を虚ろ気な目で見上げ、安堵したように笑う。しかしその声は乾いていた。
「あはは.......やったよ.....私、やったよ.....ハジメ、君......あれ....おかしいな........何で私、泣いてるの......?」
瞳から零れ落ちる滴が手の甲に当たり、弾ける。復讐を果たせるのなら、素直に笑えたはず。しかしとめどなく溢れ出てくる涙は、エミの心のどこかに蘇った感情によるものだ。無論、エミ自身がそれを自覚する事はない。本当の自分と向き合わない限りは――。
「ぐっ......がっ.......や、やめ、ろ......!ハザードを、止めないと......!」
着弾の直前、リョウマは身体のコントロールが効かなくなったのを感じ、危険を悟った。ハザードが暴走を始めようとしている。金縛りにかかったように動けなくなった腕を、強引に伸ばして強制解除しようとするが、その時点で彼の意識はぷっつりと切れてしまった。そしてコープスブライドの拡散メガ粒子砲が着弾してから、数分後。恐れていた事が遂に現実のものとなってしまう。煙を突き破り、黒い風がコープスブライドのそばを通り抜けた。その瞬間、左側にあったバインダーが、フレームごと斬り落とされ海面から水しぶきが上がる。エミもシューインもこの事態に何が起こったのか、一瞬測りかねた。
「なっ......!?」
コープスブライドが振り向きざまにビームガンを撃とうとした矢先、黒い霧に包まれた手に顔面を捕まれ視界が塞がれた。両手で引き剥がそうにもびくともせず、エミは歯をガチガチと震わせた。この時にして初めて理解した――これがハザードなのだ、と。
「いかん....このままでは!」
シューインは迷わずイフリートコラプスを加速させ、2機の間に割って入りビルドレイザーの顔面に、右腕から発振させたビームニードルで殴りつけた。しかしビルドレイザーは左手でいとも簡単に受け止め、ゆっくりとイフリートコラプスに目を向ける。
「貴様は何をしようとしているのか分かっているのか!お前が救いたいという奴を、お前自身が殺すというのか!?」
だがそんなシューインの挑発にも応えず、ビルドレイザーは全身を光らせ2つの残像体を形成してそれぞれにぶつけた。忽ち機体の制御が不能になり、モニターに激しいノイズが走るようになる。それだけではない、機体各部が痙攣を起こし自壊も免れぬ有様となった。
「機体の、コントロールが!?」
エミが必死にレバーやペダルを動かしても、コープスブライドは一切制御を受け付けず、空中でもがき続ける。だが彼女に情けなどかけずビルドレイザーは、ゆっくりと"歩み"を進めた。
「はっ.....!?嫌......嫌だ......やめて......来ないで.....来ないでッ.....きゃああああああッッ!!!!?」
エミの叫びは虚空の彼方へ吸い込まれ、消えてしまう。一切の慈悲もなくビルドレイザーのビームサーベルがコクピットを貫いた。その直後イフリートコラプスの機能不全が回復。バーニアを最大にして二振りのヒートサーベルで交差斬りを仕掛ける。しかしビルドレイザーは予備動作もせずに、上体を反らし斬撃を躱して胸部装甲にストレートを叩き込んだ。そして右足の先端にチェーンソーをビルドすると、目にも留まらぬ速さで斬り蹴り、イフリートコラプスの顔面に深い裂傷を負わせた。
「これが、ハザードの力....!制御出来なければ、ああなると言うのか.....えぇい...!」
シューインは近くの島に機体を着陸させ、ホバー移動で後退しつつ、両腕からビームバルカンを斉射して森林の中へと潜ませた。ビルドレイザーは左手からIフィールドを発してビームバルカンを無力化すると、ふわりと砂浜に降り立ち目の前にメガ・バズーカ・ランチャーを生成し間髪入れずトリガーを引き、圧倒的な火力を以て森林を焼き払ってしまった。情けも容赦もなく、慈悲すら感じさせぬビルドレイザー。シューインは無意識下で恐怖する。
『ハザードが暴走しちまえば、ほぼ確実に何の制御も受け付けなくなる。物言わぬ破壊装置に成り下がる訳だ』
脳裏でグロックの言葉が過ぎった。彼の言っていたことは、全くの真実で冗談などではないのだ。
「こんな悍ましい物を作るのに、俺は加担したというのか.....」
戦慄。最早それ以外の言葉が出てこない程に、シューインは思考を支配されていた。アラートが鳴り、急いで意識を戦いに向け、レバーを前に倒した。大木の陰から飛び出し、ビルドレイザーの居る砂浜へ直行する。
「だが、貴様に出来て私に出来ないということはない!ハザード!!」
シューインの宣言に呼応し、コクピット全体が赤い光に染まった。イフリートコラプスは全身から黒煙を発し、モノアイの眼光を瞬かせ風となり白砂の大地を駆け抜けた。ビルドレイザーもすぐに気づき、メイスをビルドして真っ向から突撃する。イフリートコラプスが最上段から振り下ろすヒートサーベルを、ビルドレイザーがメイスで叩き折り反動を利用して、胴を横薙ぎに殴り抜けた。コクピットを凄まじい衝撃が襲い、シューインは危うくメガネを落としそうになるが、それでもモニターに映るビルドレイザーだけは目で捉えていた。
「これ程のフィードバックがあるとは.....しかし!」
地を滑走し、両腕からビームニードルを発振させフックを狙う。だがビルドレイザーは僅かにタイミングをずらして身を屈めると、背部に新たなバックパックを生成した。その姿形を見たシューインは驚愕する――それは余りにも、殺意に満ちた物であった。エールストライカーの様に見えたそれは、翼に夥しいの刃を抱えており、絶えず高速回転し続けている。航空翼がチェーンソーとしても機能するようになっていたのだ。勢いを殺す間もなく、ビルドレイザーがイフリートコラプスの直ぐ側を通り抜けてしまう。その頃には既に、イフリートコラプスは胴体を真っ二つにされており、上半身が波打ち際に転がった。
「ぐっ......ぬぅっ......!な....まだ終わらないだと....!?」
イフリートコラプスのハザードが機能停止を起こしたが、ビルドレイザーはそれには一切意に介さず、むんずと頭部ブレードアンテナを掴んで持ち上げる。双眸の紅蒼の煌めきと黒霧をより一層強め、冥府へと叩き落とす死神もかくやの様相を呈した。
新生ブルームーン旗艦、クレッセントブルームーンにて。
「こ、これがグラハムさんの....新鋭機....!?」
MSデッキの中へ搬入される、1機のモビルスーツ。形状からするにブレイヴ指揮官用試験機なのだが、擬似太陽炉を懸架するバインダーや装甲の細部に変更が加えられていた。エスはセットアップ中の現場に遭遇し、その状況に息を呑んだ。映像作品でしか見ることの無かった、大規模な整備の様子である。興奮しない方が難しいだろう。殊にエスの様な人間にとっては。
「どうだい、我らがソルブレイヴスが誇る、グラハム隊長の新鋭機は」
近くをダリルが通りかかり、作業風景に見入るエスに声をかけた。
「凄いってもんじゃないですよこれ.....」
「300ものカスタム用MODを実装する予定らしい。そんでこのブレイヴは"ブレイヴ・サンダーバード"になるんだと」
「サンダーバード?あの人形劇ですか?」
日本人であるエスには、サンダーバードと聞いて思い浮かぶのはそれしか無かった。ダリルもその辺りは分かっており、苦笑しながら首を横に振る。
「分からなくもないな、誰だってそう思うけど違う。サンダーバードってのは、アメリカに古来から伝わる伝説上の生き物だ。その名を通り雷を起こす存在として信じられてきたのさ」
「雷を呼ぶ鳥ってことです?」
「だからリギルド・センチュリーの技術とか、GN粒子変容技術を最大限に応用して再現する仕組みが必要で、それはガンプラじゃどうにもならんから、MODで擬似的に実装するしかない。まぁ隊長は我慢弱い訳だから、いつでも動けるように、普通のブレイヴまで持ってきてんだがな?」
「あの人らしいですよ」とエスは笑い、リフトで作業現場の近くまで降りた。やはり慌ただしく稼働しており、邪魔にならぬよう立ち回りながら観察する。だがそうするのも束の間、葉山に捕まってしまった。
「エス、暇なら手伝え!人手が全く足りないんだよ!貴様もここで作業するには十分な技術、持ってんだろ?ならやる事は決まってんだから!」
作業用ビークルに乗せられ、ブレイヴ・サンダーバードの懸架されたドックへ向かう。確かにエスもとい聡は、仮想世界工学研究室に所属している為、プログラミング回りについても多少の心得があった。しかしそれを何故葉山が知っているのか、不思議でならない。
「ハッパさん、どうしてそれを知ってるんですか?」
「緑のコート着た娘が言ってたんだよ。お前が技術者にも向いているってな」
「緑のコート......あぁ!?」
犯人を一瞬にして特定出来、エスは思わず声を上げた。ミサがにやにやと笑みを浮かべながら手を振るのが見え、最早確信犯であるのは言うまでもない。ミサの隣にはミナも居り、一緒に手を振っていた。
「エッちゃん早く手伝ってよ!」
「誰がエッちゃんだ!変な呼び方するんじゃ.....何だ?」
エスがいたずら代わりに、足元に落ちていた工具を投げ渡そうとした矢先。どこからかガシンガシンとMSの歩く音が聞こえた。ブレイヴ一般用試験機が慌てて押し留めようとしているように見え、エスはますます不思議がった。
「ハッパさん。あっちの方に行ってもらえますか?」
「ちょうど俺も気になってた所だ。何だってんだ、こんな忙しい時に!」
やはり葉山も今の出来事が気になるようで、ビークルのハンドルを切ってブレイヴ・サンダーバードから離れ始めた。
「だから、やめなさいと言ってるでしょう!まだ整備も調整もロクに出来てないのよ?何があったか分からないけど、いきなり出てって、もしやられて戻って来たら、どれだけの迷惑がかかるか....!」
ブレイヴ一般用試験機のコクピットでは、カリーナが必死に止めようと説得していた。彼女が止めようとしている相手は、ドラグハート――弘だった。
「んなこと構ってられるかよ!アイツがやばいってのに!アイツが戻らなくなったら、ダイバーズが奴らの好き勝手にされるかもしれねぇんだ!!」
「アイツって.....リョウマ・アルキメデス?あっ.....あらぁっ!?お、落ちっ....駄目ぇええっ!!」
戦艦の中だと、満足に推進力を使えないのをいい事にドラグハートがずんずんとブレイヴを押し出していく。とうとう踵が空中にはみ出てしまい、落下寸前の所でカリーナはやむなくペダルを踏み込んだ。
「そこの二人!何やってんです、こんなところで!」
エスが叫び、注意をひく事で2機の動きを止めた。
「ちょうど良かった.....エス君だったわよね、この人を止めるの手伝って貰えないかしら?」
「どういう事なんです?」
「さっきからアイツがどうのこうのって、ずっと言って聞かないのよ...」
カリーナの話を聞きながら、エスはある直感を得た。弘と直接話をしなければならないと、思いに駆られドラグハートのコクピットハッチ目掛けワイヤーガンを撃ち、機体に取り付いた。
「弘、開けてくれ!」
「飛んだぁ!?」
突然すぎる動きに弘は度肝を抜かれつつも、ハッチを開けて顔を覗かせた。エスはコクピットの中へ滑り込み、問うた。
「何か感じたって事?言葉では言いづらい何かが、君の中にあった....そうじゃないか?」
「な、何で分かんだよ......アンタ、ずっと思ってたけど何もんだ?」
「俺の感覚に間違いがなければ、君はν-Typeかも知れない。仮想世界に適応した人間って意味....多分、君はその一人になったんだろう」
ν-Type。聞いたことの無い言葉に弘は即座に否定しようとするが、心の何処かでは引っかかりが取れるような感覚があった。ν-Typeと言うのは、エスの言うように仮想世界に適応した人間を指す名称である。語源は"ニュータイプ"であり、これもまた宇宙の環境に適応した新人類を意味していた。理論上では存在し得ないものだが、現にエスもミナもそのν-Typeと呼ばれる人間達の一人である。そして弘もまた、その戸口へ立とうとしていた。リョウマの言う"超感覚"の正体は、恐らくそこにあるであろう。そう考えると弘は自然と納得できた。
「ずっと変だった....俺がコイツを使いこなせるようになってから、ずっと。戦ってる相手がどんな気持ちだったとか、動きとかもチラホラ....わかると言うか、見えるようになっちまっまったっつーか....気がつきゃ今はアイツがヤバイってことまで分かるしな.....俺はそのν-Typeってんのか」
「やっぱり......そういう事なんだよ。その感覚に間違いはない、信じられる。カリーナさん。これは俺に任せてもらえますか!」
唐突な提案にカリーナは少し戸惑うが、どうなるか分からない弘を一人にするよりは、多少は安心できるので呑むことにした。
「いいけど、危なくなったら何が何でも撤退させなさい?これは艦長からの命令でもあるから」
エスはサムズアップで応え、ハッチを閉じた。
「行こう。君の仲間が危ないなら、悠長にしてられない!」
「おう......恩に着るぜ!」
彼の言葉に後押しされ、弘はドラグハートをクレッセントブルームーンから飛翔させる。リョウマを連れ戻せるチャンスは、恐らく今しかないのだ。