創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
濃紺のジャケットを着た青年、ガンプラダイバー“カイ“――本名を土村海知と言うが、彼はとある古いマンションを訪れていた。海知の隣には、ベージュの背広を召した金髪翠眼の男もいる。髪もかなり短く切り揃えており、あと一歩踏み込めば坊主ヘアになるように見えた。それはさておき、二人は非常階段付近の扉を前に、何かを懐かしむような顔で南京錠を解錠した。照明をつけると、そこかしこにコンピュータやその他の機材が置かれた景色が姿を見せる。埃まみれのようだが、電気や通信回線は生きているらしく、通電ランプの青い光が灯されていた。
「僕は一度しか来たことないけど、君は何度かここに来てたんだろう?」
「まぁ....大抵は俺の機体の調整を手伝ってもらってたがな。あの人のおかげで俺やお前、いや....."A.ν-T"がスムーズに動けていた。お前だってそれは理解してんだろ、ポール・マートン」
「常識を超えられるまではね....おっと、掃除でもするのかい?」
「ここの設備は今でも一線級だ。この現状、水崎さんが狙われてると考えるのが必然....俺だって今の状況がまともとは思えん。それなら俺達でできるところまで手伝ってやる。ちとしょぼくても、借りを返せるならそれでいい」
手伝えと言わんばかりに海知からスティッククリーナーを投げ渡され、ポールは危うく頭をぶつけそうになった。
「危ないなぁ....!まぁでも、拠点が増えるならミスター・リョウマも嬉しいんじゃないか?組織も今じゃ単なるネットワークになったのは、残念がりそうだけど」
「仕方ない。これも時代の流れって奴さ....俺も否応なしにν-Typeと言う人間を、信じさせられた訳だしな」
海知はジャケットを適当な椅子の背もたれに掛けると、エアダスターと乾いた布巾を両手に掃除を始めた。
ガンプラダイバーズ、クレッセントブルームーンにて。
「緊急出動要請です!バトルエリアP-2X66Gにて無差別攻撃が発生中です!常岡さんとアマダさんが先行しているです、直ちに救援を!」
艦内放送でアヤカの声が戦艦全体に響き渡る。
「また彼女か.....!」
恐らくクシャトリヤ・コープスブライドだろうとリョウマは見立て、ビルドレイザーのコクピットハッチを開けた。しかしそこへエルニアが現れる。
「あれ?スワンが監視についてるはずなのに、何でここにいる訳?それはそうと、出撃はさせるなって言われてるから止めさせてもらうね!」
徐ろにスイッチを押し、ハッチを閉めてしまった。だがリョウマはエルニアの手を押し退け、再び開けてコクピットへ飛び乗った。
「そんな事言ってる場合か!アイツらでどうにかなる相手じゃない。俺がやる」
「うわっ!?ちょ、ちょっと!きゃああっ!!」
ビルドレイザーの胸部ダクトから排気し、エルニアを転ばせ無理矢理逃すと、機体にかかっているロックを強制解除させてクレッセントブルームーンから飛び出した。
「権限がまだ生きているなら....行けるはずだ。ビルドアップ!」
ビルドレイザーの背面にダブルオークアンタのGNシールドを2つビルドし、すぐさまトランザムを起動。紅の輝きを纏うと次に翡翠の光へと色を変えた。
「クアンタム.....行くぞ!」
ツインドライブから放たれる粒子量が倍加する。やがて機体全体にも影響を与え始め、粒子に包まれたかと思うと、忽然と姿を消してしまった。この様子はブリッジでも観測されていたようで、アヤカが呆然とした顔でモニターを凝視し、ゆっくりとウォレスに目を向けた。ウォレスも突然過ぎる現象に言葉を失い、くちをあんぐりと開けたままである。
「な、何でもありです.......!?」
「チートもいいところだよ、どうなってんの!?」
口々に感想を漏らす二人。一方のリタは、依然険しい面持ちのままだった。先程まで軽装状態だったはずのビルドレイザーに、いつの間にかGNシールドが装着されている。更にトランザムまで起動した挙句、量子テレポートさえやってのけた。常識が通用しないのは覚悟の上だったが、これは明らかにリタの想像を遥かに凌駕する物だった。
(やはり彼は.....これまでのどんなダイバーとも違う....ZeuSの社員とは別の、何かを持っている。そうとしか考えられない...水崎諒馬、その正体を見定めさせてもらいますわ)
そう考えるとリタの行動は早かった。すぐさまウェルスに回線をつなぎ、アヤカ達に聞かれない程度の声で指示を送る。
「急で申し訳ございません。リョウマ・アルキメデスの追跡、頼めます?」
すると、予想よりも呆気なくウェルスから承諾を受け取り、リタは目を丸くする。
「個人的にも気にしているフシはあったからな....乗りかかった船だ。引き受けてやる」
アストレイノワールDのコクピットの中、ウェルスはリタからの通信にそう返し、機体にとある武器のデバイスドライバをインストールしていた。だがその直後、アヤカの驚愕する声がコクピットに反響したせいで思わず頭を上げてしまい、首の付け根辺りからグキッ!と嫌な音がした。
「うっ....!?一体どうした?」
「状況が変わりましたわ。彼の機体は量子テレポートが使えるようです」
「何だって?リリ嬢、ヤツの機体はツインドライブ搭載機じゃなかったんじゃ.....!?取り敢えず出撃する!」
アストレイノワールDがリニアカタパルトに立つと、すぐ後ろのドックアームが可動してバックパックに武装を取り付けた。青い翼のようにも見える大剣。ウェルスはちらりと横目で実物を見、何かを呟いてレバーを一気に倒した。
「ここか.....あのクシャトリヤは....あっちか!」
ビルドレイザーが到着した場所。そこは何とも不思議な世界だった。ロシアのサンクトペテルブルクにある、冬宮のようだがそれにしては異様だ。機体のサイズに比してかなり大きく作られているのだ。つまり、モビルスーツサイズの都市とも言うべきステージだろう。しかし現実とは何もかもが違い過ぎる為か、リョウマ言えど気分を悪くしかねなかった。探し回ろうとした矢先、熱源反応が現れ身構えるがどこか様子がおかしかった。何かから死に物狂いで逃げるリーオーの姿を目にしたのだ。
「く、来るなぁ.....来るなぁあああ!!」
ヒステリックな叫びでただ事でないのは容易に察せられた。リョウマはビルドレイザーを走らせ、転倒しそうになるリーオーを受け止め建物の陰に隠し、事情を問う事にした。
「一体何があった?何に追われてるんだ?」
リョウマが問いかけた刹那、リーオーにいきなり突き飛ばされ目を丸くした。一方のリーオーは、ビームサーベルを構え、ビルドレイザーの眉間めがけ突き出して来るではないか。ビルドレイザーはリーオーの腕を掴んで押し返すと、サーベルの柄を叩き落とした。その時リーオーのダイバーが放つ一言で、リョウマは状況のさらなる悪化を感じ取る事となる。
「何で攻撃する!?」
「お前がダイバーズを戦争に導くんだろ!?お前さえいなければ、こ、こんな事にならなかったんだ!責任くらい、とってくれよ!!」
「待て!俺は戦争を起こそうなんて考えちゃあいない!起こそうとしてんのは、百崎翼の方だ!俺は敵じゃない!」
「けどお前を倒せば、俺は弱虫扱いされなくて済むんだよ!だから俺のためにやられてくれ、頼む!」
大義名分の裏に、あまりに自己中心的な動機が巣食っていた。リョウマは口を噤み傷ましい顔をしながらも、リーオーを対処する手段を講ずる。頭部バルカン砲でリーオーのバイザーを粉砕、その後Zガンダムのシールドをビルドして顔面を思い切り殴り昏倒させた。
「......どうやらお出ましのようだな...!」
レーダーに映る熱源反応がこちらへ近づきつつある。リョウマはそれを認めるとレバーを握り直し、ビルドライフルを呼び出して機体に装備させた。刻一刻と敵が迫る緊張感。唾をゴクリと飲み込む。ところがその時、レーダーの反応が増えた事に気が付きリョウマはとっさにビルドレイザーを急行させた。
時は僅かに遡り、弘のドラグハートとシローの青いEz-8、"ガンダムBm-8"が現場に到着する頃。長距離飛行に向かないドラグハートは、Bm-8の専用フライトユニット"ファトゥム08"の下部にある、グリップを掴んでぶら下がる事となる。だが後のリョウマと同じく、現場の異様な地形に困惑するのだった。
「何だ、これは......こんなにデカイ建物ばかりだったのか?」
「俺達の機体が縮んじまったんじゃねぇの?にしても気持ち悪くなるぜ....何だってんだ...?」
「とにかく、敵がこの近くにいるはずだ。俺達二人しかいないから、無茶はできない。いいな?」
「分かってる」とドラグハートはファトゥム08から落ちて着地した。Bm-8もファトゥム08を分離させながらバックパックとドッキングさせ、すぐさま家屋の陰に見を潜ませた。
「来るぞ!」
シローが警告すると、弘は右の拳を左手に打ち付け身構える。だがその瞬間、黒い風がドラグハートを突き抜け弾き飛ばしてしまった。弘が何事かと周知を見回している内に、Bm-8が2連装ビームライフルを黒い霧に向けて連射、しかしその行為も虚しく靄は地面に集まり形を成した。見る見るうちに人型になったかと思うと、直線的なフォルムを作り上げ、ようやく視認した弘はその正体をすぐに察したが、信じきれずにいた。まだ黒い霧が濃く漂わせているからよく見えない。そう言い聞かせドラグハートをダッシュさせた。右手にプラフスキー粒子を収束させ、炎と共に拳を放つ。およそ彼の攻撃の中では最大の速度を誇る一撃、のはずだった。黒い霧のMSは突然実体を崩し、再び気体状に変化してドラグハートの足元をすり抜け背後に現れたのだ。これには経験豊富なシローでさえも息を呑んだ。
「量子化に似ているが....くっ!」
Bm-8はサイドアーマーのミサイルランチャーで砲撃し、黒い霧MSの注意を惹きながら後退する。挟み撃ちにすれば、相手に対し有利を取りやすいと見た為である。だが放たれたミサイルは音も立てずに真っ二つにされ、その場でボトボトと地面に落ちた。そしてシローが知覚できぬ速度で黒い霧のMSは、Bm-8の後ろへ回り込む。弘が反射的にシローに呼びかける。
「おい、シローのおっさん!!」
彼の叫びに弾かれるかのように振り向くシロー。しかしその時には黒い霧のMSは、蒼い刃の太刀を素早く振り抜き首を落とさんとする。
「後ろだと!?どうなっている!?」
強引にレバーを後ろに倒し、Bm-8の脚部バーニアを逆噴射させ背中から体当りして辛うじてダメージは免れた。とは言えこれで状況が傾くとは思えない。ドラグハートがBm-8の頭上を飛び越え、黒い霧のMSに蹴りを浴びせ距離を作る。
「妙に知ってる気がする......けどハザードとかいう奴ならやりようはある!」
全身のクリアパーツからまばゆいばかりの輝きを放ちながら跳躍、プラフスキーフィールドを展開した状態で勢いよく拳の乱打を叩き込む。黒い霧のMSは事も無げに拳を避け続け、僅かな隙を突いてスライディングし、ドラグハートの右足を蹴りつけて転ばせる。そして素早く引き返し太刀を袈裟懸けに振り下ろした。まさに神速の如き斬撃がドラグハートに襲いかかる。
「させるか!!」
1機の航空機―否、SFS"ファトゥム08"が機種先端部からビームソードを発振させ飛び出した。黒い霧のMSが気づく寸前に攻撃を命中させ、ドラグハートを窮地から救う。
「うぉ、助かったぁ....!!サンキューな!」
「何、仲間を助けるのは当然だろ?....しかし奴は何者なんだ.....!姿がほとんど見えやしない....!」
シローの感想は尤もである。しかし弘には何となく予感していた――あのMSの正体を。
(今のリョウマに会わせる訳には行かねぇ....アイツの事だ、どうせ止められても出てくる。ならその前に俺が解決させるしかねぇだろ!!)
弘の意志に呼応し、ドラグハートの周囲にチャージアーマーが現れる。順次装着が完了しドラグハートチャージドへと変身した直後に先行し、黒い霧のMSの頭めがけ回し蹴りを仕掛けた。しかしこれも受け止められてしまい、逆に投げ飛ばされ壁にめり込まされた。
「ぐはぁっ!?.....ち、畜生....なんてパワーだよ.....やべぇ、シロー...逃げろッ!!」
黒い霧のMSがBm-8へ向かおうとする。弘は本能的に危険を感じ取り叫ぶが、聞こえるはずもなかった。しかし、シローも長年戦ってきたベテランである事を忘れてはならない。
「来い!俺が相手になってやる!」
Bm-8が徐ろに走り出し、2連装ビームライフルを撃ちながら黒い霧のMSの注意を引き寄せる。何とシローの狙い通りか否か、黒い霧のMSが完全にBm-8にターゲットを変えて追いかけ始めたではないか。
「す、凄え.....とんでもねぇぞ...」
弘は唖然として語彙力の無い感想を漏らした。だが長く注意を引けるとは限らない。すぐに機体を起き上がらせ、Bm-8との合流を目指すべくバーニアを最大にする。チャージアーマーのおかげで推力が格段に向上しており、長距離飛行さえも実現させている。故に然程時間をかけずに合流する事ができた。
「っしゃ!追いついたぜぇ!!」
右腕に龍のオーラを形作り、ビームを切り払いながら突き進む黒い霧のMSの足元めがけ解き放つ。青く輝く龍は壁を突き破りながら石畳の通路を穿ち、火柱となって黒い霧のMSを吹き飛ばした。しかし黒い霧のMSが取った身のこなしで、弘の予感は否応なしに事実と認識させられる事となる。完全に地面に接触する寸前にハンドスプリングを行い、華麗な跳躍と着地を挟みドラグハートチャージドへと飛び込んだ。再び神速の如き太刀筋が食らい付くが、何とか弘の反応が間に合い左手で強引に刃を引っ掴み、相手の身動きを封じた。
「アンタ、舞夜だろ!?何でお前がそんなもんに手ェ出してんだよ!!うわっ!?」
霧が僅かに薄くなった時点で、いよいよ否定を許さぬ現実となった。黒い霧のMSの正体は比良坂 舞夜のガンダム、"ガンダムAGE-1 ナイトシーカー"である。ナイトシーカーは右手を太刀から僅かに離し、腕部のスラスターを噴射し勢いを上乗せした拳を見舞いドラグハートチャージドを突き飛ばした。10メートル近く転がりようやく止まったところで、弘は覚悟を決める。ビルドレイザーのハザードを止められたのなら、彼女だって目を覚まさせられるかもしれない。チャージアーマーにはそのような効果がある事は、リョウマからも聞いていた。ならば尚更この事態を打開出来るのは、自分しかいないのだ。
「やるしかないだろッ!今のアンタをリョウマに会わせる訳にゃ行かねぇんだよ! 」
チャージアーマーからスプラッシュめいた光を迸らせ、ナイトシーカーの懐へ飛び込みストレートを決める。ナイトシーカーは瞬時にドラグハートチャージドの腕を掴み、先程と同じように投げ飛ばそうとするが弘はこれを狙っていた。
「どぉおりゃ!!お次はコイツだぁ!!」
浮かされる既のところで頭突きを喰らわせ、自由の身になると赤と青の火炎を纏った回し蹴りを繰り出して、ナイトシーカーを家屋の中へと突っ込ませた。
「おぉ〜....やってるやってる。あらぁ....俺達以外にも観客が増えたか?」
戦場と化した冬宮広場の外れで、高みの見物をしていたMSが2機。ウヴァルスタークとクシャトリヤ・コープスブライドだ。グロックはレーダに新たに現れた反応を目にし、愉快そうに笑った。一方のエミは、無表情でナイトシーカーの戦いを眺めている。コープスブライドも今回はハイパービームジャベリンとは打って代わり、右腕が一挺のスナイパーライフルとなっていた。これにはグロックのある思惑が絡んでいるようだが、エミはリョウマと舞夜を始末出来るならそれで良いらしく、考えを巡らせることはしなかった。そしてグロックの言う「観客」が、離れたビルの上に降り立つ。
「よっ。アンタも物好きだねぇ?こんな血腥い物を見に来るなんてよ」
その"観客"とは、百崎 翼―ガンプラダイバー"ヴェイン・メビウス"であった。機体こそガンダム・バエルであるが、その気配は知っている者であれば簡単に見抜ける。無論、ヴェイン自身もグロック相手には隠す必要もないのだが。
「ハザードと呼ばれるものが流布されていると聞いたものでな....しかしこの広まりようは、まるで薬物の様でもある....斯程までの力を欲しがるのは、俗人としては当たり前の事なのだろうが」
「俗人、ねぇ.....世の中には、アンタみたいな気高い奴なんてそうそう居ないもんだ。皆何か、他人には見せられない何かを抱えているものさ」
そう言いつつ、グロックは内心唾棄した。どこまで彼は自分に酔いしれているのだろうか。既に徹が用意した舞台で踊らされている。これに気づかず尊大に振る舞わんとするのは、グロックにとっては些か笑える話であった。