※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.40 激情と愛情のDEADLINE

ここはどこだろう。見覚えがある様で、無いがやはり何か懐かしさを感じる景色が広がっていた。英梨は不思議な感覚に戸惑いながらこの町を歩いていた。何の変哲もない閑静な住宅街と思いきや、偶然見かけた町内会掲示板の張り紙の日付に思わず目を疑う。

「これ、2年も前じゃない....どういう事よ?」

2年という言葉に英梨はハッとした。2年前と言えば、レイ・ブルームーンこと、久遠 怜が大学へ進学した年。英梨は軽い頭痛に襲われるが、何かに突き動かされるかのように走り出した。どこを見ても記憶の中にある堂夢大学で、奇妙な安心感さえ感じる。

「怜ぃ!早く早くぅ!」

覚えのある声が聞こえ、英梨はとっさに校門の裏に身を潜めた。緑のミリタリーコートを着た、短めのツインテールの少女が門を駆け抜け、手を振っている。記憶通りの美彩の姿に驚きつつも、少しだけ柱から顔を覗かせて見てみると、そこにいた人物達に言葉を失った。

「え......嘘.....」

俄に信じられず、再び隠れるがやはりどうしても気になりもう一度彼女達を見てみる。当時の怜はスーツ姿だった。しかしその隣にいるのは着物姿の奏で、怜を挟んで左側には何と他界したはずの英梨の妹がいたのだ。"JOKER事件"で狂気じみた愛情を怜に向け、幾多もの犠牲を生み出した果てに因果的に現実で命を落とした少女。"桜庭 史佳"、またの名を"ラプラス・ライブラ"。あろう事か彼女がここにいるのは、どういう事なのか英梨には当然推し量れるはずもなく、ただ戸惑うしか無かった。声を掛けたい衝動が心の壁を突き破ろうとする。だが干渉するのが憚られた。否、怖かったのだ。最後の最後になるまで、史佳から逃げていたのは他でもない英梨だ。実際はそうとも言えぬが、英梨は内心で自責の念を懐き続けていた。故にZeuS事件とJOKER事件の真相を暴こうと、時に命をも厭わぬ活動に身を投じる生き方を選んだ。しかし史佳が英梨に対して、本当はどう思っていたのかは分からないまま年月が過ぎていく。それを実感する度に胸が締め付けられる思いを味わい、結局気にしないように動き続けるしか無かった。史佳が怜達と楽しそうに話す姿を目にして、ますます懺悔の感情が強くなっていく。

「史、佳......怜ちゃん.....ごめん......なさい....」

膝から崩れ落ち、震える唇から弱々しい声が溢れる。気丈に振る舞う強さとは、簡単に崩れ去る程の弱さと表裏一体。英梨の心は本当は強くなどなかった。それは誰でもない、英梨自身が一番良く分かっている。だからこそ乗り越えるべく生きてきたのではないか。ふと思う。史佳の死を知った日から、自分だけの時間が止まったままなのだ、と――。

 

「........ごめん、なさい........」

とある病院。門松はポツリと呟く声を耳にし、ドキリとして目を見開いた。ベッドの上で眠る英梨をじっと見つめ、時折自身の手元へ視線を落とした。

「目を覚ませそうだな、このまま行くと.....」

英梨が病院へ運ばれたのはつい昨日の事だった。ユピテル財団の職員から通報を受け、警察と救急が出動して頭取の執務室に突入したそうだが、その時に彼らが見たものは話を聞くだけでも想像を絶するものだった。窓ガラスが全て砕け散り、血の海の中に倒れる意識不明の重体となった女性だけが、その場に残っていたらしい。警察によれば射殺に用いたとされる弾丸は、どうも現代で使われている物でないとの事だが、それよりも英梨の容態が問題であった。後数分遅れで輸血が間に合わなければ、完全に失血死を迎えてしまうところだったのだ。奇しくも怜が眠る病院へと搬送され、急ピッチで行われた集中治療にて、意識を取り戻すチャンスは得たものの未だ予断を許さない状況である。門松は起床後すぐに報せを受け、講義を全てキャンセルしてここへ飛んできた。それから3時間が過ぎ、今に至る。

「神宮寺君。君が鍵なんだ。怜や史佳ちゃんだけじゃない、この事件に関わった全ての人達の希望になれるのは、君だけだ」

祈る様に呟き、唇を硬く結んだ。諒馬とは既に何日も前から連絡がつかず、現状で行動が掴めるのは英梨だけとなった。そう考えるのも仕方の無い事であろう。ノックの音がし、門松は弾かれたように顔を上げて「どうぞ」と返した。

「失礼する。容態の方は如何だろうか」

長い金髪に灰色の瞳をした白衣の男が立ち入り、心電図と英梨を交互に見る。実はこの男、JOKER事件にも関わりがあった存在なのだ。当時存在した、大規模プレイヤーチーム"ヴォルクール騎士団"の中枢が一人、"デューク"こと"デューク・エリクソン"。それが彼の名だ。現実での彼は外科の開業医だが、手術の手腕は"ゴッドハンド"と謳われる程の物で、英梨の生死をかけたオペの執刀医として、指導に当たっていた研修会を中断してまで駆けつけたという。

「後数分遅れていれば確実に救えなかったが、間に合って良かった。恐らく最悪でも明日には目を覚ましているだろう」

門松はゆっくりと立ち上がり、自らデュークと硬く握手した。

「本当に、ありがとうございます....エリクソン先生がいなければ、今度こそ誰も救われる事のないまま....!」

「気持ちは痛いほど分かる。あなたも教授という立場でありながら、よくここまで戦って来た....素直に尊敬するよ。私がダイバーズから完全に離れた途端に、この始末だ.....もし私が同じ立場であれば、どうなっていたか」

JOKER事件後、騎士団もデュークを筆頭としたメンバーによる大規模な改革が行われていた。しかし事件を起こしたと言う事実は、残酷にも変革の道を行こうとする、彼らの前途を閉ざしたのである。ブルームーン弾圧運動においても、レイ・ブルームーンを隠匿すべく協力を申し出ようとした。事もあろうに、その矢先に暴徒化したプレイヤー達により組織は壊滅。挙句の果てには自己保身に走った運営の手で、騎士団に対し各ガンプラダイバーのアカウント抹消と言う、悪辣極まるタイミングでの制裁が行われたのだ。結果としてデュークはガンプラダイバーズから、完全に身を退くのを余儀なくされる。他にも何らかの手段で行動する者達は居るようだが、噂程度に聞いただけでデューク自身から連絡を取れる元メンバーは、最早どこにもいないようだった。デュークの面持ちは、レイやブルームーンを庇護出来なかった事と、運営への悔恨で次第に影を落とした。

「ニュースで時折耳にするが、そんなのは可愛く感じられような....医学でどうにか出来るという話ではないのは、百も承知。しかし.....」

「あのゲームに、そして事件に触れた人は誰しも先生と同じ気持ちです。今はただ望みある命が帰ってくるのを、待っていてもらえませんか」

少しでも元気づけようとする門松だが、デュークからすれば彼の方がかなり、弱り果てているように感じられてならない。年齢という事もあるだろうが、開発者としての心労が門松の姿を余計に痛ましく見せていた。剰え、愛娘さえもダイバーズで起ころうとする、新たな悲劇に利用されようとしている。最早デュークにも、かけてやる言葉が見つからなかった。ふと門松がベッドに目を向けると、英梨がこちらを見ているのに気づき、脱兎の如く隣の椅子に座った。

「神宮寺君!?気がついたのか!? 」

「き、教....授........私......あぁ......」

瞳から滴る涙が頬を駆け下り、枕に小さな染みを作る。

「私が見たかった景色、見てしまったんです.......怜ちゃんと史佳と、皆が一緒に入学式に行くのを.....」

か細く震える声で夢で見たものを語る。門松はそれを聞くと一瞬だけ安心した顔をし、また暗くなった。

「それは、君の純粋な願いなんだろう......とにかく、生きて帰って来てくれた。今はそれでいい.....ありがとう」

そう返しつつ、もうこれ以上英梨を巻き込めないのを内心で悟った。気がつけば無意識に、彼女の髪を撫でている。英梨の事もまた娘のように見ていた証左なのだろう。普段の感覚なら歳のせいだろうと笑い飛ばしたくもなろう。だが今の門松ならどう感じているか、言うまでもない。

「もう、これ以上は君を動かす事は出来ない。奴らは仮想世界でも、現実でも全面戦争に出ようとしているらしい。君を撃つような奴まで抱え始めたのだから、噂なんて生易しいものじゃないが....こっちが守ってやるにゃ、今の状態は厳し過ぎる。葛城との約束もあるしな.....だから言わせてもらうよ。君はもう、戦わなくていい。」

投げかけられた言葉に英梨はそんな、と返し天井を呆然と眺めた。

「そんな事、受け入れられる訳....ないじゃありませんか.....確かにあの時撃たれた....それは本当に怖かった。今も怖くないなんて言ったら嘘になるけど、そこで立ち止まる訳にも行かないでしょ....."妹"が苦しんでるのに、"姉"の私が何もしてやれないなんて.....!」

「それは、そうだが......けどよ、それじゃ君が、まるで死にに行くようにしか見えないんだよ....」

やり取りを見ていたデュークは、病室をこっそり後にしようとした。その矢先、看護師がやって来てタブレットを提出してきた。英梨のカルテが表示されており、デュークはそれを読むや否や目を疑い狼狽する。だが悩む理由もなく病室に引き返した。

「失礼。たった今、別の診察結果が返ってきたのでここで伝えさせて頂こう。神宮寺 英梨さん。貴女のお腹の中に、赤ちゃんがいるようだ。今はまだ外見では分からんが、いずれ直ぐに大きくなるだろう」

「え.......それ、本当なんですか.....!?」

案の定英梨は、驚く余り人工呼吸器を外しそうになった。本来なら喜ぶべき、新たな命の芽吹き。だが悲運にも今の状況がそれを許さない。布団のシーツを握り込む拳を見つめる英梨の目は、ただ忙しなく虹彩を動かしていた。

 

ドラグハートチャージドとBm-8、そしてハザードによって暴走状態にあると見られる、ナイトシーカーの戦いは未だに決着せぬまま、1時間が経とうとしていた。

「ぐあぁああああっ!!畜生ッ!なんて強さだ.....手も足も出ねぇ....!」

ナイトシーカーのシグルスレイヤーにチャージアーマー右肩部を貫かれ、ドラグハートチャージドは爆風を受け軽く吹き飛ばされた。弘も先程から全身を打ち付けており、顔だけでも青痣を沢山作っていた。それどころではない。切り傷も所々つけられており限界寸前であるのは、火を見るよりも明らかである。逆にナイトシーカーは一切の無傷だ。しかし弘はここで引き下がる気は全く無かった。何としてもリョウマが異変に気づいて、ここにやって来る前に舞夜の正気を取り戻さなければならない。持ち前の人一倍強い意志、それが弘を前に進ませるが同時に、彼の退路を塞いでしまうのもまた事実だった。

「シローのおっさん!もう下がってろ....コイツぁ俺がやる!」

ウィンドウには、案の定正気を疑うシローの顔が。

「君....本気で言っているのか!?流石の俺でもそれはさせられない、急いで皆を呼んで体勢を立て直すしか...!」

Bm-8の被害は尋常でなく、右腕を砕かれ左脚は半分に割られ顔面のマスクは消えていた。おまけに左目のガラスが割れており、内部のカメラセンサーが弱々しい光を灯すのみだ。撃墜されたも同然の有様だった。だが弘はシローの提案を「うるせぇ!」の一言で跳ね返し、ドラグハートチャージドを起き上がらせた。

「やらなきゃ駄目なんだ....!俺がッ!!奴の目を覚まさせなきゃなんねぇんだよッ!!」

激情に叫ぶ弘の瞳に、炎の如く赤い輝きが宿る。ドラグハートチャージドの全身からスプラッシュが迸り、飛び出した粒子が欠損したチャージアーマーを再形成した。だが――。

「常岡....!?そいつが例のターゲットか....!ビルドアップ!!」

普段ならば頼りになる声。しかし今は違った。弘は背筋が凍る感覚に襲われ、思わず振り向いた。

「リョウマ.....!?やめろ....やめろぉおお!!」

ニュー・ハイパー・バズーカを構え今にも引き金を引かんとするビルドレイザー。ドラグハートチャージドは咄嗟に砲身を殴り捨て、ビルドレイザーの両肩を掴んだ。

「お前今何をしようとしてんのか分かってんのかッ!!」

「それはこっちの台詞だ。奴がハザードを使って無差別攻撃をしているのなら、やるしかないだろ!」

「ふざけんなよ!お前はここで黙って見てろ!奴は俺が....!」

言い合いをしているが、その間にもナイトシーカーが歩みを進めやがて駆け出した。シグルスレイヤーの蒼く輝く刃を振りかざし、すれ違いざまにビルドレイザーとドラグハートチャージドを斬りつけ、それぞれにスパロクナイを投擲。爆裂を以てダウンさせた。

「お前に邪魔されてこの始末かよ.....最悪だ.....」

リョウマは頭痛に眉を顰めるが、無理矢理戦いに意識を戻しコンソールの[HAZARD]をタップした。

「ハザードビルドアップ!」

忽ちコクピットを赤い光が照らし、次の瞬間には暗転した。機体も全身を黒い霧で覆わせると、双眸の輝きを強め右腕に形成したドリルクラッシャーを構え、ナイトシーカーに突進した。高速回転するドリル型の刃を躱し、ナイトシーカーがシグルスレイヤーを振り下ろすが、ビルドレイザーは素早く反応しドリルクラッシャーをアッパーの如く突上げ、弾き返した。そのまま左手にビルドライフルをビルド、至近距離で連射してダメージを加える。だがナイトシーカーも同じだけの正確な攻撃で、ビルドレイザーに肉薄した。シグルスレイヤーが携行式でなく装着式である利点は、機体に負荷をかけずにスナップを効かせやすい点にある。重量もある程度は制御出来るから、質量攻撃さえ可能にするのだ。

「うっ....!なんて隙の無い動きだ....コイツはハザードだけじゃないのか....!」

いつしか防戦一方となり、リョウマは歯軋りする。ハザード同士の戦いと言えど、彼はまだ上手くコントロールが出来ていない。暴走のリスクは未だ回避する方法を持たぬままでいる。まるで無人機のように攻撃を繰り出すナイトシーカーとは、条件が明らかに違っていた。だがこの状況に乗じて、またもう一つの悪意がリョウマを襲う。空中から飛来する黒い影がビルドレイザーの背中を裂き、凄まじい力で突き飛ばしてしまった。

「ぐがっ......うわぁああああッ!!」

数10mも地面を引き摺り、ビルドレイザーは冬宮の中へと放り出される。頭を何度もぶつけリョウマは意識が遠のきそうになるが、新手の正体を見るや否応なしに顔が青ざめた。

「グロック.....ルーツ......!?」

十字に光る"眼"を持つ、漆黒の悪魔。ガンダム・ウヴァルスターク。ビルドレイザーのコクピットに反響する声は、どこか軽い調子だ。

「よぉ水崎君。ハザードの調子はどうだい?っても今の見てたが、とんでもなく使いこなせてねぇって感じだな?」

「またお前がハザードをばら撒いたのか.....どうしてそんな事をしたッ!!」

「そりゃだって、誰しも強い存在になりたいんだものな。俺はその手伝いをしてやったに過ぎない」

一切悪びれずに、さも当然のごとく返すグロックにリョウマは怒りで震えた。だがその震えは、恐怖までも内包する物であった。最後に彼に倒されたビジョンが何度も蘇る。鉛色にテカテカと光る銃口から放たれる凶弾が、ビルドレイザーの顔面を貫く瞬間。そして、生前の舞夜が振りまいていた笑顔も。グロックとの再会をトリガーに、リョウマの精神は再び安定を失っていくのだった。

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