創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
File.41 崩壊するSPECTRUM
ウヴァルスタークの突然過ぎる襲来に当惑していたのは、リョウマだけではない。弘とてその一人だった。
「あの野郎.....望の次はリョウマかよ.....!っざけんじゃねぇぞ!!」
ドラグハートチャージドも冬宮へと飛び込み、ウヴァルスタークの首根を引っ掴んで投げ飛ばそうとした。しかしウヴァルスタークは左足を後ろに振り上げ、逆に足払いをかけて背中を踏んづけた。
「まぁたお前か。結局肉弾戦意外に芸がないのは飽き飽きだよ。進歩がない」
「んだと.....上等だ!テメェをぶっ飛ばしてやる!」
勢いよく地面を叩き、反作用を利用して飛び上がるとすかさず後ろ回し蹴りを放つ。ウヴァルスタークが左肘で受け止めるが、即座にドラグハートチャージドの右ストレートが飛び出し、顔面を殴りつけられ蹌踉めいた。
「へぇ、思ったより痛えんだなこれ.....ははっ!いいじゃない。もっと来いよ?」
然程驚く様子もなく、むしろ愉快そうに笑うグロックに弘は不気味さを感じ舌打ちをした。
「気持ち悪りぃのは相変わらずかよ.....だったら望み通りぶっ潰してやるよ!!」
ドラグハートチャージドが地を蹴り、脳天から拳を振り下ろす。ウヴァルスタークは右肩のシールドを向けて跳ね返すと、左手の爪をグワッと広げ素早く振り上げた。だがそれを弘は見逃さず、腕を強引に掴んで力いっぱいに投げ飛ばしてしまった。流石のグロックも予想外だったのか、眉を少し上げる。
「やはり俺の見込みは間違いじゃあなかったか。お前のその爆発的な成長性は、ドラグハートとの相性によって引き出されたもんだからな。こんな形で見せつけられるとは思わなんだが」
「はぁ?何でお前がそんな事知ってんだよ?」
「そりゃあ俺も人間観察は得意な方なんでね?お前さんみたいな単純な奴は、簡単に読み解けんのさ。まぁいいや、じゃあ俺のターンって事でいいよな?」
それから数秒の間を置き、グロックは宣言した。
「ハザード」
黒煙が冬宮のロビーを埋め尽くし、どこからかやって来る風圧により掻き消され、ウヴァルスタークは黒い輝きを放ちながら姿を再び現した。全身の赤いラインが発光し、十字の眼も同様に鋭くドラグハートチャージドを睨む。
「ハザードだろうがなんだろうが.....俺が勝つ!」
ドラグハートチャージドは助走をつけて渾身のストレートを放つ。だがそれはいとも簡単に止められてしまい、あっと言う間に腹を蹴り飛ばされ大理石の床に叩きつけられた。
「うがぁあっ.......!!こ、これは.....他の奴の比じゃ.....ねぇ....!」
「当たり前だろ。俺のウヴァルスタークは、ハザードに対して最適化されてんだ。暴走のリスクだって完全に抑え込んでいる。どっかの自称天才とは違ってな?」
ウヴァルスタークはちらりとビルドレイザーを見、ゆっくりとドラグハートチャージドへ近づいた。リアアーマーからチェーンソーを引き抜き、夥しい数の刃を高速回転させながら振りかぶり凄まじい勢いで唐竹割りを見舞う。
「常岡ッ......!?...弘ッ!!!」
万事休すか。ギュイイイイ!!と無惨にも切り裂く音が響き渡り、リョウマの悲鳴は簡単に掻き消されてしまう。だが彼の怒りが恐怖を超越しつつあった。そしてビルドレイザーがゆっくりと起き上がり、猛烈な勢いでウヴァルスタークに飛び蹴りを浴びせ冬宮から叩き出した。
「まさか自分で暴走させちまうなんてなぁ」
グロックの推察通り、ビルドレイザーのコクピットにいるリョウマ見る見るうちに表情を失い、目に赤い光が灯り始めていた。ウヴァルスタークがチェーンソーで斬りつけるのを、的確に避けながらドリルクラッシャーを突き放ち、立て続けにビームバズーカを2挺もビルド、間髪入れずに砲撃する。ウヴァルスタークもチェーンソーの斬撃でビームバズーカを斬り裂き、放棄した後シールドの裏からライフルを装備して撃ち返した。ビルドレイザーは素早くビームサーベルを抜き放ち、ライフルの弾丸を斬り落とすとバーニアを全開にしてウヴァルスタークに接近。途轍もない速度で袈裟斬りを放った。これにはグロックも反応しきれず、チェーンソーを身代わりにせざるを得なくなる。
「なんて突進速度だ....これじゃ本人なんかいらねぇんじゃないか?....おっと、代わりにやってくれんのかい」
後方から音速で接近する機影を見つけ、グロックはニヤリと唇を歪めた。ビームサーベルで執拗に斬りつけるビルドレイザーを往なし、冬宮前広場の真ん中まで蹴り飛ばした。そのまま宮殿の中へ戻ろうとするのと同時、青い火焔の拳がウヴァルスタークの眼前に飛び込んだ。ウヴァルスタークは難なく左手で受け止めるが、微妙な変化にグロックは驚かされる。
「何.....?フレームが動作不良だと?おいおい何てこったぁ、コイツぁ化け物か?」
拳を強引に押し退け、ドラグハートチャージドを睨む。無傷という訳ではないが、戦闘続行には何ら支障がなさそうであった。
「誰がバケモンだ!テメェのせいで、どんだけの人が苦しんでると思ってんだッ!?」
弘の激昂を表すかの如く、ドラグハートチャージドが右ストレートを叩き込む。だがウヴァルスタークは首を反らして避け、仕返しとばかりにチェーンソーで昇竜斬りを浴びせ、仰け反らせると腹部めがけ刺突した。金属を引き裂く甲高い音がコクピット内を反響し、弘は両耳を塞ぎ絶叫する。
「ぎゃあああああああああッ!!!ああぁあああああああああッ!!ぐっ.....テメェ.....それでも人間かよッ!?」
「だから、何だってんだ?俺にとっちゃあ、依頼者から頼まれた以上は仕事としてやっている。それがプロってもんだしな。正しいか間違ってるかなんて、どうだっていいんだよ」
ありったけの力を込めた蹴りを顔面に突き刺し、完全にノックアウトさせた。
「まぁどちら道、お前らは滅ぼし合う運命だ。同じ方向を見ているようにみえて、実際は違う物を見ていた。それが今のお前らだ。よ〜く覚えとくんだな?Ciao!」
ドラグハートチャージドに振り返ることも無く、ウヴァルスタークはバトルエリアから離脱した。残骸と化したドラグハートチャージドは、絢爛華麗な宮殿の中で横たわる。弘にはもう、気力も体力も残されていなかった。
ハザードを暴走させたビルドレイザーと、ナイトシーカーの戦いは一切互角のまま続けられていた。状況に合わせ、最適な武装を選択してビルドしながら戦う前者と、最小限の武器で多彩な技を繰り出し、有利な状況を生み出す後者。皮肉にも当人らにとって最善の立ち回りが、このハザードによって暴走した状態で再現されていた。この戦いに介入できる者はいるのだろうか。ドリルクラッシャーとシグルスレイヤーが激しく打ち合い、紫電の軌道が衝突を繰り返してスパークを瞬かせる。終わりの無い剣戟の応酬。ハザードに"侵された"者達に思考などありはしない。そこにあるのはただコンピュータが導き出した、"解"とそこへ行き着く為の"計算"のみ。感情も奇策も戦いには無用だと、見た者の心に強く刻まれてしまうだろう。空へ大地へ、交互に舞台を変え互いの剣が交わる。リタからの命を受け、リョウマを追跡していたウェルスでさえこの圧倒的な光景に、無意識に恐怖する。
「何だこれは......あれが、人間同時の戦いだと.....?馬鹿な......」
アストレイノワールDを着陸させ、2つの黒い影を見上げた。見ているだけで戦意を削がれかけるなど、ウェルスには殆ど経験のない事だった。だが同時に、悲しさも感じるようになる。
「力のみが成立する舞台.....言い得て妙だな」
「貴様.......何者だ.....?」
突然気配を感じ、ウェルスは機体を振り向かせた。いつの間にか、アストレイノワールDの背後にガンダム・バエルが立っていた。
「君達にとっては、切っても切れぬ因縁の相手、だと思っていたがそうでも無かったのかな?」
「冗談が通じないらしいな。ヴェイン・ツクモ....いや、今はヴェイン・メビウスか」
アストレイノワールDが、背中の大剣に手をかけた刹那。バエルの黄金の剣がコクピットを貫いていた。ν-Typeであるウェルスですら、知覚するのに数ミリ秒の差が生まれており、気がついた頃には既に遅かった。
「この俺が、反応出来なかった...........!?」
「私としていつまでも同じとは行かないのでね......特に君たちのような存在は危険だ。早々に排除するのが自然と思わないか?」
膝を突き項垂れるアストレイノワールDを、ヴェインは怜悧な眼差しで見下した。やがて機体が消失するのを見届け、自身もまたバトルエリアから転移するのだった。
全身に走る痛みでウェルスは目を覚ます。周囲の様子を見る限り、医務室のようである。
「ウェルス.....!?ウェルス.....!!」
ウェルスが意識を取り戻したのに気づいたのか、エルニアは半泣きになりながら抱き締めた。ウェルスも戸惑いがちに彼女を抱き寄せるが、それよりもリョウマやシロー達の様子が気になって仕方がなかった。
「アイツらは.....無事なのか」
「シローと常岡は無事だ。お前より先に目を覚まして、会議に参加してる」
突然現れた聞き慣れた声に、ウェルスもエルニアもぎょっとした。開けっ放しのドアから姿を見せたのは、白衣を着たやや草臥れた風体の男だった。
「セルケト・ニヒト......いや、門松教授....なぜここに....?」
ウェルスは動揺を隠せぬまま、問いかける。門松は眼鏡を拭き、再び掛け直した。
「なぜって、それが分かんないか?お前らのことだから何かしでかすんじゃないかと思ってたんだよ.....それがこの始末って事だ」
そう言うとタブレットを起動させ、二人の目の前に置いた。エルニアは画面に表示された内容を読みながら、唇を震わせる。
「ブルームーンの再結成......アーネスト・ホールディングスが治安維持規約を策定し、全プレイヤーに適用か.......どういうことですか、これ!?」
「とうとう本当に戦争になってしまったのさ。今度は徹底してブルームーンを潰す気でいる....ここまで大々的にやり始めたってことは、奴らは何の躊躇いもなく殺戮に踏み切るんだろうぜ......」
苦虫を噛み潰したような顔で呟く門松。
「ブルームーンがいつの間にか世界中の敵になっちまってる。もうここまで来ると、ここにいる奴らの安全なんて物は、もう無いようなもんだ」
と続け、ウェルスを睨んだ。彼も返す言葉が無く、押し黙ってシーツを握る手を眺めるしかなかった。
ダイバーズから帰還した諒馬だが、思うように体が動かせずにいた。疲れが祟っているのだろうが、よもやここまで身体の活動に影響を与える程とは。未だ30代とは言え、若い方である。そんな彼でさえ何かしらの変調を感じない訳ではなかった。ただそれが幾らか早くやってきた、それだけである。
「城島は.......そうか、帰ってくれたか.....」
諒馬は鈍い頭痛に目眩を感じたが、強引に立ち上がりソファに倒れ込むように座った。いずれこのゲストハウスも、アーネストによって突き止められるだろう。いや、もう既に見つかっているのかも知れない。泳がされているだけだと考えるのが自然であろう。ふと携帯電話の電源を入れた。ニュースアプリの画面が真っ先に開かれたのだが、「号外」と銘打たれたミニウィンドウが表示された。その内容に諒馬は愕然とさせられる。アーネスト・ホールディングスCEO 徹=アルマーニュによる、新たな規約の発布と施行。これは諒馬だけでなく、事件に立ち向かって行く者達にとって、最悪の展開そのものであった。
「ブルームーンを本気で消す気だ.......戦争が、始まってしまうのか.....最悪だ.....!」
視界が揺らぎ、全身が震えだした。戦争になる前に止めるはずだったのが、何ら達成出来ぬまま最悪の結果を迎えてしまった。残された手はない訳ではない。しかしそれを実現する為には、ハザードを完璧に制御すると言う前提条件が必要だった。今の諒馬には、まだ届かぬ話だ。
「何のために俺は........苦しみながら戦って来たんだ......!全部俺のせいにしなきゃ、何も進まないってのに.......どうしてこんなに苦しいんだよ......!」
脳裏で過る怨嗟の声が浮かんでくる度、目を固く閉ざし耳を塞いだ。「ごめんなさい、ごめんなさい」と頻りに呟き、床に伏しながら蹲る。天才であるはずの自分がこれ程までに無力だとは、想像が及ばなかった。常に何らかの形で成果を挙げられるように、あらゆる物を作り上げてきた。だが徹達がやろうとしているのは、もはや人間の所業とは呼べぬ物である。そこに打ち勝とうとするならば、諒馬もまた人を超えねばならなかったのだ。
ガンプラダイバーズの地下と形容される、SECTOR。その一角にて、悍ましい程の力が胎動しようとしていた。巨大MS、MAが次々と起動する。その様子をグロックは愉快そうに眺め、高笑いした。
「ハハハ.....!まさに戦争の始まりって感じだなぁ!大将がおっ立てた規約が適用された途端、誰も彼もが己が為に殺し合う!こりゃ本当に世界が変わっちまうんじゃないか?」
隣で見ていたエミはと言うと、この圧倒的な光景に足の震えが止まらなかった。これ程の戦力をどこに隠し持っていたのかすら知らされないまま、彼らに従い復讐を果たすべく戦ってきた。だがこの景色を見てしまえば、自分が何のために力を求めていたのか、否応なしに疑問を見出してしまう。無理もない話である。
「こんなの.......ダイバーズじゃない.......」
「悪いけど、それが現実なんだ。いいじゃないか。お前さんが手を汚すことなく、復讐が達成させられんだからよ」
さも当然の如く返し、グロックは暗闇の中へと消えた。エミは力なくその場に座り込み、慟哭を上げる。もう自分には何も残されていないのだ。否定することの許されぬ現実に対し、一人の少女は無力だった。思考すらまともに機能しない、否、させぬまま生きて行くのが楽なのではとさえ思えてくる。
一方の徹は、"終末時計"の中にいるレイ・ブルームーンを別の場所に移していた。既に彼女は意識を失っており、昏い目を青く光らせる以外に何ら反応を示さなくなった。極大化したEvolve.ν-Typeの力により、人格を蝕まれ尽くした証左である。彼女を座らせたのは、黄金の装飾を施したクリスタルの椅子。装飾の形は大聖堂や寺院にありそうな神々しさを秘めており、徹がレイをどういう存在にしようとしているのか、真意をありありと見せつける。
「さぁ、変革の扉を開けてくれよ。"真実の姫"」
終末時計の針がまた一つ時を刻んだ。クリスタルの十字架の輝きが一層強まり、従えている巨神達を照らして姿をはっきりとさせた。遠くからグロックも終末時計を眺め、これから起こりうる出来事に期待を抱く。
「変革の刻は近い!ってか。治安維持規約によって全人類の敵意をブルームーンに向ける。それによって人々の意思が統一され、人類はやがて新たなステップを踏む事になる....戦争は、そのための舞台でしかない」
横目でちらりと後ろを見、気配の正体に気づくと手をひらひらと振った。
「よぉ、シューインの旦那。この終末時計に圧倒されてるみたいだな?」
「これは....!?SECTOR-ZEROにはこんな物は無かったはず.....何故これが、ここに....!?」
シューインは終末時計に言いようの無い恐怖を感じ、一歩後退りした。グロックの行動から読み取った、「戦争」が本当に現実のものになる瞬間が、すくそこに差し迫っている。