※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.42 三つ巴のSCRAMBLEへ

「こんな物が、SECTOR-ZEROにあったなんて....百崎社長でさえ、知らなかった事だ.....なぜ勝手に作った!?なぜだ!?」

シューインは終末時計の存在を知らされなかったばかりか、ヴェインにすら説明しなかった事に怒りを覚えグロックの胸ぐらを掴んだ。当のグロックは、何一つ動揺することなくシューインを見つめる。

「まぁそんなに怒んなよ、シューインの旦那。どの道こうなるのは避けられねぇんだから。冥土の土産に出血大サービスだ」

グロックは徐に拳を振り上げ、シューインの鳩尾を殴りつけた。体を突き抜ける衝撃にシューインは、その場で倒れ恨めしげにグロックを睨んだ。

「ぐぅ......ど、どういう意味だ.....貴様.....!」

「百崎翼はもう、大将の傀儡なんだよ。保釈をさせた理由は、それ以外に無いのさ。計画を私物化した人間を罰する為に、大将がわざと百崎翼を引き入れ、祭り上げた。だが奴さんは相当な勘違いをしたまま、俺達に協力し続けた.....ま、水崎諒馬を今よりもっと強力な存在にしてやる為には?まだまだ使うつもりなんだがな。そんで旦那、アンタもその一人ってわけだ」

むずとシューインの首根を掴み、喉元に注射器を突き刺した。鋭くも重い痛みが喉仏から伝わり、シューインは血を吐き出し掠れた悲鳴を上げる。彼の意識が消えたところでグロックは、シューインをSECTOR-ZEROから運び出した。これもグロックの仕組んだ運命その物であった。意識を奪った男を抱えた足で向かう先は、そこかしこに死体が転がる、四方をコンクリートで囲われた部屋。グロックは辺りに漂う死臭に顔を顰めながらも、淡々と慣れた手つきでシューインの背中に手術用のドリルを用いて穿孔する。キリキリ、と金属音が聞こえるが次第に肉を抉る音に変化した。

「俺はこんなの、やりたか無いんだがね。担わせてた娘が、あんなじゃ使い物にならないんだ。全く、人間ってのは本当に面倒な生き物だなぁ」

赤い雫が床にポタポタと滴り落ちる。ドリルが肉体から引き抜かれると、刃に釣られる形で血液や臓物が顕になった。そうするとグロックはそれらを無造作に放り捨て、シューインの脊椎に天井から伸びたシリンダーを差し込み、皮膚を縫合した。手捌きが外科医さながらであり、無駄のないオペで"人体改造"の下ごしらえを終えると、今度は部屋の奥から透明の液体で満たされた、巨大な水槽を持ち出した。クレーンアームを使ってシューインを水槽へと沈ませ、ハッチを閉ざした。一連の作業を終えたグロックの表情は、清々しさに溢れていた。

「これでいいんじゃないの?ダイバー体に直接ハザードを流し込む。こいつ自身の脳で機体を遠隔コントロールすれば、ハザードによる機体の自壊のリスクはゼロになる。ハハッ....傑作だなぁこれは....!」

徹とは単なるクライアントに過ぎない。しかしビジネスである以上、取引を阻害する要素は極力排除する物である。グロックにとってはこの悍ましい"調理"もまた、仕事の一つでしかない。故に彼には何ら後ろめたさはない。あるのはたった一つ、次のステージへ駒を進めた。その小さな達成感のみだ。

 

現実世界では、日が完全に沈み街の空に夜の帳が下りた。照明をつけるのも忘れ、諒馬はまるで死人のような顔で床に倒れていた。テレビラックの上に置かれた、振り子が小刻みに揺れカチ、カチと小さな音を立てる。ニュートンのゆりかごと呼ばれており、物体にかかったエネルギーが他の物体を伝い、そのまま動かす物理現象を再現する物だ。諒馬の目はニュートンのゆりかごをじっと見ていた。昔から彼は、そう言った物理学的なインテリアを好んでいた。殊にニュートンのゆりかごは、見ているだけで気が楽になる程に気に入っている。しかし今の状況では、単に現実逃避しているだけでしかない。

「舞、夜.......、.......!うわぁああああああああああッ!!!!」

彼女の名をつぶやいた瞬間。脳裏に再び笑顔を見せる舞夜のビジョンが浮かび上がり、諒馬は絶叫した。床に伏せながら拳を叩きつけ、嗚咽を漏らす。どんな運命でも受け入れるつもりで、この戦いに臨んだはずだった。しかしその覚悟が弱いまま進んでしまい、挙げ句最悪の結果を迎えようとしている。何をどこから間違えたのか。今の彼では到底考えられるはずもなく、流されてしまうだろう。そして。

「何で俺は.......こんな酷い事になってんのに.......何もできないんだよぉ.....!!何で苦しくても戦わなくちゃなんないんだよ.......!俺が今までやって来たことは.....一体何だったってんだよ......ッ!俺は一体どうすりゃよかったんだ........どうすれば、良かったんだ............」

 

正午、堂夢大学仮想世界工学研究室。教授室の奥から怒鳴り声が響いていた。

「そんな事にウチの大事な教え子達を使わせるか!それにな、水崎とはもう何日も連絡をしてねぇんだ!アイツがどうしてるとか分かるか!」

門松が激しい剣幕で追い出そうとするのは、A.ν-tの土村 海知であった。海知がここを訪れたのは、聡らν-Typeと呼ばれる人間を諒馬に引き合わせ、アーネスト勢力に対するカウンターとなる理論、或いは技術を構築する事にあった。しかし門松も、海知が所属するというA.ν-tがどういう組織だったのか知っており、当時の諒馬との軋轢もあって条件を飲めなかった。

「人類の新たなステージになるかも知れん子達だぞ、彼奴等は!それをみすみす潰されに行かせるものかよ.....!」

「しかしそうも言ってられんでしょう。事態は貴方もご存知の通り、個人や小規模な集団程度でどうにかなるもんじゃあない。だからもっと大きな枠組みを作らなければならない.....違いますか」

感情的になる門松とは打って変わり、海知は冷静そのものであった。

「今では組織としてより、個人間のネットワーク程度になった。がしかし、ブルームーンとかを中心とした連中よりは.....早く勢力拡大できる。水崎さんが無事だと分かれば、俺と俺の仲間達がすぐに組織の、再編成に向かう....ならば答えは一つしかないはずです。門松教授」

「是が非でも引き合わせるってのか......!」

門松が椅子に座ろうとする拍子に、ドアをノックする音が聞こえた。開けようとする海知を制し、門松自らがドアノブを回す。だがその来訪者に絶句させられる事となった。長いサイドテールの髪は、彼女のチャームポイントだ。

「奏ちゃん.......!?な、何故.....?」

ゆっくりとドアの隙間から外へ出、奏の手を引いて適当な会議室へ入った。突然の出来事に目を白黒させる奏。だが門松の困窮した面持ちから、現実でも不穏な何かが起ころうとしているのは、感じ取れた。

「教授、一体....どうしたのですか?」

「そういえば君を呼んでいたんだったな.....すっかり忘れてたよ。....が、その前にだ。一つでかい問題が起きてしまった....どっか適当に座っててくれ」

門松に促され、奏は目の前にある椅子に腰掛ける。門松も向かいに座り、単刀直入に切り出した。

「実は"反ν-Type"を標榜する連中の一人がここに来た....と言うより、現にここに来ている」

反ν-Type。聞いたことも無い単語を奏は、反芻するように聞き返した。門松は小さく頷き、自身の携帯電話を起動させて画面を示した。

「かつて存在した、ν-Typeの存在を否定するべく発生した運動の中心となった組織....Anti.ν-Type、通称"A.ν-T"。ZeuS事件以降は活動もほぼ停止した状態で、もう組織も解散してるもんだと思ってた....だがどうやらメンバー同士は、組織よりも緩い枠組みの、ネットワークとして今も活動していたんだよ」

「ν-Typeって......なっちゃんとか、黒浦さんとかの.....でしょうか....?」

「勿論。そして、怜もその一人になる。常岡もその可能性があるし、もっと言えば....」

門松が続けようとした矢先、会議室のドアがいきなり音を立てて開いた。奏は肩をビクリと震わせ、恐る恐る振り向くとやはり、海知がそこにいた。

 

「誰も、居ねえ..........」

本来ならいつも多くのダイバーで賑わっているはずの、交流広場。しかしこの日は全く静かだった。人の気配がしないどころか、この地全体を覆い尽くさんとする殺気が、弘を震え上がらせる。隣にいたミナも唇をきゅっと結び、周囲を注意深く見渡していた。エスとてこの異様さに似たような覚えがあり、一人苦痛を滲ませる。

「状況は逆でも、全く同じものを感じる.....何でこうなるまで分からなかったんだ....!」

「エス.........」

ミナの胸が締め付けられる。だがそうも言っていられない。既にこの状況は始まっているのだ。本当の敵が見えている分、迷いはいくらか取り除けている。しかし問題は、何の関係もないはずの人間たちさえ、状況の一部となっている事だった。

「自分を責めても仕方ねぇだろ。こうなっちまったもんはしょうがない。俺達でこの戦いを最速で終わらせりゃいいんだしよ」

彼らの間で起きた事など知らないが、そんな弘だからこそ言えるのだろう。エスは僅かながらも気が軽くなったような感じがして、「そうだな」と息を吐いた。

「今はとりあえず悪足掻きでも何でもやるしかない。果てしないディフェンスでも乗り越えていきゃあ、いいんだものな」

「そうだね.....私も、前に進まなきゃ....」

ミナも自分に言い聞かせるように呟き、バトルエリアへの転移を始めようとした。その時である。彼女の頭上、1cmも無い所から甲高い金属音が響き、ミナはぎょっとして真上を向いた。

「えっ......!?何!?」

屋根の上を走り去る人影。エスも弘も当然それを見ており、ミナを連れて一目散にこの場を離れた。戦争は既に、バトルエリアだけの物ではなくなっていたのだろう。

「お前ら、ブルームーンを知ってるか!」

角を曲がった矢先に声をかけられ、エスは思わず立ち止まった。別のルートを探そうと引き返そうとしたが、弘が突然走り出し声をかけてきたダイバーを殴り飛ばしてしまった。それを合図に壁の裏や柱の陰から、銃火器を持った人間達が続々と現れて銃口を突きつけてきた。

「何やってんだよ......!?死ぬ気か!?」

エスが強引に連れ戻そうとするが、弘はその手を振り払う。

「いいから逃げろ。コイツらは俺がまとめてぶっ飛ばしてやる」

そう告げる彼の手には、青い光を内包したメカニカルな小瓶が。エスはそれを見るや困惑した顔で弘を凝視した。

「そんなもので何をする気なんだ」

「連中をまとめてバトルエリアに突っ込ませるらしい。諒馬が置いてったんだよ。つまりはそういう事だろ!」

弘は野球のピッチャーのような動きでボトルを地面に投げつけた。カッ!と眩い光が放たれた後、その場にいた武装集団と弘が交流広場から姿を消してしまった。

「こうしちゃいられない、ミナ.....!」

「分かってる....行こう、エス」

エスとミナは視線を交わし、迷わずバトルエリアへの転移を選んだ。

 

戦いの舞台たるは、見渡す限りの赤い空と大地の広がる、荒野だ。ドラグハートが岩山の上に降り立つ刹那、ガンダムアスタロトがデモリッションナイフを袈裟懸けに振り下ろしてきた。

「お前をここで叩く!」

「っざけんなよ!誰がテメェにやられるか!」

ドラグハートは両腕をクロスさせ、プラフスキーフィールドを展開。デモリッションナイフの斬撃を受け止めると、意趣返しにハイキックを食らわせストームブレードで顔面を貫いた。それでも肉薄しようとアスタロトが迫る。しかし岩山の不安定な足場に気を取られ、まともに反撃する機会さえ見いだせぬまま、渓谷の底へと真っ逆さまに落ちていった。

「まだ来るのか....あんだけの数だから当たり前かよ!」

ドダイ改に乗ったジャハナムが、ビームマシンガンを連射してドラグハートを岩山から追い出そうとしている。弘は後ろをちらりと見てドラグハートを飛び上がらせ、自由落下しながら近づいて手甲から発振したビームサーベルで、相手の武器を破壊。そのまま蹴り落としてドダイ改を奪取すると、レーダーに映る反応を頼りに移動を始めた。あらゆる方向から死線が飛び交う様子はまさに戦場であり、この一帯を覆い尽くす殺意は、弘を震え上がらせるには充分すぎる。否、今のガンプラダイバーズが、ゲームとしての体裁を保てなくなりつつある方が、正解と言えよう。

「クソ.....何なんだよ......こんなのゲームでも何でもねぇ......ガンプラダイバーズって、何なんだよ....!?」

砲弾の直撃を受けて四散するザクⅡ改。ビームサーベルで刺し違えるアデルとジ・O。可変機構を抉られ、凄惨な姿で墜落するデルタプラス。G-セルフの首をもぎ取り、それでノーベルガンダムの顔面を殴りつけるフリーダムガンダム。そこにはもう、モビルスーツへの憧れを胸に日夜戦う戦士たちの姿はない。ただ己の闘争本能にしたがい、欲望を叶える為だけに凌ぎを削り合う。この世界を諒馬が見たら、間違いなく絶望して自ら命を絶ちかねないだろう。欲望の渦と化した戦場をただ呆然と眺める弘の頭上、大きな影がぬっと通り過ぎていく。

「何だ!?デケェ......!?」

空を泳ぐマンタのような巨躯が通り抜けたかと思うと、突然姿かたちを変えてドラグハートの目の前に着地したではないか。紫の装甲に赤いラインが走った、擬似太陽炉搭載型のモビルアーマー"レグナント"。本来ガンダムフェイスを偽装した頭部だが、このレグナントはアルケーガンダムによく似たものを取り付けていた。

「うわっ!?やっぱりこっち来んのかよ!」

レグナントが両腕からGNファングを飛ばし、ドラグハートめがけ突進させた。ドラグハートも全身からプラフスキーフィールドを発し、サマーソルトキックの要領でドダイ改を蹴り飛ばした。レグナントはそれをクローアームの一突きで破壊し、投げ捨てながら大型ビーム砲にエネルギーを集束、薙ぎ払い撃ちでドラグハートを葬り去ろうとした。当然これもプラフスキーフィールドで受けようとするが、桁違いの出力がぶつかり防ぎきれるとは思えず、弘はやむを得ずチャージアーマーを呼び出す。

「しょうがねぇ......だったらコイツで!」

ドラグハートの周囲にチャージアーマーが出現、順次装着されていきドラグハートチャージドへと変身させた。チャージアーマー内部にプールされた、プラフスキー粒子を放出してフィールドの出力を一気に引き上げた。レグナントがビーム砲を止めた瞬間を見逃さず、素早くダッシュして懐へ飛び込む。しかし相手も即座にGNフィールドを形成し、ドラグハートチャージドの拳を弾き返すとクローアームを勢いよく振り下ろした。ドラグハートチャージドは裏拳でクローアームを跳ね返し、再度接近を試みる。だが強固に作られたGNフィールドの前に、拳が届くはずもなくまたしてもレグナントの反撃に遭ってしまう。

「硬えなんてもんじゃねぇぞ......!どうすりゃいい....!?」

レグナントに殴り飛ばされ、相手から大きく離されてしまった。攻撃も防御も余す所なく作り込まれた機体を相手に、弘の神経が少しずつ擦り減らされていく。

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