創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「常岡君と合流しなきゃいけないのに.....これじゃ間に合わない!」
ミナのトライアンフガンダムがツインビームサーベルを駆使しながら、すれ違いざまに敵MSを斬りつける。ヴィータストライカーのおかげで航行距離はあまり気にしなくてもよくなったが、敵のしつこさにミナは辟易していた。
「うぉおおおお!!」
「邪魔をしないで!」
グシオンリベイクフルシティのシザーシールドが食らいつく。だがトライアンフガンダムはバレルロールで真下へ潜り込み、相手のがら空きになった胴を蹴りつけ、ビームサーベルで腰フレームを溶断した。
「エス、そっちはどう?こっちはまだ遠いみたいだけど....」
「俺はそれどころじゃなくてな....!」
「どうしたの?」
「サイコガンダムに追われてんだよ.....!!」
「はぁ!?」とミナはストライクJOKERが居るであろう方角に、ズームアップした。確かにやけに大きな影が動いているように見え、エスの言っているのは何の例えでもなく、事実なのだと理解した。
「待ってて、今行く!」
トライアンフを旋回させ、東に向かって移動し始めた。だが運悪く、遥か遠くからの流れ弾が進行方向へ飛んできた。無理矢理脚部バーニアで急制動をかけつつ、バレルロールを挟んで速やかに軌道修正をする。これだけではなかった。トライアンフから半径10km、あらゆる方向からMSと思われる熱源反応が現れたのだ。肌を突き刺すような殺気を感じ取り、ミナは周囲を何度も見ながらエスのもとへと急ぐ。
「うっ......それでも来るの!?」
眼前にメッサーが現れ、ミナはすぐさまレバーを引いた。メッサーのビームライフルを躱し、仕返しにとビームサーベルで袈裟斬りを仕掛ける。だがメッサーも中々の手練のようで、トライアンフの動きを先読みしてシールドを向け、サーベルを跳ね返してバックパックのミサイルコンテナを展開、大量のマイクロミサイルをばら撒いた。これにはミナも突破法を思いつけず、頭部バルカン砲で撃ち落としながらの着地を余儀なくされる。だがその瞬間を狙ってか、ハイパーメガランチャーを構えたZガンダムが飛び出してきた。
「マズい.....!やらせるもんですか!」
地面に足が当たる寸前にバーニアを噴射、緩やかに上昇しつつZガンダムの目の前へ飛ぶ。Zガンダムも同じく距離を保ちながら、ハイパーメガランチャーの照準を合わせる。だがその間もなくトライアンフの踵が顔面に突き刺さり、ハイパーメガランチャーの光弾は、虚空へと打ち上げられたまま消えてしまった。
「ごふぁっ!?あっ.....ぎゃあああああ!!!」
Zガンダムのダイバーは、トライアンフに蹴られてからの流れを識る事もなく、ビームライフルに射抜かれ消滅した。トライアンフがZガンダムを踏み台にし方向転換した結果、メッサーの狙撃を食らってしまった格好である。
「ごめん....今はこうするしか!」
ちらりと火の中に消えるZガンダムを見、再び前に向き直る。メッサーがビームサーベルで接近戦に踏み込んでくるのに、トライアンフも同様にツインビームサーベルで迎え撃たんとした。バチィッ!!と激しい音と閃光が散り、そこから立て続けに2、3度打ち合う。
「本当に腕がある.....!下手にやり合ってるとこっちが消耗する....!」
「何をごちゃごちゃと!」
メッサーがツインビームサーベルを押し返すと、スパイクシールドを前面に向けてタックルをぶつけ、間髪入れず裏に仕込んだグレネードを放った。トライアンフは素早く反応し、肘からビームシールドを発してこれを防ぎ切るが、ミナは最悪の状況を悟った。機体の頭上と、背後に別の新たな反応が現れる。目の前にはメッサー、真上にはバイアランカスタム。そして後ろにはウーシァが。四面楚歌とはこの事だろう。
「3方向からの攻撃!?どちらかを片付けても、残る2つからの攻撃を受ければ......落とされる......!?」
そんなミナの絶望にはお構いなしに、バイアランカスタムが上空から雨あられの如く、ビームキャノンを撃ち込んできた。トライアンフは地面に背を向けぬように姿勢を制御し、ビームシールドで射撃を防ぎながら、斬りかかってくるウーシァに振り向く。だがそうすると当然、メッサーに背を向ける事になる。そして案の定、メッサーのダイバーはそれを見逃さなかった。
「敵に背を向けるとはな!」
「こうなったら.....しょうが、無いよね!」
ミナは若干の悔しさを感じつつも、状況の打破を優先させコンソールにある"サテライトリフレクター"を選択した。メッサーが放った光の矢がトライアンフの背中に着弾する刹那、バックパックの航空翼がガバッと開き眩いばかりの光を放出した。メッサーのダイバーはこの光によって目を潰されたらしく、両手で顔を覆いながら悲鳴を上げた。
「目が.....目がぁああッ!!?こんなやり方....!!」
バイアランカスタムもウーシァも光を直視しすぎたせいか、何とも不自然な挙動で一目散にトライアンフから逃げ出した。窮地は脱せた事でミナは深呼吸するが、彼らから感じていた殺気で心が痛んだ。しかしそう考える時間もないのだと振り切り、再びエスとの合流を目指した。
堂夢大学仮想世界工学研究室。数ある会議室の内の一つが異様な雰囲気を放っていた。門松と奏と、A.ν-Tのメンバーを騙る男海知がここにいるのだが、互いに沈黙したまま。もう一時間も過ぎようとしている。奏はどちらかと言えば巻き込まれたようなもので、気不味そうに門松と海知を交互に目配せした。が、門松も諒馬の居場所知らない上に、仮に当てがあったとしても海知に教えるわけには行かず、沈黙を貫くのを余儀なくされる。海知はと言うと、じっと何かを待っているようだった。
(ポール・マートン......早くしてくれよ。俺がこうしてんだからな....)
突然小さな振動音が室内にこだました。海知が徐にポケットから携帯電話を取り出し、一言断り応答する。
「土村だ......そうか、了解した」
短く済ませて電話を切ると、軽く息をついて口を開いた。
「しかし門松教授。あなたともあろう人が、簡単にかかってくれるとは思わなかった。水崎さんの居場所はずっと前から探してたんだ。俺個人の目的は果たせずじまいだが、それでもいいか。そして、たった今身柄を押さえた所......それじゃ後は俺達に任せてもらおうか」
チョキの形にした指をクイと曲げ、海知が部屋から出ようとした矢先。怒りを堪える門松をよそに、奏が素早く席を立ち海知を呼び止めた。
「あの!私も連れて行ってもらえないでしょうか.....水崎さんの所へ....!」
「奏ちゃん、正気か!?」
狼狽する門松とは対照して、海知は特に慌てるようでもなかったが、見ず知らずの人間に言い寄られ、やや怪訝そうな顔をした。
「お前、何者だ?」
海知の人相の悪さは自身も認める所だが、奏は臆することなく彼の目を真っ直ぐ見据える。
「白鳥 奏です。ガンプラダイバー、スワン・マスターピース。私は水崎さんの仲間として、ともに戦っていました....いや、これからも一緒に戦わなければいけません。だから...!」
「こんなガキまで巻き込むとは.....」
背の低さと顔立ちから、海知は奏がまだ子供なのではないかと疑う。だがその眼差しは、もはや子供のそれとは遥かに違うようにも見えた。――自分は同じ目をした人間を知っていた。海知は一瞬だけ視線を変え、戻した後に彼女に告げた。
「言っておくが、俺達は仲良しごっこで動いている組織じゃあない。お前の期待しているようなモンじゃねえのは、覚悟してもらうぞ」
「冗談じゃない!奏ちゃん、少しは考えるんだ....もう子供じゃないんだ!」
奏は門松に向き直ると、少しの間を置いて気持ちをありのままに返した。
「私、水崎さんの力になれるならどこまでだって行きます。私が救うべきなのは、怜だけじゃない。ごめんなさい、門松教授...!」
そう言うと奏と海知が会議室を後にし、門松一人が取り残された。
「今君に抜けられたら、誰が怜を迎え入れると言うんだ.....!一人が欠けてもいけねぇってのに....!」
机に拳を叩きつけ、開きっぱなしになったドアを睨む。何も奏のことを責めているのではない。いつの間にか海知らの掌で踊らされている感覚が、どこまでも許せなかったのだ。
ほぼ同じ頃。結利香は道中で買ったサンドイッチが入った箱を片手に、諒馬の潜伏先になっているであろうゲストハウスへ向かっていた。相変わらず黒が中心だが、肩を出していたりと華美さに重きを置いた服を召している。目の前の角を曲がろうとした矢先、妙な気配を感じて恐る恐る隠れながら覗いた。私服姿の青年二人組が階段を上っていく。それだけならまだしも、彼らが立ち止まった部屋に結利香は目を疑った。何と、諒馬が宿泊している部屋だったのだ。
(あの人達....どういう手合いなのかしら....)
「そこのお姉さん!そんな所で何してんの?」
自転車で巡回中の警官に声をかけられ、結利香は思わず声を上げた。しかしこれは、ある意味チャンスでもあった。
「あ、あら....ごめんなさい。私ちょっと知り合いの家に遊びに行こうとしてたんですけど.....怪しい人達が集まってるんです。ほら、あそこ...」
彼女が指差す先を警官も目を細め眺める。
「あの家にいるんですか?ああ、確かに誰かいるなぁ.....ちょっと一緒に様子見てみましょうか?」
ええ、お願いします。と結利香は辞儀をし警官と二人でゲストハウスの近くまで向かう。丁度追い出される形で出ていくところに出くわした。
「君達、あの部屋にいる人の知り合い?」
警官に問いかけられると、短い金髪の方、ポール・マートンが頷き困ったように笑った。
「ええ、そうなんですよ。ですけど彼女が来るからって、予定を埋められてしまいましてね....」
「もしかして、このお姉さんがそうだったりするかい?」
予定通り。結利香は狼狽えるふりをする。青年二人はちらりと彼女を見ては納得したように頷き、「聞いていた通りだ、ちょっとミステリアスなお姉さんだってさ!」
と、ポールが結利香の手を引いて再びゲストハウスへ向かおうとした。目で助けを訴える演技をしたが、やはり警官はそんなことには気づかないで、自転車のサドルに跨がる。
「仲良くやるんだぞーっと....!」
警官の姿が遠のくのを認めると、結利香はするりとポールの手から腕を引き抜き、彼らを交互に見つめ問うた。
「あなた達は何故ここにいるのかしら?そこにあなた達が用のある人はいないわよ」
「それがそうでもないのさ」
ドレッドヘアーの黒人青年、アントニオが肩を竦めて見せ、結利香に1枚の写真を示した。ベージュのトレンチコートを着た男は、一目で諒馬だと分かる。がしかし、その隣りにいる青年は日本人だろうが、彼とともに何かを開発している様子が収められていた。諒馬を挟んで隣には、アントニオも居る。つまり諒馬とは、本当に何らかの関係があったと見て間違いない。
「俺達とプロフェッサー・リョウマは長い付き合いだったんだな、これが。しかしある時からパッタリと連絡が途絶えちまった。気がつけばガンプラダイバーズで戦争が起きてると言うじゃないか。この状況を平定するにゃ、彼の力が再び必要不可欠になったんだよ。しかしアンタが来てくれたことで、より強い交渉材料が手に入ったんだ。これで確実だ」
結利香が「それは、どういう意味かしら」と問いかけるとポールが引き継ぐ形で答える。
「貴女とミスター水崎は僕らよりも近い関係にある。だから貴方の説得があれば、彼はきっと僕らの真意に気づいてくれる。そう思うんだ」
「悪いけど、私と彼はそんな単純なもんじゃないわよ?そこに首を突っ込もうとするのは、男としては物凄く無粋な事ではなくて?」
「ほぅ.....要は一方的な関係だったってんだろ?」
アントニオの鋭い発言に結利香は愕然とした。雰囲気からすると、ポールよりも疎いように思えたがそれは誤算だった。アントニオは結利香の肩に手を乗せ、続ける。
「俺は自分で言っちゃあ何だが、そこそこのプレイボーイなもんでね。男も女も関係なく、似たような機微ってのがある。お前さんはミステリアスだが、一歩踏み込まれると簡単に崩れ去る。痩せがまんにかなり近いよな。心を掴めてないのが、恐いと思ってんだ」
彼の口振りからするに、出任せではないようだ。これ以上は抵抗しても状況が動かないと悟り、ポール達の後に続いてゲストハウスの一室へ向かった。
(今度はお前さんがインターホンを押すんだ)
そう言いたげにアントニオが結利香に目線を送る。結利香は妙な屈辱を感じながら、恐る恐るインターホンを押した。カンコン、と小気味よい鐘の音が鳴る。それから数秒。ドアがガチャリと開き諒馬が隙間から顔を覗かせた。変わり果てた風貌に結利香は拍子抜けし、思わずサンドイッチの箱を落としてしまう。痩せこけて土気色になった肌に、雰囲気さえも今に死にそうな程だ。目の輝きはとうに消えており、天才を名乗っていた彼の面影はどこへ行ったのか。諒馬は結利香が来た事に多少は驚くが、両隣にいる男二人を見て意味を理解した。
「彼女を使うのか.....そうまでして俺に固執するのは何だ?」
話しかけようとする結利香を遮り、アントニオがドアを開け放つと、何かの拍子に足元に転がってきたドアストッパーを蹴って固定した。
「そうは行かないな?プロフェッサー・リョウマ。お前さんは自分の立場が分かってないのか?俺達はアンタを必要としている。何故断るんだよ?訳の分からん集団と手を組むより、基盤がある、こっちと組む方が明らかに有用だろうに」
「そういう問題じゃない。これは俺自身の問題だ.....もう帰ってくれ。A.ν-Tでやって来た事は、誰の為にもならない事だ.....目が覚めた頃には何もかもが遅過ぎた.....もう、俺は誰かの為に技術を使ったりはしない....したく、ないんだ.....!」
「でも、それは過去の話だ。僕らはこれからを生きる為に、あのアーネストを叩くと言ってるんです。貴方とはきっちり目的と合致するはず。何が不満なんです?」
ポールは不思議そうに訊きながら、ポケットから携帯電話を取り出した。
「居場所の確認は取れたので、彼に通達しました。もう逃げ場はない......どちらにせよ、僕らと提携しない限り、あなたの前途が閉ざされてしまう。僕もアントニオも、海知もそれは望んでいませんからね。恐らく貴女も狙われているでしょうし」
ポールの視線が結利香に注がれる。諒馬の潜伏先を探し当てるほどの情報力を持つ彼らの事だ。今更驚くこともない。
「やはり、そういう事までお見通しだったのね」
「何せA-ν.Tは国際的なネットワークだ。この世の裏と表、それぞれに精通した人間がいる。ブルームーンがどうとかは知らんが、裏でダイバーズの治安を支えてきたのは」
途中でポールが制し、軽く嗜めると諒馬に視線を戻した。
「確かにそれは人と人のコネクションではありますが....あなたの作り出した専用サーバと、数々の解析ソフト故です。あなたは間違いなく天才だ。僕らがこうしてあなたを解放することが出来たのも、単なる偶然だとしてもあなたの力によるものだ。そう思いませんか?」
ポールの真っ直ぐな眼差しが諒馬には酷く恐ろしく見えた。自分はただ技術協力をしたに過ぎないはずだった。しかしそれを遥かに超えて、彼らに影響を与えていた事実は驚く外なく、当惑せざるを得ない。
「.....最悪だ。ドン底に叩き込まれても、まだ戦えってのか....」
諒馬が弱音を吐くのを咎めるかの如く、聞き覚えのある声が飛び込む。
「まだ、終わってなんかありません!諦めるにはまだ早すぎます!」
その場にいる一同が面食らい、声のする方へ振り向いた。海知と、もう一人。サイドテールの黒く長い髪の少女、白鳥 奏である。結利香は彼女を一目見て、初めて奏がF91-Mのダイバーだと解り二重に衝撃を受けた。逆に奏は、結利香がジプシー・ノアールだとは気づいていないようで、諒馬のみをじっと見ているのだった。