創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
予想だにしなかった、奏との再会。見た目に合わぬと言うのはもう、諒馬の中にはなかったが、やはり正気を疑わざるを得ない。
「どうして君がここに。言ったはずだ、もう俺とは関わるなと」
声を低くして問い掛ける。しかし奏は今までの様に当惑する事なく、一歩前に出て彼の手を握った。
「決めました。怜とダイバーズだけじゃなく、諒馬さんの事も救いたいんです!」
その場にいる一同が目を丸くした。特に諒馬は奏が狂ってしまったのでないか、と半ば嘆きながら眉間を押さえる。
「なぁ海知!お前こんな子供まで連れてくるなんて聞いてねぇぞ?」
関係性を知らぬアントニオは、単に海知に幼女趣味があるのかと勘違いをした。
「どうもコイツ、水崎さんとはそれなりの付き合いがあるらしいんでな....これ以上ない交渉材料だろう?」
海知は指を鉄砲の形に曲げ、諒馬に向けた。
「いくら迷っても前には進めない。こっちにはあなたに全面的に協力する用意がある」
「借りを返したいと言っておきながら、俺の選択肢を奪うのがお前たちのやり方か!その二人は関係がない、今すぐ解放しろ!」
掠れがかかっているが、無理やり声を荒げ奏と結利香の解放を求める。だがその彼女らも引き下がる気がないようで、完全に諒馬が取れる選択肢は消えてしまった。束の間の静寂の後、ポールが手をぱちんと叩く。
「民主主義の原則、多数決を以って水崎 諒馬さん。あなたを我々A.ν-Tへ再編成します。まぁこの後でお連れする場所に来れば、辛いことも少しは和らぐでしょう。それから考えてみてはどうです?」
もはや逃げ場はどこにも無い。諒馬は苦虫を噛み潰したような顔で足元を睨むしかなかった。
ガンプラダイバーズ。
「畜生ッ!なんて動きのサイコガンダムだ、コイツは!!」
ストライクJOKERのコクピットの中、エスは歯軋りをした。額だけでなく全身から冷たい汗が噴き出、ノーマルスーツの中がぐっしょりと濡れていた。相対するはサイコガンダムだが、巨体に比して異常な程の運動性で、ストライクJOKERを追い詰めてくる。胴部の拡散メガ粒子砲や変形機構はオミットされている、とエスは読めたが、それより先は全くの未知であった。
「また反応かよ!?ミナ、急いでくれよ....!!」
左から直進するビームライフル。ストライクJOKERは素早く後退し、砲撃のあった方向に目を向けた。赤紫に輝く光の翼が揺らめいて見え、エスが僅かに持っていた期待を裏切る。
「あんな速度で突っ込んで来るってのか!」
ストライクJOKERはリアアーマーから可変型ビームライフル"ブレイヴエッジⅡ"を引き抜き、こちらへ近づきつつある光めがけトリガーを引いた。勿論サイコガンダムの攻撃の回避も忘れてはいない。スライディングキックを決めようとする巨人から離れ、新たな機影を追い返す。
「あの人に言われた通りにやれば.....俺だって当てられるんだ!」
脳裏でひたすら何かを繰り返しながら、ブレイヴエッジⅡを連射する。サイコガンダムが両手の指先にエネルギーを収束、一気に放射した。ストライクJOKERの足元にまで降りかかる光の嵐。エスは強引にレバーを引き戻し、ストライクJOKERを急上昇させると、サイコガンダムを睨みつけコンソールをタッチした。
「だったらお前を先に倒すしか....!」
両肩に搭載されたマルチユニットが分離、両腕にドッキングすると翡翠色の光槍が生まれる。ストライクJOKERはバーニアを全開にし、サイコガンダムへ突進する。黒き巨人はストライクJOKERを握りつぶさんと、掌をぐわっと開き腕を伸ばした。だがエスはストライクJOKERをひたすら前進させる。彼の瞳が次第に緑の光を帯び始め――。
「う、ぉおおおおおおおおッ!!!」
サイコガンダムに掴まれる寸前。ストライクJOKERが忽然と姿を消し、指が空を切った。サイコガンダムが掌を見て何もないことに戸惑うが、その時点で運命が決まった。消えたはずのストライクJOKERがサイコガンダムの、後頭部付近に現れたのだ。そして一度引っ込めた拳を加速の勢いに上乗せして、刺突する。
「アルミューレ・リュミエールランサーには.....こう言う使い方もある!」
マルチユニットにはアルミューレ・リュミエール発生器が仕込まれており、シールド用のマウンターと組み合わせることで、肉弾戦用の刺突兵器となるのだ。アルミューレ・リュミエールランサーを、ブランド・マーカーの要領で使うための機能と言える。サイコガンダムの頭は障子紙の如く突き破られ、火柱の中に消えた。
「凄い......私も負けてられない、な!」
ミナはストライクJOKERを使いこなすエスに驚嘆する一方で、負けじとトライアンフを加速させる。どうやら漁夫の利を狙う気か、別の機影がほぼ同じルートで戦場へ向かうのが見えた。ミナは手早くレバーを左へ倒し、頭部バルカン砲で相手の注意を引く。狙い通り相手がこちらへ振り向こうとした隙を突き、顔面をツインビームサーベルで斬りつけ蹴落とした。
「デスティニーインパルス、かぁ.....あ!エス!」
「ミナか....!?よく無事で....!」
ストライクJOKERの肩にマニュピレーターを乗せ、軽くアンテナを小突いた。
「私を誰だと思ってるの?....なんてね!て言うか本当にサイコガンダムだったんだ....」
目の前に横たわるサイコガンダムの残骸に、ミナは苦笑する。
「どちら道、戦争になってしまった以上、こんなのばっかりになるんだろうな。とにかく今は常岡と合流するぞ!」
「うん!」
ストライクJOKERとトライアンフは、弘のドラグハートチャージドがいるであろう方向へ、飛翔した。
「こんの野郎ッ!ぐわぁあああ!!?」
ドラグハートチャージドとレグナントの戦いは、ほぼ後者のペースで進んでいた。質量と出力を上乗せして振るわれる、鉄の大爪によってドラグハートチャージドが撃墜寸前まで追い込まれていた。
「どうすりゃいいんだよ......!」
真正面から突き出される爪をプラフスキーフィールドで受け止め、蹴り上げて仰け反らせ、素早く懐へ飛び込みアッパーを突き刺そうとした。だが逆にレグナントに抱き込まれてしまい、その衝撃が弘にフィードバックさせられる。抜け出そうにも、強烈な圧力によって機体が押しつぶされる方が早いだろう。残り耐久値もレッドゾーンを僅かに残すところまで来た。万事休す。そう思われた時、最悪の事態がドラグハートチャージドに起きた。タイミングも悪く、ストライクJOKERとトライアンフが到着した頃だ。
「こんなトコで....死ねっかよ!!」
ドラグハートチャージドからスプラッシュめいた波動が放たれ、レグナントの両腕を弾き飛ばした。そのまま空中に留まったかと思うと、顔面に回し蹴りを突刺し、激流を纏う拳で脳天から貫き内部から突破し瞬く間に撃破してしまった。これで一安心かとエスは息を吐くが、事態は予想外の方向へと動き出した。ドラグハートチャージドが突然何処かへ走り去ったのだ。
「どこへ行く気なんだ!?待て!!」
ストライクJOKERが最大出力でバーニアを噴かせ、ドラグハートチャージドに追いすがった時だった。撤退を始めたモビルスーツに、ドラグハートチャージドが殴りかかり、拳の一撃で完全に葬り去ってしまった。これにはエスは度肝を抜かれ、心配してついてきたトライアンフに「退け!」と叫んだ。
(どういう事なんだ、まさか暴走してるってのか.....!?)
そう見立てをつけたエスの行動は早い。
「だったら余計な犠牲を作る前に!」
腰のホルダーから伸びる柄に左手を乗せつつ、ブレイヴエッジⅡを放ちドラグハートチャージドの進路を塞ぐ。だがドラグハートチャージドは適宜プラフスキーフィールドを展開し、射撃を跳ね除けながら進撃を続ける。
「全部俺が.......ぶっ飛ばしてやるッ!!全部俺が終わらせてやるんだッ!!」
マグアナックのシールドを蹴り飛ばした刹那、ストライクJOKERが間に割り込み、両者を突き飛ばした。
「逃げるんだ、早く!!」
エスはマグアナックが撤退するのを見届け、今度はドラグハートチャージドを真っ直ぐ見つめる。チャージアーマーにプールされたプラフスキー粒子が臨界しているのか、青い光が漏れ出していた。
「自分達から攻撃してどうする!?そんなんじゃますます俺たちが敵扱いになるんだぞ!」
「だからってこのまま黙って見てられっかよ!俺がこのふざけた戦争を終わらせるってんだ!!邪魔するんじゃねぇ!!」
しかしその声はどこか意味が違って聞こえ、これが彼の本心だとは思いたくなかった。エスは歯ぎしりをし、躊躇っていた指をコンソールに当てる。
「やるしかない....のか!」
ドラグハートチャージドの拳打を躱し、ストライクJOKERがサイドアーマーから抜き放つは、身の丈を超える長さの大太刀"エレクトロスラッシュ"。純白の刀身のエッジに沿うように青い輝きと、バチバチと音を立てる電気が走る得物を両手に構え、ダッシュし袈裟斬りを見舞った。しかしドラグハートチャージドは斬撃が来る前に飛び退き、殴りかかる。間一髪でストライクJOKERはエレクトロスラッシュの腹で受け止めたが、ドラグハートチャージドの狙いは一撃目ではなく、その次の一発にあった。ワン・ツーを決められたエレクトロスラッシュは、中央にヒビを入れられ、もはや使い物にならなくなってしまった。
「しまった.....!?はっ.....!?」
「エス!別の反応が来てる!!」
ミナの警告にしたがい、エスはドラグハートチャージドを道連れに機体をロールさせた。土煙が立ち上り、黒い影が真っ直ぐこちらを見下ろす。時折赤い眼光が鋭く瞬き、エスの背筋が凍りつく。
「この殺気.....普通じゃないな!」
煙が晴れ正体をはっきり視た二人は、更に悍ましいものを感じ取り、額を冷たい汗が伝った。銀を基調とし、所々を黒や赤で彩った金色の翅。庇の奥まった目は、ガンダムタイプ同様にツインアイのようだがギョロギョロと動いている。
「これ、シドじゃない....?」
ミナは彼の機体を一目見て、骨子となる物が漠然としていたが判った。ヴェイガンギア・シド。"EXA-DB"と呼ばれる伝説の秘宝を守護する、無人マシン"シド"をヴェイガン系MSの始祖たる"ヴェイガンギア"と融合させた機体である。しかし今彼らが見ているのは、それとは甚だしく違う印象を与える姿を持っていた。
「シドだって?....あ、おい!?」
エスが訝しげに敵を観察するのと同時に、ドラグハートチャージドが突然走り出し、ストライクJOKERとトライアンフが慌てて追跡する。だが銀色の怪異は翅の付け根に備えるビーム砲で薙ぎ払い、エス達の接近を拒んだ。
「テメェもやろうってのか....上等じゃねぇか!!」
弘は抑えの効かない闘争本能に身を任せ、ドラグハートチャージドを飛翔させた。右手に火焔を滾らせ、アッパーカットを放つがしかし、銀色の怪異はひらりと避けて見せ、鈎爪の生えた腕を素早く伸ばしてドラグハートチャージドを捕縛すると、急浮上からの急降下の位置エネルギーと共に地面に叩きつけた。あわや撃墜か、とエス達が息を呑む。だがドラグハートチャージドが背面にプラフスキーフィールドを展開しており、難を逃れていた。ドラグハートチャージドは銀色の怪異の腕を引っ掴み、投げ飛ばして自由の身になった瞬間に反撃に出た。ストームブレードをビルドし、グリップハンドルを数回倒しながら地を蹴って飛び上がる。刀身を包む旋風に次第に焔と水流が交わり始め、やがて3つの力を融合させた竜巻へと変化した。ドラグハートチャージドはありったけの力を込め、銀色の怪異の脳天めがけ叩きつけた。だが銀色の怪異は双眸を瞬かせ、竜巻を一瞬の内に消し去り一羽撃きで逆にドラグハートチャージドを叩き落とし、音速で接近して再び掴みかからんとした。そこへストライクJOKERが現れ、エレクトロスラッシュで爪を弾き返した。その隙にトライアンフがドラグハートチャージドを抱え、空中へと退避した。
「邪魔しないでもらえるかな......!」
怒りで震える声。だがエスは一歩も下がる気はなく、もう片方のエレクトロスラッシュにも手をかけた。
「そういう訳には行かない....お前を放っておけばどうなるのか分からないからな!」
ストライクJOKERが天高く飛翔、二振りのエレクトロスラッシュに電圧をかけ素早く斬りつけた。銀色の怪異が回避しようとするが、それに先行する形で回り込み、すれ違いざまに何度も斬撃を加えた。銀色の怪異の担い手は業を煮やし、コンソールのある項目を叩く様に選択する。
「僕の思い通りにならないような奴は、嫌いなんだよ....!!」
忽ち銀色の怪異から力場が発生し、ストライクJOKERは避けきれずに接触してしまう。直後に機体に起きた異変に、エスは目を疑った。
「完全放電!?ストライクJOKERのコアでも駄目だってのか.....!?」
しかし動揺している時間など、一瞬たりとも無かった。エスが殺気に気づき顔を上げた瞬間、銀色の怪異の爪に掴まれ――。
「うわぁああああああああッ!!!」
海知らに連れられ、諒馬は古びたマンションの前にやって来た。やはりはっきりとした記憶があるのか、苦々しげである。
「まだ残ってたのか....」
「ここに何があるのかしらね」
結利香にチラリと見られ、アントニオは溜息をついた。
「たった一瞬で嫌われて、立場まで逆転なんて今まで無かったぜ.....このマンションの地下に、プロフェッサーが使っていた.....何だ、秘密基地みたいなもんがある」
そこに海知が付け加える。
「俺達A.ν-Tに向けて開発されていた技術は、その殆どがここから生み出されてた。恐らくだが水崎さんの技術の粋が、ここに詰まっていると言っても過言じゃあない」
如何にも重そうな鉄の扉を前にし、海知は鍵を解錠しポールと共に力いっぱいに引いて開いた。
「凄い.......ここだけまるで時代が違う感じがします....!」
所狭しと並んだコンピュータや機材、そして透明な電子ホワイトボード。ありとあらゆる物が、現代より一歩先に進んだ設計で作られていた。諒馬の天才たる所以が、ここでも遺憾なく発揮されていたのである。
「それで?ここで俺にまた戦え、と?」
「協力組織が変わったと言うだけで、条件は何一つ変わらない。ダイバーズはすでに、新たな戦争の火種を手にしてしまった。一刻の猶予もないのは承知しているだろう?」
「だが俺にはもう、機体がない。ビルドレイザーも、ノアールロータスも奴らの手に落ちただろうからな....あそこまで作り上げたビルドシステムも奪われていてもおかしくはない.....簡単に戦力を再構築出来るとは....」
諒馬の口からノアールロータスの名が飛び出し、側で聞いていた結利香と何故か奏が目を丸くした。すると海知は指をパチンと鳴らした。アントニオが外から台車で何かを運んできたが、そこにはガンプラの箱がうず高く積まれており、諒馬は思わず「準備良過ぎだろ」と漏らした。
結利香は早めに必要なキットを補給物資の中から見繕い、帰宅してしまった。どうやら彼女の戦闘スタイルを実現する仕組みは、味方にも知られる訳には行かないようで、諒馬も渋々了承して作業に移る。ポールとアントニオも、それぞれのルートを使ってメンバーの募集を図ると言い、間もなくしてこの場を去った。残るは諒馬と奏と海知だけとなる。
「諒馬さんは、いつからあの武器を設計していたのですか?」
奏がランナーからパーツを切りながら問うた。諒馬はそれを取り付けしばらくの沈黙の後、
「アポロンとか言う連中とやり合った時、いやその前からか。凄く戦いづらそうにしていた気がした。君は無理して自分の戦い方を曲げようとして、結局中途半端になった。F91-Mの加速なら、むしろ高速戦闘に特化した武器が必要になる。刀を使うスタイルが君の主軸なら、今度は命中率を上げる形にすれば問題なく戦える、そう考えたのさ」
と返した。まだ本調子でないとはいえ、メカニック絡みの話をする彼の姿は、奏にはどことなく楽しそうに見えた。
「それでハイインパクトガンの機能を応用した、あの刀が生まれたんですね.....やっぱり諒馬さんは凄いです。私じゃきっと思いつけなかったと思います」
「重力変容技術は、俺にとってもかなりいい経験になった。ビルドシステムで武器を構築するのにも、かなり使ってたからな。サンドロックの箱を持ってきてくれ」
はい!と奏は溌剌と返事して台車からHGAC ガンダムサンドロック改の箱を持ち出した。その折、ソファでプリンを食べていた海知がこんな質問をしてきた。
「アンタ、本当はいくつなんだ?中学か高校くらいか?」
またしてもその質問か、と奏は内心悲しくなりながらも表には出さぬよう努めて笑顔は保った。
「21です。よく聞かれるんですよね、こういう見た目してるせいで...あはは」
事実が彼の予想の斜め上を行っていたらしく、海知は言葉を失い左手に持っていたプリンカップを、危うく落としそうになった。
(人は見た目に依らずってか.....!?)
奏はそそくさと諒馬の隣に戻り、箱を開封してはまたランナーからパチ、パチとパーツを切り取り始めた。
「今回はサンドロックベースで行くんですね?」
「いや....ビルドレイザーがベースだ。ビルドレイザーは元々ジェミナスから作ってたけど、古いキットを無理やり今のスタイルに合わせて、何とか戦えるようにしただけだからな。ビルドシステムを詰める余裕を作るので精一杯なもんで.....だから今回は似たようなパーツを作りやすい、こいつでアップデートするんだよ」
「なるほど......そうするとどうなるんですか?」
「反応速度と可用性が向上して、今までより格段に柔軟な戦術が取れるようになる。それに、サンドロック改にはゼロシステムが積まれている.....ダイバーズ側からこの機体にはゼロシステムを適用させず、代わりにビルドシステムを載せる。ま、今すぐやれる事はそんくらいだ」
途中から奏さえも訳が分からなくなり、サンドロック改のボックスアートと、諒馬の手の動きを交互に見るしかなくなった。それから数時間後。ミキシングビルドで作り上げた雛形を基にデータを作成し、それをラボにもあった成形装置"スクラッチビルダー"に送り込む。形成作業にも相応の時間がかかり、大まかな形になる頃には夜が明けていた。烏の鳴く声が空にこだまするのと同時、チーン!!とけたたましい音が部屋中に響き、うつらうつらとしていた奏と海知は何事かと飛び起きた。
「何だ!?」
海知が仮眠室から飛び出すと、諒馬がスクラッチビルダーの前で髪をかき乱していた。嬉々とした表情でハッチを開け、完成したガンプラを食い入る様に眺めた後、高々と天に掲げる。新規キットの組み合わせで、可能な限りビルドレイザーに近づけつつも、細かなポイントでは構造上の弱点を克服して堅牢さをより強めた姿である。
「遂に完成した.....強化されたビルドガンダム.....その名もビルドスパークルガンダム!凄いでしょ!最っ高でしょ!天っっ才でしょ!!」
一人ポカンとする海知とは裏腹に、奏は嬉しそうに拍手していた。この言動こそが、彼女の知る水崎 諒馬なのだから、自然と喜びたくもなる。
「良かったですね、完成できて!じゃあ後はビルドシステムを.....どうやって載せるのでしょう....?」
その質問を待っていたと言わんばかりに、諒馬は左手をフレミングの法則の形にしてクイと振った。
「これだ。ゲイジングチップを基に、1工程だけでビルドシステムを移植可能にしたP-BOX!これも並行して作っていたのさ」
諒馬が手のひらに乗せて二人に見せたのは、ガンプラの頭ほどの大きさの黒い箱。ゲイジングチップとは、ゲイジングビルダーと呼ばれるゲームに使用するフィギュアやキットに内蔵する、ウェア認識用チップの事である。ガンプラダイバーズのスキャナーにも、関連技術がスピンオフして使われているため、その応用例として諒馬が新たに開発したのだ。
「やはり水崎さん、アンタは本当に現代人とは思えんな.....こんな物の中に、ビルドシステムとやらを詰め込んだのか」
「まぁ俺は天っ才なもんで!.....後はハザードを制御出来るようにすれば....奴らに対抗するだけの力になる.....!」
突然トーンを落とされ、海知は再び当惑させられる。A.ν-Tの組織としての活動では一度として、この様な言動を見たことが無いが故なのかもしれない。実際の所、諒馬に依頼した物は大抵目の前で作られることはあれど、海知自身は開発が佳境に差し掛かる場面には遭遇したことが無かったのだ。行き詰まってるだろうと見に行くと、必ず既に出来上がっていた訳である。