※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.45 曇りなきWISHと共に...

アーネストホールディングス、本社社屋の最上層の一室にて。

「僕を呼び出していたそうだね?遅れて申し訳ないね」

徹=アルマーニュはやや困ったように笑いながら、部屋へ足を踏み入れる。百崎 翼はそれを横目で見、窓に視線を移した。

「まさか君が、あの様な強硬策に出るとは考えても見なかったよ。私に演説させなくてもよかったのではないか?」

「いいや、それは必要だったよ。現にアーネストはダイバーズの正義と秩序を担う存在として、確立している。戦争になってしまったのは....残念だとは思うけどね」

態とらしく残念がり、椅子に腰掛ける。

「しかしこの状況だ。一気に駒を進めるいい機会になると思わんかね?」

「どうする気だい?」

「私には都合の良い触媒がある.....エス・ブラックベイ――黒浦 聡だ。彼は私に対し並々ならぬ因縁がある。無論、私にもだ。それを利用して、彼を消し去れば障害となりうるものは消えよう」

だが徹にとってしてみれば、翼がただ個人的な怨念を晴らしたいだけにしか取れず、一笑に付す程度な物と胸の内で切り捨てる。

(前田兄弟の事といい、まだあの時間を引きずっているのか。これでは彼を傀儡にするのも愚策でしかないようじゃないか)

徹は苦笑しながらポケットから携帯電話を取り出した。

「まぁ君がそうしたいと言うなら、そうするといい。あくまでも対等である以上、邪魔は出来ないからね。フリューゲルオメガを使う機会ができて良かったじゃないか....それでは僕はこれで失礼するよ」

彼がそう残して部屋を後にする。翼は机の上に立つフリューゲルオメガを眺め、唇をへの字に歪めた。

「私をいつまでも踊らせられるとは思うなよ....この計画を土台に俺が目指した世界を作れるかも知れんのだ.....!」

 

「ここ......あの時の.....」

エスが目を覚ましたのは、かつてもここで治療を受けた事がある場所だった。鼻をつくような薬品の匂いで、時が巻き戻ったような感覚に陥り目眩を起こしかける。だがそこへミナが現れた事で、何とか意識を引き戻せた。

「ミナ.....いや、奈都.....俺、どうなってここに....?」

「さっきの怪物みたいなのにやられたんだよ。色々とみーちゃんと一緒に調べてみたんだけど、マガイクノタチでエネルギーを奪われたのが、原因だったみたい」

ミナは静かに椅子に座り、起き上がろうとするエスを寝かせた。

「常岡君は先に回復して、今はトレーニングしてる.......暴走したのが悔しかったんだね。「暴走したのは俺が弱いからだ。奴に負けたんじゃなくて、自分に負けちまったのが許せねぇ」って」

「そりゃあ、そうだろう......あの機体、ドラグハートってのは.....俺達じゃ分からない何かがある気がするんだ」

「何か?って、何?」

分からないって言ったろ、とエスは返し自分の左手を睨んだ。弘がν-Typeなのは確定した事実として、その能力によって暴走したのならと考えてしまう。似たような経験をした彼だからこそ、何か方法があると思いたいのだ。あの機体に同乗した時も、不思議な感覚を得ており常にエスの頭の片隅で靄のように残っていた。ミナにも伝えたかったが、上手く言葉にも出来ず余計にもどかしさを感じる。

ブリッジでは、リタとアヤカが束の間の休息を取っていた。

「マスターピースさんとウェルスさんまでもいなくなるなんて、ピンチピンチの大ピンチです....」

ウェルスは数日前から、スワンは更に前から姿を見せておらず、アヤカはやや寂しげにしていた。リタも心情は理解しており、敢えて何も言わずただ頷いて紅茶を口に含んだ。

「それよりウォレス少尉、援軍と言うより....合流可能なメンバーはどれほどになりましたの?」

だがウォレスの回答は案の定と言うべきか、リタの淡い期待通りとは行かなかった。

「それが全く集まらんですよ。一度解散してるから完全に諦めてる流れなんじゃないかと」

「左様なら、もう集まるのは絶望的ですわね。ウォレス少尉、ありがとう」

「やっぱり人集めには難儀しているのか。この状況じゃ、かつてのメンバーでも行きたくなくなるな」

ブリッジに入ってくるなり、シローがウィンドウをリタに向けて飛ばした。その内容もやはりリタの頭痛の種になり得るものであった。

「プレイヤーの世論も、ブルームーンの存在を否定する方向に傾いたまま戻らない.....分かっていましたが、こうハッキリと形にされると悲しくなりますわ......」

「だけど今無理に表舞台に戻るよりは、水面下で少しでも争いを止めるしか、なさそうだな」

そう言うシローも、やはり悔しいのだろう。やりきれぬ顔をしてシートに腰掛けた。

「レイさんがせっかくここまで組織の立場を作ってきたのに、運営は恩知らずです」

アヤカの言う事も間違いではないが、実際はそうとも言い切れぬ部分がある。ウォレスは足下に落ちていた紙を拾い上げ、クシャクシャに丸めてゴミ箱に投げた。

「正直運営からすりゃ、治安を守るべき役目を勝手に奪われてるようなもんだからなぁ...けどこうなるまで支持を受けていたから、運営の影響力が薄まってんだろうし、焦って潰しにかかるのも....な?」

「もしかして、それが弾圧運動の正体....!?」

シローが身を乗り出して問うが、ウォレスは小難しそうに首をひねる。

「むしろ弾圧運動自体が、牽制のような役割を果たしているのかも知れないですわね......」

リタは紅茶に鏡写しになった自分を睨んだ。今のままでは無力なのは明白だが、動き出せば仲間をみすみす危機に放り出す事になる。彼女なら、そしてそのさらに先代はどう判断しただろうか。

「レイ.....あなたならどうしていましたか.....?」

気づかぬ間に漏らしていた自分にやや驚き、周囲に目配せするがどうやら誰にも聞かれていないらしく、一人ため息をついた。

トレーニングルームで一人サンドバッグに拳を撃ち込んでいた弘だが、こちらへ近づく足音が聞こえ手を止めた。タオルで汗を拭い遠くを眺めていると、エスとミナの姿が見え弘は口を閉ざした。エスは部屋に入るなり開口一番、

「こんな部屋があるなんてな。よく見つけたもんだよ」

と言い出し弘は一瞬驚いたが平静を取り繕った。

「ま、まぁ.....ここがありゃあ、俺はとにかく暇しなくて済むしよ.....」

言い終えようとしたが、もう一度呼吸を整えて二人に頭を下げた。

「悪かった.....俺がもっとドラグハートを.....いや、何より俺自身をコントロールできてりゃ....!」

唐突な出来事に、きょとんとした顔で見つめ合うエスとミナ。それからやがてエスが弘の肩を掴み、顔をあげさせた。

「謝るなよ。確かにあの時はびっくりしたけど、お前の本心じゃあないのは分かって安心した。また暴走する事があれば、俺達がなんとかする」

「エス?言い切っちゃっていいの?」

ミナが意地悪そうに笑い、エスはしまったと口を閉ざすが決心した事に変わりはなく、再び力強い眼差しを弘に送った。弘とエスの拳が打ち合う。

「そん時は頼む。俺も出来るだけ早くコントロールできるようにすっからよ」

「ああ、その意気だ。これからも頼むよ、弘。皆でダイバーズを取り戻そう」

 

堂夢大学仮想世界工学研究室。エルニアこと、奏花 紗綾は切迫した表情で廊下を駆け抜けていた。他の職員や学生達が何事かと振り向くが、そんな事はお構いなしに先を急いだ。彼女が辿り着いた先は、実験室の一つ。ノックをすると、白衣を着た女子学生が応対すべく出てきた。

「あれ?紗綾じゃん、どうしたの?」

「詩織....!突然で悪いけど、門松教授はいらっしゃってる?」

紗綾の様子がいつもと違うのか、詩織と言う女子学生は戸惑いながらも内線電話で門松を呼び出した。

「教授は後5分で降りてくるって。それよりどうしたん?なんかめっちゃ焦ってるみたいやけど」

そう訊きながら受話器を下ろす。紗綾も一呼吸置くタイミングが出来たので、ようやく平静を取り戻した。

「まぁ、ちょっといろいろ....ね」

「ふーん。そう言や黒浦君と成田さんどうしてるか知っとぉ?ウチから連絡しても全然出てくれんとよ....二人が来んもんやけん、ずっと忙しかぁ...」

どうやら新生ブルームーンの結成から、彼ら二人の姿を見なくなったと言う話は、研究室内でも噂になっていたようだ。紗綾は当事者なので事情を知っているが、どう言うべきか考え倦ねた。丁度良く門松がやって来たので、事無きを得るのだが。

「君が来るとは珍しい......青雉君、ちと後を任せるぞ」

有無を言わさずに門松は紗綾を伴って研究室を出てしまい、残された詩織は崩れ落ちるように椅子に座った。

「はぁ〜〜!?」

研究棟から一棟ほど離れた場所に、学生や教職員が食事に利用するカフェテリアがある。その隅の席で門松と紗綾が向かい合って話をしていた。

「しかし君がトラウマの種の俺にわざわざ会いに来るって事は、何かやばい事が起きてるってことだろう?」

門松はカフェテリアへの道すがら買ってきた、紙パック入りカフェオレを紗綾に差し出しながら、鞄からノートマシンを机の上に置いた。

「ユウ、突然何も言わなくなったんです。話しかけても、反応してくれないし.....ご飯もろくに食べてないみたいで」

「何かやるべき事があったんじゃないか?そうじゃねえとしたら......まぁ、こっちからもお前達に言わにゃならんことがあるし、そっちから片付けとくか」

自然と紗綾が肩を強張らせるので、門松は首を横に振り落ち着けと言って、ノートマシンの画面を彼女に見せた。

「いくつものチームが勢力争いを始めてしまった。どうやらその中にはわざわざこの、仮想世界大戦の為だけに設立した、各国の部隊まで入っているらしい.....どうも徹・アルマーニュの奴、とうとう本物の戦争を作り上げちまったぞ」

「どうして、こんな......」

「政治的な思惑が絡んでるのは間違いねえな。しかも第二次大戦とは違って、大きな枠組みで結束してなんてことは無いと来た。それぞれの国が己が為に、戦ってんだ。既に情報戦が展開されていて、ウィキリークスとか色んな所に戦争に関する機密文書が流れ込む事態だ.....俺達の知らない内に、裏でこんな事になっていたとはな....」

日本の一企業を発端として、世界各国の首脳陣が仮想世界の新たな有用性に着目した結果、仮想世界大戦が実現してしまった。ここに至るまでのすべての出来事は、どれをとっても徹・アルマーニュのシナリオ通りだとすれば、ただひたすら恐ろしいの一言である。ZeuS事件などとうに霞みきってしまう規模の戦い。もはや諒馬やブルームーン程度では、本当にどうする事もできないところまで来てしまったのだ。そして門松は肝要となる話を切り出した。

「そこで、だが.....俺もひたすら悩んだがこれしか方法が無かった。ブルームーンとA.ν-Tで有志連合を結成する。そうすりゃ、そこそこの規模に戦力を広げられてアーネストに確実に対抗できると見たんだが....どう思う」

何故そんな重大な話を、と言いたくもなるが紗綾も自分が既に状況の一部になっているのは、自覚していた。更に門松が告げる事実に紗綾は驚愕する。

「実は水崎の身柄はA.ν-Tの連中が押さえちまってるらしい。しかも奏ちゃんが自分からあっちと合流したんでな.....」

「どういうことなんですか!?奏が......どうして!?」

A.ν-Tに関しては、表面的な話しか覚えていなかったが紗綾からしてみれば、天敵になりうる組織であるのは間違いない。そして奏は自分達にとても近い所にいるはずの人間だった。志を共にしてきたはずが、どうして突然反故にするような真似をしたのか。そう思わざるを得なかった。

「あの娘は多分、怜やダイバーズの事だけじゃあなくて、水崎の事も救いたいんだろう。その為には立場なんてものは超越する覚悟があった.....あくまでも俺の推測に過ぎないが」

「せめて、私達に一言相談してくれたら....」

「そりゃあ無理だろう。今、ブルームーンの中心に立ってんのはあのお嬢様だろ?ちょい前に君達から聴いた話からすれば、アヤカちゃん程じゃないが水崎を信用していない....それが奏ちゃんからしたら、辛かったんだろうな。彼女や常岡は殆ど裏表がねぇから信じやすいが、水崎の場合は言ってしまえば変人だ.....しかも俺の息がかかった人間だと知れば、ますます敵のような目で見られてもしょうがない」

何かを返そうとしても、それが喉から出かかって引っ込んだ。今の門松が敵ではなく、頼るべき大人の一人なのは紗綾とて認める所だった。一度だけだが怜と楽しそうに親子の会話をしているのも、見た事がある。悪意の思惑の上で転がされていなければ、単なる善良で優秀な科学者なのだ。だが過去の出来事は簡単に拭えるものでもなく、それが紗綾の後ろ髪を引いているのである。考える度、ユウが認識を改められる程の柔軟さを思い知らされ、自分が未だに子供なのかと情けなさも感じた。ふと思考の中で何かが引っかかり、紗綾は弾かれたように席を立って走り出した。置いてけぼりを食った門松だが、次第に笑みを浮かべてノートマシンのキーボードを叩いた。

「彼女も変わろうとしてんだな.....にしてもお前もお前でよくやるよ。ユウ」

画面には、新たなガンプラの設計図と思われるウィンドウが表示されており、その上部には"BLADET-the NextPhase"と銘打たれていた。

 

(私は私の力で、時計の針を進めねばならん....その時機が来たようだ)

百崎翼――ヴェイン・メビウスは閉ざしていた目を開く。フリューゲルガンダムオメガも今までとは姿を変えていた。素体はそのままに、武装の類を入れ替え前回の戦闘より、遥かにシンプルなスタイルへと変化した。兵装ウィングはそのままに、二振りの剣と同数の砲門を装備している。よほどの自信の表れなのだろう。そして、メビウスにはある確信があった。それは自身が表舞台に姿を見せれば、必ずリョウマ・アルキメデスかその周辺の人間がやってくる。今の私には力に加えてオメガフリューゲルがある。彼らを一掃し、ゆくゆくは徹を討てば世界は再び私の手の中に戻る。やはり彼もまだ諦めるつもりはなかった。ZeuSが作り出した世界で、現実を塗り替える。その実現も直ぐ側まで来ているとメビウスは感じ取っていた。

「さぁ......駆けるぞ、オメガフリューゲル」

オメガフリューゲルがSECTORから転移し、消失するのをグロックはしかとこの目で見ていた。だが阻止する動きには出ず、別の目的にすぐ意識を切り替えた。彼の前に跪くスーツ姿の眼鏡の男。肩が時折震えているのは、笑いを浮かべているからだろうか。シューインであるが、人体改造を施した当人たるグロックですら、余りの変貌ぶりに辟易する。

「負の側面を一気に表面化させるまではしたが、ここまでとはなぁ......どんだけ溜め込んでたんだよ」

「クックックッ.......ハハハハ......!私は生まれ変わったのだ.......百崎社長の理想へ至る、その剣へとッ.....!!全ては、ZeuSの為に....ZeuSの為にィイイッ!!ヒャッハハハハハハハ!!!」

ハザードをガンプラダイバーに直接施すのは、実践例があまり無くグロック自身も成功に関しては半身半疑であった。しかし、今のシューインの瞳が赤く発光したまま戻らない様子を見る限り、間違いなく手術は成功している。

「比良坂 舞夜はプログラムに従って、各地への侵攻を進めている.....お前にもその任を持たせてやるよ。どう転んでも水崎 諒馬は必ず来る。お前か比良坂で殺ってしまうのもアリだ。戦争状態の維持が今後の仕事になる訳だよ」

グロックはコーヒーの香りを楽しみつつ、シューインに指示を送った。普段のシューインならば、すぐには従わない話だろう。しかし今の彼はグロックの手駒である。眼鏡をかけ直しながら不気味な笑みを浮かべ、どこかへと転移した。

「これが最後の闘争だ.....どちらにしても、この始末だから取り返しなんてもう付かないけどな?水崎 諒馬、君.......」

諒馬を鼻で笑い、コーヒーを口に含んだ。

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